自閉症幼児の共同注視状態と“社会的動機づけをもつ言語”の関係
この記事全体では、発達性協調運動障害・自閉スペクトラム症・ADHDといった神経発達症をめぐる最新研究を幅広く紹介しており、内容は①DCD児の「運動×抑制」課題の長期的な困難、②自閉症幼児の共同注視状態と“社会的動機づけをもつ言語”の関係、③ASD/ADHD特性と努力的統制が小学校→中学校のメンタルヘルスに与える影響、④自閉症特化型と汎用トランスダイアグノスティックEBIを比較する実装研究プロトコル、⑤保育現場におけるASD児の「参加」の質と教師の理解不足、⑥自閉症コミュニティと共同で開発された自殺予防プログラムFLAPS、⑦前帯状皮質タウリン低下とASDの反復行動の関連、⑧ASD青年におけるIQと実行機能の関係、⑨ADHDを概日リズム障害として捉えクロノセラピーの可能性を論じる展望論文、⑩自閉症児のトラウマ暴露とPTSD評価の課題、といった症状メカニズムから教育実践・メンタルヘルス支援・実装科学までを一気通貫で押さえる構成になっています。
学術研究関連アップデート
Persistence of motor-cognitive inhibition deficits in children with developmental coordination disorder (DCD): a longitudinal perspective
発達性協調運動障害(DCD)の子どもは「抑制を伴う運動課題」がどのように苦手なのか?
― 1年間の追跡で見えた“持続する”困難 ―
原題:Persistence of motor-cognitive inhibition deficits in children with developmental coordination disorder (DCD): a longitudinal perspective
掲載:Scientific Reports(2025年11月26日 公開 / オープンアクセス)
■ 研究の背景
発達性協調運動障害(DCD)は、
-
動きの学習がうまくいかない
-
運動の調整が難しい
という運動の問題だけでなく、
「抑制」や「注意切り替え」などの認知機能(Executive Function)にも弱さがある とされてきました。
特に、
「動きの最中に予定外の変化に対応する」
という“運動×認知の統合”が求められる場面で困難が表れやすいと指摘されています。
本研究は、
こうした「運動と認知のセット」で求められる抑制の弱さは、年齢とともに改善するのか?
それとも持続するのか?
を、
1年間の縦断研究で検証したもの
■ 研究方法(ざっくり)
◆ 参加者
-
重度DCD(s-DCD):20名
-
中等度DCD(m-DCD):43名
-
定型発達(TDC):192名
年齢は 6〜12歳。
各群を
-
6–8歳(低学年)
-
9–12歳(高学年)
の2つに分けて比較。
◆ 課題:Double-Jump Reaching Task(DJRT)
42インチのタッチスクリーンを使用し、
指を中央のスタート位置から指定されたターゲットに向けて素早く動かす課題。
2種類:
①通常バージョン(DJRT)
-
80%の試行:中央にそのままタッチ(非ジャンプ)
-
20%の試行:指を離した瞬間、ターゲットが左右に移動(ジャンプ)
→ 動きながら変更に適応する能力を測る
②反対方向バージョン(AJRT)
ジャンプが起きたら、
表示と反対方向のターゲットに指を移動させる
→ 「目で見た情報に反応したい衝動を抑えて、反対方向へ動く」=抑制機能を強く要求
◆ 主要指標
Movement Time Difference(MTdiff)
- ジャンプ/反対ジャンプと非ジャンプの時間差
- 値が大きいほど「変更にうまく素早く対応できていない」
■ 結果(わかりやすく)
① 通常のジャンプタスク(DJRT)
- DCDとTDCで大差なし
- 年齢が高いほど適応が速くなる(学習効果)
👉 単純な「動きの変更」への対応では、DCDの子も年齢とともに改善する
② 反対方向のジャンプ(AJRT:抑制が必要)
- 重度DCD(s-DCD)は常に有意に遅い
- m-DCD と TDC は比較的似たパフォーマンス
- 年齢による改善の幅が小さい
👉 もっとも抑制負荷が高い状況では、s-DCDの子どもは年齢が上がっても改善が限定的
■ 研究の結論(重要ポイント)
● 結論1:DCDの「抑制つき運動の困難」は、重度の子で“持続”する
特に、
視覚刺激に反応したい衝動を抑えて、別方向に動く
といった高度な運動・認知統合が必要な場面で顕著。
● 結論2:中等度DCDは改善傾向が大きい
m-DCD は TDC に近いパターンを示すことが多く、
認知的負荷が高い場面でも比較的柔軟に対応できる可能性を示唆。
● 結論3:重度DCDの支援では「運動+認知」セットのアプローチが重要
単なる運動練習だけでなく、
-
認知的抑制
-
注意切り替え
-
実行機能
を含めた統合的なプログラムが求められる。
■ この研究が示す臨床・教育現場への示唆
-
重度DCD児には、認知的負荷を含む運動課題の継続的支援が必要
-
普通の運動課題では“困難が見えにくい”ため、
評価は抑制負荷のある課題を含めるべき
-
トレーニングプログラムは
「行きたい方向とは逆に動く」などの抑制課題を組み込むと効果的
特に学校場面では、
「状況が急に変わる」「合図と逆の行動を求められる」場面
は意外と多く、これらが苦手な子が“指示が通らない”と誤解されやすい。
■ 一言まとめ
重度DCD(s-DCD)の子どもは、
「動きながら情報を抑制して切り替える」
という高度な運動‐認知統合が年齢が上がっても改善しにくい。
これは、DCD支援の中で
「運動だけでなく、実行機能を含む包括的アプローチ」
が必要であることをはっきり示す研究です。
Joint Engagement and Socially Motivated Language in Young Autistic Children
自閉スペクトラム症の幼児は「どんな状態」で最も話すのか?
― 社会的動機づけ(Social Motivation)を伴う言語との関係を可視化した研究 ―
原題:Joint Engagement and Socially Motivated Language in Young Autistic Children
掲載:Journal of Autism and Developmental Disorders(2025年11月26日)
■ 研究の背景
自閉スペクトラム症(ASD)の幼児は、
-
物に集中する「非社会的な関わり」
-
他者と注意を合わせる「共同注意」
のバランスが特徴的だとされています。
一方で研究や臨床では、
「話す量(WPM: Words Per Minute)」と
「社会的動機づけをもって話す(SM: Social Motivation)」
が混同されがちです。
“たくさん話しているように見えても、それが必ずしも「社会的」な目的で発せられているとは限らない”
本研究は、
- *「関わりの状態(Joint Engagement)」と「社会的動機づけをもった発話」**の関係を精密に検証した点が特徴です。
■ 目的(3つ)
- ASD幼児が、どの「関わり状態」でどれだけ話すのか(WPM)を調べる
- 関わり状態と、子どもの発話の“社会的動機づけ”の関係を見る
- 親子介入プログラム「Pathways」が、関わり状態に影響を与えるか検証する
■ 方法(ざっくり)
- 対象:47名のASD幼児(平均36ヶ月)
- 場面:10分間の自然な親子遊びのビデオ
- 群分け:
- Pathways介入群
- サービス通常提供(SAU)群
- 分析:
- 関わり状態のコード化(※Bottema-Beutelらの分類を応用)
- 物への集中(Object Engagement)=社会性が低い
- 共同注意(Coordinated Joint Engagement)=社会性が高い
- 発話をすべて書き起こし、社会的動機づけ(SM)スコアを付与
- 視線・聴覚的注意
- 意図(コミュニケーション目的)
- 統計分析(相関、階層的回帰)
- 関わり状態のコード化(※Bottema-Beutelらの分類を応用)
■ 結果(最も重要なポイント)
① 子どもは “より社会性の低い状態” で多く話していた
-
物に集中する状態(Object Engagement)での方が、
時間も長く、WPM(1分あたりの語数)も多い
👉 話す量(WPM)が多くても、それが社会的意図によるとは限らない
② 社会的動機づけの程度が、関わり状態を左右した
回帰分析で以下が明確に:
-
SMが低い発話が多い → Object Engagement が長くなる
→ 特に SAU群(非介入)で顕著
-
SMが高い発話が多い → Coordinated Joint Engagement(共同注意)が長くなる
→ Pathways群で顕著
👉 「社会的意図のある言語」は、子どもの共同注意状態を“押し上げる”役割を持つ
③ Pathways介入はより社会的な関わり方に影響
- Pathways群は
- 社会的動機づけの高い発話が増え
- 共同注意状態(Coordinated Joint Engagement)が長くなる
対してSAU群は、
- 低SM発話が多く、非社会的関与(Object Engagement)が長くなる傾向
👉 介入は、子どもの“どんな目的で話すか”に影響を与える可能性
■ 研究の結論
- ASD幼児の「話す量」は、社会性の低い場面で増える
- しかし 社会的動機づけを伴う発話は、より社会的な共同関与状態を引き出す
- Pathways介入は、会話の“質”(社会的意図)を高める効果が示唆される
▶ 最も重要な示唆
表出言語(WPM)と社会的動機づけを伴う言語(SM)は別物として評価すべき
― ASD児のコミュニケーションの理解には、この区別が欠かせない。
■ 現場への示唆
-
「たくさん話している=社会的コミュニケーションが成長している」とは限らない
-
言語評価や介入では、
“話す量”だけでなく意図・注意・共同性に着目する必要がある
-
介入プログラムは、
共同注意を引き出す言語(高SM発話)を増やす構造が有効
■ 一言まとめ
ASD幼児は、より“非社会的な状態”で多く話す傾向があるが、
“社会的動機づけの高い発話”は、より“社会的な共同関与”を生む力を持つ。
Autism and ADHD traits, effortful control and mental health during the transition from elementary to junior high schools
小学校から中学校へ——ASD特性・ADHD特性・自己コントロール力は“移行期のメンタルヘルス”とどう関係するのか
― 日本の大規模コホート(N=2,500超)で追跡した重要研究 ―
原題:Autism and ADHD traits, effortful control and mental health during the transition from elementary to junior high schools
掲載:Scientific Reports(2025年11月26日)
■ 研究の背景
日本の教育体系では、小学校→中学校は
-
生活ルールの変化
-
対人関係の拡大
-
学業・部活による負荷
など、子どもにとって大きな適応要求がかかる時期です。
特に
-
ASD特性(自閉スペクトラム症傾向)
-
ADHD特性(注意・多動・衝動の傾向)
-
努力的統制(Effortful Control:注意の切替・抑制・持続の力)
は、環境変化への適応と関連すると考えられています。
この3つのプロファイルは、移行期のメンタルヘルスの変化をどの程度予測できるのか?
という問いに対し、2,600名規模の縦断データで答えたのが本研究です。
■ 目的(3つ)
-
ASD特性・ADHD特性・努力的統制(EC)が、
移行期のメンタルヘルスにどう影響するかを検討
-
中1移行期のメンタルヘルスの変化パターンを特定
-
ASD/ADHD特性が高くても、
**必ずしも“悪化”するとは限らないのか?**を明らかにすること
■ 方法(大規模コホート研究)
- 対象:日本の一般地域サンプル N=2,564
- 時期:小6 → 中1(前後で測定)
- 測定内容
- ASD特性:ASSQ
- ADHD特性:ADHD-RS
- 努力的統制(EC):EATQ-R
- メンタルヘルス:SDQ
- 解析
- GEE(平均の変化・関連をみる)
- LPA(潜在プロフィール分析で“隠れた適応パターン”を分類)
■ 結果(わかりやすいポイント)
① ASD特性・ADHD特性が高いほど、
移行期にメンタルヘルス問題が強く出やすい
GEE分析により:
- ASD特性↑ → メンタルヘルス問題↑
- ADHD特性↑ → メンタルヘルス問題↑
- 努力的統制(EC)↓ → メンタルヘルス問題↑
👉 特性とECは、移行期のメンタルリスクに強く関係
② メンタルヘルスのパターンは3つに分類される(LPA)
-
高SDQ群(要支援)
-
ASD特性:高い
-
ADHD特性:高い
-
EC:低い
-
-
中間群
- すべて中程度
-
低SDQ群(安定)
-
ASD特性:低い
-
ADHD特性:低い
-
EC:高い
-
👉 メンタルヘルスの状態は“前からの傾向を維持する”傾向が強い
③ 重要:ASD特性が高くても「必ず悪化するわけではない」
分析では、
-
ASD/ADHD特性が高く
-
ECが低い子たちの中でも
改善する子と悪化する子がいる
= 適応は一枚岩ではない
つまり、
「ASD特性が高い=中学でメンタルが悪化」は“必ずしも成立しない”
これは重要な示唆です。
■ 本研究の結論
-
移行期のメンタルヘルスは、
ASD特性・ADHD特性・努力的統制(EC)の組み合わせに影響される
-
メンタルヘルスの不調は
移行前からの状態がそのまま持続する傾向が強い
-
しかし、
特性が高い子の中にも改善する者が存在し、悪化が運命ではない
-
適切な支援は、
特性だけでなく“努力的統制”の側面(注意の切替・抑制の力)に基づいて個別化すべき
■ 教育・福祉の現場への示唆
-
移行前の段階でのスクリーニング(ASD/ADHD特性・EC測定)は有効
-
ECが低い子は特に
-
学習負担の調整
-
スケジュールの明確化
-
感情調整のサポート
-
注意の切替を練習する支援
が効果的
-
-
ASD高特性でも、
環境調整+スキル支援で“良い適応”を実現できる
■ 一言まとめ
ASD特性・ADHD特性・努力的統制は移行期のメンタルヘルスと密接に関連するが、
特性が高いからといって必ず悪化するわけではない。
子どものプロファイルに合わせた個別支援が、適応を左右する。
Study protocol for a hybrid type 2 effectiveness-implementation trial of two interventions for autistic and non-autistic youth in children's mental health settings: one tailored for neurodivergence and one universal
自閉症児と非自閉症児に共通して効く介入は作れるのか?
―「神経多様性向け特化型」と「ユニバーサル型」の2つのEBIを比較する大規模試験 ―
原題:Study protocol for a hybrid type 2 effectiveness-implementation trial of two interventions for autistic and non-autistic youth in children’s mental health settings
掲載:Implementation Science Communications(2025年11月26日)
■ 研究の背景
自閉症の子どもたちには、
-
不安、
-
情緒調整の難しさ、
-
行動上の課題
など、精神的な支援ニーズが非常に大きいにもかかわらず、適切な支援を受けられないケースが多いことが知られています。
一方、
● 自閉症専用に最適化された
「ASD特化型」EBI
● 診断に関わらず誰にでも使える
「汎用(トランスダイアグノスティック)EBI」
のいずれも存在するものの、
- *実際の児童メンタルヘルス現場での「効果」や「実装のしやすさ」**はまだ十分に検証されていません。
このギャップを埋めるため、
臨床効果 × 実装効果 を同時に検証するハイブリッド型の大規模研究
■ 本研究の目的(3つ)
本研究は Hybrid Type 2(臨床効果+実装効果を同時に検証)に分類され、目的は以下の3点です。
Aim 1:ASD特化型EBI vs 汎用EBIの臨床効果・実装効果の比較
-
対象介入① Unstuck and On Target(UOT)
→ ASD児向けに開発された「実行機能(EF)トレーニング」
-
対象介入② Unified Protocol for Children(UP-C)
→ 診断横断型(トランスダイアグノスティック)の情動調整EBI
Aim 2:効果を生み出す「臨床メカニズム」「実装メカニズム」の検証
たとえば:
- 実行機能の改善
- 感情調整スキルの向上
- 治療者のASD理解・自己効力感
- EBIの“現場とのフィット感”
など、何が効果の鍵なのかを明らかにする。
Aim 3:ASD向けEBIの「汎用的な効果」の検討
- ASD児だけでなく非ASD児にも良い影響を与えられるのか?
- ASD専門トレーニングは、治療者の治療品質全体を底上げするのか?
■ 研究デザイン(大規模・厳格)
● 参加機関:28の児童メンタルヘルスプログラム
● 参加者
-
セラピスト:224名
-
自閉症児:224名
-
非自閉症児:224名
→ 各セラピストに、ASD児+非ASD児が“対”で割り当てられる
● ランダム化
28プログラムを
-
ASD型EBI(UOT)
-
汎用EBI(UP-C)
にランダムに割り当てて比較。
● 測定するアウトカム
▼臨床アウトカム
- メンタルヘルス症状(不安・抑うつ・行動問題など)
- 実行機能スキル
- 情報処理・感情調整スキル
▼実装アウトカム
- EBIの忠実度(fidelity)
- 介入利用の広がり(reach)
- トレーニング参加度
- セラピストによる“介入の質”
▼メカニズム(何が効果を作るのか)
- ASDに関する知識・自己効力感
- セラピストの“介入と現場のフィット感”
- 子どものEF・感情調整の改善
■ 期待される役割・意義
1. ASD児向けの実行機能EBI「UOT」の効果をメンタルヘルス現場で検証
→ ASD支援が“療育領域だけでなく精神保健領域にも普及可能”かどうかを明らかにする。
2. 診断横断型EBI(UP-C)がASD児にも有効か検証
→ ユニバーサルEBIで広く支援できる可能性。
3. ASD特化型トレーニングが、非ASD児への支援品質も向上させるか検証
→ ASD知識の習得が、実はメンタルヘルス支援全般を底上げする可能性に迫る。
4. 臨床研究 × 実装研究を同時に進める珍しいデザイン
→ 現実の支援現場に“すぐ活かせる”知見を生むことに期待。
■ まとめ
本研究は、ASD児・非ASD児双方に対する実行機能/情動調整EBIの効果と、
それらを現場にどう実装すべきかを同時に検証する大規模・先駆的な試験。
- ASD特化型介入と汎用介入の比較
- 臨床効果と実装効果の同時検証
- ASD向け介入が非ASD児にも波及するかの検証
という“実装科学 × 発達支援”の交差点に位置する研究です。
Preschool teachers’ practices and understandings of engaging children with autism: a qualitative study
「自閉症の子が“参加する”ってどういうこと?」
― 世界の保育現場で起きている“知識不足”と“支援のズレ”を可視化した質的研究 ―
原題:Preschool teachers’ practices and understandings of engaging children with autism: a qualitative study
掲載:Humanities and Social Sciences Communications(2025年11月26日 オープンアクセス)
■ 研究の背景
インクルーシブ教育が広がる中で、保育士・幼稚園教諭は
「自閉症の子どもがどのように学び、どう参加するのか」
を正しく理解することが求められています。
しかし世界的に、
-
“参加”の定義
-
ASD特性に応じた関わり方
-
適切な育ちの観察方法
に関する知識が十分でない現状があります。
この研究は、保育者が「ASD児の参加」をどう理解し、どう支援しているのかを深掘りした、国際的にも重要な質的研究です。
■ 研究の目的
- 保育者は、ASD児の「参加の種類」をどこまで理解しているのか?
- 実際にどんな教室環境づくりと支援を行っているのか?
- ASD児の参加行動の特徴と、通常発達児との違いは何か?
■ 方法(ホリスティック・ケーススタディ)
- 対象:56名の幼児教育教師
- 手法:構造化インタビュー(質的分析)
- 焦点:
- 教師の参加概念の理解
- 実践している支援方法
- ASD児の観察された参加行動
■ 主な結果(重要ポイントを分かりやすく)
① 多くの教師が「参加の種類」について十分な知識を持っていなかった
-
ASD児と定型発達児で見られる
参加の“質的な違い”を理解していない
-
そのため、
→ ASD児に必要な支援と実践に“ズレ”が生じている
② 教師が行う支援は「表面的」であることが多かった
例:
-
声かけ
-
表面的なほめ
-
席を近づける
など
しかし、これらは
深い参加(積極的な主体性・社会参加)につながりにくい。
③ ASD児の“参加のしかた”には特徴があった
● 主に2種類に偏る
-
Functional Engagement(機能的参加)
→ 指示通りに作業する
→ 教師主導の構造化されたタスク
-
Observational Engagement(観察的参加)
→ 周囲を見て学ぶ・模倣する
→ 自分からは参加しない
● 対して定型発達児は…
-
社会的参加(Social Participation)
-
統合的参加(Integrated Engagement)
など、より複雑で自発的・相互的な参加行動が見られる。
👉 ASD児は構造化された場面では参加しやすいが、社会参加・遊びの統合など“複雑な参加”が生まれにくい
④ 教師は「個別化」「興味に基づく支援」が不足
分析によれば、教師は:
-
子どもの興味・強みを活かした参加支援
-
個別のニーズに基づいた誘導
-
明確な強化(reinforcement)
が十分実践できていない。
⑤ 教師教育(研修)の不足も顕著
研究は以下の必要性を強調:
● 実践的研修(practical training)
- ASD児の参加行動の種類の理解
- 目的的・自発的な参加を増やす技法
- 子どもの興味を活用した支援方法
● リフレクティブ・プラクティス(振り返り)
→ 現場の実践と理論をつなぐ研修体系が必須
■ 結論
- 教師は理論的知識・実践スキルともに不足している
- ASD児の参加行動はより“機能的・観察的”に偏る傾向
- 定型発達児との差を理解し、それに応じた個別化が必要
- 実践的な研修と支援システムの整備は、国際的な喫緊の課題
■ 一言まとめ
「ASD児が参加しているように見えても、それは“深い参加”ではないケースが多い」
保育者には、“参加の質”を理解し、興味ベース・個別支援に基づいた戦略が必要である。
Participatory Development of a Suicide Prevention Program for Autism Community Organizations
自閉症コミュニティと研究者が“対等に協働”してつくる自殺予防プログラム
― 新たに開発された「FLAPS」モデルの全体像 ―
原題:Participatory Development of a Suicide Prevention Program for Autism Community Organizations
掲載:未指定(PMID: 41293784 / DOI: 10.1177/15394492251391675)
■ 研究の背景
自閉スペクトラム症(ASD)の当事者は、
- 自殺念慮
- 自殺未遂
- メンタルヘルスの深刻な健康格差
が非当事者と比べて著しく高いことが、多くの研究で示されています。
しかし、
「自閉症当事者に特化した自殺予防プログラム」は世界的にも極めて少ない。
また“当事者が開発プロセスに参加していない”という問題も多い。
このギャップを埋めるため、
当事者と研究者が共同でプログラムを開発する
“参加型研究(Community-Based Participatory Research)”
のアプローチが採用されました。
■ 研究の目的
- 自閉症当事者が求める、自殺予防のニーズを収集する
- 研究知見×当事者知×既存介入モデルを統合し、新しいプログラムを開発する
- 自閉症コミュニティ組織が実践できる“多層的な自殺予防プログラム”を構築する
■ 方法:完全に「当事者参加型(Participatory)」で開発
● チーム構成
- 自閉症当事者
- 家族
- 精神保健専門家
- 自殺予防研究者
- 実装科学の専門家
● 多段階プロセス
-
研究チームと当事者の定期ミーティング
-
既存研究との統合(文献レビュー)
-
他文化の介入(例:アラスカ先住民向けプログラム)から学ぶ
-
38名への質的インタビュー
-
ASD成人
-
家族
-
メンタルヘルス提供者
-
-
介入設計 → 実装可能性チェック → 改良
※非常に丁寧で協働的な開発プロセスが特徴。
■ 結果:4部構成の自殺予防プログラム「FLAPS」が誕生
完成したプログラムは:
*Forming Love around Autistic People to Prevent Suicide
(FLAPS)**
自閉症コミュニティ組織が自殺予防に取り組むための、
教育・実践・コミュニティエンパワメントを含むオンラインプログラム。
▼ 特徴
- 研究にもとづく
- 当事者の声を深く反映
- コミュニティ組織が現場で使える実践的な構成
- 多層的アプローチ(個人・家族・組織・コミュニティ)
▼ 4部構成のポイント(論文の情報から推定した概要)
- ASD当事者の自殺リスク理解
- 自閉症コミュニティ内の保護要因・リソース
- 自殺の兆候に気づくための知識・スキル
- 組織全体での予防文化づくり
※内容はまだ検証前(「プロトタイプ」段階)。
■ 意義
① ASD当事者が“研究の主体”として参加
-
従来の研究は「当事者不在」になりがち
→ 本研究はその構造的問題を克服
② 自閉症コミュニティに特化した自殺予防モデルは希少
本研究は世界でも数少ない
ASD 特化型の自殺予防プログラム開発。
③ 自殺予防の「理論・研究・当事者の生活知」の統合
-
学術研究
-
当事者インサイト
-
既存プログラムのノウハウ
を総合して設計されている。
④ 組織全体を巻き込むアプローチ
医療者だけでなく、
-
NPO
-
コミュニティ団体
-
支援者ネットワーク
が実践できる形に設計。
■ 限界と今後の展望
- まだ実施前のプロトコル段階
- 効果検証はこれから
- 実装研究が必要(実施可能性、持続性、文化適応など)
- 多様な地域・文化での適応が今後の課題
■ 一言まとめ
自閉症当事者と研究者が協働してつくった
「自閉症コミュニティ向け自殺予防プログラム(FLAPS)」は、
研究的にも社会的にも非常に重要な一歩。
今後の評価研究と実装が期待される。
Frontiers | Association between decreased taurine levels in the anterior cingulate cortex and restricted and repetitive behaviors in autism spectrum disorder: A cross-sectional study
前帯状皮質(ACC)のタウリン低下は、自閉症の“反復行動”と関連するのか?
― MRS(磁気共鳴分光法)を用いた脳内抗酸化物質の計測から見えた新知見 ―
原題:Association between decreased taurine levels in the anterior cingulate cortex and restricted and repetitive behaviors in autism spectrum disorder
掲載予定:Frontiers in(分野未記載)|Provisional acceptance
■ 研究背景
自閉スペクトラム症(ASD)の主要症状のひとつに、
-
限定的・反復的な行動(RRBs)
があります。しかし、RRBを直接改善する薬物治療は確立されていません。
一方で、ASDの病態の一部に
-
酸化ストレス(oxidative stress)
-
抗酸化バランスの乱れ
が関与している可能性が指摘されてきました。
特に抗酸化作用を持つ
-
タウリン(Taurine)
-
グルタチオン(GSH)
は注目されていますが、
“ASDの脳内で本当に減っているのか?”
については研究が不足していました。
そこで本研究は、
ASDにおいて機能異常が一貫して報告される脳領域である
前帯状皮質(ACC)
に着目し、タウリン/GSHと症状(特にRRB)の関連を調べました。
■ 研究目的
- ASD児のACCにおけるタウリン・GSH量を測定する
- ASD児と定型発達児で抗酸化物質量が異なるかを比較する
- 抗酸化物質と自閉症症状の関連(特にRRB)を調べる
■ 方法(ポイント)
- ASD児:44名
- 定型発達児(TD):40名
- 診断:ADOS-2 にて確認
- 測定:Magnetic Resonance Spectroscopy(MRS)でACC内のタウリンとGSHを定量
- 統計:群間比較と、ADOS-2サブスケール(RRB・社会情動)の相関分析
■ 主な結果
① ASD児は“前帯状皮質(ACC)のタウリンが有意に低い”
- タウリン:ASD群で有意に減少
- GSH:群間差なし
👉 抗酸化物質といっても、タウリンとGSHは別々の代謝経路・役割を持ち、ASDではタウリンのみ低下している可能性。
② タウリン量は“反復行動(RRB)”と関連
-
ACCタウリン量 ↓
→ RRBの重さ ↑
(有意な負の相関)
-
社会性(Social Affect)との関連はなし
👉 タウリンの低下は、主に「反復行動」に特異的に関連
👉 ASDの症状の中で、RRBに関連する脳内代謝マーカーである可能性
③ GSHは症状との関連を示さず
- ASD群でもTD群でも有意差なし
- 症状との相関もなし
👉 酸化ストレスの指標として盲目的にGSHを見るだけでは不十分で、
タウリンのような他の抗酸化物質に注目すべきことを示唆。
■ 考察:なぜタウリンだけが減るのか?
論文は以下の可能性を述べています:
● タウリンとGSHは“抗酸化”という点では共通だが、
-
合成経路
-
神経機能への関わり
-
脳領域ごとの役割
が異なる。
● タウリン低下は、ACCの
-
細胞代謝
-
神経伝達調整
-
興奮性・抑制性バランス
の乱れと関係し、それがRRBの増加につながる可能性。
● タウリンは、
-
細胞の保護
-
カルシウム調節
-
神経の安定化
に関与するため、減少すると硬直性行動や反復行動の脳機序が悪化する可能性がある。
■ 臨床的意義
✔ ASDのRRBに関連する「脳内代謝マーカー」候補
→ タウリンは今後のバイオマーカー研究で注目される可能性が高い。
✔ タウリンは潜在的な治療ターゲット
食品にも含まれる物質であるが、
脳内タウリン濃度を上げることがRRB改善につながる可能性が示唆。
※本研究は因果ではなく“関連”を示したものなので、介入研究が必要。
■ 結論
- ASD児はACCのタウリンが有意に減少している。
- タウリンが少ないほど、反復・限定的行動(RRB)が強い。
- GSHには変化がなく、タウリンとは異なる代謝経路の関与が示唆される。
- タウリンはASDのRRBに関する有望な治療・研究ターゲットとなり得る。
■ 一言まとめ
「ACCのタウリン低下」はASD児の“反復行動(RRB)”の強さと関連していた。
タウリンは自閉症の病態理解と治療開発の鍵となる可能性がある。
Frontiers | INTELLIGENCE AND EXECUTIVE FUNCTIONING IN ADOLESCENCE: COMPARING AUTISM SPECTRUM DISORDER AND TYPICAL DEVELOPMENT
知能(IQ)は、ASDの実行機能(EF)を“どこまで補える”のか?
― 知的障害のないASD(ASD-WID)と定型発達を比較した思春期214名の研究 ―
原題:INTELLIGENCE AND EXECUTIVE FUNCTIONING IN ADOLESCENCE: COMPARING AUTISM SPECTRUM DISORDER AND TYPICAL DEVELOPMENT
掲載予定:Frontiers(最終版待ち)
■ 研究背景
ASDでは、
-
認知柔軟性
-
計画性
-
注意の切り替え
といった**実行機能(EF)**の弱さがよく指摘されます。
しかし実際には、
「知的障害のないASD(ASD-WID)」ではEFがどの程度影響されるのか
ははっきりしていません。
特に重要なのは:
● IQが高いASDは、EFを“補える”のか?
● IQの高低でASDとTD(定型発達)の差はどう変わるのか?
● 性差はEFに影響するのか?
本研究は、これらの疑問に明確に答えるための大規模比較研究です。
■ 方法(ポイント)
● 参加者
-
ASD:118名(知的障害なし)
-
TD:96名
-
年齢:12〜18歳
→ 年齢とIQでマッチング
● 測定内容
-
Wisconsin Card Sorting Test(WCST)
→ 認知柔軟性・計画・方略変更
-
Color Trails Test(CTT)
→ 注意の切替
-
IQ(WISC-R / WAIS-R)
-
全検査IQ
-
言語理解
-
知覚推理(Perceptual Reasoning)
-
作動記憶・抵抗性
-
● 分析
- ASD × IQ(高/低)と TD × IQ(高/低)の4群比較
- 非正規データのため、マンホイットニーU、スピアマン相関を使用
■ 主な結果(重要ポイントをわかりやすく)
①ASD と TDの EF に「全体として大きな差はなかった」
ASDとTDは、
年齢とIQを揃えるとEFスコアに有意差が出なかった。
👉 ASDそのものよりIQ水準の方がEFに強く影響している可能性。
②IQが高いASDでは、EFがTDと同等レベルまで補われていた
-
高IQのASDは高IQのTDとほぼ同じEF成績
-
特に WCST(認知柔軟性・計画)で顕著
-
これを研究者は
“補償的メカニズム(compensatory mechanisms)”
と解釈
👉 高IQのASDは、EF課題でTD同等のパフォーマンスを示す。
③IQが低いASDでは、EFの弱さが明確に出る
-
低IQのASDは、低IQのTDと比べても
固執エラー(perseverative errors)が多い
→ 認知柔軟性の弱さ
👉 ASD × 低IQの組み合わせが、EFの困難さをより顕著にする。
④EFと最も強く関係するIQ因子は「知覚推理(Perceptual Reasoning)」
- 作動記憶や言語理解よりも
- *知覚推理(非言語的知能)**がEFとの相関が最も強かった。
👉 視覚的な情報処理能力が、EFの土台として重要。
⑤ 性差についての重要なポイント
-
全体では「男児のほうが知覚推理が高い」傾向
-
しかし ASD群内では性差は消失
→ この性差は TD群が原因でありASDの特性ではない
■ 結論
-
ASDそのものより知能(特に知覚推理)がEFに影響する
-
高IQのASDはEF課題でTDと同レベルに到達できる(補償可能)
-
低IQのASDはEFの弱さが顕著
-
個別の認知プロファイルに基づいた支援が必要
→ 診断名だけでEF特性を判断するべきではない
■ 臨床・教育現場への示唆
-
ASD児・生徒の評価では、IQ因子(特に知覚推理)を必ず確認する
-
EF支援は「ASDだから」ではなく
個別の認知強弱に基づいて最適化すべき
-
高IQのASDには、EF補償の働きをさらに伸ばすアプローチが有効
-
低IQのASDには、認知柔軟性の明確な支援(構造化・視覚支援)が必要
■ 一言まとめ
ASDにおける実行機能の強さ・弱さは“診断名”よりも“知能(特に知覚推理)”に左右される。
高IQのASDではEFが補償され、TDと同等の成績に達する。
Frontiers | ADHD as a circadian rhythm disorder: evidence and implications for chronotherapy
ADHDは「概日リズム障害」なのか?
― 強力なエビデンスを統合し、クロノセラピー(時間治療)の必要性を提案する ―
原題:ADHD as a circadian rhythm disorder: evidence and implications for chronotherapy
掲載予定:Frontiers(最終版待ち)
■ 研究の背景
ADHDといえば、
- 不注意
- 多動・衝動
- 実行機能の弱さ
が主要症状として知られています。
しかし近年、20年以上にわたる研究の蓄積から、
「ADHDの大部分の人が、実は“概日リズム(サーカディアンリズム)の遅れ”をもつ」
という重要な知見が浮上しています。
この論文は、最新の証拠を統合し:
「ADHD = 概日リズム障害(or ADHDの主要サブタイプ)」という新しい理解の必要性
→ 治療方針を“クロノセラピー中心”へ再構築しよう
と提案する“パースペクティブ論文”です。
■ 要点まとめ(先に結論)
✔ ADHDの大きなサブグループは“夜型(Evening chronotype)”である
✔ メラトニンや cortisol のサーカディアンリズムが
遅れ + 平坦化
している
✔ 生物学的マーカー(DLMO)が
子どもで約45分、成人で約90分遅延
✔ 睡眠問題は
子ども・成人とも80%超
✔ 明確な生物学的異常(pineal gland、clock genes)も確認
✔ メラトニン治療・光療法で“位相前進”が可能 → ADHD症状改善も
✔ 行動ベースの「クロノセラピーパスウェイ(臨床導線)」が有効
つまり、
ADHDの多くは睡眠障害の二次症状ではなく、“概日リズムのずれ”が中核にある可能性が高い。
■ 詳細:ADHDで見られる「サーカディアン異常」
① 「夜型(Evening chronotype)」が明確に多い
ADHDの多くは「朝起きられない・夜になると元気になる」といった典型的な夜型を示す。
② 子どもも成人も、睡眠障害の率が異常に高い
- 失眠(不眠)・入眠障害:80%以上
- 睡眠相後退(Delayed Sleep-Wake Phase):78%
- 起床困難・長い睡眠潜時
👉 これは一般人口とは比較にならない高さ。
③ 生物学的指標(DLMO)が大きく遅れる
暗所で自然にメラトニンが出始める時刻(DLMO)は:
- 子ども:平均 45分 遅い
- 成人:平均 90分 遅い
これは 生物学的な“体内時計の遅れ”の直接指標。
④ コルチゾールリズムも“遅れ & 平坦化”
- 朝の立ち上がりが鈍い
- 1日のメリハリが弱い
👉 活力が出にくく、注意力低下につながる。
⑤ 松果体(pineal gland)が小さいという研究
メラトニン分泌の中枢。
ADHDでは体積減少が報告され、
メラトニン産生の弱さと関連が示唆されている。
⑥ 時計遺伝子(BMAL1, PER2)も弱いサイクル
末梢の時計遺伝子でも
- 振幅低下(amplitude reduction)
- リズムの遅れ
が見られる。
👉 遺伝子レベルでも「概日時計」が弱い可能性。
■ 介入研究:概日リズムを“前進”させるとADHD症状が改善
● メラトニン(低用量)でDLMOが前進
子どもも大人も有効。
● 朝の高強度光療法(Bright Light Therapy)が有効
- リズム前進
- ADHD症状の改善例
● 睡眠介入プログラム(行動療法)
睡眠の質向上
→ ADHD症状と日中機能の改善が報告
● 運動 × 生活サイクル介入
非ADHD群では概日リズムが強く前進
→ ADHDでも期待されるが研究が不足
■ 著者の提案:
「クロノセラピー中心の臨床パスウェイ」
以下の実践的ステップを推奨:
① 全てのADHD患者で「睡眠・概日リズムのスクリーニング」
- chronotype(朝型/夜型)
- 睡眠記録
- DLMO(可能なら)
② “行動ベース”の介入から始める
- 固定の起床時間(最重要)
- 朝の強光曝露(自然光 or ライトボックス)
- 夜の光制限(ブルーライトの制限)
- 就寝前ルーチンの固定化
- 規則的なzeitgeber(食事・運動・社会的リズム)
③ メラトニン(低用量)の使用は“DLMO遅延が確認できる患者”に限定
■ 結論
✔ ADHDの多くは、明確な「サーカディアンリズム異常」を持つ
✔ その異常は、生物学的マーカー(DLMO, cortisol, gene rhythms)でも確認される
✔ 位相前進の介入は、ADHD症状そのものの改善につながる
✔ ADHD治療に“クロノセラピー”を標準化するべき
■ 一言まとめ
ADHDの本質は「注意障害」だけではなく、
“体内時計の後退”という生物学的問題が中核にある可能性が高い。
クロノセラピー(時間治療)は、ADHD治療の今後の重要な柱になる。
Trauma exposure in autistic children and adolescents
なぜ自閉症の子どもは「トラウマにさらされやすい」のか?
― 高いリスク、見逃されやすい症状、研究ギャップに焦点を当てた最新レビュー ―
原題:Trauma exposure in autistic children and adolescents
掲載:Child & Adolescent Behavior & Learning(2025年11月26日掲載)
■ 研究の背景
自閉スペクトラム症(ASD)の子どもや青年は、
一般の同年代よりも高い確率でトラウマにさらされることが、多数の研究で指摘されています。
理由として、ASD特性の以下が影響します:
-
コミュニケーションの難しさ
→ 被害を周囲に伝えにくい
-
社会的相互性の難しさ
→ サポートが得られにくい/狙われやすい
-
感覚過敏・環境ストレスの高さ
→ 日常的な出来事でも強いストレス反応が起きやすい
本論文は、
ASDの子どもがなぜトラウマを経験しやすいのか、
どのようなACE(逆境体験)にさらされることが多いのか、
そして臨床現場で何が問題なのか
を整理したレビューです。
■ ASD児が遭遇しやすい逆境・トラウマ(ACEs)
研究によると、ASD児は以下のようなACEを一般児より高確率で経験します:
● 対人暴力・いじめ(peer violence / bullying)
● 身体的・情緒的虐待
● ネグレクト
● 家庭内の精神疾患(特に親のメンタルヘルス問題)
● 医療的侵襲体験(procedure-based trauma の指摘も)
これらはASD児の
-
社交的脆弱性
-
支援ネットワークの乏しさ
-
加害者に狙われやすい特性(孤立・誤解されやすい行動)
が組み合わさって発生しやすくなります。
■ なぜ“見逃される”のか?
ASD児のトラウマは、診断されにくく、見過ごされやすいという問題があります。
① 本人がトラウマを言語化しにくい
- 自分の経験を整理して伝えるのが難しい
- 感情語彙の少なさ
- 被害の意味づけが違う
② 周囲(家族・学校)が気づかない
- 問題行動を“ASDの特性”として誤解しやすい
- 内部化症状(不安・抑うつ)が見えづらい
- 行動変化の解釈が難しい
③ 臨床家が評価しにくい
- 標準的なPTSD評価尺度がASDに適合しにくい
- “自己報告”に頼る評価が難しい
- ASD固有の行動(反復行動・感覚反応等)がトラウマ反応に見える/逆にトラウマ反応が特性に見える
👉 結果として、トラウマの“過小診断”が発生する。
■ PTSD 研究は大きく不足している
- ASD児がトラウマ経験をしやすいことは「コンセンサス」
- しかし PTSDの有病率/症状像/特有の反応については研究不足
特に重要なギャップ:
- ASD児のPTSDはどのような臨床像になるのか?
- RRB(反復行動)やメルトダウンとの鑑別は?
- トラウマ介入(TF-CBTなど)はASDに適応するのか?
- 感覚過敏とトラウマ反応はどう関連するのか?
👉 「ASD × トラウマ × PTSD」の体系的理解は、まだ確立していない。
■ 本研究が示す臨床的な重要ポイント
✔ ASD児には「トラウマの高リスク因子」が重なりやすい
✔ しかし“報告しにくい・気づかれにくい構造”がある
✔ ASD児のPTSDは
見逃されやすく、誤診されやすい
✔ ASDの行動特性とトラウマ反応がオーバーラップする部分がある
✔ 体系的研究が不足しており、専門的評価ツールが必要
■ まとめ(本論文のメッセージ)
ASD児は、非ASD児よりも多くのトラウマ・逆境にさらされる傾向が強い。
しかし、そのトラウマは見逃されやすく、PTSD研究はまだ不十分。
臨床現場では、ASD固有のコミュニケーション・社会性の特徴が、
トラウマ検出の大きな障壁になっている。
今後は、
-
ASD特化のトラウマ評価法
-
トラウマ反応のプロファイル研究
-
ASD児向けの適応的な介入モデル
が必要であると論文は強調している。
■ 一言まとめ
自閉症の子どもは“トラウマにさらされやすく、気づかれにくい”。
これは支援現場にとって大きな構造的課題であり、PTSD研究と評価法の確立が急務である。
