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早期介入がASD児の共同注意力を高めるメカニズム

· 18 min read
Tomohiro Hiratsuka
CEO of Easpe, Inc

このブログ記事では、2025年5月に発表された最新の学術研究から、自閉スペクトラム症(ASD)や学習障害のある子どもたちに関する支援・教育・社会参加に関連した重要な知見を紹介しています。具体的には、早期介入がASD児の共同注意力を高めるメカニズム保護者が求める柔軟で共感的な支援像思春期のASD児が求める「本当の居場所感」障害のある幼児にとっての保育のアクセシビリティ改善策などが取り上げられており、子ども本人の発達や生活の質だけでなく、保護者・教育者・社会全体がどのように関わるべきかを問う内容になっています。

学術研究関連アップデート

Early intervention increases reactive joint attention in autistic preschoolers with arousal regulation as mediator

この研究は、自閉スペクトラム症(ASD)のある未就学児において、早期介入が「共同注意(joint attention)」の力を高め、さらにその効果は「覚醒レベルの調整(arousal regulation)」によって仲介されている可能性があることを検証したものです。


🔍研究のポイント

  • 共同注意(Reactive Joint Attention, RJA)とは、たとえば他人が指さしたものを一緒に見るなど、「誰かと同じものに注意を向ける」力です。
  • RJAはASDの子どもにとって発達が遅れやすく、社会性の土台となる重要なスキルとされています。
  • 研究では、ASDの子どもを対象に2つのグループを比較:
    • A-FFIP:自然主義的発達行動介入を受けたグループ(32人)
    • EIAU:通常の早期支援を受けたグループ(28人)
    • 比較対象として、**非ASDの子ども(52人)**も含められています。
  • 目の動き(アイトラッキング)と瞳孔の大きさを通じて、RJAの頻度と覚醒状態(緊張・興奮など)を測定。

📊主な結果

  • ASDの子どもはRJAが少ない(非ASDの子に比べてオッズ比0.07〜0.27と大きく低い)。
  • A-FFIP介入を受けたグループでは、12ヶ月後・36ヶ月後ともにRJAの頻度が増加(OR=1.52、2.38)。
  • RJAが増えた子どもは、その後の社会的応答性も改善(36ヶ月後)。
  • ベースラインでの瞳孔の大きさが大きい子どもほどRJAが少なかった(β=-0.32)、つまり緊張しすぎていると反応しづらい
  • 瞳孔サイズ(覚醒状態)が、ASDとRJAの関係を仲介していることも統計的に確認された。

✅結論と意義

この研究は、早期の専門的介入(A-FFIP)によってASDの子どもの「他者と注意を共有する力(RJA)」が改善されること、そしてその効果が2年後まで持続することを示しました。また、その背景には「覚醒状態を適切に調整する力」の発達が関係している可能性があるとしています。


💡要するに

自閉症の子どもが“人と同じものに注目する力”を育てるには、早期かつ専門的な介入が効果的であり、緊張しすぎないような“心の落ち着き”を育てることもカギになる」ということを示した研究です。

“What My Son Needs Is Me. What I Need Is... Guidance”: Caregiver Perspectives About Early Autism Supports Amid Changing Attitudes and Policies

この研究は、「自閉スペクトラム症(ASD)と思われる子ども」を育てる保護者が、早期支援(Early Supports)に対してどのような価値を感じているかを、保護者自身の視点から明らかにした質的調査です。


🔍 研究の概要

  • 対象者:ASDの診断がある・ないに関わらず、「子どもがASDだと思う」保護者19名(95名の大規模調査から選出)
  • 方法:インタビューを通じて保護者の経験・意見を収集し、「再帰的テーマ分析(reflexive thematic analysis)」で共通テーマを抽出

📚 主な発見(4つのテーマ)

  1. 「子どもの未来の幸福を最適化したい」という共通の願い
    • 保護者は、療育を通じて子どもの言語や社会性だけでなく、「その子らしく幸せに生きてほしい」と願っている。
  2. 公的支援はあっても、家庭のリソースは逼迫している
    • お金よりも「時間や精神的負担」が深刻で、就労や家族関係にも影響していた。
  3. 求める支援は「変化に応じた柔軟さ」と「神経多様性を尊重する視点」
    • 一律のプログラムよりも、「今この子に何が必要か」を柔軟に調整できる支援や、ASDを“直す”のではなく“理解する”アプローチが好まれた。
  4. 「信頼できる専門家」からの「本音に寄り添う感情的サポート」が重要
    • 保護者自身が安心して話せる相手がいることが、支援そのもの以上に心の支えになっていた。

✅ 結論と意義

この研究は、「子どもの発達の変化だけではなく、保護者がどう感じ、どう経験するかも“支援の成果”として重視すべき」という視点を強調しています。つまり、保護者が安心して信頼し、柔軟で実用的だと感じられる支援が、子どもにとってもプラスになるということです。


💡 要するに:

「息子に必要なのは私。私に必要なのは…“導き”」という言葉に象徴されるように、保護者自身が孤立せず、寄り添ってもらえる支援のかたちが、早期療育の質を左右する――そう教えてくれる研究です。

A Systematic Literature Review of Autistic Adolescents’ Understanding and Experiences of Belonging

この研究は、「自閉スペクトラム症(ASD)と思われる子ども」を育てる保護者が、早期支援(Early Supports)に対してどのような価値を感じているかを、保護者自身の視点から明らかにした質的調査です。


🔍 研究の概要

  • 対象者:ASDの診断がある・ないに関わらず、「子どもがASDだと思う」保護者19名(95名の大規模調査から選出)
  • 方法:インタビューを通じて保護者の経験・意見を収集し、「再帰的テーマ分析(reflexive thematic analysis)」で共通テーマを抽出

📚 主な発見(4つのテーマ)

  1. 「子どもの未来の幸福を最適化したい」という共通の願い
    • 保護者は、療育を通じて子どもの言語や社会性だけでなく、「その子らしく幸せに生きてほしい」と願っている。
  2. 公的支援はあっても、家庭のリソースは逼迫している
    • お金よりも「時間や精神的負担」が深刻で、就労や家族関係にも影響していた。
  3. 求める支援は「変化に応じた柔軟さ」と「神経多様性を尊重する視点」
    • 一律のプログラムよりも、「今この子に何が必要か」を柔軟に調整できる支援や、ASDを“直す”のではなく“理解する”アプローチが好まれた。
  4. 「信頼できる専門家」からの「本音に寄り添う感情的サポート」が重要
    • 保護者自身が安心して話せる相手がいることが、支援そのもの以上に心の支えになっていた。

✅ 結論と意義

この研究は、「子どもの発達の変化だけではなく、保護者がどう感じ、どう経験するかも“支援の成果”として重視すべき」という視点を強調しています。つまり、保護者が安心して信頼し、柔軟で実用的だと感じられる支援が、子どもにとってもプラスになるということです。


💡 要するに:

「息子に必要なのは私。私に必要なのは…“導き”」という言葉に象徴されるように、保護者自身が孤立せず、寄り添ってもらえる支援のかたちが、早期療育の質を左右する――そう教えてくれる研究です。

A Systematic Literature Review of Autistic Adolescents’ Understanding and Experiences of Belonging

この論文は、自閉スペクトラム症(ASD)のある思春期の若者たちが「居場所(belonging)」をどう理解し、どのように経験しているかを明らかにするために行われた系統的レビュー(2013年〜2023年に発表された9本の研究・計245名を対象)です。


🔍 研究の目的と背景

  • これまでの「居場所感」に関する研究は、主に非自閉者の視点から語られており、自閉の当事者自身がどう感じているかの声はあまり反映されてきませんでした。
  • そこで本研究では、ASDのある10代の若者たち自身の声に基づいた“本当の居場所感”の定義や条件を明らかにすることを目的としました。

📚 主な発見されたテーマ(ASDの若者が大事にしていること)

  1. ありのままの自分でいること(authenticity)

    → 無理に他人に合わせるのではなく、自分らしくいられることが重要。

  2. 共通点のある人とのつながり(similarity)

    → 同じ興味や価値観を持つ人との関係に心地よさを感じる。

  3. 双方向の関係性(reciprocity)

    → 一方的に助けられるのではなく、「自分も役に立てる」関係が大切。

  4. 意味ある関係性(meaning)

    → 尊重され、支えられ、受け入れられていると感じられるような関係を求めている。


✅ 結論と意義

このレビューは、ASDの思春期の子どもたちが「自分らしさ」と「深い人間関係」の両立を強く望んでいることを明確に示しています。つまり、単なる「集団に属している」だけでは足りず、**自分のままで安心していられる関係性こそが本当の「居場所」**なのです。


💡 要するに:

  • *ASDのある若者にとっての「居場所」とは、「自分らしくいられ、理解し合える相手と深くつながれる場所」**であることが、この研究により明らかになりました。これからの支援や学校・社会環境づくりは、こうした当事者の視点をもっと反映させる必要があります。

Accessibility of Childcare Services for Children With Disabilities Aged 0 to 5 Years: A Scoping Review of Promising Solutions

この論文は、0〜5歳の障害のある子どもたちにとって「保育サービスの利用しやすさ(アクセシビリティ)」をどう高めるかについて、世界中の研究を整理した**スコーピングレビュー(文献地図調査)**です。対象となったのは、保育の質や支援のあり方に関する研究65本で、その中から「有望な支援方法(promising solutions)」を抽出・分類しました。


🔍 主な発見(わかりやすく解説)

  • 有望な解決策の中心は「人」や「関係性」

    → 多くの研究が注目しているのは、**子どもに対する直接支援(例:ソーシャルスキルトレーニング)**や、保育者・教育者への研修ピア(子ども同士)による支援です。

  • 主な対象は自閉スペクトラム症(ASD)の子どもたち

    → 特に「社会的スキルやコミュニケーション能力」の支援に集中している傾向があります。

  • 環境のバリア(物理的な設備や建物の改修)に関する研究は少ない

    → バリアフリーの設備や空間づくり、家庭や学校との連携については、十分に研究されていないことが明らかになりました。


✅ 結論と意義

この研究は、「保育のアクセシビリティ」は子ども本人への支援だけでなく、保育者や周囲との関係づくりが鍵になることを示しています。一方で、物理的な環境改善や支援体制の継続性といった課題は、まだ十分に解決されていないことも浮き彫りになりました。今後は、より包括的で多様な視点からの支援策の開発と実証が求められます。


💡 要するに:

障害のある子どもが安心して保育園に通えるようにするには、「人との関係」や「支援の工夫」が大きな鍵になる一方で、環境整備や制度面の対策はまだまだ不足しているということを、多くの研究をもとに整理した論文です。これは、今後の政策や保育現場の改善に役立つ重要な知見です。