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同じASDラベル下にある軽度と重度のニーズ差

· 41 min read
Tomohiro Hiratsuka
CEO of Easpe, Inc

本記事は、発達障害をめぐる社会・臨床・神経科学の最新研究を横断的に紹介しています。社会面では、同じASDラベル下にある軽度と重度のニーズ差(重度ASDの独立定義議論)を可視化したWSJ記事を起点に、政策・資源配分の論点を整理。基礎〜臨床では、ヒトミクログリアのMEF2C異常が炎症・代謝破綻を介してASD/加齢疾患に関与する機序、ASD者の「不当性理解」における明示情報の効果、多言語曝露がASD児のジェスチャー理解を阻害しないこと、軽度ASD児のQEEG特性(広帯域高振幅・β2過多)を報告。介入・治療では、感覚統合ベース介入(SIBI)のメタ分析による有効性、成人ADHDの非刺激薬Viloxazine ERの安全・有効性レビュー、ADHD児でのリスデキサンフェタミンとグアンファシンの単回投与比較(前者が注意安定性を改善)を解説。評価学では、ADHDペアレントトレーニングの効果判定を「親報告×盲検観察×QOL」で統合するハイブリッド評価を提案。さらに、自己の空間表象(DSR)破綻を諸疾患の共通基盤とみなす理論的レビューや、コソボ/アルバニアの学校心理士が資源制約下で包摂教育を支える実践知も取り上げ、当事者支援の個別化とエビデンスの橋渡しを描いています。

社会関連アップデート

A Mother and Son Share an Autism Diagnosis. Their Worlds Couldn’t Be More Different.

29歳でレベル1(支援少)と診断された母・Peyton と、レベル3(支援多)の8歳児・Greyson――同じ“自閉スペクトラム症(ASD)”の診断名でも生活像と支援ニーズがまるで違う親子の実例を通じて、「一つのラベルで括るべきか?」「“神経多様性”か“障害としての支援”か?」という全米の論争を俯瞰。Boston Children’sのSiegel医師は**“重度(profound autism)”の独立定義**(24時間見守り+IQ<50または最小限言語)を提唱し、研究や資源配分の精緻化を主張。一方、UCLAのCatherine Lordらは人の脳・発達は境界が単純でないとしつつ、「必要は人それぞれ、同じ支援は要らない」と協働の重要性を強調します。

背景整理(DSMの移り変わり)

1994年まではアスペルガー等の下位分類が併存→診断の不一致が問題に。2013年のDSM-5でASDの単一スペクトラム+3段階の重症度に統合。現在は**再び“重度群の明確化”**を求める議論が再燃。

ケースの要点(親子の違い)

  • 母(Level 1):就労・結婚・育児などは自立的。対人・感覚への困難は自己調整可能。

  • 子(Level 3):言語は最小限、夜間オムツ、脱走・メルトダウン、生活全般で常時支援が必要。特別支援学級在籍。家族は長期的住まい・見守り体制を計画中。

    同じ診断名だが“必要な支援の質と密度”は別物。母は重度群を分けて手厚い支援をと主張。

論点とインパクト

  • 用語・分類:単一スペクトラムは包摂的だが資源配分や研究設計がぼやける懸念。重度群の定義は当事者の可視化と政策設計に資する一方、線引きの難しさ・烙印化のリスク。
  • 研究・サービス:非言語・重度群はデータ取得が難しく研究から排除されがち→定義の整備で対象化・エビデンス整備を促進。
  • 神経多様性 vs 医療的支援:**尊重(多様性)と治療・介入(機能支援)**は二項対立ではなく両立が必要。**個別化(個人・家族単位)**が鍵。

ひと言まとめ

“同じASDでも、求める支援はまったく違う”。 単一ラベルの利点と限界を直視し、重度群の明確化×個別化支援×包摂の価値を同時に進める――その現実的な合意形成を促す記事です。

学術研究関連アップデート

MEF2C遺伝子の発現制御異常がヒトミクログリア機能に与える影響──自閉症リスクと加齢関連疾患をつなぐ新たな経路

Nature Immunology, 2025年10月22日公開・オープンアクセス)

著者:Celina Nguyen ら(カリフォルニア大学サンディエゴ校ほか)


研究の概要

本研究は、神経発達に重要な転写因子 MEF2C(Myocyte Enhancer Factor 2C) に注目し、そのヒトミクログリア(脳内免疫細胞)での転写的・エピジェネティック(遺伝子発現制御)機能を解析したものです。

MEF2Cの機能喪失は自閉症スペクトラム症(ASD)や知的障害、加齢関連神経疾患に関わることが知られていますが、ヒトの脳免疫系でどのように影響を及ぼすかは不明でした。

研究チームは、iPS細胞から分化させたヒトミクログリアを用い、MEF2Cが半分機能喪失(haploinsufficient)または完全欠損(knockout)した細胞を比較解析することで、その病態メカニズムを明らかにしました。


主な発見

🧬 1. MEF2C欠損によるミクログリアの異常

  • 慢性的な炎症性状態(hyperinflammatory phenotype)

    → 炎症性サイトカインの基礎分泌が上昇。

  • 貪食能(phagocytosis)の低下

    → 不要なシナプスや細胞残渣の除去が障害。

  • 脂質蓄積とリソソーム機能不全

    → 老化関連の細胞障害にも類似。

  • 脂質代謝と免疫反応のバランス破綻が顕著に。

これらは、ASDにおけるミクログリア活性異常や**加齢性神経変性疾患(例:アルツハイマー病)**の特徴と重なります。


🧠 2. 転写・エピジェネティック解析による疾患関連経路の特定

  • MEF2Cが直接結合するDNA領域をゲノム全体でマッピングし、活性エンハンサーと統合。

  • これにより、神経発達・免疫制御・脂質代謝に関わる主要遺伝子群の調節機構が判明。

  • *自閉症関連遺伝子データセット(idiopathic autism datasets)**との重なりが多く、

    MEF2Cの制御異常が「特発性ASD」に広く関与している可能性を示唆。


🧫 3. マウス脳内でのヒトミクログリア移植モデルでも再現

  • MEF2C欠損ヒトミクログリアをマウス脳に移植すると、形態異常・リソソーム障害・脂質蓄積が観察され、

    in vivoでも細胞病態が再現された。


結論と意義

項目内容
核心発見MEF2Cの減少がヒトミクログリアの遺伝子発現を変化させ、炎症・代謝・貪食機能を破綻させる。
疾患との関連ASDや加齢性神経疾患(アルツハイマーなど)に共通する神経免疫経路の破綻を説明。
研究的貢献ヒト由来ミクログリアとiPS技術を用いて、ASDの細胞・分子レベルでの病態基盤を提示。
今後の展望MEF2C経路を標的とした免疫・代謝調整型の新規治療介入の可能性。

まとめ

本研究は、MEF2Cの喪失がヒトミクログリアの恒常性を破り、神経炎症と代謝異常を引き起こすことを明らかにしました。

この結果は、自閉症スペクトラム症の非神経細胞(免疫系)由来メカニズムを補完するものであり、発達期から老化期に至る神経疾患の共通病理をつなぐ重要な発見です。


一言まとめ:

MEF2Cの機能低下は、ヒト脳の“免疫の守り手”ミクログリアを炎症体質に変え、自閉症と神経老化の橋渡し分子となる。

The Understanding of Wrongfulness by Autistic Individuals in the Criminal Justice System

自閉スペクトラム症者における「犯罪行為の不当性の理解」──意図と結果情報が推論に与える影響

Journal of Autism and Developmental Disorders, 2025年10月22日掲載)

著者:Molly Kernahan, Nathan Weber, Alliyza Lim, Robyn L. Young


研究概要

本研究は、自閉スペクトラム症(ASD)者が犯罪行為の「間違い(wrongfulness)」をどのように理解・推論しているかを明らかにすることを目的としています。特に、心の理論(Theory of Mind: ToM)能力の難しさが、不当性の判断にどのように影響するのか、またその関係が**「意図」や「被害結果」に関する明示的情報**によって変化するのかを検証しました。


方法

  • 対象:成人の自閉スペクトラム症者55名、非自閉者57名
  • 課題:犯罪的なシナリオを読み、「その行為がなぜ(またはなぜ)間違いであるか」を説明する。
    • 条件①:意図や被害の情報が欠落しているシナリオ
    • 条件②:意図や被害情報が明示されているシナリオ
  • 回答は、行為の「意図」や「害」にどれだけ言及しているかでスコア化。
  • ToM能力(他者の意図や感情を理解する力)も別途評価。

主要な結果

🧠 1. 自閉群は全体として推論スコアが低い

自閉群は、犯罪行為の不当性を説明する際に意図や被害の要素を考慮する頻度が少なかった

→ つまり「なぜそれが間違いか」を社会的文脈に基づいて推論するのが難しい傾向

⚖️ 2. 情報提示があると差が縮小

  • 意図・被害情報が明示されると、自閉群と非自閉群のスコア差は有意に小さくなった。

    明確な説明があれば、理解・推論の精度が向上する

🔄 3. ToMは媒介要因にならず

仮説に反して、ToM能力が直接的に推論能力の差を説明する(媒介する)証拠は得られなかった。

→ 推論の難しさはToMだけでなく、状況理解や抽象的推論の処理負荷など、より複合的な要因に起因する可能性。


結論と意義

  • ASD者は「意図」や「結果」を明示されないと、行為の不当性を十分に推論しにくい傾向がある。
  • しかし、意図・被害情報を明確に伝えることで理解は大きく改善する。
  • これは刑事司法システムにおいて、自閉者が違法行為や誤解を受ける状況に置かれた際の支援策に直結する知見です。
    • 例:取り調べ・裁判での意図や結果の明示的説明の必要性
    • 教育・矯正プログラムでの認知的支援設計への応用も期待されます。

研究の示唆

項目内容
主題ASD者の「不当性推論」能力とToMの関係
核心発見ASD群は意図・被害の情報欠如下で推論困難、情報提示で改善
司法的示唆犯罪理解・責任能力評価時には「意図・結果」を具体的に説明すべき
理論的貢献ToM以外の認知要因(抽象推論・状況理解)を含むモデルの必要性

まとめ

本研究は、自閉スペクトラム症者が「行為の正しさ・間違い」を評価する際、社会的・道徳的文脈の読み取りに困難が生じる場合があることを示しました。

ただし、明示的な情報提供によりその差は軽減されるため、司法・教育・支援現場でのコミュニケーションの透明化と認知的補助が重要であることを強調しています。


一言まとめ:

自閉者が“悪いこと”を理解できないのではなく、「意図」や「結果」が曖昧だと理解しにくいだけ──

司法や支援の現場では、文脈を言語化する配慮が鍵となる。

Does Balance of Multilingual Exposure Impact Gesture Comprehension in Autistic Children?

多言語環境は自閉スペクトラム症児のジェスチャー理解に影響するのか?

Journal of Speech, Language, and Hearing Research, 2025年発表)

著者:Pauline Wolfer, Franziska Baumeister, Elisabet Vila Borrellas ほか


研究概要

本研究は、多言語環境(multilingual exposure)で育つ自閉スペクトラム症(ASD)の子どもが、ジェスチャーをどのように理解するかを検証したものです。特に、「多言語曝露のバランス(Balance of Multilingual Exposure: BME)」がジェスチャー理解能力にどのような影響を及ぼすかを初めて体系的に調べました。


背景と目的

自閉症児に対して「複数の言語を同時に学ぶと混乱を招くのではないか」という懸念が根強くあります。しかし、過去の研究では多言語環境が必ずしも不利ではないことが示唆されており、特に非言語的なコミュニケーション(ジェスチャーなど)との関係は未解明でした。

本研究は、「多言語曝露のバランス」が指示的(deictic)・象徴的(iconic)・慣習的(conventional)ジェスチャーの理解に影響するかを明らかにすることを目的としています。


方法

  • 対象者:ASD児86名(4〜12歳)

  • 評価内容:ゲーム形式のタスクでジェスチャー理解を評価。

    以下4条件を比較:

    1. ジェスチャーのみ(例:「運転」を身振りで表現)
    2. ジェスチャー+一致する音声(例:運転ジェスチャー+「ドライブ中」)
    3. ジェスチャー+補足的な音声(例:運転ジェスチャー+「女性」)
    4. 音声のみ(例:「ドライブ中」)
  • BMEスコア:生まれた時からの言語曝露バランスを、親の報告に基づいて算出。

  • 統計解析:年齢、性別、社会経済的地位、自閉症の重症度、非言語IQ、言語能力を統制した混合効果ロジスティック回帰を実施。


主な結果

🧠 1. ASD児は全体として良好なパフォーマンスを示した

いずれの条件でもチャンスレベル(偶然正解)を上回る理解力を示し、

ASD児が非言語的ジェスチャーを有効に処理できることを確認。

🌍 2. 多言語曝露バランス(BME)は理解力に影響しなかった

BMEスコアは、指示的・象徴的・慣習的ジェスチャー理解のいずれにも有意な影響を示さず

多言語環境に育つことはASD児のコミュニケーション発達に悪影響を及ぼさない

📈 3. 年齢と言語能力が主要な予測因子

  • 年齢が上がるほど、ジェスチャー理解力は向上(成熟効果)。

  • 一般的な言語能力が高いほど、ジェスチャー理解も良好。

    言語発達と非言語理解は相互に補完し合う関係が示唆された。


結論と意義

  • 多言語環境は自閉症児のジェスチャー理解に悪影響を与えない。
  • むしろ、年齢的成熟と言語発達の促進が理解力向上に寄与。
  • 本研究は、ASD児の家庭や教育現場における**「多言語育児=不利」という固定観念を覆すエビデンス**を提供しています。

研究の意義と今後の展望

項目内容
研究の新規性ASD児における多言語曝露とジェスチャー理解の関係を初めて検証
主要知見多言語曝露バランスは理解に影響しない/年齢・言語能力が鍵
臨床的示唆家庭や学校での多言語コミュニケーションを制限する必要はない
今後の課題サンプルの拡大と縦断的追跡による発達経路の検証

まとめ

この研究は、ASD児が複数言語環境下でも非言語的な理解力を維持できることを示しました。

言語数のバランスよりも、個々の言語能力と年齢に応じた支援のほうが重要であることが明らかです。


一言まとめ:

多言語で育つ自閉症児も、ジェスチャー理解において単言語児と同じ発達ポテンシャルを持つ──

多言語環境は「リスク」ではなく、豊かなコミュニケーションの資源である。

Editorial Perspective: The challenge of evaluating ADHD parenting interventions - towards a hybrid approach

ADHDにおけるペアレントトレーニング評価の難しさ──「客観的効果」と「親の実感」をつなぐハイブリッド・アプローチの提案

Journal of Child Psychology and Psychiatry, 2025年)

著者:Saskia van der Oord, Tycho J. Dekkers, Barbara J. van den Hoofdakker, Manfred Döpfner, Edmund Sonuga-Barke


研究・論考の概要

本稿は、ADHD(注意欠如・多動症)児の行動改善を目的としたペアレントトレーニング(Behavioural Parent Training: BPT)の効果評価に関する重要な論点を整理し、「客観的評価と主観的評価の乖離」をどう扱うかという課題に対して新たな見解を示したエディトリアル・ペースペクティブ(Editorial Perspective)です。

BPTはADHD治療の中核的手法として広く推奨されていますが、メタ分析の結果では「親の報告による改善(MPROX)」と「第三者による客観的評価(PBLIND)」の間に大きな乖離が報告されており、研究・臨床の双方で議論が続いています。


主要な論点

🧩 1. 「親の報告」と「客観的観察」のギャップ

  • MPROX(Most Proximal Outcome Measures):親自身が報告する子どものADHD症状の変化。多くの研究で大きな改善効果が見られる。
  • PBLIND(Probably Blinded Measures):教師や観察者など、盲検化された評価者による客観的な行動観察。改善効果はしばしば小さい、または見られない。

この乖離をどう解釈すべきかが、ADHD介入研究の中心的課題のひとつとなっています。


著者らが提示する5つの仮説

【仮説①〜③】親報告の改善は「偽陽性」である可能性

  1. BPTは実際にはADHD特性を減らしていない

    親が望む変化を過大評価している可能性。

  2. 親の認知変化が評価に影響している

    親が子どもの行動をより肯定的に捉えるようになる(再解釈効果)。

  3. 報告バイアスや期待効果の影響

    トレーニング効果を信じる心理的傾向がスコアに反映されている。

【仮説④〜⑤】客観的評価は「偽陰性」である可能性

  1. PBLIND評価がトレーニングの本質的効果を捉え損ねている

    環境や観察状況が限定的で、家庭内の変化を反映できていない。

  2. 評価設計自体の限界

    「症状変化」に偏重しすぎており、BPTの真の目標である親子関係の改善・生活機能の向上を測れていない。


提案:ハイブリッド・アプローチによる新たな評価枠組み

著者らは、今後のBPT評価において以下のような**「統合的評価モデル」**の採用を提案しています。

要素具体的手法評価の意義
親の主観評価(MPROX)質問紙・面接・日誌記録家庭での実際の行動変化・親子関係を反映
第三者観察(PBLIND)教師・観察者による評価行動の客観的変化を確認
補完的評価指標QOL・精神的健康・親のストレスなどADHD症状以外の“生活の質”を重視

このハイブリッド評価により、臨床的にも研究的にも、より現実的で包括的な効果検証が可能になるとしています。


結論:評価の焦点を「症状」から「生活の質」へ

著者らは、今後のADHD支援を考える上で、“客観的な症状の減少”よりも、“親子双方の生活機能と幸福感の向上”を重視すべきと主張します。

つまり、BPTの成功とは単に子どもの衝動や不注意が減ることではなく、

親子の関係が改善し、家庭全体がより安定し、幸福に近づくこと

だという立場を明確にしています。


まとめ

項目内容
テーマADHD児へのペアレントトレーニングの効果評価の再検討
問題提起親の主観報告と客観評価の結果が一致しない
提案親報告+客観観察+生活の質を組み合わせた「ハイブリッド評価」
臨床的示唆症状コントロールよりも、親子の幸福と日常機能改善に焦点を

一言まとめ:

ADHD支援の“成功”とは、症状の点数が下がることではなく──

親子がよりよく暮らせるようになることを、どう測り・支えるかである。

Viloxazine Extended-Release: A Review in Attention-Deficit/Hyperactivity Disorder in Adults

成人ADHDに対するビロキサジン徐放剤(Viloxazine ER, Qelbree®)の最新レビュー

CNS Drugs, 2025年)

著者:Yahiya Y. Syed


概要

本論文は、成人の注意欠如・多動症(ADHD)治療におけるビロキサジン徐放製剤(Viloxazine ER, 商品名Qelbree®)の有効性と安全性についてまとめた総説(レビュー)です。

もともと抗うつ薬として開発されたビロキサジンは、ノルアドレナリン再取り込み阻害作用セロトニン受容体調整作用を併せ持つ非刺激薬(non-stimulant)であり、現在は米国で小児および成人ADHD治療薬として承認されています。


薬理学的特徴

  • 作用機序

    主にノルアドレナリン再取り込み阻害(NRI)によって注意・覚醒機能を改善し、

    加えてセロトニン5-HT2B受容体拮抗および5-HT2C受容体部分作動作用を持つ。

    → これにより衝動性・情動調整・気分安定にも寄与する可能性が示唆。

  • 投与形態

    1日1回経口投与の徐放カプセル(extended-release capsule)


臨床試験の主要結果

🧪第3相ランダム化二重盲検プラセボ対照試験(6週間)

  • 対象:成人ADHD患者
  • 結果
    • プラセボ群と比較して、ADHD症状および重症度が有意に減少
    • 実行機能(Executive Function)も改善
    • 改善効果は2〜3週以内に出現し、その後も24か月以上持続
    • 忍容性良好で、多くの患者が継続可能。

安全性と副作用

  • 主な副作用

    • 不眠(insomnia)
    • 頭痛(headache)
  • 重篤な有害事象

    • 心血管系・肝機能に有意な影響なし
    • 長期使用においても安全性が確認
  • 非刺激薬としての特徴

    メチルフェニデートやアンフェタミン系と異なり、依存性リスクが低く睡眠への影響が限定的


総合評価

項目評価
有効性ADHD症状・実行機能の双方を改善
即効性2〜3週で効果出現
持続性長期(24か月)でも効果維持
安全性良好(特に心血管・肝機能面)
位置づけストラテラ(アトモキセチン)などと並ぶ新世代非刺激性ADHD薬

臨床的意義

  • 成人ADHD治療では、従来の**刺激薬(メチルフェニデート、アンフェタミン)**に加え、

    非刺激薬の選択肢を拡げる有力な新薬として位置づけられる。

  • 不眠などの軽度副作用に注意しつつも、

    長期安定治療に適した安全性と有効性を持つ。

  • 併存疾患(不安・うつ・睡眠障害)を抱える成人ADHDにおいて、

    治療選択肢の拡大に貢献する可能性が高い。


まとめ

ビロキサジン徐放剤(Viloxazine ER, Qelbree®)は、

成人ADHDに対して有効・安全で、非刺激薬としての柔軟性を備えた新しい治療選択肢です。

短期間で効果を示し、長期にわたって持続する点が特徴であり、

今後のADHD治療戦略において薬理学的にも臨床的にも重要な位置を占める可能性があります。


一言まとめ:

Viloxazine ER(Qelbree®)は、成人ADHD治療の新しい“非刺激系”主役候補──

2〜3週で効き始め、長く続けやすく、安全性も高いバランス型の治療薬。

Frontiers | Exploratory Quantitative EEG Characteristics in Children with Autism Spectrum Disorder

軽度自閉スペクトラム症児における脳波特性の探索的分析:定量的EEG(QEEG)による新たな知見

Frontiers in Neuroscience, 2025年 掲載予定)

著者:Marta Kopańska, Danuta Ochojska, Izabela Sarzyńska, Julia Trojniak, Jacek Szczygielski(University of Rzeszow, Poland)


概要

本研究は、軽度自閉スペクトラム症(mild ASD, DSM-5レベル1)児の脳波活動パターンを定量的脳波(QEEG)によって明らかにすることを目的とした探索的研究です。

ASDは現在、小児31人に1人が影響を受ける最も一般的な神経発達症の1つとされ、早期診断が発達・社会・教育面の潜在能力を最大化する鍵とされています。

著者らは、**QEEGによる脳波の周波数帯域別分析(Δ, θ, α, SMR, β1, β2)**を通じて、ASD特有の電気生理学的特徴を明らかにし、診断補助としての有用性を検証しました。


研究デザイン

項目内容
対象7〜10歳の児童48名(うち24名が軽度ASD診断済)
方法定量的脳波(QEEG)測定を実施(開眼・閉眼条件)
測定部位前頭(Fz, F3, F4)、中心(Cz, C3, C4)、頭頂(P3, Pz, P4)、側頭(T3, T4)、後頭(O1, O2)
解析指標Δ波、θ波、α波、センサー運動リズム(SMR)、β1波、β2波の振幅
比較対象ASD群 vs 健常対照群

主な結果

🧠 1. ASD群では全帯域で振幅が有意に高値

軽度ASD群は、全ての周波数帯域(Δ, θ, α, SMR, β1, β2)において対照群より有意に高い振幅値を示しました。

この傾向は特に前頭〜中心部位で顕著でした。

⚡️ 2. β2波(高速ベータ波)の過剰表現

ASD群ではβ2波(約20〜30Hz)が過剰に出現しており、

これは覚醒度の高さや感覚過敏、認知過負荷などASD特有の神経活動パターンと関連する可能性があります。

🔍 3. QEEGによるスクリーニングの有用性

この特徴的なパターンは、軽度ASD児の診断支援や早期スクリーニングに活用できる可能性を示唆。

特に、臨床症状が比較的軽い児童の客観的評価指標として期待されます。


考察

著者らは、以下のようにQEEGの臨床的価値を位置づけています。

観点内容
診断補助定性的な臨床観察に加え、脳活動の定量的差異を把握できる。
神経機構の理解ASDの異質性(heterogeneity)を脳波レベルで解析可能にする。
個別支援への応用電気生理学的プロファイルに基づく個別化療育・介入設計への応用。

特に、過剰なβ波活動や全体的な高振幅傾向は、

神経可塑性・覚醒制御・感覚処理の異常と関連する可能性があり、ASDの神経基盤理解の一助になるとしています。


結論

  • 軽度ASD児では、全帯域で振幅が高く、特にβ2波が過剰に出現する脳波特性が確認された。

  • QEEGは、非侵襲的かつ客観的にASDの神経活動を把握できる有力ツールであり、

    早期診断および発達支援における臨床的価値が高い。

  • さらに、ASDの神経生理学的多様性を明らかにする研究基盤としても有用である。


まとめ

項目内容
研究目的軽度ASD児における脳波パターンの探索的分析
主要所見全帯域で振幅上昇、特にβ2波の過剰出現
臨床的意義QEEGは診断補助・スクリーニングツールとして有望
今後の展望ASDの神経生理学的サブタイプ分類や個別介入設計への応用

一言まとめ:

軽度自閉症児の脳は、全体的に活性化された電気的リズムを示す──

QEEGはその違いを“見える化”し、早期診断と個別支援の新たな鍵となりうる。

Frontiers | Effectiveness of sensory integration-based intervention in autistic children, focusing on Chinese children:Asystematic review and meta-analysis

感覚統合療法に基づく介入(SIBI)は自閉スペクトラム症児に有効か──中国における体系的レビューとメタ分析

Frontiers in Psychology, 2025年 掲載予定)

著者:Lyu Bingchen, Yi Ba, De Ma, Niu Liu, Yaqi Xue, Limin Fu**

(北京師範大学、河北体育大学 ほか)


研究の背景

自閉スペクトラム症(ASD)の有病率は世界的に増加傾向にあり、社会・家庭双方に大きな精神的・経済的負担をもたらしています。

その中で、**感覚統合療法(Ayres Sensory Integration, ASI)**は、感覚処理や適応的反応を改善する手法として広く用いられています。

中国では、ASIを基盤として発展したSensory Integration-Based Intervention(SIBI)という独自の発展型プログラムが広く実践されており、本研究はその臨床的有効性を体系的に検証した最初期のメタ分析となります。


研究目的

  • 中国を中心に行われたSIBI介入研究のエビデンスを統合し、ASD児に対する効果を定量的に評価すること。
  • 特に、
    1. 感覚統合能力

    2. ASD関連行動(ATEC・ABCスコア)

      に対する効果を検証。


研究方法

項目内容
対象文献PubMed、Cochrane Library、Web of Science、EBSCO、CNKI(中国国家知識基盤)から2025年2月までのRCT研究を収集
対象者自閉スペクトラム症児(主に中国国内の研究)
研究数/サンプル数16研究、計1,319名
解析指標感覚統合能力スケール、ATEC(Autism Treatment Evaluation Checklist)、ABC(Autism Behavior Checklist)
統計解析Stata 17を使用(フォレストプロット・ファンネルプロット・Egger検定・メタ回帰分析)

主な結果

🧠 1. 感覚統合能力の有意な向上

  • 感覚統合スケール総得点:

    平均差(MD)= +11.53, 95% CI [10.53, 12.53], p < 0.05

    → SIBIは感覚処理能力を顕著に改善

💬 2. ASD関連行動の改善

  • ATECスコア(行動・言語・社会性)

    MD = −16.12, 95% CI [−22.61, −9.64], p < 0.05

  • ABCスコア(行動問題尺度)

    同様に有意な低下(改善)を確認。

→ SIBIは、社会性・言語・適応行動の複合的改善をもたらすことが示唆されました。

⏱ 3. 効果の差は「介入期間」に依存

  • メタ回帰分析により、介入期間が長いほど効果が高いことが明らかに。

    (β = −0.51, p < 0.05)

  • 一方で、年齢は効果差の要因ではないとされました。

🧩 4. 公表バイアスなし

Egger検定およびファンネルプロットにより、出版バイアスは認められず、結果の信頼性が高いと判断されています。


結論

  • SIBI(感覚統合ベース介入)は、自閉スペクトラム症児に対して有意な改善効果をもたらす

    特に、感覚統合能力と自閉関連行動(社会性・注意・コミュニケーション)の双方にポジティブな影響。

  • 介入の持続期間が成果の鍵となる。

  • 本結果は、中国での実践的SIBIプログラムの有効性を裏付けるエビデンスとなり、国際的な感覚統合療法の研究にも寄与する。


臨床・実践的意義

観点内容
教育・療育現場での意義感覚刺激を用いた身体活動・遊びを組み合わせたSIBIは、家庭・学校での応用が容易。
医療・心理支援への示唆非薬物的介入として、社会的・行動的スキルの改善に貢献。
研究的貢献感覚統合療法の文化的適応(中国型SIBI)に関する初の体系的メタ分析。

まとめ

項目内容
研究タイプ系統的レビュー+メタ分析
対象中国の自閉スペクトラム症児
主な効果感覚統合能力・ASD関連行動の有意な改善
効果を高める要因長期的な継続介入
実践的意義SIBIは非薬物的治療法として有効で、教育・臨床双方で活用可能

一言まとめ:

中国発の感覚統合ベース介入(SIBI)は、ASD児の感覚処理・行動・社会性を総合的に改善する科学的裏付けのある療法

効果の鍵は──**「長く、継続すること」**にある。

Frontiers | The Fading Self in Space- Disruption of Default Spatial Representation Across

空間における「自己の消失」──脳のデフォルト空間表象(Default Spatial Representation, DSR)の破綻がもたらす神経疾患の再解釈

Frontiers in Neuroscience, 2025年 掲載予定)

著者:Ravinder Jerath(Mind Body Technologies and Research, 米国ジョージア州)・Vasha Malani(Northeastern University, 米国ボストン)


概要

本論文は、「デフォルト空間表象(Default Spatial Representation, DSR)」という新しい神経生理学的概念を軸に、自己の空間的な位置づけの破綻が多様な神経・精神疾患の共通基盤であると提唱する理論的レビューです。

著者らは、意識・身体感覚・空間認識の根幹にある「自己と空間の統合的表象(self-in-space)」の破綻が、ADHD・ASD・統合失調症・認知症・離人症など、表面的には異なる疾患群に共通する根源的異常であると指摘しています。


デフォルト空間表象(DSR)とは?

  • 定義

    DSRは、外部刺激や注意焦点がなくても脳内で自動的に生成される「自己が空間内のどこに位置しているか」という内部的地図のような表象。

  • 機能的意義

    私たちが「自分がここにいる」と感じるための基盤的ネットワークであり、意識・身体所有感・行動計画の根幹をなす。


DSRの破綻と疾患の関連

論文では、DSRの機能的分断や異常活性化が、多様な神経症状や精神症状の基盤にあると論じています。

疾患DSRの破綻がもたらす現象・症状
片側無視症候群(Contralateral Neglect Syndrome)空間の一部(例:左側)を「存在しない」と認識する
身体麻痺(Psychogenic Paralysis)自分の身体部位の空間的位置を認識できず、動かせなくなる
意識障害(Disorders of Consciousness)自己の存在や位置の感覚が失われる
自閉スペクトラム症(ASD)自他境界や空間的注意配分の異常、身体スキーマの不安定性
アルツハイマー病(AD)自己定位や空間記憶の崩壊
統合失調症自己感覚・空間定位の異常(幻覚・解離)
離人症/現実感喪失症(Depersonalization/Derealization Disorder)「身体が自分のものではない」「世界が遠い」と感じる体験

神経ネットワークとの関係

  • DSRは主に以下の大規模脳ネットワークの相互作用によって形成される:

    1. デフォルトモードネットワーク(DMN)

      → 内省・自己意識・記憶との関連。

    2. 注意制御ネットワーク(Attentional Networks)

      → 外部空間への注意配分と整合性を担う。

    3. 空間ナビゲーション系(海馬・頭頂葉・島皮質など)

      → 自己と環境の空間的座標を統合。

  • これらのネットワークが機能的に分断・過剰結合・同期異常を起こすと、

    「自己が空間に存在する感覚」=self-in-space が失われる。


提案される新しい診断・治療パラダイム

著者らは、既存の疾患分類を超え、「自己-空間表象のネットワーク異常」という統一モデルに基づいた新しい評価法と治療戦略を提案しています。

🧩 診断アプローチ:

  • 機能的MRIやEEGによるネットワーク接続性解析
  • 損傷部位と症状の対応マッピング(lesion-symptom mapping)
  • 自己位置感覚・身体所有感を評価する認知テスト

💡 治療の方向性:

  • 神経刺激(TMS、tDCSなど)を用いたDMN・注意ネットワークの再同期化
  • VR・身体運動訓練による自己空間感覚の再構築
  • 意識・身体・空間を統合的に扱う新たなリハビリテーションモデル

結論

  • DSRの破綻は、意識・身体感覚・空間認識の歪みを共通基盤とする神経疾患の本質的原因である。
  • これに基づく統一的理解により、これまで個別に扱われてきた多様な症状群を、「自己と空間の断絶」という一本の軸で再統合できる。
  • 今後は、ネットワーク指標に基づく診断・治療法の開発が期待される。

まとめ

項目内容
主題「自己の空間的表象(DSR)」の破綻が多様な神経・精神疾患の共通原因である可能性
方法神経画像・病巣マッピング・計算モデルの統合レビュー
提唱モデル自己と空間の統合表象が崩壊することで発症する「network-level pathology」
臨床応用fMRIやEEGによるネットワーク評価、新規治療(TMS・VR)への応用

一言まとめ:

本論文は、「自分が空間に存在する」という根源的感覚の崩壊を、多様な神経・精神疾患に共通する鍵として再定義する。

──“自己の座標を失う”ことこそ、脳が示す最も根本的な異常のひとつだと示唆している。

Frontiers | Differential effects of a single dose of Lisdexamfetamine and Guanfacine on cognitive function in children with ADHD

ADHD児におけるリスデキサンフェタミンとグアンファシンの単回投与効果の違い──認知機能への影響を比較したランダム化二重盲検クロスオーバー試験

Frontiers in Psychiatry, 2025年 掲載予定)

著者:Sahid El Masri, Katya Rubia ほか(キングス・カレッジ・ロンドン、ドレスデン工科大学)


概要

本研究は、ADHD(注意欠如・多動症)児における認知機能への薬理学的影響を直接比較した初の実験的試験のひとつです。

著者らは、**新規刺激薬リスデキサンフェタミン(Lisdexamfetamine)**と、非刺激薬グアンファシン(Guanfacine)の単回投与後の認知機能への効果を比較し、これらの薬剤がどのように注意・反応制御・時間知覚などに影響するかを明らかにしました。


背景

ADHDは、持続的注意力の低下、反応のばらつき(反応時間の不安定性)、抑制機能の低下などの神経認知的特徴を示す。

これらの症状はしばしば薬物治療で改善するが、リスデキサンフェタミン(商品名 Vyvanse)やグアンファシンIntuniv)といった比較的新しい薬剤の認知面への直接的影響は十分に検証されていなかった。


研究方法

項目内容
研究デザインランダム化・二重盲検・プラセボ対照・クロスオーバー試験
対象ADHD児 22名(平均年齢:児童期後半〜思春期前期)
比較条件リスデキサンフェタミン(Lisdexamfetamine ER)グアンファシン(Guanfacine ER)プラセボ(週ごとのウォッシュアウト期間あり)
課題内容持続的注意、警戒、運動抑制、干渉抑制、時間弁別などの課題
主要指標- 平均反応時間(MRT)- 反応時間のばらつき(CV:Coefficient of Variation)- 早期反応・脱漏エラー・時間判断精度
比較対象年齢・IQ・性別をマッチさせた定型発達児群(1回のみ測定)

主要結果

🔹 リスデキサンフェタミン(Lisdexamfetamine)の効果

  • 平均反応時間(MRT)の短縮

    → 注意の持続性・処理速度が改善。

  • 反応時間の安定化(CVの低下)

    → ADHDで最も再現性の高い欠損指標が改善。

  • 時間弁別と脱漏エラーの減少(中〜大効果量)

    → 注意と時間認識の精度向上傾向。

🔹 グアンファシン(Guanfacine)の効果

  • 反応時間のばらつき(CV)の悪化

    → 注意の不安定化を示唆。

  • 脱漏エラーの増加傾向

    → 注意の集中維持が低下。

🔹 比較結果

  • 両薬剤の効果は明確に方向性が異なる
    • リスデキサンフェタミン:認知的安定性を改善
    • グアンファシン:注意変動を悪化させる可能性

考察

  • ADHDの認知的特徴である「反応時間の不安定性(CV)」と「注意の揺らぎ」は、臨床的にも非常に再現性の高い生理指標であり、

    本研究の結果は、リスデキサンフェタミンがこれらのコア症状を即時的かつ顕著に改善することを示唆。

  • 一方、グアンファシンは鎮静効果を介して認知安定性を阻害する可能性があり、注意改善薬としての効果は限定的である可能性が示された。

  • この違いは、薬理作用の差に起因:

    • リスデキサンフェタミン:ドパミン・ノルアドレナリン再取り込み阻害による前頭葉賦活
    • グアンファシン:α2A受容体刺激による皮質抑制的制御(過度な静的注意)

臨床的示唆

観点意義
薬剤選択の基準ADHD児の「注意の安定性」や「処理速度」を重視する場合、リスデキサンフェタミンが優位。
グアンファシンの適応行動制御・衝動性低減を目的とする補助薬として位置づける方が適切。
評価指標の重要性MRT・CVなどの認知指標を薬効評価に用いることの有効性を示唆。

結論

  • リスデキサンフェタミンは、ADHD児の注意・反応安定性を有意に改善する。
  • グアンファシンは認知的注意安定性をむしろ悪化させる可能性があり、注意改善の目的では慎重な適用が必要。
  • ADHD治療における「認知機能改善」という観点から、リスデキサンフェタミンはより効果的な一次選択薬となりうる。

まとめ

項目内容
研究タイプランダム化・二重盲検・クロスオーバー試験
対象ADHD児22名
比較薬リスデキサンフェタミン vs グアンファシン vs プラセボ
主な効果リスデキサンフェタミン:注意・反応安定性改善/グアンファシン:注意低下傾向
臨床的意義認知面での効果差を明確化し、薬剤選択の根拠を提示

一言まとめ:

ADHD児において、リスデキサンフェタミンは注意を整える薬

グアンファシンはむしろ注意をぼかす薬──

単回投与でも、その差は脳の反応時間に明確に現れる。

Experiences of school psychologists supporting students with special educational needs in inclusive elementary education

インクルーシブ教育における特別支援を担うスクールサイコロジストの実践──コソボとアルバニアにおける現場経験から

British Journal of Special Education, 2025年10月22日公開)

著者:Ereblir Kadriu, Natyra Agani Destani, Arbesa Uka


概要

本研究は、コソボとアルバニアのインクルーシブ小学校で、特別な教育的ニーズ(SEN)を持つ児童を支援するスクールサイコロジスト(学校心理士)の経験を探った質的研究です。

  • *ブロンフェンブレンナーの生態学的システム理論(Ecological Systems Theory)**を理論的枠組みとし、学校という複層的環境の中で心理士がどのように役割を果たしているのかを明らかにしました。

研究目的

  • 包摂的教育環境において、スクールサイコロジストがどのような課題・葛藤・実践的工夫を経験しているかを明らかにする。
  • 特に、制度的制約と現場の創意工夫の両側面から分析を行い、インクルーシブ教育実現に向けた支援体制強化の方向性を示す。

研究方法

項目内容
研究デザイン質的・現象学的研究(phenomenological design)
理論枠組みブロンフェンブレンナーの生態学的システム理論
データ収集オンライン・フォーカスグループディスカッション
分析方法解釈的現象学的分析(Interpretative Phenomenological Analysis, IPA)
対象地域コソボおよびアルバニアのインクルーシブ小学校

主な結果とテーマ

分析の結果、5つの主要テーマが抽出されました。

テーマ概要
① 早期発見と役割交渉心理士はSEN児の早期識別に関わるが、教師・保護者との役割分担が曖昧で、支援の主導権に葛藤が生じている。
② 制度的・資源的制約人員不足、教材の欠如、専門職の限定的配置など、構造的制約が支援の質を制限している。
③ 個別教育計画(IEP)の「生きた文書」としての運用形式的な書類ではなく、実践的な成長ツールとしてIEPを活用する心理士の姿勢が見られた。
④ 家庭との協働保護者のスティグマ(偏見)を乗り越えながら、家庭・学校・心理士の三者協働を促進する重要性が強調された。
⑤ 子どもの情緒的・発達的ニーズへの注目学業支援に加え、情緒面・社会性の発達支援を重視するアプローチが共通していた。

現場での課題とレジリエンス

  • 課題:
    • 役割の不明確さ(教師との境界不明確)
    • 過重な担当件数(heavy caseloads)
    • 限られた時間・専門資源
    • 保護者による偏見やスティグマ
  • 対応と工夫:
    • 創造的アプローチ(遊び・芸術・グループ活動の活用)
    • 地域連携・家族支援の促進
    • 専門職としてのアドボカシー(権利擁護)
    • 限られた環境の中でも柔軟で実践的な支援を模索する姿勢

結論と提言

研究は、スクールサイコロジストがインクルーシブ教育の推進において中心的かつ過小評価されている存在であることを強調します。

持続的な支援と質の高い教育を実現するために、以下の改善策が提案されています。

提言項目内容
1. 業務負担の軽減担当児童数の削減、職務分担の明確化
2. 専門的研修の充実インクルーシブ教育・心理支援に関する継続的専門育成
3. 家族支援の強化保護者教育・心理支援を通じたスティグマ解消
4. 制度的投資の拡大人員・設備・教材への公的資源投下
5. 心理士の制度的位置づけの明確化学校組織内での公式な役割と責任の明確化

意義と国際的貢献

  • 本研究は、東欧・バルカン地域におけるインクルーシブ教育の現状を国際的に可視化
  • 教育・心理・政策の三領域を横断して、「教育現場の声」に基づく制度改善の必要性を訴える。
  • 世界的にも共通する課題──心理士の過重負担・家庭との連携不足・制度的支援の欠如──に対し、現場のレジリエンスと創意工夫を描いた重要な実践的知見を提供している。

まとめ

項目内容
研究タイプ質的・現象学的研究
対象地域コソボ・アルバニア
理論枠組み生態学的システム理論(Bronfenbrenner)
主要テーマ早期発見、制度的制約、IEP活用、家庭協働、情緒的支援
主な結論スクールサイコロジストは包摂教育の中核であり、制度的支援強化が急務
国際的意義現場実践に根ざした、包摂教育実現のための心理職の役割再定義

一言まとめ:

コソボとアルバニアの学校心理士たちは、限られた資源の中でも創造性と粘り強さで子どもを支える「見えない実践者」

本研究は、彼らの声を通じて──包摂教育を「理念」から「現実」にするための次の一歩を描いている。