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障害児を持つ父親の育児関与に関する質的研究

· 9 min read
Tomohiro Hiratsuka
CEO of Easpe, Inc

本記事では、発達障害や知的障害に関連する最新の学術研究を紹介しています。具体的には、中国におけるADHD児の医療サービス利用状況とその格差、若年ASD当事者に対する同期的グループ運動の社会的効果、知的障害者に対する物質使用・ギャンブル介入法のレビュー、障害児を持つ父親の育児関与に関する質的研究、そして知的障害児における読解力と家庭の読書環境との因果関係を扱った縦断研究が取り上げられており、それぞれが支援の在り方や介入方法の見直しに重要な示唆を与えています。

学術研究関連アップデート

Medical service utilization status and its influence factors in children with attention deficit hyperactivity disorder in China: a nationwide multicenter cross-sectional study

この研究は、中国における注意欠如・多動症(ADHD)の子どもたちの医療サービス利用状況とその影響要因を明らかにすることを目的とした全国多施設横断調査です。6〜12歳の子ども12,376名を対象に、保護者と担任教師がADHDのスクリーニング尺度(SNAP-IV)と独自の質問票に回答しました。

調査の結果、全体の42.2%がADHD関連の症状を示していたにもかかわらず、実際に医療機関を受診したのはそのうちの23.6%にとどまりました。保護者の対応としては、「しつけの強化」(68.8%)が最も多く、「医師への相談」(55.7%)や「心理相談員の利用」(55.3%)も一定数見られました。臨床受診の意思がある保護者は1,732名でした。

さらに、医療機関を利用する傾向が高い要因として、①子どもが男児であること、②保護者の教育レベルが高く、ADHDに関する知識が十分であること、③医師を選択肢に含めていること、④地域的に西北・西南以外に居住していることが挙げられました(すべて統計的に有意)。

この結果は、ADHDの子どもの多くが医療的な支援を受けていない現状を浮き彫りにしており、保護者の教育・知識・地域格差がサービスアクセスに大きく影響していることを示しています。今後は、医療アクセスの向上と保護者への啓発が重要な課題となります。

Group Interpersonal Synchrony Increases Prosocial Behavior in Young Autistic Adults: A Randomized Controlled Trial

この研究は、**若年の自閉スペクトラム症(ASD)当事者に対する「同期的なグループ運動介入」が、協調行動(プロソーシャル行動)や社会的親密さ、仕事関連のストレスにどのような影響を与えるかを調べたランダム化比較試験(RCT)**です。

対象は、イスラエル軍の職業統合プログラムに参加する18〜22歳のASD当事者54名。参加者は、**動きを同期させる「同期条件群」**と、**各自が独立して動く「非同期条件群」**に無作為に割り当てられ、週1回・1時間の介入を6〜7週間受けました。効果は介入の前後および17週間後に評価されました。

主な結果は以下の通りです:

  • 同期的なグループ運動介入は、非同期よりも長期的に協調行動を高め、介入直後には仲間との社会的親密さを促進する効果があることが示されました。
  • 一方で、仕事関連ストレスの軽減においては、同期的な介入が特に有利という結果は得られませんでした

この研究は、動きの「同期性」がASD当事者の社会的行動にポジティブな影響を与える可能性を実証的に示した点で注目されます。研究者は、就労移行期にあるASD当事者の支援において、同期的・非同期的な介入を組み合わせた包括的アプローチの有効性を提案しています。

Substance Use and Problem Gambling Interventions for People With Intellectual Disability: A Systematic Review

この研究は、知的障害(ID)を持つ人々に対する「物質使用(アルコール・薬物など)」および「ギャンブル問題」への介入法を体系的に整理・評価したシステマティックレビューです。


🔍 目的と背景

知的障害のある人は、依存症的行動に対する脆弱性が高い一方で、それに対する有効な支援介入の研究は非常に少ないのが現状です。本研究は、ID当事者向けの物質使用またはギャンブル介入研究を国際的にレビューすることを目的としています。


🧪 方法

  • Web of Science、PsycINFO、CENTRALから文献検索(PRISMAガイドラインに準拠)
  • 16件の研究が選定され、
    • RCT(無作為化比較試験):3件
    • 非RCT:6件
    • ケーススタディ:7件
  • 主に軽度のIDをもつ成人男性が対象で、対象とする依存問題は以下の通り:
    • タバコ使用(6件)
    • 多剤使用(5件)
    • アルコール(3件)
    • オピオイド(1件)
    • ギャンブル(1件)

📊 主な結果

  • マインドフルネス療法や、**認知行動療法(CBT)+動機づけ面接(MI)**が、タバコ・アルコールの使用減少に有望な結果を示した。
  • アルコール・大麻に対する短期的な効果も一部で見られたが、使用の「重症度」への影響は不明。
  • 心理教育と行動技法の併用が、依存リスクに対する理解と意識を高めることで使用量減少に貢献していた。

🔍 結論と意義

  • ID当事者向けの依存対策介入研究はまだ不十分であり、質の高い研究が求められる。
  • メタアナリシスを行うにはデータが不足していたが、**単一事例研究(single-case design)**が有用な知見を提供していた。
  • 今後は、より体系的かつ実証的な介入モデルの開発と評価が必要。

※補足:この分野は、知的障害のある人々の健康的な生活支援や意思決定の尊重とも深く関わる重要なテーマであり、今後の研究と支援体制の整備が急務とされています。

Father Involvement in the Lives of Their Children With Intellectual and Developmental Disabilities in the UK

この研究は、知的・発達障害(Intellectual and Developmental Disabilities, IDD)を持つ子ども(5〜24歳)の父親が、どのように育児に関与しているかを明らかにすることを目的とした英国での質的研究です。


🔍 研究の概要

  • 対象者:13名の父親
  • 方法:オンラインでの半構造化インタビュー
  • 主な質問内容
    • 子どものケアへの関わり
    • 育児における役割・責任
    • 関与に影響を与える要因

📊 主な結果

  • 父親たちは、子どもの直接的ケア(例:日常の世話)だけでなく、間接的な支援(例:計画、送迎、調整)にも関与していた。
  • 同時に、パートナーや兄弟姉妹のサポート、仕事との両立にも取り組んでいた。
  • 育児への関与には、以下のような多様な障壁と影響要因があることが明らかに:
    • 個人的要因(疲労、自己効力感など)
    • 対人関係要因(パートナーとの協働関係など)
    • 社会的・制度的要因(職場の理解、支援制度の不足など)

🧩 結論と意義

  • 父親はIDDをもつ子どもの育児において重要な役割を果たしているが、その関与を妨げる要因が多く存在する。
  • 専門職や支援者は、母親中心の支援体制から脱却し、父親も支援対象として明確に捉える必要がある。
  • 本研究は、父親の育児関与モデルを障害児支援の文脈でどう適用できるかを検討した点で新しい知見を提供しており、家族支援の質的向上に貢献する内容である。

※補足:障害児支援における「父親の見えにくさ」を照らし出すと同時に、父親の育児参加の多様な形や支援ニーズに目を向けることの重要性が示唆された研究です。

Cross‐lagged analysis of home literacy environment and reading ability of children with intellectual disabilities

この研究は、知的障害(ID)をもつ子どもにおける家庭の読書環境(Home Literacy Environment: HLE)と読解力の因果関係を、縦断的かつ相互的(クロスラグ)に検討した初の研究です。


🔍 研究の概要

  • 対象者:軽度〜中等度の知的障害を持つ中国の児童157名とその保護者
  • 期間:2022年6月(T1)と2023年6月(T2)の2時点で調査
  • 評価内容
    • 子ども:文字認識、文読み流暢性、語彙理解などの読解力テスト
    • 保護者:家庭の読書環境(HLE)と基本属性に関するアンケート
  • 分析方法:構造方程式モデリングによるクロスラグ分析(年齢・知能指数を統制)

📊 主な結果

  • 家庭の読書環境(HLE)は、将来の読解力を有意には予測しなかった
  • 一方で、子どもの読解力は、将来のHLEに正の影響を与えることが判明
    • すなわち、子どもの読解力が高いほど、親は家庭での読書環境により投資する傾向がある

🧩 結論と意義

  • 通常発達児とは異なり、知的障害をもつ子どもにおいては「家庭環境が子どもに与える影響」よりも、「子どもの能力が家庭環境を変化させる影響」の方が強い可能性がある
  • この結果は、家庭支援や政策設計において「親への教育・啓発」だけでなく、子どもの読解力そのものを高める初期支援が、結果的に家庭環境の改善を促すことに繋がるという実践的示唆を与える

※補足:この研究は、読み能力の向上が親の行動変容を引き出す契機になりうるという逆方向の因果関係を示した点で新規性が高く、家庭・学校・支援機関による連携の再構築にも貢献する内容です。