ASDやLDを持つ若者の自己決定力を高める介入の体系的レビュー
本記事では、自閉スペクトラム症(ASD)や学習障害をもつ若者・児童を対象とした最新の研究成果を紹介しています。取り上げられた研究は、自己決定力を高める介入の体系的レビュー、性別による教育的支援の格差、動物介在療法の効果測定ツールの信頼性検証、そしてラテン系家族を対象としたアドボカシープログラムの有効性など多岐にわたります。いずれも、ASD支援における「個人と環境の相互作用」「文化的・言語的多様性」「客観的評価手法」の重要性を示しており、支援の質とアクセス向上に資する実践的知見が得られています。
学術研究関連アップデート
A Systematic Review of Interventions on Self-Determination for Autistic Individuals and Those with a Learning Disability: an Ecological Approach
この論文は、自閉スペクトラム症(ASD)や学習障害を持つ若者(15〜25歳)を対象にした**「セルフ・ディターミネーション(自己決定力)」向上のための介入研究**を、エコロジカルな視点から体系的にレビューしたものです。セルフ・ディターミネーションとは、自分の目標を立て、自ら選択・行動し、人生を主体的に生きる力を指し、成人期の生活の質や自立度に大きく関わる要素とされています。
本レビューでは、27件の研究(19の異なる介入プログラム)を分析。これらの多くは、実社会の環境――学校や職業訓練、地域活動など――で実施されており、現実世界での実践が自己決定力の向上に効果的である可能性が示唆されています。
一方で、介入の効果を支える環境要因(例:支援者の姿勢、制度、文化的背景など)については、まだ十分に検証されておらず、環境と個人の相互作用をより深く探る今後の研究の必要性が指摘されています。
本研究は、教育現場や福祉支援において、形式的なスキルトレーニングだけでなく、本人を取り巻く環境全体を意識したアプローチが求められることを示しており、実践と研究をつなぐ架け橋となる重要な知見を提供しています。
Population-level gender-based analysis of the educational journeys of students with autism spectrum disorder in British Columbia, Canada
この研究は、カナダ・ブリティッシュコロンビア州における自閉スペクトラム症(ASD)の児童生徒の教育的軌跡を、性別の観点から分析したものです。ASDに関する診断や支援体制はこれまで主に男子を前提として設計されており、女子に特有のASDの特性が見過ごされがちであるという課題に対して、人口規模の行政データを用いて実態を明らかにしようとしています。
分析対象は、2000年代以降に就学したASD児童4,282名(うち女子738名)。以下の点で性別による違いが検討されました:
- ASDとしての初回指定(diagnosis)までにかかる時間
- K-12教育課程への継続的在籍率
- 高校卒業率および取得した卒業資格の種類
- 卒業後の州内の公立高等教育機関への進学率
主な発見は次のとおりです:
- 女子はASDと診断されるまでの期間が男子よりも有意に長く、診断の遅れが教育的支援のタイミングにも影響している可能性がある。
- 高校卒業率と卒業時に得られる資格の種類には性差があり、男子よりも女子の方が一般教育課程での卒業がやや多い傾向があった。
- 一方で、K-12教育システムへの長期在籍率や高等教育への進学率には性差は見られなかった。
この研究は、ASDの診断と教育支援の在り方において性別を考慮する必要性を強調しています。特に、女子のASDは見逃されやすい傾向があるため、教育者や支援者が性別による表出の違いを理解することが重要だとしています。また、今後の施策や研究においても、性別に配慮した支援設計と教育制度の見直しが求められることを示唆しています。
The Reliability of a Video Analysis Tool to Evaluate Outcomes for Animal Assisted Therapy Involving Dogs in Children and Young People with Autism
この研究は、自閉スペクトラム症(ASD)の子どもや若者(3〜25歳)を対象とした動物介在療法(AAT:Animal-Assisted Therapy)における行動変化を評価するビデオ分析ツール(VAT-AAT)の信頼性を検証したものです。具体的には、AATセッション中に見られる言語的・非言語的な社会的行動、遊び行動、否定的行動の頻度や持続時間を評価するためのツールです。
方法としては、オーストラリアの都市部にある大学の作業療法学科の学生23名が、単純または複雑なAATセッションの録画ビデオを2回視聴し、それぞれの行動を評価しました。専門家が設定した正答範囲と比較して、一致度(ICC:級内相関係数)を算出しました。
結果は以下の通りです:
- *評価者間の一致度(inter-rater reliability)**は、単純セッションで0.84、複雑セッションで0.89。
- *再テストによる一致度(test-retest reliability)**も同様に高く、0.84(単純)、0.89(複雑)という高い信頼性が確認されました。
- 行動の評価精度は、セッションの複雑さや評価者のASD児との経験の有無にかかわらず一貫していましたが、動物との経験が少ない評価者ではわずかに一致率が低下する傾向がありました(約10%の差)。
結論として、このVAT-AATツールは、ASD児・若者を対象とした動物介在療法のセッションにおいて、信頼性の高い行動評価が可能であることが示されました。今後は、このツールの**妥当性(validity)**を確立する研究が必要であるとされています。これは、今後のAATの効果検証や臨床応用を進めるうえで重要な基盤となる成果です。
Testing an Advocacy Program to Improve Service Access Among Latino Families of Autistic Youth: A Randomized Controlled Trial
この研究は、自閉スペクトラム症(ASD)の青年期に差しかかる子どもを持つラテン系スペイン語話者の家族が、成人向け支援サービスへのアクセスを改善することを目的に、**親のアドボカシー能力(サービスに関する知識、自己主張力、自信、エンパワーメント)を高める介入プログラム「ASISTIR」の効果を検証した無作為化対照試験(RCT)**です。
ASISTIRプログラムは合計24時間の指導からなり、成人向け支援制度について学びながら、親がより自信をもってサービスを活用できるよう支援します。30家族が参加し、介入群とウェイティングリスト対照群に無作為に割り当てられました。
その結果、介入群の親たちは、以下の点で対照群よりも有意に改善が見られました:
- 成人サービスに関する知識の向上
- アドボカシー活動の実施率や自信の増加
- エンパワーメント感の向上(自分で行動できるという感覚)
- 実際に利用できたサービスの数の増加
この研究は、制度的障壁に直面しやすいマイノリティの家族に対して、文化的・言語的に配慮された支援がいかに重要であるかを示すとともに、ASISTIRのような親支援型プログラムが実践現場でも有効である可能性を明らかにしています。今後の研究や実装において、このようなプログラムの普及と効果検証が求められます。