障害者雇用・新規申込、就職件数が過去最多となるも解雇数も過去最多を更新
本ブログ記事では、2025年6月時点で発表された最新の発達障害関連トピックを幅広く紹介しています。社会動向としては、障害者雇用の増加と就職率の変化を取り上げ、学術研究では、自閉スペクトラム症(ASD)やADHDに関する神経生理学的メカニズム、言語理解、医療アクセス、教育・訓練モデル、バイオマーカーの可能性など多角的な視点からの研究成果を取り上げています。ASD児の比喩理解や認知動詞処理の脳活動、眼科検査のための支援モジュール、運転支援、行動分析士の訓練改善、遺伝医療の迅速化など、臨床・教育・生活支援のそれぞれの分野での課題と解決策が論じられており、福祉・教育・医療が連携しながらより包括的な支援を目指す動向が浮き彫りになっています。
社会関連アップデート
令和6年度 ハローワークを通じた障害者の職業紹介状況などを公表します
令和6年度のハローワークにおける障害者の職業紹介状況では、新規求職申込件数(26万8,107件)・就職件数(11万5,609件)がいずれも過去最高を更新しましたが、就職率は43.1%で前年度より1.3ポイント低下しました。障害種別では精神障害者の就職件数が大幅に増加した一方、就職率は全体的に低下傾向にあります。就職件数の増加は、求職者数の増加や法定雇用率引き上げに伴う企業の雇用促進によるものと考えられます。なお、解雇者数は9,312人で、過去最多を記録した平成13年度を大きく上回りました。
学術研究関連アップデート
Influence of Salience on Neural Responses in Metaphor Processing of Chinese Children with Autism: Evidence from ERPs
この研究は、中国の自閉スペクトラム症(ASD)の子どもたちにおけるメタファー(比喩)理解の神経的メカニズムを、**GSH(段階的顕著性仮説)**に基づいて検証したものです。5~12歳のASD児24名と、年齢を一致させた定型発達(TD)児37名を対象に、**イベント関連電位(ERP)を用いて比喩文と文字通りの文への脳反応を比較しました。文は顕著性(salience)**の高低で分類され、意味や構文の複雑さは制御されています。
結果は以下の3点に集約されます:
- P200(150~250ms):ASD児は比喩文に対して低い振幅を示し、初期段階での注意喚起における顕著性の利用が弱いことが示されました。
- N400(300~500ms):ASD群は両文タイプにおいて振幅が小さく、文脈に依存しない語義統合の困難さが見られました。
- LPC(600~1000ms):ASDとTD間で有意差はなく、後期段階の語用的評価能力は同程度である可能性が示唆されました。
本研究は、ASD児が比喩理解において初期の顕著性に基づく情報処理が特に弱いことを神経生理学的に初めて示したものであり、比喩理解支援においては顕著性(salience)を考慮した指導戦略が有効である可能性を示唆しています。
The Comprehension of Cognitive Verbs Among Autistic Children
この研究は、「知っている(know)」や「思っている(think)」といった認知動詞の理解に関して、自閉スペクトラム症(ASD)の子どもが定型発達(TD)の子どもと比べてどのような違いを示すかを調査したものです。対象は3〜10歳のASD児59名とTD児62名で、**相対的な確信度(例:「知っている」と「思っている」の確信の違い)と事実性(factivity:動詞が文の真偽を保証するかどうか)**の2側面から認知動詞の理解を測定しました。
加えて、心の理論(ToM)・語彙力・構文力も評価されました。
主な結果は以下の通りです:
- ASD児はTD児に比べ、相対的な確信度の違いと事実性の理解の両方で一貫して困難を示しました(就学前・就学年齢ともに)。
- TD児では年齢のみが認知動詞理解の予測因子でした。
- ASD児では、心の理論(ToM)スコアが事実性の理解の唯一の予測因子であり、相対的確信度の理解を説明できる因子は見つかりませんでした。
この研究は、ASD児の言語評価において認知動詞の理解を重視する必要性を強調しており、特に心の理論と密接に関連する側面であることを示しています。これは、ASD児の社会的理解や推論能力を支援する上での言語的アプローチの重要性を示唆するものです。
Attention-deficit/hyperactivity disorder in children with a history of febrile seizures: a systematic review and meta-analysis
この研究は、「熱性けいれん(FS)」の既往がある子どもにおいて、注意欠如・多動症(ADHD)との関連性があるかどうかを明らかにするために行われた初の系統的レビューとメタアナリシスです。
背景と目的
熱性けいれんは小児に最も多く見られるけいれんの一種であり、これまで多くの医療ガイドラインでは**「基本的に良性」**とされてきました。しかし、近年その見方に疑問を投げかける研究が増えています。本研究では、FSとADHDの関連性を検証し、その影響の大きさを定量的に評価しました。
方法
- 検索対象:PubMed、Embase、Web of Scienceなど複数の国際データベース
- 対象:小児期にFSを経験した子どもにおけるADHDの有病率を報告した観察研究
- 登録数:12件の研究(総参加者数:958,082人)
- 統計:未調整および調整済みオッズ比(OR)を用いて、ADHDとの関連を評価
- 結果のばらつきに影響を与える要因(年齢、追跡期間、診断基準など)をサブグループ解析とメタ回帰で検討
主な結果
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未調整OR:1.91倍(95%CI: 1.32–2.76)
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調整済みOR:2.68倍(95%CI: 1.21–5.93)
→ FSがあるとADHDを発症する確率が明らかに高い
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地域、年齢、診断基準、研究の目的やデザインなどが結果に影響を与える要因として特定された
結論と意義
この研究は、「熱性けいれんは基本的に無害」という従来の見解に疑問を呈し、FSを経験した子どもに対してはADHDなどの神経発達モニタリングを行う必要性を示唆しています。臨床現場において、FSの既往がある子どもに対し発達的フォローアップを検討することが重要であると考えられます。
Can vasopressin levels predict autism spectrum disorder severity? A case-control study - Egyptian Pediatric Association Gazette
この研究は、自閉スペクトラム症(ASD)におけるバソプレシン(vasopressin)濃度と症状の重症度との関連性を調べたケースコントロール研究です。
✅ 背景と目的
ASDは幼児期に発症し、社会的コミュニケーションの障害や反復的な行動を主な特徴とする神経発達障害です。バソプレシンは、扁桃体・海馬・視床下部などの社会的行動に関連する脳領域で働く神経伝達物質・調節物質であり、ASDの症状との関連が示唆されています。
この研究の目的は、ASD児の血漿バソプレシン濃度が、症状の重さとどのように関連しているかを調べることです。
🔬 方法
- 対象:ミニア大学病院(エジプト)の小児神経精神科クリニックに通院するASD児
- 評価項目:
- バソプレシン濃度(血液検査)
- 尿の浸透圧・比重(バソプレシンの生理的影響の指標)
- *GARS-3(Gilliam Autism Rating Scale 第3版)**によるASDの重症度評価
📊 主な結果
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血漿バソプレシン濃度とASD重症度(GARS-3スコア)との間に有意な負の相関(r = −0.36)
→ バソプレシン濃度が低いほど症状が重い傾向
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尿比重とGARS-3スコアにも同様の負の相関(r = −0.36)
✅ 結論と意義
血中バソプレシン濃度は、ASDの症状の重さを推測するためのバイオマーカーになり得る可能性があると示唆されました。今後は、発症前のリスク評価や、早期発見に向けた研究の必要性があると著者らは述べています。
この研究は、ASDの生物学的メカニズムの理解や早期介入への応用に向けた重要な一歩となる可能性があります。
Driving with autism spectrum disorder: A review of challenges and solutions
この論文は、自閉スペクトラム症(ASD)を持つ人々が運転において直面する課題と、それに対する解決策をまとめたレビュー研究です。
✅ 要約
ASDのある人々にとって、運転は重要な自立手段である一方、実行機能(判断力・注意の切り替えなど)、運動協調性、危険察知能力の課題が原因で困難が生じやすいことが、過去の34件の研究から明らかになっています。
これらの課題に対応するために、以下のような介入策が提案されています:
- 神経心理学的評価による個別の強みと課題の特定
- 個別対応の運転指導プログラムの導入
- 運転シミュレーターなどを用いた補助的教材や練習環境の活用
特に運転シミュレーション環境は、現実の道路に出る前の安全な練習手段として有望です。ただし、こうした介入の広範な実用性や有効性には今後の研究が必要とされています。
💡意義
ASDを持つ人が運転スキルを身につけることは、生活の質や社会的自立に大きく寄与します。本研究は、個々の特性に応じた支援によって、より多くの人が安全かつ自信を持って運転できる可能性を示唆しています。
A Critical Evaluation of Practitioner Training in Applied Behavior Analysis: It is Time for a Change
この論文は、応用行動分析(ABA)における実践者(行動分析士など)の養成・訓練の現状に対する批判的検討を行い、改善の必要性を訴えるものです。
✅ 要約
質の高い行動介入は、発達障害などの支援対象者にとって人生を変えるほどの効果をもたらすことがあります。そのためには、介入を行う実践者(行動分析士)が十分に訓練されており、介入を高い忠実度で実施していることが不可欠です。
著者のJustin B. Leafは、これまでの訓練制度が部分的には改善されていると認めつつも、依然として多数の問題が残されていると述べています。具体的な懸念には以下のようなものがあります:
- 実践的スキルの不足
- 理論中心のカリキュラムと現場応用の乖離
- トレーニングの質や一貫性のばらつき
- クライアント中心でない教育方針
これらの課題に対して、著者は実践に即したトレーニングの再設計や、現場との連携を重視した教育、倫理的かつ人間中心の視点の強化などを提案しています。
💡意義
本論文は、ABAの効果を高めるためには、介入内容だけでなく、それを担う人材の育成そのものを見直す必要があるという重要な視点を提示しています。特に、制度的改善や教育プログラムの質の均質化などが、今後の発展の鍵になると示唆しています。
Development and Impact of a Communication Module on Eye Examination Testability Among Individuals with Autism Spectrum Disorder
この研究は、自閉スペクトラム症(ASD)のある子どもたちに対して、眼科検査の受けやすさ(検査可能性)を高めることを目的としたコミュニケーションモジュールの開発とその効果の検証を行ったものです。
✅ 要約
本研究では、5〜10歳の軽度〜中等度のASD児30名を対象に、視力検査や屈折検査、感覚・運動機能の検査に関連した内容を含む**「ソーシャルストーリー形式のコミュニケーションモジュール」を英語とカンナダ語で開発・検証しました。被験者はモジュールを使った介入群(15名)と非介入の対照群(15名)**に無作為に分けられ、ブラインド化された検査員が検査を実施しました。
その結果、介入群では対照群に比べて、検査を受けられた割合が有意に高く(全体で2.01倍高い検査可能性)、各検査においても1.96〜3.89倍高い検査達成率を示しました。また、モジュールの内容は「関連性・適切さ・わかりやすさ・簡潔さ」のいずれの項目においても高い評価(平均4.45〜4.78点/5点満点)を得ました。
💡意義
ASD児は医療検査においてコミュニケーションの困難さや感覚過敏により検査が中断されやすいという課題があります。本研究は、その課題に対して文化・言語に配慮した支援モジュールの導入が実際に効果を持つことを示し、今後の医療現場や教育現場での応用可能性を提示しています。特に、事前に子どもへ検査内容をわかりやすく伝えることで、不安や混乱を軽減し、協力行動を引き出せる点が重要です。
Influence of Salience on Neural Responses in Metaphor Processing of Chinese Children with Autism: Evidence from ERPs
この研究は、自閉スペクトラム症(ASD)のある中国の子どもたちが比喩(メタファー)を処理する際の脳内反応を、**脳波(ERP: 事象関連電位)**を用いて調べたもので、比喩の「顕著さ(salience)」が処理にどのような影響を与えるかに焦点を当てています。
✅ 要約
本研究では、5〜12歳のASD児24名と同年齢の定型発達児37名を対象に、高・低の「顕著さ」を持つ比喩文と文字通りの文の理解における神経反応の違いを調査しました。ERP測定により次のような結果が得られました:
- P200の低下(150〜250ms):ASD児では、比喩文に対する注意の立ち上がり(salience-driven attention)が弱く、顕著さに基づく初期の注意喚起が困難であることが示されました。
- N400の減衰(300〜500ms):比喩文・文字通り文のどちらにおいても、ASD児では意味統合の処理(semantic integration)に困難があることが示唆されました。
- LPC(600〜1000ms)には差が見られず、遅い段階での意味の評価や文脈判断は定型児と同程度に行えている可能性があるとされました。
💡補足と意義
本研究は、ASD児のメタファー理解の困難が「語の目立ちやすさ(salience)」に基づく初期処理の障害に起因している可能性を示した初の神経生理学的証拠を提供しています。これは、「よく使われる慣用句のような目立つ比喩」と「あまり知られていない比喩」とで処理の仕方が異なるという**段階的顕著性仮説(Graded Salience Hypothesis)**に基づく知見です。
このことから、ASD児の比喩理解支援には、顕著さの高い言語刺激から段階的に導入していく方法が有効である可能性が示唆され、教育や療育現場における比喩理解の指導法設計に重要な示唆を与える研究となっています。
Expedited workflow for autism spectrum disorder in a pediatric genetics clinic
この論文は、米国ボストン医療センターの小児遺伝クリニックが導入した、自閉スペクトラム症(ASD)の子どもに対する**遺伝子検査へのアクセスを迅速化するための新しい診療モデル「Expedited ASD Genetics Clinic(EAGC)」**について報告したものです。
✅ 要約
ASDや発達遅延のある子どもには遺伝的評価が推奨されている中、遺伝医療への需要が増加し、従来の診療モデルでは対応が難しくなってきています。本研究では、待機時間の短縮と受診効率の向上を目的に、EAGCという特化型の診療フローを導入しました。
この診療モデルには、以下の要素が含まれています:
- 待合室での事前アンケート
- 英語・スペイン語の教育ビデオ視聴(標準的な遺伝カウンセリング内容を網羅)
- 医師による身体診察
- 遺伝子検査のための採血
その結果、2022年10月〜12月に18人だったASD患者の受診数が、同時期の2023年には32人に増加し、また、初回予約までの待機日数も有意に短縮されました。
💡補足のポイント
- 遺伝子検査の必要性が高いASD児において、待機時間の短縮と標準化された情報提供を両立した診療モデル。
- 特に、教育ビデオの活用により、対面説明の時間を短縮しつつ、必要な知識を保護者が得られるよう工夫されています。
- このようなフローの効率化は、専門医不足や待機リストの長期化という課題の解決策として他施設への応用可能性もあります。
この研究は、ASDに対する遺伝医療のアクセス改善に向けた現実的かつ効果的なアプローチとして注目されます。