ASDのある人を対象とした金融教育の研究はほとんど存在しない
このブログ記事では、自閉スペクトラム症(ASD)に関連する多様なテーマを紹介しています。内容は、ASDの子どもが参加するソーシャルスキルグループや金融リテラシー教育の不足、移民・難民家庭の子どもにおける精神疾患の傾 向、アメリカの学校現場での合理的配慮制度「セクション504」の実態、ASD児をもつ家庭のきょうだい支援、当事者が語る自閉的燃え尽き(autistic burnout)、博物館における障害理解研修の現状、摂食障害を併せ持つ当事者による研究優先課題の提案、そしてASDにおける模倣困難の要因分析まで多岐にわたり、いずれも当事者の視点や実践への応用可能性を重視した内容となっています。
学術研究関連アップデート
“I made friends a lot more easily”: children and families’ experiences of social group programs for children on the autism spectrum - BMC Pediatrics
この研究は、自閉スペクトラム症(ASD)のある子どもたちが参加した**「ソーシャルスキルグループプログラム(SSGP)」の体験**について、子ども本人と家族の声を集めて分析したものです。対象は、8~12歳の子どもたちで、2つの異なるプログラムに参加しました:
- KONTAKT™:社会的スキルを教えるための構造化されたプログラム
- ART Legends:芸術活動を通じた、より自由な交流型のグループ
研究方法としては、プログラム終了直後にオンラインインタビューを行い(子ども35人、保護者37人)、その内容を整理・分析しました。
🔍 主な結果
- どちらのプログラムも子どもたちの社交的な自信や行動に良い影響を与えたと感じる家庭が多かった
- 特にKONTAKT™に参加した子どもの方が、対人スキルの向上が目立ったという報告が多かった
- 参加への障壁としては「時間が合わない」「家から遠い」といった現実的な問題がありましたが、家族の支援などが継続参加を助ける要因になっていました
- 子どもたちは「友だちができやすくなった」「楽しかった」と語ることが多く、全体として好意的な評価が目立ちました
✅ 意義とまとめ
この研究は、ASDのある子どもにとって、社会スキルを育むグループ活動が有意義であることを、実際の参加者の声から明らかにしました。また、プログラムの内容や運営方法に関する参加者からの具体的な改善提案も記録されており、今後のより良い支援プログラムづくりに活かされることが期待されます。
Financial Literacy Skills Instruction Among Autistic Individuals: A Systematic Review
この研究は、「自閉スペクトラム症(ASD)のある人たちに対する金融リテラシー教育(お金の使い方や管理のスキル指導)」について、過去の研究がどれだけ行われているかを調べた**系統的レビュー(文献調査)**です。
🔍 研究の背景と目的
- お金の管理は、自立した生活に欠かせないスキルですが、ASDのある人を対象とした金融教育の研究はほとんど存在していないことが問題視されています。
- 本研究では、約9500本の論文を調べ、ASDと金融リテラシーに関する研究がどれだけあるかを調査しました。
📚 主な結果
- 金融リテラシーを直接的に教えている研究はわずか2本しか見つかりませんでした。
- それ以外に、「おつりの計算」など基本的なお金のスキルに関する研究が10本見つかりました。
- ただし、その2本の金融リテラシー研究も、金融スキルだけに特化したものではなく、他の生活スキルとセッ トで教えられていたものです。
✅ 結論と意義
- ASDのある人への金融教育に関する研究は、圧倒的に不足しているというのが本研究の結論です。
- しかし、お金に関する基礎的なスキル(計算や支払い)に関する研究は既に存在しており、今後の発展の土台となると指摘されています。
- 著者らは、ASDの特性に合った形で、本人の意見も取り入れながら金融教育の研究と実践を進める必要があると強く提言しています。
この論文は、ASDのある人たちが社会でより自立して生活するために、金融スキルをどう教えるかという未開拓の重要テーマに光を当てた貴重なレビューです。