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ABAを学ぶ大学院生にどのようにして文化的コンピテンスをインストールできるか?

· 18 min read
Tomohiro Hiratsuka
CEO of Easpe, Inc

本ブログでは、発達障害や知的障害をもつ子ども・若者を対象に、教育・福祉・医療の分野で求められる支援のあり方を多面的に扱った最新の研究を紹介しています。ADHDやディスレクシアのある若者の学校生活や自己理解に関する調査、知的障害者へのホスピス・緩和ケア教育や被害防止教育の現状、心疾患リスクの把握など、支援の質を高めるための課題が示されました。また、自閉スペクトラム症の早期発見に向けた音声解析や脳画像データを用いたAI技術の応用など、テクノロジーと支援の接点にも注目しています。個々の特性や文化的背景を尊重した支援体制の整備と、専門家間の連携強化が今後の鍵となることが各研究から読み取れます。

学術研究関連アップデート

Lifetime Contacts with Child Welfare Services among Children and Adolescents with ADHD: A Population-Based Registry Study

この研究は、ADHD(注意欠如・多動症)のある子どもや青年が、どのくらいの割合で児童福祉サービス(CWS)と関わっているかを調べたノルウェーの大規模な人口ベースの登録研究です。2009〜2011年にADHDと診断された8,051人(5〜18歳)を18年間追跡し、一般人口と比べてCWSとの接点の多さやその内容を分析しました。その結果、ADHDのある子の32.7%がCWSと何らかの関わりを持っており、これは一般の6.1%に比べて大幅に高いことがわかりました。特に、家庭外保護(里親や施設など)や支援的介入の経験が多く、行為障害や犯罪歴のある子どもほどCWSとの関わりが多い傾向がありました。また、親が未婚であることや、収入・学歴が低いことも関連していました。ADHDそのものだけでなく、家族環境や併存する問題がCWSとの関わりに影響していることが示されており、今後は治療や支援がどのようにこの関係に影響するかを検討する必要があります。

Inpatient Child and Adolescent Psychiatry Youth with Autism and/or Intellectual Disabilities: Clinical Characteristics and Considerations

この研究は、自閉スペクトラム症(ASD)や知的障害(ID)をもつ子ども・青年が、入院型の児童・青年精神科(IP CAP)でどのような特徴や治療経過をたどるのかを、ASD/IDのない同年代と比較して明らかにしたものです。2018〜2021年に都市部の病院に入院した1101人(平均年齢14歳)のうち、170人(15.4%)がASDまたはIDの診断歴を持っていました。ASD/ID群は、非ASD/ID群に比べて年齢が低く、男性が多く、暴力歴があり、過去の入院回数や向精神薬の服用歴も多い傾向がありました。また、自殺念慮よりも攻撃性を理由に入院する割合が高く、入院期間が長く、興奮時の緊急薬物使用が多く、退院時の薬剤数(ポリファーマシー)も多いことが分かりました。これらの結果から、ASD/IDをもつ若者は、内面の苦しみ(自殺念慮)よりも外在化された行動(攻撃性)をきっかけに入院することが多く、より複雑な対応が求められることが示されています。一般的な入院精神医療の現場でも、ASD/IDに特化した配慮と支援が重要であると提言しています。

Peer Preference and Executive Functioning Development: Longitudinal Relations Among Females With and Without ADHD

この研究は、注意欠如・多動症(ADHD)のある少女とそうでない少女を対象に、子ども時代の「友人からの好かれ具合(ピア・プレファレンス)」が、実行機能(EF:注意や記憶、衝動のコントロールなど)の発達にどのような影響を与えるかを、16年間にわたって追跡調査したものです。

調査には、ADHDと診断された6〜12歳の少女140人と、年齢・人種を揃えた神経発達的に定型の少女88人が参加。子ども時代の友人関係の評価と、複数の時点で実行機能のテストを行いました。その結果、子ども時代に「嫌われがちだった」少女ほど、大人になるまでに実行機能、特に「衝動を抑える力(レスポンス抑制)」の成長が乏しい傾向があることが分かりました。

ADHDの有無自体も全体的な実行機能の低さとは関係していましたが、成長の差に影響していたのは主に友人関係でした。特に「受け入れられなかった経験(拒絶)」が影響していたことが注目されます。この結果は、ADHDのある少女の発達支援において、学習や治療だけでなく「対人関係の質」も重要な介入ポイントであることを示唆しています。

Molecular basis of autism spectrum disorders

このレビュー論文は、自閉スペクトラム症(ASD)の原因となる分子レベルでの仕組みを、最新の研究をもとにまとめたものです。ASDは神経の発達に関わる疾患であり、子どもの発達に大きな影響を及ぼしますが、その原因はまだ完全には解明されていません。

近年、全ゲノム関連解析(GWAS)や全エクソーム解析といった遺伝子解析技術の進歩により、ASDに関連する多くの遺伝子や分子経路が見つかってきました。特に関わっているのは、次のような体内の重要な仕組みです:

  • 遺伝子の「読み取り」や「タンパク質への変換」を制御する仕組み
  • 細胞内でのタンパク質の安定性を保つ機構(プロテオスタシス)
  • 神経細胞の骨組み(細胞骨格)の整備
  • シナプスの形成とその柔軟性(神経細胞同士のつながりとその変化)
  • 不要な細胞成分を分解する「オートファジー」

また、ASDの発症には、神経炎症、細胞内の情報伝達の異常、ビタミン不足なども影響していると考えられています。

この論文は、ASDの診断・治療に向けたヒントを得るために、これらの分子レベルの知見を整理して紹介しており、**今後の臨床応用(トランスレーショナルセラピー)**への展開も視野に入れた包括的な内容となっています。

Curriculum-based Evaluation of Cultural Competency Coursework in an Online Applied Behavior Analysis Graduate Program

この研究は、応用行動分析(ABA)を学ぶ大学院生に対して、文化的な多様性に配慮した専門性(文化的コンピテンス)をどのように教育するかを評価したものです。文化は「何が適切な行動か」という判断に大きく影響を与えるため、ABAの専門家は支援対象者の文化的背景や言語に応じて支援内容を調整する必要があります。

本研究では、オンラインの大学院プログラムにおいて、「文化的コンピテンスに関する授業」を受けた学生と、まだ受けていない学生の問題への回答の質を比較しました。対象の授業は「機能的行動評価(FBA)」に関するもので、文化や格差の視点を含んだ複雑な事例に基づいた質問が用意されました。

その結果、文化的コンピテンスの授業を受けた学生でも、文化的な要因を適切に特定できるようになるには、FBA授業内での追加のトレーニングが必要であることが分かりました。つまり、文化的視点を実践に結びつけるには、単発の授業だけでなく、専門領域の中でも繰り返し扱うことが重要であるという示唆が得られました。

Lifetime Contacts with Child Welfare Services among Children and Adolescents with ADHD: A Population-Based Registry Study

この研究は、ADHD(注意欠如・多動症)のある子どもや青年が児童福祉サービス(CWS)とどの程度関わっているのかを調査したものです。ノルウェーの全国データベースを用いて、2009~2011年にADHDと診断された5~18歳の8,051人を対象に、18年間の記録を分析しました。

その結果、ADHDのある子どもたちは、一般の子どもに比べてCWSとの接点が大幅に多く(32.7% 対 6.1%)、特に「家庭外での保護」や「支援介入」を受ける割合が高いことが明らかになりました。加えて、CWSとの接点があるADHD児は、素行障害や犯罪歴を持つケースが多く、両親が未婚である、家庭の収入や学歴が低いといった特徴も見られました。

この研究は、ADHDと児童福祉との関係を初めて大規模に明らかにした点で意義があり、今後は治療や支援によってCWSとの接触を減らせるかどうかを検証する研究が期待されます。

Examining Education Models for Clinical Staff Working with People with Intellectual and Developmental Disabilities in Hospice and Palliative Care: A Narrative Literature Review

この論文は、知的・発達障害(IDD)のある人々に対するホスピス・緩和ケア(HAPC)を担う医療スタッフの教育モデルについて調査した文献レビューです。近年、重い病を抱えながら長く生きるIDDの人々が増えている一方で、医療現場ではHAPCに関する知識や訓練が不十分であることが報告されています。

レビューでは7件の関連研究を分析し、教育介入によって知識の向上や自信の獲得、満足度の上昇がみられたことがわかりました。しかし、標準化されたトレーニングプログラムや、患者中心の成果指標の不足も指摘されています。特に、IDDの専門職がHAPCについて学ぶ機会は増えているものの、HAPC側の医療者がIDD特有のニーズを学ぶ機会はまだ限られているという偏りも明らかになりました。

このことから著者は、当事者や家族を巻き込んだ双方向の教育モデルの開発と、自己評価以外の客観的な成果測定の導入が今後の課題であると結論づけています。より良い終末期ケアの実現には、分野横断的な学びと連携が不可欠であることが強調されています。

Community-Based Victimization Prevention Education for Children and Youth With Intellectual and Developmental Disabilities: A Scoping Review

この論文は、知的・発達障害(IDD)のある子どもや若者(10〜25歳)に対する地域ベースの被害防止教育プログラムを調査したスコーピングレビューです。IDDのある若者は虐待、ネグレクト、いじめといった被害に遭いやすいにもかかわらず、その予防に特化した教育プログラムは非常に少なく、評価も不十分であるという課題があります。

本レビューでは、北米・中東・ヨーロッパ・オーストラリアで実施された10のプログラムを分析。すべてが複数回のセッションで構成され、学習成果や実施の質の評価も一部行われていましたが、広域での展開や多様な被害形態への対応はされていないことが分かりました。

著者らは、効果的な教育手法が他の分野で実証されていることを踏まえ、IDDの若者向けにもエビデンスに基づいたプログラム開発と厳密な評価が必要であると提言しています。被害を未然に防ぐためには、より包括的かつ広く適用可能な支援策の構築が求められています。

On the role of stems and prefixes in reading complex nonwords: Evidence from individuals with and without acquired dyslexia

この研究は、「接頭辞(prefix)」や「語幹(stem)」が、実在しない複雑な単語(nonword)を読む際にどのように影響するかを、健常な読み手と後天性失読症(脳損傷などによって後から読みの障害が生じた人)を対象に調べたものです。

参加者は、「refront(接頭辞+語幹)」「tefront(接頭辞なし+語幹)」「refrint(接頭辞+語幹でない)」「tefrint(接頭辞なし+語幹でない)」のような作られた単語を声に出して読むタスクに取り組みました。

その結果、健常者は「接頭辞+語幹」からなる単語ほど速く読むことができ、語の構造(形態素)が読みやすさに影響することが示されました。一方、失読症のある人たちも、語幹や接頭辞があることで読みやすくなる傾向は見られましたが、特に語幹の影響の方が強いことが分かりました。

このことから、言葉の中に意味を持つ単位(形態素)が含まれていると、たとえ作られた単語でも読みやすくなることが示唆され、形態素処理が音読や言語理解において重要な役割を果たしていると考えられます。

Frontiers | Deep Learning-Based Feature Selection for Detection of Autism Spectrum Disorder

この論文は、自閉スペクトラム症(ASD)の診断をより正確に行うために、深層学習(ディープラーニング)と特徴量選択技術を組み合わせた新しい方法を提案しています。

ASDは、コミュニケーションの困難さ、社会的やりとりの問題、反復的な行動といった多様な症状を持つ発達障害です。最近では、脳の活動を画像で可視化する「安静時fMRI(rs-fMRI)」という技術が、ASDの神経的な特徴を捉える手段として注目されていますが、画像データは膨大かつ複雑であり、ノイズやサンプル数の少なさも課題でした。

本研究では、**スタック型スパース・デノイジング・オートエンコーダー(SSDAE)多層パーセプトロン(MLP)**という2つの深層学習モデルを使って、rs-fMRIデータから意味のある特徴を抽出します。さらに、「登山最適化アルゴリズム(HOA)」を改良し、不要な情報を減らして、診断に役立つ情報のみを効率よく抽出する工夫を加えています。

このモデルは、いくつかのASDデータセットを用いて評価され、**平均的な精度が73.5%、感度76.5%、特異度75.2%**という、従来の方法よりも良好な成績を示しました。

つまり、ASDの診断において、より精度の高い自動判別が可能になる手法を提示した研究であり、今後の臨床応用にもつながる可能性があります。

Frontiers | The Noor Project: Fair Transformer Transfer Learning for Autism Spectrum Disorder Recognition from Speech

この論文は、音声から自閉スペクトラム症(ASD)を早期に発見するAI技術の研究です。ASDは言語の遅れや非言語性が関係することが多いため、「話し方」や「声の特徴」から診断の手がかりを得ることが期待されています。

しかし、こうしたAIを訓練するには大量の「ラベル付き音声データ」が必要で、特にASDの子どもの音声データは少ないのが現状です。そこで本研究では、「転移学習(transfer learning)」という方法を使い、少ないデータでも効果的に学習させることを目指しました。

使われた方法は2つ:

  1. D-FT(Discriminative Fine-Tuning):ASDに近い課題で事前学習させたモデルをさらに調整する方法
  2. W2V2-FT(Wav2Vec 2.0 Fine-Tuning):大量の一般音声で事前学習したモデルを活用する方法

この2つのモデルを使って、

  • 「典型的発達」か「非典型(ASDなど)」かを分類するタスク

  • 「ASD・言語障害(DYS)・その他の発達障害(NOS)・定型発達」の4分類タスク

    に挑戦しました。

結果として、D-FTモデルがどちらの課題でも高い精度を示し、特に2クラス分類では94.8%の正確さ(UAR)を達成しました。これは、転移学習を使えば少ないデータでもASDの早期発見に役立つ可能性があることを示しています。今後の課題としては、さらに多くの音声データを集め、多クラス分類の精度を上げていくことが挙げられます。

Prevalence and Incidence of Cardiovascular Disease in Adults With Intellectual Disabilities: A Systematic Review

この論文は、**知的障害(ID)のある成人における心血管疾患(CVD)の有病率(どれくらいの人が持っているか)と発症率(新たに発症する人の割合)**について、過去の研究をまとめたシステマティックレビューです。

知的障害のある人は、生活習慣や医療へのアクセスの難しさなどから、心筋梗塞や脳卒中、心不全などのリスクが高いとされていますが、正確なデータは少なく、これまで体系的に整理されたことはほとんどありませんでした。

この研究では、2025年1月までに発表された55本の論文を分析し、以下のような幅広い心血管疾患について、発症率と有病率の範囲を報告しています(例:脳卒中の有病率は1.3%〜17.2%、発症率は年間1,000人あたり2.7〜3.2人)。

また、年齢・性別・障害の重さ・生活環境・診断方法などのサブグループごとのデータも整理されており、特に高齢者や身体測定を使った研究では、より高い発症率が見られたことが示されました。

ただし、研究方法や診断の定義がまちまちでばらつきが大きく、全体の傾向を断言するのは難しいとしています。今後は、客観的なデータを使った長期的な研究や、一般人口と比較可能な方法での分析が求められています。このレビューは、医療現場でのリスク把握や、適切な支援体制づくりに役立つ基礎情報を提供しています。

Understanding how secondary school students with dyslexia navigate their experiences and shape their identities

この論文は、ディスレクシア(読み書きの困難)をもつ中高生が、学校生活の中で自分自身の経験をどのように捉え、自己イメージ(アイデンティティ)をどのように形成していくかを深く掘り下げた研究です。

著者は、中高生5名と大学生8名を対象に、半構造化インタビューやグループディスカッションを通じて、当事者のリアルな声を収集しました。中高生は現在の学校生活について語り、大学生は過去の経験を振り返っています。分析には「文化・歴史的活動理論(CHAT)」という枠組みと、テーマ分析手法が用いられました。

結果として、ディスレクシアをもつ生徒たちは、周囲の見方や支援のあり方によって自己認識が大きく影響を受けることが明らかになりました。たとえば、「できない子」と見られることへの葛藤や、それを乗り越えて前向きに学び直そうとする姿が描かれています。

本研究は、**生徒自身の語りを通じて「どんな支援が有効なのか」「教師や支援者はどう寄り添えばよいのか」**を考えるヒントを与える内容となっており、教育現場での理解と対応力を高めるための貴重な資料です。