X上でABAに関する否定的投稿は、肯定的投稿の3倍エンゲージメントを得ているという結果
このブログ記事は、2025年5月に発表された発達障害に関する最新の学術研究13本を紹介しており、主に自閉スペクトラム症(ASD)やADHDに関連する支援法の効果検証(対話型読み聞かせ、AI活用、ABAの社会的評価など)、認知・行動特性の理解(実行機能と心の理論の関係、推論力、食の選り好み)、そして**保護者や社会の認識(ASDの原因に関する意識の変化、SNS上での議論の傾向)**を扱っています。研究はアメリカ、ヨーロッパ、中東、南米など多様な文化圏から集められ、個別支援・診断の重要性、支援の標準化、文化背景をふまえた理解の必要性が共通のテーマとして浮かび上がっています。
学術研究関連アップデート
Mothers’ Ideas About Causes of Autism Spectrum Disorder (ASD): Differences Over Time and by Household Experience with ASD
この研究は、自閉スペクトラム症(ASD)の原因について母親がどのような考えを持っているかを、2007年〜2020年の間にアメリカで行われた大規模調査(SEED)データを用いて分析したものです。調査対象はASDのある子どもを含む家庭とそうでない家庭の母親8,307名で、母親の考えが時代とともにどう変化したか、また家庭内にASD児がいるかどうかで考え方に違いがあるかを調べました。
🔍 主な結果
- 全体の約4割(39.3%)の母親が「ASDの原因」について自分なりの考えを述べた
- 最も多く挙げられた原因は、以下の順でした:
- 遺伝(genetics)
- ワクチン(vaccines)
- 環境要因(environment)
- 親の生活習慣(lifestyle)
- 妊娠前後の母体の健康問題
- 出産時の経験
- 子どもの食生活
- 時間の経過とともに「ワクチン」を原因とする母親は減少
- 一方で、「遺伝」「親の生活習慣」「母体の健康」「出産経験」が原因だと考える母親は増加
- ASD児が家庭にいるかどうかで、報告された原因に有意な違いがあった
- 人種や文化的背景などの社会的要因も、原因の考え方に影響していた
✅ 総括
この研究は、ASDの原因に対する母親の認識が時代とともに変化していること、また家族の経験や文化的背景がその認識に影響を与えることを示しました。特に、「ワクチン原因説」の割合が減少傾向にある一方で、より多様で医学的・生活的な要因に目が向けられていることが注目されます。これらの結果は、公衆衛生分野や医療現場における保護者支援・情報提供のあり方を考える上で重要な手がかりとなります。
The Effects of Dialogic Reading Intervention on Verbal Interaction and Engagement in Young Autistic Children: A Randomized Controlled Preliminary Study
この研究は、自閉スペクトラム症(ASD)のある幼児に対して「対話型読み聞かせ(dialogic reading)」が、言葉のやり取りや集中、語彙力にどのような効果をもたらすかを調べたランダム化比較試験です。対象は平均5歳のASD児14名で、**対話型読み聞かせを受けたグループ(9名)と、通常の読み聞かせを受けたグループ(5名)**に分けて比較されました。
🔍 主な結果
- 対話型読み聞かせグループの子どもたちは、質問への応答やコメントによる発話の頻度が有意に向上
- 語彙力の向上や、活動中の「集中の欠如」の減少も確認された
- 読み聞かせで学んだスキルは、新しい本にもある程度応用(一般化)できる傾向が見られたが、その効果は限定的だった
✅ 総括
この研究は、絵本の読み聞かせ時に子どもに積極的に問いかけたり応答を促す「対話型」手法が、ASD児の言語的なやり取りや集中力の向上に効果的であることを初期的に示したものです。特に、単に読み聞かせるだけでなく、双方向のやりとりを意図的に取り入れることが、言葉の発達を後押しする可能性があることが示唆されています。家庭や療育現場での実践的な介入方法としての有用性が期待されます。
Association of autistic traits with inference generation in visual narratives
この研究は、自閉スペクトラム傾向(autistic traits)を持つ成人が、視覚的な物語(例:漫画)を理解する際に「行間を読む(推論する)力」にどのような違いがあるかを調べたものです。これまで言語的な物語(文章や音声)に関しては自閉傾向との関連が研究されてきましたが、視覚的な物語理解との関係については研究が少なく、本研究はそのギャップを埋めるものです。
🔍 研究の概要
2つの実験が行われました:
- 実験1: コマが1つ欠けた漫画のシーケンスを見せ、欠けた場所を判断させる課題(削除認識パラダイム)
- 実験2: 推論が必要な漫画のシーケンスを自分のペースで閲覧し、その後の理解度(正答率・反応時間)を測定(自己ペース閲覧パラダイム)
両実験とも、参加者の自閉傾向スコアと**視覚的言語の熟練度(漫画などに慣れているか)**の個人差も評価されました。
✅ 主な結果と意義
- 実験1では、自閉傾向や視覚的言語スキルによる差は見られなかった(即時的な処理では大きな違いは出なかった)
- 実験2では、自閉傾向や視覚的言語スキルが、物語の理解(特に事後的な処理=オフライン処理)に影響している可能性が示された
- 特に、自閉傾向の中でも**「想像力の乏しさ」に関連する特性が、推論のしにくさに影響している可能性**が指摘された
💡 総括
この研究は、漫画などの視覚的物語でも、「行間を読む」力に自閉傾向が影響する可能性があることを示しています。特に、即時的な反応では違いが出にくい一方、後から意味を理解するような場面では影響が現れることが明らかになりました。教育や支援においても、視覚的な教材であっても推論支援が必要な場合があることを示唆する重要な研究です。
#ContentAnalysisofABAonTwitter/X: Finding Behavior Analysis’ Heart on Social Media
この研究は、Twitter(現在のX)上での応用行動分析(ABA)に関する投稿を分析し、世間がABAについてどのように語っているかを客観的に把握することを目的としたものです。過去の先行研究では、2012年〜2022年にかけて投稿されたツイートの中で、否定的な意見の投稿が肯定的・中立的な投稿の約3倍の反応(エンゲージメント)を得ていたことが判明していました。
🔍 本研究の内容
今回はその続編として、**ABAに賛成・反対と明確に立場が示されたツイートの内容を詳細に分析(コンテンツ分析)**しました。以下のような特徴が明らかになりました:
- ABAを支持するツイートの主なテーマ:
- ABAの有効性や成果
- 倫理的実践や支援の質
- 財政的支援の必要性
- 分野の普及・推進
- ABAに否定的なツイートの主なテーマ:
- 当事者にとっての苦痛や有害性
- 特定の手法(例:強化や消去)に対する批判
- 能力主義的(ableist)な前提に基づく介入への反発
- ABAそのものへの根本的な否定意見
✅ 総括と意義
この研究は、SNSにおけるABAへの意見が二極化している現状をデータに基づいて可視化したものです。肯定派は「効果と倫理」を、否定派は「当事者の経験と価値観の軽視」を中心に語っており、**ABAの社会的妥当性(social validity)とその課題(social invalidity)**が浮き彫りになりました。
ABA実践者にとっては、単なる効果の証明だけでなく、当事者視点や批判に対する誠実な対話が求められていることを示唆しています。今後の実践や教育、広報のあり方を見直すうえで、重要な指針を提供する研究です。
Unlocking the Link: Exploring the Association Between Food Selectivity and Health Outcome in Autism Spectrum Disorder-A Systematic Review
この系統的レビュー論文は、自閉スペクトラム症(ASD)のある人々に多く見られる「食のこだわり(Food Selectivity, FS)」が健康にどのような影響を与えるかを明らかにしようとしたものです。食のこだわりとは、特定の食べ物を極端に好んだり避けたりすることで、果物や野菜の拒否、超加工食品への偏りなどが含まれます。
🔍 研究の概要
- 対象文献: 2012〜2023年に発表された15本の研究論文
- 主な健康への影響:
- 肥満や過体重のリスク増加
- 腹囲やウエスト-身長比の増大
- 栄養素の不足(ビタミンやミネラル)
- 消化器の問題(便秘など)
- 摂食障害や高トリグリセリド血症
✅ 結論と提言
- 食のこだわりはASDの人々にとって一般的であり、健康上のさまざまなリスクを高める可能性があることが分かりました。
- ただし、FSの定義や評価方法が研究ごとに異なっており、比較や統一的な結論が難しいという課題も浮き彫りにされています。
- 今後は、ASDに特化した評価ツールの標準化や、長期的な健康影響と介入法に関する研究が必要だとされています。
💡 まとめ
この研究は、ASDにおける「食のこだわり」が単なる食事の好みではなく、栄養状態や健康全体に深刻な影響を及ぼす可能性があることを示しています。支援や介入を考える際には、行動だけでなく、身体的健康リスクにも着目した総合的な対応が必要であるという重要な示唆を与えています。
Behaviour ratings of executive functions in adolescents with ADHD: correlation with core symptoms and functional impairment measured by multiple informants
この研究は、**ADHD(注意欠如・多動症)を持つ思春期の若者(14〜18歳)における実行機能障害(EFD:Executive Functional Deficits)**と、ADHDの症状および日常生活での困難(機能障害)との関連性を、複数の情報提供者(教師・親・本人)からの評価をもとに分析したものです。
🔍 研究の背景と目的
ADHDのある人の多くは、注意や行動の制御など「実行機能」に困難を抱えています。これらの実行機能は、行動評価(観察や質問紙)を通じて把握されますが、評価者によって結果が異なることも多く、診断や支援において課題となります。本研究では、誰が評価したかによって結果がどう異なるか、またそれがADHDの症状や日常の困難とどう関連しているかを調べました。
🧪 方法と対象
- 対象: ADHDの診断を受け、現在も明確な症状が見られる100名の14〜18歳の若者
- 評価者: 教師、親、本人、医師(グローバルな機能評価)
- 評価項目:
- 実行機能の行動的評価(EFD)
- ADHDのコア症状(多動・不注意など)
- 日常生活における支障(機能障害)
📊 主な結果
- 同じ評価者内では、EFDとADHDの症状・機能障害の間に強い正の相関が見られた(例:親が評価したEFDは、親が評価した症状・支障とも強く一致)
- 評価者が異なる場合(例:教師のEFD評価と親の症状評価)は、中程度または小さな相関にとどまった
- 医師による全体的な機能評価(グローバル機能)は、EFDのスコアと逆相関(=EFDが高いほど、全体機能は低く評価される)
✅ 総括と意義
この研究は、実行機能の行動的な問題が、ADHDの症状や日常生活の困難と深く関係していることを明らかにしました。ただし、誰が評価するかによって見え方が大きく異なるため、診断や支援には教師・親・本人など複数の視点からの情報が不可欠であることが示唆されます。これは、学校と家庭での行動が異なることが多いADHDにおいて、特に重要なポイントです。
Are there associations between Executive Functions and Theory of Mind in attention deficit hyperactivity disorder? Results from a systematic review with meta-analysis
この研究は、注意欠如・多動症(ADHD)における「実行機能(EF)」と「心の理論(ToM)」の関連性について、既存の研究を統合して分析した系統的レビューとメタアナリシスです。
🔍 背景
- *実行機能(EF)**とは、注意の切り替え、ワーキングメモリ、自己制御などの「頭の働きのコントロール機能」のこと。
- *心の理論(ToM)**は、他人の気持ちや考えを推測する力で、社会的なやり取りや共感に重要です。
- ADHDのある人では、この2つの能力がともに弱いことが多く、その関係性をデータに基づいて調べることが本研究の目的です。
🧪 方法とデータ
- 7つのデータベースから過去の研究を調査し、15件の質の高い研究を選定。
- ADHDのある人と健常な人の両方について、EFとToMの**相関係数(r値)**を比較。
- 子どもと大人で結果が異なるかも調査しました。
📊 主な結果
- ADHDのある人では、**EFとToMの間に中程度の正の関連性(r = 0.20〜0.38)**が認められました。
- 健常者でも同様の関連性(r = 0.02〜0.40)がありました。
- 年齢(子ども vs 大人)やEFの種類による有意差は見られませんでした(p > 0.20)。
✅ 結論と意義
- ADHDにおいて、実行機能の低さが他者の気持ちを読み取る力にも影響を及ぼしている可能性があることが示されました。
- 年齢やEFの細かい分類に関係なく、EFとToMの関連は一貫して見られるという結果です。
- 今後は、より広い年齢層や方法論の改善を取り入れた研究が必要とされています。
この研究は、ADHDの社会的な困難が、単に「不注意」や「多動」だけでなく、思考や対人理解の力との複雑な関連にあることを明らかにし、多角的な支援の重要性を示しています。
An Adolescent with Undiagnosed Inattentive-Type Attention Deficit-Hyperactivity Disorder and Comorbid Migraine: A Case Report
この論文は、思春期まで診断されなかった「不注意型ADHD(注意欠如・多動症)」と片頭痛(ミグレイン)を併せ持つ少年の症例を紹介したケースレポートです。
🔍 症例の概要
- 患者は多動や衝動性は見られず、不注意のみが主な症状であり、**「不注意型ADHD」**と呼ばれるタイプに該当。
- 長年、集中力の欠如や学業不振に苦しんでいたが、ADHDとは気づかれず未診断のまま思春期を迎えた。
- 同時に、片頭痛の症状も抱えていた。
🩺 診断と治療
- 経験豊富な**ナース・プラクティショナー(NP)**がADHDを診断し、メチルフェニデート(中枢刺激薬)による治療を開始。
- 治療の結果、学業成績が改善し、生活の質(QOL)も向上した。
✅ 結論と意義
この症例は、「不注意型ADHD」は外から見て分かりにくいため、見逃されやすいこと、そしてその結果として本人や家族が長期間苦しむ可能性があることを示しています。
また、小児・思春期のメンタルヘルスリソースが不足している現状では、看護師やNPが早期発見と支援に重要な役割を果たすことが強調されています。
💡 ポイント
- ADHDは「多動」だけではなく、「不注意」が主な症状である場合もある。
- 見逃されると、学業不振や家族のストレスにつながる。
- 早期の気づきと介入が、本人の人生に大きなプラスとなる。
Cross‐Cultural Comparison of Adaptive Behaviour Between British and Brazilian Clinical Samples With Neurodevelopmental Disorders
この研究は、ブラジルとイギリスに住む自閉スペクトラム症(ASD)のある子ども・青年の「適応行動(=日常生活スキル)」を比較した国際比較研究です。適応行動とは、身の回りのことや社会的なやりとり、変化への対応能力など、日常生活を自立して送るために必要なスキルを指します。
🔍 研究の内容と方法
- 対象:ASDと診断された5~17歳の子ども48名(ブラジル24名、英国24名)
- 評価:**適応行動評価システムABAS-3(保護者回答式)**を使用し、複数のスキル領域についてスコアを取得
- 年齢別に2グループ(5〜10歳、11〜17歳)に分けて分析
✅ 主な結果
- 全体的に、ブラジルと英国のASD児の適応行動プロフィールは類似していた
- ただし、「自己指導(self-direction)」スケールだけで有意差が見られ、
- 11〜17歳のブラジルの子どもたちの方が、同年代の英国の子どもよりも高スコア
- このスケールは、自立性・責任感・自己制御力を評価する指標
💡 総括
この研究は、文化や国が違っても、ASD児の適応行動における課題は共通していることを示しています。ただし、自立に関わるスキルは文化的背景により差が出る可能性があるとも示唆されました。どの国でも、個々の特性に応じた生活スキルの支援が重要であることが改めて明らかになった研究です。