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ASD+知的障害児への適応型ヨガの心理的効果

· 29 min read
Tomohiro Hiratsuka
CEO of Easpe, Inc

この記事では、2025年5月に発表された発達障害に関する最新の学術研究を総括的に紹介しています。主なテーマは、自閉スペクトラム症(ASD)や注意欠如・多動症(ADHD)に関する診断・介入・支援手法の革新です。具体的には、ADHDと自律神経機能の関係(瞳孔測定による評価)、ASD+知的障害児への適応型ヨガの心理的効果、ASDの幼児期における性差の検討、CHD8遺伝子重複が脳発達に与える影響、DCD児への運動介入の有効性、ASD成人における自傷行為の実態調査、ASD児の不安と柔軟性困難の関係、ADHD傾向や低SESの学生に対するアイデンティティ介入の効果、ASD児の学習における視線・認知の使い方、そしてASD児の社会的回避傾向を測定する尺度の信頼性検証などが取り上げられています。全体を通じて、診断技術の精緻化や、家庭・教育現場で実践可能な支援アプローチの進展が強調されており、発達障害支援の多面的かつ実用的な展開を示す内容となっています。

学術研究関連アップデート

The Relationship Between ADHD and Autonomic Regulation: a Pupillometry-Based Study

この研究は、ADHD(注意欠如・多動症)と自律神経機能の異常との関係を、**瞳孔の動き(瞳孔反応)を測定する方法=「パピロメトリー(瞳孔測定)」**によって調べたものです。パピロメトリーは非侵襲的で繰り返し使える、客観的な測定手法です。


🔍 研究の概要:

  • 対象者:

    • ADHDと診断された6〜18歳の子ども70名(グループI)
    • 健康な同年齢の子ども70名(グループII、対照群)
  • 方法:

    精密な眼科装置を使い、暗所で静的(一定条件下)および動的(変化時)の瞳孔の大きさや変化速度を測定


✅ 主な結果:

  • 暗所(scotopic)や中程度の明るさ(mesopic)での瞳孔の大きさは、ADHD群の方が明らかに大きかった
  • 瞳孔の広がる速度(拡張速度)は、ADHD群の方が遅かった

🧠 総括:

ADHDのある子どもたちは、瞳孔のサイズが大きく、動きが鈍いという特徴を持つことが明らかになりました。これらの特徴は、**自律神経の調整機能が正常に働いていない可能性(=自律神経機能障害)**を示しており、ADHDの生理的特徴として今後の診断や研究に役立つ可能性があると考えられます。

Adaptive yoga for psychological health of children having autism spectrum disorder and with intellectual disability: single case experimental design

この研究は、自閉スペクトラム症(ASD)と知的障害(ID)の両方を持つ子どもたちの心理的健康を改善するために「適応型ヨガ」が有効かどうかを検証したものです。ヨガをそれぞれの子どもの能力に合わせて調整し、**個別に効果を検証できる「単一事例実験デザイン(SCED)」**を用いて実施されました。


🔍 研究の概要:

  • 対象者: ASDとIDを持つ7〜12歳の子ども6名(いずれも軽度)
  • 方法: 180日間の適応型ヨガを実施
    • フェーズA: ヨガを行わないベースライン期間
    • フェーズB1: ヨガ教員と保護者による施設内介入
    • フェーズB2: 保護者による自宅介入
  • 評価指標:
    • ISAA(インド版ASD評価尺度)
    • BASIC-MR(知的障害のある子ども向け行動評価尺度)
    • 認知・行動・感情の12項目

✅ 主な結果:

  • ヨガ介入後、6名全員において少なくとも3つ以上の心理的指標で中〜強い改善効果が見られた。
  • 視覚的分析(グラフなど)や統計的指標(Cohen’s dなど)でも介入の有効性が実証された。
  • 施設と自宅、両方での実施が効果を持ち、外的妥当性(現場への応用可能性)も確認された。

🧘‍♀️ 総括:

この研究は、適応型ヨガがASDと知的障害を持つ子どもの心理的健康(例:集中力、情緒安定、行動制御など)を向上させる可能性があることを示した実証研究です。特に、家庭でも実施可能である点、保護者や支援者を巻き込んだ形で継続できる点が実践的な価値として注目されます。今後の療育や教育現場での導入に向けて有望なアプローチの一つと言えるでしょう。

Large-scale examination of early-age sex differences in neurotypical toddlers and those with autism spectrum disorder or other developmental conditions

この研究は、自閉スペクトラム症(ASD)やその他の発達障害、定型発達の子どもたちにおける**性別による特徴の違い(男児と女児の違い)**を、幼少期(平均27か月)という非常に早い段階で大規模に検証したものです。合計2,618人の乳幼児を対象に、標準化された評価法(例:ADOS、Mullen)や視線追跡(eye tracking)などを用いて、統計と機械学習による横断的・縦断的・クラスタリング分析を行いました。


🔍 主な結果:

  • ASDのある幼児では、18項目中17項目で性別による有意な違いは見られなかった。
    • 例:症状の重さ(ADOS)、言語能力(Mullen)、視線パターン(GeoPrefテスト)など
  • 一方、定型発達の子どもでは、女児が複数の項目で男児を上回る傾向が見られた。
  • ASD群をさらに重症度ごとのサブタイプに分類しても、性別による違いはほとんど確認されなかった。

✅ 総括:

この研究は、ASDの初期症状が現れる時点において、男児と女児の間に大きな行動的・発達的な違いはほとんど存在しないことを示しています。これは、「女児のASDは見逃されやすい」という仮説とは異なり、初期段階では男女ともに類似した特徴を持っている可能性があることを示唆します。将来的な診断・支援の在り方を考えるうえで、性別に基づく固定観念にとらわれず、個別の症状に注目する必要があることを示す重要な知見です。

この研究は、自閉スペクトラム症(ASD)に関連する**CHD8遺伝子の重複(コピー数が多い状態)**が、脳の発達や行動にどのような影響を及ぼすかをマウスモデルで検証したものです。CHD8は、ヒトのASDの遺伝的リスク要因としてよく知られており、これまで「欠失」については多く研究されてきましたが、「重複」による影響は未解明でした。


🧪 研究の概要

  • *CHD8を過剰に発現するノックインマウス(Chd8 KIマウス)**を作成し、人のCHD8重複状態を再現。
  • これらのマウスを用いて、身体的成長、脳の構造、神経の分化、行動などを多角的に評価。
  • 遺伝子発現やクロマチン構造(遺伝子の読み取りやすさ)にも着目。

🔍 主な結果

  • Chd8 KIマウスは成長が遅く、小頭症(脳のサイズが小さい)を示す。
  • 神経細胞の分化が阻害されており、脳の発達が正常に進まない。
  • 行動面では、過活動(多動)や不安の少なさといった異常が観察された。
  • CHD8が神経発生に関連する遺伝子のエンハンサー領域に異常に結合し、転写とクロマチンの状態に影響を与えていた。
  • 特定の薬剤投与によって、過活動症状の一部が改善された。

✅ 総括

この研究は、CHD8の重複が脳の発達や行動に深刻な影響を及ぼす可能性があることを、動物モデルを通じて初めて実証しました。CHD8過剰発現による分子レベルの異常(遺伝子発現やクロマチン制御)が、神経発達障害のメカニズムの一端を担っていることを示しており、今後の診断・治療法開発の重要な手がかりとなる知見です。

Motor-Based Interventions in Children with Developmental Coordination Disorder: A Systematic Review and Meta-analysis of Randomised Controlled Trials - Sports Medicine - Open

この研究は、発達性協調運動障害(DCD)を持つ子どもに対する運動ベースの介入(MBI:Motor-Based Interventions)の効果を明らかにするため、過去のランダム化比較試験(RCT)32件を系統的にレビューしメタ分析を行ったものです。対象は3~17歳のDCD児で、運動能力、身体機能、日常活動の実行能力、心理社会的要因などに対するMBIの効果を検証しました。


🔍 主な結果:

  • *運動能力全体の改善(効果量 g=1.00)**をはじめ、以下の領域で有意な効果が確認されました:
    • バランス機能、認知機能、筋力、協調性、視覚・感覚・感覚統合機能、活動の遂行力
  • 一方、心理社会的要因や社会参加のレベルの改善には明確な効果が見られなかった
  • 介入の種類による違いでは、
    • タスク志向型訓練が特に効果的であり、運動能力やバランス、活動パフォーマンスを有意に改善。
    • タスク+プロセス志向型訓練も、運動能力の向上に有効。
    • プロセス志向型単独の効果は、研究数が少なく結論は不十分

✅ 総括:

このメタ分析は、DCDのある子どもに対して、運動能力や身体機能、日常活動の遂行力を向上させるうえで、MBIが有効であることを強く支持しています。特に、実際の動作課題に焦点を当てた「タスク志向型」訓練が効果的であることが示されました。一方、心理的な側面や社会参加に対する効果は限定的であり、これらへのアプローチは別の支援が必要と考えられます。今後は、実生活での参加や心理的支援と運動介入の組み合わせが求められると考えられます。

Prevalence, Treatment, and Impact of the Self-Injurious Behavior of Autistic Adults with Intellectual Disability Living in Residential Care Facilities

この研究は、知的障害(ID)を伴う自閉スペクトラム症(ASD)のある成人における自傷行為(SIB: Self-Injurious Behavior)の実態を明らかにするため、ドイツ国内の入所型支援施設60ヶ所を対象に郵送調査を行ったものです。これまで成人期のASD+IDの自傷行為に関する研究は少なく、本研究はドイツにおける初の大規模データです。


🔍 主な結果:

  • *自傷行為の有病率は51.3%**と高く、ASD+IDのある入所者の約半数が自傷行為を行っている。
  • 自傷行為の形態(例:頭を打つ、皮膚を引っかくなど)は平均で4種類以上47%は複数の形態を毎日行っていた
  • 17%は重度の自傷行為を毎日行っていた
  • 67.7%は何らかの体系的な支援(介入)を受けているが、必ずしも全員ではない。
  • 95.6%は自傷行為が日常生活に何らかの影響を及ぼしていると報告された(例:活動制限、安全対策、対人関係への影響など)。

✅ 総括:

この研究は、ASDとIDを併せ持つ成人の入所者において、自傷行為が非常に多く見られ、重度かつ複雑な傾向を持つことを明らかにしました。また、行動の種類や頻度、重症度、介入の有無、日常生活への影響に関する具体的なデータを提供した点で意義があります。今後は、より多くの施設で効果的な支援戦略を確立・普及し、生活の質の向上を目指す取り組みが求められます。

Prevalence, Treatment, and Impact of the Self-Injurious Behavior of Autistic Adults with Intellectual Disability Living in Residential Care Facilities

この研究は、知的障害(ID)を伴う自閉スペクトラム症(ASD)のある成人における**自傷行為(SIB: Self-Injurious Behavior)**の実態を明らかにするために、ドイツ国内の入所型支援施設60ヶ所を対象とした郵送調査を実施したものです。これまで成人のASD+IDに焦点を当てた研究は少なく、ドイツでの有病率・支援状況・日常生活への影響を包括的に調査した初の研究となります。


🔍 主な結果:

  • SIBの有病率は51.3%と非常に高く、ASD+IDのある入所者の約半数が自傷行動を示していた
  • 自傷行動の形態(topographies)は平均4種類以上にのぼり、47%の入所者は複数の形態を日常的に実施
  • 17%は重度の自傷行為を毎日行っていた
  • 67.7%は施設内で体系的な介入(支援プログラム)を受けていたが、残りの3割超は未対応。
  • 95.6%の入所者は、自傷行動が日常生活に何らかの影響を与えていると報告された(例:活動制限、交流困難、安全配慮の必要性など)。

✅ 総括:

この研究は、ASDとIDを併せ持つ成人において、自傷行為が日常的かつ多様に存在し、深刻な生活上の影響を及ぼしていることを明らかにしました。また、支援が行き届いていないケースが一定数存在することも示されています。今後は、行動の多様性に対応できる包括的支援体制の整備と、介入の標準化・普及が急務であることを示唆しています。

Frontiers | Disentangling the association between cognitive flexibility and anxiety in autistic youth: Real-world flexibility versus performance-based task switching

この研究は、自閉スペクトラム症(ASD)のある子どもたちにおいて、柔軟な思考(認知的柔軟性:CF)の困難と不安との関係を明らかにすることを目的としたものです。特に、実生活での柔軟性の困難と、**認知テストにおける課題切り替え能力(タスクスイッチング)**とが、不安とどのように関係しているかを比較しています。


🔍 研究の概要:

  • 対象: 8〜17歳のASD児40名(女子11名、男子29名)とその保護者
  • 不安の評価: ASD児本人および保護者による不安尺度(ASC-ASD)を使用
  • 認知的柔軟性(CF)の評価:
    • 実生活における柔軟性: 保護者・本人によるアンケート(Flexibility Scale、BRIEF-2 Shift尺度)
    • 実験室でのタスクスイッチング: Trail Making Test、言語流暢性、色-単語干渉テスト
  • 自閉特性の統制: Social Responsiveness Scale(SRS-2)で評価

✅ 主な結果:

  • 実生活における柔軟性の困難が、不安レベルの高さと有意に関連していた(保護者・本人いずれの報告でも)。
  • 一方で、ラボでのタスクスイッチングの成績と不安との間に有意な関係は見られなかった

💡 総括:

この研究は、ASD児の不安には「現実の生活で柔軟に対応することの難しさ」が大きく影響していることを示しています。つまり、脳の検査でわかる「柔軟性の能力」よりも、実際の生活での困りごととしての柔軟性のほうが、不安とのつながりが強いということです。今後の支援や治療では、本人の実生活での柔軟性の困難に焦点をあてたアプローチが重要になる可能性を示唆しています。

Frontiers | Strengthening Resources Through Identity-Reframing Interventions: Empowerment for Students with Low Socioeconomic Status and with ADHD Symptoms

この研究は、低所得層の学生やADHDの症状を持つ学生が大学で感じる「居場所のなさ」や「学業への不安」を、アイデンティティの再構築(identity-reframing)によって改善できるかを検討したものです。こうした学生は、周囲との違いや追加的な困難によって、社会的な所属感やモチベーションを得にくく、学業への関与が下がりやすいとされます。


🔍 研究の構成:

  • 対象者:392名の学生
  • 介入法: 自分の経験や背景を「強み」として再認識させる「アイデンティティ再構築介入」
  • 研究1(低SES対象): 所属感を高め、学業自己概念(自信)やミスへの不安を低減
  • 研究2(ADHD症状対象): 他者とのつながり感(関係性の満足度)を高め、学業への内発的動機づけを改善

✅ 主な結果:

  • 低SES学生では、介入によって所属感が高まり、学業への自信と安心感が向上
  • ADHD傾向のある学生では、介入によってつながり感が高まり、学業アイデンティティを通じて動機づけが向上

💡 総括:

この研究は、過去の困難や背景を「欠点」ではなく「資源」と捉え直すことで、脆弱な立場にある学生の大学での適応を支援できることを示しています。特に、**社会的つながり(所属感・関係性)を再構築する視点(social cureアプローチ)**は、支援プログラム設計において有用な知見を提供しています。今後の教育支援では、学力支援だけでなく、自己理解や社会的つながりを育てる取り組みの重要性がより注目されそうです。

Feedback‐Driven Learning Through Eye Movements in Autism Spectrum Disorder

この研究は、自閉スペクトラム症(ASD)のある子どもと青年が直面する**「認知の柔軟性」や「ルールの切り替えの難しさ」**に注目し、眼球運動(アイ・トラッキング)を用いて学習過程を分析したものです。被験者はASD群21名と定型発達群22名で、年齢や知能、ワーキングメモリ、言語能力などでマッチングされています。


🔍 研究の方法:

  • 使用課題:コンピュータ版ウィスコンシンカード分類課題(WCST)
    • カードの色・数・形に基づき分類
    • 10問連続正解でルールがこっそり切り替わる
    • 各試行後にフィードバックが与えられる
  • データ:行動成績+アイ・トラッキング+戦略に関する質問

✅ 主な結果:

  • ASD群はルールの習得が遅く、エラーが多く、セット達成数も少なかった
  • 両群ともフィードバック後の注視時間が増加したが、
    • 定型群は特に「間違い」の後に大きな増加が見られた
    • ASD群はエラー分析や修正への視線関与が少なかった
  • ASDの子どもたちは、誤りのモニタリングや反応抑制に課題があり、それが学習の柔軟性や適応力の低さにつながっている可能性がある

💡 総括:

この研究は、ASDのある子どもたちが「間違いから学ぶこと」が苦手である背景に、視線や注意の使い方の違いがあることを示唆しています。今後は、エラー後のフィードバック処理を高めるような介入が、ASDの学習支援において有望とされます。眼球運動のデータは、認知過程の可視化や個別支援プログラムの設計に役立つ可能性を秘めています。

Factor Structure and Psychometric Properties of the Child Social Preference Scale‐3 in Children With Autism

この研究は、自閉スペクトラム症(ASD)のある子どもの**「社会的関わり方の多様性(=どのように他人との関係を避けるか)」を評価する尺度であるChild Social Preference Scale-3(CSPS-3)**の信頼性と妥当性を検証したものです。CSPS-3はもともと一般児向けに開発されたツールですが、ASD児においても有効に機能するかどうかが検証されました。


🔍 研究の概要:

  • 対象: 自閉症と診断された689名の子ども(平均年齢11.2歳、76%が男子)
  • 目的: CSPS-3の構造や信頼性、実際の臨床的な関連性を検証すること
  • 評価内容: 「恥ずかしがり(shyness)」「非社交性(unsociability)」「社会的回避(social avoidance)」の3つの下位尺度と、それらをまとめた一般因子

✅ 主な結果:

  • 「一般因子+3つの下位尺度」からなる二因子モデル(bifactor model)が最も適切であると確認された
  • 下位尺度も一定の一貫性(内的整合性)はあったが、信頼性や安定性にはバラつき
    • 多くの信頼できる情報は一般因子によって説明されていた
  • 年齢や性別に関係なく、構造は安定
  • 臨床指標との関連パターンは下位尺度ごとに異なっていたため、それぞれが異なる社会的特徴を示す可能性がある

💡 総括:

この研究は、ASDの子どもたちにおける「社会的なかかわりを避ける理由やスタイル」が多様であることを捉えるための尺度として、CSPS-3が有用であることを示しています。今後は、下位尺度のさらなる改良を通じて、それぞれの特徴をより正確に評価できるようにすることが課題とされています。これは、個別支援や介入を考えるうえで、子どもごとの社会的な傾向を丁寧に理解するための重要なステップになります。