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ブラジルにおけるインクルーシブ教育・支援サービスへの構造的障壁

· 16 min read
Tomohiro Hiratsuka
CEO of Easpe, Inc

本記事は、自閉スペクトラム症(ASD)やADHD、学習障害などの神経発達症をめぐる最新研究を、個人要因・生物学・家庭環境・教育制度・社会構造まで含めて多角的に紹介する総合的な研究アップデートです。具体的には、①親の年齢とASDリスクの疫学的関連(カタール)、②診断名を超えて症状と心理社会要因から子どもを類型化するトランス診断研究(中国)、③発達障害児の睡眠問題を家庭内の実態から捉えるビデオ観察研究、④ASD幼児の日常生活動作において感覚特性より社会的コミュニケーションが重要であることを示す発達研究、⑤ブラジルにおけるインクルーシブ教育・支援サービスへの構造的障壁、⑥乳幼児期ビタミンD補充と学齢期ASD特性の因果関係を検証したRCT研究を取り上げています。全体として本記事は、ASDを「単一の原因や介入で説明・解決できるもの」としてではなく、生物学的要因、発達過程、家庭・文化・制度的文脈が相互に関係する現象として捉え、早期発見・支援・政策設計をエビデンスに基づいて再考する必要性を示す研究群を紹介する内容となっています。

学術研究関連アップデート

Exploring the Association Between Parental Age and Autism Spectrum Disorder Risk in Qatar

この論文は、「親の年齢」と「自閉スペクトラム症(ASD)の診断リスク」との関係を、カタールという中東地域に特化した大規模データを用いて検証したケースコントロール研究です。これまで親の高年齢出産とASDとの関連は主に欧米で報告されてきましたが、本研究は研究が少ない中東地域における実証的エビデンスを提供する点に特徴があります。

研究では、ASDと診断された子ども970人と、定型発達児および他の神経発達症の子ども955人を比較し、出生時の母親・父親の年齢がASD診断とどのように関連するかを、交絡因子を調整した統計解析で検討しました。その結果、ASD児の母親は平均して年齢が高く、**母親が30歳以上で出産した場合、年齢が上がるほどASDの診断リスクが段階的に高まる(用量反応関係)**ことが明確に示されました。特に、35〜39歳、40歳以上ではリスクが約2倍に達していました。一方、父親の年齢も単純比較では関連が見られましたが、母親の年齢などを考慮すると、父親年齢の影響は統計的に有意ではなくなりました

著者らは、こうした結果を、高年齢出産に伴う遺伝的変化、エピジェネティック変化、妊娠・周産期リスクの増加など、複数の生物学的・環境的要因が重なった結果として解釈しています。また、カタールを含む中東地域では、近親婚の多さ、妊娠糖尿病やビタミンD欠乏の頻度といった地域特有の要因が、年齢リスクの影響を強めている可能性も指摘されています。

一言でまとめるとこの論文は、

「カタールにおいても、母親の高年齢出産はASD診断リスクと明確に関連しており、年齢が高いほどリスクが段階的に上昇する。一方で父親年齢の影響は母親年齢を考慮すると限定的であり、地域特性を踏まえた早期発見と支援体制の重要性が示された」

ことを明らかにした研究です。個人に責任を帰す研究ではなく、ASDの早期発見・保健政策・周産期支援を考えるための疫学的知見として位置づけられる、社会的意義の大きい論文と言えます。

Profiling Chinese children with symptoms of SpLD, ADHD, or ASD: a transdiagnostic and biopsychosocial study

この論文は、学習障害(SpLD)、ADHD、自閉スペクトラム症(ASD)といった診断名にとらわれず、「子どもが示している症状そのもの」に注目して支援のあり方を考えようとする、トランス診断(transdiagnostic)かつ生物・心理・社会モデル(biopsychosocial model)に基づく研究です。特に、中国の通常学級に在籍する子どもを対象に、認知特性だけでなく、情緒面や親子関係といった心理・環境要因も含めて子どもを類型化している点が特徴です。

研究では、小学1〜4年生の中国人児童1,034名の中から、SpLD・ADHD・ASDのいずれかの症状を親報告で示した267名を抽出し、年齢・性別・非言語IQ・家庭の社会経済的地位をそろえた定型発達児の対照群と比較しました。分析では、実行機能、視覚処理、言語能力といった認知的要因に加え、内在化問題(不安・抑うつ)、外在化問題(多動・行動問題)、親子関係の良好さ・否定的関係といった心理・環境要因を整理し、教師や臨床家が事前に分類しない**教師なし機械学習(k-meansクラスタリング)**によって子どもたちをグループ化しました。

その結果、子どもたちは5つの異なるクラスターに分かれました。うち3つは特定の認知的弱さ(例:言語、実行機能など)が目立つグループで、残り2つは主に心理社会的な困難(情緒問題や親子関係の課題)が中心のグループでした。特に、言語的困難が顕著なグループと心理社会的困難が強いグループでは、学業成績やメンタルヘルスの状態がより悪いことが示され、支援の優先度が高い層であることが明らかになりました。

一言でまとめるとこの論文は、

「SpLD・ADHD・ASDといった診断名を超えて、子どもの認知特性と心理・環境要因を組み合わせて捉えることで、より実態に即した支援ニーズの類型化が可能になる」

ことを示した研究です。診断の有無にかかわらず困難を抱える子どもを包摂的に支援するという点で、中国におけるインクルーシブ教育の実践や、今後の特別支援・教育政策を考えるうえで重要な示唆を与える論文と言えます。

Sleep in Children With Developmental Disabilities: How Can Videosomnography Inform Intervention?

この論文は、発達障害(Developmental Disabilities:DD)のある学齢期の子どもにみられる睡眠問題を、保護者の報告だけに頼らず「実際の夜間の様子」から捉え直し、より的確な支援につなげる方法を検討した研究です。多くの家庭では睡眠改善のための工夫や介入が行われていますが、その多くは質問紙や聞き取りに基づいており、無意識の偏りや見落としが生じやすいという課題があります。本研究は、その限界を補う手段として**ビデオ睡眠観察(videosomnography)**に注目しています。

研究では、**発達障害のある学齢期の子ども9名(平均10歳)**を対象に、7日間連続で就寝中の様子をビデオ撮影しました。映像には、子どもの睡眠・覚醒行動だけでなく、**夜間の養育者(主に母親)とのやりとりや、寝室環境(照明・音・テレビなど)**も含まれています。得られたデータを質的に分析した結果、睡眠支援の手がかりとなる3つの重要なテーマが抽出されました。

1つ目は、**「眠るべき時間帯に子どもが起きて活動している」という点です。ベッドに入っていても、体を動かしたり、周囲に注意が向いたりして、実際には十分に眠れていない様子が確認されました。

2つ目は、「夜間に母親が頻繁に関与している」という特徴で、添い寝や声かけ、夜中の対応など、養育者の関与が睡眠の中断や覚醒と密接に関係していることが示されました。

3つ目は、「睡眠衛生や睡眠環境が整っていない」**点で、明るい照明、テレビや電子機器の使用、不規則な就寝習慣など、臨床的に推奨される睡眠環境が満たされていないケースが多く見られました。

一言でまとめるとこの論文は、

「ビデオによる客観的な睡眠観察は、子どもの覚醒行動・夜間の養育行動・睡眠環境という、親の報告だけでは見えにくい重要な介入ポイントを明らかにできる」

ことを示した研究です。発達障害のある子どもの睡眠支援を考える際、子ども本人だけでなく、夜間の親の関わり方や環境調整を含めた“家庭全体への介入”が重要であることを、具体的な映像データを通して示唆しており、看護・小児医療・家族支援の実践に直結する意義のある研究といえます。

Relationship Between Social Communication, Sensory Processing, and Daily Living Skills in Young Children with Autism

この論文は、自閉スペクトラム症(ASD)のある幼児において、「社会的コミュニケーション能力」と「感覚処理の特性」が、日常生活動作(ADL:食事・着替え・身の回りのことなど)にどのように関係しているのかを検討した研究です。ASDの子どもは、社会的やりとりの難しさや感覚の過敏・鈍麻を併せ持つことが多いですが、それらが実際の生活スキルにどの程度影響しているのかは、必ずしも明確ではありません

研究では、ブラジルに住む3〜5歳のASD児60名を対象に、

  • 日常生活動作:PEDI-CAT(ADL領域)
  • 社会的コミュニケーション機能:ACSF:SC
  • 感覚処理特性:Sensory Profile 2(SP2)

を用いて評価し、それぞれの関連を統計的に分析しました。

その結果、興味深いことに、多くの子どもは年齢相応の日常生活動作スコアを示していた一方で、**感覚処理が「典型的な範囲」に収まっていた子どもはごく少数(約13%)**でした。つまり、感覚面に課題があっても、日常生活そのものはある程度こなせている子どもが多いという実態が示されました。

回帰分析の結果からは、

  • 社会的コミュニケーション能力(ACSF:SC
  • 年齢
  • 性別

が日常生活動作の成績に有意な影響を与えていた一方で、感覚処理特性そのものはADLの成績に有意な影響を与えていませんでした。特に、社会的コミュニケーション能力が高いほど、日常生活動作も良好であるという関係が明確に示されています。

著者らは、年齢が上がるにつれて日常生活動作の評価が相対的に下がる傾向が見られた点について、年齢とともに求められる自立レベルが高くなることが影響している可能性を指摘しています。また、性別差(特に女児)については、文化的な期待や保護者の評価基準が影響している可能性も示唆されています。

一言でまとめるとこの論文は、

「ASDのある幼児の日常生活動作には、感覚処理の困難さよりも、社会的コミュニケーション能力のほうが強く関係している」

ことを示した研究です。感覚の特性に注目することは重要である一方で、幼児期の生活スキル支援においては、社会的コミュニケーションの支援がより直接的に生活の自立につながる可能性が高いことを示唆しています。今後は、年齢や文化差を踏まえた縦断的・国際比較研究によって、感覚特性と生活機能の関係をより丁寧に検討する必要があると結論づけられています。

Frontiers | Barriers to Inclusive Education and Support Services for Children with Autism and Developmental Delays in Brazil

この論文は、ブラジルにおいて自閉スペクトラム症(ASD)や発達の遅れ(神経発達症:NDD)のある子どもが、インクルーシブ教育や支援サービスにアクセスする際に直面している障壁を、保護者・養育者の視点から明らかにしようとする研究です。ブラジルは人口規模が大きい一方で、ASDや発達障害に関する全国規模・地域社会ベースの実証データが著しく不足しているという背景があります。

これまでの限られた研究や文献レビューからは、ブラジルの家族が次のような課題を抱えていることが指摘されてきました。

  • 診断までに時間がかかる(早期診断へのアクセスの遅れ)
  • 医療・教育・福祉サービスへのアクセスが断片的で不十分
  • 保護者の精神的・経済的負担が大きい
  • 学校現場での合理的配慮や専門的支援が不足している

近年、ブラジルではインクルーシブ教育や障害者支援を推進する法制度の整備が進められてきましたが、それが実際に現場でどの程度機能しているのか、当事者家族の視点から検証したデータはほとんどありません

本研究は、地域コミュニティを基盤とした大規模調査を用いて、

  • ASDおよび他の発達遅延のある子どもを育てる保護者が
  • どのような教育・支援ニーズを抱えているのか
  • インクルーシブ教育や支援サービスへのアクセスにどのような壁があるのか

を体系的に明らかにすることを目的としています。また、ASDのある子どもと、他の発達遅延をもつ子どもを比較する視点を取り入れることで、ASDに特有の課題も浮き彫りにしようとしています。

一言でまとめるとこの論文は、

「ブラジルでは、法制度の整備が進んでいる一方で、ASDや発達遅延のある子どもとその家族は、診断・教育・支援サービスへのアクセスに依然として多くの構造的障壁を抱えており、現場の実態に即したデータに基づく政策・支援設計が強く求められている」

ことを示そうとする研究です。インクルーシブ教育を**「制度として存在するか」ではなく、「家庭や子どもが実際に利用できているか」**という視点から問い直す点で、ブラジルのみならず、資源や地域格差を抱える国・地域に共通する課題を考える手がかりを提供する重要な論文といえます。

Journal of Child Psychology and Psychiatry | ACAMH Pediatric Journal | Wiley Online Library

この論文は、乳幼児期のビタミンD摂取量や体内ビタミンD濃度が、学齢期にみられる自閉スペクトラム特性(ASD特性)に影響するのかを、ランダム化比較試験(RCT)のデータを用いて検証した研究です。ビタミンD不足とASDとの関連はこれまで観察研究で指摘されてきましたが、因果関係があるのかどうかは明確ではありません。本研究は、その点をより厳密に検討することを目的としています。

研究はフィンランドで実施された乳児ビタミンD介入試験(VIDI)の二次解析で、生後2週から2歳までの間、

  • 標準量(400 IU/日)
  • 高用量(1,200 IU/日)

のビタミンD₃を投与された366人の子どもを対象としています。6〜8歳時(平均7.2歳)に、保護者記入式の**ASD特性スクリーニング質問紙(ASSQ)を用いて自閉スペクトラム特性を評価しました。また、妊娠中・1歳・2歳時点の血中ビタミンD濃度(25(OH)D)**と、その推移(高い群・低い群)も分析に含めています。

主な結果は次の通りです。

  • 高用量ビタミンD補充(1,200 IU)そのものは、6〜8歳時のASD特性スコアを低下させなかった

  • 妊娠中や幼児期のビタミンD濃度も、全体としてはASD特性と有意な関連はなかった

  • ただし性別で分析すると、男児に限って

    • 1歳・2歳時のビタミンD濃度が高いほど、

    • 6〜8歳時のASD特性スコアがわずかに低い

      という負の関連が認められた

  • 幼児期を通じてビタミンD濃度が高かった「高軌道群」に属する男児も、ASD特性スコアが低い傾向を示した

著者らは、これらの結果から、「ビタミンDを多く与えればASD特性を予防できる」とは言えないと結論づけています。一方で、男児に限ってみられた関連については、偶然の可能性も含めて慎重な解釈が必要であり、性差を考慮したさらなる研究が必要だとしています。

一言でまとめるとこの論文は、

「乳幼児期に高用量のビタミンDを補充しても、学齢期のASD特性は全体として低下しなかったが、男児では幼児期のビタミンD濃度が高いほどASD特性がやや低い可能性が示唆された」

という研究です。ビタミンDとASDをめぐる議論に対し、RCTデータに基づく慎重で重要なエビデンスを提供しており、栄養介入による一次予防の限界と、性差を含めた精密な検討の必要性を示す論文といえます。

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