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ADHD児の実行機能を改善するニューロフィードバックの有効性

· 6 min read
Tomohiro Hiratsuka
CEO of Easpe, Inc

本記事では、ADHDやASD(自閉スペクトラム症)に関する最新の学術研究を紹介し、発達障害の理解と支援に向けた多角的な視点を提供しています。ADHD児の実行機能を改善するニューロフィードバックの有効性、レジリエンス促進要因と性差に着目した中学校移行期の前向き研究、GBS感染による胎児期の血液脳関門の変化とASDリスクの関連、そしてASD成人における実行機能・社会的認知の影響を分析した研究など、脳機能・発達・環境要因・支援の可能性を包括的に取り上げています。

Neurofeedback training for executive function in ADHD children: a systematic review and meta-analysis

このメタアナリシスは、ADHDの子どもにおける実行機能(エグゼクティブファンクション)の改善に対するニューロフィードバックトレーニング(NFT)の有効性を検証したものです。17件の無作為化比較試験(計939名)を対象に分析した結果、NFTは実行機能全体、抑制制御、作動記憶(ワーキングメモリ)のいずれにも有意な改善効果をもたらすことが示されました。特に総トレーニング時間が1,260分(約21時間)を超える場合、抑制制御と作動記憶の向上効果がより顕著となりました。また、その効果は持続性があり、とくに作動記憶において強く、抑制制御にも一定の持続効果が認められました。つまり、NFTはADHD児にとって有望な非薬物的介入法であり、十分なトレーニング時間を確保することで効果が最大化されることが示唆されています。

Identifying resilience promoting factors and sex differences in youth with ADHD across the transition to middle school - BMC Psychiatry

この研究は、ADHDをもつ子どもたちが小学校から中学校に進学する発達的に重要な移行期において、どのような要因が**レジリエンス(困難を乗り越える力)を高め、良好な適応を促すのかを明らかにしようとする前向き観察研究(RISE研究)**の計画を示したものです。

従来のADHD研究は、学業や対人関係などにおける機能障害やリスク要因に焦点を当てがちでしたが、この研究では**強みに注目し、良好な経過をたどる子どもたちの背景にある「促進要因」や「保護要因」**を探ります。さらに、性差(男女間の違い)にも注目し、レジリエンス要因がどのように異なる影響を及ぼすのかも検討します。

また、研究にはADHDを持つ中高生からなるユース・アドバイザリーボードを設置し、当事者の視点を調査項目の設計や参加者との関係づくり、研究結果の発信に活かすことも特徴です。将来的には、こうしたレジリエンス促進要因を活用して、ADHDの子どもたちの心身の健やかな発達を支える支援プログラムの設計に貢献することを目指しています。

Restricted fetal blood brain barrier permeability in a preclinical model of autism induced by Group B Streptococcus maternal immune activation

この研究は、妊娠中の細菌感染(B群溶連菌:GBS)による炎症が、胎児の脳の血液脳関門(BBB)にどのような影響を及ぼし、それが自閉スペクトラム症(ASD)の発症と関連する可能性があるかを調べたものです。

研究チームは、ASD様の行動を示すオスの子孫が生まれることが確認されているGBS絨毛羊膜炎の前臨床モデルを使用し、感染が胎児のBBBの構造と機能に与える影響を評価しました。その結果、GBSに曝露された胎児では、白質および灰白質におけるアルブミン透過性が低下しており、これはBBBの透過性が制限されていることを示しています。さらに、BBBのタイトジャンクション構成因子であるクローディン-5の発現が増加していることも明らかになり、炎症によってBBBがより「閉じた」状態になることが確認されました。

これらの結果は、ASDの発症に遺伝的要因だけでなく、胎児期の環境要因(特に感染による炎症)が大きく関与していることを示唆しており、ASDの発症メカニズムの一端として、胎児期のBBB変化に注目する重要性を示しています。

Executive Function and Social Cognition Performance Predicts Social Difficulty for Autistic Adults

この研究は、自閉スペクトラム症(ASD)の成人において、実行機能(EF)と社会的認知が、それぞれどのように社会的困難に影響するかを検討したものです。305名のASD成人を対象に、社会的認知、実行機能、社会的適応に関する多面的な評価を実施しました。

結果として、EFは心の理論(ToM)や感情認識能力には直接的な影響を与えないことが示された一方で、EFと社会的認知の両方が独立して社会的困難に寄与していることが明らかになりました。つまり、「実際の検査結果で低いEF・社会的認知スコアを示した人」は医師によって社会的課題が多く観察され、「自己申告でEF・社会的認知に課題を感じている人」は自分でも社会的困難を多く報告していました。

この研究は、ASD成人に対してEFと社会的認知の両方を評価・支援対象とすることの重要性を示しており、それぞれが異なる経路で社会的困難に影響を与えていることから、支援の設計にも個別化が求められることを示唆しています。