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ASD食事療法の効果検証

· 16 min read
Tomohiro Hiratsuka
CEO of Easpe, Inc

本記事では、発達障害を中心とした多様な最新研究を紹介しています。自閉スペクトラム症(ASD)の早期スクリーニング手法やスティグマの要因、知的障害者への合理的配慮の実践、遺伝モデル動物によるASD行動特性の解明、食事療法の効果検証、移民家庭における支援体験、声による印象形成、脳画像によるASDサブタイプ分類、ディスレクシア児へのバランス訓練の効果、ADHDモデル動物における遺伝子発現と運動の影響など、医療・教育・社会支援の各分野での取り組みが取り上げられており、発達障害への理解と支援を多角的に深める内容となっています。

学術研究関連アップデート

A proposed algorithm for early autism screening in Polish primary care settings – a pilot study - BMC Primary Care

✅研究の背景

ASD(自閉スペクトラム症)の有病率が世界的に上昇している中、早期発見のためのスクリーニング手法の改善が求められています。特にプライマリ・ケアの現場(小児科医や家庭医)でのスクリーニングは、すべての子どもに平等にアクセスできるという利点があります。

🔧目的

ポーランドのプライマリ・ケアにおいて、16~30か月の子どもを対象とした新しいASD早期スクリーニングアルゴリズムを開発・検証すること。


🧪方法

  • 第1段階:オンラインでM-CHAT-R/F(乳幼児のASDスクリーニング質問紙)を実施。
  • 第2段階:M-CHAT-R/Fで選定された子どもに**STAT(行動観察式の検査)**を実施。
  • 評価:陽性だった子どもは正式なASD評価へ紹介。
  • 統計手法として、Shapiro–Wilk検定、U検定、t検定、Spearmanの順位相関を使用。

📊結果

  • 招待187名中、159名が初期フォームを提出。
  • 29名が第2段階に進み、10名がSTATで陽性。
  • 7名が正式評価を受け、5名がASDと診断。
  • 親の懸念がM-CHAT-R/Fのスコアと最も強く関連。
  • ASD診断への恐れが、プロセスからの離脱の主な理由。

🧩結論

提案されたアルゴリズムは、ポーランドの一次医療において現実的かつ有効なスクリーニングの道筋を提供し、ASDの早期発見と早期介入につながる可能性があると示唆されました。今後さらなる研究によって、制度化や広域実装の検討が必要です。

Factors Associated with Stigma Among Parents of Children with Autism Spectrum Disability in Vietnam

✅研究の背景

自閉スペクトラム症(ASD)のある子どもの親は、社会的スティグマ(偏見や差別)に直面しやすいですが、「認知されたスティグマ(perceived)」「内在化されたスティグマ(self)」「実際に経験したスティグマ(enacted)」の3種類すべてを体系的に調査した研究はほとんどなく、特にベトナムの文脈での調査は皆無でした。


🎯目的

ベトナム・ハノイにおいて、ASDのある子どもの親が経験する3種類のスティグマに影響を与える要因を明らかにすること。


🧪方法

  • 対象者:2023年2月〜10月に、ベトナム国立小児病院および障害児教育センターに来院・通園した846名の保護者
  • 手法:階層化サンプリングと自己記入式質問票による横断的記述研究。
  • 分析項目
    • 親の要因(年齢、婚姻状況、睡眠時間、経済状態など)
    • 子どもの要因(年齢、障害期間、障害レベル、保険、学校通学、性別など)
    • 心理社会的要因(支援、ストレス行動、ケア負担など)

📊主な結果

  • 親の睡眠時間と婚姻状況は、3つのスティグマすべてと有意に関連。
  • 親の年齢・経済状態は、特定のスティグマと関連。
  • 子どもの年齢・障害の期間・重症度はすべてのスティグマと関連。
  • 支援の有無・ストレス行動・ケア負担は全スティグマに強い関連があり、特に**ケア負担(caregiver burden)**が最も強い予測因子(β=0.34〜0.42, p<0.001)。

🧩結論

ベトナムの保護者が抱えるスティグマには、心理的・家庭的・経済的・子どもの特性など複数の要因が関与しており、特に「ケア負担」が深く関係していることが明らかになりました。今後、医療従事者や支援者は、個別対応や早期介入を通じてスティグマ軽減を図る必要があると示唆されます。


Exploring how Japanese pharmacists provide reasonable accommodations for persons with intellectual disabilities - BMC Health Services Research

✅研究の背景

軽度〜中等度の知的障害(ID)を持ちながら自立生活を営む人々に対する「合理的配慮」については、これまで十分な研究が行われていません。特に、薬剤師による配慮の実態は不明でした。本研究では、日本の薬剤師がどのように知的障害者とコミュニケーションをとり、合理的配慮を実施しているかを質的に調査しました。


🎯目的

知的障害のある人への薬剤師による合理的配慮の具体的な実践内容を明らかにすること。


🧪方法

  • 調査期間:2023年10月~2024年3月
  • 対象者:病院・薬局勤務の薬剤師11名
  • 手法:1人30~60分の半構造化インタビュー(対面またはオンライン)
  • 分析方法:テーマ別の質的分析(Thematic Analysis)

📊主な結果:3つのテーマ

薬剤師が行っている合理的配慮は以下の3テーマに分類されました:

  1. 理解を助ける工夫(Comprehension aids)
    • わかりやすい言葉への言い換え
    • 絵や記号など視覚的な情報の活用
    • 話すスピード・声の大きさの調整
  2. リマインダー(Reminders)
    • 手書きメモで補足情報を提供
    • 重要点のハイライト(色付けなど)
    • 付箋(ポストイット)の使用
  3. 構造的配慮(Structural accommodations)
    • 薬の服用順序を図示するなど、服薬行動の構造化支援

🧩結論

日本の薬剤師たちは、視覚的支援、記憶補助、情報構造化を活用しながら、知的障害のある人々との良好な関係を築き、服薬理解・アドヒアランス(遵守)・安全性の向上を目指していました。これらの実践は、地域における医療アクセスの質を高める上でも重要な示唆を与えるものです。

Behavioral phenotyping identifies autism-like repetitive stereotypies in a Tsc2 haploinsufficient rat model - Behavioral and Brain Functions

🧠背景

自閉スペクトラム症(ASD)の特徴には、社会的相互作用の障害だけでなく、反復的で常同的な行動(repetitive stereotypies)も含まれる。ASDの多因子的な背景を反映するため、遺伝性疾患由来の動物モデルが活用される。本研究では、ASDと関連する遺伝疾患結節性硬化症(Tuberous Sclerosis Complex, TSC)のモデルであるTsc2+/- Ekerラットを用い、ASD様の反復行動の有無とその神経生物学的背景を調査した。


🧪方法

  • 対象モデル:Tsc2+/- Ekerラット
  • 行動評価:反復行動を評価するため、セルフグルーミング、巣材の細断(nestlet shredding)、認知柔軟性課題などの行動テストを実施
  • 分子解析:前頭前野のドーパミンレベルを測定し、神経伝達物質の変化と行動との関連を解析

📊主な結果

  • Tsc2+/- ラットでは、**低次の反復行動(lower-order stereotypies)**が顕著に観察された(例:過剰な毛づくろい、巣材の細断)
  • ただし、**高次の反復行動(higher-order stereotypies)**は確認されなかった(例:認知の柔軟性の欠如や固執的関心は見られず)
  • 前頭前野のドーパミン濃度が上昇しており、これは低次反復行動との関連性を示唆

🧩結論

Tsc2+/- Ekerラットは、ASDの低次反復行動と社会的障害を再現する有望なモデル動物である。特に、前頭前野のドーパミン異常と反復行動の関連が示されたことで、ASDの神経生物学的理解と治療開発におけるトランスレーショナルモデルとしての有用性が高まった。


🧭意義

本研究は、遺伝性ASDモデルにおける反復行動の評価法と神経化学的裏付けを提供しており、将来的なASD治療の標的探索にも貢献する。

Dietary interventions in children with autism spectrum disorder: Contemporary Overview

🧠背景

自閉スペクトラム症(ASD)は、社会的コミュニケーションの障害や反復的行動、感覚過敏を特徴とする神経発達症である。近年、腸内細菌叢や腸-脳相関を介した食事療法の有効性に関する関心が高まっている。本レビューは、グルテン・カゼイン除去食(GFCF)ケトジェニック・ダイエット(KD)ラクダミルクの3つのアプローチに焦点を当て、その効果を包括的に検討する。


🔍方法

  • データベース:PubMedとGoogle Scholar
  • 対象研究:2025年までに発表された、子どものASDに対する食事介入の影響を扱った51本の研究(RCT、コホート研究、症例対照研究、システマティックレビュー)
  • 評価指標:社会的相互作用、反復行動、感覚処理、認知機能、消化器症状、睡眠、不安など

📊主な結果

  • GFCF食:一部で行動や消化器症状の改善が報告されるも、効果は一貫していない
  • ケトジェニック・ダイエット(KD):認知および行動の改善が示唆されるが、長期的な安全性と有効性は未検証
  • ラクダミルク酸化ストレスや炎症の軽減を通じて症状改善の可能性が示されているが、研究のばらつきが大きい

🧩結論

食事療法はASD児における補完的支援手段として一定の可能性を持つが、研究結果の一貫性に欠け、標準化されたガイドラインの策定には至っていない。特に消化器症状を併発するASD児においては有効性が示唆されるものの、個別化された専門家の管理下での栄養指導が不可欠である。今後は、大規模かつ厳密な研究によるエビデンスの確立が求められる。

"Yes, yes, you are right": experiences of first-generation Korean immigrant parents of children and youth with developmental disabilities interacting with healthcare and education professionals

🎯目的(Purpose)

米国に住む第一世代の韓国系移民の保護者が、発達障害(DD)のある子ども・青年の支援において、医療・教育専門職との関わりでどのような経験をしているかを明らかにすることを目的とする。特に言語通訳の利用異文化間コミュニケーションの課題に焦点を当てる。


🔍方法(Methods)

  • 対象:ニューヨーク大都市圏に住むDDのある子どもを持つ第一世代の韓国系移民14名
  • 手法:1対1のインタビューを実施し、グラウンデッド・セオリーに基づいて翻訳・分析

📌主な結果(Results)

2つの主要テーマが浮かび上がった:

  1. 異文化間コミュニケーションの困難
    • 文化的な感受性の欠如
    • 専門家側の柔軟性と適応力の不足
    • 感情面への配慮の欠如
  2. 言語の壁と通訳利用の困難
    • 通訳サービスの利用に対する保護者のためらい
    • 通訳がいても正確に思いが伝わらない感覚
    • 子ども本人が通訳を担わざるを得ない場面も存在

🧩結論

  • 専門職側の文化的理解・適応・共感的姿勢が不可欠
  • 質の高い通訳サービスの提供や、通訳者向けの事前打ち合わせや専門研修が求められる
  • ピア・ナビゲーターの導入保護者向けのテクノロジー教育は、移民家庭が制度をより自立的に活用するための支援になる
  • 歴史的に周縁化されてきた有色人種の移民家庭への構造的配慮が今後の医療・教育現場で求められる

Autistic adults form first impressions from voices in similar ways to non-autistic adults

🎯目的(Purpose)

自閉スペクトラム症(ASD)の成人が、声から第一印象(例:信頼性や年齢)をどのように形成するかを調べ、非自閉症の成人との違いや共通点を明らかにすること。


🔍方法(Methods)

  • 参加者:ASD成人および非ASD成人
  • 課題:音声録音を聞いて、話者の**信頼性(推測的特徴)年齢(外見的特徴)**を評価
  • 比較項目
    • 評価値の平均(信頼性・年齢)
    • 印象形成に必要な情報量
    • 同集団内・異集団間での印象の一致度

📌主な結果(Results)

  • 自閉症群と非自閉症群は、信頼性・年齢ともに同程度の印象形成を行っていた
  • 印象を形成するために必要な情報量も両群で類似していた
  • 印象形成のパターン(グループ内・グループ間比較)においても有意な差は見られなかった

🧩結論(Conclusions)

  • 声による第一印象の形成は、自閉症成人にとっても比較的得意な社会的スキルである可能性がある
  • 自閉症における社会的困難は、一部の社会知覚領域に限局しており、すべての社会的認知能力が均等に損なわれているわけではないと示唆される

Heterogeneity of Degree Centrality Revealed Different Subtypes in Children with Autism Spectrum Disorder

🎯目的(Purpose)

自閉スペクトラム症(ASD)の子どもにおける**脳機能ネットワークの異質性(heterogeneity)**に着目し、脳画像指標(Degree Centrality)を用いてASDのサブタイプを特定・分類し、それぞれのサブタイプと症状の関連を探る。


🧪方法(Methods)

  • データ:ABIDE(Autism Brain Imaging Data Exchange)から得た105人のASD児と102人の健常児(TC)
  • 手法
    • 安静時fMRIデータを使ってDegree Centrality(DC)マップを作成
    • *HYDRA(Heterogeneity through Discriminative Analysis)**アルゴリズムでASDサブタイプを分類
    • 各サブタイプとTC群とのボクセル単位での脳活動比較
    • サブタイプごとにDC値とASD症状(反復行動・社会的コミュニケーション)の関連性をSupport Vector Regressionで解析

📌主な結果(Results)

  • ASDは3つのサブタイプに分類された
  • サブタイプごとに異なるDC異常パターン(例:紡錘状回、島皮質、下前頭回など)を示した
  • サブタイプ1のDC異常は「反復・常同行動」と、サブタイプ3のDC異常は「社会的コミュニケーション障害」と有意に関連していた

🧩結論(Conclusions)

  • ASD児の脳機能ネットワークには顕著な**異質性(heterogeneity)**が存在し、神経画像によるサブタイプ分類がその理解に有効
  • このアプローチは、ASDの臨床症状の多様性やアウトカムの違いを説明する手がかりとなる可能性を示す

The Effect of Balance Coordination Program on Postural Stability in Children with Dyslexia: An Observational Clinical Study

🎯目的(Purpose)

ディスレクシア(読字障害)のある子どもに対してバランス・協調運動プログラムを実施し、姿勢の安定性と生活の質への効果を検証すること。


🧪方法(Methods)

  • 対象:ディスレクシアの子ども16名と健常児の比較
  • 介入:週3回・6週間のバランス協調エクササイズを実施
  • 評価指標
    • 静的・動的バランス:mCTSIB(修正版感覚統合バランステスト)、LOS(安定性限界)テスト
    • 生活の質:PedsQL(小児生活の質尺度)

📌主な結果(Results)

  • mCTSIB:硬い・柔らかい床、開眼・閉眼のすべての条件で体の揺れ速度が有意に減少(p < 0.01)
  • LOS:前後方向への移動速度・到達範囲・最大到達範囲が増加(p < 0.01)
  • PedsQL社会的スコア・学校スコア・全体スコアが向上(p < 0.01)

🧩結論(Conclusions)

ディスレクシアのある子どもは健常児と比較して姿勢のバランスに明確な差異があるが、バランス協調トレーニングにより姿勢安定性と生活の質の両方が有意に改善された。運動介入は、ディスレクシアの支援における有望な手段となり得る。

Frontiers | Attention-deficit hyperactivity disorder (ADHD) in spontaneously hypertensive rat strain SHR/NCrl is associated with specific expression of uncoupling proteins, glucose transporter 1 and BACE1

🎯目的(Purpose)

ADHDの病態理解と治療法の改善を目的として、ADHDモデル動物であるSHR/NCrlラットと他の関連ラット種との脳内遺伝子発現の違いを解析し、さらに運動(自由走行)がそれらの遺伝子発現に与える影響を調べた。


🧪方法(Methods)

  • 対象:SHR/NCrlラットと他の高血圧・正常血圧ラット
  • 組織部位:延髄、嗅球、大脳皮質
  • 分析手法:qRT-PCR(遺伝子発現)、Western Blot(GLUT1のタンパク発現)
  • 運動介入:6か月間の自由走行ホイールによる身体活動
  • 評価時期:雌ラット、7.5か月齢で屠殺して検体取得

📌主な結果(Results)

  • SHR/NCrlラットでは、以下の遺伝子の発現が顕著に異なっていた
    • 延髄SLC25A14(UCP5)BACE1CCL2
    • 大脳皮質SLC2A1(GLUT1)
  • 特に延髄におけるUCP5BACE1の発現は、運動によって正常化
  • 嗅球、延髄、大脳皮質においてSHR/NCrl特有の遺伝子発現プロファイルが認められた

🧩結論(Conclusions)

SHR/NCrlラットはADHDのモデル動物として有用であり、特定の脳領域における遺伝子発現の違いがADHDの生物学的基盤の理解に寄与する可能性がある。さらに、身体活動が発現異常を部分的に補正できることから、非薬物療法としての運動の有効性が示唆