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知的障害のある学生と教員養成の協働によるインクルーシブ教育の実践

· 61 min read
Tomohiro Hiratsuka
CEO of Easpe, Inc

本記事は、発達障害(主にASDとADHD)をめぐる最新研究を横断的に紹介しています。具体的には、24時間アクチグラフィー×機能的線形モデリングによるADHDの終日活動リズム解析、ASD児の初期動詞産出を縦断で捉えた言語発達軌跡、母体抗Caspr2抗体モデルでACE阻害薬カプトプリルがミクログリア反応性とASD様表現型を可逆化する前臨床研究、親のスティグマ—社会的支援—育児ストレスの媒介関係、ASDの白質(軸索刈り込み・髄鞘化)の年齢変化、ASDとADHDのコネクトームと関連遺伝子発現、ASD成人の注意依存的な聴覚変化処理の脳指標、妊娠後期のPM2.5成分(硫酸塩・アンモニウム)と出生後オゾン曝露のASDリスク、マインドフルネス介入による常同行動の改善、個別構造保持型GNN(PSP-GNN)による脳画像ベース診断、ディスレクシアにおける視覚—音韻統合学習、洗浄型腸内細菌移植(WMT)のASD応用可能性、就学前のASDとGDDの鑑別課題、ADHD支援mHealth「ParentCoach」、そして知的障害のある学生と教員養成の協働によるインクルーシブ教育の実践です。全体として、測定標準化と精密表現型化、神経免疫・環境・腸内細菌などの機序解明、AI/mHealthによる個別化支援、家族・学校・制度を含む実装科学という4本柱が浮かび上がります。

学術研究関連アップデート

Insights from 24-hour actigraphy using functional linear modeling in children with and without ADHD

Insights from 24-hour actigraphy using functional linear modeling in children with and without ADHD

Scientific Reports, 2025/オープンアクセス)

なにを調べた?

ADHDでは睡眠や概日リズムの乱れが指摘されますが、1日24時間の体動パターンを連続的に解析した研究は少数。本研究は2週間のアクチグラフィ機能的線形モデリング(FLM)で解析し、ADHD児・定型発達児の終日活動リズムと、その**規定因子(クロノタイプ、幼児期の自己調整困難など)**を検討しました。

対象と方法

6–12歳のADHD 35名(多施設ESCAlifeのサブサンプル)と対照39名。自由日/登校日を含む連続2週間の24hアクチグラフィを取得し、FLMで群間・表現型(混合型 vs 不注意優勢型)差を時刻別に評価。事後的にクロノタイプ、幼児期の早期調整問題、日光曝露との相関も解析。

主な結果

  • ADHD群全体 vs 対照24h体動プロファイル差は有意でなし
  • ただし自由日の就床前(~20時)周辺で、ADHD混合型と不注意型表現型差を検出(混合型の方が就床前に活動過多が目立つ示唆)。
  • ADHD群では24hプロファイルがクロノタイプ幼児期の早期調整問題と関連。
  • 対照群では日光曝露量と関連。
  • 従来の「就床潜時」などの単一指標では見えにくい時刻依存の違いを、24h-FLMが補完的に可視化。

臨床・実務への示唆

  • ADHD全体を対照と一括比較するより、表現型別(混合型/不注意型)に“就床前帯”を重点評価することで、介入(寝る前の活動量コントロール、就寝ルーティン、光曝露調整など)の焦点化が可能。
  • クロノタイプや幼児期の自己調整困難の情報は、睡眠衛生指導や生活リズム介入の個別化に有用。
  • アクチグラフィ+FLMは、従来指標と相補的な評価ツールとして補助診断や経過モニタリングに活用の余地。

限界

  • ADHD児の多くが服薬中で、薬物の影響を完全には除外できない。
  • サンプル規模・単一センター対照の制約、自由日と登校日の配分など、外的妥当性に留意。

ひと言まとめ

「ADHDか否か」よりも「どの表現型か」と「いつ(就床前帯)」が鍵。 24時間×時刻依存で見ると、混合型に特有の夜間前活動過多が浮かび上がり、個別化された睡眠・生活リズム介入の設計に役立つ。

Longitudinal Analyses of Early Verb Production in Autism Spectrum Disorder

自閉スペクトラム症児における初期動詞産出の発達的軌跡──縦断分析が示す多様な言語成長プロファイル

Journal of Autism and Developmental Disorders, 2025年10月23日公開)

著者:Kaya LeGrand, Julia Parish-Morris, Letitia R. Naigles


研究概要

本研究は、幼少期の動詞(verb)使用の発達が、後年の言語能力をどのように予測するかを、自閉スペクトラム症(ASD)児と定型発達(TD)児の縦断的データから検証したものです。

先行研究では、ASD児の動詞獲得に関して結果が一貫せず、横断的分析の限界が指摘されていました。本研究は、発達の「軌跡(trajectory)」を時間経過で捉えることにより、より精緻な理解を目指しました。


方法

項目内容
対象者ASD児 32名/TD児 35名(合計67名)
年齢層乳幼児期(初期言語発達段階)
データ取得親子の自由遊び場面の自然言語サンプルを録音・分析
分析手法縦断的混合効果モデル+潜在クラス分析(Latent Class Analysis, LCA)による動詞産出発達のプロファイル分類

主な結果

1. 全体傾向:動詞産出は両群で増加するが、TD群の伸びが速い

  • ASD児もTD児も時間とともに動詞数が増加したが、TD群の方が成長勾配が急だった。
  • この差は、特定のサブグループ(低成長群)の存在によって説明された。

2. 潜在クラス分析で3つの発達軌跡を同定

  • 高成長群(High trajectory):ASD・TD混在、動詞使用が急速に増加

  • 中間群(Moderate trajectory):ゆるやかな成長パターン

  • 低成長群(Low trajectory)すべてASD児で構成され、動詞使用が停滞

    ASD児全体の平均差は、この低成長群が主導していた。

3. 早期動詞成長が後年の言語能力を予測

  • ASD児において、初期段階での動詞語彙拡大の速度が、その後の言語スキルの発達を予測
  • つまり、早期の動詞習得パターンを把握することで、将来的な言語介入や支援の方向性を立てやすくなる。

考察

  • ASD群内の**発達多様性(heterogeneity)**を示す重要な結果。

    → すべてのASD児が遅れるわけではなく、一部はTD児と同等の伸びを示す

  • 横断的比較(1時点の平均差)では捉えられない、**「個人内の成長の形」**を縦断分析が明確化。

  • 低成長群では、初期の社会的注意・語彙処理・親子相互作用の質などが関連している可能性が高く、今後の検討課題。


臨床・教育的示唆

観点意義
早期評価の重要性動詞使用の伸びが言語予後を示す「初期指標」になりうる。
個別化支援ASD児の中でも動詞発達の停滞群を早期に特定し、語彙拡大や構文促進への集中的介入を行う。
研究的貢献「動詞発達の多様性」を縦断的に初めて定量化し、ASDの言語発達モデルに新たな枠組みを提供。

まとめ

  • ASD児の動詞産出は全体として増加するが、発達速度や到達水準には顕著な個人差が存在。
  • 一部のASD児は定型発達児と同等の言語成長を示す一方、低成長群では停滞が持続
  • 初期の動詞成長パターンがその後の言語能力を予測し、早期介入の有効な指標となる可能性が高い。

一言まとめ:

自閉スペクトラム症児の「動詞をどれだけ早く・どんなペースで増やすか」が、後の言語発達を左右する──平均値では見えない**発達の“軌跡”**が支援設計の鍵となる。

Captopril restores microglial homeostasis and reverses ASD-like phenotype in a model of ASD induced by exposure in utero to anti-caspr2 IgG

母体抗Caspr2抗体によるASDモデルにおいて、ACE阻害薬カプトプリルがミクログリアの恒常性を回復しASD様症状を逆転させる

Molecular Psychiatry, 2025年10月23日公開・オープンアクセス)

著者:Benjamin Spielman, Ciara Bagnall-Moreau, Frank Chen, Crystal Balvuena, Christian Cruz, Joseph Carrion, An Vo, Arnon Arazi, Lior Brimberg


研究の背景

胎児期の免疫環境の乱れは、自閉スペクトラム症(ASD)の発症リスクに関わることが知られています。特に、**母体由来の自己抗体が胎児脳を攻撃する「母体自己抗体型ASD(MAR-ASD)」**が注目されています。

本研究はその中でも、ASD関連遺伝子 CNTNAP2 に由来するタンパク質 Caspr2 に対する母体抗体(anti-Caspr2 IgG)への胎内曝露によるASDモデルマウスを用い、血液脳関門(BBB)を通過するACE阻害薬「カプトプリル(Captopril)」がミクログリアの異常を正常化し、ASD様症状を改善できるかを検証したものです。


研究デザイン

項目内容
モデル動物母体に抗Caspr2 IgGを投与された胎児(特に雄)
主な観察項目- ミクログリア活性(反応性・形態)- 樹状突起スパイン密度- 社会的相互行動- 単一細胞RNAシーケンス(scRNA-seq)による遺伝子発現プロファイル
介入- **カプトプリル(BBB通過性ACE阻害薬)**投与群- **エナラプリル(非BBB通過性ACE阻害薬)**投与群- 生理食塩水対照群
時期出生後〜成体期にかけて観察(縦断的追跡)

主要な結果

1. 胎内抗体曝露によるASD様変化

  • 雄マウスでのみ社会的行動の低下・樹状突起スパイン密度の減少・海馬CA1ミクログリアの慢性的活性化が出現。

  • ミクログリアの炎症性反応は出生直後から持続し、成体期でも確認された。

    性差依存的(male-specific)なASD様表現型を再現。

2. カプトプリルが神経構造・行動を回復

  • カプトプリル投与により:

    • ミクログリアの活性化が減少し、形態が安定化。
    • CA1錐体ニューロンのスパイン密度・樹状突起構造が正常化。
    • 社会的相互行動(嗅ぎ行動・接触時間など)が有意に改善。
  • 一方、エナラプリル(BBBを通過しない)はこれらの効果を示さなかった。

    中枢神経系に到達するACE阻害が鍵であることを示唆。

3. scRNA-seqによるミクログリア転写プロファイルの正常化

  • 抗Caspr2抗体曝露群では:

    • *翻訳関連経路(eIF2シグナル)代謝経路(mTOR・酸化的リン酸化)**が過剰活性化。
    • ミクログリアの代謝・タンパク合成バランスが破綻。
  • カプトプリル投与により、これらの異常経路が抑制され、恒常性が回復

    → カプトプリルが代謝・炎症制御の分子レベルでミクログリアをリプログラムすることを示唆。


考察と意義

  • 母体抗Caspr2抗体曝露→胎児ミクログリア異常→神経回路形成障害→ASD様症状という連鎖を実証。
  • カプトプリルがこの連鎖の中枢(ミクログリアの慢性活性化)を断ち切ることを初めて示した。
  • *ACE阻害薬の中でもBBBを通過できるもの(例:カプトプリル)**が有効である点は、血管系・免疫系・神経系をつなぐ治療標的として極めて重要。

臨床・研究的インパクト

観点示唆・意義
ASDの病態理解一部のASDは母体免疫異常によるミクログリア慢性活性化型として説明可能。
治療の可能性カプトプリルの再利用(drug repurposing)が、MAR-ASDなど免疫関連ASDの治療候補に。
性差メカニズム男児優位のASD発症率を説明する手がかり(免疫感受性の違い)。
基礎的貢献scRNA-seqを通じたミクログリアサブタイプの可塑性・可逆性の証明。

まとめ

胎内で抗Caspr2抗体に曝露されたマウスでは、雄に特有の社会的行動障害・ミクログリアの慢性炎症・神経形態異常が出現。

しかし、中枢に届くACE阻害薬カプトプリルの投与により、これらの異常が細胞レベルから行動レベルまで逆転した。


一言まとめ:

母体抗体によって乱れた脳内免疫バランスを、血液脳関門を越えるACE阻害薬が再調律する──

カプトプリルは、免疫型ASDに対する新しい神経免疫療法の可能性を開く発見である。

Affiliate Stigma, Perceived Social Support and Parenting Stress Among Parents of Children and Adolescents With Attention-Deficit/Hyperactivity Disorder

ADHD児を育てる親のストレスに影響する“スティグマ”と“支援感”の関係──社会的支援がスティグマの負担を和らげる保護要因として機能

Journal of Autism and Developmental Disorders, 2025年10月23日公開)

著者:Xiaodan Zhang, Yongbei Xiao, Lifang Cao, Jiao Xie, Zheyi Jiang, Yamin Li


研究の背景と目的

注意欠如・多動症(ADHD)の子どもを育てる親は、日常的に高い**育児ストレス(parenting stress)を経験することが多い。

その背景には、“スティグマの内面化(affiliate stigma)”**──すなわち、子どもの特性に対する社会的偏見を親自身が感じ、自分の責任や恥として受け止めてしまう心理過程──が関係しているとされる。

一方、**社会的支援(perceived social support)**がストレスを緩和することは知られているが、スティグマとストレスの関係の中で「支援感」がどのように媒介的に作用するかは十分に明らかになっていなかった。

本研究は、スティグマ→支援感→ストレスという構造的関係を定量的に検証することを目的とした。


研究方法

項目内容
研究デザイン横断的調査(cross-sectional study)
対象ADHDの子ども・青年の親 376名
使用尺度- Affiliate Stigma Scale(ASS, 22項目):親のスティグマ内面化の程度- Multidimensional Scale of Perceived Social Support(MSPSS):家族・友人・重要他者からの支援感- Parenting Stress Index–Short Form(PSI-SF):育児ストレスの程度
解析方法構造方程式モデリング(SEM)+ブートストラップ法(AMOS 26.0)による媒介効果検定

主な結果

関連指標相関方向・強さ
スティグマと社会的支援負の相関(r = −0.288, p < 0.01)
スティグマと育児ストレス正の相関(r = 0.464, p < 0.01)
社会的支援と育児ストレス負の相関(r = −0.457, p < 0.01)

さらに、社会的支援がスティグマと育児ストレスの関係を部分的に媒介していた。

(媒介効果:β = 0.156, B = 0.209, SE = 0.029, 95% CI [0.104–0.219])

つまり、スティグマが強いほどストレスが高まるが、その影響は支援感によって部分的に緩和されることが示された。


解釈と意義

  • スティグマの内面化は、親の心理的負担を直接的にも間接的にも高める要因である。

  • 「自分は支えられている」という感覚(社会的支援の知覚)は、

    スティグマによる心理的圧迫を“クッション”として和らげる役割を果たす。

  • 家族や友人、地域・専門家など、複数の支援源が互いに補完し合う多層的サポートネットワークが重要である。


実践的示唆

介入視点具体的アプローチ例
① スティグマ低減公教育・メディアでの啓発、親向けピアサポート、当事者同士の語り場の設置
② 社会的支援の強化家族関係の支援・友人ネットワーク形成・地域支援者とのつながり促進
③ 多層的支援モデルの導入学校・医療・家庭・地域を横断する協働的支援体制の構築

こうした取り組みは、親の精神的健康を守るだけでなく、子どもの発達支援の質の向上にもつながると考えられる。


まとめ

  • スティグマが強いほど育児ストレスは高まり、社会的支援感が低下する。
  • しかし、**社会的支援の存在はその負の連鎖を緩和する“心理的バッファー”**として機能する。
  • スティグマ軽減と支援強化を組み合わせた介入が、ADHD児の家族支援において鍵となる。

一言まとめ:

ADHD児を育てる親のストレスは、「スティグマをどう感じるか」よりも「どれだけ支えられていると感じるか」で変わる。

──社会的支援は、スティグマの痛みをやわらげる最良のクッションである。

自閉スペクトラム症における軸索刈り込みと髄鞘化の年齢差──神経信号伝達を変化させる白質発達の非定型パターン

Molecular Autism, 2025年10月23日公開・オープンアクセス)

著者:Kari L. Hanson, Thomas Avino, Sandra L. Taylor, Karl D. Murray, Cynthia M. Schumann


研究の背景

脳の発達過程では、**神経ネットワークの最適化(neural refinement)のために、不要な軸索を削減する「軸索刈り込み(axon pruning)」と、信号伝達を効率化する「髄鞘化(myelination)」**が進行します。

これらのプロセスに異常が生じると、脳領域間の通信効率が乱れ、**自閉スペクトラム症(ASD)に特徴的な「局所的過剰結合(local hyperconnectivity)」と「長距離低結合(long-range hypoconnectivity)」**が引き起こされると考えられています。

本研究は、側頭葉白質(temporal lobe white matter)に焦点を当て、ASDの神経発達における軸索密度と髄鞘構造の年齢変化を電子顕微鏡レベルで比較することを目的としています。


研究方法

項目内容
対象男性の剖検脳27例(ASD群・定型発達群 各13〜14例、年齢2〜44歳)
観察部位- 上側頭回(STG)および紡錘状回(FG)- 各領域の表層白質(SWM)と深層白質(DWM)
評価項目- 軸索密度(axon density)- 髄鞘厚(myelin thickness)- 軸索径(inner diameter)別の分布
解析手法電子顕微鏡画像解析に基づく定量評価+年齢との回帰分析

主な結果

1. 定型発達群(NT)では年齢に伴い軸索密度が減少

  • NT群では、STG・FGの表層白質(SWM)の両方で、年齢とともに軸索密度が有意に低下

    → 成熟に伴う**神経ネットワークの刈り込み(pruning)**が正常に進行していることを示す。

2. ASD群では小径軸索が過剰に維持される

  • ASD群でも全体的な減少傾向は見られるものの、STGの小径軸索密度が有意に高い

  • FGのSWMでは小径軸索密度に年齢変化が見られず、成長に伴う刈り込みが進まないことが示唆された。

    → **「局所過結合(local overconnectivity)」**の神経構造的根拠。

3. ASD群では髄鞘の成長が遅延または停滞

  • NT群では、大径軸索の髄鞘厚が年齢とともに有意に増加(伝導効率の成熟)。

  • 一方、ASD群では髄鞘が全体的に薄く、年齢を重ねても厚さの増加が見られなかった。

    → **「信号伝達効率の低下」や「神経ネットワーク間通信の遅延」**の可能性。


考察

  • ASDでは、発達過程での刈り込み(不要な軸索除去)が不十分なため、局所的な神経過密が生じる。
  • 同時に、髄鞘化の成熟が遅れることで、情報伝達の速度と精度が低下。
  • これらの組み合わせにより、**ASDに特徴的な「局所過活動」と「長距離通信の障害」**が形成される可能性が高い。

この結果は、ASDを「シナプス異常」だけでなく「白質の発達異常」として理解する新たな証拠となる。


研究の意義と今後の展望

観点意義
神経発達の理解ASDの病態を、灰白質(神経細胞)だけでなく白質(軸索・髄鞘)レベルで説明する生物学的基盤を提供。
発達段階別の介入軸索刈り込みや髄鞘化の異常は幼児期から始まるため、早期発達支援や神経活動調整型療法への示唆。
生物指標の可能性髄鞘厚や軸索密度の変化が、ASDの進行・治療効果の神経マーカーとなる可能性。

まとめ

  • 定型発達脳では、加齢に伴い軸索が整理され、髄鞘が厚くなることで通信効率が高まる。
  • ASD脳では、小径軸索が残存し髄鞘化が進まないため、過剰な局所接続と低速な神経信号伝達が併存。
  • これらの構造的変化が、ASDにおける情報処理や社会的認知の特異性に関与している可能性が高い。

一言まとめ:

ASD脳では「つながりすぎて、速くならない」──軸索の刈り込み不足と髄鞘化の遅れが、神経ネットワークのバランスを崩し、ASD特有の脳内通信パターンを形づくっている。

自閉スペクトラム症とADHDの脳内ネットワークと遺伝的共通基盤──コネクトーム解析が示す“症状連続体”の実像

Molecular Psychiatry, 2025年10月23日公開・オープンアクセス)

著者:Patricia Segura, Marco Pagani, Somer L. Bishop, Phoebe Thomson, Stan Colcombe, Ting Xu, Zekiel Z. Factor, Emily C. Hector, So Hyun Kim, Michael V. Lombardo, Alessandro Gozzi, Xavier F. Castellanos, Catherine Lord, Michael P. Milham, Adriana Di Martino


研究の背景

自閉スペクトラム症(ASD)と注意欠如・多動症(ADHD)は、臨床的には異なる診断カテゴリーに分類されますが、注意・自己制御・社会的相互作用などの領域で重なりが多く、近年は「スペクトラム(連続体)」としての理解が進みつつあります。

本研究は、脳内ネットワーク(connectome)と遺伝的発現パターンの両面から、ASDとADHDの共通神経基盤を探ることを目的としています。


研究目的

  • ASDとADHDそれぞれの**症状重症度と脳内機能結合(iFC: intrinsic functional connectivity)**との関連を比較。
  • さらに、ASDおよびADHDに関連する**遺伝子発現パターン(in silico解析)**を探索し、症状と脳ネットワーク、遺伝子の三者関係を明らかにする。

研究デザイン

項目内容
対象6〜12歳の児童166名(ASD群・ADHD群ともに厳密な臨床診断を受けた言語能力を有する児童
測定データ- 低運動ノイズの安静時fMRIによる全脳機能結合(iFC)- 臨床家によるASD観察評価(例:ADOS)- 保護者面接によるADHD症状評価(例:ADHD-RS)
解析手法- **多変量距離行列回帰(MDMR)**による全脳レベルの症状関連iFCマッピング- 遺伝子発現データベース(Allen Brain Atlas)を用いたin silico遺伝子富化解析

主な結果

1. ASD症状と機能結合(iFC)の関連

  • ASD症状の重症度は、**左半球の前頭頭頂ネットワーク(frontoparietal network)の中前頭回(MFG)**と、

    デフォルトモードネットワーク(DMN)の後帯状皮質(PCC)との間のiFCの強さと有意に関連。

  • この関連は、ADHD症状を統制しても維持され、診断を超えて一貫していた。

    → **ASDに特徴的な「内部ネットワーク間(internetwork)結合の過剰連携」**を示唆。

2. ADHD症状では有意な脳-行動相関は検出されず

  • ADHD重症度と特定の脳ネットワーク結合との関連は統計的に有意ではなかった。

    → ADHDでは、より分散的または異質な神経機構が関与している可能性。

3. 遺伝子発現パターンの関連

  • ASD関連iFC領域における遺伝子富化解析により、以下が確認された:
    1. ASDおよびADHD双方で変異率が高い遺伝子群

    2. 神経投射(neuron projection)・軸索成長に関与する遺伝子群

      → ASD症状に対応する脳ネットワークの変化には、神経回路形成を制御する遺伝的メカニズムが共通して存在する可能性。


考察

  • ASDとADHDは異なる臨床像を示すが、ASDの症状重症度を説明する脳内結合のパターンが、診断を超えて共通して存在することが明らかになった。
  • 特に、MFG–PCC間の過剰結合は、「自己認識(self-referential processing)」と「課題関連注意制御(executive control)」の不均衡を反映していると考えられる。
  • これらの結合変化と神経投射関連遺伝子の発現が連動している点から、脳回路の形成異常が共通の生物学的基盤である可能性が示唆された。

研究の意義

観点意義
① トランスダイアグノスティック(診断横断的)視点ASD・ADHDを症状次元(dimensional)で統合的に理解する枠組みを支持。
② マルチスケール統合臨床症状(観察・報告)→脳ネットワーク(fMRI)→遺伝子発現(in silico)を多層的に連結
③ 精密医療への応用将来的には、ネットワーク特性と遺伝情報に基づいた個別化支援・介入の基礎データに。

まとめ

  • ASD児の症状重症度は、前頭頭頂ネットワークとDMNの結合強度の上昇と関連していた。
  • この脳回路の特徴はADHD児にも部分的に共有され、神経投射関連遺伝子の発現と連動していた。
  • ASDとADHDは、診断カテゴリーを越えて共通の神経・遺伝的ネットワーク異常を持つスペクトラム的存在であることが示唆された。

一言まとめ:

ASDとADHDの違いは“どこが違うか”よりも“どこが重なっているか”──

脳ネットワークと遺伝子の重なりが、発達神経疾患を連続体として理解する時代を切り拓いている。

Sleep in Autism Spectrum Disorder: From Foundations to Frontiers

特集「Sleep in Autism Spectrum Disorder: From Foundations to Frontiers」──自閉スペクトラム症における睡眠研究の最前線と臨床への橋渡し

Journal of Autism and Developmental Disorders, 2025年10月23日刊行)

編集:Joachim Franz Hallmayer & Ruth O’Hara


概要

自閉スペクトラム症(ASD)の人々の50〜80%が睡眠に困難を抱えているとされ、入眠困難、夜間覚醒、概日リズムの乱れ、睡眠呼吸障害などが幼児期から始まり、成人期まで持続することが多い。

こうした問題は、日中の機能、精神的健康、家族のウェルビーイングに深く影響を及ぼすが、これまでの研究は測定法の不統一・メカニズムの不明確さ・介入のばらつきといった課題を抱えてきた。

本特集号は、この停滞を打破しようとする試みであり、ASDにおける睡眠研究を「基礎」から「臨床実装」へと進化させる最新の知見と手法を総覧している。


特集の4つの主要テーマ

① 測定法の調和と標準化(Harmonized Measurement)

  • 研究の信頼性と再現性を高めるために、

    主観的報告(例:CSHQなどの保護者評価)と客観的手法(アクチグラフィー、PSG)を組み合わせた設計が推奨されている。

  • 文化間比較と測定不変性の検証(例:イタリア版CSHQ-rの研究)を行うことで、国際的な比較が可能に。

  • 症状ドメインを最小限に整理した**“診断横断的(transdiagnostic)な指標体系”**の構築が、累積科学と臨床応用を加速する鍵となる。

② メカニズムに基づく介入モデル(Mechanism-Informed Intervention)

  • 睡眠問題と不安・気分障害・ストレス生物学・概日リズムとの連関が重視されている。
  • 介入の方向性として、
    • 行動活性化(behavioral activation)

    • 不安低減アプローチ

    • 時間生物学的(chronobiological)戦略

      などが挙げられ、

      運動療法や神経調整(neuromodulation)を組み合わせた多層的アプローチが今後の臨床試験テーマとなる。

③ 家族中心・公平性志向の実装(Equity-Aware, Family-Centered Implementation)

  • システムレベルの分析(Angellら, 2025)は、診療実践の地域差やアクセス格差を可視化。
  • 家族研究(Wangら, Saadら, 2025)では、子どもの睡眠障害が親のストレスや心理的健康に連鎖することを示し、
    • *家族単位での支援計画(care plan)**の必要性を強調している。
  • 今後は、睡眠と消化器・情動問題を含めた包括的ケアモデルの整備が求められる。

④ 発達初期からの睡眠問題と診断横断性(Early and Transdiagnostic Nature)

  • IBISネットワーク(Cocoら, 2025)の研究では、

    6〜12か月のダウン症(DS)児・自閉ハイリスク(HL)児・定型発達(LL)児を比較。

    • HLおよびDS群では、夜間睡眠時間の短縮と覚醒の増加が確認され、

    • 特にHL児では入眠潜時の延長が12か月時点でも続いていた。

      → ASDの初期発達指標として睡眠の異常が重要であることを示す。


今後の研究の優先課題

  1. 精密な睡眠表現型の定義(Precision Phenotyping)
    • 不眠症、概日リズム遅延、睡眠随伴症などを区別し、

      それぞれの認知・情動・家族的要因との関連を明確化

    • 気分調整、ストレス生理、口腔運動などのメカニズムと整合させた表現型分類が求められる。

  2. 高密度・リアルタイム計測(Dense, Real-Time Measurement)
    • 日常生活下でのエコロジカル測定(受動センサー・保護者日誌・スマートデバイス)により、

      睡眠と行動の短期的な連動を追跡。

    • 治療効果や症状変化を週単位で捉える動的モデルへの移行を提案。

  3. 実装科学と公平なアクセス(Pragmatic, Equitable Implementation)
    • 小児科や発達支援のルーチン診療に**スクリーニングと段階的ケア(stepped care)**を統合。

    • 誰が推奨ケアを受け、誰が受けていないかを追跡し、

      家庭環境・社会経済的要因によるケア格差を是正することが目標。


総括

この特集号は、ASDにおける睡眠研究を「症状の多さを数える段階」から、「発達・生理・家族・社会をつなぐ精密科学」へと押し上げる転換点を示している。

研究と臨床実践を結びつけるためには、

  • 標準化された測定、

  • メカニズム志向の介入、

  • 家族単位での支援、

  • 公平なシステム実装

    の4本柱が不可欠である。


一言まとめ:

ASDの睡眠問題は、単なる「夜の課題」ではない。

──それは発達・情動・家族・社会を映す鏡であり、

今後の研究は「早期発見から生涯支援まで」を視野に入れた精密かつ実装的な科学へ進もうとしている。

Attention-Dependent but not Pre-attentive Neural Markers of Auditory Change Process are Atypical in Adults With Autism Spectrum Conditions

自閉スペクトラム症の成人における聴覚変化処理の神経的特徴──注意依存型処理のみが異常を示す段階的乖離

Journal of Autism and Developmental Disorders, 2025年, DOI: 10.1007/s10803-025-07096-0)

著者:Peipei Liu(ほか)


概要

日常環境では、私たちは常に音の変化(例:物音、声のトーン、周囲のノイズなど)を無意識的・意識的に処理しています。

この「聴覚変化検知(auditory change processing)」能力は、適応的な注意・記憶・行動調整の基盤であり、

自閉スペクトラム症(ASC)ではしばしば感覚処理の過敏・鈍麻が報告されるものの、その神経的仕組みは明確ではありません。

本研究は、ASC成人における**注意を必要としない段階(前注意的処理)**と、**注意を要する段階(注意依存的処理)**の両方を比較し、

どの段階で聴覚変化処理が異常を示すのかを明らかにしました。


研究目的

  • 自閉スペクトラム症(ASC)の成人において、音の変化に対する脳の反応が、注意の有無によってどのように異なるかを明確にする。
  • 特に、無意識的(pre-attentive)段階と、意識的(attention-dependent)段階を区別し、それぞれの神経指標(ERP・脳波周波数変化)を解析。

研究方法

項目内容
対象者ASC成人20名、非ASD成人21名
課題Local-Global パラダイム(非言語音を使用)→ 短期的規則(local)と長期的規則(global)の破れを操作し、それぞれ異なる処理段階を誘発。
測定指標- MMN(ミスマッチ陰性電位):無意識的変化検出(前注意段階)- P3b波:文脈更新を伴う注意依存処理- 脳波周波数分析(TFR):θ(記憶)およびδ(注意)帯域活動

主な結果

① 前注意的処理(Pre-attentive stage)

  • MMN振幅:ASC群と定型群で差なし

  • 前頭〜中心部のθ帯活動:両群で同程度

    ASCでも自動的な聴覚変化検出は保たれていることが示唆される。

② 注意依存的処理(Attention-dependent stage)

  • P3b振幅:ASC群で有意に低下

  • δ帯活動:ASC群で減弱

    文脈更新や注意維持を要する段階での神経応答が低下している。

    → つまり、「気づく」ことそのものではなく、気づいた情報を文脈に結びつけて処理する能力が弱まっている。


考察

この研究は、ASCにおける聴覚処理の異常を段階的に分離して示した初めての報告のひとつです。

結果は次のように要約されます:

処理段階神経応答ASCでの特徴
前注意的段階(MMN)音の変化検出正常(保存されている)
注意依存段階(P3b)文脈的意味付け・更新減弱・異常

この「段階特異的乖離」は、ASCの特徴である「感覚入力には反応するが、文脈的意味付けが難しい」という臨床的観察を裏付けます。

さらに、P3bとδ帯活動の低下は、注意制御やワーキングメモリ関連ネットワークの非典型性を反映している可能性があります。


応用的意義

  • 教育・臨床現場への応用

    ASC成人では、「刺激への反応」よりも、「刺激の意味づけ」や「状況更新」に困難がある可能性。

    → 学習支援や職場環境設計では、注意の持続・文脈理解をサポートする構造化支援が有効。

  • 神経指標としての活用

    P3b・δ活動の異常は、注意依存的情報処理の神経バイオマーカーとして利用可能。

    → 将来的に客観的な注意特性評価介入効果の指標として発展する可能性。


まとめ

  • 自閉スペクトラム症(ASC)では、無意識的な音変化検出(前注意的処理)は正常だが、

    注意を要する文脈的な変化処理(注意依存的処理)が異常である。

  • これは「感覚過敏」や「集中困難」といったASD特有の行動表現の神経的基盤を説明する重要な知見である。

  • 注意関連の脳活動(P3b, δ波)は、ASCの認知プロファイルを理解し、教育・支援に生かす上での新たな鍵となる。


一言まとめ:

ASDの成人は「音の変化には気づける」が、「その変化の意味を更新して使う」ことが難しい。

──前注意的処理は正常だが、注意を要する情報統合の段階で神経応答が弱まることが示された。

Prenatal Exposure to Fine Particulate Matter Components and Autism Risk in Childhood

胎児期の微小粒子状物質(PM2.5)成分への曝露と自閉スペクトラム症(ASD)リスク──200万件超の出生データから見えた「特定成分」と「感受性期間」

JAMA Network Open, 2025年, DOI: 10.1001/jamanetworkopen.2025.38882)

著者:Maxime Cloutier, Chengchun Yu, Robert Talarico, Hong Chen, Éric Lavigne ほか(カナダ・オンタリオ州研究チーム)


概要

胎児期や乳児期の大気汚染(特にPM2.5)曝露と自閉スペクトラム症(ASD)リスクとの関連はこれまでにも指摘されてきたが、

「PM2.5のどの成分が」「妊娠のどの時期に」影響するのかは明確でなかった。

本研究は、カナダ・オンタリオ州の約218万件の出生データを対象とした大規模コホート研究であり、

PM2.5の成分別曝露ASD診断リスクの関係を精密に解析した。


研究目的

  • *胎児期および生後1年の大気汚染曝露(PM2.5の成分別)**とASD診断との関連を明らかにする。
  • 妊娠期の中で**ASDリスクが特に高まる「感受性ウィンドウ」**を特定する。

研究デザインと対象

項目内容
対象地域・期間カナダ・オンタリオ州(2002年4月〜2022年12月)
対象者2,183,324件の単胎出生(妊娠36〜42週・出生体重500〜6800g)
母体平均年齢30.5歳(SD 5.4)
追跡期間ASD診断の有無を出生後5歳まで追跡
曝露指標PM2.5成分(黒炭・有機物・硫酸塩[SO₄²⁻]・アンモニウム[NH₄⁺]・硝酸塩・海塩・鉱塵)+NO₂・O₃などの共存汚染物質
データ推定手法衛星観測+化学輸送モデル+地上測定を統合した高解像度モデル

主要結果

1. ASDリスクと関連した大気汚染成分

  • 妊娠期のPM2.5、硫酸塩(SO₄²⁻)、アンモニウム(NH₄⁺)

    → ASD診断リスクと有意な正の関連を示した。

    • SO₄²⁻:HR = 1.15(95% CI: 1.06–1.25)
    • NH₄⁺:HR = 1.12(95% CI: 1.01–1.23)
  • これらの成分を除いたPM2.5全体では有意な関連はなし(HR = 1.04)。

    PM2.5の質的構成(特定成分)こそがASDリスクの鍵である可能性。

2. 生後のオゾン(O₃)曝露も影響

  • 妊娠26〜30週のO₃曝露(HR = 1.03)および

    生後1年間のO₃曝露(HR = 1.09)がASDリスクと関連。

    → 出生後の環境曝露も神経発達に持続的影響を与える可能性

3. 感受性の高い時期(Sensitive Windows)

  • *第2〜第3妊娠期(妊娠中期〜後期)**に曝露が集中した場合にリスク上昇。

    → 神経回路形成・シナプス形成が活発な時期と一致。


考察と意義

  • ASDリスクと大気汚染の関連は**PM2.5の“量”より“成分”**によって左右される。

  • 硫酸塩・アンモニウム粒子は、燃焼由来の二次生成粒子であり、

    微細な化学特性によって母体・胎児間で酸化ストレスや神経炎症を誘発する可能性がある。

  • 特に妊娠後期の曝露は、脳構造の最終的な配線やミクログリア活動に影響しうるため、

    ASDリスク増加の生物学的妥当性を裏づける。


政策的・臨床的含意

領域含意・提言
公衆衛生政策PM2.5の「総量」規制に加え、硫酸塩・アンモニウムを含む二次粒子対策を強化すべき。
母子保健妊娠中期〜後期の大気汚染曝露を環境リスク指標として周産期ケアに組み込む可能性。
環境医学研究ASDの発症リスクを評価する際には、時期別・成分別曝露モデルを採用する必要。

まとめ

  • 約218万件の出生データを解析した結果、

    妊娠中の硫酸塩・アンモニウム曝露および出生後のオゾン曝露がASDリスク上昇と関連。

  • 特に妊娠後期が感受性の高い時期であることが示唆された。

  • PM2.5の「量」ではなく「成分」と「曝露時期」が重要であり、

    環境汚染が神経発達に与える影響の精密評価に向けた新たな方向性を提示している。


一言まとめ:

ASDリスクを高めるのは“空気の汚さ”そのものではなく、

**妊娠後期に母体が吸い込む微細な化学粒子──硫酸塩とアンモニウム──**である。

The impact of mindfulness-based intervention on repetitive and stereotypical behaviors in children with autism spectrum disorder

マインドフルネス介入が自閉スペクトラム症児の反復・常同行動に及ぼす効果

Journal of Child and Adolescent Mental Health, 2025年, DOI: 10.1080/21622965.2025.2576076)

著者:Manal Y. I. Baamer(サウジアラビア・ジェッダ)


概要

自閉スペクトラム症(ASD)の子どもに見られる反復的・常同行動(repetitive and stereotypical behaviors)は、

感覚刺激への過敏性や自己調整の難しさと関係し、学習・社会的適応を妨げることがある。

本研究は、こうした行動に対してマインドフルネス(mindfulness)に基づく介入が有効であるかを実証的に検証したものです。


研究目的

  • ASD児において、マインドフルネス介入が反復・常同行動の軽減に効果を持つかを明らかにする。
  • 行動の**下位領域(運動的・音声的・感覚的・認知的要素)**への影響も含めて評価する。

研究方法

項目内容
デザイン準実験的デザイン(pretest-posttest with control group)
対象者サウジアラビア・ジェッダ市の自閉児支援センターに通う7〜12歳のASD児60名
群分け実験群(30名)と統制群(30名)に無作為分割
介入内容マインドフルネスに基づくトレーニングプログラム(詳細は未公表)例:呼吸への注意・身体感覚への気づき・感情観察・自己調整練習など
評価方法介入前後での常同行動スケール得点の変化を共分散分析(ANCOVA)により検証

主な結果

  • マインドフルネス介入を受けた子どもたちは、

    すべての下位領域(運動・音声・感覚・認知的常同行動)で有意な改善を示した。

  • 統制群には有意な変化はみられず、介入効果が明確に確認された。


考察

  • マインドフルネスの実践は、自己覚知と感情調整を促進し、刺激に対する過剰反応や反復行動の頻度を下げる可能性がある。

  • ASD児では感情・感覚への気づきが限定されがちだが、「今この瞬間」に注意を向ける訓練によって、

    自己制御力と環境への適応反応を改善できると考えられる。

  • 本研究は、行動療法や感覚統合療法と並び、教育現場・療育現場における非侵襲的アプローチとしての有効性を支持する。


臨床・教育的意義

対象意義・応用可能性
療育・教育機関クラス内で短時間のマインドフルネス練習を取り入れることで、行動安定化や集中維持に寄与。
家庭支援親子での呼吸法やボディスキャン練習が、家庭内ストレス軽減と子の落ち着きに効果。
臨床現場行動療法の補完的ツールとして活用可能であり、副作用がなく導入コストも低い。

まとめ

  • ASD児へのマインドフルネス介入は、反復・常同行動を有意に軽減する効果が確認された。
  • 感覚・情動・注意の自己制御を支援する点で、非薬理的かつ持続可能な支援法として期待される。
  • 今後は、プログラム内容の標準化と長期的効果の検証が求められる。

一言まとめ:

マインドフルネスは、ASD児の「同じ行動を繰り返してしまう」傾向をやわらげ、

  • *自己制御と落ち着きを取り戻す“静かなトレーニング”**として有望である。

Personalized Structure Preservation Based Graph Neural Network via Connection Interaction and Refinement for Autism Spectrum Disorder Diagnosis

個別化構造保持型グラフニューラルネットワーク(PSP-GNN)による自閉スペクトラム症(ASD)診断の高精度化

IEEE Journal of Biomedical and Health Informatics, 2025年, DOI: 10.1109/JBHI.2025.3624802)

著者:Chunhong Cao, Mengyang Wang, Xingxing Li, Yuanxin Huang, Xieping Gao


概要

脳機能画像データをもとに自閉スペクトラム症(ASD)を診断するAIモデルとして、

グラフニューラルネットワーク(GNN)は脳領域間の複雑な結合構造を扱える点から注目を集めている。

しかし従来のGNNベース手法には次のような課題があった:

  1. 個人差の無視:全ての被験者を同一構造でモデリングし、個別の機能結合パターンを十分に反映できない。
  2. 間接結合の軽視:直接的に結ばれていない脳領域同士の相互作用を過小評価している。
  3. 閾値依存の領域選択:重要な脳部位を選ぶ際に固定的な閾値を用いるため、臨床的に重要な領域を見落とす可能性がある。

本研究では、これらの問題を解決するために**「個別構造保持型GNN(Personalized Structure Preservation-based Graph Neural Network, PSP-GNN)」**を提案し、ASD診断精度と脳科学的妥当性の両面で有効性を実証した。


研究の目的

  • 個人ごとの脳機能結合(Functional Brain Network, FBN)の構造的特徴を保ちつつ、

    ASD特有の脳ネットワーク異常をGNNで高精度に抽出する。

  • ASD診断AIにおける「個別性の欠如」と「重要領域の見落とし」という課題を克服する。


提案手法:PSP-GNN の3つの革新点

要素内容狙い
① 個別構造保持戦略(Personalized Structure Preservation)各被験者のfMRIデータから個別の脳ネットワーク構造を生成被験者固有の機能結合パターン(heterogeneity)を反映
② 接続相互作用モジュール(Connection Interaction-Aware Module)直接・間接に結合した脳領域間の情報交換を同時に学習局所的および広域的ネットワークの両方を統合的に解析
③ 柔軟な脳領域抽出法(Refinement via Bernoulli Sampling)確率的サンプリングにより重要な脳領域を選択(閾値不要)事前条件に依存せず、臨床的に重要な領域を自動抽出

結果と有効性

  • PSP-GNNは従来のGNN手法と比較してASD診断精度が大幅に向上
  • 抽出された**重要脳領域(biomarkers)**は、既存の神経科学文献で報告されているASD関連部位と高い一致を示した。
    • 特に前頭前皮質、後帯状皮質、小脳ネットワークなど、社会的認知・注意・運動制御に関わる領域が強調された。
  • 手法の汎用性を担保するため、オープンソースとしてGitHub上でコードを公開PSP-GNN)。

考察

  • 個別性の重視:同じ診断カテゴリーでも脳機能結合の構造は個々で異なる。PSP-GNNはこの多様性を直接モデル化できる点で画期的。
  • 神経ネットワークの包括的理解:直接結合だけでなく、間接的影響(例:前頭葉と小脳間の協調)を考慮することで、より臨床的に現実的な脳モデルを構築。
  • AI診断の透明性:重要脳領域を明示的に抽出できるため、「ブラックボックスAI」ではなく**説明可能AI(XAI)**として臨床応用が期待できる。

臨床・研究への応用可能性

領域意義・応用例
ASD早期診断fMRIデータから自動で異常パターンを検出し、行動診断を補完する客観的指標に。
神経バイオマーカー探索個人差を考慮した脳領域特定により、ASDの生物学的サブタイプ分類に貢献。
AIモデル開発GNNを用いた個別脳モデル構築のフレームワークとして、他の神経発達疾患(ADHD、統合失調症など)にも展開可能。

まとめ

  • PSP-GNNは、個別性・接続相互作用・柔軟な領域抽出という3つの要素を統合した新しいGNNアーキテクチャである。
  • ASD診断精度を高めると同時に、得られた重要脳領域が神経科学的に妥当なバイオマーカーとして裏付けられた。
  • 本研究は、AIによる脳機能解析を“個人単位”に最適化する方向性を示すものであり、臨床応用に向けた重要な一歩といえる。

一言まとめ:

PSP-GNNは、ASD診断における「脳の個性」を尊重するAIモデル。

個人ごとの脳ネットワーク構造を保持しながら、直接・間接結合を統合的に学習するGNNとして、

未来の**個別化神経診断(personalized neurodiagnostics)**を切り拓く。

The Influence of Facial Speech Phenomenon on the Learning Process of Children With Dyslexia: Aspects of Susceptibility and Dependency on Visual and Phonological Stimuli

ディスレクシア児の学習過程における「顔のスピーチ現象(Facial Speech Phenomenon)」の影響:視覚・音韻刺激への感受性と依存の側面から

Journal of Speech, Language, and Hearing Research, 2025年, DOI: 10.1044/2025_JSLHR-24-00823)

著者:Alla Philippova, Olga Shterts(ロシア・モスクワ)


概要

読み書き障害(ディスレクシア)をもつ子どもは、音韻処理や視覚的言語理解に困難を抱えることが多く、学習における**「視覚と聴覚の統合」の仕方に特徴があるとされる。

本研究は、ディスレクシア児の「顔のスピーチ現象(Facial Speech Phenomenon)」**──すなわち、話し手の口の動きなど視覚的手がかりによって音声理解が支えられる現象──が、学習にどのような影響を及ぼすかを分析したものである。


研究目的

  • ディスレクシア児の視覚情報と音韻情報の統合的処理(audiovisual speech perception)の傾向を明らかにする。
  • 音声中心トレーニング視覚中心トレーニングが、読み書き能力や音韻処理に与える効果を比較する。
  • 児童ごとの学習戦略の個人差と、そのタスク依存性を評価する。

研究方法

項目内容
研究期間2021〜2022年
実施地域ロシア・モスクワ市内の3校
対象児童数計150名(うちディスレクシア児を含む)
群分け①統制群(75名)②音声訓練群(38名)③視覚訓練群(37名)
期間24か月間(事前・事後テストあり)
介入内容- 音声訓練群:音韻意識・発音認識を中心としたトレーニング- 視覚訓練群:口形・唇の動きなどの視覚的手がかりを用いた訓練
評価指標音韻認識課題・読解課題などの成績変化(p < .01〜.05の範囲で有意差)

主な結果

  • 両方の介入群(音声・視覚)で有意な改善が見られた(p < .05)。
  • 特に課題の文脈(タスク内容)によって有効な戦略が異なることが確認された。
  • ディスレクシア児では、他児よりも個人差が大きく、視覚情報への依存度が高い傾向がみられた。
  • 一方で、全体分析だけでは学習スタイルや情報処理傾向の個別差が十分に説明されていないことが課題として指摘された。

考察

  • ディスレクシア児の学習支援では、「視覚」「音韻」のどちらかに偏るのではなく、

    学習文脈に応じて両方を統合する柔軟なアプローチが有効である。

  • *「顔のスピーチ現象」**によって、発話内容の理解が促され、特に口形や表情から音韻情報を補う能力が

    音声処理の弱点を補完する可能性が示唆された。

  • ただし、その効果の現れ方は個々の子どもの感受性・依存度・情報処理スタイルによって異なるため、

    教育現場では**個別化された学習設計(personalized instruction)**が不可欠である。


教育・臨床への示唆

対象応用の方向性
教師・特別支援教育者各児童の「視覚依存型」「音声依存型」傾向を把握し、教材・指導法を調整する。
言語聴覚士・心理士発話認識訓練や口形模倣を含むマルチモーダル療法への応用が期待できる。
教育政策・学校現場一律の指導法ではなく、戦略的な個別最適化を重視するインクルーシブ教育の推進が求められる。

まとめ

  • 本研究は、ディスレクシア児が学習時に「顔の動き」など視覚情報をどの程度利用しているかを定量的に示した初期的研究である。
  • 視覚・音韻統合トレーニングはどちらも有効であり、特にタスク文脈や個人差を考慮した設計が成果を左右する。
  • 今後は、個人ごとの認知スタイルに基づく学習戦略最適化に向けた精緻な分析が必要とされる。

一言まとめ:

ディスレクシア児の学習を支える鍵は、「見る」と「聞く」の融合。

口の動きや表情といった視覚的手がかりを活かすことで、

音韻処理の弱点を補い、個々の子どもに合った学び方を設計できる。

Frontiers | Washed Microbiota Transplantation: Candidates for a Novel Strategy for Ameliorating Autism Spectrum Disorder

洗浄型腸内細菌移植(Washed Microbiota Transplantation: WMT)による自閉スペクトラム症(ASD)改善の可能性

Frontiers in Cellular and Infection Microbiology, 採択済み・最終版近日公開)

著者:Shuo Feng, Jiangyan Wang, Xinyu Si, Shenghua Lu, Caimei Lu, Zheng Gao, Juan Yang, Jiali Wu, Xing-Xiang He, Lei Wu

所属:広東薬科大学附属第一病院・微生物叢標的治療研究センター(中国・広州)


概要

自閉スペクトラム症(ASD)は、社会的コミュニケーションの困難や限定的・反復的行動を特徴とする神経発達症であり、世界的に増加傾向にある。

近年、ASDの病態において**腸内細菌叢(gut microbiota)**が重要な役割を果たす可能性が指摘されており、腸—脳相関(gut–brain axis)を介した治療が注目されている。

本総説論文では、従来の**糞便微生物移植(FMT)**を改良した新技術である

  • *洗浄型腸内細菌移植(Washed Microbiota Transplantation, WMT)**をASD治療に応用する可能性を多面的に検討している。

研究の背景と課題

  • ASDの病因は遺伝的要因・環境要因・免疫機能・代謝異常などが複雑に絡み合う多因子性である。

  • 近年の研究では、ASD児において

    腸内細菌叢の多様性低下特定菌種(例:Clostridium属、Desulfovibrio属など)の増加が報告されている。

  • 一方で、抗精神薬や食事療法など現行治療では症状改善が限定的であり、

    根本的な介入手段が不足しているのが現状である。


WMT(洗浄型腸内細菌移植)とは

項目内容
技術概要従来のFMT(糞便微生物移植)から、未消化物・真菌・寄生虫卵・炎症性代謝物などを除去し、純化された細菌群のみを移植する技術。
目的安全性を高め、副作用や倫理的抵抗感を軽減する。
特徴1. 感染リスクの低減2. 投与経路の多様化(経腸・経鼻など)3. 微生物組成の標準化が可能
臨床的利点- 炎症性腸疾患・肝疾患・パーキンソン病などで有望な結果を示しており、  ASDへの応用も進行中。

ASDと腸内細菌叢の関連性

  • ASD児では、短鎖脂肪酸(SCFA)代謝異常神経伝達物質(セロトニン、GABAなど)のバランス変化が報告されている。

  • 腸内細菌叢の乱れは、

    免疫系・神経発達・炎症応答・代謝経路に影響を与え、

    ASDの行動症状や消化器症状に関連している可能性がある。

  • WMTにより腸内環境をリセットし、腸—脳軸の恒常性を回復することが期待される。


本論文の主な内容

  1. ASDの現状と社会的負担
    • 世界的な発症率の上昇と、家族・社会への経済的・心理的影響。
  2. 既存治療の限界
    • 行動療法、薬物療法、栄養介入の効果は限定的。
  3. 腸内細菌叢研究の進展
    • メタゲノム解析によるASD特有の菌構成の同定。
  4. WMTの臨床研究レビュー
    • ASD児への初期臨床応用で、社会的行動や睡眠、消化機能の改善が報告されている。
  5. 今後の展望
    • 安全性・投与回数・菌株構成などの標準化が今後の課題。
    • 長期追跡試験と機序解明の必要性を指摘。

考察:WMTの臨床的意義

視点意義
安全性FMTの感染リスクを低減し、よりクリーンな移植を実現。
倫理性糞便素材への抵抗感を軽減し、親子・臨床現場での受容性を高める。
機序的有望性腸内代謝物や免疫シグナルを介して、神経発達や行動表現を間接的に調整する可能性。

まとめ

  • WMTは、従来のFMTよりも安全・清潔で倫理的に受け入れやすい第2世代の腸内細菌移植技術

  • ASDの病態に深く関与する腸内細菌叢の異常を、直接的に再構築する新しい治療戦略として期待される。

  • 本研究は、WMTの臨床応用に向けた科学的根拠の整理と展望の提示を目的としており、

    ASDの治療パラダイム転換に寄与する重要なレビュー論文である。


一言まとめ:

洗浄型腸内細菌移植(WMT)は、従来のFMTを進化させた**“クリーンで安全な腸内リセット療法”

腸—脳相関を介して、自閉スペクトラム症の行動・感情・消化機能の改善**に新たな希望をもたらす可能性がある。

Frontiers | Differentiating Autism Spectrum Disorder and Global Developmental Delay in Preschoolers: Overlapping Profiles and Diagnostic Challenges

自閉スペクトラム症(ASD)と全般的発達遅滞(GDD)の鑑別:乳幼児期における重なりと診断上の課題

Frontiers in Psychiatry, 採択済み・最終版近日公開)

著者:Veronica Sperandini, Elisa Fucà, Martina Sbarbati, Maria Schettino, Stefania Falvo, Fabio Quarin, Paola De Rose, Stefano Vicari*

所属:バンビーノ・ジェズ小児病院(ローマ)、アゴスティーノ・ジェメリ大学病院財団(ローマ)


概要

自閉スペクトラム症(ASD)と全般的発達遅滞(Global Developmental Delay, GDD)は、乳幼児期の早期発達段階で症状が大きく重なるため、臨床現場では診断が非常に困難である。

本研究は、両者の適応行動・情動および行動特性・自閉症症状を直接比較し、どのような特徴が鑑別に有効かを検討したものである。


研究の目的

  • ASDとGDD(自閉的特徴を有する群)における発達的・情動的・社会的プロフィールの差異と共通点を明らかにする。
  • 幼児期におけるASDとGDDの重複領域を体系的に整理し、早期診断の課題を提示する。

方法

項目内容
対象3〜5.8歳の子ども89名(ASD群42名、GDD群47名)
マッチング条件年齢・IQ・性別を統制
評価ツール- Adaptive Behavior Assessment System–Second Edition(適応行動)- Child Behavior Checklist(情動・行動)- Childhood Autism Rating Scale–Second Edition(自閉症症状)

主な結果

  • *適応行動(Adaptive Functioning)**では、両群に有意差は見られず、どちらも顕著な発達的制約を示した。
  • *情動・行動特性(Emotional and Behavioral Symptoms)**でも、両群に大きな差はなく、社会的引きこもり傾向が共通してみられた。
  • 一方で、**自閉症症状(Autistic Symptomatology)**では明確な差が確認された。
    • ASD群はGDD群に比べ、社会的相互作用・コミュニケーション・限定的行動でより顕著な困難を示した。
    • ただし、**模倣(imitation)・変化への適応(adaptation to change)・聴覚応答(listening response)・感覚反応(sensory response)・恐怖や緊張(fear/nervousness)**といった項目では両群に差がなかった。

考察

  • ASDとGDDは適応行動や情動面で似通ったプロファイルを示す一方、

    自閉症特有の社会的コミュニケーションの質的な違いが鑑別の鍵となる。

  • 特にGDD児の中にもASD様の行動特性を示すケースがあるため、

    「ASDであるか否か」だけでなく、「どの機能領域に主な困難があるか」を総合的に評価する必要がある。

  • 診断の難しさは、発達年齢の影響や観察的評価の限界にも起因しており、

    より訓練された臨床家による多次元的評価が不可欠である。


臨床・教育的示唆

観点示唆
早期診断ASDとGDDの鑑別には、単一検査ではなく発達・行動・感覚・社会性の複合的評価が必要。
専門家教育臨床心理士・発達医・教育関係者に対して、鑑別診断トレーニングの充実が求められる。
支援方針ASDかGDDかを問わず、個別の機能プロフィールに基づいた早期介入が効果的。
研究面模倣や感覚応答といった「境界的項目」に焦点を当てた**縦断研究(longitudinal studies)**の必要性を提起。

まとめ

  • ASDとGDDは、適応行動や情動面で非常に似通った特徴を示すため、表層的観察だけでは診断が困難である。
  • 鑑別には、社会的相互作用の質・コミュニケーションの柔軟性・関心の広がりといったASD固有の特徴を丁寧に評価する必要がある。
  • 本研究は、早期診断の難しさを定量的に示し、臨床訓練と個別支援計画(Individualized Care Planning)の重要性を裏付けるものである。

一言まとめ:

幼児期のASDとGDDは見た目がよく似ていても、「社会的やりとりの質」が決定的な違い。

確かな鑑別には、発達全体を見渡す多面的評価と専門家の経験的判断が欠かせない。

Frontiers | ParentCoach: Designing an mHealth Parenting App to Enhance Parental Involvement in ADHD Support

ParentCoach:ADHD児の支援における親の関与を高めるmHealthアプリの設計研究

Frontiers in Digital Health, 採択済み・最終版近日公開)

著者:Franceli Linney Cibrian, Nancy Herrera, Jesus Armando Beltran, Lucas Silva, Mikaela Pulse, Kayla Anderson, Cassie Zeiler, Luc Rieffel, Vitica X Arnold, Daniel I Lee, Sabrina Schuck, Kimberley D Lakes

所属:カリフォルニア大学リバーサイド校・アーバイン校・バークレー校、チャップマン大学、カリフォルニア州立大学ロサンゼルス校、アイオワ大学 ほか


概要

注意欠如・多動症(ADHD)の子どもにとって、親のサポート(Parental Involvement)は自己調整力や行動管理の発達に欠かせない。

しかし、多くの家庭では専門的支援へのアクセス不足や、日常的に継続できるガイドの欠如が課題となっている。

本研究は、ADHD児の保護者を対象にした**mHealth(モバイルヘルス)アプリ「ParentCoach」**の設計と開発を報告し、親が科学的根拠に基づいた支援スキルを手軽に学び、家庭で活用できるようにする新たなアプローチを提案している。


研究の目的

  • ADHD児の親が短時間・低負担で日常的に学べるデジタル支援環境を設計する。
  • 親が子どもの自己調整(self-regulation)・感情制御・行動管理を支援するためのスキルを体系的に提供する。
  • 科学的エビデンスをもとに、感情的な共感・継続しやすさ・家庭での実践性を両立したアプリを設計する。

開発プロセス

ParentCoachは、以下の2段階の研究プロセスを通じて開発された。

  1. 第1段階:質的データの二次分析
    • 30組以上の家族を対象に、既存のmHealthツール使用経験を分析。
    • ADHD児支援における親の課題・ストレス・実践ニーズを抽出。
  2. 第2段階:共同設計(Co-design)
    • ADHD専門家・臨床心理士・教育者との協働により、アプリのカリキュラム構成とUXデザインを検証・改善。

ParentCoachの特徴

要素内容
構成16週間・80レッスン構成(1日1レッスン形式)
テーマ領域自己理解、感情調整、親子コミュニケーション、行動マネジメント
学習方法・短時間のマイクロレッスン(micro-interactions)・自己省察を促すリフレクション(reflection prompts)・実践的スキル構築活動(skill-building activities)
設計理念- 忙しい親でも継続可能な柔軟性(flexibility)- 実践的な内容を支援する実行機能の足場(scaffolding for executive function)- 親自身の感情的レジリエンスを育む構造

主要な発見とデザイン知見

  • ADHD支援アプリには、**「情報提供」よりも「日常実践と内省を促す構造」**が有効である。
  • 短時間で反復的に学ぶマイクロラーニング型設計が、親の負担を軽減し継続率を高める。
  • 親が自分自身の感情と行動パターンを振り返ることで、**家庭内の行動一貫性(behavioral consistency)**が向上する。
  • 子どもだけでなく、親のメンタルウェルビーイングの改善にもつながる可能性が示唆された。

今後の展望

  • 現在、ParentCoachの**ランダム化比較試験(RCT)**が進行中。

    → 親のストレス軽減、子どもの自己調整力・行動改善への効果を検証予定。

  • 将来的には、多文化・多言語版への展開や、ADHD以外の発達支援領域への応用も期待される。


臨床・教育現場への示唆

対象活用可能性
家庭毎日数分の学習を通して、親が実践的支援スキルを習得できる。
学校・支援機関保護者教育プログラムやペアレントトレーニングの補完ツールとして利用可能。
研究・臨床mHealthを活用したスケーラブルな家庭支援モデルの構築に貢献。

まとめ

  • ParentCoachは、ADHD児の家庭支援に特化した科学的エビデンスに基づくmHealthアプリである。
  • 従来の親向け教育が抱えていた「継続の難しさ」や「支援格差」を、短時間・自己省察・柔軟学習の設計で解決を図る。
  • 親の行動変化を通じて、子どもの情動調整・行動安定・家庭全体の調和を促すことを目的としている。

一言まとめ:

ParentCoachは、ADHD児の親を支援するための“スマートな家庭教師”。

毎日の小さな学びが、親の自己理解と子どもの成長支援をつなぐ、新しい形のmHealth介入である。

A Collaborative Approach to Empower Students With Intellectual Disabilities in One Initial Teacher Education Programme Towards Inclusive Pedagogy

知的障害のある学生と教育実習生の協働によるインクルーシブ教育実践の深化

British Journal of Learning Disabilities, 2025年10月23日掲載)

著者:Camelia Nadia Bran, João Costa

DOI: 10.1111/bld.70011


概要

本研究は、知的障害(Intellectual Disabilities: ID)を持つ学生と教育実習生(ITE学生)が協働して学ぶことによって、教育者養成課程(Initial Teacher Education: ITE)におけるインクルーシブ教育への理解と実践力がどのように高まるかを探った事例研究である。

協働型学習を取り入れたモジュールと学校実習を通して、ITE学生がどのように**包摂的教育(inclusive pedagogy)**を実践し、学校文化を変革していくかを分析した。


研究の目的

  • ITEプログラム内で、知的障害のある学生と教育実習生が協働する学習モデルを導入することで、教育者のインクルーシブ教育理解を深化させる。
  • 教師養成における協働的・社会生態学的アプローチの有効性を検証する。

方法

項目内容
研究デザインケーススタディ(質的研究)
参加者- ITE学生(教育実習生)10名(優秀学生)- 障害包摂教育修了証課程(CDIP)学生4名(知的障害のある学生)
データ各学生グループの課題レポート・共同プロジェクト成果物
分析視点インクルージョンの**社会生態学的モデル(socioecological model)**に基づくテーマ分析

主な結果

ITE学生の課題から、以下の4つの主要テーマが抽出された:

  1. 障害のある学習者の声を教育実践に組み込むこと
    • 学習者自身の体験や希望を尊重し、授業設計や評価に反映する姿勢の重要性。
  2. 包摂的ペダゴジー(inclusive pedagogy)の具体的実践
    • 学習環境を柔軟に設計し、支援を“特別”ではなく“共通の学び”として位置づける試み。
  3. インクルーシブな学校文化・価値観(school ethos)の醸成
    • 教員や学生、保護者が協働し、学校全体で「多様性を受け入れる姿勢」を共有する。
  4. 教師としての継続的な専門性発展(teacher professional development)
    • 包摂的教育を単なる理念で終わらせず、日常実践に根付かせるための内省とスキル育成。

一方、知的障害のあるCDIP学生の課題からは、

  • *「共同創造者(co-creators)としての学び」**という単一テーマが導かれ、彼ら自身がITE学生の成長を支える重要な学びのパートナーであることが示された。

考察と示唆

  • 本研究は、インクルーシブ教育を“支援の一方向モデル”ではなく、**共創的な学びの関係性(co-learning relationship)**として再定義している。
  • 教師養成段階から、障害のある学生との協働体験を通じて包摂の価値観を実感的に理解することが、将来の教育現場での実践に直結する。
  • このモデルは、社会生態学的視点に立ち、個人・学校・地域社会をつなぐ多層的なインクルージョン実践を促す。

教育現場・政策への応用

観点含意
教師教育教育実習課程に、障害のある学生との協働プロジェクトを組み込むことが効果的。
学校文化包摂的価値観を「特別支援」ではなく「共通教育の一部」として育む。
社会的意義障害当事者が教育改革の「協働者」として関与することで、教育制度そのものが変革される可能性。

まとめ

本研究は、教師養成段階における知的障害のある学生との協働学習が、未来の教育者にとって「インクルーシブ教育を自らの実践として体現する力」を育むことを示した。

単なる理念としての包摂ではなく、共に学び合う経験を通して、包摂を“文化”として根付かせる道筋を提示している。


一言まとめ:

教師教育の段階から「共に学ぶ」ことが、真のインクルージョンを育てる。

知的障害のある学生との協働は、包摂的教育を理論から実践へと変える鍵である。