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成人ASDの完全な一人暮らしは4.6%、トルコにおける生活自立度と社会機能の実態調査

· 11 min read
Tomohiro Hiratsuka
CEO of Easpe, Inc

本記事では、発達障害や関連症状に関する最新の学術研究8本を紹介しています。内容は、成人ASDの生活自立度と社会機能の実態調査、非刺激薬ビロキサジンERのADHD長期治療効果、ASD児の感覚サブタイプと行動・運動スキルの関連、知的・発達障害別の共感と社会スキルの関係、CARS1評価尺度の項目バイアス分析、中国語版ASKSP-Rの妥当性検証、ASD児における予期しないバイリンガル現象の実態、そしてADHD症状の持続に及ぼす併存症の影響といった幅広いテーマを網羅し、診断・評価・介入設計に有用な知見を提供しています。

学術研究関連アップデート

Autism Spectrum Disorder Beyond Childhood: A Comprehensive Assessment of Activities of Daily Living and Social Functioning in Turkish Adults

本研究は、小児期に自閉スペクトラム症(ASD)と診断されたトルコの成人87名を対象に、日常生活動作(ADL)の自立度社会的機能を評価し、それらに影響する要因を分析したものです。評価には、問題行動を測定する「Aberrant Behavior Checklist」、日常生活動作を測る「Lawton IADLスケール」、社会的機能を測る「Social Functioning Scale(SFS)」を用いました。

結果として、**完全に一人暮らしをしているのはわずか4.6%**にとどまり、過半数がADLで何らかの依存状態にありました。自立・社会参加の低さと関連していたのは、運動発達の遅れ、非識字、知的水準の低さ、精神疾患の併存などです。一方、年齢が高い、兄弟が少ないまたは年長である、文章を話し始めた時期が早い、読み書き習得が早い、自閉症症状が軽い、問題行動が少ないといった要因は、ADLや社会的機能のスコア向上と関連していました。

統計モデルによる分析では、

  • ADL自立の主な予測因子:自閉症症状の重症度(CARSスコア)、知的水準、SFSスコア、文章開始年齢

  • 社会的機能の主な予測因子:自閉症症状の重症度、IADLスコア、読み書き習得年齢

    が特定されました。

本研究は、重症度や知的水準が多様なASD成人を対象に、標準化された心理測定法で日常生活と社会的機能の双方を包括的に評価した点が特徴であり、成人期の支援計画策定に有用な知見を提供しています。

Viloxazine Extended-Release Capsules in Children and Adolescents with Attention-Deficit/Hyperactivity Disorder: Results of a Long-Term, Phase 3, Open-Label Extension Trial

本研究は、非刺激薬として米国FDAに承認されているビロキサジン徐放カプセル(Viloxazine ER/商品名Qelbree®)の、長期的な安全性と有効性を評価した大規模フェーズ3オープンラベル延長試験です。対象は、先行するフェーズ2またはフェーズ3二重盲検試験を完了したADHDの小児(6–11歳)と青年(12–18歳)計1,100人で、投与は年齢別に初期用量を設定し、12週間かけて最大400mg/日(小児)または600mg/日(青年)まで漸増、その後維持期に移行し最長72か月間観察されました。

安全性では、主な副作用(発現率5%以上)は鼻咽頭炎(9.7%)、傾眠(9.5%)、頭痛(8.9%)、食欲減退(6.0%)、疲労(5.7%)で、大半は軽度〜中等度でした。重度副作用は3.9%、副作用による中止は8.2%にとどまり、新たな安全性上の懸念は確認されませんでした。

有効性は、ADHD評価尺度(ADHD-RS-IV/5)の総スコアが二重盲検試験開始時から3か月で平均−24.3、12か月で−26.1と大幅に改善し、最終観察時も改善が維持されました。また、臨床全般改善印象(CGI-I)でも継続的な好転が示されました。

総じて、本試験はビロキサジンERが長期にわたり忍容性が高く、ADHD症状の持続的改善が期待できる治療選択肢であることを裏付けています。特に、刺激薬が使いにくい症例や長期管理を要するケースにおいて有用性が示唆されます。

Application of Sensory Subtypes: Understanding Core Autism Features, Adaptive Behaviors, and Motor Skills in Autistic Children

本研究は、自閉スペクトラム症(ASD)の子どもに見られる感覚処理の違いを、既存の「感覚サブタイプ」分類法を用いて分析し、それぞれのタイプが運動スキル、ASDの中核症状、適応行動にどのように関連するかを調べたものです。対象は6〜18歳のASD児118人で、感覚反応パターンに基づき、**軽度型(mild)**53人、**敏感・苦痛型(sensitive-distressed)**45人、**減弱・没頭型(attenuated-preoccupied)**9人、**極端混合型(extreme-mixed)**11人の4群に分類しました。

結果として、軽度型減弱・没頭型は、敏感・苦痛型極端混合型に比べて運動スキルが高く、極端混合型はASDの中核症状がより強く、適応行動も軽度型より低い傾向が見られました。これにより、感覚サブタイプごとに子どもの発達や日常生活スキルへの影響が異なることが明らかになり、感覚特性に応じた早期かつ的確な支援の必要性が示唆されます。

この知見は、ASD児の感覚処理の違いが行動や生活自立度に与える影響を理解し、日常活動への参加を促進するための個別化された介入設計に役立つ可能性があります。

Exploring the Relationship Between Empathy and Social Skills for Individuals with Different Forms of Intellectual and Developmental Disabilities

本研究は、自閉症(AD)・ウィリアムズ症候群(WS)・ダウン症(DS)・定型発達(ND)の4群において、共感能力(empathy)と社会的スキル(social skills)の関係を比較したものです。対象は各群30名(合計120名、平均年齢10〜12歳)で、保護者がEmpathy Quotient(子ども版)とSocial Responsiveness Scale-2を用いて評価しました。

結果として、AD群はWS・DS・ND群に比べて共感スキルが有意に低いことが明らかになりました。また、群ごとに共感スキルと社会的スキルの関連性に違いがあり、特にWS群では共感の低さが社会的動機づけの低さと必ずしも結びつかないという特徴が見られました。

この知見は、知的・発達障害の種類によって共感と社会的行動の関係性が異なることを示し、共感を高める支援や社会スキル訓練を行う際には、疾患特性に応じた個別化アプローチが必要であることを強調しています。

Frontiers | Differential Item Functioning in the Children Autism Rating Scale First Edition in Children with Autism Spectrum Disorder Based on A Machine Learning Approach

本研究は、自閉スペクトラム症(ASD)の子どもを対象に、Childhood Autism Rating Scale 第1版(CARS1)の心理測定特性を検証し、特に項目ごとの公平性(Differential Item Functioning: DIF)を機械学習手法(GPCMlassoモデル)で解析したものです。ラッシュ分析(Rasch Analysis)および部分信用モデル(PCM)の適合性検証により、CARS1は全体として一元的構造(unidimensionality)を満たし、信頼性・妥当性ともに臨床利用可能であることが確認されました。一方で、全項目でカテゴリ構造の乱れや**DIF(年齢・性別・症状分類による測定バイアス)**が認められ、特定の集団ではスコア解釈に偏りが生じる可能性が示されました。これらの結果から、CARS1を臨床で用いる際には、対象者の年齢層・性別・症状特性を考慮して評価を補正する必要があると提案されています。

Frontiers | Localization of the Autism Spectrum Disorder Knowledge Scale Professional Version (ASKSP-R) in Western Cities of China

本研究は、中国西部地域における自閉スペクトラム症(ASD)関連専門職向け知識評価尺度 Autism Spectrum Knowledge Scale Professional Version-Revised(ASKSP-R)翻訳・改訂・妥当性検証を行ったものです。対象は臨床医、教育者、セラピストなどASD支援に関わる専門職で、翻訳後の中国語版ASKSP-Rは高い内的一貫性(Cronbach’s α=0.885)と良好な構造的妥当性(KMO=0.888、RMSEA=0.059)を示しました。確認的因子分析(CFA)では多次元構造が支持され、適合度指標も許容範囲に収まりました。また、項目反応理論(IRT)分析では、全項目が適切な難易度(−3〜+3)と識別力(>0.5)を持つことが確認されました。

この結果から、中国語版ASKSP-RはASD関連知識の評価ツールとして信頼性・妥当性ともに高く、専門職の知識レベルを測定して不足分野に応じた研修・教育の計画早期診断・早期介入の促進に活用できることが示されています。

Journal of Child Psychology and Psychiatry | ACAMH Pediatric Journal | Wiley Online Library

本研究は、自閉スペクトラム症(ASD)の子どもに見られる**「予期しないバイリンガル現象(Unexpected Bilingualism, UB)」、つまり社会環境で使われていない言語を話す能力について、特に言語表出が限られた幼児期に焦点を当てた大規模調査です。対象はASD児119名、非ASDの臨床群102名、定型発達児75名(2〜6歳)で、保護者が子どもの言語使用や言語への興味、環境中の言語比率を回答しました。UBは、社会環境に存在しない言語で文字や数字を言えることと定義されました。結果、ASD群の約39%にUBが見られ、定型発達児より4.38倍高い確率で出現していました。また、ASD児は社会的接触が少ない言語(例:英語)を、実際の接触割合を調整した後でも8.28倍高い確率で使用しており、主な習得源は保護者が報告した非対話型メディアでした。UBの有無は表出言語レベルとは関連せず、ASD児は社会的やり取りに依存せずに言語を習得できる傾向が示されました。このことは、ASDにおける初期言語発達において非対話型の言語習得経路が重要な役割を果たす可能性**を示唆しています。

Journal of Child Psychology and Psychiatry | ACAMH Pediatric Journal | Wiley Online Library

本研究は、ADHD(注意欠如・多動症)の子どもに見られる併存症が、その後の発達段階までADHD症状が持続するかどうかにどの程度影響するかを、26件の研究を対象にした体系的レビューとメタ分析で検証したものです。分析対象の併存症は、内在化障害(不安やうつなど)外在化障害(反抗挑戦症や行為障害など)、および神経発達症の3カテゴリー。結果、内在化障害(効果量 d=0.19)と外在化障害(d=0.31)はADHD症状の持続と有意に関連しましたが、神経発達症は関連が認められませんでした。性別・年齢・他の併存症を統制すると、外在化障害の効果はやや低下(調整後 d=0.24)、内在化障害は有意性を失いました(調整後 d=0.06)。さらに、外在化障害とADHD持続の関連は、親の報告を用いた研究では確認されたものの、教師報告を含む研究では確認されませんでした。この結果は、特に外在化傾向を持つ子どもではADHD症状が長期化しやすい可能性を示しつつも、その一部は報告者の視点や他の要因による影響であることを示唆しています。