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知的・発達障害のある若者への職業訓練プログラムの効果

· 14 min read
Tomohiro Hiratsuka
CEO of Easpe, Inc

本記事では、発達障害に関連する最新の学術研究と社会的動向を紹介しています。具体的には、ディスレクシアを持つ成人の体験や、発達障害と月経前症状との関連、ADHD当事者の医療移行支援に関する合意形成、知的・発達障害のある若者への職業訓練プログラムの効果、自閉症バーンアウトの評価尺度の妥当性、ASD児における睡眠紡錘波の異常、ASDと社交不安を併せ持つ若者の症状認識のズレなど、多様なテーマを扱っています。これらの研究は、当事者の経験に即した支援や診断、介入の在り方に対する新たな視点と実践的示唆を提供しています。

社会関連アップデート

  • *米保健福祉省(HHS)は、インフルエンザワクチンから保存料のチメロサール(有機水銀化合物)を除去する方針を決定しました。**これは、チメロサールが自閉症の原因と主張してきた反ワクチン活動家にとっての勝利とされています。ロバート・F・ケネディ・ジュニア保健長官は、「安全な代替がある以上、少量でも水銀を子どもに注射するのは不適切」と述べ、除去に署名しました。

ただし、CDCは「チメロサールと自閉症の関連性は科学的に否定されている」としており、2001年に小児ワクチンから除去された後も自閉症の発生率は上昇し続けていると説明しています。

ワクチンメーカー各社はチメロサールなしの製品で今後も安定供給できるとしています。また、ケネディ長官はワクチンに批判的な姿勢を取る新たなメンバーを含む形で、諮問委員会の全メンバーを交代させたことも報じられています。

学術研究関連アップデート

Understanding the experience of adults with dyslexia: a quantitative and qualitative analysis

この研究は、ディスレクシア(読字障害)を持つ成人の経験を、量的データと質的データの両面から分析した混合研究です。ディスレクシアは読み書き・綴りに持続的な困難をもたらす神経生物学的な障害ですが、成人の体験を研究するには「診断時期の違い」や「併存する他の障害」など、多様な要因が絡むため複雑です。

研究の主なポイント:

  • 量的分析では、診断年齢や経験の肯定性/否定性に関して、読字の困難さの自己評価、家族歴、併存障害、自身の障害感・知能感・挫折感・怠惰感・自制心・自己効力感などの要素が関連していることが明らかになりました。
  • *CART(分類・回帰木分析)**では、「診断が早い or 遅くても併存症状がない人」は、よりポジティブまたは中立的な経験を報告する傾向が見られました。
  • 質的分析からは6つのテーマが抽出されました:
    1. ディスレクシアによる内面的影響
    2. 自身の体験の主観的な認識
    3. 他者からの見られ方に対する認識
    4. 時間経過による体験の変化
    5. 障害を受け入れる過程
    6. 対処スキルの獲得

結論:

本研究は、診断のタイミングや併存障害の有無が、ディスレクシアのある成人の自己評価や人生経験に大きく影響することを示しています。早期診断と適切な支援が、その後の生活における前向きな適応に重要であると強調されています。

Association between premenstrual syndrome or premenstrual dysphoric disorder and presence of ASD or ADHD among adolescent females: a retrospective study

この研究は、月経前症候群(PMS)や月経前不快気分障害(PMDD)と、自閉スペクトラム症(ASD)および注意欠如・多動症(ADHD)との関連性を、10〜19歳の女子を対象に調査した後ろ向き研究です。PMSやPMDDは一般集団では広く研究されていますが、ASDやADHDのある思春期女性における実態はこれまで十分に明らかにされていませんでした

方法

電子カルテの記録から290人のデータを抽出し、以下の標準化された評価尺度を用いて分析しました:

  • QIDS(うつ症状評価)
  • AQ(自閉傾向評価)
  • PMDDスケール(PMSの重症度評価)

主な結果

  • 中等度〜重度のPMSはADHDおよびADHDとASDの併存群で有意に多く見られました(ADHD単独のオッズ比2.43、ASD+ADHD併存のオッズ比3.27)。
  • 一方で、ASD単独ではPMSの重症度との有意な関連は見られませんでした
  • PMSの重症度にはうつ症状の存在が強く関与していることも示されました。

結論と示唆

  • ADHDのある思春期女子、特にADHDとASDの両方を持つ場合は、月経前の心理的苦痛を抱えるリスクが高いことが明らかになりました。
  • ASDの特性自体はPMS重症度とは直接関連しない可能性が示唆されますが、注意や感情の調整困難がPMSの背景にあることから、ADHDに特化した支援や介入の重要性が強調されています。
  • PMSに対する早期スクリーニングと個別化された対応が、このような対象群のQOL向上に寄与すると考えられます。

この研究は、発達障害のある女子における月経関連症状の理解と支援の在り方に新たな視点を提供するものです。

Delphi consensus on the transition from pediatric to adult care in Italian ADHD youth

この研究は、イタリアにおけるADHD(注意欠如・多動症)のある若者が小児期の精神保健サービス(CAMHS)から成人期の精神保健サービス(AMHS)へと円滑に移行できるようにするための合意形成型の推奨事項(ガイドライン)を策定したものです。

方法

  • Delphi法という専門家の意見集約手法を修正して使用し、以下の27名のステークホルダーを対象に実施:
    • 小児精神科医、成人精神科医、心理士、かかりつけ医、ADHDのある若者本人とその保護者
  • 先行研究(TransiDEAプロジェクト)や国際ガイドライン(NICE、Ready Steady Goなど)を基に33の推奨項目を提示し、2ラウンドにわたり「妥当性」と「実現可能性」の観点から評価。
  • 75%以上の合意を得た22項目が最終的な推奨事項として採用され、以下の4つのカテゴリに分類されました:

主な推奨項目(例)

  1. 移行の計画(14項目):
    • 16歳から移行計画を開始
    • 家族や異なる診療部門のチームによる関与
  2. 移行の実施(passage)(4項目):
    • 情報共有を円滑にするための実用的ツールの導入
  3. 移行後のモニタリング(1項目):
    • 移行後の若者の状態を追跡評価
  4. システム・サービス改善(3項目):
    • スタッフの研修や、サービス提供体制の自己評価の仕組みの導入

結論と意義

この研究は、多様な当事者の視点と国際的な知見を統合した、実用的かつ柔軟なADHD移行支援の枠組みを提供しており、今後イタリア国内での導入や評価が期待されます。また、この合意形成モデルは、他の神経発達症(自閉スペクトラム症など)にも応用可能であり、より広い支援体制構築の一助となると示唆されています。

Vocational training for youth with intellectual and developmental disabilities: a program evaluation of the Impact Project

この研究は、カナダ・ブリティッシュコロンビア州で実施された知的・発達障害(IDD)のある若者向け職業訓練プログラム「Impact Project」の評価を行ったものです。対象は15〜19歳の若者279名で、2020〜2022年に地域の8つのコミュニティ組織が主催したサマープログラムに参加しました。

目的

学校を卒業して社会へ移行する段階にあるIDDの若者に対し、地域密着型かつ本人中心の職業訓練が就労体験にどのような影響を与えるかを評価することです。

方法

  • 事前・事後のアンケートと活動日誌を用いて、職業スキルや就労体験(無給・有給含む)の変化を把握
  • 「形成的評価(formative evaluation)」を採用し、プログラムの効果と改善点を検討。

結果

  • プログラム参加後、ソフトスキル(対人関係スキルなど)が向上
  • 無給・有給の就労経験が増加し、実際の職場環境への接続が促進された。

結論と意義

この研究は、早期からの、地域に根ざした本人中心の職業訓練が、IDDの若者の就労移行を支援する上で効果的であることを示しました。今後の雇用支援政策においては、個々のニーズを重視したアプローチの導入が重要であると提言しています。

Measuring autistic burnout: A psychometric validation of the AASPIRE Autistic Burnout Measure in autistic adults

この研究は、自閉スペクトラム症(ASD)の成人が経験する「自閉症バーンアウト(autistic burnout)」を測定するために開発された「AASPIRE Autistic Burnout Measure」の心理測定的妥当性を検証したものです。

背景

自閉症バーンアウトとは、極度の疲労、機能低下、刺激への耐性の減少を伴う状態であり、主に非自閉的な社会環境での持続的ストレスの蓄積によって引き起こされます。これまでの研究は主に質的調査であり、定量的に測定するための信頼性・妥当性のあるツールが不足していました。

方法

  • 対象:379人の自閉スペクトラム症の成人がオンラインで調査に参加。
  • 使用測定:AASPIRE Autistic Burnout Measure(27項目)と、カモフラージュ(擬態行動)、メンタルヘルス(うつ・不安)、職業性バーンアウトなどの関連尺度。

結果

  • 一因子構造(unidimensional structure)が優勢で、すべての項目において高い因子負荷量を示しました。
  • 内部一貫性は非常に高く(ω = 0.98)、12カ月後の再検査でも中程度の安定性(r = 0.59)を示しました。
  • 自閉特性・カモフラージュ・うつ・不安・職業性バーンアウトとの間に中〜大の相関が見られ、構成概念妥当性(construct validity)も確認されました。
  • *自閉症バーンアウトを現在経験していると自己申告した人とそうでない人を高い精度で識別(AUC = 0.92)**できました。

結論

この尺度は、自閉症バーンアウトを評価する上で信頼性が高く、妥当性もある有望なツールであり、今後の研究や臨床実践において有用と考えられます。ただし、さまざまな背景を持つサンプルでもこの一因子構造が維持されるかの検証が今後の課題とされています。

補足

自閉症バーンアウトは、日常生活への影響が大きく、精神的健康に深く関係する問題であり、このような信頼できる評価尺度の開発は、当事者への理解と支援を促進する重要な一歩です。

Sleep Spindle Abnormalities in Preschool Children With Autism Spectrum Disability: Insights From Nap Polysomnography

この研究は、自閉スペクトラム症(ASD)の幼児における「睡眠紡錘波(スリープスピンドル)」の異常を、日中の昼寝中に行うポリソムノグラフィ(PSG)で明らかにしたものです。睡眠紡錘波はノンレム睡眠中に現れる脳波の特徴で、脳の発達や認知機能と関連があり、近年ではASDの早期神経生理学的マーカーの可能性として注目されています。

本研究では、2〜6歳のASD児と定型発達(TD)児 計50人を対象に、午後の昼寝中のPSG(脳波測定)を実施。19箇所の頭皮電極によるEEGデータを分析し、シグマ帯(およそ10〜16Hz)を中心に、睡眠紡錘波の振幅・活動量・分布パターンなどを比較しました。

主な結果

  • ASD児では前頭部を中心に、シグマ帯・アルファ帯・ベータ帯の脳波活動が増加していました。
  • 睡眠紡錘波の振幅と総活動量(integrated spindle activity)はASD児で有意に高く、とくに前頭部領域で顕著でした。
  • 一方で、紡錘波の出現頻度(密度)や持続時間には明確な差は見られませんでした。

結論

この結果から、ASD児では前頭部における睡眠紡錘波の性質が異なっており、これは脳回路の発達や機能に関連する可能性があると考えられます。また、昼寝中のPSGによってこうした異常を検出できることから、臨床での診断補助ツールとしての有用性も示唆されました。

今後は、発達の過程における睡眠紡錘波の変化を追跡し、ASDの診断・予後予測に役立つバイオマーカーとしての可能性を探ることが課題です。

Frontiers | Multi-method Multi-informant Examination of Social Anxiety in Autistic and Socially Anxious Adolescents

この研究は、自閉スペクトラム症(ASD)と社交不安を抱える10代の若者において、本人と保護者の間で社交不安症状の認識にどのようなズレがあるかを調べたものです。社交不安の正確な評価は、診断や支援計画にとって非常に重要ですが、とくにASDを伴う場合は、本人の自己認識と保護者の観察に差が生じやすいことが知られています。

方法

以下の3グループ(各20名ずつ、計60名)を対象に、社交不安に関する調査と行動評価が行われました:

  1. ASDかつ社交不安のある若者
  2. 社交不安のみの若者
  3. ASDも社交不安もない比較対象の若者

本人と保護者の両方に対して、**社交不安による行動への影響(例:好きな活動の回避)を評価する質問紙(ADISなど)**を用い、報告の一致度や認識の差を分析しました。

主な結果

  • 全体として、本人よりも保護者の方が「行動への支障が大きい」と感じていた(統計的に有意)。
  • ASD+社交不安グループでは、保護者が最も高い行動的支障を報告し、次に社交不安のみのグループ、最後が比較群という順でした。
  • 特にASD+社交不安グループでは、本人と保護者の症状認識の不一致が最も顕著であり、他の2グループに比べて大きなギャップがあることが確認されました。

結論

ASDのある若者における社交不安の評価では、本人の主観だけでなく保護者の観察も取り入れることが重要です。同時に、両者の認識のズレを前提とした評価方法の工夫や、支援・介入計画の立案が求められることが示されました。研究・臨床の両面において、こうした複数視点からのアセスメントの必要性が強調されます。