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学校の SENCO が保護者へ「自閉症の可能性」を伝える際の実践と困難

· 8 min read
Tomohiro Hiratsuka
CEO of Easpe, Inc

このブログ記事では、発達障害(知的障害・自閉スペクトラム症・ADHD)に関する最新の学術的知見を紹介しており、特に①軍事衝突が知的・発達障害者に与える甚大な影響を指摘した IASSIDD の国際声明、および②学校の SENCO が保護者へ「自閉症の可能性」を伝える際の実践と困難を明らかにした質的研究の2本を取り上げている。前者は、戦時下で障害者が極度に脆弱な立場に置かれ、人権侵害や医療・教育喪失が深刻であると国際的な視点から警鐘を鳴らす内容であり、後者は、診断前の初期対話における学校現場の課題(準備・個別対応・関係構築・医療連携・学校文化の影響)を具体的に可視化し、実践改善の方向性を示している。

学術研究関連アップデート

The International Association for the Scientific Study of Intellectual and Developmental Disabilities Opposes the Human Cost From Military Conflict: A Position Statement

知的・発達障害のある人々は、軍事衝突で最も深刻な被害を受ける――IASSIDD の公式声明をまとめた重要論文

この論文は、知的障害・発達障害の領域で世界最大の学術組織 IASSIDD(国際知的・発達障害科学研究学会) による、“軍事衝突がもたらす人間的被害への強い反対声明” を解説するものです。IASSIDD は政治的立場や紛争の正当性には関与しませんが、戦争が知的・発達障害のある人々とその家族に極めて深刻な被害をもたらす現状を国際社会に訴えています。


■ 研究の背景

軍事衝突の中で、知的・発達障害のある人々は「最も脆弱な人々」とされますが、

  • どれだけの人が避難できず取り残されているのか
  • どれだけの人が犠牲になったのか
  • どんな支援を受けられなかったのか

といった 基本的事実にさえ、ほとんどデータがない という深刻な問題があります。


■ 軍事衝突がもたらす被害:特に深刻な理由

論文は、戦争時に知的・発達障害のある人と家族が直面する現実を整理しています。

● 医療・教育・リハビリが途絶える

  • 薬が手に入らない
  • 必要な支援者・専門職が不在
  • 医療機関・学校・施設が破壊される

● 直接的な身体・心理的被害

  • 負傷、死亡、飢餓
  • 極度のストレス、パニック、トラウマ
  • 行動上の困難(challenging behaviour)の増加
  • 生活の質(QOL)の著しい低下

● 人権侵害のリスクが極めて高い

障害があることで逃げられない・声を上げられない・支援にたどり着けないため、

国連が保障する基本的人権が容易に侵害される。

※国連決議2475および障害者権利条約(CRPD)に明確に反する。


■ 提示される必要な支援

IASSIDD は「戦時に必要な支援は多層的である」と提言しています。

  • 人道支援(食料・医療・緊急避難)
  • 心理支援(トラウマケア)
  • 家族・介護者支援
  • リハビリテーションと生活支援
  • 国際社会の連携・擁護活動(Advocacy)

つまり、単なる医療支援ではなく、生存・生活・人権のすべてを守る体制が必要という立場です。


■ 最も重要なメッセージ

✔ 障害のある人は紛争下で “不当に大きな被害” を受ける

✔ しかし、その実態はほとんど研究されていない

✔ 国際社会は、彼らの命と人権を守る責務がある

IASSIDD は政治的中立性を保ちながらも、軍事衝突が知的・発達障害者の基本的人権を壊している現実に強く警鐘を鳴らしています。


■ 一言まとめ

「知的・発達障害のある人々は軍事衝突で最も深刻な被害を受けているにもかかわらず、支援も研究も圧倒的に不足している。国際社会は、彼らの人権を守るために行動すべきだ。」

――これが IASSIDD の公式立場であり、本論文の核心です。

‘I think your child might be autistic’: A qualitative survey study examining how school staff broach initial interactions with parents whose children may be autistic

*「お子さんは自閉スペクトラム症の可能性があります」――

学校はどう伝えている?SENCO 105名の実践から見えた“最初の声かけ”のリアル**

論文名:‘I think your child might be autistic’: A qualitative survey study examining how school staff broach initial interactions with parents whose children may be autistic

掲載:British Journal of Special Education(2025)

対象:イングランドの SENCO(特別教育ニーズ調整担当)105名

方法:質的調査・リフレクシブテーマ分析


■ 研究の背景

発達の気づきから診断につながるまでの初期段階では、学校と保護者の最初の対話が極めて重要です。

しかし、

  • どのように「自閉症の可能性」について切り出すか
  • SENCO が何を支援でき、どんな課題に直面しているか

についての研究は驚くほど少ないのが現状です。

この研究は、**「学校から保護者へ ASD の可能性を初めて伝えるとき、SENCO はどう行動しているのか」**を、当事者である 105名の声から明らかにしています。


■ 主な発見(7つのテーマ)

《SENCO 自身がコントロールできると感じている領域》

1. “準備”がすべて(Preparation)

  • 証拠(観察記録、作品、行動データ)を整理する
  • 話し合いのタイミングや環境を整える
  • 誤解を生まないことば選びを慎重に検討する

2. 個別化されたアプローチ(Personalised Approach)

  • 保護者の性格、状況、理解度に合わせて方法を変える
  • 「一つの正解の言い方はない」という認識が強い

3. “家族は子どもの専門家”という姿勢(Alignment)

SENCO は、

保護者の語りを尊重し、共通理解にたどり着くプロセスが何より重要

だと感じていた。

「学校 VS 家庭」ではなく、

“同じ方向を見るパートナー”になることが成功の鍵


《SENCO が“自分の力では変えられない”と感じている領域》

4. 保護者対応の難しさと、必要な追加トレーニング

  • ASD の知識だけでは不十分
  • 特に「伝え方」や「関係構築」の研修を求める声が多い
  • 経験豊富な同僚から学ぶ“ピア学習”へのニーズが非常に高い

5. 学校全体のインクルージョンの“文化”

  • 校内の雰囲気・方針が SENCO の働き方を左右する
  • インクルーシブ教育が弱い学校では保護者との対話も難しくなる

6. 教育と医療の“板挟み問題”

  • 「誰が ASD の可能性を保護者に話すべきか?」という曖昧さ
  • 医療との連携が弱いと、SENCO が孤立しがち

7. システムの複雑さ(教育 × 医療 × 支援機関)

  • 明確なプロセスやフローが不足

    → 保護者が迷いやすく、SENCO の負担も増大


■ 研究が示すこと(実践的含意)

✔ 最も大事なのは、個別化と関係構築

どれだけ専門知識があっても、

保護者の経験・感情・タイミングを尊重する姿勢が不可欠

✔ 学校の文化が SENCO の質を左右する

“個人のスキル”よりも、

学校全体がインクルージョンに前向きかどうかが支援の成否に直結。

✔ 教育と医療の連携強化が不可欠

  • 誰が、何を、いつ、どのように伝えるのかを明確化する必要がある。
  • 診断につながるまでの負担を SENCO 一人に背負わせる構造を見直す必要。

■ 一言まとめ

ASD の可能性を保護者に伝える場面で、SENCO が最も重視しているのは「丁寧な準備」と「保護者の語りに寄り添う個別対応」。

一方で、学校の文化や教育・医療連携の不備といった構造的な障壁が、支援の質を大きく制限している。

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