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重度ASDの子どもに対するAAC技術「EC+」の効果、さ

· 28 min read
Tomohiro Hiratsuka
CEO of Easpe, Inc

本ブログ記事では、2025年6月に発表された最新の研究成果から、発達障害(ASDやADHDなど)や知的障害に関する多角的な知見をご紹介しています。ASDに関しては、ポルトガル・アゾレス諸島での有病率調査や、中国におけるインクルーシブ教育への保護者の参加意識、言語発達の下位群と家庭環境との関連、幼児期における遠隔診断ツール「TELE-ASD-PEDS」の妥当性や信頼性、重度ASDの子どもに対するAAC技術「EC+」の効果、さらにはCHD8-Notch経路を介した分子メカニズムと治療標的の探索、摂食障害(ARFID)を併発した重症事例の支援など、さまざまな角度からの研究成果が紹介されています。ADHDに関しては、学校における適応的な機能を多面的に評価する新たな評価ツール(AFSQ)、眼球運動を用いた診断・介入への応用可能性、乳児期の生理指標と視線行動による予測、成人におけるストレスとの遺伝・環境相互作用の分析など、診断・支援・予防に資する研究が展開されています。さらに、発達性協調運動障害(DCD)のある青年の視点を取り入れた支援ニーズの調査や、知的障害に対する社会的態度を改善するためのプログラムに関する体系的レビューも取り上げられており、全体として、発達障害や神経多様性に対する理解と支援のあり方を深める内容となっています。

Preschool Inclusion for Children with Autism Spectrum Disorder in China: Parental Participation Intention and Influencing Factors

この研究は、中国江西省において、自閉スペクトラム症(ASD)の子どもたちの就学前インクルーシブ教育(障害の有無にかかわらず、共に学ぶ保育)に対して、定型発達(TD)の子どもを持つ保護者がどれほど参加しようと考えているか、その意欲と影響要因を調べたものです。

調査では、態度(賛成かどうか)や主観的規範(周囲がどう思っているか)、行動のコントロール感(自分が参加できると感じるか)、ASD児との接触経験といった要素が、参加意欲にどう影響するかを**構造方程式モデル(SEM)**を用いて分析しました。

その結果:

  • TD児の保護者の多くがインクルーシブ教育に前向きな意欲を示していた
  • 特に、「周囲が参加を期待しているか(=主観的規範)」が最も強い影響を持っており、態度やコントロール感は有意な影響を持たなかった
  • また、ASD児との接触経験がある親の方が参加意欲が高かったものの、その影響の大きさは比較的小さかった

このことから、**親の参加意欲を高めるには、周囲の価値観や社会的な雰囲気(例:保育園、地域社会、メディアの姿勢)が鍵となることが分かりました。教育現場や政策づくりにおいては、「親の協力をどう得るか」ではなく、「親が協力したいと思える社会的空気をどうつくるか」**が重要であることを示唆する研究です。

Adaptive Functioning in School: A Multidimensional Questionnaire for Assessing Functional Challenges Beyond Symptoms in Students with ADHD

この研究は、ADHDのある子どもたちが学校で直面する日常的な適応課題(社会的・感情的・組織的な困難)を多面的に評価するための新しい質問票「AFSQ(Adaptive Functioning in School Questionnaire)」を開発・検証したものです。

従来の評価ツールは、ADHDの「症状の重さ」や「学力・行動」といった限定的な側面に焦点を当てがちでしたが、AFSQは学校生活全体での適応力に注目し、以下の5つの領域を教師の視点で評価できるよう設計されています:

  1. 社会的・行動的な適応
  2. 実務的な整理整頓力(忘れ物や準備など)
  3. 学習課題への取り組み方
  4. 感情の理解と表現
  5. 感情のコントロールと対人トラブルへの対応

調査には、ADHDのある小学生564名(平均年齢9.42歳)と、定型発達の同年代93名(平均年齢9.36歳)およびその担任教師が参加しました。因子分析により、この5領域構造の妥当性が確認され、実行機能や社会的スキルとの相関も高く、信頼性(α=.83〜.96)も非常に高いことが示されました。

また、**ADHDのある子どもは全ての領域において定型発達の子よりも適応困難が顕著であり、その差は大きい(効果量d=.82〜1.34)**とされています。さらに、注意欠如が広範な適応困難の要因である一方で、反抗挑戦性障害(ODD)を併せ持つ場合、特に社会性や感情面の課題が深刻化する傾向があることも明らかになりました。

この研究は、AFSQが**「症状」ではなく「日常での困りごと」を可視化する学校向けの有用なツール**であり、教師や支援者が子ども一人ひとりの支援ニーズに応じた具体的なサポートを計画するのに役立つことを示しています。

Prevalence of autism spectrum disorder in children in the Azores Islands (Portugal): sociodemographic and clinical profile

この研究は、ポルトガル領アゾレス諸島における自閉スペクトラム症(ASD)の子どもの有病率(どれくらいの割合で見られるか)を調べたものです。ASDの実態を把握することは、支援体制の整備や政策立案の基礎資料として重要です。

調査では、地域内すべての学校から正式に診断されたASDの子どもの数に関する行政データを収集し、あわせて保護者に対して、子どもの社会的背景や診断の経緯、臨床情報などについてのアンケート調査を実施しました。

その結果、**アゾレス諸島におけるASDの有病率は1,000人あたり9.92人(約1%)**であることが判明しました。これは、ポルトガル全体の平均や他のヨーロッパ地域の数値と比べてやや高い傾向にあります。

また、地域内にASD児が集中している可能性が示唆されており、遺伝的要因(家族性の傾向)も背景にあるのではないかという仮説を支持する結果となっています。

この研究は、離島地域におけるASDの地域特性や支援ニーズを可視化するものであり、今後の医療・教育・福祉の整備にとって重要な基礎資料を提供しています。

Language Subtypes in Young Autistic Children and the Influence of Parental Education, Educational Environment and Diet

この研究は、**中国の3〜6歳の自閉スペクトラム症(ASD)の子どもたちに見られる「言語発達の違い(サブタイプ)」と、それに影響を与える家庭環境要因(親の学歴、家庭での教育環境、食習慣)**について調査したものです。

ASD児80名と、年齢・性別を揃えた定型発達児30名を対象に、語彙テストとGesell発達検査の言語尺度を用いて言語能力を評価。さらに、親の最終学歴年数や家にある大人用・子ども用の本の数、食べ物の偏り(好き嫌い)に関する質問票を回収しました。

クラスタリング分析(2ステップ法)の結果、ASD児は「言語能力が高い群」と「低い群」の2つのサブタイプに分かれました。言語能力が低いグループの親は、学歴が短く、子ども用の本が家に少ない傾向がありました(統計的に有意)。一方、食の偏り(偏食度)は言語能力との関連は見られませんでした。

また、ASD児においては、親の学歴が高く、本が多い家庭ほど子どもの言語能力が高いという正の相関関係も確認されました(定型発達児にはこの関連は見られず)。

この研究は、ASD児の言語発達には個人差があり、その差は家庭の教育的環境と関係している可能性が高いことを示しています。特に、家庭内の教育的資源や親の学歴が、言語発達の支援において重要な要素となることが強調されています。

Development of an AI-based informational assistance system for assembly accounting for dyslexia

この研究は、組立作業における発達障害(特にディスレクシア:読字障害)のある作業者の支援と作業効率向上を両立するために開発されたAIベースの支援システムについて紹介しています。製造業では、従来の文字中心の作業指示が、認知的な困難を持つ人にとって大きな障壁となることが課題とされています。

本研究では、リアルタイムで作業状況を認識する「ビジョンシステム」個別の作業状況に応じて指示を生成する「インテリジェント指示生成モジュール」、および**音声によるハンズフリー指示を提供する「指示提示モジュール」**を統合した支援フレームワークを開発しました。

実験では、遠心ポンプの組立工程を模擬し、文字のゆがみなどディスレクシアに似た認知的負荷をかけた状況でシステムの有効性を検証。その結果、従来の人による監督よりも作業ミスが減少し、作業時間も短縮され、ディスレクシアのような特性を持つ作業者にも有効に機能する可能性が示されました。

この成果は、製造現場におけるインクルーシブな設計(誰もが働きやすい環境づくり)の実現に向けた一歩であり、今後はさまざまな作業工程への適応や、作業者の認知負荷の可視化など、より柔軟で多様性に対応したシステム開発が期待されています。

Supporting adolescents with developmental coordination disorder (DCD) in their daily challenges: a qualitative study of adolescents' perspectives

この研究は、発達性協調運動障害(DCD)を持つ思春期の若者が日常生活で感じている困難や、それにどう対処しているか、専門的支援に対してどのような思いを抱いているかを、本人たちの視点から明らかにすることを目的としています。DCDに対する多くの支援は主に幼児期を対象としており、思春期に特化した支援は十分に整備されていないことが背景にあります。

11人のDCD当事者(思春期)へのインタビューを通じて、以下の3つの主要なテーマが浮かび上がりました:

  1. 「自分で“モンスター”を追い払う方法」

    → 自分なりの対処法(計画立て、タスク分割など)や前向きな考え方、周囲の支援などを組み合わせて、日常生活を乗り越えようとしている姿勢が語られました。

  2. 「自分は車椅子に座っているわけじゃない」

    → 専門的な支援に対する態度には個人差があり、**自立したいという気持ちや、支援を受けることへのスティグマ(偏見)**から距離を置く人もいれば、実用的なサポートをありがたく思っている人もいました。

  3. 「こういう支援なら受けたい」

    → 希望される支援には、生活スキルの習得・DCDに関する正しい知識の提供・他者への説明の仕方などが含まれ、個別指導とグループ支援の両方のバランスが大切だという意見が多く挙がりました。

この研究は、DCDのある思春期の若者に対する支援は、「機能訓練」だけでなく、「心理的サポート」や「自己理解・対人理解」の促進も含むべきだと提案しています。さらに、彼らの自立心を尊重しながら、本人の希望に沿った柔軟な支援を設計することが重要だと結論づけています。

In-home Tele-assessment for Autism in Toddlers: Validity, Reliability, and Caregiver Satisfaction with the TELE-ASD-PEDS

この研究は、幼児期の自閉スペクトラム症(ASD)を診断するための遠隔アセスメントツール「TELE-ASD-PEDS(TAP)」を家庭内で使用した場合の有効性・信頼性・保護者の満足度を検証したものです。特に、**対面評価を受けることが難しい家庭(地理的・社会的障壁のある家庭)**にとって、TAPがどれだけ実用的かを評価しています。

🔍 研究の概要

  • 対象:18〜42か月の幼児182人(スクリーニング陽性・医師の懸念・早期支援の紹介による)
  • 方法:
    • 初回:全員がTAPによる遠隔評価を受ける
    • 約2週間後:92名はTAPをもう一度遠隔で、90名は対面評価を実施
    • 保護者には、技術面の困難や満足度についてアンケートを実施

📊 主な結果

  • 全体の77%がASDと診断(140人)
  • 初回と2回目の診断の不一致はわずか6%(10例)で、遠隔・対面ともに同等の割合
  • 診断一致率:94%、一致度(カッパ係数)0.82〜0.84と非常に高い
  • TAPスコアの再検査信頼性も高く、ICC=0.85
  • 技術的な問題は6%未満
  • 保護者の92%が「何も変える必要がない」と回答し、満足度が非常に高い
  • 評価者側もテレアセスメントへの満足度が高かった

✅ 結論

家庭内で実施するTAPによる遠隔ASD評価は、信頼性・妥当性・実用性が高く、保護者にも高く受け入れられていることが明らかになりました。特に、早期診断へのアクセスに課題を抱える家庭にとって、有効な代替手段となり得ることが示され、今後の普及・活用が期待されます。

The impact of EC+ as a multimodal support in intervention for children with autism spectrum disorder: a technological alternative

この研究は、重度(レベル3)の自閉スペクトラム症(ASD)で複雑なコミュニケーション支援を必要とする子どもたちに対して、「EC+」という新しい技術支援型AAC(拡大・代替コミュニケーション)ツールがどれほど有効かを検証したものです。

🔍 研究の概要

  • 対象:6〜12歳のASDレベル3の子ども18人
  • 期間:16週間
  • 方法:EC+を使ったセラピーを定期的に実施し、Vineland-3(適応行動評価ツール)を用いて3時点で評価
  • EC+は、多様なモード(音声・視覚・タッチなど)を使って語彙を提示するICT支援ツールで、**「支援付き拡張入力(aided augmented input)」**との併用により理解と言語表出の両方を促します

📊 主な結果

  • コミュニケーション能力が大幅に向上
  • 社会的相互作用(関わり)も増加
  • 問題行動が減少
  • 繰り返し測定の統計分析(ANOVA)でも有意な改善が確認

✅ 結論

EC+は、複雑な支援を必要とするASD児にとって、表出と理解の両面を強化できる効果的なAACツールであり、多感覚的で直感的なデザインが、子どもたちの関与・学習・適応的な行動促進に寄与していることが示されました。今後は、他のAACツールやICT資源との比較研究が望まれるとされています。

この研究は、「話せない」「伝えられない」ことに課題を持つASD児へのICTを活用した新たな支援の可能性を示す実践的な成果と言えます。

Identification of Therapeutic Targets in Autism Spectrum Disorder through CHD8-Notch Pathway Interaction Analysis

この研究は、自閉スペクトラム症(ASD)の原因として注目されているCHD8遺伝子の変異と、神経発達に関わるNotchシグナル経路との関係を解析し、ASDの治療標的となり得る遺伝子や分子機構を特定することを目的としています。


🔬 研究の方法

  • CHD8遺伝子の変異モデル(CHD8A・CHD8B欠損)から得られたRNAデータセット(GSE236993)を用いて、発現の変化した遺伝子(DEGs)を特定
  • その中からNotch経路に関係する遺伝子を抽出
  • 機能的な解析(GO・KEGG・PPI)により重要な遺伝子群(ハブ遺伝子)を選定
  • 他のCHD8欠損データセット(GSE85417)で結果を検証

🧬 主な発見

  • Notchシグナルと関連し、ASDにも関与が示唆される7つのハブ遺伝子を特定:
    • IGF2、FN1、CXCR4、COL11A1、ITGA6、LOX、FBN2
  • 特にIGF2とCXCR4は、ASDの発症機構に深く関与する可能性があり、診断マーカーや治療標的として有望
  • miRNAとの相互作用ネットワークも構築され、遺伝子発現を調整する分子機構の一端を可視化
  • 薬剤–遺伝子相互作用の解析により、AMD3100やIGF-1R阻害薬などの候補治療薬が浮上

✅ 結論と意義

この研究は、CHD8変異に起因するASDの分子メカニズムを多層的に解析し、診断や治療に活用できる可能性のある遺伝子と化合物を特定しました。今後の臨床研究や創薬開発に向けて、新たな分子標的の手がかりを提供する重要な知見となっています。

Challenging Case January 2025: An Autistic Youth With ARFID During the COVID Pandemic

この症例報告は、**COVID-19パンデミック中に重度の摂食障害(ARFID:回避・制限性食物摂取障害)を発症した、東南アジア在住の12歳の自閉スペクトラム症(ASD)児「アンドリュー」**のケースを通じて、神経発達症と精神的健康の複雑な相互作用、およびパンデミック下での医療アクセスの制約について考察しています。


🧠 ケースの経過

  • アンドリューは最小限しか言葉を話さないASD児で、COVIDパンデミック中にうつ症状(無気力、興味喪失)と食欲不振を示し、やがて食べ物も水分も一切摂取せず、唾液を飲み込むことすら拒否するようになりました。
  • 唾液を日中ずっと口にため、指示されるまで吐き出すという行動が続き、夜間の不随意嚥下を恐れて不眠にもなりました
  • 初期対応が難しく、専門的ケアを求めて別の東南アジアの国へ移動し、ARFIDと診断。経管栄養(経鼻チューブ→胃瘻)によって栄養状態を維持。
  • 同時に、多職種による摂食支援プログラムを開始し、抗うつ薬と睡眠薬も処方されました。

🧩 課題と支援の工夫

  • その後、母国に帰国したため、直接的な専門支援へのアクセスが減少。代わりに、専属ケアギバーが行動支援技法を学び、家庭での実践を継続
  • 定期的に**遠隔支援(テレヘルス)**を受けつつ、経口摂取再開に向けた段階的アプローチを模索。

💡 論文が示す重要な視点

  1. 神経発達症(ASD)と精神症状(うつ・摂食拒否)が複雑に絡む症例では、多職種連携と柔軟な支援が不可欠
  2. パンデミックによる移動制限や医療アクセスの制約が、重症化や支援の継続に大きく影響
  3. 家庭で実施可能な行動療法的アプローチ(例:段階的曝露、強化)をケアギバーが担う仕組みの構築が重要
  4. 経口摂取の再開には、本人の安心感・予測可能性・身体的安全が保証される環境が前提条件

この症例は、多重困難(ASD × ARFID × パンデミック)を抱えた子どもをどう支えるかという問いに対して、医療・家庭・テクノロジー(遠隔支援)の連携の重要性を強く示しています。また、症状の背景にある心理的・発達的要因に目を向けた介入の必要性も浮き彫りになっています。

Unraveling ADHD Through Eye-Tracking Procedures: A Scoping Review

このスコーピングレビューは、注意欠如・多動症(ADHD)のある子どもに対して「アイトラッキング技術(視線追跡)」がどのように活用されているかを、研究分野・手法・目的・成果の観点から整理したものです。


🔍 研究の対象と方法

  • ADHDの子どもを対象にアイトラッキングを用いた22件の研究を分析(PRISMAスコーピングレビュー指針に準拠)
  • 分析した情報:研究の目的、手法、学術分野、主な発見

🧠 主な活用目的と成果

アイトラッキングは、以下の3つの目的で活用されていました:

  1. ADHDの特定・診断補助

    → 機械学習やVRと組み合わせることで、視線パターンの違いから診断支援が可能になる可能性がある

  2. ADHDの認知・行動メカニズムの理解

    → 特に「注意の偏り」「抑制制御の困難」「作業記憶の弱さ」「感情・社会的情報処理の困難」に関係する特徴的な眼球運動が報告されている

  3. 介入ツールとしての活用

    → アイトラッキングを使った介入では、注意コントロールや運動協調の向上が示され、訓練ツールとしての可能性も確認されている


🧩 学術的背景

  • 研究は主に神経科学、精神医学分野から発表されており、AI、機械学習、VR、医用工学など多分野との連携も進んでいる

✅ 結論と展望

アイトラッキングは、ADHDの診断・理解・介入すべてにおいて有望な技術であり、特に他の技術(VRやAI)との統合的活用が期待されています。ただし、今後の課題としては、方法論の標準化、長期的効果の検証、他技術との連携の深掘りが挙げられています。


このレビューは、非侵襲的かつ視覚的な行動指標を活用することで、ADHDに対する新たな支援アプローチを切り開く可能性を示す重要な知見を提供しています。

Do Infant Heart Rate Variability and Visual Attention Predict Autism and Concerns for ADHD?

この研究は、生後12〜18か月の乳児期における「視覚的注意(目の向け方)」と「心拍変動(HRV)」のパターンが、就学前期におけるADHD(注意欠如・多動症)や自閉スペクトラム症(ASD)の徴候を予測できるかどうかを調べたものです。


🔍 研究の概要

  • 対象:90人の乳児(平均年齢17.3か月)
  • 方法:
    • 視線追跡装置を用いて、「社会的な映像」と「非社会的な映像」が同時に表示される画面を見せ、どこをどれだけ見ているかを測定
    • 同時に、**呼吸性心拍変動(respiratory sinus arrhythmia:RSA)**を使って心拍変動を記録(安静時と課題中)
  • その後、約2歳〜5歳(平均3.2歳)まで追跡評価し、3つのグループに分類:
    • ADHD懸念群(n = 21)
    • ASD群(n = 12)
    • 非該当(比較)群(n = 57)

📊 主な結果

  • ADHD懸念群の乳児は、比較群に比べて:
    • 画面全体を見ていた時間が短く(集中力が続かない)
    • 社会的映像(例:人の動き)を見ていた割合も低かった
  • 心拍変動のパターン(HRV反応)が、社会的注視とADHD症状の関係に影響を与えることも確認:
    • 乳児期に**「心拍が活動中に下がる(HRV withdrawal)」傾向がある子**は、社会的注視が少ないと将来的にADHD症状が多くなる傾向があった
    • 一方、心拍が逆に高まる(HRV augmentation)子ではその関連は見られなかった
  • ASDとの関連は有意に確認されなかった

✅ 結論

この研究は、ADHDのリスクを早期に示す可能性のある「視覚的注意のパターン」や「心拍反応」の存在を示しています。特に、社会的な刺激にどれだけ注意を向けるか、およびその時の身体的反応(心拍変動)との組み合わせが、将来のADHD傾向の予測に役立つ可能性があります。


この知見は、就学前よりもさらに早い段階(乳児期)でのADHDのリスク発見や早期支援の可能性を広げるものであり、今後の発達モニタリングやスクリーニング体制の構築に貢献すると期待されます。

Gene-Environment Interplay Between Perceived Stress and ADHD Symptoms in Adults

この研究は、成人におけるADHD症状と「ストレスの感じやすさ(主観的ストレス:PS)」との関連に、遺伝的要因と環境要因がどのように関与しているかを明らかにすることを目的としています。特に、**遺伝と環境の相互作用(G×E)**に焦点を当て、3つの理論モデル(脆弱性-ストレスモデル、生態生物学的モデル、感受性差異モデル)に基づいて分析が行われました。


🧠 方法

  • 対象:双子1,270名(平均年齢23.3歳)
  • オンライン調査でADHD症状と5つのストレスカテゴリを評価:
    1. 友人関係のストレス(FS)
    2. 家族内の対立(FC)
    3. 経済的困難(FD)
    4. 学業ストレス(AS)
    5. 将来のキャリア不安(FCC)

🔍 主な結果

  • ADHD症状とすべてのストレスカテゴリとの間に遺伝的な相関があることが判明

    → つまり、「ストレスを感じやすい性質」と「ADHDの傾向」は遺伝的に共通の要因を持っている可能性が高い

  • G×E(遺伝×環境の相互作用)のパターンはストレスの種類によって異なっていた:

    • 経済的困難(FD)とADHD症状:

      感受性差異モデルに一致:ストレスが非常に高い/低い場合に遺伝的影響が強くなる

    • 学業ストレス(AS)とADHD症状:

      生態生物学的モデルに一致:ストレスが高いと共有環境(家庭や学校など)の影響が大きくなる

    • キャリア不安(FCC)とADHD症状:

      脆弱性-ストレスモデルに一致:ストレスが高まるほど遺伝的リスクが顕在化しやすくなる

    • 一方、友人関係(FS)や家族内対立(FC)との関連ではG×E効果は見られなかった


✅ 結論

この研究は、成人のADHD症状に対するストレスの影響には、ストレスの種類ごとに異なる遺伝と環境の関係が存在することを示しています。特に、経済的・学業・将来不安といった外的プレッシャーにおいては、遺伝的感受性が状況によって強まることが明らかになりました。


📌 実践的な意義

  • ADHD支援においては、ストレスのタイプごとに異なる介入戦略が求められる
  • 例えば、経済的ストレスに弱いタイプには遺伝的リスクを意識した個別支援学業ストレスには家庭や学校を含めた環境調整キャリア不安には心理的レジリエンス強化などが有効と考えられます

このように、遺伝と環境の複雑な関係を踏まえた個別化されたアプローチが、今後のADHD支援において重要であることを示唆しています。

Adaptive Functioning in School: A Multidimensional Questionnaire for Assessing Functional Challenges Beyond Symptoms in Students with ADHD

この研究は、**ADHDのある児童が学校生活で直面するさまざまな適応の困難(=症状以外の日常的な困りごと)を把握するために開発された、新しい評価ツール「AFSQ(Adaptive Functioning in School Questionnaire)」**を紹介しています。


🧩 背景と目的

従来のADHD評価ツールは、主に「症状の重さ」や「学業成績」「行動面」など一部の領域に偏っていました。しかし、学校生活では友人関係・感情調整・課題の進め方など多面的な力が必要です。本研究では、それらを包括的に捉える**教師向け質問票「AFSQ」**を開発し、その構造と妥当性を検証しました。


🧪 AFSQが評価する5つの領域

  1. 社会的・行動的な適応力
  2. 実務的な整理整頓・準備スキル
  3. 学業課題への取り組み方
  4. 感情の理解と表現
  5. 感情調整と対人トラブルへの対応

📊 主な結果と特徴

  • 対象:ADHDの児童564人(平均9.4歳)と、非ADHDの児童93人、およびその教師
  • 因子分析により、5つの領域構造が統計的に確認された
  • 実行機能や社会的スキルとの**高い相関(r=.58~.71)**があり、信頼性も非常に高い(α=.83~.96)
  • ADHD児はすべての領域で非ADHD児よりも適応困難が大きい(効果量d=.82~1.34)
  • 注意欠如は広範な困難に関与し、反抗挑戦性障害(ODD)がある場合は特に社会性と感情面で困難が深刻化

✅ 意義と活用可能性

AFSQは、ADHDの子どもを支援するうえで、単に症状を見るのではなく、学校での具体的な困難や支援ニーズを明確にするツールとして有効です。個別の支援計画(IEP)や担任教師・支援員との情報共有、臨床現場でのアセスメントにも活用が期待されます。


この研究は、ADHDの支援を“症状中心”から“生活支援中心”へと広げる実践的な一歩を示しています。

Programmes to change attitudes towards people with intellectual disabilities: A systematic review

この論文は、知的障害のある人々に対する否定的な態度を変えるための介入プログラムの効果と特徴を体系的にレビューしたものです。近年、インクルーシブ社会の推進が進む一方で、偏見や差別的な態度は依然として存在しており、態度変容を目的とした実践的介入の設計と評価が求められています


🔍 研究の概要

  • データベース:Web of Science、Psycinfo、Scielo、Scopusを検索
  • 期間:2013年〜2024年
  • 対象論文:31本
  • 目的:知的障害者への態度改善を目的とした介入プログラムの効果と特徴を分析

📊 主な結果と知見

  • ほとんどのプログラムは態度改善に効果があった
  • 効果的だった介入の多くは、**知的障害者との直接的で構造化された交流(特に対等な立場での関わり)**を含んでいた
  • 使用された測定ツールには、ATTID(Attitudes Toward Intellectual Disability)やCLAS(Community Living Attitudes Scale)などの量的評価尺度が多かったが、使用される評価方法や尺度がバラバラで、効果の比較や再現が難しい
  • 長期的効果の追跡が行われていない研究が多く、持続性の評価が不十分
  • 学校教育以外の場(職場、地域社会など)での介入や、知的障害者本人が教育者として参加するプログラムは少ない

✅ 今後への提言

  • 標準化された信頼性のある評価ツールの使用
  • 長期的なフォローアップを含む評価設計
  • 知的障害者自身の参画(教育者・話し手として)
  • 学校だけでなく、社会全体(職場・地域)に広がる取り組みの強化

このレビューは、効果的な態度変容には「構造化された直接接触」が重要であることを再確認するとともに、エビデンスに基づいた一貫性あるプログラム設計と評価が今後の課題であることを示しています。社会的インクルージョンを実現するためには、形式にとらわれない実践的で持続可能な介入の普及と、社会全体での協働が不可欠であると強調されています。