タイにおけるASD児の肥満リスク要因
本記事では、発達障害に関連する最新の学術研究を紹介しており、自閉スペクトラム症(ASD)やADHDのある子ども・家族に関する健康、育児、スクリーニング、心理的影響に焦点を当てています。具体的には、ASD児における食生活と睡眠の関係、ADHD児に対する母親の長期的サポートの傾向、ASDリスクの高いきょうだい児に有効なスクリーニング項目、ASDやダウン症の兄弟姉妹の感情予測因としての首尾一貫感覚(SOC)、さらにタイにおけるASD児の肥満リスク要因などが扱われており、発達障害の早期発見・健康管理・家族支援における実践的示唆が示されています。
学術研究関連アップデート
Sleep Disturbances and Dietary Habits in Autism: A Comparative Analysis
この研究は、自閉スペクトラム症(ASD)の子どもと青年を対象に、食生活と睡眠の質の関係を明らかにし、ASD当事者の健康を向上させるための改善可能な要因を探ったものです。スペインにおいて6〜17歳のASD児者158名と非ASDの77名を対象に行われた横断的なケースコントロール研究で、食事内容は食物摂取頻度質問票、睡眠の質は小児用睡眠習慣質問票(CSHQ-SP)およびピッツバーグ睡眠質問票(PSQI)を用いて評価されました。結果として、ASD児者は非ASDの同年代と比べて砂糖の摂取量が多く、果物や野菜の摂取量が少ない傾向があり、特に青年期では清涼飲料水の摂取が顕著でした。睡眠の質はすべての年齢層でASD群の方が有意に低く、入眠の遅れ、睡眠中の異常行動(日中の機能低下を含む)が多く見られました。果物・野菜の摂取と睡眠の質の改善には正の関連が確認され、一方で青年期のASD群においては糖分摂取と睡眠に一時的な良好な関係がある一方で、長期的にはリスクとなる可能性が示唆されました。本研究は、ASDの子どもや青年に対する食事指導と睡眠改善の介入の重要性を示しており、特に果物・野菜の摂取促進と糖分摂取の抑制が、より良い睡眠と全体的な健康の向上に寄与する可能性があることを示唆しています。
A Prospective Study of Maternal Supportiveness among ADHD and non-ADHD Children and Adolescents
この研究は、ADHDのある子どもに対する母親のサポート行動が、幼児期から青年期(3歳〜15歳)にかけてどのように変化するかを追跡した米国の前向き縦断研究です。ADHDを持つ子ども117名と、ADHDのない子ども864名を比較対象として、10地域にわたるデータを用いて母親の「サポートの乏しさ」が評価されました。その結果、ADHDのある子どもはすべての年齢時点において、非常に低い母親のサポートを受ける割合が高く、複数の年齢時点で低いサポートを受け続ける傾向も確認されました。特にADHDのある男児は、女児よりも低いサポートを受ける可能性が高いことが示されました。また、母親の学歴が高いほど、ADHDの有無にかかわらず子どもへのサポートがより良好である傾向も確認されました。この研究は、ADHD児に対する長期的な育児支援の質の重要性や、母親の教育水準と育児態度との関連性を明らかにするものであり、家族支援政策や教育介入において重要な示唆を与えています。
Identifying the Best Discriminating Items for Three Autism Screening Methods in a High-Likelihood Sibling Population
この研究は、自閉スペクトラム症(ASD)のリスクが高いきょうだい児(高リスク群)を対象に、3つの自閉症スクリーニングツール(M-CHAT-R/F、SACS-R、ASDetect)の中で、最も診断区別力の高い質問項目(discriminating items)を特定し、スクリーニング精度の向上を目指すものでした。研究では、12・18・30か月時点でスクリーニングを受けた141人のきょうだい児のデータを使用し、最終的に36〜48か月で自閉症診断の有無が判定されました(22.7%がASDと診断)。M-CHAT-R/Fでは、「指差しを見る」「ごっこ遊び」「要求的指差し」「共感的指差し」「物を見せる」「名前への反応」「視線追従」「指示理解」といった項目が特に区別力に優れていました。これらの項目を抽出した代替スコアリング法「Sing-CHAT」は、M-CHAT-R/F全体よりも優れた診断性能を示しました。一方、SACS-RおよびASDetectは、18か月・30か月時点でほぼすべての項目が診断区別力を持ち、キー項目に限定せず全項目を使用し、カットオフ閾値を下げることでさらに精度が向上しました。年齢・文化・集団によって有効なスクリーニング項目やスコア方法が異なることが明らかになり、スクリーニングの効果を高めるための柔軟なアプローチの必要性が示唆されました。
Predicting the Emotions of Brothers and Sisters of Individuals with Down Syndrome/Autism
この研究は、ダウン症(DS)または自閉症(ASD)の兄弟姉妹を持つ若年成人(18~27歳)の「感情」に着目し、その感情を予測する要因として「首尾一貫感覚(SOC: Sense of Coherence)」がどのように働くかを分析したものです。対象は543人(うちDSのきょうだい306人、ASDのきょうだい237人)で、質問紙により感情(能動的・受動的な否定的感情、肯定的感情)、SOC、属性情報が収集されました。
分析の結果、感情は3因子(能動的否定感情、受動的否定感情、肯定感情)に分類され、SOCはこれらすべての感情に対して有意な予測因子であることが示されました。また、その影響の度合いは「障害の種類(DSまたはASD)」および「本人の性別」によって異なることがわかりました。つまり、障害の種類やきょうだいの性別に応じた感情的ニーズの違いが存在するということです。
本研究は、DS・ASDのある家族を持つ兄弟姉妹への支援の必要性を示すとともに、その支援は一律ではなく、障害特性と性別を考慮した個別的なアプローチが重要であることを示唆しています。
Prevalence and Factors Associated with Overweight and Obesity in Thai Children and Adolescents with Autism Spectrum Disorder: A Retrospective Longitudinal Study
この研究は、タイにおける自閉スペクトラム症(ASD)の子どもと青年(2〜18歳)を対象に、過体重および肥満の有病率とその関連要因を明らかにすることを目的とした後ろ向き縦断研究です。2012〜2018年に児童精神科クリニックで診察された176名のASD児・青年の計1,876回分の診療データが分析されました。
その結果、ASD児の35%が過体重または肥満であり、初診時の27.3%から最終診察時には37.5%に増加していました(BMI Zスコアも有意に上昇)。抗精神病薬の使用は肥満リスクの上昇とわずかに関連しており(調整オッズ比1.499)、一方で年齢の増加、精神刺激薬の使用、気分障害の併存はBMI Zスコアの低下と関連していました。逆に、ADHDの併存はBMI Zスコアの上昇と関連していました。
このことから、ASDの子どもは一般の子どもよりも過体重・肥満のリスクが高く、特に向精神薬の使用や併存する精神疾患がそのリスクに影響を与えていることが示唆されます。したがって、早期の精神科的評価、体重の定期的モニタリング、そして個別化された介入が重要であると結論づけられています。