ADHDの子どもに対する理学療法が、注意力・多動性・運動機能・認知機能にどのような影響を与えるのか
このブログ記事では、ADHD(注意欠如・多動症)をめぐる最新研究の中でも、「研究の前提そのものを問い直す」タイプの重要な論文を紹介しています。具体的には、①ADHDの遺伝学研究がこれまで欧州系集団に極端に偏ってきた問題を指摘し、ラテンアメリカなどの祖先的に多様な集団を含めることが、科学的発見と医療の公平性の両面で不可欠であると主張する遺伝研究の提言論文と、②ADHDの子どもに対する理学療法(運動・身体活動を中心とした介入)が、注意力・多動性・運動機能・認知機能にどのような影響を与えるのかを、ランダム化比較試験に基づいて体系的に評価しようとするシステマティックレビュー・プロトコルを取り上げています。いずれの研究も、ADHDを「個人の問題」や「単一の生物学モデル」で捉えるのではなく、遺伝的多様性や非薬物的支援といった、これまで周縁化されがちだった視点を中心に据え直す点に特徴があり、今後のADHD研究・臨床・政策を考えるうえで重要な方向性を示しています。
学術研究関連アップデート
Shaping the future of ADHD genetic research through ancestral diversity
以下は、**「ADHDの遺伝研究がなぜ偏っているのか」「今後どのような研究が必要なのかを俯瞰したい人」**向けに、この論文をわかりやすく整理した要約です。
この論文は、ADHD(注意欠如・多動症)の遺伝学研究が、これまでいかに“ヨーロッパ系集団に偏って進められてきたか”を指摘し、その偏りを是正することが、科学的にも社会的にも不可欠であると訴える提言論文です。近年、ゲノム研究の進展によってADHDの神経生物学的理解は大きく前進しましたが、実際に用いられているデータの大半は欧米白人(European ancestry)に由来しており、精神疾患研究の中でもADHDは特にユーロセントリックな偏りが強い分野だとされています。
著者らは、この状況がもたらす問題として、
- 遺伝的リスクスコア(PRS)が非欧州系集団では正確に機能しない
- ADHDの生物学的多様性が十分に捉えられていない
- 精密医療(precision psychiatry)の恩恵が一部の人々にしか届かない
といった点を挙げています。
そこで本論文が強調するのが、ラテンアメリカをはじめとする過小代表集団(under-represented populations)を対象とした研究の重要性です。ラテンアメリカの人々は、ヨーロッパ系・先住民系・アフリカ系などが混ざり合った**アドミクスト(混合集団)**であり、この遺伝的多様性は、
- 新たなADHD関連遺伝子の発見
- 遺伝子と環境の相互作用の理解
- 既存の理論やモデルの再検証
といった点で、従来の研究では得られなかった知見をもたらす可能性が高いとされています。
また本論文は、ブラジルやウルグアイを中心とした研究ネットワーク(Latin American Genomics Consortium など)の取り組みを例に挙げ、地域主導かつ国際協調型の研究体制の重要性を示しています。単に「多様なサンプルを集める」だけでなく、
- 研究設計
- データ解析
- 倫理・還元のあり方
まで含めた対等なグローバル協力が不可欠だと論じられています。
一言でまとめるとこの論文は、
「ADHDの遺伝研究は、これまでの欧州中心主義を超え、遺伝的・文化的に多様な集団を本格的に含めることで初めて、科学的にも公平性の面でも次の段階に進める」
と主張する論文です。
ADHDを「普遍的な疾患」として本当に理解し、すべての人に役立つ精密医療を実現するためには、研究の前提そのものを問い直す必要がある──そのことを強く示した、分野全体へのメッセージ性の高い研究と言えるでしょう。
Frontiers | Effect of physiotherapy interventions on attention, hyperactivity, motor and cognitive outcomes in children with Attention Deficit Hyperactivity Disorder(ADHD): A Systematic review protocol
以下は、**「ADHDの子どもに対して、理学療法(フィジオセラピー)が注意力・多動性・運動・認知にどの程度効果があるのかを、エビデンスとして整理した研究を探している人」**向けに、この論文をわかりやすくまとめた要約です。
この論文は、ADHD(注意欠如・多動症)のある子どもに対する理学療法(physiotherapy)介入の効果を体系的に評価するための「システマティックレビュー・プロトコル」です。ADHDは学齢期に多く見られる神経発達症で、注意困難、多動性、衝動性に加えて、運動協調や認知機能の課題を併せ持つ子どもも少なくありません。しかし、薬物療法以外の支援、とくに身体運動や理学療法的アプローチがどの症状にどの程度有効なのかについては、研究結果が散在しており、明確な指針が不足しているのが現状です。
本研究の目的は、ランダム化比較試験(RCT)に限定して既存研究を統合し、理学療法介入が「注意力・多動性・運動機能・認知機能」に与える影響をエビデンスベースで明らかにすることです。対象となる介入には、運動療法、姿勢・バランス訓練、協調運動、身体活動を中心としたプログラムなどが含まれると想定されています。
方法としては、PubMed/MEDLINE、Cochrane Library、PEDro、Web of Scienceなどの主要データベースを用い、2025年2月までに発表された英語論文を体系的に検索します。研究の質については、**Cochrane Risk of Bias Tool(RoB 2)を用いて評価し、結果は主にナラティブレビュー(記述的統合)**として整理される予定です。研究デザインや参加者特性の違いを考慮するため、感度分析やサブグループ分析も行われます。
著者らは、このレビューによって、
- 理学療法が注意力の改善や多動性の軽減に寄与するか
- 運動機能だけでなく、認知機能への波及効果があるか
- どのような介入が、どの子どもに適している可能性があるか
といった点について、臨床実践に役立つ整理された知見を提供できるとしています。
一言でまとめるとこの論文は、
「ADHDの子どもに対する理学療法は、単なる運動支援にとどまらず、注意・行動・認知に影響を与える可能性がある。その有効性を科学的に評価するための、重要なレビューの設計図を示した研究」
です。
今後このレビューが完成すれば、薬物療法以外の支援選択肢を検討したい臨床家や、運動・身体活動を活用した支援を研究・実践したい人にとって、意思決定の根拠となる資料になることが期待されます。
