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乳幼児期の「揺さぶり躾」が原因不明の知的障害を引き起こしたか?(インドにおける調査)

· 27 min read
Tomohiro Hiratsuka
CEO of Easpe, Inc

本ブログ記事では、発達障害に関する2025年7月の最新学術研究を紹介しています。ADHDやASD、DLD、ディスレクシアといった発達障害に対する理解を深めるために、数理モデルや神経・遺伝的要因に着目した研究、評価指標の探索、双言語環境や成人期における支援介入、女子の特有のアイデンティティ形成の困難、ピアサポートや遠隔医療を活用した支援方法の検証など、多角的な視点からの論文を取り上げました。これらの研究は、個々の困難をより正確に捉え、適切な支援戦略を構築するための示唆に富んでおり、教育・医療・福祉分野における実践や政策形成に資する内容となっています。

学術研究関連アップデート

Could the shaking of infants in early childhood be a leading source of unexplained intellectual disability in India? - BMC Public Health

この研究は、インドにおける幼児期の「揺さぶり行為」が、原因不明の知的障害(ID)の一因となっている可能性を検討したものです。背景には、インドを含む低・中所得国で親による「子どもを揺さぶる」しつけが一般的であり、同時に高い割合の発達障害が報告されているという現状があります。

著者らはインド・ラクナウの医療センターで、原因不明の知的障害をもつ子ども75名と、年齢・性別・母親の年齢と学歴が一致する健常児75名を比較するマッチドケースコントロール研究を実施しました。保護者への聞き取りで、生後24ヶ月までに子どもを揺さぶった経験を確認し、該当者には人形を用いた実演も求めました。結果、ID群の38%が揺さぶられていたのに対し、健常群では9%にとどまり、調整後のオッズ比は8.3倍と非常に高い関連が見られました(95%信頼区間:2.4–28.2)。

この研究は、目立った外傷がなくても、日常的な揺さぶり行為が脳機能や発達に深刻な影響を与える可能性があることを示唆しており、インドにおける児童虐待やしつけの慣習が公衆衛生上の課題になりうることを警告しています。今後はより広範な調査と、保護者教育を含む予防的取り組みが求められます。

A novel USP27X missense variant identified in an individual with intellectual disability

この研究は、X染色体連鎖性知的障害(XLID)の原因として知られるUSP27X遺伝子の新たなミスセンス変異(c.257C>T, p.Thr86Met)を報告したものです。XLIDは、知的障害、発達遅延(DD)、自閉スペクトラム症(ASD)、注意欠如・多動症(ADHD)、不安など多様な症状を含む遺伝的に異質性の高い神経発達障害です。USP27Xは脱ユビキチン化酵素をコードする遺伝子で、これまでに遺伝的に診断された症例は14例しか報告されていません。

本研究では、発達遅延、重度の言語遅延、軽度の顔貌異常、心室中隔欠損を持つ3歳男児が対象で、胎児期から項部浮腫の増加も見られていました。両親と子のトリオ解析による全エクソームシーケンスの結果、USP27Xに上記の変異が見つかり、母親から遺伝したことが判明しました(母親は無症状)。

この変異は初め「意義不明の変異」とされていましたが、in vitro(細胞実験)での機能解析により、USP27Xタンパク質の発現量と脱ユビキチン化活性の両方に悪影響を及ぼすことが確認され、病原性の証拠が補強されました。

本研究は、この新たな変異がXLID-105と呼ばれる疾患と関連している可能性を示し、USP27X関連障害の遺伝的・臨床的理解を拡張するものであり、診断・遺伝カウンセリングにとって重要な知見となっています。

Spectral feature modeling with graph signal processing for brain connectivity in autism spectrum disorder

この研究は、自閉スペクトラム症(ASD)の**脳の機能的つながり(脳のコネクティビティ)**をより精密に捉えるために、**グラフ信号処理(GSP: Graph Signal Processing)**という先進的な解析手法を用いた新たなモデルを提案しています。

従来のグラフ理論ベースの手法では、主に静的な構造(ネットワークのトポロジー)に注目しており、**脳活動の周波数成分(スペクトル情報)**やマルチモーダル(fMRIとEEGの統合など)なデータの動的な特性を十分に捉えられないという課題がありました。

そこで本研究では、GSPの特性を活かして「スペクトル領域の特徴(例:グラフフーリエ変換係数やスペクトルエントロピー)」と「トポロジー的特徴(例:クラスタリング係数)」を統合し、ASDの識別精度を向上させるモデルを開発しました。被験者ごとに脳領域をノード、機能的な相互作用をエッジとした個別の脳ネットワークグラフを構築し、そこから抽出された特徴をPCAで圧縮したうえで、SVM(カーネル:RBF)で分類を行いました。

主な成果:

  • 分類精度は98.8%と、これまでの類似研究を大きく上回る成果を達成。
  • 特徴量の重要度解析では、「スペクトルエントロピー」が最も有効であることが示され、それを除いた場合の性能は約30%も低下。
  • *グラフ構築時に25%のスパース化(エッジの削減)**を行うことで、計算効率と精度の最適なバランスが得られることも明らかに。

結論:

この研究は、脳波やfMRIといった複数の神経画像データから、ASDに関連する神経活動の特徴をより解像度高く捉えるためには、従来の手法ではなく、スペクトル領域の情報を取り入れたGSPベースのアプローチが有効であることを示しています。診断精度の向上だけでなく、ASDの生物学的バイオマーカー発見にもつながる可能性がある重要な知見です。

The impact of long-term exercise on motor skills in children with ADHD: a three-level meta-analysis - BMC Pediatrics

この研究は、ADHD(注意欠如・多動症)を持つ子どもに対する長期的な運動介入が運動技能の向上に与える影響を体系的に評価するために実施された三層メタアナリシスです。

研究チームは、Embase、Cochrane Library、PubMed、Web of Scienceの4つのデータベースを用いて、ランダム化比較試験(RCT)に基づく関連研究を検索し、最終的に9件の研究を対象に分析しました。各研究のバイアスリスクはRob 2.0ツールで評価され、効果量の統合や感度分析、調整因子(モデレーター)分析、出版バイアス評価などがR言語の「metafor」パッケージを使って行われました。

主な結果:

  • ADHDの子どもに対する長期運動介入は、運動スキルに中程度の効果(効果量 g = 0.72)を持つことが統計的に確認されました(95%信頼区間: 0.31~1.14, P = 0.001)。
  • 診断方法、運動の種類、介入期間、頻度、評価された運動スキルの種類はいずれも効果量に有意な影響を与えるモデレーターではありませんでした(P > 0.05)。
  • エビデンスの質は**中程度(moderate)**と評価されました。

結論:

長期的な運動は、ADHDのある子どもの運動能力の改善に有効である可能性が高いと示唆されます。ただし、分析対象の研究数が少なく、さらなる検証が必要なため、結果の解釈には慎重さが求められます。今後は大規模なRCTによるエビデンスの積み重ねが期待されます。

Disruption of gut microbiome and metabolome in treatment-naïve children with attention deficit hyperactivity disorder - BMC Microbiology

この研究は、治療歴のないADHD児における腸内細菌叢(マイクロバイオーム)と代謝物(メタボローム)の変化を明らかにし、**腸脳相関(gut-brain axis)**の観点からADHD発症メカニズムへの理解を深めることを目的としています。

研究では、ADHDの子ども15名と健常児15名の便と血液サンプルを用い、16S rRNAシーケンシングとLC-MS(質量分析)により腸内細菌構成・代謝物・脂質のプロファイルを比較しました。その結果、ADHD児ではActinobacteria門(特にビフィズス菌、コリネバクテリウム属、アクチノマイセス属)の豊富さが有意に低く、代わりにVeillonella属(Negativicutes綱)が有意に多く見られました。さらに、ADHD群には健常児にしか見られなかったenterotype 1が確認されず、腸内環境の根本的な違いが示唆されました。

また、神経伝達物質の前駆体となるアミノ酸代謝物とBifidobacterium属の関連性が認められ、この細菌群の減少がドーパミン・セロトニン・グルタミン酸系の代謝低下につながる可能性が示されました。

Fractional-order SIR model for ADHD as a neurobiological and genetic disorder

この研究は、ADHD(注意欠如・多動症)を神経生物学的かつ遺伝的要因を持つ集団内の「伝播的疾患」と仮定し、数理モデルで解析するという新しいアプローチを提案しています。具体的には、感染症モデルとして知られるSIRモデル(感受性–感染–回復モデル)を分数階(fractional-order)に拡張し、ADHDの発症・回復における時間依存性・記憶効果を反映させました。

この分数階SIRモデルでは、Caputo微分を用いてADHDの長期的な進行・回復傾向を捉え、数値的にはLaplace Residue Power Series(LRPS)法と**4次のRunge-Kutta法(RK4)**によりシミュレーションを行いました。その結果、分数階の値が高いほど症状の進行・回復が早く、低いほど遅延することが示されました。また、モデルの基本再生産数 R_0 によって、ADHDが集団内に持続するか消失するかが左右されるとされ、感受性(遺伝的素因)・治療の有効性・介入のタイミングがアウトカムに大きく影響することが感度分析から明らかになりました。

さらに、最適制御理論を用いて、予防と治療を時間依存で制御するシナリオも導入。その結果、適切な戦略によってADHDの有病率を大幅に低下させ、同時に社会的コストを最小化できることが示唆されました。


Comprehensive search for assessment indicators that influence the level of handwriting difficulties among children in educational settings

この研究は、学齢期の子どもにおける「書字の困難さ(handwriting difficulties)」に影響を与える評価指標を包括的に探索したものであり、特に教師の主観的評価と子どもの実際の認知・運動機能との関係に注目しています。書字困難は学業成績や心理的健康に重大な影響を及ぼすことから、教師による早期の気づきと適切な支援が重要ですが、教師の評価基準と子どもの能力との関連性については、これまで十分に検討されていませんでした。

本研究では、教師の「書きづらさの認識」と、子どもの書字スキルに関わる3つの領域──(1) 書字プロセス、(2) 文字の読みやすさ、(3) 認知・運動機能──との関連を調査しました。その結果、書字困難の有無には基礎的な運動スキルの不器用さが関係し、困難の程度には「注意深さの欠如」が影響していることが示されました。さらに、**体性感覚(somatosensory)と視覚・運動の統合(visuomotor integration)**が、困難を特徴づける上で重要な指標であることも明らかになりました。


A novel USP27X missense variant identified in an individual with intellectual disability

この研究は、X連鎖性知的障害(X-linked intellectual disability, XLID)の一種であるXLID-105と関連する遺伝子変異についての新たな知見を報告しています。XLID-105は、知的障害(ID)や発達遅延(DD)、自閉スペクトラム症(ASD)、注意欠如・多動症(ADHD)、不安などが組み合わさって現れる遺伝性の神経発達障害です。

今回の症例は、軽度の顔貌の異常、著しい言語の遅れ、認知障害、心室中隔欠損などの症状を持つ3歳男児で、胎児期には首のむくみ(nuchal translucency)の増加も観察されていました。**トリオ型全エクソーム解析(本人と両親の遺伝子解析)により、USP27X遺伝子に新しいミスセンス変異(c.257C>T, p.Thr86Met)**が発見され、これは母親から遺伝していました。母親は健康であり、この変異は「意義不明のバリアント(VUS)」とされていましたが、追加のin vitro機能実験で、この変異がUSP27Xの発現および脱ユビキチン化活性に悪影響を与えることが示されました。


Exploring Explicit Intervention to Target Grammatical Forms With Spanish-English Bilingual Children With Developmental Language Disorder

この研究は、発達性言語障害(DLD)を持つスペイン語・英語バイリンガルの子どもたちに対する文法介入法を検討したものです。多言語の子どもたちに対応できるエビデンスに基づく文法指導法はまだ限られており、本研究では英語での明示的な文法指導(explicit intervention)を通じて、スペイン語への言語間転移(cross-linguistic transfer)を促す可能性を検証しています。

対象は4〜8歳のスペイン語・英語話者3名で、単一事例の多層ベースラインデザインにより、英語の過去形(-ed)と三人称単数現在形(-s)を対象にした文法介入を実施。介入は、モノリンガルの臨床家(英語話者)でも実施可能な形で構成されており、スペイン語の対応文法形式への転移を視野に入れて設計されています。

Toward an Understanding of Developmental Language Disorder in Adults: Investigating the Relationship Between Cognitive Abilities and Linguistic Outcomes

■ 背景 / 目的

発達性言語障害(DLD)はこれまで主に児童期に研究されてきましたが、成人期におけるDLDの認知能力との関連性については十分に解明されていません。本研究の目的は、DLDを持つ成人と持たない成人において、言語能力と認知能力(特に言語分析能力・明示的学習・統計的学習など)との関係性を調べることです。


■ 方法

  • 参加者:成人60名(DLDあり30名、言語典型群30名)
  • 評価内容
    • 認知タスク:言語分析能力、非言語的IQ、形式−意味ペアの明示的学習、統計的学習、情報処理の自動化速度
    • 言語タスク:文法(形態統語)2種と語彙力のテスト
  • 分析指標:正答率・反応時間(RT)

■ 結果

  • DLD群は成人になっても文法と語彙に困難を示す
  • 言語分析能力は、どちらの群でも言語力(特に文法)を予測する指標となった
  • DLD群では形式−意味ペアの明示的学習も言語力に影響
  • 他の認知能力については、DLD群とLT群に大きな差はなく、DLDの成人では一部の認知機能が追いつく(catch up)傾向が見られた
  • DLD群の反応時間は、言語・非言語ともに遅い

■ 結論 / 意義

DLDは成人期にも持続する障害であることが確認された。言語分析能力や明示的学習の力がDLD群の言語能力向上に貢献する可能性が示され、臨床介入においては明示的(意識的)な学習支援と十分な処理時間の確保が重要であると考えられる。また、暗黙的・明示的な両方の学習過程の活用が、成人DLD支援の鍵となる。

Morphological and Phonological Awareness-Based Intervention in French Canadian University Students With Developmental Dyslexia and Dysgraphia

■ 背景 / 目的

発達性読字障害(SRLD)や書字障害(SSLD)を抱える大学生は、適切な言語療法や教育的配慮を受けていても、読解力・読字流暢性・書き取りにおいて持続的な困難を経験しています。本研究の目的は、形態意識(morphological awareness)および音韻意識(phonological awareness)に基づく短期介入が、これらの成人学生のリテラシースキルにどのような効果をもたらすかを検証することです。


■ 方法

  • 対象:フランス語を母語とする大学生(SRLDまたはSSLDあり)
  • 介入内容:3週間にわたる形態意識・音韻意識を重視した介入プログラム
  • 評価項目:語彙認識、非語読解、不規則語読解、文章レベルの書字、読解力など

■ 結果

  • 介入後、以下の能力に有意な向上が見られた:
    • 形態意識
    • 非語読解
    • 不規則語読解
    • 文章レベルでの書字
    • 読解力
  • 一方で、効果の大きさや持続性には個人特性や介入環境の影響も考慮する必要があると指摘されている。

■ 結論 / 意義

本研究は、大学生にも音韻・形態意識に基づく介入が有効である可能性を示し、高等教育における言語療法支援の重要性を強調しています。特別支援を受ける学生が、より高いリテラシースキルを獲得するためには、学習障害に特化した継続的な介入の導入と普及が必要です。

Examining the relationship between maternal preeclampsia and autism spectrum disorder in childhood

■ 背景 / 目的

自閉スペクトラム症(ASD)の原因は多因子的であり、妊娠期の要因が関与している可能性がある。一方、妊娠高血圧腎症(preeclampsia)も多因子的な合併症である。本研究では、妊娠高血圧腎症と子どものASD発症リスクとの関連性を検討することを目的とした。


■ 方法

  • 対象:2005〜2017年にイスラエルのSoroka大学医療センターで出産したClalit保険加入女性115,081名とその子ども
  • 研究デザイン:後ろ向きコホート研究
  • 解析方法:Kaplan-Meier法でASD累積発症率を推定し、Cox比例ハザードモデルで交絡因子を調整して解析

■ 結果

  • 妊娠高血圧腎症を有していた母親は2.5%(2,856名)、うち重症例は956名(0.8%)
  • ASDと診断された児は767名(0.7%)で、ASDの有病率は妊娠高血圧腎症群でやや高かった(軽症1.1%、重症0.9%、非罹患群0.7%、p = 0.02)
  • しかしKaplan-Meier解析では群間に有意差なし(log-rank p = 0.928)
  • Cox回帰モデル(交絡因子補正あり)でも、妊娠高血圧腎症とASDとの有意な関連は認められなかった

■ 結論 / 意義

一見すると妊娠高血圧腎症とASDの間に関連があるように見えるが、出生時期やその他の因子を考慮すると、妊娠高血圧腎症はASDの発症に寄与していないと考えられる。本研究は、ASDの産科的リスク要因についてより深い理解を促すものである。

Improving Autism Detection Through Telemedicine in China: A Comparative Analysis of Multitool-Combined Screening Protocols

■ 背景 / 目的

自閉スペクトラム症(ASD)の有病率は世界的に上昇しており、特にCOVID-19以降、対面でのスクリーニングに課題が生じている。本研究の目的は、中国において遠隔医療(テレメディスン)を活用し、複数の早期スクリーニングツールを組み合わせることで、ASDの検出精度を向上させることである。


■ 方法

  • 対象地域:上海市の3地域
  • 対象者:18〜36か月の乳幼児
  • スクリーニング手法
    • WSC(心理・行動・発達問題の警告サインチェックリスト)
    • Five No’s(ASDの行動マーカー)
    • CHAT-23-A(自閉症チェックリストの一部)
  • 診断基準:Childhood Autism Rating Scale(CARS)による診断
  • 分析指標:感度・特異度・ROC曲線・Youden指数など

■ 結果

  • 総スクリーニング数:1,102件(有効率83.3%)
  • 感度:
    • WSC + Five No’s:90.9%(高感度)
    • CHAT-23-A:63.6%(低感度)
  • 特異度:
    • CHAT-23-A:88.6%(高特異度)
    • 3つの検査を直列に組み合わせた場合:97.6%(最高特異度だが感度低下)
  • ROC曲線とYouden指数により、WSCとFive No’sの直列組み合わせが最もバランスが良いと判明

■ 結論 / 意義

テレメディスンを用いた多ツール併用スクリーニングプロトコルは、ASDの早期発見において感度と特異度の両立が可能であり、現場での活用に有望である。特にWSC + Five No’sの直列使用は実用性が高く、子どもの発達支援や将来の予後改善に貢献する可能性がある。

Caregiver Peer Support for Families of Autistic Children in France

■ 背景 / 目的

フランスでは、自閉スペクトラム症(ASD)の子どもを育てる家庭において、情緒的・実践的な負担が大きく、家族の幸福感に大きな影響を及ぼす。特に、フランス特有の精神分析的アプローチの歴史的影響により、他国に比べピアサポートの導入が遅れているという課題がある。本研究では、フランス国内のピアサポートプログラムの実態を調査し、その役割と課題を明らかにすることを目的とした。


■ 方法

  • 調査手法:インターネット検索および支援者コミュニティとの非公式な意見交換により、家族支援を目的としたピアサポートプログラムを特定
  • 対象:継続的に保護者へのピアサポートを提供しているフランス国内の団体
  • データ収集:ウェブサイト情報および運営者への直接の問い合わせ

■ 結果

  • 特定された団体数:16団体
  • 主なサポート形式
    • 対面型が主流、一部オンラインも存在
    • グループ会合、個別フォローアップ、ディスカッショングループなどの非公式な集まり
  • ピアサポート提供者の立場:有償/無償の混在
  • トレーニングの実施状況ほとんどの団体で正式なトレーニングは提供されていない
  • 課題
    • プログラムの情報公開が不十分で、利用希望者にとって内容が把握しづらい
    • 提供方法や支援内容の一貫性に欠ける

■ 結論 / 意義

フランスにおける保護者向けピアサポートはまだ発展途上であり、プログラムの内容やサポート体制、トレーニング制度が明確でないことが普及の妨げになっている。今後は以下の点が重要である:

  • 用語や支援内容の標準化
  • 保護者自身の専門性の認知と評価
  • 支援の質向上に向けたトレーニング制度の整備
  • 支援の有効性を検証する実証研究

フランスの事例は、ピアサポートの国際的な展開と制度構築に対する示唆を提供するものである。

Assessing the effectiveness of multi-session online emotion recognition training in autistic adults

■ 背景 / 目的

自閉スペクトラム症(ASD)を含む神経発達症において、感情認識の困難さは対人関係や教育的成果に影響を与える可能性があり、感情認識を支援する介入の有効性を評価することが重要である。本研究では、自己申告でASDとする成人を対象に、オンラインの感情認識トレーニングの効果を調査した。


■ 方法

  • 対象:自己申告でASDとする成人 184名
  • 介入期間:2週間で4回のセッション+2週間後のフォローアップ(第5セッション)
  • 比較群:実際の感情認識トレーニング群 vs. シャム(偽)トレーニング群
  • 評価指標:表情による感情認識の正答率、訓練されていない刺激への汎化、自覚的な社会的相互作用の改善

■ 結果

  • 第4セッション時の正答率
    • 実トレーニング群:14%改善(平均で正答数が7問増加)
    • シャム群:2%改善(平均で正答数が1問増加)
    • 有意差あり(p = 4×10⁻⁹)
  • 未学習顔への汎化効果:観察され、効果は2週間後も持続(ただしやや減衰)
  • 主観的な社会的相互作用の改善:一部で報告あり

■ 結論 / 意義

本研究は、自己申告でASDとする成人を対象に、複数回のオンライン感情認識トレーニングが有効であることを示した。特に、未学習の顔画像への汎化や持続的な効果、自覚的な社会的メリットも観察された。今後は以下の課題が残されている:

  • 正式な診断を受けたASD者への適用と検証
  • 児童に対する効果の検証と早期支援の可能性

この研究は、成人のASD支援におけるデジタル介入の有望性を示し、感情認識トレーニングが社会的スキルや生活の質の改善に寄与する可能性を示唆している。

52-Week Open-Label Safety and Tolerability Study of Centanafadine Sustained Release in Adults With Attention-Deficit/Hyperactivity Disorder

■ 背景 / 目的

Centanafadine(CTN)は、**ノルアドレナリン・ドパミン・セロトニン再取り込み阻害薬(NDSRI)**として初の候補薬であり、成人ADHDの治療薬として開発中です。本研究では、CTNの持続放出型製剤(SR)を用いて52週間にわたり安全性・忍容性および探索的有効性を評価しました。


■ 方法

  • 対象者:第3相試験終了者または新規参加の成人(N=662)
  • 投与量:CTN SR 400mg/日(1日2回に分割)
  • 評価期間:最大28日のスクリーニング+52週のオープンラベル試験+10日間の安全性フォローアップ
  • 安全性評価:有害事象(TEAE)、臨床検査、バイタルサイン、心電図、薬物中止アンケート、Columbia自殺重症度評価スケール
  • 有効性評価(探索的):AISRS(成人ADHD症状評価)およびCGI-S(疾患重症度の臨床印象)

■ 結果

  • 試験継続者数:653人が治療を受け、345人(52.8%)が試験を完了
  • TEAE発生率:61.4%(大半が軽度~中等度)
    • 主な副作用:不眠(8.0%)、吐き気(7.7%)、下痢・頭痛(各7.0%)
    • 有害事象による中止:80人(12.3%)
    • 重篤な有害事象:12人(1.8%、ただし薬剤関連性は否定)
  • 有効性:AISRSスコア最大57%改善、CGI-Sで1.5ポイント改善

■ 結論 / 意義

Centanafadine SR 400mgは、成人ADHDに対して長期的に使用しても良好な安全性と忍容性を示し、症状の持続的な改善も確認されました。新しい作用機序を持つADHD治療薬として有望であり、今後の承認・臨床応用が期待されます。

Frontiers | Identity work among girls with ADHD: Struggling with Me and I, impression management, and social camouflaging in school


■ 背景

スウェーデンではADHDの診断数が急増しており、従来は男児が大多数を占めていたが、思春期以降では女子の割合が増加しています。しかし、女子のADHDに関する研究は依然として不足しています。


■ 目的

本研究は、ADHDを持つ15〜18歳の女子10名を対象に、

  • 「社会的に求められる女性像(Me)」と「本来の自分(I)」との間で、どのようにアイデンティティ形成が行われているか

  • 学校生活における印象管理や社会的カモフラージュがどのように行われているか

    ドラマトゥルギー理論や社会的視点を用いて分析することを目的としています。


■ 方法

  • 質的インタビューテーマ的帰納的分析(thematic inductive analysis)
  • ドラマトゥルギー的視点(前向きな演技・演出)とMe/Iの理論を用いた補完的アブダクション(abductive)アプローチ

■ 主な分析テーマと結果

  1. 行動の調整と抑制:社会的期待に応じて自分を抑え、周囲に合わせようとする
  2. 感情とステレオタイプの間を行き来すること:感情をコントロールしつつ、「理想的な女子生徒像」に対する葛藤を抱える
  3. 学校環境での困難:学校は診断のきっかけとなり、役割期待も大きい。診断後は「学業成績向上」のための投薬が行われるが、「本来の自分」とのズレが生じる
  4. 薬物治療と自己像の変容:薬の効果によって集中力が向上する一方で、「自分らしさ」が失われていく感覚がある

■ 結論と考察

  • 学校という社会制度が、女子のADHDの診断・自己認識・行動を大きく形作っている
  • 「社会的に良い子であろうとする」傾向や、「目立たないように振る舞う」ことが、診断の遅れや誤解につながる要因
  • ADHDの医療的側面だけでなく、社会的・文化的要因(役割・規範・期待)も診断や支援において重視すべき

✅ 補足

  • 「Me」は社会的な規範や期待を内面化した「他者の目に映る私」
  • 「I」は自発的で本来的な「私自身」
  • 「社会的カモフラージュ」とは、症状を隠す・目立たなくするための振る舞いであり、女子の診断を遅らせる要因のひとつとされる概念です。