センサーと機械学習を活用し重度・重複障害のある方の意図を把握しようとするINSENSIONシステム
本ブログ記事では、発達障害や重度知的障害を含む多様な支援ニーズを持つ子ども・若者に関する最新の国際研究を紹介しています。スウェーデンの強制入所施設における若年男性の高い精神疾患有病率や、子どものむずむず脚症候群と成長痛の関連性、発達性言語障害(DLD)コミュニティへの研究成果のわかりやすい伝達手法、ADHDのある子どもにおける選択的摂食と感覚過敏の関係性、そして重度・重複障害者の非言語的な意思表出を支援するINSENSIONシステムなど、多様なテーマを通じて、支援現場や当事者の視点に立った研究の重要性と、科学的知見を社会実装へとつなげるアプローチが浮き彫りになっています。これらの研究は、福祉・教育・医療分野の実践に貢献する知見を提供すると同時に、当事者の自律性や参加を尊重する支援の在り方を再考させる内容となっています。
学術研究関連アップデート
Associations between sleep problems, cortical morphometry, and structural brain network organization in preschool children with autism: a retrospective observational study
この研究は、自閉スペクトラム症(ASD)の未就学児(183人)を対象に、睡眠の問題が脳の構造的発達にどのような影響を及ぼすかを調べた後ろ向き観察研究です。睡眠の問題の有無は「小児睡眠習慣質問票(CSHQ)」に基づいて分類され、MRI画像データを用いて脳の68領域にわたる皮質体積を解析し、さらに**脳構造の協調的な発達を示す「構造的共分散ネットワーク(SCN)」**をグラフ理論で評価しました。
主な結果として、全体的な皮質・皮質下の体積に有意な差は見られなかったものの、睡眠問題のある子どもでは「局所的な脳ネットワークのつながり(クラスタ係数や局所効率)」が低下しており、脳全体の統合的効率は保たれているものの、小世界性(Gamma、Sigma)の指標にも異常が見られました。探索的な解析では、視覚や社会的認知に関わる脳領域(後頭葉内側の皮質や右側眼窩部の脳領域)に局所的な体積差がある可能性や、反復行動や引きこもり傾向と脳体積との関連が示唆されましたが、これらはいずれも多重比較の補正後には統計的有意性を保ちませんでした。
本研究は、ASD児の睡眠問題が感覚処理や社会的認知に関係する脳ネットワークの局所的な異常と関連する可能性を示し、幼児期における神経発達評価において「睡眠」を考慮する重要性を強調しています。ただし、探索的な所見であり、今後は客観的な睡眠データを用いた縦断研究が求められます。
Assessing the effects of methylphenidate in proliferation and Wnt activity of neuronal stem cells from attention deficit/hyperactivity disorder patients
この研究は、注意欠如・多動症(ADHD)患者の神経幹細胞(NSC)の増殖とWntシグナル経路に対するメチルフェニデート(MPH)治療の効果を調べたものです。ADHDは世界的に最も一般的な神経発達障害であり、発症には遺伝的要因と環境要因が複雑に関与しています。特に、神経発達における細胞の増殖や分化を制御するWntシグナル経路は、ADHDの発症にも関連していると考えられています。
研究では、誘導多能性幹細胞(iPSC)から分化させたNSCを使い、ADHD患者と健常対照者(それぞれ5名)の細胞増殖を比較しました。その結果、ADHD患者由来のNSCでは、細胞増殖が有意に低下していることが再確認されました。MPH(10nM)を投与することで、ADHD NSCの増殖がわずかに改善し、Wntシグナルにも影響を与えることが示されました。しかし、Wntシグナルを阻害する物質(DKK1)をあらかじめ使用した場合には、MPHによる増殖効果は見られませんでした。
このことから、MPHはWntシグナル経路を介してADHDにおける神経発達異常を部分的に改善している可能性があり、今後の分子レベルでの治療理解や新たな治療戦略の糸口になると示唆されています。
Identification of LRFN1 as a novel synaptopathy gene in a child with autism
この症例報告は、自閉スペクトラム症(ASD)の原因として新たに「LRFN1」遺伝子が関与している可能性を示唆する内容です。ASDは近年、「シナプスの病気(シナプソパチー)」と位置付けられることが多く、特にシナプス接着分子に関連する遺伝子の異常が注目されています。
報告されたのは、2歳3か月の非症候性ASDと診断された男児のケースで、染色体検査やマイクロアレイ検査では異常は見られませんでしたが、全エクソーム解析によりLRFN1遺伝子に新規の変異(c.176T>C, p.Val59Ala)が発見されました。この変異は両親には存在しない「de novo(新規発生)」変異であり、in silico解析(計算機による予測)でも病的である可能性が高いと判断されました。
LRFN1はシナプス形成に関与するタンパク質であり、自閉症との関連が以前から知られているPSD-95(後シナプス密度95)タンパク質と直接相互作用することが分かっています。
この結果は、LRFN1がASDの新たな関連遺伝子(候補)である可能性を示し、シナプス機能障害を通じたASDの理解や診断・治療研究に新たな視点をもたらすものです。
Assessing the outcomes of students with special educational needs in inclusive education: A comparative study of Germany, Ireland, and Italy
この論文は、ドイツ、アイルランド、イタリアの3か国を比較しながら、特別な教育的ニーズ(SEN)を持つ生徒のインクルーシブ教育における成果の評価とそのためのデータ収集の現状を検討しています。国際的な視点と各国の研究・教育政策をもとに、SENのある生徒に関するデータの整備状況を分析した結果、データの分類方法や開示レベルの違いにより、国をまたいだ比較が困難であることが明らかになりました。また、驚くべきことに、データの有無が政策形成に大きく影響していない可能性も指摘されています。
論文では、SENのある生徒の成果を測る際に、標準化テストだけでは不十分であるとし、特別支援学校と通常学級の両方の文脈を含んだ、より全人的・縦断的な評価アプローチの必要性を提案しています。評価方法の限界や課題を明らかにしながら、より質的・継続的なデータ収集と分析の枠組み構築が、今後のインクルーシブ教育の質向上に不可欠であることを論じています。
Frontiers | Cooking for Disability: A Pilot Study on Nutritional Interventions for Mental Health Support in Adults with Autism Spectrum Disorder
この論文は、重度の自閉スペクトラム症(ASD)をもつ成人に対して、バイオマーカーに基づく個別栄養介入が行動面および生物学的な異常の改善に効果をもたらすかどうかを検討したパイロット研究です。イタリア・モデナにあるASP Charitasの施設に居住する7人の重度ASD成人(レベル3)が対象となり、12か月間の栄養介入プログラムが実施されました。この介入は、炎症の抑制、脂肪酸バランスの最適化、代謝のサポートを目的とした食事によるものでした。
行動評価(CARS-2-ST、DASH-II、ABC、SSP)と生物マーカー(IL-6、便中カルプロテクチン、ビタミンD、HbA1c、赤血球脂質プロファイル)は、介入前・6か月後・12か月後に測定されました。その結果、自閉症の中核症状や問題行動が有意に改善し、感覚処理の異常も安定またはやや改善が見られました。さらに、炎症マーカーの低下、ビタミンDの増加、インスリン感受性の改善といった生化学的な好転も確認されました。脂質プロファイルにおいては、抗炎症性のオメガ3脂肪酸(DHAやEPA)の増加と、オメガ6/オメガ3比の低下が認められ、行動面の改善と相関していることも示されました。
この結果から、重度ASDの成人においても、個別化された栄養介入が行動面・生物学的指標の両方に改善効果をもたらす可能性があることが示唆されました。ただし、さらなる研究により、より洗練された個別栄養戦略の確立が求められます。
Frontiers | The gut commensal Faecalibacterium hominis attenuates indole -AhR signaling and restores ASD -like behaviors with BTBR mice
この論文は、自閉スペクトラム症(ASD)に関連する腸内細菌-腸-脳軸の異常に着目し、腸内常在菌であるFaecalibacterium hominis(F. hominis)4P-15株が、ASD様行動にどのような改善効果をもたらすかをBTBRマウスモデル(ASDの特徴を示すマウス)を用いて検証した研究です。
研究では、F. hominisを経口投与することで、腸内および脳内のインドール代謝産物(IPAやIAAなど)が減少し、それに伴ってアリール炭化水素受容体(AhR)シグナル伝達が抑制されることが確認されました。このAhR経路の抑制により、グルタミン酸輸送体やGABA受容体の発現が上昇し、興奮性/抑制性の神経伝達バランスが回復、結果としてマウスの社会的相互作用の改善や常同行動の軽減といったASD様の行動が緩和されました。
本研究の成果は、ASDにおいて腸内細菌のバランスと神経発達の異常が密接に関係しており、F. hominisを用いたプロバイオティクス療法や、インドール–AhR経路を標的とした介入が新たな治療法として有望であることを示唆しています。
Frontiers | The value of intellectual structural imbalance in the differentiation of Autism Spectrum Disorder and Attention Deficit Hyperactivity Disorder
この研究は、高機能自閉スペクトラム症(HF-ASD)、注意欠如・多動症(ADHD)、およびその併存(ASD+ADHD)のある児童における知能構造の特徴的な違いを明らかにし、臨床診断や治療戦略の精緻化に役立てることを目的としています。対象は中国・重慶医科大学附属小児病院の6.5〜13歳の外来児200名で、全体IQは70〜130の範囲でした。
主に中国版ウェクスラー児童用知能検査(C-WISC)を用いて評価し、分析の結果、以下のような傾向が明らかになりました:
- 併存群(ASD+ADHD)は、HF-ASDやADHD単独群よりも全体IQが有意に低い。
- HF-ASDおよび併存群では、言語性IQ(VIQ)より動作性IQ(PIQ)が高い(視覚的・空間的処理に強み)。
- 特に「積木模様」や「図形完成」などの知覚統合課題でHF-ASDと併存群は高得点を示し、これはADHD群との識別に役立つ指標となります。
- 一方、ADHD群ではVIQがPIQより高く、作業記憶課題(例:数唱、算数)でHF-ASD群よりも低得点でした。
- HF-ASDと併存群は、特定のサブテストで得点が非常に高い(「積木模様」「図形完成」)一方、得点が低いサブテスト(「絵の完成」「知識」「算数」など)もあり、**得点の山谷が大きい(約3標準偏差)という特徴があります。対して、ADHD群では山谷の差が小さい(約2標準偏差)**傾向が見られました。
このように、知能検査におけるプロファイルの山谷(ピークと谷の分布)やIQ構成の違いは、HF-ASD、ADHD、両者の併存を鑑別するための有用な手がかりとなる可能性があります。今後の臨床評価や個別支援計画に活用されることが期待されます。
Frontiers | Diagnosing the autism spectrum disorders by using a Double Deep Q-Network Framework Based on the Digital Footprint
この研究は、Twitter上の投稿内容(デジタルフットプリント)を分析することで自閉スペクトラム症(ASD)の診断を補助するAIモデルの可能性を検証したものです。ASDは社会的・感情的な困難を伴う神経発達症でありながら、スクリーンベースの技術には強い関心や適応力を示す傾向があります。そのため、SNS上の発言内容にASD特有のパターンが現れる可能性があると考えられています。
本研究では、ASD当事者と非当事者によるTwitter投稿(ASD群172ツイート、非ASD群158ツイート)を対象に、テキストの前処理(小文字変換・記号削除・トークナイズ)を行い、深層強化学習モデル「Double Deep Q-Network(DDQN)」を応用した分類器を開発しました。また、比較のためにCNN-LSTMやLSTMなどの既存の自然言語処理モデルも併用されました。
結果として、DDQNベースのモデルは87%という高い精度でASDのツイートを識別することができ、他モデルよりも優れた性能を示しました。これは、SNS投稿に現れる言語や感情表現の違いから、ASDの特徴を抽出するAI技術の実用可能性を示唆しています。
このアプローチは、従来の医療現場では捉えにくかった日常的な行動パターンや情緒的反応を分析対象にできる点が新しく、将来的には医師や臨床心理士が症状の把握や早期スクリーニングを行うための補助手段としての応用が期待されます。
Frontiers | Writing as Cognitive Rehabilitation in MCI & Dementia: A Systematic Review of Therapeutic Benefits and Applications
この研究は、軽度認知障害(MCI)や認知症における非薬物的な認知リハビリテーション手法として、「書くこと(writing)」が持つ治療的効果を系統的にレビューしたものです。近年、認知症に対する薬物療法の限界が指摘される中で、日常的かつ文化的に親しみやすい「書く行為」が、記憶力・注意力・実行機能の改善だけでなく、感情の安定や社会的つながりの促進にも貢献する可能性が注目されています。
このレビューでは、1991年から2024年にかけての関連研究をPRISMAガイドラインに則って収集・分析し、手書き、タイピング、詩の創作、日記、メモリーノート、中国書道などの多様な書字活動が取り上げられました。これらは単なる記録行為ではなく、「自己の記憶やアイデンティティを再構築し、感情を調整し、認知的回復力を高める手段」として機能していることが明らかになりました。
とくに書道のような活動は、記憶・運動スキル・集中力を同時に使うため、高い統合的効果があり、かつ低コストで文化的にも受け入れやすい手法として評価されています。
総じて本研究は、「書くこと」を認知症ケアの現場で活用することの意義と、文化や個人の背景に合わせた柔軟な応用の可能性を示しており、今後の認知リハビリテーションにおける有望な選択肢として位置づけられています。
Frontiers | The value of intellectual structural imbalance in the differentiation of Autism Spectrum Disorder and Attention Deficit Hyperactivity Disorder
この研究は、高機能自閉スペクトラム症(HF-ASD)、注意欠如・多動症(ADHD)、およびその併存(ASD+ADHD)を持つ子どもたちの知能構造の特徴の違いに注目し、診断の精度向上と個別的な支援方法の開発に貢献することを目的としたものです。
🧠 研究概要
- 対象者:IQ70〜130の外来患者200名(6.5〜13歳)
- HF-ASD:91名
- ADHD:47名
- ASD+ADHD併存:62名
- 評価手法:**中国版ウェクスラー児童用知能検査(C-WISC)**を使用し、各下位検査スコアをSPSSにて分析。
🔍 主な発見
- 全体IQ(TIQ)
- 併存群(ASD+ADHD)が最も低い(p<0.001)
- 言語性IQ(VIQ)と動作性IQ(PIQ)の差
- HF-ASDと併存群ではVIQ < PIQ(HF-ASD: p=0.017、併存: p=0.007)
- ADHD群ではVIQ > PIQ(p=0.020)
- 知覚統合(PIQ)に関連する課題の成績
- HF-ASDと併存群が、ブロックデザインや組立課題でADHD群より高得点
- ワーキングメモリ(作動記憶)
- ADHD群のスコアはHF-ASD群よりも有意に低い
- 得点の山と谷(ピークとバレー)
- HF-ASDと併存群はブロックデザイン・組立がピーク
- 絵の完成・知識・算数で低得点(バレー)
- ADHD群はピーク・バレーの差が約2標準偏差にとどまるのに対し、HF-ASDおよび併存群では約3標準偏差と大きな差が見られた
🧩 意義と応用
この知能構造の「不均衡」パターン(例:VIQとPIQの差、特定下位検査の極端な得点差)は、HF-ASD、ADHD、併存症状を区別する臨床的マーカーとして有効である可能性があります。
特に、
- HF-ASDや併存群では視覚・空間能力が相対的に強い
- ADHDでは言語的な優位性や記憶の弱さが目立つ
という傾向は、診断の補助や個別化支援計画の設計に役立ちます。
✅ 結論
本研究は、**IQテスト内の下位項目スコアのバランスの違い(構造的不均衡)**が、ASDとADHD、そしてその併存を識別するための有力な手がかりとなりうることを示しました。従来の単一スコア評価では見えにくかった認知プロファイルの違いが浮き彫りになり、より精緻な支援・治療の実現に貢献する成果といえます。
Frontiers | Prevalence of mental disorders among young males in Swedish compulsory residential care
この研究は、スウェーデンの強制的な居住型ケア施設(少年院等)に収容されている16〜21歳の若年男性を対象に、精神疾患の診断率、未診断の症状、併存疾患、および急性精神的危機状態の有無を調査したものです。
🧠 研究概要
- 目的:犯罪、薬物依存、社会的に有害な行動によって施設に入所している若年男性における、精神疾患の実態を明らかにすること。
- 方法:心理士が医療記録等をもとに、DSM-5に基づいた精神疾患や症状について、各入所者ごとにオンライン質問票を記入。
- 対象者:219名中の53%(約116名)のデータを収集。
🔍 主な結果
- 診断済みの精神疾患の有病率:77%
- 精神疾患の併存(複数疾患の同時存在):46%
- 主な診断内訳:
- ADHD(注意欠如・多動症):57%(最も多い)
- SUD(物質使用障害):20%
- CD(素行症):14%
- ASD(自閉スペクトラム症):14%
- PTSD(心的外傷後ストレス障害):12%
- 未診断ながら臨床的症状が見られた者も多く存在
- 急性の精神的危機状態:10%
🧩 考察と解釈
- ADHDとSUDの有病率が過去研究よりも高い
- スウェーデンでは近年ADHDに対する臨床的・社会的認知が高まり、DSM-5の診断基準の改訂と相まって、診断精度が向上した可能性
- CD(素行症)の診断率が低かった点は意外な結果
- ADHD診断が優先される傾向にあることや、CDの診断が回避されやすい背景が関係している可能性
✅ 結論
スウェーデンの矯正施設における若年男性の多くがADHDやその他の精神疾患を抱えており、併存症例も非常に多いことが明らかになりました。また、未診断ながら深刻な症状を呈する例も多数存在しており、精神的支援の必要性が強く示唆されます。
本研究は、矯正施設内の精神保健サービスの強化や早期診断・介入の重要性を再認識させるものであり、今後の制度設計や支援プログラムの改善において重要な示唆を提供しています。
Frontiers | Restless Legs Syndrome and Growing Pains in Childhood: Understanding the link
この論文は、小児に多く見られる**むずむず脚症候群(Restless Legs Syndrome: RLS)と成長痛(Growing Pains: GP)**の関係について検討したレビュー研究です。両者は似たような症状を持つため、正確な診断や治療方針の確立が困難であることから、その共通点や違いを明らかにすることが目的です。
🔍 研究の背景
- RLS(むずむず脚症候群):じっとしているときに脚を動かしたくなる強い衝動が起こる神経疾患。夜間に悪化しやすい。
- GP(成長痛):主に就寝中や夕方に起こる脚の痛み。片頭痛や不安との関連が指摘されている。
- 両者は子どもに多く、症状が重なるため誤診されやすい。
📚 方法と対象
- 2000〜2024年に発表された文献(PubMed)をレビュー
- 対象は18歳未満のRLSまたはGP診断を受けた児童に関する英語論文24件
🧠 主な知見
- 共通の生理学的因子:
- セロトニンの機能不全
- 鉄欠乏
- ビタミンD不足
- 遺伝的要因:どちらの疾患も家族歴との関連が示唆されている
- 関連症状:両者ともに
- 頭痛
- 睡眠障害
- ADHDなどの神経精神的疾患との関連あり
- 治療:
- 鉄分補給
- ドパミン作動薬
- ストレッチや運動などの非薬物療法
💬 考察と結論
- RLSとGPは別の疾患ではあるが、共通する生物学的基盤を持つ可能性がある
- GPは、RLSの初期段階や未分化な表現型である可能性も示唆される
- 診断が難しいため、明確な診断基準と病態理解の深化が必要
- 将来的には、遺伝的・神経生物学的研究を通じた区別と治療法の最適化が求められる
✅ 要約(まとめ)
この論文は、むずむず脚症候群と成長痛の症状や病因の重なりに着目し、両者の関係性を整理しています。成長痛はRLSの前駆症状である可能性もあり、正確な診断と早期介入のためには、生物学的メカニズムと診断基準のさらなる研究が必要であると結論づけています。
Making Research Accessible to the Developmental Language Disorder Community: A Mixed Methods Study Using the Nominal Group Technique
この研究は、「発達性言語障害(DLD: Developmental Language Disorder)」を持つ子どもやその家族、支援者(言語聴覚士や教師など)が科学研究にアクセスし理解することの難しさに注目し、研究成果をよりわかりやすく届けるにはどうすればよいかについて、DLD当事者・家族の視点から明らかにしようとした初の試みです。
🔍 背景と目的
DLDのある人々やその支援者にとって、研究論文の専門的な言葉づかいや入手のしにくさが、研究へのアクセスの大きな障壁となっています。こうした人々が研究内容に触れられるようにすることは、支援の質の向上や当事者のエンパワメントにつながるにもかかわらず、これまで当事者の視点から「どう伝えるべきか」が議論されたことはありませんでした。
この研究の目的は、DLDコミュニティが望む研究の伝え方(フォーマットや言葉の使い方)を探ることです。
🧪 方法
- 対象者:世界各国のDLD児の保護者8名+言語聴覚士1名(うち1名は自身もDLD当事者)
- 手法:ノミナル・グループ・テクニック(NGT)という構造化されたグループ討論形式を用いて、参加者が意見を出し合い、重要だと思う手法を投票によって順位づけ。
- さらに、話し合いの内容を質的分析して、どのような考え方や要望があるかを整理。
📊 主な結果
優先順位の高かった研究発信の形式(上位)
- やさしい言葉での要約(Plain language summaries)
- チラシ・パンフレット(Flyers/pamphlets)
- インフォグラフィックス(図解資料)
- 短い動画(Short videos)
質的分析で見えた4つの提言カテゴリ:
- テキスト形式の工夫(例:簡潔で親しみやすい文章)
- 静的なビジュアルの活用(例:図・イラスト)
- 動的なメディアの活用(例:動画・ナレーション付き資料)
- 言葉の調整や当事者の巻き込み(例:専門用語の回避、DLD当事者と一緒に作る)
💡 結論と意義
本研究は、DLDコミュニティの人々がどのような形で研究にアクセスしたいか、理解しやすいと感じるかを初めて明らかにしました。研究者にとっては、「成果を伝える方法」そのものがアウトリーチの質を左右することを示す重要な示唆となります。
また、こうしたアプローチはDLD当事者や家族を研究の一部として巻き込む第一歩にもなり、今後の支援や啓発、当事者主体の研究参加を促進する可能性があります。
✅ 要約
DLD当事者や家族の声を通じて、「研究成果はもっと簡潔で視覚的・親しみやすくあるべきだ」というメッセージが明確になり、研究の“伝え方”自体を見直す必要性が示された画期的な研究です。
Unanticipated Pathological Laughter Following Atomoxetine Administration in a Child With Autism Spectrum Disorder and Attention‐Deficit/Hyperactivity Disorder
この論文は、発達障害(自閉スペクトラム症:ASDと注意欠如・多動症:ADHD)を併せ持つ6歳の男児において、アトモキセチン(商品名:ストラテラ)というADHD治療薬の投与後に突発的な異常笑い(病的笑い)が出現した珍しい症例を報告しています。これまでアトモキセチンに関連して「病的笑い」が報告された例はなく、本件は初の報告とみられます。
🔍 症例の概要
- 対象児:6歳男児。ASDとADHDの診断あり。
- 既往:多動や攻撃性があり、リスペリドンとクロニジンでコントロールされていた。
- 経過:
- アトモキセチンを5mg/日(体重比0.25mg/kg)で開始。
- 開始**5日後から、理由のない笑い発作(2〜5分程度)**が頻発。1日に何度も起こる。
- 薬は中止せず継続しながら、リスペリドンをわずかに増量したところ、10日以内に笑い発作は消失。
- その後、注意力・アイコンタクト・協力行動の改善が見られた。
- アトモキセチンを10mg/日に増量しても、異常笑いは再発しなかった。
💡 考察と意義
- アトモキセチンは**ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(NRI)**で、ADHDに効果があるとされており、ASDの併存例にも用いられています。
- 一方で、気分変調や精神症状が副作用として報告されているが、病的笑いはこれまで知られていなかった副作用です。
- 本症例では、笑いの持続は一時的で、薬剤の効果が安定する過程で自然に収束しました。
- 家族歴に双極性障害ありという点も、気分症状の出現リスクに影響した可能性があり、カテコールアミン(ノルアドレナリンなど)の気分調整への作用との関連が指摘されています。
✅ 結論
この症例は、アトモキセチンによる一時的かつ予測困難な副作用としての「病的笑い」の可能性を示唆しており、特に神経発達症の子どもや気分障害の家族歴がある場合には、慎重な観察と個別対応が重要であることを強調しています。今後、この現象のメカニズムやリスク因子を明らかにする研究が求められます。
Selective Eating and Sensory Sensitivity in Children With ADHD: A Comparative Study of ARFID Symptom Profiles
この研究は、**ADHD(注意欠如・多動症)の子どもたちに見られる「選り好みの激しい食行動(偏食)」が、近年注目されている摂食障害の一種であるARFID(回避・制限性食物摂取症)**の症状とどのように関係しているのかを調べたものです。特に、感覚過敏(とくに口腔感覚)との関連性にも焦点を当てています。
🔍 背景と目的
ADHDのある子どもには、特定の食べ物を極端に嫌ったり避けたりする「選択的な食行動」がよく見られます。しかし、それが医学的に介入が必要なレベルの摂食障害(ARFID)とどこまで重なっているのか、またその背景に感覚の過敏さが関係しているのかは、これまであまり研究されてきませんでした。
この研究の目的は以下の2点です:
- ADHDの子どもと定型発達の子どもを比較して、ARFID症状(偏食など)の出方に違いがあるかどうか
- ADHDの子どもの中で、感覚の過敏さ(特に口の感覚)と偏食傾向が関係しているか
🧪 方法
- 対象:6〜12歳の子ども231人(ADHD群138名、定型発達群93名)
- 使用した質問票(すべて保護者記入):
- ARFID症状チェック(NIAS)
- ADHD症状(Conners’ Parent Rating Scale)
- 不安・うつ症状(RCADS)
- 感覚プロファイル(Sensory Profile)
年齢と性別を統制しつつ、偏食スコアに影響を与える要因を階層的回帰分析で検証。
📊 主な結果
- ADHD群は、定型発達の子どもよりも偏食傾向(ARFID関連症状)が有意に強く、特に口や複数感覚に関する過敏さも高かった。
- ADHD群内での分析では:
- ADHDの症状が重いほど偏食傾向が強い
- 口の感覚過敏が低い子ほど偏食傾向が強い(逆相関)
- これらの要因は、偏食傾向のスコアの約33%を説明可能であった。
💡 考察と意義
この研究から得られる重要な知見は以下の通りです:
- ADHDの子どもにおける偏食は、単なる好き嫌いではなく、ADHD自体の症状や感覚処理の特性と深く関係している可能性がある。
- 特に**「口腔感覚の鈍さまたは過敏さ」**が、食の好みや回避行動に影響していることが示唆された。
- つまり、ADHDの子どもが偏食を示したとき、背景に感覚過敏やADHDの行動的特性が関与していることを理解することで、より適切な支援や介入が可能になる。
✅ 結論
ADHDの子どもたちに見られる偏食は、ADHD症状と感覚特性(特に口の感覚)に関連しており、ARFID的な症状を示すケースも少なくないことが明らかになりました。今後、早期スクリーニングや介入方法の改善につながる研究が期待されます。
Intelligent Supportive System for People with Profound Intellectual and Multiple Disabilities
この研究は、重度・重複障害(PIMD:Profound Intellectual and Multiple Disabilities)をもつ人々のために開発された「INSENSIONシステム」というインテリジェント支援システムを紹介しています。PIMDのある人々は、言語による象徴的なコミュニケーションができないことが多く、その結果、自分の気持ちやニーズを周囲に伝えることが非常に困難で、支援者も本人の状態を読み取るには深い理解と経験が必要とされてきました。
この課題を解決するためにINSENSIONシステムは、音声・映像による非侵襲的なセンサー技術と、機械学習アルゴリズム、専門家の知見を組み合わせることで、PIMDのある人の**非言語的なシグナル(NVS:Nonverbal Signals)**を検出し、意味づけする機能を提供します。これにより、たとえば「不快」「興味がある」「疲れている」といった本人の状態を、介助者がリアルタイムに把握できるようになります。
さらに、このシステムは、本人がスマートルームやメディアプレイヤーを操作できる機能も備えており、間接的に自分の環境をコントロールできる手段としても活用されます。評価の結果では、NVSの認識精度は良好であり、本人の自律性や生活の質の向上に貢献していることが示されました。
総じて、本研究は重度障害のある人々が「自分らしく生きる」ためのテクノロジーの可能性を切り開く実践的な試みであり、今後のインクルーシブな支援技術開発において重要な一歩となる内容です。