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AIやロボットを活用したADHD療育の可能性

· 9 min read
Tomohiro Hiratsuka
CEO of Easpe, Inc

今回のブログ記事では、自閉スペクトラム症(ASD)やADHDに関連する最新の研究を紹介しています。主なテーマは、成人のASD診断の増加背景(社会的認知や診断基準の変化)、AIやロボットを活用したADHD療育の可能性、PECS(絵カード式コミュニケーション)の遠隔トレーニングの効果、そしてASD児の親が抱える介護負担の実態とその関連要因です。これらの研究は、支援の質とアクセス性の向上、介護者への配慮、個別化された支援技術の発展といった現代的課題に対して、実用的かつ希望のある示唆を与えています。

社会関連アップデート

Why More Adults Than Ever Are Being Diagnosed With Autism

この記事は、自閉スペクトラム症(ASD)と診断されるアメリカの成人が急増している現状を取り上げたものです。診断の増加は、社会的認知の向上、スティグマの軽減、診断基準の拡大などによって支えられており、特に26〜34歳の層で顕著な伸びが見られています。診断を受ける成人の多くは、重度の知的障害はなく、社会的な困難や反復行動、精神的な併存症(不安、ADHDなど)を抱えています。診断は、多くの人にとって過去の困難を理解し直すきっかけとなっており、ASDの多様な姿に社会が徐々に目を向け始めていることを示す内容です。

学術研究関連アップデート

Integrating AI into ADHD Therapy: Insights from ChatGPT-4o and Robotic Assistants

この研究は、AI(特にChatGPT-4o)とロボットアシスタントを組み合わせて、ADHD(注意欠如・多動症)の子どもへの療育をより個別的・柔軟・魅力的に提供する方法を探ったものです。従来のADHD支援ツールは、決められた内容を繰り返すだけで、子どもの状態に応じた即時対応が難しく、インタラクションの手段も限られていました

本研究では、ChatGPT-4oを搭載したロボットが、音声・テキスト・視覚フィードバックを使ってリアルタイムに子どもと対話し、状況に応じた支援を提供できるかを検証しました。その結果:

  • 93%の確率で個別ニーズに合わせた応答が可能
  • 極端な入力に対しても91%の安定性を維持
  • 注意力の改善(+28%)、多動の減少(−22%)という臨床的効果
  • 療育者・保護者・教師からの高評価

が確認されました。

この研究は、ChatGPTのような生成AIが、ADHD支援の「スケーラブルで個別化されたツール」として現実的に使える可能性を示しており、今後はより低年齢層への対応や実環境での運用も視野に入れた開発が期待されています。

Telehealth Picture Exchange Communication System Caregiver Training: A Multi-Site Community Evaluation

この研究は、**自閉スペクトラム症(ASD)の子どもに用いられるコミュニケーション支援手法「PECS(絵カード交換式コミュニケーションシステム)」**に関して、保護者向けのトレーニングを遠隔(テレヘルス)で実施した効果を評価したものです。PECSは手順が明確に定められている方法ですが、保護者に対して体系的に指導する仕組みはこれまで整備されていませんでした。


🔍 研究の概要:

  • 対象:保護者と子どものペア18組(介入群11組、待機群7組)
  • 介入内容:「PECSperts」というマニュアル化された保護者向けトレーニングプログラム
  • 目的:保護者のPECS指導スキルと、子どものPECS使用の正確さが向上するかを検証

✅ 主な結果:

  • 介入群では、保護者の指導スキルと子どものPECS使用精度がともに大きく向上(効果量も大きい)
  • トレーニング内容への満足度も高く、効果は1ヶ月・3ヶ月後もおおむね維持
  • トレーニングは時間とコストの面でも効率的であり、実生活の中で実行可能(生態学的妥当性が高い)

💡 総括:

この研究は、遠隔でのPECS保護者トレーニングが有効で実用的であることを示しています。家庭内でのコミュニケーション支援を継続的に行うためには、保護者自身のスキル向上が欠かせず、「PECSperts」はそのための有望な手段として期待されます。今後さらなる研究によって、より広範な適用が検証されることが望まれます。

A Cross-sectional Study of Caregiver Burden Levels and Associated Factors Among Parents of Individuals with Autism Spectrum Disorder

この研究は、自閉スペクトラム症(ASD)のある子どもを育てる親が感じる「介護負担(Caregiver Burden: CB)」の程度と、それに関連する要因を明らかにすることを目的としたトルコ・エルズルムでの横断的調査です。2000年~2022年にASDと診断された子どもの保護者295名を対象に、面接調査とZarit介護負担尺度を用いて評価が行われました。


🔍 主な結果:

  • 平均CBスコアは **53.5点(標準偏差16.6)**で、全体として高い介護負担が確認されました。
  • 以下の要因が負担の増加と関連していました:
    • 母親(女性)
    • 学歴が低い
    • 専業主婦である
    • 配偶者が無職
    • ASDのある子に併存疾患がある
    • 癇癪(かんしゃく)を起こしやすい
  • 一方で、配偶者からの支援があること、高収入、学歴が高いことは、介護負担を軽減する要因となっていました。
  • ロジスティック回帰分析では、以下の要因がCBの有意な予測因子とされました:
    • 年齢(年齢が高いほど負担はやや減少)
    • 配偶者からの支援あり(OR=4.07)
    • 重度ASDである(OR=2.69)
    • ASD児に併存症がある(OR=1.71)

✅ 総括:

ASDのある子を育てる親は、高い介護負担を感じており、その程度は性別、収入、配偶者の協力の有無、子どもの症状の重さや併存症の有無など、さまざまな要因に影響されることが明らかになりました。今後、親へのトレーニングや心理社会的支援、特に配偶者からのサポートを強化する介入が、負担の軽減に有効であることが示唆されています。