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iPadを活用したPMIとPRT併用インクルーシブ教育

· 4 min read
Tomohiro Hiratsuka
CEO of Easpe, Inc

本記事では、自閉スペクトラム症(ASD)やADHDに関する最新の学術研究2本を紹介しています。1本目は、通常学級内でのiPad学習におけるピア・メディエイテッド介入(PMI)とピボタル・レスポンス・トリートメント(PRT)の併用が、ASD児の社会的行動の改善やインクルーシブ教育の促進に有効であることを実証的に示した研究です。2本目は、フランスにおけるADHD診断とメチルフェニデートの普及を新自由主義的社会構造と結びつけ、精神医学の経済化と子どもの個別性の抑圧を批判的に論じた思想的論考であり、臨床現場での精神分析的アプローチの意義を再評価しています。

学術研究関連アップデート

Effectiveness of a Peer-Mediated Intervention During iPad-Based Academic Tasks on Social Behaviors of Four Students with Autism Spectrum Disorder

この研究は、iPadを使った学習活動中に実施される「ピア・メディエイテッド介入(Peer-Mediated Intervention, PMI)」と「ピボタル・レスポンス・トリートメント(Pivotal Response Treatment, PRT)」の併用が、自閉スペクトラム症(ASD)の児童の社会的行動に与える効果を検証したものです。対象は、通常学級に通うASD児4名と定型発達(TD)児4名で、それぞれ1対1のペアを構成しました。

研究デザインは複数ベースライン法を採用し、介入前後で以下の変化が観察されました:

  • 全児童において社会的応答(返答)の頻度が増加
  • ASD児1名では社会的発話の「自発的な開始」が増加
  • TD児3名も自発的な社会的行動(声かけなど)が増加
  • ASD児3名において不適切な社会行動(無視や干渉など)が減少
  • これらの改善は介入後もしばらく維持されたことが確認されました

本研究は、タブレット学習という日常的な活動の中で自然に社会性を促す支援手法として、PMI-PRTが有効であることを示しています。特に、ASD児とTD児の相互関係の向上やインクルーシブ教育の促進に寄与する可能性が示唆され、実践的な教育現場でも応用が期待される結果となっています。

ADHD (Attention deficit hyperactivity disorder) proliferation: a neoliberal goldmine

この論文は、フランスにおけるADHD(注意欠如・多動症)診断の急増と、それに伴うメチルフェニデート(例:リタリン)の頻繁な処方を批判的に捉え、現代の精神医学と新自由主義との関係を分析したものです。

著者らはまず、ADHDがDSM(精神障害の診断と統計マニュアル)に基づく「科学的」な診断として正当化されていることに注目し、それが脳の生物学的異常を前提とした一面的な理解に基づいていると指摘します。これにより、精神医学が社会の規範に従属する道具と化しているという問題提起を行います。

さらに、ADHDとメチルフェニデートによる対応の枠組みは、新自由主義的経済システムと密接に結びついていると論じます。つまり、子どもたちは「自らを管理・最適化する存在(=自己の企業家)」として扱われるようになり、適応可能性や効率が重視される社会の中で“商品化”されていくのです。

このような枠組みの中では、子どもの主体的な欲望や語りが抑圧され、症状の奥にある個別性が見失われると著者らは警告します。代替的アプローチとして、精神分析的視点による丁寧な臨床実践の重要性を提示し、最後には具体的な症例を通じて、ADHDの子どもが自己の欲望を言葉にする力を取り戻していく過程を描いています。

本論文は、ADHDの増加を単なる医療や教育の問題ではなく、社会構造やイデオロギーに根差した現象としてとらえ直す、非常に批判的かつ思想的な議論を展開しています。