歌う鳥キンカチョウを用いたバルプロ酸ASDモデルの条件設定
この記事全体では、主に自閉スペクトラム症(ASD)とADHDをめぐる**「早期発見・診断後フォロー」「当事者のアイデンティティと生活の質」「介入・支援のデザイン」「教育現場でのインクルージョン」**に関する最新研究がコンパクトに紹介されています。具体的には、乳幼児期の自閉症スクリーニング後に誰が診断評価に来るのかという参加要因、歌う鳥キンカチョウを用いたバルプロ酸ASDモデルの条件設定、幼児の反復行動(RRB)の因子構造の違い、深層学習+強化学習によるASDの早期診断と個別化介入の試み、新規診断家庭を支えるFamily Navigationの効果など、ASDの「見つける・つなぐ・支援する」研究が並びます。一方ADHDでは、思春期の診断アイデンティティ(“自分はADHDだ”という捉え方)が生活の質を左右する量的研究や、トルコの医学生・医療者ADHD当事者の質的研究、さらに10代の心理的ウェルビーイング・飲酒/喫煙・運動と神経心理機能(ADHD様症状やhot EF)の関係をPCAで分析した研究が紹介されています。加えて、ブラジルとポルトガルの教師が感じるインクルーシブ教育資源と実践の違いを比較した研究も含まれ、当事者・家族・専門職・学校という多層の文脈で、神経発達症とその周辺支援を立体的に捉えるラインナップになっています。
学術研究関連アップデート
What Happens After Autism Screening—Factors That Predict Evaluation Attendance
「陽性スクリーニングのあと、なぜ一部の家庭は評価に来ないのか?」を数字で追いかけた研究
■ 論文の概要
この研究は、一次医療(小児科など)で自閉症スクリーニングに「要精査」の結果が出た後、実際に診断評価に来るかどうかに影響する要因を調べたものです。
対象は、2つの大規模な自閉症スクリーニング研究に参加した 895名の子ども。スクリーニングで自閉症の可能性が高いと判定された家庭に対し、正式な診断評価への参加が案内され、その参加率と関連要因が分析されました。
■ 何を調べたのか?
著者らは次の点に着目しました:
-
どんな子どもが評価に来やすい/来にくいのか?
- 性別
- 人種・民族
- 母親の学歴
- スクリーニング時の子どもの月齢(12 / 15 / 18か月)
-
評価に来た子どもと来なかった子どもで、スクリーニングの得点に差があるか?
→ つまり、「より自閉症らしさが強く見える子どもの方が評価に来やすいのか?」という点です。
■ 主な結果
-
① 参加率に“人種・性別・学歴”などの差はほとんどなかった
2つの研究(サイト)間では全体の参加率に差があったものの、同じ研究の中では、子どもの性別・人種・民族・母親の学歴による有意な差は見られませんでした。
→ 少なくともこのデータでは、「特定の属性の家庭だけが評価につながりにくい」とは言えない結果でした。
-
② 「何か気になる」がはっきりしてくる18か月の方が評価につながりやすい
初回の陽性スクリーニングの月齢によって、評価参加率は大きく異なりました:
- 18か月で陽性:評価参加 57%
- 12か月で陽性:38%
- 15か月で陽性:30%
→ 「18か月のタイミングで初めて引っかかった子」の方が、家族が診断評価に進みやすいことがわかりました。
(12〜15か月だと、様子見や「まだ早いかも」という判断が働きやすい可能性があります。)
-
③ 評価に来た子どもの方が、スクリーニング得点が高かった
診断評価まで来た子どもは、
- スクリーニング時点で 自閉症特性がより強くスコアに表れていた(すべての比較で有意差あり)。
→ 家族が「気になる」「これは見てもらった方がいい」と感じる程度の強さが、数値としても高めに出ていたと言えます。
■ この研究が示すポイント
-
「どの家庭か(属性)」よりも「いつ・どのくらいの強さで陽性になるか」が、評価参加に影響している
- 子どもの背景属性より、
-
スクリーニングのタイミング(特に18か月)
-
スクリーニング得点の高さ(症状の目立ち方)
が重要であることが示唆されました。
-
- 子どもの背景属性より、
-
早期スクリーニング(12〜15か月)では、“説明とフォロー”がより重要になる
この時期の陽性は参加率が低いため:
-
「今の月齢で何がわかるのか」
-
「なぜ今、評価を受ける意味があるのか」
を丁寧に説明し、フォローアップの仕組みを整えることが重要と考えられます。
-
-
介入や政策を考える上で、「属性別格差」だけを追うのでは不十分
本研究は、スクリーニングの設計やタイミングそのものが“評価につながるかどうか”を左右するという視点を強調しており、
「誰をスクリーニングするか」だけでなく、「いつ・どうフィードバックして支援につなぐか」が重要であることを示しています。
■ 一言まとめ
自閉症スクリーニング後の診断評価につながるかどうかは、家族の属性よりも「初回陽性の月齢(特に18か月)」と「スクリーニング得点の高さ」に左右されており、スクリーニングの設計と結果の伝え方・フォロー体制そのものを重視すべきだと示した研究です。
Associations between identity perception, symptom severity, and quality of life in adolescents with ADHD
*ADHDの“症状そのもの”よりも
“自分はADHDだという捉え方”のほうが
思春期の生活の質を左右していた——**
自己認識(identity)の観点からADHDのQOLを分析した最新研究
原題:Associations between identity perception, symptom severity, and quality of life in adolescents with ADHD
掲載:Scientific Reports(2025年11月・オープンアクセス)
対象:ADHDを持つ 11〜18歳の154名
■研究の背景:思春期は“自分は誰か?”を考え始める時期
ADHDは注意・衝動などの困難だけでなく、
「自分はADHDである」という自己認識(illness identity)
が、思春期の生活の質(HRQoL)に影響する可能性があります。
本研究では、ADHDの思春期において、
- 症状の強さ
- 自分の診断をどう受け止めているか(identity)
- 生活の質(QOL)
の関係を統計的に分析し、どの要因がQOLに最も関係するのかを明らかにしました。
■研究が扱った“4つの診断アイデンティティ”
思春期が診断をどう捉えるかを4タイプに分類:
-
Acceptance(受容)
診断を一部として受け入れ、建設的に扱う
-
Enrichment(成長)
診断を人生理解や成長の材料として捉える
-
Rejection(拒否)
診断を否定し、自分と結びつけない
-
Engulfment(没入)
“自分はADHDだからダメなんだ”
というように、診断が自己 concept を覆ってしまう状態
この研究では Engulfment(没入) が鍵となりました。
■主な結果(最重要ポイント)
① ADHDの子どもたちの多くは「受容」レベルが高く、“拒否”や“没入”は低めだった
思春期のADHD当事者は:
- もっとも高いのは Acceptance(受容)
- もっとも低いのは Rejection(拒否) と Engulfment(没入)
つまり、多くの子は診断を適度に受け入れている傾向がありました。
*② 症状の強さと identity には関係がある
→ 特に「不注意」が強いほど“没入(engulfment)”が増える**
症状の中でも inattention(不注意) が強いほど:
-
“自分はADHDだからできない”という
Engulfment(診断への過剰アイデンティティ) が高まりやすい
③ QOLを最も下げていたのは“症状の強さ”ではなく“没入(engulfment)”だった
統計分析で最も重要だった結果:
生活の質(HRQoL)を強く下げていたのは
ADHD症状そのものではなく、
“自分はADHDでダメだ”という没入(Engulfment)だった。
つまり:
- “症状が重いからQOLが低い”のではなく
- “診断への否定的な自己イメージ”こそQOLを最も悪化させる
ということ。
④ mediation分析でも“Engulfmentだけ”が症状 → QOL の橋渡しをしていた
モデルの結果:
-
ADHD症状 → Engulfment(没入) → QOL低下
という“間接効果”が有意
-
他の identity(受容・拒否・成長)は媒介せず
👉 没入(engulfment)が「ADHD症状がQOLに影響する唯一のルート」だった。
⑤ ポジティブな社会経験(supportive peers・理解ある環境)は、健康的な認識形成を促す
- 友人に受け入れられている
- 教師が理解してくれる
- 家族がサポート的である
などの社会的経験は、没入を下げ、受容を高めると示された。
■この研究が示す臨床・支援への提案
✔症状管理(薬物・行動療法)だけでは不十分
QOL向上には「identity(自己認識)」の介入が不可欠。
✔特に“Engulfment”を減らす支援が最重要
例:
- 自尊心支援
- 強みベース介入
- 自己イメージの再構築
- ピアサポート
✔ポジティブな社会経験が健康なアイデンティティ形成を促す
✔不注意が強い子ほど、自己否定的な診断統合に陥りやすい
■一言まとめ
ADHDの思春期では、
“症状の強さ”よりも
“診断をどう自分の一部として扱うか”が
生活の質を大きく左右する。
特に
「ADHDが自分を支配している(Engulfment)」
という自己イメージはQOLを最も悪化させ、
症状 → QOLの唯一の媒介ルートである
ということが明らかになった。
支援は、症状だけでなく identity(自己認識)への関わりを含めて設計すべきである。
Optimizing prenatal valproic acid exposure in zebra finches to model autism-related phenotypes
歌う鳥“キンカチョウ”で自閉症モデルを作れるか?
バルプロ酸(VPA)曝露の“最適条件”を探った最新研究
原題:Optimizing prenatal valproic acid exposure in zebra finches to model autism-related phenotypes
掲載:Psychopharmacology(2025年11月)
■なぜキンカチョウ(zebra finch)なのか?
ASD研究では、長年 マウスやラット が使われてきました。
しかし、ASDの複雑な特徴——
- 高度な社会行動
- コミュニケーション(特に音声学習)
は、げっ歯類では再現しにくいという限界があります。
▶ キンカチョウは、「歌を学ぶ」「群れで生活する」など
ヒトの社会性・音声学習に近い特性を持つため、次世代のASDモデルとして注目されています。
本研究は、胚期のバルプロ酸(VPA)曝露をキンカチョウに応用し、
“どのタイミング・どの量なら、生存性を保ちながらASD様の社会行動変化を引き出せるか”
を調べるものです。
■研究デザイン(3×3 実験)
◇ VPA投与量(3条件)
- 0 μmol(対照)
- 0.3 μmol
- 0.6 μmol
◇ 投与日(胚期の3条件)
- 孵化8日目
- 孵化9日目
- 孵化10日目
合計9条件を比較し、
- 孵化率
- 生存率
- 成長(体重・脚・翼)
- 社会行動(鳥版の「3-chamber test」)
を解析しました。
■主な結果(最重要ポイント)
① 孵化率:0.6 μmolは明確に生存性が低下、特に“8日目投与”が悪い
- 0.6 μmol:孵化成功率が大幅に低下
- 8日目に投与した場合:致死性が高い
- 最適タイミングは“9日目”
👉 高すぎる量・早すぎるタイミングは不適切。
② 成長:0.6 μmolで“メスにだけ”発育遅延が出る
- メスの体重が軽い
- 脚の長さ(tarsus)が短い
- 翼のサイズも縮小傾向
👉 VPAの性差効果(female-specific effect) が示唆される。
③ 社会行動:強い変化は出ないが、“特定行動の偏り”が現れる
鳥用の社会性テスト(3-chamber)では:
● Phase 1(新しい個体への興味)
-
時間ベースの社会性は変化なし
-
しかし 0.6 μmol群は“近い止まり木への接近回数が増える”
→ 行動の「距離選択」に偏り
-
8日目投与群は接近回数が少ない
-
9日目は最もバランス良い(望ましい)
● Phase 2(馴染みの個体への興味)
-
性 × タイミングの相互作用
(8日目のメスはオスより馴染み個体に近づかない)
-
0.6 μmol群では再び接近回数が増加
● 全体の社会性や活動量は“変化なし”
👉 ASD様の「特定の社会行動の偏り(approach bias)」は観察されるが、
全面的な社会行動低下は見られない。
■研究の結論
- キンカチョウは ASDの社会・音声コミュニケーション研究に有望なモデル のまま
- ただし 致死性と行動変化のバランス を取る必要がある
- “9日目・中間量(0.35〜0.50 μmol程度)”が最適条件 と推定
この条件なら:
- 孵化率・生存率を維持でき
- 社会行動に測定可能な変化が引き出せる
■この研究の意義
✔ 鳥類モデルでASDを再現するための
初の詳細な“投与条件マップ”
✔ 社会行動の微妙な偏り=ASDの特徴に近い
✔ 性差(female-specific developmental impact)を示した重要な報告
✔ 音声学習・社会性研究への応用が期待される
■一言まとめ
キンカチョウを使ったASDモデル構築では、
“孵化9日目 × 中間量のVPA”が最も適切。
高用量・早期投与は致死性が高く、
低用量では行動変化が出にくい。
この研究は 鳥類ASDモデル開発の基礎を築く重要なステップ である。
Factor Structure of RRBs in Verbal and Non-Verbal Preschoolers With ASD or Related Characteristics
言語あり/なしで“自閉症の反復行動(RRBs)の構造が違う”ことを示した重要研究
原題:Factor Structure of RRBs in Verbal and Non-Verbal Preschoolers With ASD or Related Characteristics
掲載:Journal of Autism and Developmental Disorders(2025年11月)
■何を調べた研究?
自閉スペクトラム症(ASD)の中核症状のひとつである
限定的・反復的行動(Restricted and Repetitive Behaviors:RRBs) は、
DSM-5 では4カテゴリに分類されています。
しかし、実際のデータでは
- どのように症状がまとまるのか?
- 言語が話せるかどうかで構造は変わるのか?
について、一致した見解がありませんでした。
本研究は、
● 言語がある幼児(Verbal)
● 言語がほぼない幼児(Non-verbal)
を分けて分析し、
RRBがどのような因子(下位構造)に分かれるかを調べています。
■方法(ざっくり)
- 平均年齢 57.1か月(約4〜5歳)のASD/ASD疑いの幼児データを使用
- ADI-R(面接)に含まれる RRB 項目で**因子構造(factor structure)**を分析
- RRB因子と以下の臨床特性との関連を検討:
- ADOS(自閉症症状の重さ)
- CBCL(内面化/外在化問題)
- Vineland-II(適応行動)
■結果(最重要ポイント)
✔言語あり(Verbal)の幼児:RRBは「3つの因子」
- RSMB(感覚・運動的な反復行動)
- 手をひらひらさせる、物を並べる、身体反復など
- IS(同一性保持・こだわり)
- ルーティンへの固執、変化への抵抗など
- SPEECH(言語に関わる反復行動)
-
反響言語、フレーズの繰り返し など
→ ★“言語がある子だけに現れる独自の因子”
-
✔言語なし(Non-verbal)の幼児:RRBは「2つの因子」
- RSMB(感覚・運動的反復)
- IS(こだわり)
→ ★SPEECH因子は存在せず
■臨床指標との関連
●ADOS(RRBの重症度)
-
Verbal/Non-verbal 共通で
ADOSでRRBが重いほど、“RSMB”が悪化
●内面化症状(不安・抑うつなど:CBCL)
-
Verbal のみで関連
-
内面化症状が強いと
RSMB / IS / SPEECH のすべてが悪化
●適応行動(Vineland)
- Verbal/Non-verbal 共通
- 社会適応が低いほど RSMB悪化
■この研究が示す重要な示唆
✔RRBの構造は“言語の有無”で変わる
DSM-5は4カテゴリを横並びで示しているが、
実際には **発達レベル(特に言語の有無)**により、RRBのまとまり方が異なる。
✔“言語由来の反復行動(SPEECH)”は言語がある子だけの特徴
-
反響言語、語句反復などは、
“ASD幼児のRRBの独立した因子”として認められる。
✔診断・評価では子どもの言語レベルを独立に考える必要がある
同じ「RRBの多さ」でも、
VerbalとNon-verbalでは内訳が異なるため、
- 介入方針
- 行動理解
- プロファイル作成
に影響する。
■一言まとめ
言語のあるASD幼児では、反復行動は「感覚・運動」「こだわり」に加えて、“SPEECH(言語反復)”の3因子に分かれるが、言語のない幼児では2因子にとどまる。
RRBの構造は発達レベルによって異なり、
現行のDSM分類には反映されていない重要な違いである。
Deep neural networks and deep deterministic policy gradient for early ASD diagnosis and personalized intervention in children
深層学習+強化学習で「ASDの早期診断」と「個別化介入」を同時に最適化する新モデル
原題:Deep neural networks and deep deterministic policy gradient for early ASD diagnosis and personalized intervention in children
掲載:Scientific Reports(2025年11月)
特徴:オープンアクセス
■この研究は何をした?
ASD(自閉スペクトラム症)の
- 早期診断をより高精度に行うこと
- 子どもごとに最適な介入内容・頻度を自動で提案すること
を目指し、
➤深層学習(DNN)×強化学習(DDPG)
を統合した新しいシステムを開発した研究です。
従来の診断支援は「分類」どまりで、
介入は専門家の判断に依存していましたが、
本研究は “診断 → 介入計画 → 改善予測” まで自動化できる点が大きな特徴です。
■方法
①深層学習(DNN)による ASD 早期診断モデル
使用したデータ:
-
Arkansas大学データ
-
Vaishnavi Sirigiri dataset
-
Afarin Bargrizan dataset
→ 幼児〜青年まで幅広い ASD/非ASD サンプル
入力特徴量の例:
- QCHAT-10スコア
- 行動指標・社会性指標
- 国籍・民族などの人口統計データ
特徴量選択には LASSO・Random Forest など複数の方法を併用。
②DDPG(強化学習)による個別化介入の最適化
強化学習で次を自動調整:
- 介入種類(例:行動療法、情動調整訓練、社会スキルトレーニングなど)
- 介入頻度
- セッション強度(Intensity)
- 12ヶ月間の継続シミュレーション
データは仮想コホートを利用し、
毎月の社会性・行動・感情スコアを改善する方向に最適化。
■主要結果
✔診断モデル(DNN)
非常に高い識別性能を達成:
| 指標 | 数値 |
|---|---|
| 精度(Accuracy) | 96.98% |
| 精度(Precision) | 97.65% |
| 再現率(Recall) | 96.74% |
| ROC AUC | 99.75% |
ランダムフォレストやロジスティック回帰より明確に優秀。
重要な特徴量
-
QCHAT-10 Score(最も重要)
-
Ethnicity(民族的背景)
など。
✔DDPGによる介入最適化(12ヶ月)
仮想シミュレーションの結果:
- 社会性の改善:最大 +25%
- 問題行動の減少:最大 -30%
- 情動安定性の改善:最大 +20%
- 高リスクASDグループの割合:65% → 25% に減少
→ 介入が自動調整されることで、全体的な改善が大きく向上
■この研究の意味
✔AIが“診断+最適介入策”の両方を提案する未来の実装例
- 医療アクセスの地域差を縮小
- 臨床家の判断を支援
- 資源の少ない地域でも介入の質を一定以上に保てる
✔「個別化されたASDケア」の具体的な道筋を提示
- 子どもの特徴に合わせた介入タイプの調整
- 月ごとの経過を見ながら自動最適化
- 保護者や専門家への意思決定支援にも活用可能
■一言まとめ
深層学習で ASD の早期診断精度を大幅に高め、
強化学習(DDPG)で子どもごとに最適な介入計画を12ヶ月間自動で最適化する、
“診断〜支援” を一体化した革新的なAIシステムの研究です。
臨床応用にはさらなる実証が必要ですが、
個別化療育の未来像を具体的に示した重要な一歩と言えます。
Family Navigation Engagement and Outcomes for Children With a New Autism Diagnosis
家族ナビゲーション(Family Navigation)は本当に効果がある?—新規ASD診断家庭のエンゲージメントとサービス受給を分析した研究
原題:Family Navigation Engagement and Outcomes for Children With a New Autism Diagnosis
掲載:Journal of Autism and Developmental Disorders(2025年11月)
■研究の目的
家族ナビゲーション(Family Navigation:FN)は、
- 医療アクセスの格差を減らす
- ASD診断後の支援につながりやすくする
と期待されている介入です。
特に Medicaid 受給家庭や Hispanic/Latino・Black/African-American など
歴史的にサービスにつながりにくい家庭に対して有効と言われています。
本研究はこれらの家庭を対象に、
- FN の4段階(募集・登録・継続・関与)のエンゲージメント率を調べる
- どの家庭属性が参加しやすいか/しにくいかを分析する
- ナビゲーターとの関わりの量が、ASD関連サービスの受給にどれほど影響するかを検証する
ことを目的としました。
■方法:対象と介入内容
● 対象
292 家族(Medicaid受給 or Hispanic/Latino or Black/African-American)
スペイン語話者が多く含まれる。
● 介入内容
- スペイン語・英語に堪能な バイリンガル/バイカルチュラルのナビゲーターが支援
- 半構造化セッション
- 追加の短時間コンタクト(電話・メッセージなど)
→ 家族が医療・療育サービスにつながるよう伴走支援
■主な結果
✔ 1.エンゲージメント率(4段階)
| 段階 | 割合 |
|---|---|
| 募集(Recruitment) | 71.9%(210/292) |
| 登録(Enrollment) | 73.8%(155/210) |
| 継続(Retention) | 研究内で比較的良好 |
| 関与(Involvement) | コンタクト回数は家庭により差あり |
→ 約半数の家庭が FN プログラムに実際に参加し続けた
✔ 2.参加しやすい家庭の特徴
最も強力な予測因子は 英語以外の言語を使う家庭(主にスペイン語)
-
英語以外の言語を優先する家庭は
登録率が約5倍高かった(OR=5.15)
-
ナビゲーターとの接触回数も多かった
→ 文化的・言語的にマッチした支援が大きな要因
✔ 3.ナビゲーターの関わりはサービス受給に直結
- FNセッション1回追加ごとに、ASDサービス受給率 +61%
- 短時間コンタクト1回ごとに +17%
つまり:
📌 セッションと細かな連絡が積み重なるほど、療育・医療サービスにつながりやすい
■結論
- Family Navigationへの登録自体は難しいが、登録した後はサービス受給を大きく改善する
- 英語以外の言語(主にスペイン語)家庭はむしろ参加率が高く、文化・言語マッチが鍵
- 短い連絡とセッションの両方が重要で、積み重ねるほどサービスにつながる
■この研究の意義
- サービス格差を埋めるための現実的な介入として FN の有用性を確認
- 特に 歴史的に支援につながりにくい家庭をサポートするための力 を示した
- 多言語対応・文化的理解の重要性が明確に
→ 制度的支援が届きにくい家庭に対して、Family Navigationは強力な橋渡しとなる
Associations between identity perception, symptom severity, and quality of life in adolescents with ADHD
ADHDの「アイデンティティ」と生活の質はどう関係する?—思春期の自己認識に焦点を当てた研究
原題:Associations between identity perception, symptom severity, and quality of life in adolescents with ADHD
掲載:Scientific Reports(2025年11月)
■研究の背景
思春期は自己形成の中心的な時期です。
ADHDは「症状として生活を妨げる」だけでなく、
自分が自分をどう捉えるか(アイデンティティ)に深く影響することが指摘されています。
本研究が中心的に扱う概念が “Illness Identity(疾患アイデンティティ)”。
これは、診断が自分のアイデンティティにどう組み込まれているかを示し、
4つの次元からなります:
-
Engulfment(呑み込まれ)
→「自分=ADHD」「ADHDが人生を支配している」と感じる状態
-
Rejection(拒否)
→診断を否定、受け入れたくない
-
Acceptance(受容)
→診断を一部として受け入れ、対処方法として理解
-
Enrichment(成長資源として統合)
→診断を自分の強みや経験の一部として肯定的に解釈
■研究の目的
154名の11〜18歳の思春期ADHD当事者を対象に、
- 症状の重さ
- ADHDという診断の受け止め方(アイデンティティ)
- 生活の質(HRQoL)
がどのように関連するかを分析した。
■主な結果
✔ 1. 思春期ADHDの多くは「受容」が高い
他の次元と比較して、
最も高いスコアは Acceptance(受容)。
つまり、多くの若者は診断をある程度受け入れている。
✔ 2. しかし、症状が重いほど「呑み込まれ(Engulfment)」が強まる
特に 不注意症状 が強いと、
ADHDが自分を支配しているように感じやすい。
✔ 3. 「呑み込まれ」は生活の質を大きく下げる
注目すべき点:
📌 Engulfment は、症状の重さよりも強く生活の質(HRQoL)を下げていた
ということ。
これは非常に重要な知見で、
「症状そのものより、“症状をどう捉えているか”が生活の質に大きな影響を与える」
ことを示す。
✔ 4. ポジティブな社会的経験は“呑み込まれ”を軽減し、健康的な自己認識を促す
友人関係・教師・家族のサポート、肯定的な経験が
ADHDアイデンティティの健全な形成に寄与することが示唆された。
✔ 5. 仲介解析(メディエーション分析)の結果
症状の重さ → 生活の質 の関係は、
以下によってのみ説明された:
👉 Engulfment(呑み込まれ)
他のアイデンティティ次元は仲介要因にならなかった。
■結論:臨床的重要点
-
症状管理だけでは不十分
-
思春期のADHD支援には、“アイデンティティ形成”の視点が不可欠
-
特に “呑み込まれ(engulfment)” を減らすことが
生活の質向上につながる
推奨される介入の方向性
- 診断の意味づけを支える心理教育
- 「ADHDが全てではない」ことを伝える支援
- ポジティブな社会的つながりを強化する
- 自尊心や自己概念を育てるアプローチ
- 当事者の強みの可視化・実感を促す
■この研究の意義
- ADHD研究に新たな視点:「診断の受け止め方」が予後に重要
- 生活の質を改善するには症状だけでなく 心理的アイデンティティへの介入 が必要
- 若者の自己概念を中心に据えた支援を行うための重要なエビデンス
Beyond the Diagnosis: A Qualitative Phenomenological Exploration of ADHD in Medical Students and Professionals in Türkiye
医学生・医療者のADHDの“リアルな経験”を描く:トルコ発・質的現象学研究
原題:Beyond the Diagnosis: A Qualitative Phenomenological Exploration of ADHD in Medical Students and Professionals in Türkiye
著者:Muhsin Öznaneci
掲載:Teaching and Learning in Medicine(2025)
■研究の目的:診断だけでは語れない「医学生・医療者ADHD当事者の経験」
ADHD は成人期まで持続しやすく、
特に 高負荷・高ストレス環境である医学教育や臨床現場では、
困難が表面化しやすい特徴があります。
しかし、
- 医療者がどんな困難を経験しているのか
- ADHDが臨床能力にどう影響するのか
- どんな強みを持ち、どう活かしているのか
- 医療機関の環境はどう影響しているのか
といった “当事者の声” を深く扱った研究はほとんどない。
この研究は、そこに真正面から向き合っています。
■研究方法:トルコ全国の医学生・医師13名への現象学的インタビュー
方法:
- トランセンデンタル現象学(Moustakasの5段階)
- Zoomで半構造化面接(2025年2〜4月)
- 医学生〜医師まで幅広い職種
- 当事者自身の語りから“本質的経験”を抽出
研究者自身も内省(reflexivity)を行い、
外部監査による質保証も実施。
■主要結果:ADHDを抱える医学生・医療者の経験の“二面性”
◆① 循環する困難:日々の機能に深く影響
参加者は共通して、負のサイクルを語った:
- 慢性的な先延ばし(procrastination)
- 時間管理の破綻
- 衝動性によるミスや対人トラブル
- 記憶の抜け落ち
- 感情の揺れ・自己批判
これらは、
“怠けている/要領が悪い” と誤解されやすい症状に直結。
さらに、
医療教育・医療現場のスティグマや配慮の欠如
が困難を悪化させていた。
◆② しかし同時に「強み」が発揮される局面がある
多くの参加者が、ADHDに伴う認知的強みも強調した:
- 緊急時における高速意思決定
- ハイパーフォーカスによる高い集中力
- 創造的問題解決力
- 直感的な判断の速さ
- 柔軟性
→ 医療分野では“状況しだいで非常に強みになる”。
◆③ 個人的な対処法(coping)
参加者は多様な戦略を駆使していた:
- 行動療法や心理療法
- メンターをつける
- 予定管理アプリ・ガントチャート等のツール活用
- 環境調整
- 明確な構造化とルーティン化
→ しかし、個人努力に依存しすぎているとの声も。
◆④ 何よりも必要なのは “制度的支援”
参加者が強く求めていたのは:
- 柔軟な時間割・勤務形態
- 神経多様性への理解教育
- 合理的配慮(accommodations)
- ADHDを理解したメンタリング
- スティグマの解消
医学部・病院がADHDを正式に認識しサポートすることで、
バーンアウトや離職を防ぎ、
当事者が本来の力を発揮できると示唆。
■結論:ADHDは「欠陥」ではなく、“条件付きの才能+支援ニーズ”
研究の最終メッセージ:
-
ADHDの医学生・医療者は
困難と強みが共存する“二面性”の経験を持つ
-
現在の医学部・病院はその強みを活かし切れていない
-
制度化された支援と文化的変革があれば
彼らは臨床現場で大きな価値を発揮する
■この研究が示すインパクト
✔ 医療者のADHDは「個人の問題」でなく「組織文化の問題」
✔ ADHD医学生を支える教育プログラムが必要
✔ 医療現場における神経多様性の正当な位置づけが欠かせない
✔ 当事者の経験に基づく実際的な改善策が得られる
臨床・教育・人事の現場にとって、極めて重要な示唆を含む研究です。
Frontiers | Available resources and inclusive practices for students with special educational needs: perceptions of Brazilian and Portuguese teachers
*ブラジルとポルトガルの教師は「インクルーシブ教育の資源と実践」をどう見ているか
― 特別支援教育の国際比較が示す“現場のリアル”**
原題:Available resources and inclusive practices for students with special educational needs
国:ブラジル & ポルトガル
領域:インクルーシブ教育/特別支援教育
掲載:Frontiers(2025・最終版待ち)
■研究の目的
本研究は、特別な教育的ニーズ(SEN:Special Educational Needs)をもつ児童生徒を担当する ブラジルとポルトガルの教師の「認識」 を比較し、
- 利用可能なインクルージョン資源
- 実際に行われているインクルーシブ実践
- それらに影響する教師の属性(年齢・経験・研修歴など)
を明らかにすることを目的としています。
■参加者と背景
| 指標 | ブラジル(N=85) | ポルトガル(N=94) |
|---|---|---|
| 平均年齢 | 43.6歳 | 54.5歳 |
| 女性割合 | 高い | 高い |
| 教職経験 | 20年未満が多い | 20年以上が多い |
| 主な担当 | 乳幼児~初等教育 | 中学校段階 |
| 特別支援教育の研修受講 | 70% | 42% |
→ ブラジルは若い教師が多く初等段階担当、ポルトガルはベテランが多い という特徴。
■使用した測定ツール
● Resources and Practices for Inclusive Education
- 資源(9項目):教材・支援スタッフ・環境調整など
- 実践(15項目):協働学習、個別化指導、柔軟な評価など
オンラインで回答。
■主要結果:両国に大きな違いが見られた
①“インクルージョン資源がある”と感じている割合
- ポルトガル:80%
- ブラジル:34%
→ ポルトガルの方が圧倒的に「資源が整っている」と認識している。
→ ブラジル側では、制度的・物理的資源の不足感が明確。
②インクルーシブ実践は両国とも非常に高い
- 98% の教師がインクルーシブ実践を行っていると回答
→ 資源の認識の差とは対照的に、実践意欲は両国とも非常に高い。
■ブラジル教師に見られた特徴
-
SEN児が多いほど
→ 資源の整備を実感し、実践の質も高まる
-
特別支援教育の研修を受けている教師
→ 資源の認識も実践の質も向上
-
教職経験が短い教師や、ASD+他の障害が混在するクラスを担当する教師
→ 「資源不足」をより強く感じている
→ 研修機会と経験の有無が、資源認識と実践を左右している。
■ポルトガル教師に見られた特徴
-
“資源がある”と感じる教師ほど、インクルーシブ実践の質も高い
-
追加的支援策(特別な配慮、補助サービスなど)を利用している教師
→ 実践レベルがさらに高い
→ 資源→実践という明確な関連がポルトガルでは確認された。
■総合結論:整備状況は違えど、教師の努力は共通して高い
本研究が示すポイント:
-
ポルトガルは 制度的・資源的な支援が充実
-
ブラジルは 資源不足だが、研修と経験が実践力を補完
-
両国とも 実践の意欲と実行率は非常に高い(98%)
-
インクルーシブ教育の成功には
“資源の整備 × 教師研修 × 経験の蓄積” が不可欠
特にブラジルでは、
若手教師やASDを含む複合ニーズを担当する教師への 資源提供と研修機会の強化 が重要であると示唆されています。
■誰に役立つ研究か?
- 特別支援教育・インクルージョン政策の担当者
- ASDを含む多様な学習者を支援する教師
- 国際比較による教育改善を考える研究者
- 教師研修プログラムの設計者
Frontiers | "Exploring the Interplay of Neuropsychological Functions, Psychological Wellbeing, and Lifestyle through Principal Component Analysis: A Comprehensive Study"
*ティーンの「こころ・生活習慣・脳の働き」はどう結びつく?
神経心理・心理的ウェルビーイング・生活習慣を主成分分析で紐解いた研究**
原題:Exploring the Interplay of Neuropsychological Functions, Psychological Wellbeing, and Lifestyle through Principal Component Analysis
領域:発達心理学/神経心理/公衆衛生
対象:健康な10代の若者(N=523)
掲載:Frontiers(2025・最終版待ち)
■研究の目的
ティーンエイジャーの脳の働き(ワーキングメモリ・流動性知能・情動認知・リスク判断・ADHD症状など)は、
- 心の健康(心理的ウェルビーング)
- 身体活動
- アルコール・タバコ経験
とどのように関連しているのか?
この研究は、主成分分析(PCA) を用いて複数の神経心理機能をまとめて指標化し、
生活習慣や心理状態との関連を明らかにしています。
■方法:主成分分析で“脳の働きのまとまり”を抽出
対象:
バルセロナのWalnuts Smart Snack Trialに参加した健康な10代 523名(横断研究)
測定した神経心理指標:
- ワーキングメモリ
- 流動性知能
- 情動認知
- リスク選択行動(hot EF)
- ADHD症状
これらをまとめてPCAで分析したところ、2つの主成分(PC) が得られた。
■抽出された2つの“脳の働きPC”
PC1:ADHD symptoms(ADHD症状を中心とした成分)
ADHD傾向を反映する主成分。
PC2:Hot Executive Functions(情動が関わる実行機能)
感情負荷のある状況での意思決定・リスク判断など「hot EF」を反映。
→ 神経心理機能が2つの軸に整理できることを示した点が本研究の基盤。
■主要結果:心理状態・生活習慣と“脳の働き”の関係
✔① 心理的ウェルビーングが低いほど、ADHD症状PCが高い
(β = -0.04, p < 0.001)
→ メンタルの不調に近い状態は、
ADHD様の注意・衝動の問題と関連しやすい。
✔② アルコール経験・喫煙経験は、ADHD症状PCと明確に関連
- アルコール使用経験:β = 0.26
- 喫煙経験:β = 0.66
→ 飲酒・喫煙経験があるほど、ADHD症状PCが高い。
特に喫煙との関連が強い。
✔③ 中〜高強度の身体活動は hot EF の向上と関連
(β = 0.09, p = 0.041)
→ 運動習慣が「情動が交わる意思決定能力」を支えている可能性。
■この研究の示唆
● 心の健康が良くない → ADHD的な認知機能の問題が強まる
ストレスや低ウェルビーングが、
注意・衝動系の問題を悪化させることを支持。
● アルコール・タバコ経験は「ADHD症状的な認知」とリンク
ティーンのリスク行動の背景にある
衝動性や注意調整の難しさ と関連。
● 運動習慣は「hot EF」を強める
感情に左右されず判断できる力(hot EF)は、
運動を通して強化される可能性。
■まとめ:10代の“心 × 生活習慣 × 認知”の密接なつながり
本研究は、
- 脳の働き(実行機能・ADHD症状)
- 心の状態(ウェルビーング)
- ライフスタイル(運動・飲酒・喫煙)
の間に強い相互関係があることを示しました。
特に:
- 心理的ウェルビーングの低下と、飲酒・喫煙経験が ADHD症状PCと強く結びつく
- 身体活動は「hot EF」にプラス効果
という点は、
学校教育・公衆衛生・青年期支援において重要な知見です。
