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小学生のADHDと危険なインターネット使用との関連

· 21 min read
Tomohiro Hiratsuka
CEO of Easpe, Inc

本記事では、2025年7月時点で発表された発達障害・精神健康・支援介入に関する最新の学術研究を紹介し、成人ADHDにおける炎症マーカーの性差や、子どものADHDとネット使用リスクの社会的スキルによる媒介関係、学習障害のある成人に対するマインドフルネス介入の効果、自閉症児・者を対象とした評価ツールや家族研究の新知見、さらに思春期の自傷行為や希少遺伝疾患、漢方治療成分の解析など多岐にわたる分野を網羅している。中でも、自閉スペクトラム症の移行期支援としてのソフトスキル介入の有効性を示したメタ分析は、今後の教育・就労支援における実践的方向性を示唆する重要な知見として注目される。

学術研究関連アップデート

Peripheral Inflammation In Adult ADHD: Sex Differences And Hematological Markers

この論文は、「成人のADHDにおける末梢炎症と性差の関係」を明らかにしようとした研究です。ADHDの病態には免疫系の不調、特に慢性炎症が関与しているという「炎症仮説」が注目されていますが、成人ADHDにおける炎症指標の検討はまだ少ないのが現状です。


🔍研究の概要と目的

  • 目的:成人ADHD患者と健常者の間で、血液中の炎症指標(白血球数や各種比率)に違いがあるかを比較し、性差にも注目すること。
  • 対象:18〜38歳の薬物未使用のADHD成人72名と、年齢・性別を一致させた健常対照72名
  • 評価項目
    • 血液検査(CBC)の各項目
    • 炎症関連比率:好中球/リンパ球比(NLR)、血小板/リンパ球比(PLR)、単球/リンパ球比(MLR)など
    • 複合的炎症指標:全身性免疫炎症指数(SII)、汎免疫炎症値(PIV)など

🧪主な結果

  • ADHD群は単球数が有意に高かった(p=0.019)→ 慢性炎症の兆候と解釈される。
  • 性別で分けた解析では:
    • 女性では有意差なし
    • 男性ADHD群では、白血球・好中球・単球の数が有意に高い
      • 白血球:p=0.031
      • 好中球:p=0.049
      • 単球:p=0.038

✅結論と意義

この研究は、成人ADHD、とくに男性において慢性的な免疫活性化(炎症)が関与している可能性を示唆しています。特に**単球(monocyte)**の増加は、ADHDの生物学的な診断補助指標になりうる可能性があります。


💡補足:なぜ単球や炎症が重要なのか?

  • 単球は炎症に関与する免疫細胞で、組織損傷やストレスに反応します。
  • ADHDは脳機能の問題だけでなく、体内の慢性炎症との関係も指摘されており、血液から炎症を測ることで、新しい理解や治療戦略につながる可能性があります。

🧩この研究の意義

  • ADHD研究における性差の重要性を強調:同じADHDでも男性と女性では生物学的背景が異なる可能性。
  • 血液検査によるADHDのバイオマーカー探索という臨床応用への一歩。
  • 薬を使用していない参加者を対象にしており、薬物の影響が排除された純粋な病態反映としてのデータ価値が高い。

この研究は、ADHDの理解において神経だけでなく免疫・炎症という身体全体の視点を導入する重要な一歩であり、将来的な個別化医療や診断技術の発展にもつながる可能性があります。

ADHD, social skills and risky internet use among elementary school children - Child and Adolescent Psychiatry and Mental Health

この研究は、「小学生のADHD(注意欠如・多動症)と危険なインターネット使用(RIU)との関連」について、社会的スキル(social skills)がその関係にどのように関与しているかを調べたものです。


🔍研究の背景と目的

  • これまでの研究で、ADHDの子どもはインターネットの危険な使い方(例:過度な使用、不適切なサイトの閲覧など)をする傾向が強いと報告されてきました。
  • しかし、**なぜそのような関連が生じるのか(メカニズム)**は明確ではありません。
  • この研究は、社会的スキルの欠如がその仲介要因(mediator)ではないかという仮説を検証しています。

👦対象と方法

  • 6〜12歳の子ども142人(ADHD診断あり71人、健常児71人)を対象に、

    • 危険なインターネット使用(RIU)

    • 社会的スキル(例:対人関係の能力、共感性など)

      の標準化された評価を実施。

  • 年齢、性別、家庭の収入、親の学歴、きょうだいの数などは統制変数として扱いました。

  • パス解析という手法で、各要因の関連を統計的にモデル化しました。


📊主な結果

  • ADHD → 社会的スキルの低下(β = −1.68, p < 0.001)
  • 社会的スキルの低下 → RIUの増加(β = −0.57, p = 0.004)
  • ADHD → RIUの直接的な関連有意ではなかった(β = −0.52, p = 0.169)
  • しかし、間接効果(ADHD → 社会的スキル → RIU)は有意(β = 0.96, p = 0.004)

✅結論と示唆

  • ADHDの子どもは、直接的に危険なネット使用に向かうのではなく、社会的スキルの不足がその一因となって間接的にRIUを高めている
  • つまり、「ADHD → 社会的スキルの低さ → RIU」という経路が重要。
  • 対人スキルのトレーニングを行うことで、危険なネット使用のリスクを軽減できる可能性がある。

💡補足ポイント:なぜこの研究が重要か?

  • 単にネットの使用制限や監視ではなく、子ども自身の社会的スキルを高める支援がRIU対策として効果的であることを示唆しており、教育的・臨床的介入の方向性を広げる意義がある研究です。
  • 特にADHD児においては、**デジタルリスクの背景にある「人との関わりの難しさ」**に目を向けることが求められます。

Mindfulness-Based Stress Reduction for Addressing Psychological Distress, Learning-Based Stress Symptoms, and Post-Traumatic Growth in Adults with Specific Learning Disabilities

この研究は、特定の学習障害(SLD)を持つ成人が抱える心理的苦痛や学習に由来するストレス症状(LBSS)に対して、マインドフルネスに基づくストレス低減法(MBSR)がどのような効果をもたらすかを検証したものです。


🔍 研究の目的と背景

SLDのある人々は、学習に伴う失敗体験や社会的誤解により、慢性的なストレスや心理的苦痛を抱えることが多く、こうしたストレスが生活の質を損なう要因になっています。

本研究では、MBSRがこれらのストレス軽減や心理的成長(PTG)に効果があるかどうかを調査しました。


👥 方法

  • 対象者:127人(うちSLD診断あり49人)
    • SLD群はMBSRを受ける群(25人)と待機群(24人)にランダムに分けられた。
    • 残り78人はSLDのない比較対象として使用。
  • 測定:
    • 心理的苦痛(PD)と学習起因ストレス症状(LBSS):介入前・後・4ヶ月後に評価。
    • 心的外傷後成長(PTG):4ヶ月後にのみ評価。

📊 主な結果

  • SLD群は非SLD群と比べてPDとLBSSが有意に高い
  • MBSRを受けた群は、PDとLBSSが有意に減少し、効果は4ヶ月後も持続。
  • マインドフルネスの向上が、PDとLBSSの改善の媒介要因であることが示された。
  • PTG(心的外傷後成長)については、有意な変化は見られなかった

✅ 結論と示唆

  • MBSRは、SLDを持つ成人の心理的苦痛や学習関連の慢性的なストレスを軽減する効果がある
  • 一方、人生に対する肯定的な意味づけや成長(PTG)には直接的な影響は見られなかった。
  • それでも、日常的なストレスマネジメント手法としてのマインドフルネス介入は、有効な支援策となり得る

💡補足:なぜこの研究が重要か?

  • 学習障害の支援は学習法や補助ツールに偏りがちだが、情緒的・心理的な支援の重要性が明確に示された。
  • マインドフルネスという汎用的かつ非侵襲的な方法で効果が確認されたことは、他の困難を抱える成人にも応用できる可能性を示している。

Structural Validity of the Psychopathology in Autism Checklist Among Children and Adolescents

この研究は、自閉スペクトラム症(ASD)および知的・発達障害(IDDs)を持つ子どもや青年の精神健康状態を評価するためのツール「PAC(Psychopathology in Autism Checklist)」の構造的妥当性と内部一貫性を初めて検証したものです。


🔍 研究の概要

  • 対象者:2〜19歳の子ども600名(平均年齢9.2歳、66%が男性)。そのうち194名がASDと診断されていました。
  • 使用した指標
    • 精神健康評価:PAC、SDQ(Strengths and Difficulties Questionnaire)
    • 適応行動:Vineland適応行動尺度(VABS)
    • 自閉症特性:ADOS-2
    • IQ:個別知能検査

🧪 主な結果

  • PACの三因子モデル(たとえば不安、注意欠如、精神病などの心理的側面)は統計的に良好な適合を示しました。
  • ほとんどの下位尺度で内部一貫性(信頼性)は十分に確保されました(※ただし「精神病(psychosis)」尺度は除く)。
  • PACは、SDQ・VABS・IQ・自閉症症状指標との関連性においても意味のある差別性と共通性を持っていたことから、妥当性が支持されました。

✅ 結論と意義

PACは、ASDおよびIDDsを持つ子ども・青年の精神的健康を評価するために設計されたチェックリストであり、今回の研究によって構造的妥当性と多くの項目の信頼性が確認されました

特に、既存の一般的な評価ツールでは捉えにくいASD/IDDs特有の精神状態をより正確に把握できる手段としての有用性が示されています。


💡補足

精神健康の評価はASDやIDDsのある子どもにとって診断や支援方針に直結する重要な要素ですが、定型発達を前提とした従来のツールでは正確に把握しづらいケースも多く存在します。PACはそのギャップを埋めるために開発されており、本研究はその使用を正当化する初期的な科学的裏付けとなります。

Continuity in social communication development among school-aged siblings of autistic children

この研究は、自閉スペクトラム症(ASD)の兄弟姉妹でありながら診断基準を満たさなかった子どもたちが、学齢期にどのような社会的コミュニケーションの発達を示すかを長期的に追跡したものです。


🧒 対象と方法

  • 対象:ASDのきょうだいを持つ非自閉の子ども(高リスク群151名低リスク群115名
  • 追跡期間:乳児期〜6〜16歳の学齢期
  • 評価方法:
    • 保護者報告と直接観察による社会的コミュニケーション能力
    • 潜在プロファイル分析(Latent Profile Analysis)で発達パターンを分類

🔍 主な結果

3つのグループ(クラス)が確認されました:

  • クラス1(45.5%):社会的コミュニケーション能力が高い
  • クラス2(45.2%):中間レベル
  • クラス3(9.3%):社会的コミュニケーション能力が低く、IQや学業成績も低い傾向

特にクラス3は、新しい人との関わり(例:試験官)において困難が顕著で、言語・認知能力の広範な発達の遅れと関連していました。


🔄 継続性と早期兆候

  • 生後12〜18か月の時点で既に差が現れ始めていたことがデータから示唆され、初期行動と学齢期の発達に継続性があることが明らかになりました。

✅ 結論と意義

自閉症を発症しなかったきょうだいでも、一部には社会的コミュニケーションや認知の領域で支援が必要なケースが存在します。

したがって、早期の行動の違いに気づいた段階で経過観察と支援を行うことが重要であり、ASDのきょうだいへの支援も個別化・継続的であるべきだと示唆されます。


💡補足

この研究は、自閉症の「家族リスク」下にある子どもたちが、診断を受けなくても非典型的な発達パターンを示す可能性があることを示しており、「グレーゾーン」や「境界域」の子どもへの支援策を検討するうえで非常に重要な知見です。

Frontiers | Non-Suicidal Self-Injury in Adolescents: A Clinician's Guide to Understanding the Phenomenon, Diagnostic Challenges, and Evidence-Based Treatments

このレビュー論文は、**自傷行為(NSSI: 非自殺性自傷)**について、特に思春期の若者に焦点を当て、その理解、診断の難しさ、そして有効な治療法について包括的に解説しています。


✅ 要約

非自殺性自傷(NSSI)は、思春期に多く見られる複雑な行動であり、感情調整の困難、衝動性、ネガティブ感情、未熟な対処行動と密接に関連しています。これは自殺のリスク因子ともなりうる深刻な現象で、DSM-5-TRではさらなる研究対象とされているものの、臨床現場では未だに過小評価・過小治療されているのが現状です。

本論文では、NSSIの疫学、診断の困難さ、精神疾患との併存(例:気分障害、ASD、性別違和など)について概観し、以下の心理療法的アプローチの有効性が紹介されています:

  • 認知行動療法(CBT)
  • 弁証法的行動療法(DBT)
  • メンタライゼーションに基づく治療(MBT)

これらの治療は一定の効果を示していますが、長期的な有効性や比較研究は依然として不足しています。薬物療法は、NSSI自体を直接治療するよりも併存する精神疾患の管理が中心であり、今後の研究が必要です。


🧠 補足ポイント

  • *特定の臨床群(例:統合失調症の超高リスク群、ASD、性別違和)**におけるNSSIの理解はまだ不十分で、さらなる研究が求められています。
  • 早期発見・包括的アセスメント・個別化された介入の重要性が強調されており、NSSIの影響を最小限に抑えるための多角的な視点が必要です。

この論文は、臨床家がNSSIにどう向き合い、どう支援を構築すべきかを考えるための実践的かつ理論的なガイドとなる内容です。特に、複数の要因が絡むNSSIを一面的に捉えることの危険性と、統合的アプローチの重要性を訴えています。

Frontiers | Identification of a novel, pathogenic CREBBP variant in a patient with Menke-Hennekam Syndrome: a case report

このケースレポートは、Menke-Hennekam症候群(MKHK)というまれな遺伝性疾患の患者において、新たに発見されたCREBBP遺伝子の病的変異について報告したものです。


✅ 要約

4歳の男児において、全般的な発達遅延、知的障害、成長障害、特徴的な顔貌異常など、MKHKに典型的な症状が認められました。一方で、掌の皮膚の過剰や、感染症や自閉症スペクトラム行動の欠如といった、これまでのMKHK症例とはやや異なる所見も見られました。

この患者の遺伝子解析(親子三者での臨床エクソーム解析)により、CREBBP遺伝子の新規ミスセンス変異(c.5368T>C, p.Cys1790Arg)がde novo(新生変異)として確認され、ACGSガイドラインに基づき「病的可能性が高い」と評価されました。

構造モデルの予測によれば、この変異はCREBBPが持つTAZ2ドメイン(アミノ酸1772–1840)の立体構造をSTAT1との相互作用の際に破壊する可能性があり、これが特定の転写因子との結合や症状の発現に影響している可能性が示唆されました。


🧠 補足ポイント

  • CREBBPやEP300はクロマチン構造の調整と遺伝子発現の制御に関わる転写共役因子であり、MKHKはその一部の変異によって生じます。
  • MKHKの表現型は非常に多様であり、本症例はその新しいサブタイプの可能性を示しています。
  • 本報告は、MKHKにおける遺伝子型と表現型の関係の理解を深める貴重な知見を提供しています。

この論文は、遺伝疾患の多様性や個別の遺伝的背景に基づく診断・治療方針の重要性を強調しており、臨床遺伝学、発達障害、希少疾患の分野において有用なケーススタディです。

Frontiers | UHPLC-HRMS analysis combining with feature-based molecular networking method for systematic identification of chemicals in AnShenDingZhiLing and its absorbed metabolites

この論文は、中国の伝統薬「安神定志灵(AnShenDingZhiLing)」が小児の注意欠如・多動症(ADHD)治療に有効であるとされる背景に対し、その薬効の根拠となる化学成分や代謝物の全体像を、先端分析技術を用いて明らかにした研究です。


✅ 要約

AnShenDingZhiLingはADHDの臨床治療で使用されている漢方薬であるが、その薬理活性に関わる構成成分や体内での代謝物についての情報はほとんど明らかになっていなかった。本研究では、**超高性能液体クロマトグラフィーと高分解能質量分析(UHPLC-HRMS)**を組み合わせ、**feature-based molecular networking(FBMN)**という方法を用いて、薬剤の化学構成と体内代謝物を網羅的に解析した。

解析の結果、243種の化合物がAnShenDingZhiLingから同定され、これにはフラボノイド(60種)やテルペノイド(50種)など多様な植物由来成分が含まれていた。さらに、薬剤を投与したラットの血漿および脳組織から110種類の薬物関連化合物が検出され、主な代謝経路はメチル化、脱メチル化、水解、ヒドロキシル化、硫酸化、グルクロン酸抱合であることが明らかとなった。


🧠 補足ポイント

  • FBMN(Feature-Based Molecular Networking):化合物の類似性に基づき、視覚的なネットワーク構造で未知成分の同定を支援する革新的手法。
  • 本研究により、従来不明だった有効成分の科学的基盤が整備され、ADHDに対する作用機序解明の糸口となる。
  • 今後の新薬開発や品質管理、個別化医療への応用にもつながる重要な分析知見を提供している。

この研究は、伝統的な漢方薬の現代的再評価を促すとともに、ADHD治療の選択肢拡充に貢献する意義ある基礎データを提供しています。

Metacognition and Cognitive Flexibility in Autistic and Neurotypically‐Developing Populations

この研究は、「自閉スペクトラム症(ASD)の人はメタ認知能力が低く、認知的柔軟性の欠如(=ルール変更への適応の難しさ)につながっているのではないか」という広く議論されてきた仮説を検証したものです。研究チームは、ASD者と定型発達(TD)者に対し、**視空間認知を使う課題(3Dの心的回転タスク)と戦略変更が必要なゲーム(トレーディングゲーム)**を用いて、メタ認知効率、学習効率、認知的柔軟性を測定しました。


✅ 要約

本研究は、自閉スペクトラム症(ASD)者と定型発達(TD)者を対象に、メタ認知と認知的柔軟性の関係を検証した。視空間課題である3D回転タスクでは、ASD者はTD者より精度が劣る一方で、「自分が間違っている可能性の高さを適切に把握する力(メタ認知効率)」ではTD者を上回った。一方、トレーディングゲームにおけるルールの学習や再学習(認知的柔軟性)においては、両群間に有意な差は見られなかった。さらに、認知的柔軟性とメタ認知との間には直接的な関連は確認されなかったが、意思決定における「過剰な自信(オーバーコンフィデンス)」は、認知的柔軟性を低下させる要因であることが判明した。これらの結果は、ASD者が特定の課題においては優れたメタ認知能力を示す可能性があり、認知の硬直性の主因がメタ認知の障害ではなく「自信の持ちすぎ」であることを示唆している。


🧠 補足ポイント

  • メタ認知効率とは、実際の正誤と自己評価との一致度を指す。
  • ASD者は一般に視空間認知タスクで強みを持つとされるが、今回は精度はTDより低かった。
  • 戦略変更が求められるゲームは、日常のルール変更や新環境適応を模しており、実用的な示唆を与える。
  • 過信(overconfidence)の抑制が、柔軟性を高めるための介入ターゲットになる可能性がある。

この研究は、「ASD=メタ認知に劣る」という一元的な見方に疑問を投げかけるとともに、ASD支援においては“自信の調整”が重要な介入ポイントになることを示唆しています。

Meta‐Analysis of Soft Skills Interventions for Transition‐Age Autistic Individuals

このメタ分析研究は、社会的自立や就労を目指す移行期(transition-age:おおむね16〜25歳)の自閉スペクトラム症(ASD)当事者に向けたソフトスキル介入の効果を体系的に評価したものです。ソフトスキルとは、対人関係能力、柔軟なコミュニケーション、職場での適応力などを指し、これらは進学や就労の場面で非常に重要とされています。


✅ 要約

本研究は、移行期の自閉スペクトラム症(ASD)者を対象としたソフトスキル介入の有効性を検証するため、8件のランダム化比較試験と10件の単群前後比較研究を含む計18件の研究をメタ分析した。その結果、社会的適応(効果量 g = 0.53)・社会的パフォーマンス(g = 0.87)・社会的スキル(g = 0.53)において、中程度から大きな効果が確認された。介入内容やサンプルの特性(年齢や知的障害の有無など)は、効果の大きさに有意な影響を与えなかった。これにより、移行期のASD者に対するソフトスキル支援は、就労や社会的自立に向けた重要な準備手段であることが示唆された


🧠 補足ポイント

  • 効果量 g = 0.5 以上は中程度、0.8 以上は大きな効果とされる。
  • 移行期のASD支援では、「知識」や「専門スキル」だけでなく、対人関係や感情調整のようなソフトスキルの訓練が不可欠
  • 分析には R(バージョン4.4.1)とmetaパッケージを使用。
  • サンプルや介入条件による差が小さい点は、広範な適用可能性を示す。

この研究は、ソフトスキルの習得が移行期のASD当事者の社会参加と職業的成功を支える鍵であることを、定量的に裏付けています。今後の教育・福祉・就労支援プログラムにおいて、実践的なソフトスキル訓練を核に据える意義を強調する内容です。