ASDの青年・若年成人における心の理論と社会的スキルが友情の質にどう影響するかについての研究
このブログ記事では、自閉スペクトラム症(ASD)の基盤要因とその社会的影響に焦点を当てた最新研究を紹介しています。1本目は、ASDの青年・若年成人における「心の理論(ToM)」と社会的スキルが友情の質にどう影響するかを構造方程式モデリングで分析し、ASD群ではToMの向上が友情改善に重要であることを示しました。2本目は、インド・西ベンガル州のASD患者を対象に、GABRA3遺伝子多型(rs2201169)が特に女性でASD症状の重症度に関連することを発見し、非言語コミュニケーション困難や不安傾向と結びつくことを明らかにしました。いずれも、ASDの社会的介入の方向性と遺伝的・生物学的基盤の理解を深める重要な知見を提供しています。
学術研究関連アップデート
Exploring the Relationships Between Theory of Mind, Social Skills, and Friendship Quality in Adolescents and Adults With and Without Autism Spectrum Disorder Through Structural Equation Modeling
「Exploring the Relationships Between Theory of Mind, Social Skills, and Friendship Quality in Adolescents and Adults With and Without Autism Spectrum Disorder Through Structural Equation Modeling」(Journal of Autism and Developmental Disorders, 2025年9月13日公開)は、自閉スペクトラム症(ASD)の青年・若年成人における「心の理論(ToM)」「社会的スキル」「問題行動」と友情の質の関連性を構造方程式モデリング(SEM)で分析した研究です。
🔎研究概要
- 対象者:
- ASD群:104名(平均年齢18.6歳、男性74名)
- 非ASD群:192名(平均年齢16.7歳、男性101名)
- 評価内容:心の理論(ToM)、自閉特性、社会的スキル、問題行動、友情の質(仲間意識、助け合い、安心感、親密さ、葛藤など)
📊主な結果
- 群間比較:
- ASD群は非ASD群に比べ、友情の質が低く、葛藤が多い。
- ToM能力も低いことが確認された。
- SEM分析の知見:
- ToMは両群で社会的スキルを高める正の効果を示し、その効果はASD群でより強かった。
- ASD群:ToMは社会的スキルを介して友情の質を高める(媒介効果が有意)。
- 非ASD群:問題行動が友情の質を直接的に低下させる影響が確認された。
💡結論と意義
- ASDの若者は友情において質的な困難(仲間意識・親密さの不足、葛藤の多さ)を抱えるが、ToMの向上が社会的スキルを通じて友情を改善する重要な要因となる。
- 一方で、非ASD群では問題行動が友情を損なう主要因であり、支援の焦点が異なることが示唆された。
- 本研究は、ASD支援において 「ToMと社会的スキルの強化」を軸にした介入が、友情や社会関係の質を高めるために有効であることを裏付けています。
👉 ポイント:この研究は、ASDの若者が友情関係で直面する課題の背景にある「社会認知(ToM)とスキルの連関」を明確化し、個別化された社会的介入の設計に実践的示唆を与えています。
Association of GABRA3 rs2201169 with ASD severity in female probands from West Bengal, India
「Association of GABRA3 rs2201169 with ASD severity in female probands from West Bengal, India」(The Nucleus, 2025年9月13日公開)は、インド・西ベンガル州の自閉スペクトラム症(ASD)患者におけるGABRA3遺伝子多型(rs2201169)の関連性を調べた遺伝学的研究です。
🔎研究の背景
- ASDは 社会的コミュニケーションの欠如、反復的行動、限局的関心を特徴とする神経発達症。
- 抑制性神経伝達物質 GABA のシグナル異常がASD症状に関与すると考えられている。
- GABA受容体のサブユニットをコードする GABRA3(X染色体上) が候補遺伝子の一つ。
🧪研究方法
- 対象:
- ASD児者 349名とその両親
- 健常対照 230名
- 手法:
- PCR–RFLP法による遺伝子型解析
- RT-PCRによるGABRA3発現解析
📊主な結果
- rs2201169のGアレル:
- 特に 女性のASD患者で有意なリスク因子と確認。
- GG型およびGアレル保有者は、非言語コミュニケーションの障害や**不安・神経過敏(fear/nervousness)**と関連。
- 遺伝子発現解析:
- ASD群は対照群に比べて GABRA3発現が有意に低下。
- 特にGアレル(AG/GG)を持つ女性患者で顕著な発現低下が見られた。
💡結論と意義
- 本研究は、rs2201169がASD発症や症状重症度に関与する可能性をインドのインド・コーカソイド集団で初めて示した。
- 特に女性ASD患者において、GABRA3の機能低下と症状(非言語コミュニケーション困難・不安傾向)の関連が明らかになった。
- 今後はより大規模かつ多民族集団での再現研究が必要だが、性差を考慮したASD遺伝研究の重要性を強調する結果となっている。
👉 ポイント:この研究は、ASDにおける GABAシグナルと性差の遺伝的基盤を示す新しいエビデンスであり、特に女性のASDの病態理解や個別化医療に向けた手がかりを提供しています。