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ADOS-2評価中の行動を自動解析するAI技術

· 11 min read
Tomohiro Hiratsuka
CEO of Easpe, Inc

本記事では、発達障害や学習障害に関する最新の学術研究を幅広く紹介しています。具体的には、自閉スペクトラム症(ASD)における痛み表情認識と失感情症の関係、不登校の長期予測因子としての不安の影響、ADOS-2評価中の行動を自動解析するAI技術、動作の質感(Vitality Forms)認識と社会的コミュニケーション特性の関連、イラン小学生におけるADHD有病率のメタ分析、ディスレクシア定義の再検討提案、そしてASDにおける言語能力と視空間認知の時間的連動性の違いなど、多角的な視点から診断・支援・定義の改善や理解促進につながる知見をまとめています。

学術研究関連アップデート

Exploring the Broader Autism Phenotype: How Alexithymia Impacts Recognition of Facial Expressions of Pain

本研究は、痛みの表情認識能力の低下が自閉スペクトラム症(ASD)そのものによるのか、共存する失感情症(アレキシサイミア)によるのかを検証したものです。ASDは社会情動的なやり取りの困難と関連しますが、その程度や原因は個人差が大きく、ASD特性そのものよりアレキシサイミアが主要因とする「アレキシサイミア仮説」が提唱されています。またDSM-5ではASDにおける痛み刺激への反応変化に言及がありますが、痛み表情の認識力については議論が続いています。本研究では、462人が自閉特性尺度(AQ-50)とトロント失感情症尺度(TAS-20)を受検し、そのうち高AQ群35人と低AQ群31人が痛み表情認識課題を実施し、眼球運動も記録しました。その結果、高AQ群と低AQ群で痛み表情認識の感度閾値や視線パターンに有意差はなく、感度閾値はアレキシサイミアの程度と相関していました。つまり、痛み表情認識の困難は自閉特性の強さではなく、アレキシサイミアの有無・程度に起因する可能性が高いことが示され、過去研究で報告された「ASDは顔への注視時間が短い」という知見とも一致しない結果となりました。この知見は、社会的感情認知の支援において、自閉特性とアレキシサイミアを分けて評価・介入する必要性を示唆しています。

Concurrent and Longitudinal Predictors of School Non-attendance in Autistic Adolescents

本研究は、自閉スペクトラム症(ASD)の中高生における不登校や欠席の要因を、同時的(現在)および長期的(将来)に予測する因子を明らかにすることを目的としています。オーストラリアで6年間継続して行われた縦断研究に参加した親・保護者77名(子どもは11〜14歳)がオンライン調査に回答しました。その結果、4割以上の児童が全授業日の10%超を欠席しており、その理由には医療・健康関連の通院や「学校拒否/情動的回避」など多様な背景がありました。

統計分析(負の二項回帰モデル)の結果、子どもの不安傾向が最も強力かつ一貫した予測因子であり、不安が高いほど3年後・4年後・6年後においても欠席日数が多い傾向が確認されました。さらに、感覚処理の違い、行動・情緒面の困難、保護者のストレス、家計収入、保護者の就労状況なども、欠席理由の種類によっては関連が見られました。

この結果は、ASD児の出席支援において**「不安の予防・低減」を早期に行うことが長期的な出席改善に有効**である可能性を示しています。また、欠席の背景は多様であり、学校要因・家庭要因・子ども個人要因を組み合わせた個別対応の重要性が強調されます。

Multimodal Framework for Automatic Behavior Analysis of Children with Autism During ADOS-2

本研究は、自閉スペクトラム症(ASD)の診断支援を目的に、ADOS-2(自閉症診断観察スケジュール第2版)実施中の子どもの行動を自動解析するマルチモーダルAIフレームワークを提案しています。ASDの診断は標準化された評価手法が存在する一方で、特に言語・非言語が組み合わさる複雑なコミュニケーションの微細な特徴を見極めるには時間と専門的スキルが必要であり、人間の観察だけでは見落としの可能性があります。

本手法では、深層学習アルゴリズムを用いて以下の情報を統合的に解析します:

  • 身体・手のポーズ推定

  • 物体検出・追跡・操作の解析

  • 発話解析(自然言語理解)

    さらに、ルールベースのシステムと組み合わせることで、ADOS-2の「構築課題」における要求行動の発生タイミングを検出します。要求は、言語的(verbal)・非言語的(non-verbal)・その組み合わせのいずれにも対応します。

本研究の新たな要素として、スマートグラス技術を導入し、視線やまばたきの解析を可能にしました。これにより、診断者が同時に複数のタスクをこなす中でも見逃されやすいアイコンタクトといった重要な社会的手がかりを自動検出できます。

評価の結果、**要求行動の検出精度は言語的要求でF1スコア94%、非言語的要求で73%**と高い性能を示し、今後の深層学習技術の進展でさらなる向上が見込まれます。

この技術は、診断の効率化と精度向上、そして専門家不足の補完に寄与する可能性が高く、将来的には臨床現場での実装を通じて、より早期かつ客観的なASD評価を支援できると期待されます。

Recognition of Action Vitality Forms is Linked to Social Communication Traits in Autism

本研究は、**人の動きの「どう行うか」を示す特徴=Vitality Forms(VFs)**と、自閉スペクトラム症(ASC)児における社会的コミュニケーション特性との関連を検証したものです。VFsは、行動の種類(何をするか)ではなく、その行動の質感やニュアンス(速さ、加速、強さなど)を表し、他者の意図や感情を読み取るために不可欠な要素とされています。しかし、自閉スペクトラム症におけるVFsの認識研究はほとんど行われていません。

本研究では、ASC児と定型発達(NT)児が、ASC児およびNT児によって事前に演じられた複数のVFsを伴う動作映像を視聴し、そのニュアンスを4段階リッカート尺度で評価しました。その結果、以下の3つの重要な知見が得られました。

  1. VFsの認識精度:ASC児の正答率は57.2%で、NT児(70%)より有意に低い。
  2. 反応時間:ASC児はVFs認識に平均1751msを要し、NT児(1323ms)より遅い。
  3. 社会的影響との関連:ASC児におけるVFs認識の遅さ・不正確さは、ADOS評価における社会的情動(Social Affect)スコアと有意に関連していた。

これらの結果は、ASC児がVFsを理解する際に、速さや加速度といった視覚的手がかりの処理に時間がかかる、または異なる処理方法を用いている可能性を示唆します。VFs認識の遅れは、他者の感情や意図の読み取りに直結するため、社会的コミュニケーション支援において重要なターゲットとなり得ます。本研究は、動作の質感認識を高める介入がASC児の社会的理解向上につながる可能性を示す貴重な知見となっています。

Prevalence of Attention-Deficit Hyperactivity Disorder (ADHD) in Iranian Elementary School Children: A Systematic Review and Meta-Analysis

本研究は、イランの小学生における注意欠如・多動症(ADHD)の有病率を体系的に整理し、男女差や診断ツールによる違いを明らかにすることを目的としたシステマティックレビューおよびメタアナリシスです。対象は6〜12歳の児童9,138人を含む9件の研究で、統合解析の結果、ADHDの推定有病率は11.2%(95%信頼区間:9.4〜13.2%)と算出されました。性別では男児(10.1%)が女児(7%)より有意に高く、診断方法によっても差が見られ、Conners質問紙では10.9%、CSI-4質問紙では12.1%という結果でした。また、解析では異質性(I² = 87.6%)が高く、これはサンプルサイズ、地域差、診断手法の違いによる影響が大きいと考えられます。

著者らは、診断基準や評価ツールの標準化の必要性を強調するとともに、文化的・社会的要因がADHD有病率に与える影響を解明する追加研究の重要性を指摘しています。本研究は、イランにおけるADHDの現状を把握し、教育・保健政策の基盤を整備するうえで重要なデータを提供しています。

Thoughts on the Definition of Dyslexia

本論文は、国際ディスレクシア協会(IDA)が2002年に承認したディスレクシアの定義を、20年以上の研究成果を踏まえて再検討する必要性を提起しています。著者らは、ディスレクシアの定義は本質的特徴に絞るべきだと主張し、次のような新たな定義案を提示しています。

ディスレクシアとは、単語レベルの読みの特異的学習障害であり、正確かつ/または流暢な単語認識や擬似語読解に困難を伴う状態である。

この提案では、リスク要因や二次的影響、その他の特徴は、個人レベルでの識別に信頼性を持って活用できるようになるまでは定義に含めるべきではないとしています。背景には、現行定義が症状以外の要素まで含めており、診断や研究の一貫性を損ねる可能性があるという懸念があります。

本研究は、ディスレクシアをめぐる議論をより明確かつ精緻化するため、核心症状に基づくシンプルで実証的な定義への移行を呼びかけています。

Dis/Associations Between Language and In-the-Moment Mental Rotation Effort in Autism

本研究は、自閉スペクトラム症(ASD)における言語能力と言語とは別系統の視空間認知能力との「その場での連動性」に着目し、両者の結びつきが定型発達(NT)とどう異なるのかを検証しています。参加者はASD群25名と年齢・IQを一致させたNT群25名で、2Dおよび3Dの図形・物体を用いたメンタルローテーション課題を実施し、その間の認知的負荷を瞳孔径(パピロメトリー)で計測しました。言語能力は「文法」スコア(Test of Language Development: Intermediate)で評価されました。

結果として、全体的な平均瞳孔径や負荷の時間経過には群間差が見られなかった一方で、文法スキルと認知的負荷のタイミングの関係に群ごとの違いが顕著でした。具体的には、ASD群では文法能力が高いほど負荷の展開が非効率になり、逆にNT群では文法能力が高いほど効率的になっていました。この傾向は特に3D物体条件で顕著でした。

これらの結果は、ASDでは言語系と視空間系がNTよりも分離して働いている可能性を示し、単なる能力値だけでなく時間的な処理過程を分析することが、ASDにおける認知と言語の相互作用を理解するうえで重要であることを示唆しています。