Skip to main content

UAEにおける知的障害児の父親の関与

· 9 min read
Tomohiro Hiratsuka
CEO of Easpe, Inc

本記事では、自閉スペクトラム症(ASD)や知的障害、学習障害、発達性協調運動障害などの発達障害に関連する最新の国際研究を紹介しています。具体的には、ASDの若者が成人期に向けた準備状況を測定する新たな尺度の開発、UAEにおける知的障害児の父親の関与、学習障害と自己効力感の関係をまとめた体系的レビュー、微細運動検査を通じたDCDスクリーニングの検証、そしてASD児のスクリーンタイムを親がどのように管理しているかの質的研究などが取り上げられており、いずれも発達障害のある子どもや若者の支援に役立つ具体的な知見を提供しています。

学術研究関連アップデート

The Adaptation and Translation of a Transition Readiness Scale for Young Adults with Autism Spectrum Disorder

この研究は、自閉スペクトラム症(ASD)の若者が**成人期へ移行する際の準備状況(トランジション・レディネス)を評価する新たな尺度「TRS-A(Transition Readiness Scale for Autistic Adolescents and Adults)」**を開発・初期検証したものです。ASDのある若者にとって、進学、就職、生活の自立といった成人期への移行は大きな課題となりますが、それを発達段階や文化的背景に配慮して測定できるツールはこれまで限られていました。

本研究では、ラテン系家族や地域の専門家、臨床家の質的インタビューを基にTRS-Aを作成し、以下の3グループを対象に試験的に実施しました:

  • 自閉スペクトラム症の若者本人:114名
  • スペイン語話者の保護者:66名
  • 英語話者の保護者:48名

その結果、TRS-Aは内部一貫性(信頼性)および構成概念妥当性の面で良好な結果を示し、適応行動やメンタルヘルスの指標と有意に関連することが確認されました。

このスケールは、ASDのある若者が成人期の役割や責任に向けてどのような強みと支援ニーズを持っているかを把握するのに役立つツールであり、将来的にはより広い集団への適用や、移行支援の効果予測、臨床判断の補助にも応用できる可能性が示されています。

Children with intellectual disability: fathers’ self-reported involvement in rehabilitation in the United Arab Emirates

この研究は、アラブ首長国連邦(UAE)において、知的障害(ID)のある子どもを持つ父親が、子どもの発達やリハビリテーションにどのように関わっているかを明らかにしたものです。これまで母親の関与に比べて、父親の役割に関する研究は非常に少なく、とくに中東地域では未解明の点が多く残されていました。

研究では、「父親の発達・リハビリテーションへの関与尺度(Fathers’ Involvement in Development and Rehabilitation Scale)」を用いた質問紙調査を実施し、152人の父親から回答を得ました。この尺度は以下の3つの側面から構成されています:

  1. 態度(Attitudes):子どもの育成や支援に対する意識
  2. 支援(Support):家庭や地域での実際の支援行動
  3. 訓練参加(Participation in Training):リハビリや支援プログラムへの参加状況

分析の結果、父親たちは3つの側面すべてにおいて前向きな評価をしており、これらの要素は互いに強く関連していることが明らかになりました。また、**父親の出身国や子どもの支援ニーズの程度が、関与のあり方に影響を与える(関係を調整する)**ことも示されました。

このことから、UAEにおけるリハビリテーション政策や支援制度においては、「父親の文化的背景や家庭状況に応じた柔軟な支援・研修プログラムの提供」が重要であると研究者らは提言しています。本研究は、これまで見過ごされがちだった父親の役割の重要性を可視化し、家族全体を巻き込んだ包括的な障害支援の必要性を示しています。

Self-efficacy in Specific Learning Disabilities: a Systematic Review of Cross-sectional, Longitudinal and Experimental Evidence

この研究は、学習障害(SLD: Specific Learning Disorders)を持つ人々の「自己効力感(self-efficacy)」に関する研究を体系的にレビューしたものです。自己効力感とは、「自分にはできる」という感覚を指し、学業や社会的な領域での成功に強く関係しています。これまで断片的には知られていたものの、SLDと自己効力感の関連を包括的に扱った最新の体系的レビューは存在していませんでした。

本レビューでは、2023年までに発表された研究のうち、SLDと自己効力感の関係を扱った34本(横断研究24本、介入研究7本、縦断研究2本、実験研究1本)を分析しました。その結果、大多数の横断研究(28本)が、SLDのある人はそうでない人に比べて自己効力感が低いことを示しており、これは特に学業面と社会的スキルに顕著でした。

縦断研究では、SLDが時間をかけて自己効力感の低下に影響を与える可能性があることが示唆されました。また、介入研究では、自己効力感を高めるためのプログラムの効果は一部で確認されたものの、結果にはばらつきがありました

このレビューは、SLDを持つ子どもや若者に対して、単なる学力支援にとどまらず、自己効力感を高めるための心理的・社会的介入が重要であるという臨床的・教育的示唆を強調しています。自己効力感の強化は、学習へのモチベーションや達成感、社会的適応力の向上にもつながるため、今後の支援プログラム設計において中心的な要素とすべきであると結論づけています。

Relationship Between the Fine Motor Test for the School-Aged and the Movement Assessment Battery for Children-Second Edition in Chinese Children with Suspected Developmental Coordination Disorder

この研究は、香港の発達性協調運動障害(DCD)が疑われる7〜14歳の子どもを対象に、新たに開発された「学齢児用微細運動検査(FMTS)」と、既存の「小児運動評価バッテリー第2版(MABC-2)」との関連性を調査し、FMTSがDCDの識別に有効かどうかを検証したものです。

FMTSとMABC-2の両方で子どもを評価し、さらに保護者がDCDに関する質問紙(DCDQ-R)を記入しました。その結果、FMTSとMABC-2の間には中程度から強い相関(Spearmanのρ = .41~.70)があり、特に7〜10歳の子どもにおいて顕著でした(ただしMABC-2の「狙う・つかむ」課題を除く)。DCDの可能性があるとFMTSで特定された20名のうち18名は、DCDQ-Rでも基準を下回っており、FMTSの識別能力が示唆されました。一方、MABC-2では7名のみがDCDの疑いと判定されました。

結論として、FMTSは微細運動スキルに特化しており、DCDのスクリーニングにおいて有用性が期待されます。ただし、全体的な運動機能評価には粗大運動スキルを含む他の検査と組み合わせて使用することが推奨されます。これは特に、微細運動に課題のある子どもの早期発見と支援の充実に貢献する知見です。

Frontiers | Striving to provide conditional access: Strategies parents use to mediate the screentime of their children with autism spectrum disorder

この研究は、自閉スペクトラム症(ASD)の子どもを持つ親が、子どものスクリーンタイム(デジタル機器の使用時間)をどのように制御しているかを明らかにすることを目的としています。特にCOVID-19パンデミック以降、スクリーンタイムが増加しており、ASDの子どもたちはスクリーン活動への強い関心を示す傾向があることが背景にあります。

本研究では、南アフリカの親7名に対して半構造化インタビューを実施し、スクリーンタイムに対する親の認識や制御戦略を質的に分析しました。分析の結果、「条件付きのアクセスを提供するための努力」というテーマのもと、以下の2つの主要な方略が明らかになりました:

  • コンテンツの監視:見る内容を選別し、有害な情報を避ける
  • 使用時間の制限:タイマーの利用やルール設定、特定の活動後のご褒美としてスクリーンを許可する

また、**スムーズにスクリーン活動を終了させる工夫(例:事前の予告や気を逸らすための代替行動)**や、子どもが癇癪を起こさないように工夫することが、親のストレス軽減にもつながっていることがわかりました。

本研究は、ASDの子どもにとってスクリーンタイムが今後も主要な活動のひとつであり続けることを踏まえ、幼児期からの介入や支援において、スクリーンとのより良い関わり方を考慮する必要性を提言しています。