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ASDのある人を対象とした金融教育の研究はほとんど存在しない

· 28 min read
Tomohiro Hiratsuka
CEO of Easpe, Inc

このブログ記事では、自閉スペクトラム症(ASD)に関連する多様なテーマを紹介しています。内容は、ASDの子どもが参加するソーシャルスキルグループや金融リテラシー教育の不足、移民・難民家庭の子どもにおける精神疾患の傾向、アメリカの学校現場での合理的配慮制度「セクション504」の実態、ASD児をもつ家庭のきょうだい支援、当事者が語る自閉的燃え尽き(autistic burnout)、博物館における障害理解研修の現状、摂食障害を併せ持つ当事者による研究優先課題の提案、そしてASDにおける模倣困難の要因分析まで多岐にわたり、いずれも当事者の視点や実践への応用可能性を重視した内容となっています。

学術研究関連アップデート

“I made friends a lot more easily”: children and families’ experiences of social group programs for children on the autism spectrum - BMC Pediatrics

この研究は、自閉スペクトラム症(ASD)のある子どもたちが参加した**「ソーシャルスキルグループプログラム(SSGP)」の体験**について、子ども本人と家族の声を集めて分析したものです。対象は、8~12歳の子どもたちで、2つの異なるプログラムに参加しました:

  • KONTAKT™:社会的スキルを教えるための構造化されたプログラム
  • ART Legends:芸術活動を通じた、より自由な交流型のグループ

研究方法としては、プログラム終了直後にオンラインインタビューを行い(子ども35人、保護者37人)、その内容を整理・分析しました。


🔍 主な結果

  • どちらのプログラムも子どもたちの社交的な自信や行動に良い影響を与えたと感じる家庭が多かった
  • 特にKONTAKT™に参加した子どもの方が、対人スキルの向上が目立ったという報告が多かった
  • 参加への障壁としては「時間が合わない」「家から遠い」といった現実的な問題がありましたが、家族の支援などが継続参加を助ける要因になっていました
  • 子どもたちは「友だちができやすくなった」「楽しかった」と語ることが多く、全体として好意的な評価が目立ちました

✅ 意義とまとめ

この研究は、ASDのある子どもにとって、社会スキルを育むグループ活動が有意義であることを、実際の参加者の声から明らかにしました。また、プログラムの内容や運営方法に関する参加者からの具体的な改善提案も記録されており、今後のより良い支援プログラムづくりに活かされることが期待されます。

Financial Literacy Skills Instruction Among Autistic Individuals: A Systematic Review

この研究は、「自閉スペクトラム症(ASD)のある人たちに対する金融リテラシー教育(お金の使い方や管理のスキル指導)」について、過去の研究がどれだけ行われているかを調べた**系統的レビュー(文献調査)**です。


🔍 研究の背景と目的

  • お金の管理は、自立した生活に欠かせないスキルですが、ASDのある人を対象とした金融教育の研究はほとんど存在していないことが問題視されています。
  • 本研究では、約9500本の論文を調べ、ASDと金融リテラシーに関する研究がどれだけあるかを調査しました。

📚 主な結果

  • 金融リテラシーを直接的に教えている研究はわずか2本しか見つかりませんでした。
  • それ以外に、「おつりの計算」など基本的なお金のスキルに関する研究が10本見つかりました。
  • ただし、その2本の金融リテラシー研究も、金融スキルだけに特化したものではなく、他の生活スキルとセットで教えられていたものです。

✅ 結論と意義

  • ASDのある人への金融教育に関する研究は、圧倒的に不足しているというのが本研究の結論です。
  • しかし、お金に関する基礎的なスキル(計算や支払い)に関する研究は既に存在しており、今後の発展の土台となると指摘されています。
  • 著者らは、ASDの特性に合った形で、本人の意見も取り入れながら金融教育の研究と実践を進める必要があると強く提言しています。

この論文は、ASDのある人たちが社会でより自立して生活するために、金融スキルをどう教えるかという未開拓の重要テーマに光を当てた貴重なレビューです。

Variations in Conduct, Attention Deficit Hyperactivity Disorder, Mood and Anxiety Disorders Among Children and Youth from Immigrant, Refugee, and Non-Immigrant Backgrounds in British Columbia, Canada: A Population-Based Study

この研究は、カナダ・ブリティッシュコロンビア州に住む子どもと若者の精神疾患の診断傾向が、移民、難民、非移民という背景によってどのように異なるかを調べた、大規模な人口ベースの調査です。


🔍 研究の概要

  • 調査対象:約47万人(3〜19歳)、1996〜2016年の健康記録を分析。
  • 比較したのは以下の3グループ:
    1. 非移民の子ども
    2. 移民(経済的移民・家族呼び寄せ移民)
    3. 難民の子ども
  • 対象となった精神疾患は:
    • 行動障害(Conduct disorder)
    • ADHD(注意欠如・多動症)
    • 気分障害・不安障害

📊 主な結果

  • 第一世代・第二世代の移民の子どもたちは、非移民の子どもに比べて精神疾患の診断率が低かった。
  • ただし、難民として来た子どもたちは、行動障害や気分・不安障害の診断を受ける可能性が高かった
  • 家族呼び寄せ移民の子どもは、ADHDも含めたすべての疾患の診断率が比較的高かった
  • また、性別や社会経済的地位(SES)による影響が、移民や難民の子どもでは非移民と異なる傾向を示していた。

✅ 結論と意義

この研究は、「精神疾患のリスクや診断のあり方は、出自によって大きく異なる」ことを明らかにしています。特に、一般的な予測因子(性別や所得)が必ずしもすべての子どもに当てはまるわけではないという点は、教育や医療の現場において配慮すべき重要な知見です。今後は、背景の異なる子どもたちに合った精神保健支援のあり方が求められることを示唆しています。

Exploring Family Experiences With Section 504 Plans for Their Autistic Children

この論文は、アメリカの公立学校において「セクション504プラン(合理的配慮)」を利用している自閉スペクトラム症(ASD)の子どもたちとその家族が、どのような経験をしているかを明らかにするために行われた研究です。


📝

セクション504とは?

  • アメリカの「リハビリテーション法第504条(Section 504)」に基づき、障害のある学生が教育の機会を平等に受けられるように、必要な配慮や支援を提供する制度です。
  • より専門的な支援である「IEP(個別教育プログラム)」とは異なり、主に教室での合理的配慮(例:試験時間の延長など)を提供する枠組みです。

🔍

研究の内容と参加者

  • ASDの子どもを持つ23家族にインタビューを実施。
  • インタビューでは、
    1. 504プランを申請・取得する際の体験

    2. プランの内容作成への家族の関与

    3. 学校現場での実際の運用状況

      などについて話を聞きました。


📊

主な結果

  • 一部の家族は肯定的な体験を報告しました。
    • その理由としては、協力的で理解のある学校職員の存在が大きかったとされています。
  • しかし、多くの家族はネガティブな体験を報告。
    • 学校側が合理的配慮の提供に消極的だったり、制度の利用を渋ったりするケースが多かったという声がありました。

結論と意義

この研究は、ASDのある子どもたちがセクション504を通じて適切な支援を受ける上で、制度の運用にばらつきがあることや、支援が十分でない現状を浮き彫りにしました。今後は、学校現場の理解促進や、より公平な制度運用を実現するための介入方法の開発が必要であると提言しています。


この論文は、**「制度はあっても、現場でうまく使われていないことがある」**という教育のリアルを示し、ASDの子どもと家族にとっての支援のあり方を考える上で重要な示唆を与えています。

Relational Patterns of Support and Communication in Families with a Child Diagnosed with Autism: an Interpretive Phenomenological Study

この論文は、自閉スペクトラム症(ASD)のある子どもがいる家庭において、その兄弟姉妹(神経発達的には定型発達の子=NT siblings)がどのように親との関係や支援・コミュニケーションを体験しているかを、インタビューを通じて深く掘り下げた質的研究です。


🔍

研究の目的

ASDのある子どもが家庭にいると、兄弟姉妹(NT siblings)もさまざまな影響を受けることが知られていますが、それに「うまく適応できる家庭」と「そうでない家庭」の違いがどこにあるのか、特に親からの支援やコミュニケーションの質に着目して調査されました。


🧪

研究方法と対象

  • 7家族・計22人(親と10歳以上のNT兄弟姉妹)を対象に、半構造化インタビューを実施。
  • *「解釈的現象学的分析(IPA)」**という手法を用い、個々の体験に含まれる意味をていねいに抽出。

📚

明らかになった4つの主要テーマ

  1. NT兄弟姉妹と過ごす「特別な時間」
    • ASDのある子に手がかかる中でも、NTの子どもとだけ向き合う時間を設けることが重要
  2. NT兄弟姉妹との「個別の対話」
    • ASDのある子への対応で忙しい中でも、NTの子どもと率直に会話することが信頼関係の鍵
  3. 兄弟姉妹としての「期待と役割」
    • NTの子が「助け役」「我慢役」として過度な役割を背負っていないか、親の配慮が重要
  4. ASDに関する「理解の促進」
    • 親がASDについて丁寧に説明し、共有することで、NTの子どもも兄弟の特性を理解しやすくなる

結論と意義

この研究は、親がNTの子どもに対しても意識的に時間・対話・情報共有を行うことで、その子どもにとっても前向きな家族体験になることを示しています。ASDのある子どもに注目が集まりがちな中で、兄弟姉妹の心のケアや関係性の質も重要な支援領域であることを強調しています。


この論文は、家族全体がよりよい関係を築くための実践的なヒントを与えてくれる内容であり、ASD児の家庭支援において、**「きょうだい支援」**という観点がいかに重要かを示す重要な報告です。

Low Battery Alarm; A Scoping Review of Autistic Burnout

この論文は、自閉スペクトラム症(ASD)のある人々がしばしば訴える「オーティスティック・バーンアウト(autistic burnout)」について、現時点でどのような研究があるのかを整理・分析したスコーピングレビューです。


🔍

オーティスティック・バーンアウトとは?

  • 長年、当事者の間ではSNSなどで語られてきた概念ですが、学術的な定義や調査はまだ少ない状態です。
  • 精神的・身体的・感情的な疲弊が続き、通常できていたことができなくなったり、感覚過敏や孤立感が強まる状態などが含まれます。

🧪

レビューの方法と分析結果

  • 複数の国際データベースから関連研究を検索し、14本の論文を分析対象に選定
  • 内容を6つのテーマに分類:
    1. 主観的理解(当事者の感じていること、4つの下位テーマ)
    2. 特徴づけ(どう定義・記述されているか、3つの下位テーマ)
    3. 評価方法
    4. 他の障害との重なりや誤診
    5. 生物学的メカニズム
    6. 対処法や支援策

📌

このレビューの特徴

  • 「当事者の視点(内的POV)」と「外部からの視点(外的POV)」を明確に分けて分析
    • 例:バーンアウトを実際に経験した人の語り vs 医療者や研究者の観察・評価

結論と意義

  • バーンアウトという現象自体は確かに存在しており、深刻な影響を与えるが、まだ学術的には十分に解明されていない。
  • 特に不足しているのは:
    • 発生率などの疫学データ
    • 予防・リスク要因の特定
    • 教育・支援に向けた具体的なガイドライン
  • 今後は、当事者の声を重視した研究と、制度的な支援の整備が必要であると提言しています。

この研究は、「オーティスティック・バーンアウト」が社会的にも学術的にも正式に認知され、理解と支援が進むための第一歩となる重要なレビューです。

Staff Training on Disability Awareness in Museum Settings: A Scoping Review

この論文は、博物館における障害者への理解と対応を深める「障害者理解研修(disability awareness training)」に関する既存研究を整理し、今後の課題を明らかにしたスコーピングレビューです。


🔍 背景と目的

  • 博物館では、障害のある来館者にどう接すればよいか、スタッフが分からず戸惑うことが少なくありません。
  • 障害者の包摂(インクルージョン)を実現するには、スタッフ向けの理解研修が不可欠ですが、その効果や実施状況についての研究は少ないのが現状です。
  • 本研究では、「博物館×障害理解研修」に関する過去の文献を整理し、現状と課題を明らかにすることを目的としています。

📚 研究の方法

  • Sage、Education Full Text、Wiley、JSTORなどの学術データベースから英語の査読付き論文を検索。
  • 最初に見つかった714件のうち、基準を満たした最終的な対象論文は9本

🧩 分析で見つかった共通テーマ

  1. 障害者本人と博物館スタッフの視点
  2. 知識・対応スキルのギャップ
  3. 博物館体験を向上させるための提案

✅ 結論と意義

  • 障害者対応の質を高めるには、スタッフ個人の意識だけでなく、組織全体や地域社会のサポート体制が必要
  • また、当事者の声を取り入れた実践的な研修が求められている。
  • ただし、現状では研究そのものが非常に少なく、今後の体系的な調査と研修プログラムの開発が急務とされています。

この研究は、誰もが楽しめる博物館づくりのために「障害者理解研修」がいかに重要であり、まだ道半ばであるかを示す指針的なレビューです。

Using Photovoice Methods to Set Research Priorities With Autistic People With Experience of an Eating Disorder

この研究は、摂食障害(ED)の経験がある自閉スペクトラム症(ASD)の当事者が、「どんな研究をしてほしいか」を自らの言葉や写真で語り、それをもとに研究の優先課題を明らかにするという、参加型・芸術的手法「Photovoice(フォトボイス)」を用いたユニークな試みです。


🧠 背景

  • 自閉スペクトラム症の人は摂食障害を抱える割合が高く、治療の満足度も低いとされる一方、研究の中で当事者の視点があまり反映されていないのが現状です。
  • この研究は、**「当事者が本当に知りたいこと」「解決してほしい問題」は何か?**を、当事者自身が写真や対話で表現する形で探っています。

🎨 方法と参加者

  • 14人のASD当事者(摂食障害の経験あり)が、写真を使ったグループワークショップに参加。
  • 写真とその意味、背景、思いを語る過程を通じて、重要な研究テーマを抽出
  • 参加者のフィードバックを反映しながら、5つの主要テーマに整理。

🔍 見つかった5つの研究優先テーマ

  1. 幼少期の影響
    • 食や身体に関する社会的価値観の内面化
    • 家族の世代間で続くパターン
  2. 摂食障害の役割
    • 情緒や刺激の自己調整手段
    • 社会的適応のための戦略
  3. 回復の障壁と支援要因
    • 自閉特性が障壁になることもあれば、支援要因にもなり得る
    • 自己理解の過程が助けにも苦しみにもなる
  4. 複雑さへの理解と配慮
    • 他の障害や多様な属性との重なり(インターセクショナリティ)
  5. 研究文化の変革
    • 包括的・当事者参加型の研究の必要性
    • 医療以外の支援や対話の重視

✅ 結論と意義

この研究は、当事者の言葉と視点を出発点にすることで、より深く本質的な研究課題を可視化しました。今後、ASDと摂食障害の重なりに関する研究を進めるうえで、当事者の実感に根ざした問いが生まれ、より有効な支援策の構築につながる可能性があります。


この論文は、「当事者抜きの研究」から「当事者が主導する研究」への転換を体現しており、今後のインクルーシブな研究の方向性を示す好例です。

Mechanisms of Altered Imitation in Autism Spectrum Disorders

この研究は、自閉スペクトラム症(ASD)の子どもが**「模倣(ものまね)」を苦手とする理由**を詳しく調べたものです。模倣は、社会的スキルや非社会的スキルの習得にとって重要であり、ASDにおける模倣の困難さは、発達全体に影響を与える可能性があります。


🧪 研究の方法と対象

  • 7〜12歳のASDおよび定型発達の子ども708人を対象に調査。
  • 「意味のある動作(例:手を振る)」と「意味のない動作(例:ランダムな手の動き)」の模倣能力を評価。
  • さらに以下の項目を総合的に測定:
    • 運動能力(motor execution)
    • 動作のイメージ力(action representation)
    • 社会的なやる気(social motivation)
    • 実行機能(executive function)(計画、注意切り替えなど)

🔍 主な結果

  • 模倣の難しさは、最も強く「運動の実行能力」によって説明されることが判明。
  • ただし、「社会的な動機づけ」「動作のイメージ」「実行機能」も一部影響していた。
  • これらの要素を合わせると、模倣の能力の約39%の違いを説明できた。

✅ 結論と意義

この研究は、「ASDにおける模倣の困難さ」は単に社会的関心が低いからではなく、運動や認知の複数の要素が複雑に関与していることを明らかにしました。将来的には、発達初期からの縦断的な研究が必要であり、模倣能力を伸ばす支援には、運動・認知・社会的動機など多面的なアプローチが重要だと示唆されています。


この論文は、ASD支援において「模倣の困難さの背景を丁寧に理解すること」が、より効果的な介入の設計につながることを教えてくれます。