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サウジアラビアでの特別支援教育におけるAI活用の現状と課題

· 9 min read
Tomohiro Hiratsuka
CEO of Easpe, Inc

本記事では、自閉スペクトラム症(ASD)やADHDに関連する最新の学術研究を取り上げ、多様な文化・社会的文脈における支援や評価、教育の実践的課題と可能性を明らかにしています。英西バイリンガル当事者のASD評価においては、ADOS-2の使用言語が重症度スコアに影響を与えないことが示され、言語以外の文化的要因の重要性が浮き彫りになりました。また、コロンビアでは、性教育を通じて保護者のエンパワメントが促進され、貧困関連リスクとADHDの関係を論じたレビューでは、環境的逆境に対する予防と支援の必要性が強調されています。さらに、サウジアラビアでの特別支援教育におけるAI活用の現状と課題、大学教員のASD学生に対する態度に影響する要因の分析からは、技術的・心理的支援体制の強化や研修の必要性が示唆されています。これらの研究は、個人特性に配慮した支援の在り方や、多様な環境下での教育・評価・介入の質の向上に向けた示唆に富んでいます。

学術研究関連アップデート

Autism Assessment with English-Spanish Bilingual Individuals in the United States

この研究は、英語とスペイン語のバイリンガル話者に対する自閉スペクトラム症(ASD)評価において、使用言語(英語またはスペイン語)によってADOS-2(自閉症診断観察スケジュール第2版)の結果がどのように変化するかを検討したものです。対象は1.5歳〜44歳の、主に低所得層から紹介された94名の英西バイリンガル当事者で、既にASDやその他の発達・精神的診断を受けている人々です。

分析の結果、以下のことが明らかになりました:

  • ADOS-2の実施言語(英語またはスペイン語)による重症度スコアの差はほとんどなく、両言語でほぼ同等の評価が得られる
  • *スペイン語の使用頻度や接触率(1〜99%)**によっても、ADOS-2スコアへの影響は見られなかった
  • 性別、言語性IQ、診断の有無を統制したうえでも、使用言語はASDの重症度に有意な影響を与えないことが確認された

この結果は、英語・スペイン語バイリンガルの評価において、ADOS-2をどちらの言語で実施しても妥当性が保たれる可能性を示しています。ただし、著者らは「言語」は文化的に配慮されたアセスメントの一側面にすぎないとし、評価実施時には家族の文化的背景や価値観も十分に考慮する必要があると強調しています。

この研究は、バイリンガルのASD評価における臨床実践に対する重要な指針を提供するとともに、多言語環境で暮らす当事者や家族への適切な支援につながる知見を示しています。

‘We are afraid to talk about Sexuality’: Empowering Colombian Caregivers of Adolescents with ASD using Parent Training

この研究は、コロンビアの自閉スペクトラム症(ASD)のある思春期の子どもを持つ保護者を対象に、**性教育を含む親向け支援プログラム「Parents Taking Action(思春期版)」**を実施し、その効果を質的に検討したものです。ラテンアメリカでは、特に障害を持つ人々の性について語ることは依然としてタブー視されており、本研究はその社会的障壁に向き合う試みとして位置づけられます。

14名の保護者への半構造化インタビューの結果、プログラムの参加により以下の効果が見られました:

  • 性に関する知識の向上と話題への抵抗感の軽減
  • 子どもとのコミュニケーションの質の向上
  • 子どもの自立性やメンタルヘルスへの理解の深化
  • 保護者自身のエンパワメント(自信と力の獲得)

本研究は、文化的背景に配慮した性教育支援が、スティグマの軽減と支援アクセスの向上に有効であることを示しており、リソースの限られたコミュニティにおけるグローバルな支援モデルの一例として、ラテンアメリカ全域での活用可能性を示唆しています。今後、他地域への応用や文化的適応の在り方に関する議論にも貢献する重要な知見です。

このナラティブレビューは、注意欠如・多動症(ADHD)と貧困に関連する環境リスクとの関係に焦点を当て、特に妊娠期、乳児期、幼児期といった神経発達が最も脆弱で可塑性が高い時期における影響をまとめたものです。

研究によれば、ADHDは遺伝的要因に加えて、以下のような貧困に起因する環境的逆境によってリスクが高まるとされています:

  • 母親のストレスやうつ症状
  • 栄養不足
  • 認知的刺激の乏しさ
  • 環境毒素(鉛や空気汚染など)への曝露

こうしたリスクは、**構造的に不利な環境(低学歴、医療アクセスの乏しさ、劣悪な住環境)**と重なり合い、子どもの神経発達に累積的かつ相互作用的な影響を及ぼします。

一方で、これらのリスクは不可逆的ではなく、早期の介入や保護因子によって軽減可能であることも強調されています。具体的には、以下の要素が子どものレジリエンスを支えるとされます:

  • 応答的な養育態度
  • 幼児期からの心理社会的サポート
  • 培われた実行機能(自己制御能力)
  • 学びの機会が豊富な環境

本論文は、発達段階に応じた統合的な予防的介入の重要性を提唱しており、出生前から開始し、保健・教育・政策が連携した包括的アプローチの必要性を訴えています。また、今後の研究では、文化的背景を考慮した縦断的研究による因果メカニズムの解明と、逆境の中でレジリエンスが育まれる条件の探求が求められると結論づけています。ADHDにおける格差を縮小し、すべての子どもの健やかな発達を実現するために、構造的・社会的文脈に基づく支援が不可欠であるとしています。

The reality of implementing artificial intelligence apps in the special needs classroom, a teacher's perspective

この研究は、サウジアラビア王国における特別支援教育の現場で、教師たちがAI(人工知能)を活用した教育アプリを実際にどのように利用しているか、そしてその技術に対する姿勢や課題認識を、教師の視点から明らかにすることを目的としています。

調査には270名の特別支援教育教師が参加し、40項目からなる電子アンケートによってデータが収集されました。その結果、教師たちは以下のような見解を示しました:

  • AI教育アプリの活用の重要性については強く賛同しており、教育的有効性を認識している
  • AI活用に対する前向きな姿勢を持っている一方で、活用上の障壁(インフラ、研修不足、支援体制など)についても同意が得られた
  • しかしながら、AIアプリの操作スキルや専門的知識に関しては「中立的」(十分ではないが否定的でもない)という自己評価が多く見られた

本研究は、特別支援教育におけるAI導入の可能性と教師の関心の高さを示す一方で、スキル向上と環境整備の必要性が今後の課題であることを示しています。今後は、教師研修やサポート体制の強化が、AIの教育現場での活用を実現する鍵となると考えられます。

Predictors of Attitudes of Faculty Members Towards Individuals With Autism Spectrum Disorder

この研究は、大学教員の自閉スペクトラム症(ASD)のある学生に対する態度に影響を与える要因を明らかにすることを目的とし、240名の大学教員を対象に調査を行いました。分析の結果、以下のような要因が態度に影響していることが示されました:

  • 自閉症への理解(awareness)が高いほど、肯定的な態度を示す傾向がある
  • ASDのある学生と関わる準備ができている(readiness)教員ほど、支援的な態度を持つ
  • 一方で、年齢が高い教員ほど、否定的な態度を持つ傾向が見られた

これらの結果は、大学での包括的教育を推進するには、教員の意識向上と実践的な研修が不可欠であることを示しています。特に、ユニバーサルデザインに基づく教育の導入には、教員の理解と準備が鍵を握っており、若年層の教員が持つ前向きな姿勢を、継続的な研修によって年長教員にも広げていく必要性が強調されています。