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大企業におけるADHD/ASD知識ギャップ

· 29 min read
Tomohiro Hiratsuka
CEO of Easpe, Inc

本記事は、発達障害領域の最新エビデンスを臨床・教育・政策の実務視点で横断整理したもので、①スクリーニング/評価では9歳児一般集団でのA-TACの臨床妥当性確認とサウジ版ADHD評定尺度の因子構造・測定不変性・規範値の提示、②病因・リスクでは早産×遺伝リスクの相互作用(大規模ゲノム)と血中セリンプロテアーゼ関連分子の低下・行動下位領域との関連、③介入・実装では早期実行機能プログラムSTARTの実施可能性試験プロトコル、trio-WES診断効率を事前予測する表現型駆動モデル、KCNJ11変異DEND症候群の遅発診断でもSU剤への切替で代謝改善した症例、④社会・環境ではコロナ禍のASD成人のウェルビーイング規定因(感覚過敏・不確実性不耐性)と、大企業におけるADHD/ASD知識ギャップ、さらに中国農村部のSEND児の受容・所属・いじめ課題、⑤教育・言語ではダウン症ティーンで文法技能における語の強勢弁別の予測的役割を報告。総じて、発達障害支援の実効性を高めるには、文化適応された信頼できる評価、遺伝・周産期・分子レベルの統合的リスク理解、エビデンスに基づく早期介入と診断資源の最適配分、そして学校・職場におけるインクルーシブな制度設計と正しい知識普及が鍵であることを示している。

学術研究関連アップデート

Thorough clinical child psychiatric diagnostic evaluation and validation of the Autism- Tics, ADHD and other comorbidities inventory (A-TAC) in a population-based sample of 9-year-olds - BMC Psychiatry

A-TACの臨床妥当性:9歳児一般集団での厳密評価

ポイント速読

スウェーデン全国双生児コホート(CATSS)から抽出した9歳児263名(スクリーン陽性双生児+陰性対照)を対象に、**親インタビュー式スクリーナー「A-TAC(Autism-Tics, ADHD and other Comorbidities inventory)」**を、1年以内の徹底した児童精神科的診断評価に照合。A-TACの診断予測力と併存症の実態を検証しました。

方法

  • 対象:A-TACで神経発達症(NDD)を示唆された児と、陰性の対照ペア。
  • 手続き:A-TAC実施後1年以内に臨床家による詳細な診断面接・評価。
  • 解析:各NDDに対するA-TACのROC(AUC)など心理測定特性を算定、併存率を集計。

主要結果

  • 識別性能:多くのNDDで良好〜きわめて良好AUC 0.806–0.958)。
  • 例外:発達性協調運動症(DCD)はAUC 0.616と低め(運動協調のスクリーンには弱い)。
  • 群分離:A-TACスコアで、臨床診断の出現率が明確に異なる高リスク群/低リスク群を弁別可能。
  • 高い併存NDD診断を満たした子の>40%が少なくとももう1つのNDD診断基準も満たす。

結論

  • 臨床外(一般集団)でも有用なスクリーナーとしてA-TACの価値を再確認。
  • 一方で、A-TACは臨床的診断評価の代替にならない(個々の受療可否の線引きに使うべきではない)。
  • 併存が多い現実から、**自閉症・ADHD・チック・学習/言語・運動協調などを横断する“広い診断視点”**が、子どもの困りごとの実態把握に不可欠。

実務への含意

  • 一次〜地域レベルのトリアージ疫学調査にA-TACは適合。
  • 学校・保健で陽性の場合は、**多領域評価(認知・言語・運動・行動・感覚)**を前提に専門機関へ連携。
  • DCD疑いについてはA-TACだけに依存せず、運動機能の直接評価(作業療法・理学療法評価)を追加。

👉 対象読者:児童精神科・小児科・学校保健・地域保健の実務家/研究者。スクリーニング導入のエビデンス確認と、併存を見落とさない評価設計の参考に。

ADHD rating scale adaptation in Saudi Arabia: factor structure, measurement invariance, and normative data

サウジアラビア版 ADHD 評定尺度の適応研究 ― 因子構造・測定不変性・規範データの提示

🎯 研究の背景

ADHD 評定尺度(ADHD Rating Scale)は米国で広く使用され、心理測定的に信頼性が確立されています。しかし、他言語・他文化に翻訳・適応する際には、因子構造の妥当性や年齢・性別を超えた測定の公平性を改めて検証する必要があります。本研究は、サウジアラビアにおける適応版 ADHD 評定尺度の信頼性・妥当性を評価し、規範データを提供することを目的としました。


🔬 方法

  • 対象者
    • 保護者評定:3,127名の児童・生徒
    • 教師評定:2,595名の児童・生徒
  • 分析内容
    1. 因子構造の検証(2因子モデル:不注意/多動・衝動性)
    2. 測定不変性の確認(性別・年齢群間での公平性検証)
    3. 規範データ(標準化得点)の作成

📊 主な結果

  • 因子構造:保護者版・教師版いずれも、従来と同様の2因子相関モデルが妥当
  • 測定不変性:年齢群・性別を超えて尺度が同等に機能することが確認。
  • 規範データ:サウジアラビアの児童・生徒に基づく標準値が整備され、地域文化に即した評価が可能となった。

✅ 結論と意義

  • サウジアラビア版 ADHD 評定尺度は、ADHD 症状のスクリーニング・評価に適切に利用可能である。
  • 年齢・性別を問わず公平に測定できるため、臨床・教育現場での診断補助や研究に活用できる。
  • 本研究が提供する規範データにより、地域文化・言語に即した臨床判断の精度向上が期待される。

👉 この論文は、ADHD 評定尺度の国際的適応や文化間妥当性に関心を持つ研究者・臨床家・教育関係者にとって、サウジアラビアにおける大規模データに基づく有用なエビデンスを提供しています。

Prematurity and genetic liability for autism spectrum disorder - Genome Medicine

早産とASDの遺伝的リスクの相互作用 ― 大規模コホート解析の新知見

🎯 背景

自閉スペクトラム症(ASD)は強い遺伝的基盤を持つ神経発達症ですが、早産もASDリスクを高める環境要因として知られています。本研究は、遺伝的負債(polygenic riskや稀少変異)と早産がどのようにASD発症に関わるのかを明らかにすることを目的に実施されました。


🔬 方法

  • 対象データ
    • SPARKおよびSimons Simplex Collection (SSC) のASDコホート
    • 表現型データ:78,559名
    • ゲノムシーケンス:12,519名
    • エクソームシーケンス:8,104名
  • 解析
    • 臨床表現型(ASD群・非ASD群 × 早産/正期産)比較
    • 稀少変異(de novo variants)とポリジェニックリスクスコア(PRS)の解析
    • 機械学習モデルによる早産児ASD予測(出生時の表現型・遺伝データを使用)

📊 主な結果

  • 早産+ASD群は、正期産ASD群と同程度の遺伝的リスクを持ちながらも、臨床症状はより重度
  • 早産ASD群は、非ASD早産群と比較してde novo変異の頻度が有意に高い(p = 0.005)。
  • ASDポリジェニックリスク(PRS)+早産+男性という条件が、ASD発症確率を大きく高め(SPARKで最大90%近い予測確率)。
  • 出生時の遺伝・表現型情報による機械学習モデルの予測精度は限定的(AUROC = 0.65)。

✅ 結論と意義

  • 早産はASD表現型の重症化に関与するが、これはASD関連の既知遺伝子変異そのものでは説明できない。
  • 一方で、稀少変異(de novo variants)とポリジェニックリスクの負債が早産児のASD診断リスクを押し上げる可能性がある。
  • 特に男児の早産は、遺伝的リスクと相まって高いASDリスクを示す。
  • 将来的には、早産児集団を対象とした遺伝+表現型統合解析が、早期のASDスクリーニングや個別支援計画に役立つ可能性がある。

👉 この研究は、ASD発症における遺伝要因と周産期要因の複雑な相互作用を解明した重要なエビデンスであり、臨床家・研究者・政策立案者が早産児のASDリスク評価と早期介入の指針を考える上で有用です。

Prematurity and genetic liability for autism spectrum disorder - Genome Medicine

早産と自閉スペクトラム症(ASD)の遺伝的リスクの関係を探る ― 大規模ゲノム研究からの知見

🔎 研究概要

自閉スペクトラム症(ASD)は多様な症状を持ち、強い遺伝的要因が関与する神経発達症です。一方、早産もASDリスクを高める環境要因として報告されています。しかし、両者の相互作用は十分に解明されていません。本研究(Zhangら, Genome Medicine, 2025)は、大規模コホートに基づき、早産と遺伝的要因がASDの発症や重症度にどのように関わるかを検証しました。


🧪 方法

  • 対象データ
    • SPARKおよびSimons Simplex Collection (SSC)
    • 表現型データ:78,559名
    • ゲノムシーケンス:12,519名
    • エクソームシーケンス:8,104名
  • 解析
    • 早産 × ASD有無による臨床指標の比較
    • 稀少変異(de novo variants)の負荷解析
    • ASD関連**ポリジェニックリスクスコア(PRS)**の評価
    • 出生時の遺伝・表現型データを用いた機械学習モデルによるASD予測

📊 主な結果

  1. 早産+ASDの子どもは、正期産ASDと同等の遺伝的負債を持ちながらも、症状はより重度
  2. 早産ASD群ではde novo変異の頻度が有意に高い(p = 0.005)。
  3. ASDのPRS(ポリジェニックリスクスコア)+早産+男児という条件でASD発症確率が大幅に上昇(SPARKデータでは最大約90%)。
  4. 出生時データを使った機械学習モデルの予測精度は限定的(AUROC = 0.65)。

結論と意義

  • 早産はASDの症状や併存症(multimorbidity)を悪化させる要因となるが、それは既知のASD関連遺伝子変異のみでは説明できない。
  • 稀少変異の増加やポリジェニックリスクの負荷が、早産児のASDリスクを押し上げている可能性。
  • 特に男児早産ではリスクが相乗的に高まることが示唆された。
  • 今後、より大規模な早産児コホートや出生集団での遺伝+表現型統合解析が、ASDの早期発見と介入に重要となる。

🎯 この論文が役立つ人

  • 小児科・新生児科で早産児の発達リスクを評価する臨床医
  • 遺伝カウンセリングや発達支援に携わる専門職(心理士・療育士)
  • ASDの病因研究や予測モデル開発を行う研究者
  • 早期スクリーニングや介入体制の政策設計に関わる公衆衛生分野の実務者

An Investigation of the Levels of Serine Protease and Associated Molecules in Children with Autism Spectrum Disorder

自閉スペクトラム症児におけるセリンプロテアーゼと関連分子の役割 ― 分子神経科学的視点からの新知見

🔎 研究概要

本研究(Yaylaciら, Journal of Molecular Neuroscience, 2025)は、セリンプロテアーゼおよび関連調節分子が自閉スペクトラム症(ASD)の病態形成にどのように関与しているかを解明し、症状の重症度や特定の行動領域との関連を検討しました。


🧪 方法

  • 対象
    • ASD診断済みの2〜6歳児 44名
    • 年齢・性別をマッチさせた定型発達児 43名
  • 行動評価
    • CARS(小児自閉症評定尺度)
    • ABC(自閉症行動チェックリスト)
    • RBS-R-TV(反復行動尺度 改訂版 トルコ語版)
  • 生化学的測定
    • モトプシン(motopsin)

    • アグリン(agrin)およびC末端断片(CAF)

    • tPA(組織プラスミノーゲンアクチベーター)

    • ニューロサーピン(neuroserpin)

    • PAI-1(プラスミノーゲンアクチベーターインヒビター-1)

      → すべてELISA法で血清濃度を測定


📊 主な結果

  1. 全ての分子がASD群で有意に低下(p < 0.05)。
  2. ASD全体の重症度スコアとの直接的な関連はなし
  3. ただし特定の行動領域との関連が確認:
    • モトプシン:模倣(CARS)・感覚反応(ABC)と正の相関
    • アグリン:聴覚反応、味覚・嗅覚・触覚反応、活動水準(CARS)と負の相関
    • PAI-1:自傷行動(RBS-R-TV)と負の相関

結論と意義

  • セリンプロテアーゼやその調節分子は、シナプスリモデリングや神経可塑性に関与しており、ASDの神経生物学的基盤に寄与している可能性がある。
  • ASDの「重症度」全体ではなく、特定の行動領域ごとに異なる分子関連性が示された点が重要。
  • このことは、ASDが異質性の高い発達軌跡を持つことを支持し、末梢バイオマーカーによるサブタイプ識別個別化治療戦略の可能性を示唆している。

🎯 この研究が役立つ人

  • 臨床研究者:ASDの分子病態メカニズムやサブタイプ分類を探る際の基盤情報
  • 小児神経科・精神科医:臨床的な行動症状と分子指標をリンクさせた理解により、個別化診断の可能性を広げる
  • 療育・支援実務者:特定行動領域に基づいた介入を考える際の理論的支え
  • 基礎科学者:神経可塑性やシナプス調節に関わる分子をASD研究へ応用する新しい視点

A survey of knowledge and perceptions of ADHD and autism spectrum disorder in the workplace at a large corporation

職場におけるADHD・自閉スペクトラム症への理解と認識 ― 大企業社員880名の意識調査

🔎 研究概要

Quinteroら(2025, Scientific Reports)は、大企業における従業員のADHD・自閉スペクトラム症(ASD)に関する知識や認識を調査し、知識ギャップと職場でのインクルーシブ化に向けた課題を明らかにしました。調査対象はスペインの大手製薬企業(アストラゼネカ/アレクシオン)の社員880名で、2024年7月に横断的アンケート調査を実施しました。


📊 主な結果

  • 認知度の高さ:ADHD(98.9%)、ASD(98.1%)とほぼ全員が認知。
  • 誤解の存在
    • 約20%が「知的障害」をASDの症状と誤認。
    • 約20%が「限定的な興味」をADHDの特徴と誤認。
  • 職場適応感覚
    • 「神経発達症の同僚と働くことへの快適さ」は平均7.4/10。
    • しかし60.6%が「職場は十分に適応されていない」と回答
  • 教育的介入の希望
    • 学校での啓発活動(87.5%)
    • SNSによる情報発信(67.6%)

結論と意義

  • 知名度は高いが、誤解が根強く残っていることが示された。
  • ポジティブな態度はあるが、職場の環境整備は不十分との認識が多数。
  • インクルーシブ職場づくりには、
    • 正しい知識の普及(誤解の修正)

    • 柔軟な職場適応策の導入

    • 個々の強みを活かす視点の共有

      が不可欠である。


🎯 この研究が役立つ人

  • 人事・管理職:職場の多様性対応策を検討する際のエビデンス
  • 教育・研修担当:従業員への啓発プログラムや教材設計に活用可能
  • 政策立案者・研究者:企業における神経多様性推進の現状把握に有用

Protocol for a feasibility randomized control trial of the Supporting Toddlers with a connection to autism or ADHD to develop Strong Attention, Regulation, and Thinking skills (START) programme - Pilot and Feasibility Studies

自閉症・ADHDに関連する幼児の実行機能支援プログラム「START」の実施可能性試験プロトコル

🔎 研究概要

Hendryら(2025, Pilot and Feasibility Studies)は、自閉症やADHDの特性を持つ、または家族に診断を受けた人がいる幼児を対象に、注意・自己調整・思考スキル(実行機能)の発達を支援する親子プログラム「START(Supporting Toddlers with a connection to autism or ADHD to develop Strong Attention, Regulation, and Thinking skills)」の実施可能性と受容性を検討する無作為化対照試験(RCT)のプロトコルを報告しています。


📊 研究デザイン

  • 対象:英国オックスフォードとサウサンプトンの親子ペア60組(20か月児とその保護者)。
  • 介入内容:STARTプログラムを受ける群と通常支援群に1:1で無作為割付。
  • STARTの特徴
    • 神経多様性を尊重するアプローチ。
    • 公開参加型で当事者・保護者の意見を取り入れながら改良。
    • 地域コミュニティで少人数グループ形式で実施。
  • 評価時期
    • 介入直後(27–31か月時点)に保護者アンケートで評価。
    • ベースラインと36か月時点で研究者による実行機能検査と保護者アンケートを実施(研究者は群割付に盲検)。

検証ポイント

  • 参加者募集の実現性
  • プログラム実施の忠実度(実際に計画通り実行できたか)
  • 測定方法の妥当性
  • プログラムとRCTデザインの受容性(親の満足度・継続率)
  • 地域コミュニティでの運営上の課題と解決策

🎯 意義

  • 自閉症やADHDの診断を受けていなくても、家族歴や特性により実行機能の困難を抱える幼児への早期介入の枠組みを提供。
  • STARTは、親子の協働・コミュニティ実施・神経多様性肯定の立場を取り入れたユニークなプログラム。
  • 本研究は「本格的RCT」へ向けた準備段階として、参加者募集や評価方法の適切さを明らかにし、地域に根ざした早期介入研究のモデルを提示する。

💡 こんな人に役立つ研究

  • 早期発達支援や親子介入プログラムに関心のある 研究者・臨床家
  • 自閉症やADHDに関連する子どもを支援する 教育・福祉の実務者
  • 神経多様性に基づく 新しい早期支援モデルの導入を検討している政策担当者

The impact of the COVID-19 pandemic on the well-being of autistic and non-autistic adults in Eastern Germany - BMC Psychiatry

COVID-19パンデミックが東ドイツの自閉スペクトラム症(ASD)成人と非ASD成人のウェルビーイングに与えた影響

📖 出典:Rothe, Thiel, Roessner, Ring(2025, BMC Psychiatry


🔎研究の背景

自閉スペクトラム症(ASD)の人は、日常の変化への適応に困難を抱えることが多い一方、COVID-19パンデミックは生活に大きな変化と制約をもたらしました。これまでの研究では、自閉症者の不安・抑うつ症状がパンデミックによって悪化する傾向が示されています。本研究は、東ドイツのASD成人と非ASD成人を比較し、パンデミック関連の制約が日常生活や精神症状にどのように影響したかを検討しました。


🧪方法

  • 対象
    • ASD成人 86名(18〜67歳、平均33.5歳、女性21名)
    • 非ASD成人 87名(18〜70歳、平均34.4歳、女性21名)
  • 評価内容
    • パンデミック関連の生活制約
    • 精神症状(不安・抑うつなど)
    • 感覚過敏(sensory sensitivity)
    • 不確実性不耐性(Intolerance of Uncertainty: IoU)
  • 条件調整:調査時の感染率・規制強度・パンデミック経過期間を個別に考慮。

📊主な結果

  • 日常生活への影響
    • 社交制限や移動制限が両群で最も影響大。
    • ただし、非ASD成人の方が制限を「より強く不便」と報告。
  • 健康の変化
    • 身体・精神健康の自己評価の変化は両群で有意差なし。
  • 感覚特性
    • ASD成人は、非ASD成人より感覚過敏とIoUが高いことを再確認。
    • マスク着用による感覚的負担は両群で同程度。
  • 精神症状の予測因子
    • 両群とも「感覚過敏」と「不確実性不耐性」が強い予測因子。
    • ASD群では加えて「身体健康の悪化」が症状を予測。

🎯結論と意義

  • ASD成人は一般的に感覚過敏や不確実性不耐性が高いが、パンデミック関連の制約そのものによる悪影響は非ASD成人よりも小さい場合があることが示唆されました。
  • 精神症状のリスク要因は両群に共通しており、感覚処理の特性や不確実性への耐性が重要な支援ターゲット。
  • ASD成人の支援においては、制約や環境変化への対応だけでなく、感覚的快適さや身体健康の維持が精神的ウェルビーイングの鍵となる可能性があります。

💡 この研究が役立つ対象

  • ASD成人支援に携わる 臨床家・福祉実務者
  • パンデミックや環境変化下での ASDと非ASDの比較研究に関心がある研究者
  • 職場や地域での 合理的配慮・健康支援設計に関心を持つ政策立案者

Bridging the gap: autism spectrum disorder in children in the United States and worldwide: a narrative review

世界と米国における自閉スペクトラム症(ASD)ケアの格差と課題をつなぐ:ナラティブレビュー

📖 Kadam & Goel, 2025, Clinical and Experimental Pediatrics


🔎研究の背景

自閉スペクトラム症(ASD)は、社会的コミュニケーションの困難や反復的行動を特徴とする神経発達症であり、世界的に有病率が増加しています。

  • 米国では現在、約31人に1人の子どもがASDと診断されており、その背景には 認知度向上・早期スクリーニング・政策的支援 があります。
  • 一方、ラテンアメリカ・アフリカ・アジアなどの多くの地域では、診断や介入へのアクセス不足、社会的スティグマ、専門人材や資源の欠如が深刻な課題です。

🧪米国の状況

  • 政策的基盤
    • Individuals with Disabilities Education Act(IDEA)による早期介入制度
    • ASD保険適用義務化による治療・支援の経済的保障
  • 成果
    • 早期発見・早期介入の拡大
    • 支援サービスの普及と継続的な療育の実現

🌍世界的課題

  • 低・中所得国の現状
    • 診断の遅れや未診断が多い
    • 社会的スティグマによる受診回避
    • 専門家不足・制度的支援の欠如
  • 改善の動き
    • WHOによる Caregiver Skills Training(家族支援プログラム) の普及
    • NGOや地域組織による啓発・介入支援の取り組み

🎯結論と提言

  • 米国と世界の間には ASDケアの大きな格差 が存在する。
  • その解決には、以下の国際的取り組みが必要:
    1. 文化横断的研究 に基づく診断基準やツールの改善
    2. 医療・教育専門職の養成 とグローバル研修
    3. コミュニティベースのケア と地域での受け皿形成
    4. 政策実装と公的支援の強化
  • ASDを 世界的な公衆衛生の優先課題 と位置付けることで、発達支援とメンタルヘルスケアの公平性を高めることができる。

💡 この研究の意義

  • 米国の先進的取り組みを参照しながら、資源の乏しい国々でどのようにASD支援を強化できるかを明確化。
  • 「ASDケアのグローバルな標準化と地域適応」 を両立させる道筋を示している。

Frontiers | Establishment and validation of a phenotype-driven predictive model for the diagnostic efficacy of trio-based whole exome sequencing (trio-WES) in children with genetic neurodevelopmental disorders (g-NDDs)

小児遺伝性神経発達障害におけるトリオWES診断の予測モデル構築と検証

📖 Wu et al., Provisionally accepted, Frontiers, 2025


🔎研究の背景

遺伝性神経発達障害(g-NDDs)は、全般的発達遅延(GDD)や知的障害(ID)に加え、自閉スペクトラム症(ASD)などの併存症を伴う複雑な症候群群であり、その遺伝的背景は多様です。

  • トリオ全エクソーム解析(trio-WES)は、診断率向上に大きく貢献してきたものの、診断効率は未だ十分ではないのが現状です。
  • 本研究は、臨床表現型に基づいてtrio-WESの診断成功率を予測できるモデルを構築・検証することを目的としました。

🧪方法

  • 対象:2016〜2022年に265例のg-NDDs児(Sun Yat-sen Memorial Hospital)、2023年に97例の外部検証コホート(Weierkang Children’s Rehabilitation Center)。
  • データ分割:
    • 訓練セット:163例
    • 内部検証セット:102例
    • 外部検証セット:97例
  • 手法:単変量・多変量ロジスティック回帰分析により、診断に関連する独立表現型因子を抽出。モデルを構築し、ROC曲線とF1スコアで性能を検証。

📊結果

  • 診断予測因子として有効だった表現型
    1. GDD/IDの重症度
    2. 神経発達併存症(NDC)の複雑さ
    3. 自閉スペクトラム症(ASD)の併存
    4. 頭囲異常
  • 予測性能
    • 訓練セット:AUC = 0.821, F1 = 0.76
    • 内部検証セット:AUC = 0.905, F1 = 0.77
    • 外部検証セット:AUC = 0.919, F1 = 0.79

これにより、表現型特徴の組み合わせが診断成功率と直線的に関連する可能性が示されました。


🎯結論と意義

  • 臨床表現型に基づく予測モデルを導入することで、trio-WESの診断効率を事前に予測でき、個別化された遺伝子診断戦略が可能になります。
  • 本研究は、g-NDDsにおける表現型と遺伝子診断率の関連を定量的に示した初の報告であり、遺伝子検査の適応判断や資源配分に有用です。
  • 将来的には、より大規模かつ多様なコホートでの検証を通じて、精密医療・パーソナライズド診断の実装に繋がることが期待されます。

💡 この研究のポイント

  • 「誰にtrio-WESが有効か?」を事前に予測できる
  • 臨床現場での検査選択や家族への説明に活用可能
  • ASDや頭囲異常といった臨床的に把握しやすい情報が、診断成功率を左右することを明確化

Frontiers | When Genetic Diagnosis Comes Late: Lessons from a DEND Syndrome Patient Successfully Transitioned to Sulfonylurea

遺伝子診断が遅れたDEND症候群患者から学ぶこと ― スルホニル尿素薬への移行成功例

📖 De Medeiros Abreu et al., Provisionally accepted, Frontiers, 2025


🔎研究の背景

新生児糖尿病(NDM)は、生後6か月以内に発症する稀な糖尿病で、主な原因の一つがKCNJ11遺伝子の活性型変異です。臨床像は幅広く、最重症型はDEND症候群(発達遅滞・てんかん・新生児糖尿病・筋緊張低下)、中間型はiDEND症候群と呼ばれます。

さらに、KCNJ11変異患者ではADHD、ASD、学習障害などの併存も報告されています。

これらの患者は、インスリンからスルホニル尿素薬への切り替えで良好な血糖コントロールを得られることが多く、場合によっては神経学的改善も期待されます。しかし、遺伝子診断が遅れることで治療開始のタイミングを逃す課題があります。


🧪症例概要

  • 患者:ブラジル人男性、KCNJ11 c.754G>A; p.(Val252Met)変異
  • 経過:
    • 生後25日で糖尿病を発症 → インスリン開始
    • 幼少期から両側性難聴あり
    • 15歳で遺伝子診断が確定 → インスリンからスルホニル尿素薬へ切り替え
    • 24歳時点:良好な血糖コントロールを維持(重度の低血糖・高血糖なし)
    • ただし、神経学的改善は認められなかった

📊考察と意義

  • スルホニル尿素薬の有効性

    → 診断から長期間経過していても、切り替えにより安定した血糖管理が可能。

  • 神経学的改善は限定的

    → 治療開始の遅れにより、神経症状の改善効果は見られなかった。

  • 教訓

    1. 早期の遺伝子診断が極めて重要(治療選択と転帰改善の鍵)。
    2. スルホニル尿素薬は、安全にインスリン代替治療として使用可能。
    3. 遺伝カウンセリングにより、発達障害や学習障害を含む広範な症状への理解と支援が必要。

🎯結論

この症例は、遅れてもスルホニル尿素薬への移行が可能であり、血糖コントロールには有効であることを示しました。しかし、神経学的改善を期待するには早期診断と治療開始が不可欠です。

👉 本報告は、NDMやDEND症候群における遺伝子診断の重要性と、治療のタイミングが患者の予後に大きく影響することを強調しています。


Exploring the Predictive Role of Lexical Stress Discrimination in the Phonological and Grammatical Skills of Teenagers With Down Syndrome

📍 Elena López-Riobóo & Pastora Martínez-Castilla, 2025, Journal of Intellectual Disability Research

🔎背景

  • テンポラルサンプリング理論によれば、語の強勢(lexical stress)を識別する力は言語発達障害に大きく関わるとされる。
  • 本研究は、この理論が**ダウン症(DS)**の言語発達にも当てはまるかを検証。特に、強勢識別が音韻・文法スキルにどのように寄与するかを調べた。

🧪方法

  • 対象: 27名のDSのティーンエイジャー
  • 測定:
    • 強勢識別能力
    • 音韻スキル
    • 文法スキル(統合・文の復唱・文法理解)
  • 分析では、聴力・言語的短期記憶・年齢・非言語的認知などの要因を統制。

📊結果

  • 音韻スキル短期記憶のみが有意な予測因子。
  • 文法スキル(統合・文の復唱)短期記憶+強勢識別が有意な予測因子。
  • 文法理解強勢識別のみが有意な予測因子。

🎯結論

  • 文法スキルにおいて、語の強勢識別が重要な役割を果たすことが確認された。
  • これはテンポラルサンプリング理論を支持する結果であり、
    • 強勢識別能力をトレーニング対象に含めることが、DSの言語介入プログラムに有効である可能性を示唆する。

💡ポイントまとめ

  • DSの音韻発達には短期記憶が重要。
  • DSの文法発達には強勢識別+短期記憶が関与。
  • 介入の新たなターゲットとして「語の強勢識別訓練」の可能性がある。

👉 この論文は、**DSの言語支援における新しい着眼点(強勢識別能力の育成)**を示すもので、教育現場・臨床現場双方に実践的な示唆を与えています。

Challenges in inclusion: Peer acceptance, rejection, belonging and bullying among SEND students in Chinese rural schools


🔎背景

  • インクルーシブ教育は世界的に推進されているが、中国の農村部では制度的・文化的な課題が多く残る。
  • 特別な教育的ニーズや障害(SEND)をもつ子どもは、仲間からの受容や排斥、所属感、いじめの経験において不利な立場に置かれやすい。

🧪研究方法

  • 対象: 中国農村部の小学校 7校・579名(7〜12歳)
  • 調査ツール:
    • Social Inclusion Survey (SIS)
    • Guess Who peer nomination tool(仲間評価)
    • Belonging Scale(所属感)
    • Bullying and Victimisation Scale(いじめ・被害)

📊主な結果

  • 仲間関係
    • SEND児は、非SEND児よりも 拒絶が多く、受容が少ない
    • 学習面・社会面の両方で不利が顕著。
  • 所属感
    • SEND児の方が 学校コミュニティへの帰属感が弱い
    • 特に複数のSENDを持つ児童は、最も深刻な社会的困難を経験。
  • いじめ・攻撃性
    • SEND児は 被害や攻撃に巻き込まれるリスクが高い
  • 仲間からの評価
    • SEND児は 協調性・リーダーシップが低く評価され、迷惑をかける存在として見られがち → 排除の悪循環につながる。

🎯結論・意義

  • 中国農村部のSEND児は、仲間関係・所属感・安全面で多重の不利に直面している。
  • インクルーシブ教育を実効性あるものにするには:
    • 教師の指導力強化

    • 学校文化の変革

    • 仲間同士の協働的学びの促進

    • SEND児のリーダーシップや強みを評価する仕組み

      が不可欠。


💡ポイントまとめ

  • SEND児は農村学校で 仲間からの拒絶やいじめが多く、所属感が低い
  • 特に複数の困難を抱える子どもは最もリスクが高い。
  • 教育現場での 社会的支援・文化的変革が急務。

👉 この研究は、農村地域におけるインクルーシブ教育の実態と課題を具体的に明らかにした貴重な調査であり、教育政策や学校現場での支援改善に直結する示唆を与えています。