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知的・発達障害のある成人が健康教育を「教える側」として担う当事者参加型プログラムの可能性

· 17 min read
Tomohiro Hiratsuka
CEO of Easpe, Inc

このブログ記事では、発達障害(主にADHD・ASD・知的発達障害)をめぐる最新研究を、家庭・医療・生活習慣・治療開発という複数のレベルから横断的に紹介しています。具体的には、①発達障害児を育てる家庭における父親の養育態度と育児参加の関係、②ADHDに対する非薬物治療として期待された神経刺激デバイス(TNS)の有効性を否定した厳密なRCT、③知的・発達障害のある成人が健康教育を「教える側」として担う当事者参加型プログラムの可能性、④ASDの行動上の困難を腸–脳相関や腸内環境への介入という新しい治療軸から整理したレビュー、⑤大学生におけるADHDとインターネット依存の関連を、実行機能・睡眠・運動習慣という生活要因から解明した大規模研究を取り上げています。全体を通して、発達障害を「個人の特性や症状」だけでなく、家族関係、医療エビデンス、当事者の主体性、身体・生活習慣、社会環境との相互作用として捉え直す研究動向が示されており、支援や治療をより現実的かつ包括的に設計するための重要な知見をまとめた内容となっています。

学術研究関連アップデート

The Relationship Between Parenting Attitudes and Participation of Fathers of Children With Developmental Disabilities

以下は、**「発達障害のある子どもを育てる家庭において、父親の関わり方は何によって左右されるのか」「父親の養育態度と実際の育児参加の関係を知りたい人」**向けに、この論文をわかりやすく整理した要約です。


この研究は、発達障害のある幼児(3〜6歳)を育てる父親が、どのような養育態度を持ち、それが育児への関与(参加)とどのように結びついているのかを明らかにした実証研究です。背景には、トルコを含む伝統的な社会において、父親が「権威的存在」として位置づけられ、子育てへの日常的関与が限定されがちであるという社会的文脈があります。

研究には、トルコ在住の父親134名が参加し、以下の尺度が用いられました。

  • 親の養育態度尺度(Parental Attitude Scale:PAS)

    (民主的・権威的・許容的などの態度)

  • 父親の育児関与尺度(Father Involvement Scale:FIS)

    (ケア、関心・親密さ、参加などの側面)

主な結果は次のとおりです。

まず、父親の養育態度は、子どもの性別、診断名、就園状況、きょうだいの人数によって大きくは変わらないことが示されました。一方で、就労状況には違いが見られ、働いていない父親の方が、働いている父親よりも権威的(オーソリタリアン)な態度を示す傾向がありました。

育児参加の側面では、

  • 娘を持つ父親は、「関心・親密さ」の得点が高い
  • 一人っ子家庭の父親は、「ケア」や「育児参加」の得点が高い

といった特徴が見られました。

特に重要なのは、養育態度と父親の育児関与との関連です。分析の結果、

  • 民主的な養育態度は、FISのすべての下位尺度(ケア、関心・親密さ、参加など)と中程度の正の相関を示しました
  • 権威的・許容的な態度も一部の育児関与(特にケアや参加)とは弱い正の相関を示しましたが、民主的態度ほど強くはありませんでした

つまり、子どもを尊重し、対話を重視する民主的な養育態度を持つ父親ほど、実際に育児に積極的に関わっていることが明確に示されたのです。

一言でまとめるとこの論文は、

「発達障害のある子どもを育てる父親において、育児への積極的な関与を最もよく支えているのは、民主的で対話的な養育態度である」

ことを示した研究です。

父親の関与を単に「時間の問題」や「家族構成の問題」として捉えるのではなく、父親自身の養育観・価値観に働きかける支援やプログラムの重要性を示唆しており、父親支援、家族支援、早期療育プログラムを設計するうえで、実践的な示唆を与える論文と言えるでしょう。

External trigeminal nerve stimulation in youth with ADHD: a randomized, sham-controlled, phase 2b trial

以下は、**「ADHDに対する薬物以外の治療(とくに神経刺激デバイス)の有効性を科学的に知りたい人」「TNS(外部三叉神経刺激)は本当に効くのかを確認したい人」**向けに、この論文をわかりやすく整理した要約です。


この論文は、外部三叉神経刺激(External Trigeminal Nerve Stimulation:TNS)が、小児・思春期ADHDに対して本当に治療効果を持つのかを、これまでで最も厳密な方法で検証した多施設・二重盲検・シャム対照の第2b相ランダム化比較試験(RCT)です。TNSは、2019年に米国FDAから「ADHDに対する初の非薬物・デバイス治療」として承認されましたが、その根拠は62名規模の小規模パイロット試験に基づくもので、効果の再現性が課題とされていました。

本研究では、ADHDのある7〜17歳の子ども・青年150名を対象に、

  • 実際のTNS(75名)
  • 偽刺激(シャムTNS)(75名)

に無作為割り付けしました。参加者は、額に電極を装着し、毎晩約9時間、4週間連続で自宅使用しました。実刺激では三叉神経のV1枝を両側から刺激し、シャム刺激では刺激があるように感じさせつつ、効果が出ない設定が用いられています。研究者・参加者ともに、どちらの条件か分からない完全な二重盲検で実施されました。

主要評価項目は、ADHD症状の改善度です。さらに、治療終了後6か月までの長期効果も追跡されました。

結果は明確でした。

  • 実TNSとシャムTNSの間に、ADHD症状の改善に有意な差は認められなかった
  • 効果量は非常に小さく(Cohen’s d = 0.09)、臨床的に意味のある改善とは言えない
  • 6か月後の長期フォローでも差はなし
  • 重篤な副作用はなく、安全性は高い

つまり、**TNSは「安全ではあるが、有効とは言えない」**という結論です。

著者らは、この結果から、

  • これまで報告されていた効果は、プラセボ効果や小規模試験特有のばらつきによる可能性が高い
  • 非薬物治療であっても、大規模・厳密な試験による検証が不可欠
  • FDA承認=臨床的有効性が確立された、とは限らない

という重要な教訓を示しています。

一言でまとめるとこの論文は、

「TNSは安全なデバイスではあるが、ADHDの症状を改善する治療法としての有効性は、大規模で厳密な試験では支持されなかった」

ことを示した研究です。

薬に代わる治療を求めるニーズは非常に大きいものの、「効きそう」「新しい」「非薬物」という理由だけでは採用できないこと、そしてエビデンスの質が最終的に最も重要であることを、強く示した臨床研究と言えるでしょう。

Collaboration Between Participants with Intellectual and Developmental Disabilities and Researchers on the Advanced Eat and Exercise to Win Program

以下は、**「知的・発達障害(IDD)のある成人が“教えられる側”ではなく“教える側”として参加する健康促進プログラムの可能性を知りたい人」「当事者参加型・協働型研究の実践例を探している人」**向けに、この論文をわかりやすく整理した要約です。


この論文は、知的・発達障害(IDD)のある成人自身が、健康的な食事と運動に関するプログラムを“学ぶだけでなく、他者に教える役割(teach-back)を担えるか”、そしてその参加が実際の生活行動や動機づけにどのような変化をもたらすかを検討したパイロット研究です。研究の背景には、障害のある人が健康教育の「受け手」に固定されがちである一方で、主体的に関わることで理解・定着・自己効力感が高まる可能性があります。

研究では、成人デイケア施設2か所に通うIDDのある成人を対象に、8週間の「Eat and Exercise to Win」プログラム(発展版)を実施しました。内容は、視覚的に分かりやすいスライドを用いた健康教育、椅子に座って行える運動、ゲーム、目標設定などで構成され、一部の参加者は研究者のサポートを受けながら授業内容の復習や説明を主導しました。さらに、研究者が不在の時間帯には、参加者自身が他の人にプログラム内容を教えることが奨励されました。

評価には、参加者本人、施設スタッフ、保護者・後見人の複数視点からのアンケートが用いられました。その結果、

  • 参加者は現実的で健康的な目標を設定でき、自己評価も適切
  • 甘いお菓子やスナック類の摂取が減少
  • 運動量が増え、運動したいという意欲も向上
  • 施設スタッフは、食事・運動への動機づけが全体的に高まったと評価
  • 保護者・後見人も、家庭での会話や行動変化(健康の話題が増える、生活習慣の変化)を報告

といった、行動面・心理面の前向きな変化が確認されました。特に重要なのは、参加者が「教える側」に回ることで、学習内容が日常の行動に結びつきやすくなっていた点です。

著者らは結論として、当事者が主体となる「トレーナー養成型(train-the-trainer)」アプローチは、IDDのある成人の健康行動を支援する有望な方法であると述べています。ただし本研究はパイロット段階であるため、今後はサンプル数の拡大や対照群を含む研究デザインによって、効果をより厳密に検証する必要があるとしています。

一言でまとめるとこの論文は、

「知的・発達障害のある成人は、健康プログラムの“主体的な担い手”になりうる。教える役割を含む協働型アプローチは、行動変容と動機づけを同時に促進する可能性がある」

ことを示した研究です。

健康支援を「支援する側/される側」という関係から再設計し、当事者のエンパワメントと実生活での変化を両立させる実践例として、教育・福祉・公衆衛生の分野に示唆を与える論文と言えるでしょう。

Towards treatments targeting the gut to improve behavioural outcomes in autism spectrum disorder

以下は、**「自閉スペクトラム症(ASD)における“行動の困難さ”と腸(消化管)の関係に注目した新しい治療研究を俯瞰したい人」「薬物療法・腸内環境介入の最新動向を整理したレビューを探している人」**向けに、この論文をわかりやすくまとめた要約です。


この論文は、自閉スペクトラム症(ASD)における易刺激性(いらだちやすさ)、感覚過敏、攻撃的行動などの行動上の困難に対して、「腸(消化管)」を標的とした治療がどのような可能性を持つのかを整理した最新の総説(レビュー)です。ASDのある人、とくに日常生活で多くの支援を必要とする人にとって、こうした行動の困難さは医療・教育・地域サービスへのアクセスを大きく制限し、生活の質(QOL)に深刻な影響を与えます。しかし現状では、行動面・併存する精神症状・消化管機能のいずれに対しても、有効性が確立した治療薬は限られています

著者らはまず、ASDにおいて消化管(GI)症状の重さと、易刺激性や問題行動の強さが関連しているという知見を踏まえ、「腸–脳相関(gut–brain axis)」を介した治療戦略に注目します。本論文では、現在臨床試験が進行中の薬剤や新規治療アプローチを、作用機序とともに整理しています。

具体的には、以下のような**既存薬の再活用(ドラッグ・リポジショニング)**が紹介されています。

  • ピマバンセリン:非定型抗精神病薬。ASDにおける易刺激性の改善を目的に試験中
  • スラミン:元々は抗寄生虫薬。社会的相互作用の改善を狙った試験が進行
  • ブレクスピプラゾール/ルマテペロン:統合失調症治療薬として用いられてきた薬で、ASDの易刺激性への効果を検証中

さらに、新規・特徴的な治療候補として、

  • NTI164:医療用大麻由来のバイオ医薬品で、社会的コミュニケーションの改善を目的
  • ML-004:社会的コミュニケーション障害に特化した治験薬
  • AB-2004:腸内の微生物代謝物を捕捉することで、腸機能と行動の両面に作用する可能性をもつ新しいアプローチ

が取り上げられています。

加えて本論文は、薬物療法に限らない腸内環境介入にも焦点を当てています。具体的には、

  • プレバイオティクス・プロバイオティクス補充
  • 糞便微生物移植(FMT)
  • 腸を標的とした低分子化合物
  • バクテリオファージ療法(腸内細菌を選択的に調整する治療)

といった新興分野の臨床研究を整理し、行動症状(易刺激性・社会性)への影響が示唆されているものの、エビデンスはまだ発展途上であると慎重に評価しています。

著者らは結論として、ASDの行動症状を「脳だけの問題」として扱うのではなく、腸内環境や全身的生理との相互作用として捉える視点が、今後の治療開発に不可欠であると述べています。同時に、

  • 個人差(ASDの多様性)
  • 消化管症状の有無
  • 行動症状のタイプ

を踏まえた精密医療的アプローチの必要性も強調しています。

一言でまとめるとこの論文は、

「自閉症における行動の困難さは、腸–脳相関を通じて新しい治療標的になりうる。既存薬の再活用から腸内細菌介入まで、治療の選択肢は広がりつつあるが、慎重で質の高い臨床研究が今後の鍵となる」

ことを示したレビューです。

ASD支援を薬物・行動療法・環境調整だけでなく、身体(とくに腸)を含めた統合的な視点で再設計する流れを理解するうえで、非常に示唆に富む論文と言えるでしょう。

Frontiers | The Interplay Between Attention Deficit/Hyperactivity Disorder and Internet Addiction: Executive Dysfunction and Insomnia as Mediators and the Role of Physical Activity

以下は、**「ADHDとインターネット依存の関係を、実行機能や睡眠、運動習慣といった“生活・行動レベルの要因”から理解したい人」**向けに、この論文をわかりやすく整理した要約です。


この研究は、大学生におけるADHD症状とインターネット依存(Internet Addiction: IA)の関係が、どのような心理・行動メカニズムを通じて生じているのかを明らかにし、さらに身体活動(運動)がその関係をどのように緩和しうるかを検討した大規模横断研究です。対象は中国・湖南省の6大学に在籍する1,925名の大学生で、ADHD症状、インターネット依存、実行機能障害、不眠、身体活動量について質問紙調査が行われました。

まず有病率として、ADHD症状を有する学生は12.5%、インターネット依存症状を有する学生は14.0%と、いずれも決して少なくない割合で存在していました。分析の結果、ADHD症状が強いほどインターネット依存症状も強いという明確な関連が確認されましたが、その関係は単純な直接効果だけではなく、「実行機能障害」と「不眠」という2つの要因を介して強く説明されることが示されました。つまり、ADHD特性をもつ学生では、注意制御・抑制・計画といった実行機能の弱さや、睡眠の質の低下が生じやすく、それが結果としてネット使用のコントロール困難につながっている可能性が示唆されたのです。

さらに本研究の重要なポイントは、身体活動(運動習慣)の役割を詳細に検討している点です。身体活動量をMETsに基づいて分類したところ、中等度および高強度の身体活動を行っている学生ほど、インターネット依存症状が有意に少ないことが分かりました。特に高いレベルの身体活動は、ADHD症状の有無にかかわらず、直接的にも間接的にもIA症状を抑制する効果を示しました。その効果の一部は、実行機能の改善や不眠の軽減を通じて媒介されていることも明らかになっています。

一言でまとめるとこの論文は、

「ADHDとインターネット依存の結びつきは、実行機能の弱さや睡眠問題を通じて生じており、運動習慣はこれらの悪循環を断ち切る有力な保護因子になりうる」

ことを示した研究です。

ADHDやインターネット依存を、個人の意志や“使いすぎ”の問題として片づけるのではなく、認知機能・睡眠・生活習慣が相互に影響し合う構造として捉える視点を提供しており、大学生支援、メンタルヘルス対策、予防的介入を考えるうえで実践的示唆の多い論文と言えるでしょう。

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