ポーランドにおけるNDD児向け向精神薬処方のパンデミック前後比較
この記事では、2025年12月時点の発達障害関連の最新研究を横断的に紹介しています。内容は、大きく①ASD・ADHD当事者の発達・生活・体験(アラビア語話者ASD児の意味理解、ASD児に対する運動やバドミントンの効果、睡眠・実行機能・交通安全行動、女性の成人期ADHD診断経験、ADHDのクロノタイプと精神症状の関係)、②支援技術・サービスのデザイン(サウジの教師におけるテクノロジー活用を左右する「教育観」、思春期ADHDの移行期をRMTで追跡するART-transition、ポーランドにおけるNDD児向け向精神薬処方のパンデミック前後比較)、③バイオロジー・メカニズム研究(PCDH9による活動依存的な神経回路リモデリングの新規経路、ASD児の腸内細菌と代謝物の異常とMTTによる改善)という3層にわたり、言語・認知から運動・睡眠、メンタルヘルス、教育実践、薬物療法、さらには分子・腸内環境レベルまで、「発達障害をどう理解し、どう支えるか」を多面的にアップデートする研究群を整理しているのが特徴です。
学術研究関連アップデート
The Comprehension of Structured and Non-Structured Meronymy by Arabic-Speaking Children with Autism Spectrum Disorder and Typically Developing Children
本研究は、アラビア語を話す自閉症児(ASD)20名と定型発達児(TD)20名を対象に、言語の意味関係の一種である**メロニー(部分‐全体関係)**の理解を比較したものです。4種類のメロニー ― 構成要素関係(CM)・メンバー関係(MM)・物質関係(SM)・分量関係(PM) ― を絵合わせ課題で調べた結果、TD児はCM・MM・SMで一貫してASD児より高い成績を示しました。一方、PM(分量関係)は両群とも比較的容易で、ASD児の中でもPMの成績はMM・SMより有意に高く、抽象度の低い、具体的な意味関係は理解しやすいことが示唆されました。ASD児が難しさを示したのは、(1) 複数の部分が体系として組み合わさる意味構造(CM)、(2) 集団への所属概念(MM)、(3) **抽象度の高い関係(SM)**といった、より高次の意味処理が必要な領域でした。これらの知見は、アラビア語話者のASD児における語彙・意味理解の評価や介入では、メロニーのタイプごとの難易度差を考慮する必要があることを示し、学校や療育でのターゲット支援の方向性を与えています。
Effects of physical activity on motor, communication, social, and executive function in children with autism spectrum disorder: a meta-analysis of randomized controlled trials
このメタ分析は、自閉スペクトラム症(ASD)の子どもに対する「運動介入(physical activity)」の効果を、これまでで最大級となる33件のRCT(ランダム化比較試験)、1083名を対象に統合し、運動がどの発達領域にどれだけ効くのかを明確に示した重要研究です。
結果として、運動はASD児に多面的な発達改善効果をもたらす非薬物介入として有効であることが示されました。
■ 運動の効果(メタ分析で明確になったこと)
1. 運動は「運動能力」に非常に強い効果(SMD = 2.28)
従来の研究では結論が割れていたが、今回は大きな改善が確認された。
2. 「社会性」にも強い効果(SMD = 1.52)
-
他者とのやり取り
-
協同性
-
情動の調整
などに良い影響。
3. 「エグゼクティブ機能(注意・切替・ワーキングメモリなど)」も改善(SMD = 0.88)
特に長期間の継続的な運動が効果的。
4. 「コミュニケーション能力」も改善傾向(SMD = 0.82)
統計的有意性はわずかに届かなかったが、臨床的には改善が期待されるレベル。
■ どんな運動プログラムが最も効果的?(サブグループ分析の知見)
結論:効果は “量や期間” によって変わる(非線形の用量反応性)
● 多くの領域で最適だった条件
- 1回 60分未満
- 週3回以上
- 10週間以内の短期プログラム
→ 社会性・コミュニケーション・運動能力の改善に特に有効。
● 例外:エグゼクティブ機能
-
より長い期間(10週間以上)が効果的
→ 認知機能には「継続」が重要。
● 逆に、モーター能力(運動能力)は
-
低頻度(週1〜2回)でも効果が高い傾向
→ 体の動きは短期でも伸びやすい可能性。
■ この研究の何が新しい?
過去のメタ分析では、
- 運動はASD児の社会性には効くが、運動能力や認知には一貫した効果が出ていない
とされてきました。
本研究は、
「運動はASD児の運動・社会・コミュニケーション・認知のすべてに効果がある」
と初めて明確に示し、
さらに、
“どれくらいの頻度・時間・期間が最適なのか” を定量的に提示
した点が大きな進歩です。
■ 一言まとめ
運動は、自閉症の子どもの運動能力だけでなく、社会性・コミュニケーション・エグゼクティブ機能まで多面的に改善することが、最大規模のRCTメタ分析で確認された。
最も効果的なのは、
- 短いセッション(<60分)
- 高頻度(週3回以上)
- 短期間(10週間以内)
で、その一方で認知機能の改善には長期継続が必要であることも明らかになった。
Rediscovering “Me”: A Consensual Qualitative Analysis of the Experiences of Australian Women with an Adult Diagnosis of ADHD
この研究は、成人してからADHDと診断されたオーストラリア人女性30名(22〜72歳)を対象に、オンラインインタビューを行い、どんな経験をしてきたのかを丁寧に分析した質的研究です。これまで、女性の成人期ADHD診断の体験は研究が極めて少なく、特にオーストラリアを対象にした研究はほとんど存在しませんでした。本研究は、その知識の空白を埋める重要なものです。
■ 研究で明らかになった4つの主要テーマ
1. ADHDは「自分との関係」「他者との関係」「社会との関係」を深く揺さぶる
-
自己評価の揺らぎ
-
対人関係の摩擦
-
職場・制度とのミスマッチ
など、ADHDは人生のあらゆる領域に影響する“根源的な力”として経験される。
2. 診断前・診断中・診断後のすべてがしんどい
-
子どもの頃から続く「説明できない生きづらさ」
-
診断までの長い道のり(誤診・無理解・アクセスの悪さ)
-
診断後の支援不足・費用負担
など、どのフェーズにも明確な困難がある。
3. “パラドックス(矛盾)”こそがADHDの特徴だと女性たちは語る
代表的なパラドックス:
-
「集中できないのに、時に異常なほど集中できる(過集中)」
-
「能力はあるのに、生活が回らない」
-
「優秀と言われるのに、自己肯定感は低い」
→ この“相反する特徴の共存”がアイデンティティを揺さぶり続ける。
4. ADHDへの誤解が根深く、大きな不利益を生む
- 「ADHDは子どもだけ」
- 「男の子の問題でしょ?」
- 「怠けているだけ」
こうした誤解は、診断遅れだけでなく、
支援の拒否・心理的負担・自己否定 につながり、女性に著しい不利益をもたらしていた。
■ 研究が示す重要なメッセージ
-
ADHDは女性の人生全体に影響する“生涯にわたる課題”である
-
女性は診断アクセスの障壁や支援不足に直面し続けている
-
社会の誤解が、困難をさらに悪化させている
-
今後の臨床では、
アクセスの改善(費用・待機時間・専門家不足)、個別化支援、女性特有の身体・心理的側面への理解
が強く求められる
■ 一言まとめ
成人してからADHDと診断されたオーストラリアの女性たちは、人生のあらゆる領域にわたる深い影響、診断をめぐる困難、自己矛盾を抱える複雑な経験、そして社会的誤解による痛みを語った。
本研究は、女性ADHDの支援体制強化と誤解の解消が急務であることを明確に示している。
How Teachers’ Pedagogical Beliefs Drive Effective Technology Implementation for Students With ASD in Saudi Arabia
この研究は、サウジアラビアの特別支援教育教師122名を対象に、「自閉症児のためのテクノロジー活用がうまくいく教師の条件は何か?」を明らかにしたものです。分析の結果、意外にも“技術スキルの高さそのもの”は効果的なテクノロジー実践を直接左右しない一方で、“教育観・指導観(Pedagogical Beliefs)”が強く影響することが判明しました。
つまり、「テクノロジーは自閉症児の学びを支援できる」と本気で信じている教師ほど、実際の導入もうまくいき、その結果、児童の学習成果も高まるということです。
さらに、教師の教育観 → 効果的な実践 という流れは、子どもの特性理解を媒介して強まることも示されました。対照的に、学校の制度・環境などの“組織要因”は有意な影響を示しませんでした。
■ この研究が見つけた主要ポイント
1. 技術スキルよりも“教育観(Pedagogical Beliefs)”が鍵
-
技術が得意かどうかよりも、
「テクノロジーで子どもの学びを良くできる」と信じているかが重要。
2. 子どもの特性理解が、教師の信念の効果を強める
-
ASD児のニーズを深く理解している教師ほど、
信念 → 実践 → 学習成果 のつながりが大きい。
3. 学校制度(研修制度・設備・組織文化など)は意外と影響なし
- 教師自身の教育観のほうが、制度よりも圧倒的に強い影響力を持つ。
4. 効果的なテクノロジー活用は、児童の学習成果を大きく改善
-
実際にうまく導入できている教室では、
学習成果が明確に向上していた。
■ 教育現場への示唆
- 研修 = 技術講習だけでは不十分
- 「テクノロジーは自閉症児の学びを支援できる」という“信念形成”を含む研修が必要
- ASDの特性理解を深める研修とセットで強化すべき
■ 一言まとめ
ASD児へのテクノロジー活用を成功させる最大の要因は“教師の技術力”ではなく、“教育観・信念”である。
子どもの特性理解を伴う前向きな教育観が、効果的な実践と学習成果向上につながることを示した、教育政策にも直結する重要な研究。
ADHD remote technology and ADHD transition: predicting and preventing negative outcomes (ART-transition) - an adolescent prospective cohort study protocol
本研究 ART-transition は、英国を拠点に「ADHDのある若者が思春期から成人期へ移行する際に、なぜ問題が起きやすいのか?」「どのタイミングで何が変化するのか?」を、リモート計測技術(Remote Measurement Technology: RMT)で追跡し、予測し、防ぐことを目的とした、世界でも先進的な24か月の追跡研究です。
研究は 16〜17歳のADHDの若者250名を対象にし、Fitbit やスマホアプリを用いて、睡眠・活動量・心拍・社会的つながり・位置情報・スマホ利用・雑音など、リアルワールドの生活データを継続収集。さらに定期的にABCD式質問紙や認知課題、音声による報告をアプリで記録し、大人への移行期に起きる変化の「兆し」やリスクの上昇ポイントを特定しようとしています。
背景には、英国のデータで 多くのADHD若者が成人診療へスムーズに移行できず支援が途切れてしまい、うつ病・不登校・社会的孤立・治療中断といった問題が急増する現状があります。しかしこれまで、問題の「発生タイミング」や「早期警戒サイン」が科学的に明らかにされていませんでした。
ART-transition は、日常生活からリアルタイムに得られる大量のデータを活用して、
- どの行動変化がリスク上昇のサインなのか
- どの時期にどの支援を提供すべきか
- どの要因が成人移行の成功/失敗を左右するのか
を明らかにします。さらに、得られた知見をもとに ADHDの若者自身と共に、移行期を支えるスマートフォンアプリを共同開発する計画です。
一言まとめ
ART-transition は、思春期から成人期への“ADHD移行期”を、Fitbitとスマホアプリで24か月追跡し、問題の兆候・タイミング・介入ポイントを特定する世界初級の大規模研究であり、若者自身と協働して「移行支援アプリ」をつくることまで見据えた革新的プロジェクトである。
The effects of moderate to high intensity badminton exercise on sleep quality in children with autism
この研究は、中〜高強度のバドミントン運動が自閉症児の睡眠の質を改善できるかを検証した、ランダム化比較試験(RCT)です。自閉症児48名を運動介入群と対照群に分け、**8週間・週3回・80分/回・心拍数最大値の60〜80%**という本格的な運動プログラムを実施し、睡眠の変化を質問紙(CSHQ)と加速度計(ActiGraph)で客観的・主観的に測定しました。
結果、運動を行った自閉症児は、
- *寝つきの抵抗(bedtime resistance)**の減少
- 夜間覚醒の減少(night wakings)
- CSHQの総スコア改善(睡眠問題の減少)
- 入眠までの時間(sleep latency)の短縮
- 夜中に起きていた時間(wake after sleep onset)の短縮
といった複数の睡眠改善効果が確認されました。一方、日常生活を継続した対照群にはこのような改善は見られませんでした。
一言まとめ
週3回・中〜高強度のバドミントン運動を8週間続けることで、自閉症児の寝つき・夜間覚醒・睡眠効率などが明確に改善した。運動は自閉症児の睡眠問題に対する有効で実用的な介入として期待できる。
The relationship between autistic traits and chronotype in individuals diagnosed with Attention Deficit Hyperactivity Disorder
この研究は、ADHDと診断された8〜17歳の97名を対象に、
- 自閉スペクトラム特性(SRS)
- クロノタイプ(朝型・夜型)
- ADHD症状(Conners)
- 不安・うつ症状
の相互関係を調べたものです。
■ 主な発見(結論から)
①「自閉スペクトラム特性(ASD traits)」はクロノタイプと直接の関連はなかった
-
ASD特性が高い群/低い群で、
朝型・夜型の違いは見られなかった。
→ 「ASD傾向が強いと夜型になりやすい」といった仮説は本研究では支持されず。
② 一方で“夜型傾向”は、ADHD症状・不安・うつと強く関連
クロノタイプ(数値が大きいほど夜型傾向)と関連していたのは:
- 抑うつ症状(強い正の相関)
- 社交不安(social phobia)
- 分離不安(separation anxiety)
- ADHDの一部症状(特に反抗挑戦的行動)
→ 夜型ほど情緒症状や一部のADHD症状が強くなりやすいという結果。
③ クロノタイプの予測因子として最も重要だったのは「抑うつ」と「反抗的行動」
階層的回帰分析の最終モデル(精神症状+ASD特性を含む)では:
- モデルが クロノタイプの26.2%を説明
- その中で、有意に予測したのは:
- 抑うつ症状
- ADHDに関連した反抗挑戦行動(ODD的要素)
→ ASD特性ではなく精神症状と行動症状がクロノタイプに関連していた。
■ この研究が示す臨床的ポイント
-
ADHD×夜型傾向は、情緒症状(特に抑うつ)と密接に関係する
→ 睡眠リズム評価は、情緒面の早期発見につながる可能性。
-
ASD特性そのものは、クロノタイプに影響を与えていない
→ 不眠・入眠困難の背景にはASDではなく別の精神症状が隠れている可能性。
-
ADHD児の睡眠リズムは、行動調整の困難(反抗・衝動性)とも関連
→ 生活リズム介入と行動療法の併用が有効かもしれない。
■ 一言まとめ
ADHDの子どもでは、自閉スペクトラム特性と朝型・夜型の関係は見られず、むしろ「抑うつ症状」と「反抗的行動」が夜型傾向を強く予測した。
睡眠リズムは情緒症状の指標となり得るため、ADHD児の臨床支援では「クロノタイプ×精神症状」の視点が重要であることを示す研究。
Frontiers | Medication use in Poland for children and adolescents with Neurodevelopmental disorders: before, during and after the COVID-19 pandemic - a retrospective pharmacoepidemiological study using national reimbursement data
この薬剤疫学研究は、2018〜2024年のポーランド全国の薬剤レセプトデータ(IQVIA Pharmascope)を用いて、ADHD・自閉スペクトラム症・知的障害などの神経発達症(NDD)児に処方される向精神薬の使用量が、COVID-19前/中/後でどう変化したかを解析したものです。
■ 主な結果(最も重要なポイント)
① パンデミック中の2021年に、向精神薬の使用量が“異常なピーク”に達した
-
2021年の総処方量:2.7億DOT(治療日数換算)
→ 前年(2020年)の約1.0億DOTから 161%増加
→ 過去最大の突出したピーク
特に増加した薬剤は:
- *抗不安薬・鎮静薬:**ヒドロキシジン、ジアゼパム、アルプラゾラム、ロラゼパム
- *抗精神病薬:**リスペリドン、アリピプラゾール、オランザピン、ハロペリドールなど
→ ストレス増大、療育アクセスの喪失、医療制限、ストック目的などが背景と推測。
② 2022年には急落し、ほぼ元の水準に戻った
-
2022年:約1.1億DOT
→ 2021年のピークは“一時的現象”であったことが示唆。
その後は緩やかな回復:
-
2023年:1.2億
-
2024年:1.5億
→ しかし 2021年の異常な高水準には戻らず
③ ADHD薬だけは“例外”で、パンデミック後も増加傾向が持続
他の薬剤は急増→急減したのに対し、ADHD治療薬(メチルフェニデートなど)は継続的に増加。
→ 診断件数の増加、医療アクセスの改善、治療方針の変化など、
パンデミック以降の持続的な治療需要の増大を示唆。
■ 研究が示す臨床・社会的インパクト
-
パンデミックは小児NDDの薬物療法パターンを一時的に大きく変動させた
- 特に不安・行動問題に関連する薬剤の急増が特徴的
-
ただしその後“正常化”し、異常増加は持続しなかった
-
一方で、ADHD関連薬のみ長期的な増加傾向が継続
→ 診断・治療体制の変化や需要増を反映している可能性
■ 一言まとめ
COVID-19はポーランドの神経発達症児の薬物療法に強い短期的影響を与え、2021年に向精神薬の処方量が異常に急増したが、この効果は一時的で、2022年以降はほぼ平常化した。一方、ADHD薬だけはパンデミック後も増加を続け、長期的な治療需要の変化が示唆される。
この知見は、今後の小児NDD領域における薬物治療の適正使用と政策立案に重要な示唆を与える研究である。
Frontiers | Neuronal activity drives PCDH9 cleavage and nuclear translocation to coordinate structural and functional remodelling
この研究は、自閉症スペクトラム症(ASD)やうつ病との関連が指摘されてきたプロトカドヘリンPCDH9が、実は「神経活動によってスイッチが入る新たなシグナル伝達分子」として働いていることを発見したものです。
研究チームは、神経細胞の電気活動が高まると、MMP(マトリックスメタロプロテアーゼ)という酵素の働きでPCDH9が切断され、C末端断片(CTF)が生まれることを確認しました。
そしてこの PCDH9 CTFが細胞核に移動し、神経細胞の形態や機能を変える指令を出すという、これまで知られていなかった仕組みを明らかにしています。
■ 研究でわかったこと(重要ポイント)
① 神経活動がPCDH9を切断し、シグナル分子を作り出す
- 活動が増えたニューロンでは、MMPがPCDH9を切断
- PCDH9 CTFという断片が生まれる
- この断片が 細胞核へ移動する(=シグナル分子として働く)
② PCDH9 CTFは“神経回路の成長と強化”を促す
CTFをニューロンに過剰発現させると:
- 樹状突起が増える(神経細胞の枝が伸びる)
- スパイン密度が上がる(シナプスの数が増える)
- 興奮性シナプス伝達が強くなる
つまり、PCDH9 CTFは神経回路の構造と機能を同時に強化する分子だと判明。
③ シナプス活動とニューロンの形態変化をつなぐ“新しいメカニズム”
研究の示唆:
- PCDH9は単なる接着分子ではなく
- 活動依存的に神経回路をリモデリングするシグナルの仲介者
ASD関連遺伝子としての役割理解にも前進。
■ この研究の意義
-
ASDやうつ病でPCDH9変異が見られる理由を説明する新しい手がかり
-
シナプス活動 → 遺伝子発現制御 → 神経構造変化
という一連の流れを担う未発見の経路を明らかにした
-
将来的に、神経可塑性や精神疾患の治療標的候補となる可能性
■ 一言まとめ
神経活動がPCDH9を切断し、核へ移動する“PCDH9 CTF”という新しいシグナル分子を生み出すことで、神経細胞の形と働きを同時に変える仕組みが発見された。
ASDやうつ病と関連するPCDH9の新しい機能が示され、シナプス活動が脳をどう作り変えるかを理解する鍵となる重要な研究である。
Community Modeling Reveals Disrupted Gut Microbial Secretion in Autism Associated With Redox and Neurometabolic Alterations
この研究は、ASD児と定型発達児の腸内細菌を、コミュニティ全体の“代謝工場”としてモデル化し、どんな物質が作られやすいのかを予測した世界初級の解析です。
結果として、ASDでは 酸化ストレス(レドックス異常) や 神経伝達(GABA など) に関わる代謝物の分泌が乱れていることが判明しました。また、腸内細菌移植(MTT) によって代謝プロファイルが定型発達(NT)に近づき、症状改善と特定代謝パターンが連動する ことも示されました。
■ 研究の方法(何をした?)
- ASD児と定型発達児のショットガンメタゲノムデータを取得
- それをもとに腸内細菌群(コミュニティ)の代謝モデルを構築
- 「どの代謝物をどれだけ腸内から分泌する可能性があるか」を予測
- 実際の糞便メタボロームデータとも比較
- ASD児が受けた Microbiota Transfer Therapy(MTT:腸内細菌移植) の前後変化も解析
■ 主な発見:ASDの腸内は“レドックス(酸化還元)”と“神経代謝”が大きく乱れている
① ASD腸内モデルで増えていた代謝物
-
2-ケト酪酸(2-ketobutyrate)
→ 酸化ストレスや硫黄代謝に関わる
-
GABA(γ-アミノ酪酸)
→ ASDとの関連が多方面で指摘される神経伝達物質
② 減っていた代謝物
-
リボフラビン(ビタミンB2)
→ 代謝・エネルギー生産に不可欠
-
イノシトール
→ 神経細胞機能・セロトニンシグナルに関与
これらの変化は「脳—腸軸の機能異常」に直結する可能性が高い。
■ MTT(腸内細菌移植)で代謝プロファイルが“正常化”に向かった
-
MTT後、ASDコミュニティの代謝物分泌パターンが 定型群に近づく
-
さらに、
症状の改善量が大きい子ほど、イノシトールとアルギニンの分泌ポテンシャルが増加
→ 「代謝改善=行動症状改善」のつながりが示唆された
■ 腸内細菌の構成自体にもASD特有の偏りがあった
増えていた(“炎症寄り”の傾向)
- Escherichia(大腸菌属)
- Flavonifractor
減っていた(“有益な菌”)
- Bifidobacterium
- Bacteroides
これらの菌の違いが、上記の代謝物の異常に直接関与している可能性が高い。
■ この研究が示すこと
- ASDの腸内細菌は、“作り出す物質”のレベルで特徴的な異常を持つ
- その異常は神経伝達物質や酸化ストレスに関係し、ASD特性の一因になっている可能性
- MTT(腸内細菌移植)で代謝プロファイルが改善し、症状改善とも連動する
- 腸内代謝を標的とした治療(微生物モジュレーション)は有望な介入候補
■ 一言まとめ
ASD児の腸内細菌は、レドックスバランスや神経代謝に関わる代謝物の分泌が乱れやすく、これがASDの行動特性の一部を形づくっている可能性が高い。
腸内細菌移植(MTT)により代謝プロファイルが定型発達に近づき、症状改善とも関連することから、
腸内代謝そのものを標的とした治療がASDの新しいアプローチとして有望であることを示した重要研究である。
