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「プロファウンド自閉症」と呼ばれる重度支援ニーズ群の臨床的特徴

· 41 min read
Tomohiro Hiratsuka
CEO of Easpe, Inc

このブログ記事では、2025年公開の最新研究を中心に、主に自閉スペクトラム症(ASD)とADHDに関する多面的な知見をまとめています。具体的には、社会的アニメ視聴中のEEGからASD児の「認知的共感」と「情動的共感」の脳メカニズムを探った研究や、「プロファウンド自閉症」と呼ばれる重度支援ニーズ群の臨床的特徴、ASD・ADHD児を育てる母親の結婚満足度とコーピング、イラクやエジプトといった低・中所得地域における母親の態度とホームベース介入など、家族・社会環境の視点を扱うものが含まれます。また、運動プログラムやバスケットボール、ARデジタル絵本といった介入が、ASD児・ADHD児の運動能力・実行機能・注意・情動調整をどのように高めうるかを検証した介入研究、恐怖と怒りの概念的理解を教える教育研究、神経発達特性をもつ成人の過食症スペクトラムや、ASD児のうつ症状、自閉スペクトラム成人のセルフコンパッションと孤独・抑うつの関係を扱うメンタルヘルス研究も取り上げており、脳・個人・家族・教育・社会政策をつなぐかたちで「発達障害とその周辺の支援・介入」を総覧する構成になっています。

学術研究関連アップデート

Aberrant Cognitive-Affective Empathy in Children With Autism Spectrum Disorder: Electrophysiological Evidence of Viewing Social Animation

ASD児の「思いやり」は“どこで”つまずいている?

― 社会的アニメーション視聴中の脳波から見えた「認知的共感」と「情動的共感」のズレ

論文名:Aberrant Cognitive-Affective Empathy in Children With Autism Spectrum Disorder: Electrophysiological Evidence of Viewing Social Animation

掲載:Journal of Autism and Developmental Disorders(2025年)

キーワード:共感、認知的共感/情動的共感、EEG、マイクロステート、θ帯・β帯


■ どんな研究?

この研究は、ASD児の「共感」を、脳波(EEG)×アニメーションという比較的子どもに優しい方法で調べたものです。

共感には大きく分けて:

  • 認知的共感

    「相手はいまどう考えているのか・どういう状況にいるのか」を理解する力

  • 情動的共感

    「相手の感情に一緒に反応する・感じ取る力

の2種類があります。

ASDでは「認知的共感は弱いが、情動的共感はそれほど低くないのでは?」という

“共感のアンバランス仮説(empathy imbalance hypothesis) が以前から提案されていますが、

その**神経メカニズム(脳レベルの違い)**はまだはっきりしていません。

本研究は、

ASD児と定型発達児に「社会的なやりとりを描いたアニメーション」を見てもらい、

認知的共感/情動的共感それぞれの場面でEEGを同時記録することで、

共感のアンバランスを“脳の指標”から検証した

という位置づけです。


■ どうやって調べたのか?

  • 対象:ASD児と定型発達児

  • 課題:

    • 認知的共感が必要なアニメーション(相手の意図や考えを読む必要がある場面)

    • 情動的共感が強く関わるアニメーション(登場人物の感情に寄り添う場面)

      を視聴

  • 計測:アニメ視聴中のEEG(脳波)を連続記録

解析した主な指標は:

  1. θ帯(シータ帯)での機能的結合(functional connectivity)

    → 脳の領域同士の「つながり方」

  2. EEGマイクロステート(特にクラスCとD)

    → 数十〜数百ミリ秒単位の「脳活動パターンのスナップショット」

  3. バンド別振幅(θ帯・β帯)と自閉症症状の重症度との関連


■ 主な結果

① 認知的共感のときに、ASD児では“脳のつながり方”が異常

  • 認知的共感場面では、ASD群でθ帯の機能的結合が過剰に高いという異常が見られました。
  • これは、
    • 情報処理の効率が悪く、余計なネットワークが動員されている

    • あるいは、発達的に「未成熟なつながり方」のままになっている

      可能性を示唆します。

👉 「相手の考えや意図を読む」タイプの共感処理で、ASD児の脳ネットワークに特徴的な負荷/乱れがある と考えられます。


② マイクロステートC・Dにも異常:ASD児の“共感時の脳パターン”は違う

  • EEGマイクロステート解析では、クラスCとDに異常が見られました。
  • マイクロステートは「脳が今どんな“状態”で情報処理しているか」を示すパターンで、
    • クラスC・Dは、社会認知や注意・感情処理と関係すると考えられています。

👉 ASD児は、認知的共感場面で“脳の状態遷移パターン”自体が定型発達児と異なる ことが示された形です。


③ 症状の重さと脳波の関係も異なる(認知 vs 情動)

探索的な結果として:

  • 認知的共感の場面では

    → 自閉症症状の重さが、一部の脳領域でのβ帯振幅と有意に関連

  • 情動的共感の場面では

    → 症状の重さが、θ帯振幅と関連

つまり、

ASD症状の重さによって、「認知的共感」処理に関わる脳活動と

「情動的共感」処理に関わる脳活動の

関係性が違う可能性

が示唆されました。

まだラフな結果ではあるものの、

  • 認知的共感と情動的共感が

    脳レベルでも別のシステムとして影響を受けているかもしれない

という重要なヒントです。


■ 何が分かったと言えるのか?(共感アンバランス仮説との関係)

この研究は、

  • ASD児では**認知的共感に関わる脳ネットワークの異常(θ帯結合の過剰、マイクロステートC/Dの異常)**が目立つ
  • 一方で、情動的共感については別の脳波指標との関連が示唆されるが、パターンは異なる

という結果から、

「認知的共感」と「情動的共感」がASD児ではバランスよく発達しておらず、

特に認知的共感側に特徴的な神経異常がある

という “共感アンバランス仮説”を支持する証拠 を提示しています。


■ 今後の展望

著者らは今後の方向性として:

  • 視線計測(eye-tracking)とEEGの併用

    → 子どもがアニメの「どこを見ているか」と「脳活動」を同時に追う

  • 縦断研究(長期追跡)

    → 共感に関わる脳波パターンが、成長とともにどう変化するかを追う

などを提案しています。

これにより、

  • 「どのタイプの共感が、いつ、どのように発達からそれていくのか」
  • 「介入によって共感関連の脳活動が変化するのか」

といった実践的な問いにも答えられる可能性があります。


■ 一言まとめ

この研究は、ASD児の共感を「認知的共感」と「情動的共感」に分け、アニメ視聴中のEEGからそれぞれの神経パターンを可視化したものです。結果として、認知的共感の処理における脳ネットワークの異常(θ帯の結合増加やマイクロステート異常)が明らかになり、ASDでは“共感のアンバランス”が脳レベルでも存在する可能性が支持されました。

Clinical Features of Children at Risk of Profound Autism

「プロファウンド自閉症(Profound Autism)」の子どもはどんな特徴を持つのか?

― 513名の臨床データから明らかになった“発達・行動・支援ニーズ”の重要ポイント

論文名:Clinical Features of Children at Risk of Profound Autism

掲載:Journal of Autism and Developmental Disorders(2025年)

対象:1〜16歳の自閉スペクトラム症児 513名

テーマ:プロファウンド自閉症(重度自閉症)の特徴・診断過程・支援ニーズ


■この研究は何を調べた?

「プロファウンド自閉症(Profound Autism)」という概念は2021年に提唱された比較的新しい枠組みで、

  • 知的能力が低い
  • 適応行動が低い
  • 言語コミュニケーションが著しく限られている

といった 重度の支援ニーズ を持つ自閉症のサブグループを指します。

本研究は、実際に診断センターに来院した子ども 513名の臨床データから、

誰が「プロファウンド自閉症」に該当するのか?

どんな特徴やリスク要因があるのか?

診断・支援の現場にとってどんな意味があるのか?

を明らかにすることを目的としています。


■主な結果(重要ポイントのみ)

① ASD診断児の「約4人に1人」がプロファウンド自閉症のリスク群

調査対象のうち:

  • 25%(4人に1人)が “プロファウンド自閉症のリスクが高い” と判定
  • 一部はすでに基準を満たしていた

👉 重度支援ニーズのある子どもは実際にはかなり多い という現実を示す。


② リスク群は、保護者が最初に異変に気づく年齢が非常に早い

  • リスク群の 初期の気づき年齢:1.79歳
  • 診断年齢:3.93歳

通常のASDより 1年以上早い段階で心配が生じている

→ 発達遅延が明確に現れやすいことを示す。


③ 特徴的な行動として“逸走(Elopement)”のリスクが高い

プロファウンド自閉症児では、

  • 保護者のもとから突然離れる(逸走)
  • 安全確保が難しい

といった重大な行動上の課題が より高頻度で報告 されていた。

👉 家庭・学校ともに安全対策が必須の支援ニーズ


■研究が示す臨床・支援的な含意

著者らは、本研究が以下の点で重要な意味を持つと強調しています:

✔ 1. 診断プロセスの改善に役立つ

プロファウンド自閉症リスク児は、

  • 発達の遅れが明確
  • 言語発達が限定的
  • 認知・適応行動も低い

ため、より丁寧で多面的な評価が求められる。


✔ 2. 長期フォローアップが“必須”である

単発の診断ではなく、

  • 発達の経過
  • 行動リスク(特に逸走)
  • 生活スキルの伸び方

を継続的にモニタリングする必要がある。


✔ 3. 支援計画(介入・教育・家庭支援)の早期設計が重要

プロファウンド自閉症は支援ニーズが高いため:

  • 早期介入
  • 家庭支援
  • 行動リスク管理
  • 通園・学校での特別支援

などが、診断直後から計画されるべき。


✔ 4. 行政・政策レベルでの制度設計が必要

研究は、政策面での重要性も指摘:

  • 早期サービスへのアクセス改善
  • 継続的支援の制度化
  • 重度支援ニーズへの予算配分

プロファウンド自閉症という概念を政策に取り入れるべき、と示唆している。


■一言まとめ

本研究は、ASD児の約4人に1人が「プロファウンド自閉症」のリスクを持つことを示し、彼らは非常に早い段階から発達の異変が見られ、逸走などの重大な行動リスクも高いことを明らかにした。

これらの知見は、早期診断・継続フォロー・支援計画・政策づくりにとって極めて重要なエビデンスである。

Marital satisfaction and coping strategies among mothers of children with ADHD, ASD, and typically developing children: a cross-sectional study in Egypt

ADHD児・ASD児の母親はどれだけ“結婚満足度”に影響を受けるのか?

― エジプトの大規模比較研究が示す「家族関係 × コーピング」の決定的な違い

論文名:Marital satisfaction and coping strategies among mothers of children with ADHD, ASD, and typically developing children

掲載:Middle East Current Psychiatry(2025, オープンアクセス)

対象:78名の母親(ADHD児26名、ASD児26名、定型児26名)

研究タイプ:横断的・比較研究(エジプト)


■この研究は何を調べた?

子どもが ADHD や ASD を持つ家庭では、母親の精神的負担・不安・抑うつ・自尊心低下が報告されていますが、

それらが 夫婦関係(marital satisfaction:結婚満足度)にどう影響しているのか は、地域差も大きく、国際的にまだ十分に分かっていません。

本研究はエジプトの母親を対象に、

  • 結婚満足度(Marital Satisfaction)
  • コーピング(対処行動のタイプ)

を ADHD児母、ASD児母、定型発達児母で比較し、

どの要因が夫婦関係を強く左右しているのかを分析したものです。


■主な結果(最重要ポイント)

① ASD児の母親は、3群の中で最も“結婚満足度が低い”

特に低かった領域:

  • Affectional expression(夫婦間の愛情表現)
  • コミュニケーション・情緒的つながり
  • 夫婦間のサポート実感

👉 ASDが持つ重度の対人・コミュニケーション課題への対応が、母親の精神的負荷として蓄積している可能性。


② ASD児母は“非適応的コーピング(maladaptive coping)”に頼りがち

例:

  • 回避的思考
  • 感情的反応
  • 問題解決からの撤退

👉 ストレスが高いほど、適切な対処行動が取りづらくなることが明白。


③ ADHD児母の結婚満足度を下げるのは“計画性の低いコーピング”

ロジスティック回帰で示された重要因子:

  • Poor planning(計画的な問題解決の欠如)

注意欠如・多動症児の養育では“予測不能な毎日の連続”になりやすく、

対処が後手に回るほどストレスが増大 → 夫婦関係に影響。


④ ASD児母の場合、結婚満足度を左右した最大因子は “症状の重さ”

  • CARS(Childhood Autism Rating Scale)スコアが高いほど、

    → 母親の結婚満足度が低い

つまり、ASDの重症度が直接的に夫婦関係に響く。


■研究の含意(何が重要か?)

✔ ASD児母は、情緒的つながりが損なわれやすく、家族全体への強力な支援が必要

  • 夫婦間のコミュニケーションサポート
  • 家庭支援プログラム
  • 情動調整のスキルトレーニング

などが重要。


✔ ADHD児母には “計画的コーピング支援” が有効

  • タイムマネジメント
  • 育児の構造化
  • 先回りの対処戦略の習得

が夫婦関係を改善する可能性。


✔ メンタルヘルス支援は“子どもだけでなく家族全体”を対象にする必要がある

著者らは、

「子どもの支援だけでは不十分。母親・夫婦関係・家族全体を視野に入れるべき」

と強調している。


■一言まとめ

ASD児の母親は、母親のコーピングスタイルだけでなく“症状の重さそのもの”により結婚満足度が大きく低下し、非適応的な対処行動にも陥りやすい。ADHD児母では、計画性の低さが夫婦関係の鍵となる。

本研究は、発達障害児の支援において“親のメンタル・夫婦関係のケア”が不可欠であることを突きつけている。

Effectiveness of Motor Support Program in Multidimensional Development of Autistic Children

*ASD児の“運動・社会性・学習準備・感覚”をまとめて伸ばすには?

12週間の「Motor Support Program(MSP)」の効果を検証した最新研究**

論文名:Effectiveness of Motor Support Program in Multidimensional Development of Autistic Children

掲載:Journal of Autism and Developmental Disorders(2025)

対象:4〜6歳の自閉スペクトラム症児 30名(実験群15・対照群15)

介入:週2回 × 12週間 × 50分のMSP(Motor Support Program)


■ どんな研究?

この研究は、ASD児に対して開発された 運動支援プログラム(Motor Support Program: MSP) が、

  • 運動能力
  • 社会性
  • 学習前スキル(pre-academic skills)
  • 感覚統合
  • ASD関連の行動特性

といった 多領域の発達 にどれほど効果をもたらすかを検証したものです。

MSPは運動だけでなく、

社会的交流・認知機能・感覚処理を統合して刺激する“包括型プログラム” に設計されています。


■ 介入方法

  • 4〜6歳のASD児30名を

    MSP群(15名)/対照群(15名) に分ける

  • MSP群は 週2回、12週間、1回50分 の介入を実施

  • 評価指標は複数領域:

    • A-ABC(ASD関連行動)
    • BOT-2 SF(運動能力)
    • PASAF(学習準備)
    • SSRS-PTF(社会スキル)
    • SPS(感覚プロファイル)

■ 主な結果(重要ポイント)

① 運動能力が有意に向上(BOT-2 SF)

  • 粗大運動・微細運動の両方で改善

    → ASD児に多い運動発達遅れに対して強い効果


② ASD関連行動(A-ABC)が改善

  • 過剰反応・身体表出行動など

    ASD特性に関連する複数領域で有意な減少

    → 運動介入が行動面にも良い影響を与えることを示唆


③ 社会スキル(SSRS-PTF)が向上

  • 共同注意
  • コミュニケーションの積極性
  • ルール理解・遊びスキル

など、対人面の改善が確認

→ 運動活動が社会的モチベーションを引き出す可能性


④ 学習準備スキル(PASAF)も改善

特に:

  • 形(Shape)
  • 次元理解(Dimension)

などの認知スキルが向上

→ 身体活動が認知領域にも良い影響を与えるという興味深い結果


⑤ 感覚プロファイル(SPS)でも改善傾向

  • 感覚応答のコントロールの向上
  • 過敏・鈍麻の軽減

特に 感覚統合が不安定なASD児に有益


⑥ フォローアップでも“効果が持続”

介入終了後の追跡評価でも、

効果が維持されていた(p < .05)

→ 一時的効果ではなく「定着」を確認


⑦ 質的データ:子どもたちの“参加意欲が高い”

教師・保護者の観察から:

  • 子どもたちが積極的に参加
  • 活動への喜びや自信が増加
  • 集団活動への関わりがスムーズに

■ この研究が示す重要な意義

✔ MSPは“運動支援”にとどまらず、ASD児の多領域の発達を同時に促す

  • 運動
  • 社会性
  • 認知(学習準備)
  • 感覚統合
  • ASD関連行動

という複数の発達要素が相互に改善したのは非常に重要。

✔ 幼児期(4〜6歳)に特に有効

この時期は神経可塑性が高く、

運動 × 社会 × 認知 の統合的刺激がもっとも効果を発揮する。

✔ 介入の動機づけが自然に高まりやすい

「楽しい」「やってみたい」という内発的モチベーションが維持できるため、

長期実施・継続支援にもつなげやすい。


■ 一言まとめ

12週間の運動支援プログラム(MSP)は、ASD幼児の運動能力だけでなく、社会性・学習準備・感覚処理・ASD関連行動のすべてに有意な改善をもたらし、効果も持続した。

運動を中心に据えた“多領域統合型支援”が、ASD児の発達を包括的に伸ばす有望なアプローチであることを示す研究である。

Aberrant Cognitive-Affective Empathy in Children With Autism Spectrum Disorder: Electrophysiological Evidence of Viewing Social Animation

*ASD児の“認知的共感”は脳活動レベルでどう違う?

社会的アニメーションを使った EEG研究が示す「共感の不均衡」の証拠**

論文名:Aberrant Cognitive-Affective Empathy in Children With Autism Spectrum Disorder

掲載:Journal of Autism and Developmental Disorders(2025)

手法:EEG(ミクロステート解析・周波数帯分析)+ 社会的アニメーション刺激


■ 研究のねらい

自閉スペクトラム症(ASD)の子どもの共感力は、

  • 認知的共感(相手の意図や思考を推測する能力)
  • 情動的共感(相手の感情に反応する能力)

のあいだに“アンバランス”があるとされる**共感不均衡仮説(empathy imbalance hypothesis)**が長く議論されています。

しかし、EEGなど生理学的データからこの仮説を検証した研究はまだ限られています。

本研究は、社会的アニメーションを視聴する子どもたちの脳活動をリアルタイムで計測し、認知・情動の両側面の共感処理を比較することを目的に行われました。


■ 方法:社会的アニメーション × EEGで共感を可視化

  • 対象:ASD児と定型発達児
  • 刺激:認知的共感/情動的共感を喚起するアニメーション
  • 計測:EEGで
    • θ帯域・β帯域の脳波活動
    • ミクロステート(C・D)
    • 脳機能結合(functional connectivity)

を分析。

社会的アニメーションは、幼児でも理解しやすく、自然な共感反応を促せる利点があります。


■ 主な結果(重要ポイント)

① 認知的共感のときに“脳ネットワークの過剰結合(θ帯)”

ASD群では、

  • θ帯の機能結合が増加

    → 認知的共感の処理に“過剰な脳負荷/非効率性”が生じている可能性

② ミクロステートC・Dに異常パターン

ミクロステート解析では、

社会的認知・注意切り替えに関連する C・D のパターンが異常化

→ ASD児が共感的理解に必要な“脳状態の切り替え”に困難を持つことを示唆。

③ ASD症状の重さと脳波指標がリンク

  • 認知的共感を見るとき:

    β帯の振幅が症状の重さと相関

  • 情動的共感を見るとき:

    θ帯の振幅が症状の重さと相関

→ ASDの共感特性が周波数帯ごとに異なる神経処理に依存していることを示す貴重な知見。


■ 結論:ASD児は“認知的共感の脳活動”に特異的な異常を示す

  • 認知的共感の脳処理に問題が集中
  • 情動的共感は比較的保たれている可能性(ただし異常のサインはある)
  • ミクロステートと周波数帯の異常が、ASDの“共感の不均衡”を支持

著者らは、

ASD児の共感に関する神経メカニズムは、認知・情動のどちらも異なる特徴をもち、特に認知的側面で顕著とまとめています。


■ 今後の研究に向けた提案

  • 眼球運動(eye-tracking)とEEGを同時計測して、刺激視聴中の注意の偏りをより詳細に解析
  • 縦断研究で共感の脳発達の変化を追跡
  • ASDの「共感プロファイル」に基づくより精密な支援方法の検討

■ 一言まとめ

ASD児は、認知的共感に関わる脳活動で“過結合・ミクロステート異常”を示し、情動的共感とは異なる神経メカニズムが働いている。

この結果は、ASDにおける“共感不均衡仮説”を神経生理レベルで裏付ける重要な証拠である。

*ADHD/自閉スペクトラム特性をもつ大人の“過食・制限”は何を意味するのか?

— 過食症スペクトラム×神経発達症の関連を明らかにする質的研究**

論文名:Bingeing as an ADHD-related strategy: a qualitative study of experiences of Neurodivergent and potentially Neurodivergent adults with bulimic-spectrum eating disorders

掲載:Eating and Weight Disorders(2025年・オープンアクセス)

対象:過食症スペクトラムの成人 16名(ADHD・ASD診断者/疑いのある人を含む)

方法:質的研究(リフレクシブ・テーマ分析)


■研究の背景

  • 過食症・過食性障害など「過食症スペクトラム」の成人では、

    ADHDやASD(自閉スペクトラム特性)の有病率が高い

  • しかし、

    過食・嘔吐・制限の行動が神経発達症の特性と“どう結びついているのか”

    は十分理解されていない

  • そのため治療も一般プロトコルだと合わず、

    治療中断や回復の遅れが起こりやすい

本研究は、まさにこの **「神経多様性 × 過食症スペクトラム」**の交差点を、当事者へのインタビューで掘り下げたものです。


■方法

  • 参加者:
    • ADHD診断/ASD診断
    • もしくはスクリーナー高得点(ASRS > 3、AQ10 > 5)
  • 全員が「過食症スペクトラム」
  • 半構造化インタビュー
  • リフレクシブテーマ分析(4つの主要テーマ)

■主な結果(4つのテーマ)


① 神経発達症かどうか“自分で理解すること”自体が難しい

参加者は:

  • 「自分は本当にADHD/ASDなのか?」
  • 「過食行動のせいでADHD傾向に見えるだけでは?」
  • 「ラベルがつくのが怖い・スティグマが気になる」

など、アイデンティティとしての“神経多様性”を受け止め直す葛藤を語った。

また、

“摂食障害の症状”と“神経発達症の特性”を見分けることが困難であることも示された。


② “過食(Bingeing)はADHDの自己調整手段として使われていた”

これは非常に重要な知見。

参加者は過食を:

  • 情動の圧倒(emotional overwhelm)

  • 退屈・刺激不足

  • 不快な内部感覚(interoceptive discomfort)

    → ADHDの実行機能不全・感情調整のための“手段”

として使うことが多かった。

特に:

  • 感情調節困難
  • 刺激の欲求(under-stimulation)
  • 衝動性

が、過食のトリガーとして語られた。

ADHDと過食行動の密接な関連が強く支持される。


③ “制限(restriction)はASD的な特性に強く影響を受ける”

自閉スペクトラム特性をもつ参加者では:

  • 感覚過敏/鈍麻(味・食感・匂い)
  • 同一性保持(同じ食べ物ばかり食べる)
  • 社会性の困難 → 食事場面の回避

などにより、

制限的な食行動が強くなると語られた。

➡ 「過食=ADHD的」「制限=ASD的」という明確な構造が浮かび上がる。


④ “治療には柔軟さ(personalised care)と構造(structure)の両方が必要”

参加者の希望:

  • 自分の神経特性に合わせた治療が欲しい
  • しかし“自由すぎる”と逆に難しいため、一定の構造も必要
  • 感覚特性・実行機能の弱さ・エネルギー管理を理解してほしい

つまり、

個別化 × 規則性(personalised + structured)

という相反するニーズを両立させる治療設計が望まれている。


■総合的結論

✔ ADHD特性 → 過食(自己調整・刺激探求・感情調節)に強く関与

✔ ASD特性 → 制限・ルーチン化・感覚性の偏りに関連

✔ 摂食障害と神経発達症は相互に影響し合う複雑な構造

“摂食障害の背後にある神経発達症状を理解すること”が、治療効果と継続に直結する。


■臨床・支援の含意

  • ADHD/ASD の診断の有無に関わらず、

    神経発達症の特性を評価することが必須

  • 治療者は過食や制限行動の“機能”を理解する必要がある

  • 実行機能支援・感覚特性への配慮・柔軟かつ構造化された治療が必要

  • 過食症治療の「標準プロトコル」が神経多様性に必ずしも適合しない点に注意


■一言まとめ

ADHD的な“自己調整のための過食”、ASD的な“感覚・同一性による制限”――

神経発達症の特性は、過食症スペクトラムの成り立ちと治療ニーズを根本から形づくっている。


Teaching Autistic Adolescents to Identify Fear and Anger: A Preliminary Study

*「恐怖」と「怒り」をどう教える?

― 自閉スペクトラム症の思春期青年に“概念としての感情”を教える予備研究**

論文名:Teaching Autistic Adolescents to Identify Fear and Anger: A Preliminary Study

掲載誌:Behavior Analysis in Practice(2025)

対象:ASD診断の思春期男子(4名)

方法:概念分析に基づく指導プログラム(例・非例示を用いたアニメーション提示)


■研究の背景

自閉スペクトラム症(ASD)の若者では、

  • 他者の表情から感情を読み取ること
  • 自分の感情を言語化すること

に困難があると言われます。

しかし「感情=表情」と単純に教える従来の教材には限界があり、特に:

  • 感情表現は文化や個人で大きく異なる
  • 表情だけでは状況を理解できないことが多い

という課題があります。

この研究は、感情を「表情」ではなく“環境の変化 + 結果として生じる反応”として学ぶ方法を検証した点が特徴です。


■研究の目的

✔ 恐怖(Fear)と怒り(Anger)を「概念」として教えることは可能か?

  • 具体的には「どのような状況で恐怖/怒りが生じるのか」を理解し、

  • 初めて見る新しい場面(novel exemplars)でも

    正しく「恐怖/怒り」と判断できるかを検証した。


■方法

① “恐怖”と“怒り”の概念分析

研究者はまず、行動分析的に

  • どんな環境(状況)が恐怖を引き起こすか
  • どんな環境が怒りを引き起こすか

を**機能的に分析(concept analysis)**し、

その上で「例(exemplars)」と「非例(non-exemplars)」のセットを作成。

② アニメーション教材を使用

参加者はコンピュータ上のアニメーションを見て:

  1. 恐怖か怒りかを答える
  2. その感情を生む“状況の変化(contingency)”を説明する

の2つを求められた。

③ テスト → 修正 → 再テスト方式(test-revise-test)

  • 誤りがあれば教材やシーケンスを改善
  • 個別に必要な調整を行いながら、正答率向上を目指す

■主な結果

✔ 4名全員が“新しい場面でも適切に判断”できるようになった

つまり:

  • 学習した例に依存せず
  • 自分で状況を読み取り
  • 恐怖か怒りかを判断できる

=概念としての感情理解が成立したと示唆される。

✔ 行動は教材プログラムによって明確にコントロールされていた

  • ベースラインでは判断が難しかったが
  • 教示後は一貫して正答が増加
  • 「状況 → 感情」という機能的理解が形成された

■教育・支援への示唆(実践的ポイント)

1. 表情だけに依存した感情教育は不十分

この研究は、

“状況の変化(刺激)→ 感情という行動の機能”

を教えることが有効であると示している。

2. 恐怖・怒りは「例と非例」を大量に見せながら教えると習得しやすい

  • 過剰一般化を防ぎ、状況理解が深まる
  • 単語と環境の関係づけが明確になる

3. 個別化した反復的指導(test-revise-test)が機能していた

  • ASDの青年に対しては、

    データに基づく小さな調整を積み重ねることが重要。

4. “自分の感情を言語化する”支援にも応用可能

  • 状況を捉える力がつくことで

    自己理解・自己調整にも役立つ可能性がある。


■一言まとめ

表情ではなく“状況の変化とその意味”から感情を理解する指導は、

自閉スペクトラム症の思春期青年にとって効果的である。

恐怖と怒りの概念を機能的に教えることで、新しい場面でも正しく判断できるようになった。

Frontiers | Symptoms of Depression in Autistic Children and Adolescents


*自閉スペクトラム症の子どもは、なぜうつ症状を抱えやすいのか?

感情調整と社会スキルに焦点を当てた新しい研究**

論文名Symptoms of Depression in Autistic Children and Adolescents(Frontiers:掲載予定)

研究機関:University of Alabama at Birmingham

対象:ASD 53名、定型発達43名(子ども〜思春期)

方法:保護者評価(うつ症状・実行機能・社会スキル・感情調整・親ストレス)


■研究の背景

うつ症状は自閉スペクトラム症(ASD)で4倍以上高いと言われます。

その理由として、以下の ASD 特性が関連すると考えられています:

  • 感情の調整が難しい
  • 抑制(inhibitory control)が弱い
  • 社会的コミュニケーションの困難

しかし、子ども〜思春期においてどの要因がうつ症状と最も関連するのかはよく分かっていませんでした。


■研究の目的

本研究は、

ASD児・定型発達児のうつ症状の実態と、その背景にある認知要因を比較・検証することを目的としています。

主に:

  • うつ症状の強さ
  • 感情調整、実行機能、社会スキルとの関連
  • 親のストレスがどう影響するか

を調べています。


■主要な結果

✔ ASD児は定型児より明確にうつ症状が高かった

(p < 0.0001)

これは先行研究を裏付け、ASD児の抑うつリスクは非常に高いと示されます。

✔ うつ症状と最も強く関連したのは「感情調整」と「社会コミュニケーション力」

ASD児・定型児の両方で:

  • 感情をコントロールする力
  • 他者とのやり取りやコミュニケーション能力

がうつ症状と有意に関連。

つまり:

うつ症状の背景には、ASD特性の中でも“感情調整”と“社会スキル”が深く関与している。

✔ 親ストレスが“社会スキルとうつ症状の関連”に影響していた

興味深い点として:

  • 親ストレスは

    「実行機能」×「うつ症状」の関係には影響しなかった

  • しかし

    「社会コミュニケーション」×「うつ症状」の関係には影響した

これは、

家庭のストレス環境が、子どもの社会的困難とうつ症状の相互作用を強める可能性

を示唆しています。


■本研究が示す実践的ポイント

1. 子どもの“感情調整スキル”支援はうつの予防につながる

  • 自分の気持ちを認識する
  • 怒り・不安のコントロール
  • 落ち着くための手順化

などが特に重要。

2. 社会コミュニケーション支援はメンタルヘルスにも効果的

ASD支援で一般的な:

  • ソーシャルスキルトレーニング(SST)
  • ピアサポート
  • 構造化された対人スキル訓練

などは、うつ症状の軽減にも寄与する可能性。

3. 親のストレス軽減も“子どものうつ予防”に間接的に役立つ

  • ペアレントトレーニング
  • 家庭のサポート体制
  • レジリエンス支援

などの重要性が本研究でも裏付けられた。


■一言まとめ

自閉スペクトラム症の子どもはうつ症状を抱えやすく、

その背景には“感情調整の苦手さ”と“社会コミュニケーションの困難”が深く関与している。

また、親のストレスは子どもの社会的困難とうつのつながりを強める可能性があるため、

子どもと家庭の両方を支える支援が重要である。

Frontiers | The Effect of Basketball Intervention on Executive Function in Children with Autism Spectrum Disorders


*バスケットボールがASD児の“実行機能”を伸ばす?

12週間の運動介入で明確な改善を示した最新研究**

論文名(掲載予定)The Effect of Basketball Intervention on Executive Function in Children with Autism Spectrum Disorders

研究機関:Anhui Normal University / Harbin Sport University(中国)

対象:ASD児 22名(6〜12歳)

デザイン:ランダム化比較試験(12週間の運動介入)


■研究の目的

ASDの子どもでは、

  • 抑制(インヒビション)
  • ワーキングメモリ
  • 認知的柔軟性(フレキシビリティ)

などの「実行機能(EF)」が弱いことが多い。

本研究は、

バスケットボールという“複雑で対人・動作要求の高いスポーツ”が、実行機能を改善できるのか?

を検証したものです。


■研究方法

● 参加者

  • ASD児 22名
  • 実験群 11名:バスケ介入
  • 対照群 11名:日常生活のみ(PEなし)

● 介入内容

  • 週3回 × 60分 × 12週間
  • ドリブル、パス、簡易ゲームなどを含むバスケプログラム

● 測定した実行機能

  • 抑制:Stroop課題
  • ワーキングメモリ:n-back課題
  • 認知的柔軟性:task-switching課題

■結果:バスケ群は3つの実行機能すべてで大幅に改善

✔抑制機能の向上(Stroop)

注意の切り替えや衝動抑制が強化。

✔ワーキングメモリの向上(n-back)

視覚・聴覚情報の保持と操作の能力が改善。

✔認知的柔軟性の向上(task switching)

状況の変化に適応したり、ルール切り替えのスピードが上昇。

いずれも 対照群との差は明確(p < .01) で、

バスケットボールは ASD児の実行機能を多面的に改善する可能性が高い

という強い示唆が得られた。


■なぜバスケットボールが効くのか?(考察)

研究者はメカニズムの詳細を今後の課題としつつ、効果が出た理由として:

  • 瞬時の判断・抑制が必要(例:動く相手にパスを出す/出さない判断)
  • 記憶と予測の連続処理が必要(仲間・相手の動きを保持)
  • 対人協働が含まれる(ソーシャルスキルとEFの両方が刺激される)
  • 身体運動が前頭前野の活動を促す

といった要素が関与している可能性を指摘。

特にバスケは “複雑な身体・認知統合課題” であり、

シンプルな運動よりも実行機能を使う場面が多いことが特徴。


■支援・教育現場への意味

  • ASD児における実行機能支援の新しい選択肢として注目
  • 特に「楽しみながら自然にEFを使う」点が強み
  • 運動+認知刺激(認知運動療法)としての可能性
  • グループ活動としても実施しやすい

今後は、

  • 長期効果

  • 他のスポーツとの比較

  • 軽度〜重度での違い

    などの研究が求められる。


■一言まとめ

12週間のバスケットボール介入は、ASD児の「抑制」「ワーキングメモリ」「認知的柔軟性」という実行機能を全て有意に改善した。

バスケットボールは、楽しさと社会的刺激を兼ね備えた、ASD児の認知発達支援として非常に有望な運動介入である。

Frontiers | Maternal Attitudes and Home-Based Interventions for Enhancing Social, Attention, and Language Skills in Children with Autism in Diwaniyah, Iraq


*イラクのディワニヤで明らかになった「母親の姿勢 × ホームベース介入」の重要性

—ASD児の社会・注意・言語スキルを支える要因とは?**

論文名(掲載予定)Maternal Attitudes and Home-Based Interventions for Enhancing Social, Attention, and Language Skills in Children with Autism in Diwaniyah, Iraq

研究地域:イラク・ディワニヤ

対象:ASD児の母親 205名

研究デザイン:横断研究(面接調査)


■研究の背景

イラクのような**低資源地域(low-resource settings)**では、医療・療育サービスが十分に受けられないことが多く、

  • *家庭内での支援(home-based intervention)**が発達支援の中心になることが少なくありません。

そのため、本研究は以下を明らかにすることを目的にしました:

  • 母親が ASD 児に対してどんな態度を持っているか
  • 家庭での「社会・注意・言語」スキル練習が実際にどれくらい行われているか
  • 母親の態度が家庭内支援の実施とどう関係しているか

■主な結果

① 約8割の母親が“肯定的な態度”を持っていた(79%)

肯定的態度を持ちやすい母親の特徴:

  • 高学歴
  • 都市部の居住
  • 十分な世帯収入
  • 教育セッションへの参加
  • 家族内の精神疾患がない

→ 社会経済要因・教育機会が母親の姿勢に強く影響。


② ホームベース介入の実施率

  • 注意スキル支援:88.8%(最も実施率が高い)
  • 社会スキル支援:67.3%
  • 言語スキル支援:67.8%

→ イラクの家庭でも「家庭内でできる支援」が積極的に行われている状況が浮き彫りに。


*③ 母親の態度が影響するのは

“社会スキル介入のみ”

統計分析(調整後 OR)により判明:

  • 母親の肯定的態度 → 社会スキル支援の実施率が有意に上昇(p = 0.001)
  • ✖ 注意スキル・言語スキルの支援とは有意な関連なし

つまり、

「社会性」は、母親の心理的姿勢によって最も影響を受ける領域

ということが明確になりました。


■研究の意義

✔「母親の態度」は、社会スキル支援の鍵になる

社会性の支援は、母親のストレス・不安・受容度など心理的要因に左右されやすい可能性。

✔ 低資源地域でも、ホームベース介入の定着が可能

適切な教育セッションや支援プログラムを整えれば、家庭支援の質を大幅に上げられる。

✔ 政策・支援で重要なのは「母親の心理的支え」+「教育機会」

  • カウンセリング
  • ペアレントトレーニング
  • 情報提供
  • 社会資源へのアクセス改善

といった取り組みが非常に重要。


■一言まとめ

ディワニヤの調査では、母親の肯定的な態度が“社会スキル支援”の実施を大きく後押しすることが明確となった。

注意・言語支援は広く実施されていた一方で、社会性の支援には母親の心理的姿勢が特に影響するため、

低資源地域では、母親の教育・支援体制を強化することが ASD児の発達を支える鍵になる

Frontiers | Enhancing Attention and Emotion Regulation in Children with ADHD through AR Digital Picture Books: A Structural Equation Modeling Approach

ARデジタル絵本で ADHD児の注意力と情動調整は改善できる?

―構造方程式モデリングで効果メカニズムを解明した最新研究**

論文名(速報版)Enhancing Attention and Emotion Regulation in Children with ADHD through AR Digital Picture Books

研究デザイン:2週間の AR(拡張現実)絵本介入

対象:ADHD児 20名 + 定型発達児 20名(9〜11歳)


■研究の目的

近年、ARを使った絵本が教育ツールとして注目されていますが、

ADHD児にとって “注意力・感情コントロール・行動改善に本当に役立つのか?” はまだ十分に検証されていません。

本研究は、

AR体験 → 学習動機 → 注意 → 情動調整 → 行動改善

という一連のプロセスを構造方程式モデリング(SEM)で検証。

さらに 認知負荷(cognitive load)が効果を弱めるのか?

という点も分析しています。


■介入の概要

  • 期間:2週間
  • 教材:ARデジタル絵本(多感覚・インタラクティブデザイン)
  • 評価者:子ども本人・教師・保護者
  • 使用した分析:t検定、MANOVA、PLS-SEM、PLS-MGA(群間比較)

■主要な結果(ポイントだけ)

① ADHD児の注意・情動調整・行動が改善する可能性が示された

AR絵本の体験は ADHD児において:

  • 学習へのやる気(モチベーション)
  • 注意の集中
  • 情動調整(感情のコントロール)
  • 行動改善

を押し上げることが明らかに。

特に:

“やってみよう”という動機 → 注意力向上 → 感情コントロール改善

というメカニズムが強く働いていた。


② 認知負荷(cognitive load)は逆効果になる

AR体験が複雑で“情報量が多すぎる”ほど、

  • 注意 → 情動調整の流れが弱まる(負の調整効果)

という現象が確認。

特に ADHD児では、認知負荷の影響を受けやすいことが示された。


③ ADHD児と非ADHD児で効果の出方が異なる

  • ADHD児は 動機づけ→注意→感情制御 の連鎖がより強く働く
  • 非ADHD児では、効果メカニズムの構造がやや異なる

ADHD児特有の「動機づけ→注意」を起点とする改善ルートが存在することが示唆された。


■研究の意義

✔ ARは「注意が散りやすい ADHD児」に適した構造を持つ

  • インタラクティブ
  • 視覚・聴覚の多感覚刺激
  • 自己決定的な操作感

これらが ADHD児の 学習動機・集中力を引き出す“入り口” となる。

✔ 認知負荷を最適化すれば、ADHDに特化した教材設計が可能

“刺激を増やせば良い”のではなく、“過剰刺激は逆効果”

→ 視覚情報の量・操作難度の適正化が必要

✔ インクルーシブ教育での個別最適化に応用できる

  • 特別支援教育
  • 通級指導
  • 家庭での学習支援

などにおける パーソナライズされた教材設計の基盤となる。


■一言まとめ

AR絵本は、ADHD児の「モチベーション → 注意 → 感情コントロール → 行動改善」という発達プロセスを後押しする有望な教育ツールである。

ただし、認知負荷が高すぎると効果が低下するため、刺激量を適切に調整した個別最適化デザインが不可欠である。

*自閉スペクトラム症の成人における“セルフコンパッション”はどう働く?

孤独と抑うつとの関係を大規模サンプルで検証した最新研究**

論文名Understanding Self-Compassion in Autistic Adults: Validity Evidence and Its Links to Loneliness and Depression Across Autistic and Non-Autistic Individuals

掲載:Autism Research(2025)


■研究の背景

自閉スペクトラム症(ASD)の成人は、非自閉の成人よりも

孤独感・抑うつのリスクが高いことが知られています。

近年、**セルフコンパッション(自分への思いやり)**が

精神的健康の保護要因として注目されていますが、

  • ASD成人にとって適切に測定できるのか?
  • 孤独 → 抑うつ の悪循環を弱める“緩衝効果”はあるのか?

はまだ明らかではありません。


■研究の目的(2部構成)

  1. Self-Compassion Scale(SCS)の因子構造が ASD成人でも妥当か検証
  2. セルフコンパッションが、孤独と抑うつの関係を弱めるか調べる

対象:

  • ASD成人 377名

  • 非ASD成人 196名

    (国際的オンラインサンプル)


■主な結果(最重要ポイント)

① SCSは “2つの因子” で測定するのが最適だった

  • Compassionate self-responding(自分への優しさ)
  • Uncompassionate self-responding(自己批判・孤立感・過剰反省)

この2因子構造は、

ASD成人・非ASD成人の両方で妥当性が確認(測定不変性あり)

ASD成人にもSCSを使用してよいという確かなエビデンス。


② ASD成人では “孤独 → 抑うつ” の関係をセルフコンパッションが弱めなかった

非ASD成人では、

  • 自己批判が強いほど

    孤独が抑うつにつながる影響が強化された(緩衝効果の変化あり)

しかし ASD成人では 同様の効果が見られなかった

セルフコンパッションは、ASD成人の孤独→抑うつリンクを弱める保護因子にはならない可能性


③ ただし “自己批判の強さ” は両群で抑うつと強く関連

  • 自己批判的思考(uncompassionate responding)が強い人ほど

    抑うつ症状が強い(ASD・非ASDともに有意)

自己批判を減らす介入はASD成人にも有益である可能性。


■この研究が示すこと

  • SCSの2因子モデル(優しさ/自己批判)はASD成人でも有効

  • 自己批判の低減は、ASD成人のメンタルヘルス改善策として有望

  • しかし

    孤独 → 抑うつの悪循環を止めるには、ASD特有の代替要因(社会的支援・環境調整など)が必要

→ 一般向けのセルフコンパッション介入をそのままASD成人に適用するのは十分ではない。


■一言まとめ

セルフコンパッション尺度はASD成人にも妥当に使えるが、孤独が抑うつにつながる悪循環を和らげる効果は見られず、ASD成人には独自の保護要因(環境調整・社会的サポート)が必要である。一方で、自己批判を減らす支援はASD・非ASDの双方で抑うつ改善に重要である。

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