Skip to main content

ASD児への記憶ベースの言語指導(ジョイントコントロール)

· 20 min read
Tomohiro Hiratsuka
CEO of Easpe, Inc

このブログ記事では、最新の発達障害関連研究を紹介しており、特に自閉スペクトラム症(ASD)や注意欠如・多動症(ADHD)の子どもたちに対する支援・評価・教育に関する実践的な知見を中心にまとめています。具体的には、ASD児への記憶ベースの言語指導(ジョイントコントロール)、保護者目線の目標に合わせた認知行動療法(CBT)の効果、ピボタル・レスポンス・トレーニング(PRT)の現場導入支援、ASDの中高生自身の学習体験の声、DMDD+ADHD児の感情調整とイライラの関係、さらにADHD児における発話スピードのばらつきという認知的特徴など、多様な視点から現場での支援・評価に直結する研究を紹介しています。

学術研究関連アップデート

A Preliminary Analysis of Joint Control Procedures to Teach Children with Autism Spectrum Disorder to Report Missing Items

この論文は、自閉スペクトラム症(ASD)のある子どもに対して「何が足りない?(What’s missing?)」という質問に正しく答える力=記憶を活用した発話スキルを教えるために、「**ジョイントコントロール(Joint Control)」という行動分析の理論を使った教育手法の効果を検証した研究です。


🔍ジョイントコントロールとは?

「ジョイントコントロール」とは、子どもが2つの異なる言語的な反応(例:自分の頭の中で繰り返す言葉と、聞いた言葉)を一致させることで行動を導く仕組みのことです。この仕組みは、記憶や問題解決、言語的推論を教えるのに使えるとされています。


🧪研究内容と方法

  • 対象:ASDのある子ども2人
  • タスク:まず複数の物を見せ、1つを取り除いたあとに「何が足りない?」と質問する
  • 指導法:ジョイントコントロールの原理に基づき、自分の中でアイテムを繰り返し言う(リハーサル)→見たものと一致するか判断→答えるというステップを教える

📊結果と意義

  • 子どもたちは、この手法を使って「何が missing か?」を正しく答えられるようになった
  • これは、「記憶を使った話し言葉のスキル(intraverbal behavior)を教える行動分析的な方法」として有効であることを示しており、汎用性のあるスキルの土台作りにもつながる

✅まとめ

この研究は、「記憶を使って言葉で答える」という複雑なスキルを、行動分析の理論であるジョイントコントロールを活用してASDの子どもに教えることが可能であることを示した初期的な実践例です。今後の応用により、より柔軟で実生活に役立つ会話スキルの支援が期待されます。

Cognitive Behavioral Therapy for Autistic School-Aged Children with Interfering Anxiety: Impact on Caregiver-Defined Goals

この論文は、不安が日常生活に支障をきたしている自閉スペクトラム症(ASD)の子どもたちに対し、保護者が重視する目標に合わせて治療内容を調整する「モジュール型の認知行動療法(CBT)」が、どれだけ効果的かを検証した研究です。


🔍 背景と目的

ASDの子どもは、不安や行動の問題、社会的困難など多様な課題を抱えているため、保護者が「何を一番改善したいか」をもとに治療目標を設定することが重要です。この研究では、**標準的なCBTや通常の支援(TAU)**と比較して、**個別目標に対応できる「適応型・モジュール型CBT」**がどれだけ効果を発揮するかを調べました。


🧪 方法

  • 対象:7〜13歳のASD児167人
  • グループ分け:
    1. 適応型CBT(モジュール形式)
    2. 標準的CBT
    3. 通常支援(治療なしor一般的支援)
  • 保護者が設定した「最も困っている3つの課題(例:不安、癇癪、こだわり)」を毎週評価(YTPスケール)
  • 子どもの「対処スキル」も毎月評価

📊 主な結果

  • 適応型CBTを受けた子どもは、他のグループよりも早く、保護者が重視する課題の改善が見られた
  • この効果の一部は、「子ども自身がうまく対処できるようになったこと」によって説明できた(媒介効果)

✅ 結論と意義

この研究は、子ども一人ひとりの状況に応じて治療内容を調整できるCBTが、保護者のニーズに合った効果的な支援になることを示しています。特に、「保護者が本当に改善したいと思っていること」にフォーカスした支援が重要であることが強調されました。


要するに、「ASDの子どもの不安や行動の問題を改善するには、親が望む変化に合わせて柔軟に対応する治療が効果的」ということを実証した研究です。

Evaluation of a Supervisor Toolkit to Support Autism Provider Use of Pivotal Response Training

この論文は、自閉スペクトラム症(ASD)の子どもへの支援法のひとつである**「ピボタル・レスポンス・トレーニング(PRT)」を、地域の現場で働く支援者がより効果的かつ一貫して実施できるようにするための「スーパーバイザー用ツールキット」**を評価した研究です。


🔍 背景と目的

  • PRTは、日常のやり取りの中で社会的コミュニケーションや学習を引き出す自然主義的な行動療法です。
  • 効果的にPRTを実施するには、「忠実度(fidelity)」=マニュアル通りに正確に行うことが重要ですが、実際の地域支援の場ではあまり評価・活用されていないのが現状です。
  • そこでこの研究では、「スーパーバイザー(指導者)が支援者をどう育てるか」に注目し、ツールキットの有効性を調べました。

🧪 研究内容と方法

  • 参加者
    • スーパーバイザー(5名)
    • PRTを実践する支援者(17名)
    • 支援対象のASD児童(17名)
  • ツールキットの内容
    • PRTの実施忠実度を測る評価ツール
    • コーチング、フィードバック、計画立案の補助ツール
  • デザイン:複数時点にわたる比較(nonconcurrent multiple baseline design)で、導入のタイミングをずらしながら効果を観察。

📊 主な結果

  • スーパーバイザーの満足度と導入のしやすさ(feasibility)は非常に高かった
  • PRTの中でも特に難しい要素の習得において、支援者の実施スキルが明確に向上した
  • ただし、すべてのPRT技術に対して均等な改善が見られたわけではなかった

✅ 結論と意義

この研究は、**「スーパーバイザーが評価・指導の方法を学び、それを使って支援者を育成する仕組み」**が、ASD支援の質を上げる鍵であることを示しています。マニュアルの正確な実施と、実践的なコーチングの組み合わせが効果的であり、今後の現場での支援者研修の改善に役立つ知見を提供しています。


要するに、「支援者を教える人(スーパーバイザー)を支えるためのツールキットが、ASD支援の質を向上させる有望な方法である」ことを示した実践的な研究です。

First-Hand Experiences of Autistic Students About Teacher Autonomy Support, Structure, and Involvement: A Video-Stimulated Recall (Interview) Study

この論文は、オランダとメキシコの通常学級に通う自閉スペクトラム症(ASD)の中高生が、学校でどのように教師との関わりを感じているかを、本人の言葉で直接聞き出した貴重な研究です。


🔍 研究の特徴

  • *「ビデオ刺激回想法(Video-Stimulated Recall, VSR)」**という手法を使い、生徒自身が録画された授業映像を見ながら、自分の感じたことや考えたことを語ってもらう形式のインタビューを実施。
  • 対象は13人のASDの生徒たち。各自の授業2コマ分を見ながら、教師の対応や教室での出来事について語ってもらいました。

📊 主な発見

  1. 構造(Structure)

    すべての生徒が、タスクの進め方が明確であること決まった流れがあることが安心感や達成感につながると語っており、教師による「明確な構造づけ」が重要とされています。

  2. 自律性の支援(Autonomy Support)

    自由度のある学習の進め方に対する反応は人それぞれ。柔軟さを好む生徒もいれば、不安になる生徒もいたため、個別の支援が必要であることが示唆されました。

  3. 関わり(Involvement)

    「話しかけやすい」「理解してくれる」「優しい」教師が、生徒にとって非常に大きな安心材料であり、学びへの意欲を高める要素になっていました。

  4. 間違えることへの不安

    多くの生徒が、「間違えることへの恐怖」、特に「クラスメイトからの否定的な反応」を強く意識しており、教室での心理的安全性の欠如が学習の妨げになっていることが浮き彫りになりました。


✅ 結論と意義

この研究は、「ASDの生徒たちがどのような教師の対応に安心し、学びやすさを感じるか」を、当事者の語りから明らかにしています。特に重要なのは、一人ひとり違うニーズがあることを尊重し、構造的で共感的な関わりをすること。また、VSRという手法は、言語表現が苦手なこともあるASDの生徒の本音や感情を引き出す有効な方法であり、今後の研究や教育実践にとって有望です。


要するに、「ASDの中高生にとって、明確な構造・安心できる教師・心理的に安全な教室が学びの鍵であり、その声を直接聞くことが何より大切」ということを伝える研究です。

Do emotional intelligence, dysregulation and theory of mind predict irritability in adolescents with DMDD and ADHD?

この研究は、「気分不安定性障害(DMDD)とADHDを併せ持つ思春期の子どもたちが、感情のコントロール力(情動調整)、感情知能(EI)、そして他者の気持ちを推測する力(心の理論:ToM)において、どのような特徴を持ち、イライラしやすさ(易刺激性)とどのように関係しているか」を明らかにしようとしたものです。


🔍 研究の対象と方法

  • 対象:
    • DMDD+ADHDを持つ28人の思春期の子どもたち
    • 健常な31人の同年代の子どもたち
  • 使用した評価ツール(一部):
    • イライラ度:Affective Reactivity Index(ARI)
    • 感情調整の困難さ:Difficulties in Emotion Regulation Scale(DERS)
    • 感情知能:Bar-On Emotional Intelligence Test
    • 心の理論のテスト:RMET(目の表情から気持ちを読む課題)など

📊 主な結果

  • DMDD+ADHDの子どもたちは
    • イライラの強さ(ARI)や感情調整の困難さ(DERS)が有意に高かった。
    • 感情知能(EI)と心の理論(ToM)のスコアが有意に低かった
  • 特に差が大きかった項目の効果量(どのくらいグループ間に差があるか):
    • 感情知能(気分全般):0.81(大きな差)
    • 衝動性(感情調整の一部):0.79
    • RMET(表情から感情を読む力):0.52(中程度)
  • イライラの予測因子として有意だったのは、感情知能(EI)と感情調整(ER)の合計スコアだった。

✅ 結論と意義

この研究は、DMDDとADHDの併存する子どもたちが、対人関係や感情理解・調整において大きな困難を抱えており、それが強いイライラと関係していることを明らかにしました。特に、「感情知能と感情のコントロール力が低いほどイライラしやすい」という点は、感情面のスキル育成が重要な介入ポイントであることを示しています。


簡単に言えば、「DMDD+ADHDの子は、人の気持ちを読む力や感情の整理が苦手で、そのことが“すぐイライラする”原因になっている。だから、支援の際は感情知能や調整力を高めるアプローチが有効だよ」ということを示した研究です。

Elongated tau in an ex-Gaussian decomposition of vocal articulation speed in children with attention deficit hyperactivity disorder

この研究は、ADHDのある子どもが「反応のスピード」においてどのような特徴を持っているかを、従来とは異なる方法で明らかにしようとしたものです。従来は指の反応など「手の動き」で測定されることが多かったため、「脳の処理スピード」と「手先の器用さ」が混ざってしまうという問題がありました。そこで今回は、**声を出すスピード(発話)**に注目しました。


🔍 研究の内容

  • 対象:8〜12歳の子ども119人(ADHDのある子とない子)
  • 方法:決まった音をできるだけ早く声に出すタスクを実施し、その反応時間をex-Gaussian分布(速い反応と遅い反応を分けて分析できる手法)で分析。
    • 特に注目されたのは τ(タウ) という指標で、これは「たまにすごく遅れる反応があるかどうか」を示す値で、情報処理が遅いと高くなる

📊 主な結果

  • ADHDのある子どもでは、τ(タウ)が大きく、ばらつきも大きかった
    • → これは「一部の反応で極端に遅れる傾向がある」ことを意味します。
  • これはADHDだけでなく、ワーキングメモリ(作業記憶)が低い子にも見られました。
  • ただし、ADHDのある子どもの遅れのばらつきの大きさは、ワーキングメモリだけでは説明しきれなかった

✅ 結論と意義

  • ADHDの子どもは「いつも遅い」のではなく、「たまに極端に遅れることが多い」という特徴を持つ。
  • これは「注意がそれた」「集中が切れた」といった瞬間的な認知的なつまずきと関係していると考えられます。
  • 声による反応を使うことで、手の器用さに関係なく、純粋な認知処理スピードを測ることができる点も、この研究の新しさです。

📝 要するに:

ADHDの子どもは、時々とても反応が遅くなる傾向があり、それがADHDの重要な特徴のひとつであることを、声の出し方(発話スピード)を用いた新しい分析方法で明らかにした研究です。これにより、ADHDの評価方法や支援の工夫に新たな視点を提供しています。