幼児期(0〜3歳)の外遊びの頻度と時間が後のADHD症状の低さと関連するか?
この日の記事では、発達障害まわりの「評価・スクリーニング」と「環境・動機づけ要因」に関する最新研究が紹介されています。具体的には、ブラジル発のEFA適応機能尺度が6〜15歳のASD・知的障害児を高い感度でスクリーニングできるかを検証した研究、乳幼児期(0〜3歳)の外遊びの頻度と時間が後のADHD症状の低さと関連することを5万人超のデータで示した中国・深圳の研究、自閉症児の認知的柔軟性が外発的報酬よりも内発的動機づけ(興味・主体性)によってより強く高まることを示した実験研究、そしてジョージア州の早期介入プログラム利用児を対象に、自閉症スクリーニング率とそのタイミングに性別・保険・人種などの社会人口学的要因による格差があることを明らかにした研究が取り上げられています。加えて、幼児用の遠隔自閉症評価ツールTAP-Pが、特に言語発達がまだ限られた子どもでは有望である一方、言語が進んだ幼児では過少診断リスクがあることを示した研究も紹介されており、**「誰をどうやって早く・適切に見つけ、どんな環境や動機づけのもとで力を引き出すか」**という実践的な問いに多面的に迫る内容となっています。
学術研究関連アップデート
Sensitivity and Specificity of the EFA Adaptive Functioning Scale for Autism Spectrum Disorder and Intellectual Disability
■ 「EFA適応機能尺度は、ASD・知的障害のスクリーニングにどの程度使えるのか?」を検証したブラジル発の研究
この論文は、ブラジルで開発された 適応機能評価ツール「EFA(Escala de Funcionamento Adaptativo)」 が、
自閉スペクトラム症(ASD)や知的障害(ID)の子どもをスクリーニングする際に、どれくらい“当てになる”か(感度・特異度) を検証した研究です。
■ 研究のねらい
- 適応機能(社会面・日常生活面・概念面)は、ASD/IDの診断や支援ニーズの把握に必須の要素。
- EFAは6〜15歳の子ども対象のブラジル版適応機能尺度だが、
- 「ASDやIDの子どもをしっかり拾えるのか?」
- 「診断のない子どもと、ちゃんと区別できるのか?」
- という スクリーニング尺度としての妥当性(感度・特異度) を確認することが本研究の目的です。
■ 方法の概要
- 対象:
- 定型発達(診断なし)児:917名
- 知的障害(ID):76名
- 自閉スペクトラム症(ASD):65名
- 年齢はすべて 6〜15歳
- 使用した尺度:
- EFA(Adaptive Functioning Scale)
- 3ドメイン構成:
- Social(社会的適応)
- Practical(実用的・日常生活スキル)
- Conceptual(概念・認知・学習的側面)
- 分析:
- 3群(診断なし/ASD/ID)のスコア差を分散分析で検証
- ASD群・ID群について 感度・特異度・ROC曲線(AUC) を算出
■ 主な結果
1. 3群の適応機能スコアには明確な差があった
- 社会・実用・概念の 全ドメインで、診断なし/ASD/IDの3群に有意差。
- 効果量(partial η²)は中等度〜やや大きめ:
-
Social:0.40
-
Practical:0.43
-
Conceptual:0.58
→ 特に「概念面」での差が大きい ことが示されています。
-
2. ASD・IDを「拾い上げる力(感度)」はかなり高い
- ASD群の感度:90〜91%
- ID群の感度:87〜94%
→ 「ASD/IDの子を見逃さない」性能はかなり高い といえます。
3. 診断なしの子を「陰性」と判定する力(特異度)は中〜良好レベル
- ASD群との識別における特異度:64〜74%
- ID群との識別における特異度:63〜90%
→
- 一定数の “疑いあり” を広めに拾うスクリーニングツールらしい特性 とも言えます。
- ドメインやカットオフによって特異度の幅がある点も示されています。
4. ROC(AUC)から見た「識別能力」は“Excellent”
- AUC(曲線下面積)は、3ドメインとも ASD/IDと定型群の識別に優れた性能を示すレベル(excellent)。
- 社会・実用・概念のどの側面でも、診断の有無をかなりよく区別できる ことが確認されました。
■ 実務・臨床への示唆
-
EFAは、ASD・IDの子どもにおける適応機能の問題をスクリーニングするツールとして有望。
-
学校やクリニックで
「適応面でサポートが必要な子をまずピックアップする」
初期スクリーニングに適している。
-
-
感度が高く特異度が中〜良好という特性から、
- 「見逃したくない」場面(早期介入の入り口など)に向く
- 一方で フォローアップ評価や正式診断には、他の臨床評価と併用が必須
-
特に 概念・社会・実用の各ドメインごとにスコアが出る ため、
- 「どの領域で支援ニーズが高いか」を把握しやすく、
- 個別支援計画や支援レベルの調整(合理的配慮・支援度合い) にも使える可能性があります。
■ 一言まとめ
ブラジル版適応機能尺度EFAは、6〜15歳のASD・知的障害児を高い感度で拾い上げ、定型発達児との識別でも優れたAUCを示したことから、適応機能の困難をスクリーニングする信頼性の高いツールとして有望であることが示された研究です。
Potential social-environmental factors affecting ADHD symptoms of 55,528 children from Longhua district, Shenzhen, China
■ 55,528人の大規模データで見えた:幼少期の“外遊び量”がADHD症状と関連する可能性(中国・深圳)
この研究は、中国・深圳市竜華区の就学前児55,528人というきわめて大規模なデータを用いて、
0〜3歳の幼少期に「どれだけ外遊びをしていたか」が、ADHD症状にどう関連するかを分析したものです。
■ 研究のポイント
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対象:幼稚園児55,528名(男児が多い)
-
ADHD症状の評価:SDQ(Strengths and Difficulties Questionnaire)の
多動・不注意サブスケール
-
解析した外遊びの要素:
- 頻度(週に何回外遊びしたか)
- 時間(1回あたりどれだけ遊んだか)
- 対象期間:乳児期(0–1歳)・幼児期(1–3歳)
■ 主な結果
① ADHD症状の有病率は全体で 6.9%
これは国際的な推定値(約5〜7%)とほぼ一致。
② 男児のほうがADHD症状が有意に高い
-
男児:3.76
-
女児:3.42
(SDQスコア)
→ 既存研究と同様の傾向。
③ 家庭の所得が低いとADHD症状が高い傾向
-
月収が低い家庭ほどスコアが高かった
→ 社会経済状況(SES)もADHD症状に影響し得る。
④ 幼少期に“外遊びが多い”ほど、ADHD症状が低かった
- 外遊び 頻度が高いほど ADHD症状が低い
- 外遊び 時間が長いほど ADHD症状が低い
→ 統計的にいずれも P<0.001 の明確な関連。
特に、都市部で緑地が少ない環境ではこの効果がより意味を持つ可能性があります。
■ この研究が示すこと
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幼少期(0〜3歳)に外で身体を動かす時間が多いことは、後のADHD症状を軽減する可能性がある。
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外遊びは
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注意の調整
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情動の安定
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視覚・体性感覚入力のバランス
-
ストレス軽減
など複数の経路で発達にプラスに働く可能性がある。
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都市化が進む地域では外遊びが減りやすく、発達支援の観点からも「外に出る環境づくり」が重要と示唆される。
■ 注意点(研究の限界)
- 横断研究のため、因果関係(外遊びがADHDを減らす)は断定できない。
- 外遊び量は 保護者の回想によるため誤差の可能性がある。
- 家庭環境、気質などの他要因は十分に調整されていない。
■ 一言まとめ
0〜3歳の外遊びの「回数」と「時間」が多い子どもほど、就学前に見られるADHD症状が低い傾向があることが、5万人超のデータで示された。
都市部の幼児支援において、幼少期の外遊びを確保することは発達予防の観点からも重要な可能性がある研究です。
How Extrinsic and Intrinsic Motivation Impact Cognitive Flexibility in Children With Autism
■ 外発的動機づけと内発的動機づけは、自閉症児の「認知的柔軟性」をどう変えるのか?(3〜7歳対象)
自閉スペクトラム症(ASD)の子どもは
- *認知的柔軟性(cognitive flexibility:状況に合わせて行動や考え方を切り替える能力)**が課題となることが多く、
近年は「モチベーションの違い」がその発揮に影響する可能性が指摘されてきました。
この研究は、**ASD児43名・定型発達児(TDC)89名(36–84か月)**を対象に、
モチベーションのタイプ(外発 vs 内発)が認知的柔軟性にどう作用するかを
3種類のDCCS(Dimensional Change Card Sorting)課題を使って詳細に検証しています。
■ 研究デザイン
参加者
- ASD児:43名
- TDC:89名
- 年齢:36〜84か月(3〜7歳)
3つの課題条件
- 標準版DCCS
- 外発的報酬あり(Extrinsic reward)
- 内発的動機づけ版(Intrinsic motivation:興味・好奇心が高まる仕様)
■ 主な結果:ASD児では“動機づけの効果”が早く、内発動機づけの影響が非常に大きい
① 36〜48か月(3〜4歳)
- ASD児:内発的動機づけでのみ精度が上がる
- TDC:どの操作でもほぼ変化なし
→ ASD児では、興味・好奇心を刺激するだけで柔軟性が向上するが、外発的報酬は効かない。
② 49〜60か月(4〜5歳)
- ASD児:内発・外発のどちらでも向上(特に内発が強い)
- TDC:内発的動機づけでのみ向上
→ ASD児では動機づけ全般が柔軟性に効き始めるが、
TDCではあくまで内発動機づけが中心。
③ 61〜84か月(5〜7歳)
-
ASD児・TDCともに内発・外発どちらでも改善
(認知機能の成熟による影響が示唆される)
■ 本研究が示す重要ポイント
✔ ASD児はモチベーション効果が“早く、強く”現れる
特に **内発的動機づけ(興味・好奇心・選択感)**の影響が若年齢から顕著。
✔ 外発的報酬はASD児の一部年齢では効果が出るが限界も
報酬だけでは最も若い年齢層に効かず、
むしろ “楽しい・自分でやりたい” と感じられる状況で柔軟性が高まる。
✔ 定型発達児は一貫して“内発的動機づけ”が中心
ご褒美より「好奇心の喚起」が認知的柔軟性に寄与。
■ 実践的示唆
-
ASD児の認知的課題や学習場面では
報酬よりも「興味・主体性・選択肢」を引き出す設定が特に有効
-
若い年齢層ほど、
“本人の興味をベースにしたアクティビティ” が能力発揮を促す
-
個別支援プランでは
モチベーションの種類を年齢別に調整する視点が必要
■ 一言まとめ
自閉症児の認知的柔軟性は、外発的報酬より“内発的動機づけ”によって大きく改善し、しかもその効果は定型発達よりも早く現れる。
年齢が上がると外発動機づけの効果も加わるが、
若年齢期では「興味・好奇心・主体性」が鍵になることを示した重要な研究です。
Examining Sociodemographic Factors Related to Autism Screening Rates of Children in Early Intervention
■ 早期介入サービスに紹介された乳幼児の「自閉症スクリーニング率」に、どんな社会人口学的要因が影響しているのか?
自閉スペクトラム症(ASD)の早期発見には、
18か月・24か月の定期的な自閉症スクリーニングが極めて重要です。
特に、マイノリティの子どもは見逃されやすく、診断が遅れがちであるため、
公平なスクリーニング体制が社会的課題となっています。
この研究は、米国ジョージア州の早期介入制度 Part C(Babies Can’t Wait:BCW) に
2018〜2022年の間に紹介された 52,282名の乳幼児を対象に、
誰がスクリーニングを受けやすいのか/受けにくいのかを大規模データで検証しました。
■ 主な結果:性別・保険・人種によって「受診率」と「受診タイミング」に差
① 男児は女児よりスクリーニングを受けやすい(予測通り)
-
ASDの有病率が男児で高いことの影響か、
男児は18・24か月スクリーニングを受ける確率が高かった。
② 民間保険(private insurance)の子どものほうが受診率が高い(予測通り)
-
公的保険(Medicaid等)利用者より、
私保険の子どもがスクリーニングを受けやすかった。
→ 社会経済的格差がスクリーニングにも反映。
③ 予想外:Black・Hispanic児のほうがスクリーニング率が高かった
通常の医療現場ではマイノリティが「見逃されがち」だが、
BCWにおいては **Black・Hispanic児のほうが“スクリーニングされやすい”**という結果に。
④ しかし、White児と男児は“早い段階で”他機関でスクリーニング済み
ここが最重要ポイント。
- White児
- 男児
は BCWに紹介される前に、すでにスクリーニングを受けている率が高い。
つまり:
“早い段階でのスクリーニング格差”は依然として存在する。
BCWでのスクリーニング率が高かったのは、単に“他で見逃されていた子どもを拾った結果”である可能性が高い。
■ 本研究が示すメッセージ
✔ スクリーニングの「タイミング格差」はまだ解消されていない
-
White児と男児は、早期スクリーニングの機会が比較的多い
-
Black・Hispanic児や公的保険利用児は、
早い段階では見逃され、BCWに来てから初めてスクリーニングされている
→ 医療機関や地域の支援での「初期アクセス格差」が依然として大きい。
✔ 早期介入サービス(Part C)は“格差の補完的役割”を果たしている
BCWに紹介されてきて初めて評価を受けられた子どもも多く、
Part Cが「見逃されてきた子どもを救うセーフティネット」になっている。
✔ 今後の課題:初期段階(0〜2歳)での公平なアクセス改善
- プライマリケア(小児科)でのスクリーニング推進
- 公的保険利用家庭への支援強化
- 人種・文化背景に配慮した outreach
- 早期介入機関と医療機関の連携強化
が必要だと研究は示唆している。
■ 一言まとめ
乳幼児の自閉症スクリーニング率は、性別・保険・人種で依然として不平等が存在する。
White児や男児は“早い段階で”他の医療機関でスクリーニングされる一方、
Black・Hispanic児や公的保険利用児は見逃されやすく、
早期介入(Part C)が後から拾っている構造が明らかになった。
早期発見の公平性を高めるには、
0〜2歳段階での社会的格差の解消が不可欠である。
Use of a Novel Tele-Assessment Tool for the Identification of Autism in Preschool-Aged Children
■ 幼児の自閉症評価に“新しい遠隔アセスメント(TAP-P)”は使える?
近年、移動負担や専門家不足の解消のため、
オンラインを使った自閉症評価(tele-assessment) が注目されています。
本研究は、3〜5歳(36〜71か月) を対象とした新しい遠隔評価ツール
TELE-ASD-PEDS-Preschool(TAP-P) の診断精度を、
対面の本格的評価(ADOS-2・認知検査など) と比較したものです。
■ 研究デザイン
- 対象:自閉症評価を目的に紹介された 116名(36〜71か月)
- 手順:
- 家庭で TAP-Pによる遠隔アセスメント
- 言語レベルに応じて Form 1(2語レベル以下) / Form 2(より言語発達した子向け) を使い分け
- 後日、別の専門家が 対面アセスメント(ADOS-2含む) を実施
- 保護者が満足度アンケートを回答
- 家庭で TAP-Pによる遠隔アセスメント
■ 主な結果:低言語レベルの子には有望、言語が伸びると“判断保留”が増える
① 診断一致率は 82%(95名)
- 遠隔と対面で「自閉症あり/なし」が一致したのは 82% と比較的高い。
- ただし、不一致17件の多くは“遠隔が非ASD、対面はASD” と判定。
→ 遠隔の方が やや過少診断(false negative)傾向。
② 言語レベルにより“遠隔の不確実性”は大きく変わる
● Form 1(ことばが少ない子:2語以下)
-
遠隔側が「よくわからない(unsure)」とした割合:28%
-
診断一致も比較的良好
→ 低言語レベルの幼児にはTAP-Pは有望。
● Form 2(より話せる子)
-
不確実率:52%(半数が「わからない」)
-
診断不一致もこの群に多い
→ 言語が伸びるほど、遠隔評価だけでは判断が難しくなる。
③ 家庭での遠隔評価に対する保護者満足度は高い
- 負担が少ない
- 子どもが家庭環境でリラックス
- 評価までのアクセスが改善
など、遠隔アセスメントの利点が報告された。
■ 結論:低言語レベルの幼児の初期スクリーニングとしては有用だが、言語発達した幼児では慎重さが必要
研究チームは次のようにまとめている:
✔ TAP-P は、低言語レベルの幼児では有望なオンライン評価ツール
✔ しかし、言語能力が高い幼児では遠隔評価だけでは精度が不十分
✔ 特に“ASDなし”と誤判定されるケースに注意
✔ さらなる研究が必要(特に言語発達の進んだ幼児群)
■ 一言まとめ
遠隔アセスメントTAP-Pは、ことばの少ない幼児の自閉症評価では有望だが、
言語発達が進んだ幼児では“判断保留”や“見逃し”が増えるため、
補助的ツールとして慎重に使う必要がある。
保護者満足度は高く、専門家不足や移動負担の解消に寄与する可能性がある。
