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ADHD成人の睡眠障害に関するケア指針

· 9 min read
Tomohiro Hiratsuka
CEO of Easpe, Inc

本ブログ記事では、自閉スペクトラム症(ASD)およびADHDに関する最新の研究動向を幅広く紹介しています。ASDの早期診断に向けた視線追跡と機械学習の活用、酸化ストレスに対する抗酸化療法の可能性、AIによるASD児の感情認識支援、成人後に診断されたASD患者の矯正治療における課題、便秘の有無による洗浄微生物移植(WMT)の効果差、ADHD成人の睡眠障害に関するケア指針の合意形成、そしてADHD児における抑制制御改善に効果的な運動処方(特に中等度のテコンドー)など、多角的なアプローチによる支援手法の最新知見を取り上げています。これらは発達障害に関わる支援者や研究者にとって、科学的根拠に基づく支援の可能性を示唆する内容となっています。

社会関連アップデート

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学術研究関連アップデート

A Systematic Review of Developments in Eye Tracking and Machine Learning for the Early Detection of Autism Spectrum Disorder

このレビュー論文は、自閉スペクトラム症(ASD)の早期発見において、視線追跡(アイ・トラッキング)技術と機械学習(ML)の応用に関する最新の研究動向を体系的に整理したものです。著者は、2020年から2024年に発表された文献1006件から、基準を満たした35本の査読付き論文を選定し、PRISMAガイドラインに従って分析を行いました。多くの研究で、異常な視線パターンを検出するためにMLを用いた視線追跡が、安全かつ客観的で高精度な診断手法として有望であることが示されました。一方で、サンプルサイズの小ささ、対象者の属性の偏り、機器のばらつきといった課題も明らかになりました。本研究は、より多様なデータセットの活用、手法の標準化、低コストな技術の開発が、臨床応用に向けた鍵であると指摘し、今後の研究者に向けた包括的な指針を提供しています。

Oxidative stress and antioxidant therapeutics in autism spectrum disorder: a biochemical and structure–activity relationship perspective

このレビュー論文では、自閉スペクトラム症(ASD)の発症メカニズムの一因とされる「酸化ストレス」に焦点を当て、その生化学的背景と抗酸化療法の可能性について整理しています。ASDでは、活性酸素種(ROS)の生成と抗酸化防御のバランスが崩れることで、脂質やタンパク質、DNAの酸化損傷が起こり、ミトコンドリア機能の低下や神経炎症が引き起こされ、症状を悪化させるとされています。こうした病態に対して、N-アセチルシステイン、グルタチオン前駆体、コエンザイムQ10、ビタミンE、ポリフェノール類などの抗酸化物質が注目されており、構造活性相関(SAR)研究により、これらの化合物が持つチオール基やフェノール性ヒドロキシル基、キノン構造が抗酸化活性や神経保護作用に重要であることが示されています。現在、これらの抗酸化療法は有望な効果を示していますが、最適な投与量や治療期間、他治療との併用戦略などは未確立であり、今後の研究が求められます。著者らは、分子レベルでの理解を深めることが、より効果的で標的を絞った治療法の開発につながると結論づけています。

Inter-Channel Attention Network for Recognizing Facial Expressions of Children with Autism

本研究は、自閉スペクトラム症(ASD)の子どもたちの顔の表情認識を目的に、深層学習技術を応用した新たなアプローチ「Inter-Channel Attention Network(ICAN)」を提案したものです。ASDの子どもは非言語的な感情表現が分かりにくく、支援者が感情を読み取ることが困難であるという課題があります。ICANは、顔の水平方向と垂直方向の特徴を抽出する「セパラブル畳み込み」、特徴マップの重要性を判断し最も支配的なチャンネルとそうでないチャンネルを分けて強調する「インターチャンネルアテンションモジュール(ICAM)」、そして情報を圧縮・再強調する「スクイーズエキサイテーション」という3つの段階で構成されています。通常の顔表情データセットで学習し、ASDのデータセットで検証したところ、RAF DB-ASDで89.45%、FER 2013-ASDで85.68%、FED RO-ASDで74.87%という高い認識精度を達成しました。本研究は、AIによる感情理解支援の可能性を示し、ASD児の感情把握を支援者にとってより容易にする手段として注目されます。

Frontiers | Case series: Challenges of orthodontic treatment in patients with autism spectrum disorders diagnosed in adulthood

本研究は、成人後に自閉スペクトラム症(ASD)と診断された3名の患者が、矯正治療中に直面した困難とその背景を報告した症例シリーズです。3例すべてに共通して、かみ合わせの変化や顔貌の変化への過敏な反応、矯正装置への不快感が強く、それが精神的状態の悪化を招き、治療の中断や満足のいかない結果につながっていました。これらの困難は、ASD特有の感覚過敏性やこだわり行動が関係しており、本人の訴えが理解されにくいまま従来の矯正治療が進められたことが悪循環を招いたと考えられます。本論文は、特に成人後にASDと診断されるケースにおいて、矯正治療の適応を慎重に検討し、多職種による長期的な支援体制とASD特性に配慮した治療設計が重要であることを強調しています。

Frontiers | Does Constipation affect the effectiveness of Washed Microbiota Transplantation in treating Autism Spectrum Disorders?

この研究は、自閉スペクトラム症(ASD)の子どもに対する洗浄微生物移植(Washed Microbiota Transplantation, WMT)の効果に、便秘の有無が影響するかを検討したものです。103人のASD児を対象に、WMTによる行動症状・睡眠障害・腸内環境の変化を便秘群と非便秘群に分けて比較した結果、WMTは両群ともにASDの症状や睡眠障害の改善に有効であることが示されました。便秘群では、初回WMT後の改善はゆるやかでしたが、複数回の治療を経ることで改善度は非便秘群に追いつきました。また、WMTにより便秘群では腸内細菌の多様性が大幅に向上し、ビフィズス菌の増加便性状の正常化も観察されました。したがって、本研究は、便秘がWMTの初期効果に一部影響を及ぼす可能性はあるが、最終的な治療効果には差がないことを示しており、ASDと便秘を併発する子どもに対してもWMTが有望な介入であることを支持しています。

Frontiers | The optimal system of care for the management of delayed sleep onset in adult ADHD in the UK: a modified Delphi consensus

この研究は、英国における成人ADHD(注意欠如・多動症)患者の遅発性睡眠相障害(Delayed Sleep Onset)の最適なケア体制について、専門家の合意を形成することを目的とした修正デルファイ法によるコンセンサス研究です。遅発性睡眠はADHDと深く関連し、症状悪化や日常機能の低下を引き起こす一方で、医療現場ではしばしば見過ごされ、結果として自己流の危険な対処や薬物使用に至ることもあります。研究では、専門家会議と文献レビューを通じて40の管理指針に関する提案を作成し、212名の臨床専門家によるオンライン調査を実施。その結果、すべての提案において75%以上の賛同が得られ、うち90%は90%以上の合意に達しました。これをもとに、メラトニンを含む治療介入の一次医療での開始と継続的な管理、および小児期から成人期への移行期における一貫した支援体制の必要性などを含む実践的な推奨が策定されました。本研究は、成人ADHDと睡眠障害の併存に対して包括的な対応を整えるための重要な一歩となる知見を提供しています。

Frontiers | Exercise prescription to improve inhibitory control in children and adolescents with ADHD: a network meta-analysis

この研究は、ADHDのある子どもや思春期の若者の「抑制制御(inhibitory control)」を改善するために、最も効果的な運動処方(運動の種類・時間・頻度・期間・強度の組み合わせ)を明らかにすることを目的としたネットワーク・メタアナリシスです。7〜18歳の参加者1450人を対象にした20本の研究を分析した結果、中等度の強度で週2回・1回70分・20週間以上続ける運動が、抑制制御の改善に最も効果的であることが示されました。特にテコンドーが有効な運動種目として上位にランクインしました(SUCRA値:87.1)。一方で、強すぎる運動強度(中〜高強度)は中等度より効果が低くなる傾向がありました。以上から、ADHDの子どもへの介入には、70分の中等度テコンドーを週2回・20週以上継続するモデルが、臨床的にも有望な選択肢となることが示唆されました。