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ASDの早期発見や介入に対して学術的知見が現場に反映されない課題

· 41 min read
Tomohiro Hiratsuka
CEO of Easpe, Inc

このブログ記事では、2025年5月に公開された最新の学術研究から、自閉スペクトラム症(ASD)、ADHD、発達性協調運動障害(DCD)、ダウン症、重度の学習障害を含む多様な発達障害に関する研究を紹介しています。内容は、行動療法(ABA)の効果や親主導介入の有効性、顔認識・自己語りの特性、感覚障害と認知の関連、性の多様性との交差性、医療・政策とのギャップ、生活習慣がADHDに与える影響など多岐にわたり、発達障害の支援と理解に必要な最新知見を実践・制度・研究の各側面から整理しています。

学術研究関連アップデート

Comorbid Developmental Coordination Disorder and ADHD: The Effects on Emotional and Behavioural Problems in Young Children

この研究は、発達性協調運動障害(DCD)と注意欠如・多動症(ADHD)が併存する子どもたちが、どのように感情面や行動面の問題(内在化・外在化症状)に影響を受けるのかを調べたものです。対象は6〜9歳の子ども532人で、**運動能力の評価(MABC-2)**により、以下の3グループに分類しました:

  • 通常の運動発達(TMD)
  • DCDリスクあり(DCDr)
  • DCDの可能性が高い(pDCD)

また、ADHD症状は保護者の記入による質問票(Conners)で評価し、情緒・行動面の問題はCBCL(Child Behavior Checklist)で測定しました。


🔍 主な発見:

  • pDCDの子どものうち28%、DCDrの子どものうち19%に、臨床的に意味のあるADHD症状が見られた
  • pDCDかつADHD症状がある子どもは、CBCLのスコア(=感情・行動の問題)が特に高かった
  • つまり、DCDとADHDの両方を持つ子どもは、心の問題や行動上の課題も抱えやすいことが示された。

✅ 結論:

DCDのある子どもに対しては、ADHDや心の健康に関するスクリーニングも同時に行うべきであると、研究者は提言しています。複数の発達特性が重なることで、感情や行動の問題がより深刻になる可能性があるため、早期発見と包括的な支援が重要だと強調されています。


💡 要するに:

運動が苦手な子(DCD)の中には、ADHDや心の不調を抱える子も多く、そうした子どもには心と行動のケアも含めた支援が必要である、ということを示した研究です。

Analysing Autism and Gender Diversity with an Intersectional Approach: a Scoping Review

この論文は、自閉スペクトラム症(ASD)とジェンダー・ダイバーシティ(性の多様性)の関係について、「交差性(intersectionality)」という視点から過去の研究を整理・分析したスコーピングレビューです。


🔍 研究の目的

研究者たちは、次の5つの問いに答える形で、過去の研究(合計29本)をレビューしました:

  1. 定量研究・定性研究・混合研究のどれが多いか?
  2. どんな理論モデルでこの関係性が説明されているか?
  3. 交差性の視点(複数の属性の重なり)を使った研究はどれくらいあるか?
  4. 当事者(ASDかつ性の多様性を持つ人)の声を反映している研究はどれくらいあるか?
  5. インターネット空間の役割に注目した研究はあるか?

📌 主な発見

  • 多くの研究が**「量的研究(統計や数値で分析)」**に偏っていた。
  • 主に子どもや10代の若者を対象としていた。
  • 自閉症と性の多様性の共存について、**生物学的・心理的・社会的な要因(bio-psycho-socialモデル)**で説明していた。

🔍 明らかになった課題(ギャップ)

  1. 当事者と共に作る「混合型研究(質的+量的)」が不足している。
  2. 臨床・教育・研究のすべての場面で、「交差性・神経多様性・ジェンダー肯定的」な視点が必要
  3. オンライン空間が、当事者が自分らしい性やアイデンティティを表現する大事な場になる可能性があるが、その役割に注目した研究が少ない。

✅ 結論と意義

このレビューは、ASDと性の多様性の共存という重要なテーマに対して、研究がまだ偏っており、当事者視点や多様性を尊重する枠組みが十分ではないことを示しています。今後の研究では、当事者の声を反映し、複数の立場(年齢、性、文化など)を交差的に捉える視点が不可欠だと提言しています。


💡 要するに:

「自閉症×性の多様性」を語るとき、もっと当事者の声を聞き、ジェンダーや神経多様性を尊重する包括的な研究が必要である、ということを示した論文です。研究だけでなく、教育や医療現場でも、この視点がますます求められています。

Making a Case for an Autism-Specific Multimorbidity Index: A Comparative Cohort Study

この論文は、自閉スペクトラム症(ASD)のある成人に特化した「マルチモビディティ(多病併存)指標」の必要性を訴える研究です。特に、**既存の一般向け指標では予測が不十分なことがあるため、ASDの人の健康リスクに特化した指標(ASD-MI)**を新たに提案しています。


🔍 背景と目的

  • 自閉症のある人は、糖尿病・心臓病・甲状腺疾患など、複数の慢性疾患を抱えていることが多く、健康格差が生じやすいとされています。
  • 一般的に使われている多病併存指標(例:Quan Index)は、自閉症のある人のリスクを正確に反映しない可能性があります。
  • この研究では、新型コロナウイルス感染症による死亡リスクを例にして、より正確なASD向けの指標を作れるかどうかを検証しました。

🧪 方法

  • イングランド全人口の医療データを用い、COVID-19で入院したASDのある成人1,027人を分析(うち62人が死亡)。
  • ロジスティック回帰と交差検証を使って、どの病気が死亡リスクに影響するかを分析。
  • 最終的に選ばれた疾患は:
    • 糖尿病
    • 冠動脈性心疾患
    • 甲状腺障害

📊 結果

  • ASD-MI(自閉症専用スコア)の予測精度(AUC)は0.872と高く、一般用のQuan Index(AUC 0.828)よりも優れていた
  • モデルの適合度(pseudo-R²)もASD-MIの方が高かった(0.25 vs 0.20)

✅ 結論と意義

  • ASDのある人の健康管理には、一般用ではなく、特化したツールや指標が必要であることを示す重要な研究です。
  • 今後は、さらに多様な病状や人口層に対応できるよう、ASD向けのマルチモビディティ指標を改良・拡張していく必要があると提言しています。

💡 要するに:

  • *「自閉症のある人の健康リスクは一般の人とは違うため、死亡リスクを正しく予測するには、専用のスコアが必要だ」**というのが本研究の主張です。医療現場での公平な支援や介入のためにも、ASDに特化した健康評価ツールの開発が急務であると示されています。

A Meta-Analysis of Applied Behavior Analysis-Based Interventions to Improve Communication, Adaptive, and Cognitive Skills in Children on the Autism Spectrum

この論文は、自閉スペクトラム症(ASD)のある子どもを対象とした応用行動分析(ABA)ベースの介入が、コミュニケーション能力、日常生活スキル(適応行動)、認知スキルの向上にどれだけ効果があるかをまとめて検証した**メタアナリシス(複数の研究を統合した統計的分析)**です。


🔍 主な内容と方法

  • 分析対象:ABAや自然主導型発達行動介入(NDBI)を含む25の研究
  • 対象者:ASDのある子ども
  • 分析の比較:介入群(ABAベース)とコントロール群(非介入または他の介入)
  • 評価対象:
    • 受容言語(聞いて理解する力)
    • 適応行動(日常生活スキル)
    • 認知スキル(知的能力)
    • 問題行動の重症度

📊 主な結果

  • 受容言語スキル大きな効果(ABAによって大きく改善)
  • 適応行動・認知スキル中程度の効果
  • 介入の「量(セッション数)」と「期間」が長いほど、適応行動の改善が大きかった(=メタ回帰分析により確認)

✅ 結論と意義

  • ABAをベースにした介入は、特に「聞いて理解する力」の向上に大きな効果があることがわかりました。
  • 日常生活や学習の力も改善する傾向があり、早期から十分な時間をかけて行うことが重要であることが示されました。
  • 今後の研究では、介入の質や子どもの特性に応じた個別最適化がさらに求められるとされています。

💡 要するに:

ABAベースの療育は、自閉症のある子どもの言語理解や生活スキル、学習能力を伸ばすのに効果的で、時間と量をかけるほど成果が出やすいということが、25の研究をまとめて確認された研究です。支援方法を選ぶうえでの重要なエビデンスになります。

Narrative identity differences in autism

この論文は、自閉スペクトラム症(ASD)のある人の「ナラティブ・アイデンティティ(物語として語られる自分像)」が、定型発達の人とどう違うかを調べた初の研究です。これまでの研究では「単発の思い出」についての語りが中心でしたが、この研究では「人生全体を振り返った語り(ライフストーリー)」に注目しています。


🔍 研究の概要

  • 対象者:自閉スペクトラム症のある成人22人と、定型発達の成人22人
  • 方法:自分の人生について語ってもらい、**物語としての一貫性(ナラティブ・コヒーレンス)**などを評価

📊 主な発見

  1. 物語の一貫性が低い
    • 特に「なぜ自分がそういう経験をしたか」「その経験が自分にどう影響したか」といった因果的・動機的な説明が弱い傾向がありました。
  2. 人生の始まりや終わりの語り方に違い
    • 定型発達の人に多い「出生から語り始める」「しっかり締めくくる」といった構成が、ASDのある人では少なかった。
  3. ネガティブな出来事を多く含む
    • 語られた出来事は、自分で「嫌な体験だった」と評価したものが多く、またその出来事が人生に与えた影響も小さいと見なされる傾向がありました。

✅ 結論と意義

この研究は、ASDのある人の「自分をどう物語としてとらえているか(ナラティブ・アイデンティティ)」が、定型発達の人とは異なることを明らかにしました。背景には、「時間の流れの捉え方」や「他人の視点で物事を考える力」の違いがある可能性が指摘されています。


💡 要するに:

自閉スペクトラム症のある人は、自分の人生を語るときに、出来事のつながりや意味づけが弱くなりやすい傾向があり、人生をひとつの物語としてまとめる力に違いがあるということがわかった研究です。これは、自己理解や支援のあり方を考えるうえでとても重要な手がかりとなります。

Unveiling Face Recognition Challenges and Awareness in Autism Spectrum Disorder: Insights from the Italian Famous Face Test (IT-FFT)

この論文は、自閉スペクトラム症(ASD)のある人が顔を見分ける力にどのような困難を抱えているかを明らかにした研究です。特に今回は、イタリアの**有名人の顔を使ったテスト(IT-FFT)を用いて、「有名な顔の認識」とその自覚(メタ認知)」**に焦点を当てました。


🔍 研究の方法と対象

  • 対象者:ASDレベル1の成人49人と、定型発達の成人50人
  • 使用ツール
    • IT-FFT(Italian Famous Face Test):イタリアの有名人の顔を見せて、誰かを当てるテスト
    • PI-20(Prosopagnosia Index-20):顔認識の苦手さを自己評価する質問票

📊 主な結果

  • ASDのある人は、有名人の顔の認識スコアが明らかに低かった
  • 顔を見ても「誰かわからない」と答える割合が多かった
  • PI-20のスコアも高く、「自分は顔を覚えるのが苦手」と感じている傾向が強かった

✅ 結論と意義

この研究は、ASDのある人が「知らない人の顔」だけでなく、「有名人など多くの人が知っている顔」に対しても認識が難しいことを示しました。また、本人たちもその困難をある程度自覚していることがわかりました。


💡 要するに:

自閉スペクトラム症のある人は、有名人の顔でも認識が難しく、自分でもその困難さを感じているということがわかりました。これは、人間関係や社会参加の難しさに影響する可能性があり、今後は顔認識を助けるような支援方法やトレーニングの開発が重要だと示唆される研究です。

Visual feedback and motor memory contributions to sustained motor control deficits in autism spectrum disorder across childhood and into adulthood - Journal of Neurodevelopmental Disorders

この論文は、**自閉スペクトラム症(ASD)のある人が示す「細かい動きのコントロールのしづらさ(運動制御の困難)」について、その背景にある「視覚への依存」や「運動記憶(motor memory)の弱さ」**がどのように関わっているか、10〜25歳の発達段階を通じて検証した研究です。


🔍 研究の方法

  • ASDのある人54人定型発達の人31人が参加。
  • 指でセンサーを押し続ける課題を実施:
    • 視覚あり(visual feedback)条件:画面で目標の線と自分の力のバーを見ながら力を調整
    • 視覚なし(memory-guided)条件:3秒間だけバーを見た後、記憶だけを頼りに力を保ち続ける

📊 主な結果

  • ASDの人は、視覚がなくなると力が急激に落ちる(記憶による力の維持が苦手)
  • 力の正確さは低く、ばらつき(不安定さ)や規則性のなさが目立つ
  • ただし、これらの違いは10代になると定型発達の人と近づいていく傾向(年齢との相互作用)
  • 力のばらつきや視覚に頼ったコントロールの弱さは、ASDの症状の重さと関連

✅ 結論と意義

この研究は、ASDのある人の細かい動きのしづらさは、視覚への過剰な依存と、力を記憶でコントロールする能力の発達の遅れが影響していることを示しています。特に、年齢が若いほどその傾向が強く、発達とともに改善する可能性がある点は支援設計の上でも重要な示唆です。


💡 要するに:

  • *自閉スペクトラム症のある子どもや若者は、視覚がないと力をうまくコントロールできず、記憶に基づく運動制御も苦手。けれども、成長とともにこれらの違いは目立たなくなる傾向がある。**この研究は、視覚と記憶の役割に注目した運動支援やリハビリの設計に役立つ知見を提供しています。

Lifestyle Effects in a Randomized Controlled Trial of Neurofeedback for Attention-Deficit/Hyperactivity Disorder

この研究は、**ADHD(注意欠如・多動症)の子どもに対するニューロフィードバック療法の臨床試験(ICAN試験)**において、生活習慣(睡眠、食事、運動、光環境)が症状にどのような影響を与えているかを調べたものです。


🔍 研究の概要

  • 対象:7〜10歳のADHDの子ども142人
  • 評価した生活習慣:
    • 睡眠の質・睡眠時間
    • 食事(朝食・昼食での食品の種類やタンパク質摂取)
    • 運動時間
    • 光環境(LEDライトによる概日リズムへの影響)
  • ADHD症状の評価:親と教師による注意力の評価(Conners3)

📊 主な結果

  • 睡眠の質が良くなると、親による注意力の評価が改善される傾向(r = 0.26, p = 0.002)
  • 睡眠時間が長いほど、教師による注意力評価も良くなる傾向(r = 0.20, p = 0.03)
  • 食品の種類(バラエティ)が増えた(p = 0.029)・睡眠問題は有意に改善(p < 0.0001, 効果量d = -0.49)
  • 運動時間やタンパク質摂取は「わずかに改善(有意水準に達しないが変化あり)」
  • LED光による体内時計への影響(概日リズム)に関する仮説も支持された

✅ 結論と意義

  • 睡眠の改善が、少なくとも親の目にはADHDの注意力症状の改善につながっている可能性が示された
  • ただし、親と教師両方の評価を合成した主要指標では大きな改善は見られず、効果の確実性には限界がある
  • それでも、LED照明による生活リズムの乱れがADHDに影響する可能性があり、光環境も注目すべき要因

💡 要するに:

  • *「睡眠の質を整えることが、ADHDの注意力改善に役立つ可能性がある」**ということを、臨床試験のデータから示した研究です。劇的な効果があるとは言えませんが、治療計画に「睡眠衛生(sleep hygiene)」を取り入れることは、確かに意味がありそうだという結論です。

この論文は、自閉スペクトラム症(ASD)の早期発見や早期介入に関する研究は進んでいるにもかかわらず、その知見が実際の医療現場や制度にうまく反映されていないという問題について論じています。


🔍 研究の背景と主張

  • ASDの診断や介入に関する科学的なエビデンスはここ20年で大きく進展した。
  • しかし現場では:
    • 医師が標準化されたスクリーニングツール(例:M-CHATなど)を推奨通り使っていない
    • 科学的に効果が確認されている「自然主義的発達行動介入(NDBI)」が、現実の支援でほとんど使われていない
  • こうした「研究と現場(実践)の間のギャップ」の存在が問題視されている。

🧩 EPISフレームワークによる分析

この論文では、「EPISモデル」(Exploration, Preparation, Implementation, Sustainment=探求・準備・導入・持続)を用いて、研究成果が現場に届かない構造的な問題を説明しています。

  • Big P政策:法律や制度(例:州や国レベルの法令)
  • Little p政策:医師会や専門団体によるガイドラインや推奨事項

→ これらの政策の整備・運用に差があるため、研究の成果が実際のスクリーニングや介入に十分活用されていない


✅ 結論と提案

  • ASD支援の質を高めるには、研究・政策・現場の三者をつなぐ仕組みが必要。
  • 特に「政策(Big Pとlittle p)」が果たす役割は大きく、研究成果を現場に根付かせるための橋渡しとして活用すべき
  • これにより、より多くの子どもたちが早期に支援につながり、より良い発達支援が受けられる可能性が広がる

💡 要するに:

「良い研究があるのに、現場で使われていない」という“もったいない”状況を、どうすれば制度や現場レベルで解消できるかを考えた論文です。科学的な知見だけでなく、「政策」と「現場」の整合性を高めることが、ASDの子どもたちと家族の未来を変える鍵になると指摘しています。

Parent-mediated interventions versus usual care in children with autism spectrum disorders: A protocol for a systematic review with meta-analysis and Trial Sequential Analysis

この論文は、**自閉スペクトラム症(ASD)の子どもに対する「親が中心となって行う支援(親媒介型介入)」が、通常のケアと比べてどれだけ効果があるかを調べるための「今後行われる体系的レビューとメタ分析」の計画(プロトコル)**を示したものです。


🔍 背景と目的

  • ASDは、社会的なやりとりの困難や、反復的・限定的な行動などを特徴とする発達障害です。
  • ASDへの介入方法はさまざまありますが、近年は「親が積極的に関わる支援(親媒介型介入)」への関心が高まっています。
  • 過去にも効果を調べたレビューはありましたが、高品質なメタ分析は2013年以降行われておらず、最新の研究を網羅したアップデートが求められていました。
  • このプロトコルは、最新かつ厳密な方法でのレビューを行う準備段階として公開されたものです。

🧪 方法(予定されているレビューのやり方)

  • 調査対象:ASDの子どもに対して親が介入する方法を取り上げた無作為化比較試験(RCT)
  • 比較対象:通常のケア、待機リスト、または無介入
  • 主な評価項目(アウトカム):
    • ASD症状の重さ(ADOSという標準ツールで測定)
    • 適応行動、言語、子どもの生活の質、親の生活の質、親のストレス、介入の副作用など
  • 検索するデータベースはCochrane、MEDLINE、EMBASEなど複数
  • Cochraneの方法論に基づいて信頼性やバイアスの評価も行い、**メタ分析とTrial Sequential Analysis(試験順解析)**によって統計的に精密な結論を導く予定

✅ 目的と意義

  • 親が関わる介入は、本当に効果があるのか?
  • その効果は子どもだけでなく、親のストレスや生活の質にも影響するのか?
  • こうした疑問に対して、科学的根拠に基づいた信頼できる結論を出すための準備がこのプロトコルです。
  • 将来的には、臨床現場や家庭での支援方法を選ぶ際の判断材料となることが期待されています。

💡 要するに:

この研究は、「親が主体となって行う自閉症支援がどれだけ有効なのか?」を、最新の厳密な方法で総まとめしようとしている大規模な研究レビューの準備段階です。将来の支援方法の選択に役立つ重要な基礎となる内容です。

Frontiers | Fono Sense: a technological resource for recording the auditory N400 component

この研究は、「N400成分」という脳の電気的な反応を記録するための聴覚的・言語的タスクを含むアプリケーションを開発し、その有効性を確認したものです。N400は、言葉の意味が合っているかどうかに脳が反応する際に現れる波形で、意味処理や言語理解の評価に使われます


🔍 研究の目的と手法

  • 対象:合計25名
    • ディスレクシア(読み書き障害)のある子ども10名(EG)
    • 定型発達の子ども5名(CG-s)
    • 定型発達の成人10名(CG-a)
  • 手順:
    1. 意味の通る/通らない単語や音(例:/ba/, /da/)を使った課題をアプリで提示
    2. 同時に、脳波装置(Biologic社製)でN400反応を計測

📊 主な結果

  • 意味の合わない(incongruent)課題では、
    • ディスレクシア児(EG)は成人(CG-a)よりN400の反応が遅れた(=遅延)
    • *成人グループのみ、意味の一致/不一致によって反応が変化(短縮)**した
  • 反応の大きさ(振幅)にはグループ間で有意な差はなかった

✅ 結論と意義

  • 新たに開発されたFono Senseアプリは、N400を安定して誘発できる有効なツールであると確認されました。
  • 年齢やディスレクシアの有無によってN400の反応速度(潜時)に違いがあることも示され、今後の読みの困難の早期発見や評価支援に役立つ可能性があります。

💡 要するに:

この研究は、**ディスレクシアのある子どもや健常者を対象に、意味処理の脳反応(N400)を簡便に測定できるアプリ「Fono Sense」**を開発し、その有効性を実証しました。教育や臨床現場での言語処理評価の新たな手段として期待されます。

Cognitive and Behavioural Associations of Visual and Hearing Impairments Across the Lifespan in People With Down Syndrome, a Scoping Review

この論文は、ダウン症(Down Syndrome: DS)のある人において、視覚・聴覚の障害が、言語、記憶、社会性などの認知・行動面にどのように影響しているかを調べた**文献レビュー(スコーピングレビュー)**です。


🔍 研究の目的

  • ダウン症の人は視覚や聴覚の障害を持つことが多いが、それらが認知機能(言語、記憶、推論など)や行動(社会性や自立性など)にどう影響しているかは、これまで体系的に調べられていなかった。
  • そのため、本研究では、過去の研究をまとめて評価し、年齢ごとの傾向や関連性を明らかにした。

🧪 方法

  • 4つのデータベースから1471件の研究をスクリーニングし、38件の研究が分析対象に選定された。
  • 各研究について、対象者の年齢、評価方法、統計的な信頼性などを基に評価。

📊 主な結果

  • 聴覚障害のある人は:
    • 乳児期〜幼児期に言語や運動発達が遅れる
    • 学童期に全体的な認知力や社会的コミュニケーションが低下
    • 成人期には自立度の低下や知的機能の衰えが見られる傾向
  • 視覚障害のある人は:
    • 学習困難や視覚と運動の協調(視覚-運動統合)の課題
    • 成人期には適応行動や認知力の低下
  • 成人においては、記憶力、推論、処理速度などの詳細な認知機能の報告は不足していた。

✅ 結論と意義

  • 視覚や聴覚の障害が、ダウン症のある人の認知や行動発達に長期的な影響を与える可能性がある
  • 特に、
    • 聴覚障害 → 言語発達の遅れ

    • 視覚障害 → 適応行動の課題

      は明確な関連があった。

  • また、早期に障害があるまま放置されると、脳の予備力(cognitive reserve)が弱まり、将来の認知的な衰えに対して脆弱になる可能性があることも示唆された。

💡 要するに:

  • *「ダウン症の人における視覚・聴覚の障害は、幼少期から成人期にかけて、言語・学習・自立生活などにわたる幅広い影響を与える」**ということが、この文献レビューで明らかになりました。早期発見と早期介入がとても重要であることが、強く示されています。

What Does It Mean to Be a ‘Person’ With Profound and Multiple Learning Disabilities? Presenting the Views of Family Members and Allies

この論文は、「重度かつ重複した学習障害(PMLD)を持つ人は“人間”として認められるのか?」という、非常に根本的で重要な問いに対して、本人をよく知る家族や支援者の声に耳を傾けた研究です。


🔍 背景

  • 一部の哲学者は、「自己認識や意図的なコミュニケーションができない人は“人間らしさ”が足りない」と主張し、PMLDのある人を“人間”として捉えづらいという考えを持っています。
  • しかし、それは当事者のそばで暮らし、日々接している人たちの実感とはかけ離れている可能性があります。

🧪 方法

  • 10名の家族や友人、支援者(“アライ”)に対して自由形式のインタビューを行い、「人間とは何か?」についての考えを聞きました。

📌 主な発見

  • *「人とは、関係性の中に生きる存在だ」**という考えが共通して見られました。
  • その「関係性」はさまざまに表現されました:
    • 相互依存
    • 家族・社会的役割の存在
    • 日々のふれあいや物語の中で知っていく存在
  • つまり、「言葉で自己表現できなくても、その人との関係を通じて『その人らしさ』を知ることができる」という視点です。

✅ 結論と意義

  • この研究は、「人間とは理性的で自己完結的な存在であるべき」という支配的な価値観を問い直すものであり、
  • PMLDを持つ人たちも“人としての価値”を十分に持っていることを示す、心に響くカウンター・ナラティブ(対抗的な物語)です。
  • また、“人間らしさ”は認知機能ではなく、関係性の中にあるという、温かく包摂的な考え方を社会に投げかけています。

💡 要するに:

  • *「重度の障害があっても、その人が“人”であることに疑いはない」**ということを、家族や支援者の実感を通して証明しようとした研究です。人間らしさは話す力や知性ではなく、“つながり”や“ともにいること”の中にあるというメッセージは、支援や社会のあり方に大きな問いを投げかけています。