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知的・発達障害を持つ人々の問題行動に対する向精神薬の調整パターン

· 5 min read
Tomohiro Hiratsuka
CEO of Easpe, Inc

本記事では、発達障害と視覚・行動に関する最新の研究を2本紹介しています。1つ目は、知的・発達障害を持つ人々の問題行動に対する向精神薬の調整パターンを、単一事例実験デザインで検証した系統的レビューであり、薬物効果は限定的であり、行動支援との併用や専門職間の連携の重要性が示されました。2つ目は、自閉スペクトラム症(ASD)当事者とその家族における動きの知覚の弱さと網膜機能の異常との関連を示した研究で、ASDの視覚特性が網膜レベルから存在し、家族内に遺伝的に共有される可能性があることから、網膜機能が将来的なバイオマーカーとなる可能性が示唆されています。

学術研究関連アップデート

Psychotropic Medication Adjustment Patterns in Treatment Literature Featuring Persons with Intellectual and Developmental Disabilities and Challenging Behavior

この論文は、知的・発達障害(ID/DD)を持つ人々(自閉スペクトラム症を含む)の問題行動に対する向精神薬の調整パターンについて、単一事例実験デザイン(SCED)を用いた研究を対象に系統的レビューを行ったものです。

分析対象は2000年〜2024年に発表された69本の査読付き論文で、平均年齢は25歳(3歳〜79歳)。約半数(53%)は併存する精神疾患の診断を持たないケースであり、最も多く処方されていた薬は抗精神病薬(47%)でした。なお、米国FDAがASDに対して承認している薬はリスペリドンアリピプラゾールのみであるにもかかわらず、多くのケースで**適応外使用(off-label)**が行われていました。

薬物調整の最初の選択としては、**新たな薬を追加する増強(augmentation)が70%**と最多で、既存薬の用量調整(maximization)が23%、**薬の中止(withdrawal)は4%にとどまりました。薬物調整全体での行動への効果量(効果の大きさ)は0.01(ごくわずか)**とされましたが、**薬剤増強に限れば中程度の効果(平均効果量0.34)**が認められました。

これらの結果は、薬の効果が限定的である可能性や、行動支援との併用の重要性を示しており、今後は処方医と行動支援専門職との連携を深める必要性、そしてより質の高いエビデンスの構築が求められていることを強調しています。

Global motion coherent deficits in individuals with autism spectrum disorder and their family members are associated with retinal function

この研究は、自閉スペクトラム症(ASD)の人々にしばしば見られる「グローバルモーション知覚の低下(=動く物体の全体的な動きの把握が苦手)」が、網膜の機能変化と関係しているかどうかを調べたものです。また、同様の特徴が家族(特に母親)にも見られるかにも注目しています。

ASD当事者とその家族に対して、「モーションコヒーレンス閾値(視覚的に動きをどれだけ正確に感じ取れるかの指標)」と、「光適応状態での網膜電図(ERG)」を測定。ERGでは、**a波・b波・PhNR(Photopic negative response)**と呼ばれる網膜の電気応答を評価しました。

結果として、ASD当事者だけでなくその家族(特に母親)も、モーションコヒーレンス閾値が高く=動きの知覚が苦手であることが示されました。また、これらの人々では網膜の反応時間が遅くなる・反応の振幅が小さいなどの異常が見られ、これらの指標が年齢・IQ・ASDの重症度と関連していることも判明しました。

このことから、ASDの特徴的な視覚処理の問題が、脳だけでなく網膜の段階でもすでに始まっている可能性が示唆されます。さらに、こうした感覚処理特性は遺伝的に家族内で共有されている可能性があり、母親がグローバルモーション知覚の弱さを持つ場合、ASDのリスクが高まる可能性も示されました。

この研究は、ASDの早期発見やリスク予測において、「網膜機能の測定が有望なバイオマーカーになる」可能性を示唆しています。