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ゲーム型デジタル介入によるADHD症状の改善効果

· 31 min read
Tomohiro Hiratsuka
CEO of Easpe, Inc

本記事では、ADHDやASDに関する最新の学術研究を紹介しています。ゲーム型デジタル介入によるADHD症状の改善効果や、発達に伴う脳波(α波・μ波)の波形変化とその限界、ASD児における視覚刺激への脳ネットワーク反応の違いなど、脳機能や認知の側面に焦点を当てた研究が多く報告されています。また、GABAA-α5受容体に選択的に作用する新薬Alogabatのマウス実験では、反復行動の抑制や抗てんかん作用といった有望な効果が確認されました。さらに、ADHD児の血液マーカーにおける炎症指標の上昇と、メチルフェニデートによる改善、出生直後の敗血症がASDリスクを高める可能性を示唆する大規模研究なども取り上げられています。加えて、韓国語学習におけるAR技術の活用では、ASD児の読解力向上に一定の効果が見られたものの、感覚過敏やUIの複雑さといった課題も指摘されています。これらの研究は、発達障害の理解と支援における多様なアプローチの重要性を示しており、今後の実践や研究の方向性に貴重な示唆を与えています。

学術研究関連アップデート

Parental Concerns About their Child’s Development During the First Year of Life and a Subsequent Autism Spectrum Disorder Diagnosis

この研究は、「生後1年以内に親が子どもの発達に懸念を抱いたことが、後の自閉スペクトラム症(ASD)診断と関連しているかどうか」を調べたものです。

研究では、ASDと診断された子ども280人と、ASDではない560人の子どもを対象に、2・4・6・9・12か月時点の発達に関する親の懸念と発達マイルストーンの記録を比較しました。その結果、ASDと診断された子の親の19.5%が1歳までに発達への懸念を示していたのに対し、**ASDではない子の親で懸念を示したのはわずか2.8%**でした(p < 0.001)。

特に、親の懸念は以下の発達の遅れと関連していました:

  • 言語発達の遅れ(オッズ比: 5.27)
  • 運動発達の遅れ(オッズ比: 2.46)
  • 社会的発達の遅れ(オッズ比: 2.27)

さらに、こうした発達遅延を考慮しても、親の懸念そのものがASDの独立したリスク要因であることが明らかになりました(調整済みオッズ比: 7.76)。

結論として、1歳未満での親の懸念を定期的に確認することは、ASDの早期スクリーニングにおいて非常に有用である可能性があると示されています。親の声に耳を傾けることの重要性を改めて示した研究です。

Gastrointestinal health and nutritional strategies in autism spectrum disorder

この論文は、自閉スペクトラム症(ASD)の子どもたちにしばしば見られる消化器系の問題(GI症状)と、その栄養管理の重要性についてレビューしたものです。

ASDの中核的な特徴である社会的・感覚的困難に加えて、消化器の不調(例:便秘、下痢、腹痛など)がしばしば併存しており、これらがASDの症状の重症度と関係している可能性があると指摘されています。実際、ASDの子どもは神経発達が典型的な子どもよりもGI障害のリスクが高く、より綿密な栄養管理が必要とされています。

しかし現在のところ、ASDにおけるGI症状への標準的な治療ガイドラインは存在せず、臨床現場では対応が難しいという課題があります。

このレビューでは、次の点を強調しています:

  • 腸内環境(腸内フローラなど)の健全化が、ASDの子どもの自立性やQOLの向上に寄与する可能性があること
  • GI不調に対応するためには、個別化された栄養戦略が有効であり、対象者の特性に合わせたアプローチが必要であること
  • 臨床で実践可能な栄養戦略の開発や、エビデンスに基づく推奨の構築が急務であること

総じて本研究は、ASD支援において消化器と栄養の観点を軽視せず、全体的な健康と生活の質を高めるための鍵として捉えるべきという重要な視点を示しています。

Cognitive Abilities and Executive Functions as Predictors of Adaptive Behavior in Preschoolers with Autism Spectrum Disorder and Typically Developing Children: A Comparative Study

この研究は、自閉スペクトラム症(ASD)のある未就学児(3〜6歳)と、典型的な発達を示す子どもたち(TD)を比較し、認知能力や実行機能(Executive Function)が適応行動にどう影響するかを調べたものです。

主なポイントは以下の通りです:

  • ASDの子どもたちは、非またはほとんど言葉を話さないケースが多く、作業記憶を中心に実行機能に大きな困難を抱えており、認知能力にも明確な差がありました。
  • 適応行動(社会性・日常生活スキル・コミュニケーションなど)全般においてASD群とTD群には有意な差があり、特に社会性(Socialization)で最も大きな差が見られました。
  • ASDの子どもたちでは、実行機能と認知能力が「コミュニケーション能力」の個人差を強く予測する要因となっていました。一方、「日常生活スキル」や「社会性」にはやや弱い関連でした。
  • 一方、TDの子どもたちでは、実行機能や認知能力が適応行動の差に大きく関与しているとは言えない結果となりました。

結論として、本研究はASDの子どもたちにおいて、実行機能の発達が適応行動の支援における重要なターゲットとなることを示しており、特に作業記憶などの認知的な介入が、コミュニケーション能力向上につながる可能性があると示唆しています。これは、療育や支援プログラム設計において非常に有益な知見といえます。

Judo and karate in primary school as a means for the improvement of social inclusion for autistic children

この研究は、自閉スペクトラム症(ASD)のある児童が、学校の授業の中で行う柔道や空手の活動を通じて、社会的包摂(インクルージョン)をどのように改善できるかを検証したものです。研究はイタリア柔道・レスリング・空手・武道連盟(FIJLKAM)の「KATAUTISM PROJECT」の一環として行われました。

対象と方法

対象は**6〜10歳のASD児31名(男子26名・女子5名)**で、通常学級の同級生とともに柔道(16名)または空手(15名)に週2回・24週間参加しました。1回のセッションは1時間で、活動はすべて学校内で実施されました。

評価項目は以下の3点です:

  1. 自閉スペクトラム症の重症度(GARSなどのスケール使用)
  2. 社会的障害の程度(SRSなど)
  3. 粗大運動能力(TGMD-3)

主な結果

  • 全てのASD児がプログラムを完了し、**3つの評価項目すべてで統計的に有意な改善(p < 0.05)**が見られました。
  • 柔道・空手ともに、社会的スキル、感情の自己調整、自己および他者への攻撃的行動の軽減などにおいて肯定的な影響が確認されました。
  • 柔道と空手のいずれも、同程度の改善効果が認められ、どちらもASD児のインクルージョンに有効とされました。

結論

本研究は、学校教育の中で柔道や空手を取り入れることが、ASD児の社会的包摂を促進し、行動や運動面でも多面的に良い影響をもたらすことを示しています。特別支援教育やインクルーシブ教育の実践において、武道のような構造化された身体活動が有効な手段となる可能性が示唆されました。

Change in Pediatric Psychiatric Emergency Service Clinicians’ Confidence After Training to Improve Care for Autistic Youth At-Risk for Suicide: A Pilot Study

この研究は、自閉スペクトラム症(ASD)の若者における自殺リスクへの対応に関して、救急精神医療の現場にいる小児精神科スタッフの自信や態度が、専門的な研修によってどのように変化するかを検証したパイロット研究です。


背景

ASDのある若者は、精神的な問題や自殺念慮により救急外来(ED)を受診する率が高い一方で、現場の医療者はその対応に十分な訓練を受けておらず、自信が乏しいとされています。


研究の内容

  • 対象:小児精神科の救急サービスに従事する医療スタッフ(前後評価は10名、実装後評価は15名)
  • 介入内容
    • ASDのある若者の自殺リスクに対応するための研修(地域とエビデンスに基づく推奨内容)
    • ASDの若者と使用できる臨床支援ツールの提供
    • 実装期間:3ヶ月
  • 評価方法
    • 研修前後での態度と自信のスコア比較
    • 実装後における研修内容とツールの有用性・実現可能性の評価

主な結果

  • 態度の変化には有意な違いは見られなかったものの、

    「自殺リスクアセスメント」についての自信は有意に向上しました。

  • 研修で提供されたリソースや戦略の有用性と実施可能性の評価はおおむね高く、ただし実行を妨げる組織的・制度的な障壁も明らかになりました。


結論

この研究は、ASDの若者に対する自殺リスクケアの改善に向けた研修が、医療者の自信を高める効果を持つことを示しています。今後は、ASDに適応したリスク評価ツールやケア戦略の開発を進めるとともに、制度的な障壁を取り除くことが必要だと提言されています。

Motor, physical, and behavioural performance of 3- to 5-year-old children at risk of developmental coordination disorder: A longitudinal observational study

この研究は、発達性協調運動障害(DCD)リスクのある子ども(rDCD)と典型的に発達している子ども運動能力・身体的能力・行動面の発達を、3歳・4歳・5歳の3年間にわたって追跡調査した縦断的観察研究です。


研究の目的

3〜5歳の間における

  • 運動能力

  • 身体的パフォーマンス(筋力、BMIなど)

  • 行動面(社会的・感情的課題など)

    について、rDCDの子どもと健常児の違いを明らかにすることが目的です。


方法

  • 対象:
    • rDCD群:35人(高リスク児)
    • 典型発達群:34人
  • 使用された主な評価ツール:
    • MABC-2(運動協調性の評価)
    • Beery VMI(視覚運動統合)
    • LDCDQ(保護者による発達協調障害の質問票)
    • 筋力測定、BMI、Child Behavior Checklist(行動評価)

主な結果

  • rDCDの子どもたちは、視覚認知以外のすべての評価項目で一貫して劣っており

    MABC-2やBeery VMIの運動協調性サブテスト、LDCDQでは平均未満のスコアを取り続けました。

  • 3歳から5歳にかけて全体的なパフォーマンスは安定しておりLDCDQのみ有意な改善が見られました。

  • 最終的にDCDと診断されなかった子ども(n=5)は、健常児と類似したパフォーマンスを示しました。


結論

rDCDの子どもは、早期から多方面にわたる発達の遅れが顕著であり、視覚認知以外では典型発達児との差が明確です。

これらの結果は、DCDリスクのある子どもに対して早期からの包括的な評価と支援が重要であることを示唆しています。

Co-design to consensus: Identifying the core elements of a novel intervention for pre-school children with co-occurring phonological speech sound disorder (SSD) and developmental language disorder (DLD) using a modified e-Delphi approach

この研究は、「発音に課題のある発達途上の幼児(音韻性構音障害:P-SSD)と、言語発達にも困難を持つ子ども(発達性言語障害:DLD)を対象とした新たな介入プログラムのコア要素を合意形成すること」を目的としたものです。

対象となる介入は「SWanS(Supporting Words and Sounds)」と名付けられ、語彙力の向上と話し言葉の聞き取りやすさの両立を目指します。


背景

P-SSDとDLDの併存は臨床でよく見られますが、この両方に対応した一体型の介入プログラムはほとんど存在しません

本研究では、専門家と当事者による共創(co-design)と修正型e-Delphi法を組み合わせて、介入の中核となる要素の合意形成を図りました。


方法

  1. 専門職と当事者による共創により、介入の候補要素を47個作成。
  2. *修正e-Delphi法(二段階)**を用いて、**30名以上の言語聴覚士(SLT)**に評価を依頼。
    • 評価は5段階リッカート尺度で行い、75%以上の「適切/非常に適切」評価と、IQR(四分位範囲)が1以下を「合意」と定義。
    • 第1ラウンドで合意が得られなかった要素は、コメントを元に修正し第2ラウンドで再提示。

結果

  • 第1ラウンドで42/47項目に合意
  • 残りの5項目は再検討・修正の上で第2ラウンドに移行:
    • 1つの項目は削除
    • 6項目は文章を修正
    • 2項目は例を追加
    • 4項目は2つに統合
  • 第2ラウンドでは提示した8項目すべてで合意が得られ最終的に44項目が合意済みのコア要素として確定しました。

結論

この研究は、P-SSDとDLDが併存する幼児向けの新たな介入の基盤を形成する重要な一歩となりました。

多様な当事者と専門家による共創アプローチと、明確な合意形成プロセスによって、実践への応用可能性を高めた点が特筆されます。今後はこれらの要素を基に、臨床での導入と評価が期待されます。

HaptiKart: An engaging videogame reveals elevated proprioceptive bias in individuals with autism spectrum disorder

この研究は、自閉スペクトラム症(ASD)の人が、視覚情報よりも身体内部の感覚(固有感覚:proprioception)に過度に依存している可能性があるという仮説を検証するために、「HaptiKart(ハプティカート)」というゲームを使った実験を行ったものです。


🔍 研究の目的

ASDの人は、運動や感覚処理のバイアス(偏り)があると言われており、特に視覚よりも身体感覚に頼りやすい傾向があると考えられています。

この研究では、それをゲーム形式で楽しく計測できるよう設計された「HaptiKart」を使い、年齢や知能、ASDの重症度との関連も調べました。


🎮 使用ツール:「HaptiKart」

  • 運転ゲームで、フォースフィードバック付きのハンドルを使用。
  • 視覚フィードバック(画面の動き)と固有感覚フィードバック(ハンドルの抵抗)を意図的にずらして提示
  • そのズレによって生じる運転エラーの差を用いて「感覚運動バイアス(proprioceptive vs visual bias)」をスコア化。

👥 対象者

  • 33人のASD当事者(8〜31歳)

  • 48人の定型発達者(TD)

  • 合計81名

    ※性別・年齢・IQなども分析対象に含む。


📊 主な結果

  • *ASD群はTD群よりも明らかに高い「固有感覚バイアス」**を示した(p = 0.002)。
  • 年齢が上がるほどバイアスがやや減少する傾向が見られたが、診断と年齢の間に有意な交互作用はなし。
  • 固有感覚バイアスが高いほど、ASDの症状が重く、IQが低い傾向があった。
  • ADHDの重症度とは相関がなかった

🧠 結論と意義

  • ASDの人は視覚よりも身体感覚に強く依存する傾向があることが、ゲームによって客観的に確認された。
  • HaptiKartは感覚運動バイアスの測定に適したスケーラブルな手法であり、ASDの特性理解や個別支援に役立つデジタルバイオマーカーとしての可能性がある。
  • 今後の**介入の個別最適化(パーソナライズ)**に役立つことが期待されます。

Resting-state Alpha and Mu Rhythms Change Shape across Development But Lack Diagnostic Sensitivity for Attention-Deficit/Hyperactivity Disorder and Autism

この研究は、脳波(EEG)におけるアルファ波とミュー波の波形の発達変化と、発達障害(ADHDやASD)の診断に役立つかどうかを検証したものです。


🧠 アルファ波とミュー波とは?

  • アルファ波(occipital alpha):後頭葉に現れる8〜12Hzのリズムで、視覚情報の処理と関連。
  • ミュー波(sensorimotor mu):感覚運動野に現れる類似の周波数を持つリズムで、身体運動の抑制や模倣に関係。
  • どちらも「情報のフィルタリング」などに重要とされるが、通常の分析方法ではこの2つが混ざって観測されやすい

🧪 研究方法

  • 5歳〜18歳の1605人の子どもの脳波を、自動化された新しいアルゴリズムで処理。
  • 周波数だけでなく、「1回1回の波の形(波形の非正弦性)」に注目し、発達とともにどう変わるかを分析。
  • 同時に、ASD(自閉スペクトラム症)およびADHD(注意欠如・多動症)と定型発達児の違いも検証。

🔍 主な結果

  • アルファ波とミュー波は、どちらも発達とともに波形が変化していた(非正弦性が変化)。
  • しかし、ASDおよびADHDの子どもたちと定型発達児との間に有意な差は見られなかった
  • 波の「形」に注目するというアプローチは、従来の周波数解析よりも詳細な情報を提供するが、診断的な感度(病気の判別)は不十分だった。

🧩 結論

  • アルファ波・ミュー波は成長に応じて形が変化するが、それ自体はADHDやASDの診断指標としては有効ではない
  • ただし、こうした「波形の形」の分析は、今後のより詳細な脳波モデルの構築や神経発達の理解には貢献する可能性がある。

この研究は、脳波の新たな解析視点を提供しつつも、臨床診断への応用には慎重さが必要であることを示しています。

Frontiers | Effects of Therapeutic Horsemanship on Caregiver Stress Scores of Children with Autism

この論文は、自閉スペクトラム症(ASD)の子どもがセラピューティック・ホースマンシップ(TH:乗馬を通じた療育)に参加することで、その保護者のストレスレベルがどう変化するかを調べたパイロット研究です。


🐎 研究の背景と目的

  • ASDの子どもを育てる保護者は、高いストレス・バーンアウト・うつ症状を経験しやすいとされています。
  • 動物介在療法(乗馬など)は子どものQOLを改善する効果が知られていますが、その間接的な影響が保護者にどう及ぶかについてはまだ研究が少ないのが現状です。
  • 本研究の目的は、子どものTH参加が保護者のストレス軽減にどのような影響を与えるかを探ることです。

🧪 方法

  • 対象:13組の保護者とその子ども(ASD)
  • 期間:16週間のセメスター(4か月)
  • 測定:
    • 保護者は**DASS-21(うつ・不安・ストレス尺度)**を事前・事後に回答。
    • セメスター中に1回、半構造化インタビューも実施し、質的データとしてテーマ分析。

📊 主な結果

  • ストレススコアが統計的に有意に低下(p=0.03):
    • 介入前:平均12.77(SD = 9.95)
    • 介入後:平均 8.62(SD = 10.98)
  • インタビューで見られた5つの主要テーマ
    1. 子どもの診断への対応とケアの難しさ
    2. 支援リソースの不足
    3. 経済的負担
    4. 複数の子どもを育てる負担
    5. 👉 THへの間接的関与による保護者のストレス軽減(唯一のポジティブテーマ)

💬 考察

  • この研究は、保護者自身が直接乗馬を体験しなくても、子どもがTHに参加することで間接的に心理的負担が軽減される可能性を示しています。
  • 保護者のストレスや精神的健康を支援する観点から、子ども向けの動物介在療法の広がりは家族全体への好影響も期待できるという知見が得られました。

📌 まとめ

子どもの乗馬療育が保護者のストレス軽減に寄与するという結果は、介入設計や福祉政策において「子ども+保護者の両方に目を向けること」の重要性を示しています。今後はより大規模な研究でその効果を確認していく必要があります。

Frontiers | Baseline-dependent network reactivity to visual input in children with autism spectrum disorder: a magnetoencephalography study

この研究は、視覚刺激に対する脳ネットワークの反応が、自閉スペクトラム症(ASD)の子どもと定型発達(TD)の子どもでどのように異なるかを、脳磁図(MEG)を用いて調べたものです。特に、暗闇での静止状態(DR)から無音ビデオの視聴(EO)という視覚状態の切り替えに着目しています。


🎯 目的と背景

  • ASDの子どもは視覚刺激に対する脳の反応が異なることが知られていますが、「**状態の切り替わり(例:暗闇→映像)**が脳のネットワークに与える影響」は明らかになっていません。
  • 本研究では、「視覚入力の変化が脳のネットワーク構造にどのように影響するか」を、ASDとTDの子どもで比較しました。

🧪 方法

  • 対象:3〜10歳のASD児23人とTD児31人。
  • 手法:MEG信号を68の脳領域にマッピングし、5つの周波数帯(デルタ〜ガンマ)で**位相遅延指数(PLI)**による機能的結合を解析。
  • 評価指標
    • クラスタリング係数(C):局所的なネットワーク密度
    • 平均経路長(L):情報の伝達効率
    • スモールワールド性(SW):局所性と全体効率のバランス

📊 主な結果

  • 両群ともに、EO(映像視聴)ではα帯域でクラスタリング係数が上昇 → 視覚刺激で局所的なネットワーク強化が起こる。
  • ただし、暗闇時(DR)のネットワーク指標が高い子ほど、EOでの増加幅は小さかったベースライン依存型の反応が明らかに。
  • ASD児では、δ(デルタ)およびβ(ベータ)帯域でSWが大きく増加 → 視覚刺激によって脳全体の情報処理ネットワークがより大きく再構成される。
  • ASD児内では、β帯域のSW増加がSRS(社会応答性尺度)スコアと正の相関 → 自閉特性が強いほどネットワーク変化が顕著。
  • 対照的に、TD児ではδ帯域のSW増加が軽度の自閉傾向と関連 → 自閉スペクトラムの連続性が示唆される。

💬 考察と意義

  • ASD児では、視覚刺激への脳の再構成反応がより強く、ベースライン(暗闇状態)によって影響を受けやすいことが明らかになりました。
  • ネットワーク指標(特にSW)は、ASDの脳機能特性を捉えるバイオマーカー候補になり得ます。
  • ただし、今後はより大規模かつ多様なサンプルによる検証が必要です。

🧠 まとめ

この研究は、視覚入力の変化に伴う脳ネットワークの再編成のされ方がASD児で特異的であることを示した先駆的なMEG研究です。状態遷移におけるネットワーク変動が、将来的に診断や介入の個別化指標として活用される可能性があります。

Frontiers | Preclinical Pharmacology of Alogabat: A Novel GABAA-α5 Positive Allosteric Modulator Targeting Neurodevelopmental Disorders with Impaired GABAA Signaling

この研究は、神経発達症(特に自閉スペクトラム症やアンジェルマン症候群)に関連するGABAシグナルの異常に対して、新たに開発された薬剤 Alogabat(アロガバット)前臨床薬理学的評価を行ったものです。


🔬 背景と目的

  • 自閉スペクトラム症(ASD)やアンジェルマン症候群などの神経発達症では、GABA(γ-アミノ酪酸)による抑制性神経伝達が障害されていることが知られています。
  • 特に、GABAA受容体のα5サブユニットをターゲットにした選択的な陽性アロステリックモジュレーター(PAM)は、従来の薬(例:ジアゼパム)のような認知障害や眠気などの副作用を回避しつつ治療効果をもたらす可能性があります。
  • 本研究では、**GABAA-α5に特化した新薬「Alogabat」**の作用を、細胞実験から動物モデルまで多角的に検証しました。

🧪 方法

  1. in vitro(試験管内)
    • GABAA-α5β3γ2受容体に対する結合能と活性を測定。
    • ラットの海馬スライスでの電気生理的反応を記録。
  2. in vivo(動物実験)
    • ラット脳での受容体占有率(標識リガンドを用いたオートラジオグラフィー)。
    • *phMRI(薬理学的MRI)**での脳血流変化、**EEG(脳波)**の変化(θ波・β波の電力増減)を評価。
    • *ASDモデルマウス(Cntnap2欠損・BTBR系統)反復行動(グルーミング)**への効果を確認。
    • ラットでの**抗てんかん効果、認知機能、運動機能(ロタロッド)**の影響も評価。

📈 主な結果

  • AlogabatはGABAA-α5に選択的に結合・活性化するPAMとして機能。
  • 50%以上の受容体占有で、ASDモデルマウスの過剰なセルフグルーミング行動が正常化
  • 抗てんかん効果も確認され、てんかん発作の抑制に有効。
  • 認知機能への悪影響はなく、副作用が出るのは非常に高用量に限られた(おそらく他のサブユニットへの作用またはα5の過剰活性化による)。
  • ジアゼパムとの併用でも運動障害は増加しなかった → 安全な併用が可能な可能性。

🧠 結論と意義

Alogabatは、神経発達症に特異的な症状(反復行動やてんかん)に効果があり、副作用が少ないという特長を持つ有望な薬剤です。選択的にGABAA-α5受容体を標的とすることで、従来の非選択的GABA作動薬とは異なる安全性と治療効果の両立が期待されます。


🔍 補足:なぜGABAA-α5が重要?

  • GABAA受容体は多くのサブユニットで構成されており、α5サブユニットは主に海馬(記憶形成に関与)に多く存在します。
  • 非選択的なGABA作動薬は眠気や認知機能の低下を引き起こしがちですが、α5を選択的に刺激することで副作用を抑えながら症状改善が狙えると考えられています。

Frontiers | Novel Hematologic Ratios and Systemic Inflammation Index in ADHD: Effects of Methylphenidate Treatment

この研究は、ADHD(注意欠如・多動症)における全身性炎症の関与と、治療薬メチルフェニデート(商品名:コンサータなど)によるその変化に注目したものです。従来の炎症マーカーに加え、血球成分とHDL(善玉コレステロール)の比率を用いた新しい炎症指標が用いられています。


🧪 研究概要

  • 対象:
    • 6〜12歳の未治療ADHD児114人健常児52人(年齢・性別をマッチ)
    • ADHD群は診断後すぐに**長時間作用型メチルフェニデート(12週間)**を服用
  • 測定した新規炎症指標:
    • NHR(好中球/HDL比)
    • LHR(リンパ球/HDL比)
    • MHR(単球/HDL比)
    • PHR(血小板/HDL比)
    • SII(全身性免疫炎症指数) = 血小板 × 好中球 ÷ リンパ球
  • 評価指標:
    • ADHD症状:CPRS-R:S(親による行動評価尺度)
    • 不安・抑うつ:RCADS(子ども用評価尺度)

🔍 主な結果

  • ADHD児は健常児よりも、すべての炎症指標が有意に高値(効果量d=0.17〜0.69)
  • 特にNHRは独立してADHDの予測因子となる(→診断補助の可能性あり)
  • 12週間のメチルフェニデート治療後、すべての炎症指標が有意に低下
    • 薬が炎症を抑える作用を持つ可能性が示唆される
  • サブタイプ別では、ADHD混合型で治療後のLHRが高い傾向が見られた

💡 結論と意義

この研究は、ADHDにおける全身性炎症の関与を支持すると同時に、メチルフェニデートが抗炎症作用を持つ可能性を示しています。NHRやSIIなどの指標は、ADHDの客観的な生物学的マーカーとしての応用が期待される一方で、実際の臨床応用にはさらなる研究が必要です。


🧠 補足:なぜ「HDLとの比」を用いるのか?

  • HDLは抗炎症作用や抗酸化作用を持つことで知られています。
  • そのため、炎症細胞(好中球・単球など)との比を取ることで、炎症のバランス状態を定量化できると考えられています。
  • このような指標はがんや心血管疾患の炎症評価でも注目されており、神経発達症領域への応用は新たな試みです。

Early‐Onset Neonatal Infection and Attention Deficit Hyperactivity and Autism Spectrum Disorder: A Nationwide Cohort Study

この研究は、新生児期早期(生後1週以内)の細菌感染が、後年の注意欠如・多動症(ADHD)や自閉スペクトラム症(ASD)とどのように関連しているかを、デンマークの大規模全国データを用いて検証したものです。


🧒 研究背景と目的

新生児感染症(特に敗血症や髄膜炎)は比較的一般的な疾患ですが、その後の発達への長期的な影響はよく分かっていません。本研究では、これらの感染症がADHDやASDとどの程度関係しているかを明らかにすることを目的としました。


📊 方法概要

  • 対象:1997〜2013年にデンマークで生まれたほぼ正期産以上の子ども約98万人
  • フォローアップ期間:出生〜2021年(最長24年)
  • 定義:
    • 早期感染症=生後1週以内の侵襲性細菌感染(診断 or 培養陽性)
    • ADHD・ASD=診断 or 関連薬剤の処方
  • 解析方法:
    • 多変量Cox回帰(ADHD/ASDと敗血症の関連)
    • 人年あたりの発症率比較(髄膜炎)
    • 兄弟間マッチ分析による家族要因の影響評価

🔍 主な結果

  • 98万人のうち:
    • 敗血症児:8,154人(うち培養陽性:257人)
    • 髄膜炎児:152人(うち培養陽性:32人)
  • 感染した子どものADHD・ASD発症率:
    • ADHD:4.5 / 1000人年
    • ASD:3.3 / 1000人年
  • 調整後ハザード比(HR):
    • 敗血症→ADHD:HR 1.28(有意)
    • 敗血症→ASD:HR 1.43(有意)
    • ※ただし兄弟間比較ではADHDとの関連は弱まり、HR 1.12(非有意)
  • 髄膜炎と神経発達症との関連も傾向として見られたが、有意ではない(ADHD: IRR 1.77、ASD: IRR 2.05)

💡 結論と考察

  • 新生児期早期の敗血症は、その後のASD発症リスクを有意に高めることが示されました。
  • 一方で、ADHDとの関連は家族内要因(遺伝・環境)で説明できる部分が多く、直接の因果関係は限定的と考えられます。
  • 髄膜炎との関連は明確ではないものの、影響がある可能性も示唆されました。

📌 補足:なぜ兄弟間比較を行うのか?

兄弟で比較することで、家庭内の遺伝的要因や育児環境など共有される背景の影響を除去しやすくなります。そのため、真に感染症が要因かどうかを見極めやすいという特徴があります。


この研究は、出生直後の感染症管理が、神経発達における長期的影響を防ぐ可能性があることを示しており、予防医療や早期介入の意義を改めて強調しています。

AR as an Educational Technology for the Development of Reading Skills in Children With ASD in Korean Language Education

この研究は、自閉スペクトラム症(ASD)の高校生に対して、拡張現実(AR)技術を活用した韓国語の読解スキル支援が有効かどうかを検証したものです。


🎯 背景と目的

ASDの生徒にとって、外国語学習、とくに韓国語教育における有効な教材や支援技術は限られており、新たなアプローチが求められています。本研究は、AR技術が読解スキルの向上に寄与するかどうかを調べることを目的としています。


🧪 方法

  • 使用アプリ:**ARアプリ「Kimchi Reader」**を活用
  • 対象:韓国語を外国語として学ぶASDの高校生
  • データ収集:
    • 前後テスト(quantitative):音節認識、語の読み取り、文の理解などを評価
    • 保護者インタビュー(qualitative):学習体験や効果の感想を聴取

📈 主な結果

  • 実験群は統制群と比べて有意に読解力が向上し、以下の項目で統計的に有意な改善が確認されました:
    • 音節認識
    • 単語の読み取り
    • 文の理解
    • 全体的な読解スキル
  • 効果量(Cohen’s d)は約0.47(中程度の効果)
  • スコアには個人差が大きく見られた(得点のばらつきが中程度)

💬 保護者インタビューからの補足

  • 多くの保護者が肯定的な学習体験と語学力向上を実感
  • 一方で、以下の課題も指摘
    • ARインターフェースの複雑さ
    • 感覚過負荷(過剰な視覚・音声刺激)
    • 社会的相互作用の少なさ

📝 結論と実用的意義

AR技術はASDの生徒の韓国語読解スキル向上に中程度の効果を示し、学習への関心や体験の質を高める可能性があります。ただし、感覚的な負荷や操作性の課題、個別対応の必要性も明らかになり、将来的にはASDに特化した設計のARアプリ開発が求められます。

この研究は、今後の外国語教育×発達支援の研究・実践への有用な指針となる可能性があります。