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知的障害を伴わない学齢期ASDの性差

· 約27分
Tomohiro Hiratsuka
CEO of Easpe, Inc

本記事は、発達障害領域の最新研究として、①成人ADHDの睡眠問題(睡眠の質低下と不眠・RLS・パラソムニアの高頻度、混合型や不安/PTSD等の併存で悪化しやすい)を扱う臨床研究、②知的障害を伴わない学齢期ASDの性差(女児は反復行動が目立ちにくい一方、日常場面の感情調整や切り替え等の実行機能困難が強い)を示す比較研究、③ASD児の適応機能評価における親‐教師の不一致を潜在プロファイルで整理しIQや実行機能との関連を検討した研究、④最小限発話(Minimally Verbal)ASDの遺伝学的背景(遺伝的診断が比較的高率だが臨床像は一様でなく、未解明要因の可能性)を扱う研究、⑤ノルウェーの郡レベルで鉛曝露・都市化とASD有病率の関連を検討した生態学研究、⑥ASD児の粗大運動に対する運動介入の有効性を統合したメタ分析(特に陸上スポーツと中等量の介入が有効)、⑦ASDのTheory of Mind課題時の脳ネットワーク差をfMRIメタ分析で示す神経科学研究、⑧ASDとBPDの鑑別におけるカモフラージュと語用論・ジェンダー差を扱う調査研究、⑨知的障害のある人向け心理療法の“適応”方法を整理したシステマティックレビュー――をまとめ、診断・支援・介入・環境要因・神経基盤まで、発達特性を多面的に捉える必要性を示す内容になっています。

学術研究関連アップデート

Prevalence of Sleep Disorders in Adults with Attention Deficit Hyperactivity Disorder (ADHD): The Impact of Comorbidity and ADHD Subtype

この論文は、成人期のADHD(注意欠如・多動症)において、睡眠の質や睡眠障害がどの程度みられるのか、またADHDのタイプや精神疾患の併存が睡眠にどのような影響を与えるのかを明らかにした臨床研究です。これまで睡眠問題は主にADHD児で注目されてきましたが、成人ADHDの睡眠実態を体系的に調べた研究は限られていました

研究はアイルランドの成人ADHD専門外来で行われ、成人ADHD患者148名年齢・性別をそろえた対照群43名を比較しています。ADHDの診断はDSM-5に基づく標準的な臨床評価で行われ、睡眠については、

  • 睡眠の質(PSQI)
  • 不眠、睡眠時無呼吸、むずむず脚症候群、概日リズム障害、ナルコレプシー、パラソムニアなどの症状を幅広く評価できるチェックリスト(SDS-CL-17)

を用いて評価されました。

その結果、ADHDのある成人は、対照群に比べて睡眠の質が明らかに悪く、多くの睡眠障害症状を抱えていることが示されました。特に、

  • 不眠症状
  • むずむず脚症候群(RLS)
  • パラソムニア(睡眠中の異常行動)

はADHD群で高頻度にみられました。一方、ナルコレプシーについては、用いた質問票が過剰に陽性を示す傾向があり、注意が必要であることも指摘されています。

さらに重要な点として、ADHDのサブタイプによる違いが明らかになりました。

  • 不注意優勢型よりも
  • 混合型(不注意+多動・衝動性)

のほうが、不眠、RLS、パラソムニアの頻度が高く、睡眠問題がより重い傾向を示しました。また回帰分析では、睡眠の質の悪さは、混合型ADHDであることに加え、不安障害、摂食障害、PTSD(心的外傷後ストレス障害)といった精神疾患の併存とも強く関連していました。

一言でまとめるとこの論文は、

「成人ADHDでは睡眠障害が非常に一般的であり、とくに混合型ADHDや不安・トラウマ関連疾患を併存する場合に睡眠の問題が深刻になりやすい。成人ADHDの診療では、睡眠の系統的な評価と介入が不可欠である」

ことを示した研究です。ADHD症状そのものだけでなく、睡眠障害を見逃さずに評価・治療することが、診断の精度向上や生活機能の改善につながるという、臨床的に非常に実践的な示唆を与えています。

Sex/gender differences in autistic traits, intelligence and executive functions of school-aged autistic children without intellectual disability

この論文は、知的障害を伴わない学齢期の自閉スペクトラム症(ASD)児において、性別(セックス/ジェンダー)による特性の違いがどこに現れるのかを、自閉特性・知能・実行機能という複数の側面から詳しく検討した研究です。ASDはこれまで男児を中心に研究・診断基準が作られてきたため、女児のASDが見逃されやすい・診断が遅れやすいという問題意識が背景にあります。

研究対象は、6〜12歳のASD児79名(女児20名、男児59名)で、いずれも知的障害を伴わない子どもです。評価には、

  • 自閉特性:ADOS-2(観察評価)とADI-R(保護者面接)
  • 知能:Woodcock–Johnson 知能検査
  • 実行機能
    • 認知課題(WCST:ウィスコンシン・カード分類テスト)
    • 日常行動評価(BRIEF-2:保護者報告)

といった、臨床・研究で広く用いられる標準的な検査が用いられました。

主な結果として、女児と男児ではASDの現れ方に明確な違いがあることが示されました。

  • 女児は男児に比べて

    • 限定された興味

    • 反復的・常同行動

      といった「典型的にASDと結びつきやすい行動」が少ない傾向を示しました。

  • 一方で女児は、

    • 感情調整(Emotion Regulation)
    • 認知的調整(Cognitive Regulation)
    • 切り替え(Shift)
    • 自発的な行動開始(Initiate)

    といった実行機能の困難さが、日常生活レベルではより強く現れていることが、BRIEF-2で明らかになりました。

  • 知能(IQ)そのものには、男女差は大きく見られませんでした。

著者らは、この結果を、**「女児は目立ちやすい反復行動が少ないためにASDと気づかれにくい一方で、内在化しやすい困難(感情調整・切り替え・主体的行動)が強く、別の形で日常生活に支障をきたしている」**可能性として解釈しています。これは、不安障害や気分の問題として扱われ、ASDの診断に結びつかないケースがあることとも整合的です。

一言でまとめるとこの論文は、

「知的障害を伴わないASDの女児は、反復行動が少ない一方で、感情や実行機能の困難が強く、男児とは異なる形でASD特性が現れる。こうした違いを踏まえないと、女児のASDは見逃されやすい」

ことを示した研究です。診断・支援の現場において、“男児モデルのASD像”だけに依存しない評価視点の重要性を示しており、女児の早期発見と適切な支援につなげるための実証的根拠を提供する論文といえます。

Profiles of parent-teacher discrepancy on autistic children's adaptive functioning

この論文は、自閉スペクトラム症(ASD)のある子どもの「適応機能(生活に必要な実用的・社会的スキル)」について、保護者と教師の評価がなぜ食い違うのか、そしてその違いが子どもの特性とどう関係しているのかを明らかにした研究です。臨床現場では、家庭と学校という異なる文脈での行動を把握するために複数の評価者(マルチインフォーマント)から情報を集めることが推奨されていますが、評価が一致しない場合の解釈は難しいという課題があります。

研究対象は、Pathways in ASD に参加しているASD児194名(平均9.2歳、約86%が男児)で、保護者と教師の双方が適応機能を評価しました。解析には潜在プロファイル分析が用いられ、評価の「高低」だけでなく、親と教師の評価パターンの組み合わせに基づいて子どもを分類しています。

その結果、次の4つのプロファイルが見いだされました。

  1. 親の評価が高く、教師の評価が低い低適応機能群
  2. 親・教師ともに中程度と評価する群
  3. 親・教師ともに高いと評価する群
  4. 教師の評価が高く、親の評価が低い高適応機能群

とくに注目すべき点は、**「教師の評価が高い高適応機能群」**の子どもは、教師から見た実行機能の困難が少なく、IQも高い傾向があったことです。一方で、同じ子どもでも家庭では異なる困難が観察されている可能性が示唆されました。つまり、評価の不一致は単なる誤差ではなく、環境(家庭・学校)によって子どもの力の発揮され方が異なることを反映していると考えられます。

一言でまとめるとこの論文は、

「ASD児の適応機能に関する親と教師の評価の食い違いには、一定のパターンがあり、それぞれが子どものIQや実行機能などの特性と結びついている。評価の不一致そのものが、臨床的に意味のある手がかりになり得る」

ことを示した研究です。診断や支援計画を立てる際に、“どちらの評価が正しいか”ではなく、“なぜ違って見えるのか”を理解することの重要性を明確に示しており、家庭と学校をつなぐ支援設計に実践的な示唆を与える論文と言えます。

Frontiers | ANALYZING THE GENETIC PROFILE OF AUTISTIC CHILDREN AND ADOLESCENTS WITH MINIMAL VERBAL ABILITIES

この論文は、5歳を過ぎても発話がごく限られている(Minimally Verbal:MV)自閉スペクトラム症(ASD)の子ども・青年において、どの程度「特定できる遺伝的要因」が見つかるのか、そして遺伝的診断の有無で臨床像に違いがあるのかを初めて体系的に検討した研究です。重度の言語障害を伴うASDでは、原因理解や予後予測、家族支援の観点から遺伝学的検査の重要性が指摘されてきましたが、MV群に特化した知見は限られていました。

研究は、Ospedale Pediatrico Bambino Gesù IRCCSを中心に、MVのASD児・青年60名を対象とした横断研究として実施されました。参加者は複数の遺伝学的検査を受け、あわせて**非言語知能(NVIQ)、適応機能、精神症状、親のストレス、ASD特性(ADOS-2)**などが包括的に評価されました。

主な結果は以下の通りです。

  • 22.6%(約4人に1人)で遺伝的疾患が同定され、これは一般的なASD集団(約10%)の約2倍に相当。

  • MVのASDは、

    遺伝的原因が特定されなかった群(n=46)

    特定の遺伝疾患を伴う群(n=14)

    の2群に分類された。

  • 非言語知能(NVIQ<70)や適応機能の低さは両群で同程度で、認知・生活機能に有意差はなかった。

  • ASD症状の重症度(ADOS-2総合得点)は、遺伝的原因が特定されなかった群の方が有意に高い

  • 常同行動・限定興味、情緒行動問題(CBCL)、親のストレスはいずれの群でも高水準で差はなし

著者らは、MVのASDでは遺伝的診断が比較的高率に見つかる一方で、認知や行動の重さは「遺伝的原因の有無」だけでは説明できないと結論づけています。とくに、遺伝的原因が見つからないMV群では、まだ解明されていないMV特有の発達メカニズムが、症状の重さに強く影響している可能性が示唆されました。

一言でまとめるとこの論文は、

「最小限の発話しか持たないASDでは遺伝的疾患の頻度が高いが、症状の重さや生活機能は遺伝診断の有無だけでは決まらない。MVという表現型そのものに固有の、未解明の要因が存在する可能性が高い」

ことを示した研究です。MVのASDに対する遺伝学的評価の意義と同時に、遺伝だけに還元できない臨床理解の必要性を明確にした重要な論文と言えます。

Frontiers | Association between historical lead exposure, population density, and autism prevalence: A county-level ecological study in Norway

この論文は、ノルウェーにおける自閉スペクトラム症(ASD)の有病率の地域差が、過去の鉛曝露や都市化(人口密度)とどのように関連しているのかを検討した、郡レベルの生態学的研究です。ASDの有病率は先進国で大きく増加していますが、その背景にある環境要因の役割は十分に解明されていません。本研究は、とくに「歴史的な鉛曝露」と「都市化に伴う交通由来汚染」の相互関係に着目しています。

研究では、Norwegian Patient Registerに登録されたデータを用い、1999〜2005年生まれの6〜12歳児におけるASD有病率を郡ごとに算出しました。幼少期の鉛曝露の指標として、1990〜1994年に収集された乳歯中の鉛濃度(約2,700検体)が用いられています。また、2002年の人口密度を都市化・車両排出ガスの代理指標としました。比較のため、ASDとは異なる神経発達症であるADHDや**脳性麻痺(CP)**が「ネガティブコントロール」として分析に含まれています。

主な結果は以下の通りです。

  • 過去の鉛曝露が高い郡ほど、ASD有病率は低いという逆相関が認められました(p < 0.01)。

  • 人口密度(都市化)は単独ではASD有病率と有意な関連を示しませんでしたが、鉛曝露を同時に考慮すると有意な正の関連が現れました。

    → これは、鉛が都市化(交通汚染)の影響を“覆い隠していた(サプレッサー効果/負の交絡)”可能性を示唆します。

  • ADHDや脳性麻痺では、鉛曝露・人口密度いずれとも有意な関連は見られませんでした。

  • 感度分析(別の出生コホート、外れ値の除外)でも、同様の傾向が概ね確認されました。

著者はこれらの結果を、鉛曝露そのものがASDを予防するという意味ではなく、過去に高かった鉛曝露が、都市化や交通由来汚染の神経発達への影響を統計的に見えにくくしていた可能性として解釈しています。鉛使用の規制が進み曝露が減少したことで、別の環境リスク(例:大気汚染)の影響が顕在化してきたのではないか、という仮説です。

一言でまとめるとこの論文は、

「ノルウェーでは、過去の鉛曝露が高かった地域ほどASD有病率が低く見えるが、これは鉛と都市化由来汚染との複雑な相互作用による可能性がある。ASDリスクを理解するには、単一の環境要因ではなく、複数要因の組み合わせを考える必要がある」

ことを示した研究です。ASDをめぐる環境要因研究において、金属曝露と都市環境の相互作用という新たな視点を提示した点で、重要な問題提起となる論文と言えます。

Frontiers | EVALUATION OF THE QUALITY OF LIFE AND STRESS LEVELS OF PARENTS/CAREGIVERS OF ADOLESCENTS AND YOUNG ADULTS WITH AUTISM SPECTRUM DISORDER IN SERBIA

この論文は、セルビアにおいて自閉スペクトラム症(ASD)のある思春期〜若年成人(15〜30歳)を育てる親・養育者の生活の質(QoL)とストレスの実態を明らかにし、どのような支援体制・社会的要因がそれらに影響しているのかを検討した研究です。ASD児・者の支援が不足しがちな社会的文脈の中で、家族側が直面している負担の構造に焦点を当てています。

研究対象は、セルビア・ベオグラードのInstitute for Mental Healthのデータベースから募集された、ASDのある若者を育てる親・養育者74名です。評価には、

  • WHO Quality of Life-BREF(生活の質)
  • Parental Stress Scale(親のストレス)
  • Caregiver Needs Survey(支援ニーズ)

といった標準化尺度が用いられました。

主な結果は次の通りです。

  • 親のストレスが高いほど、QoLはすべての領域で低下していました

    (身体的健康・心理的健康・生活環境では p<0.0005、社会的関係でも有意な負の相関)。

  • ストレスの高さと強く関連していた要因は、

    • 支援サービスの不足
    • 情報不足
    • 経済的困難
    • 差別経験
    • 「どうしようもない」という無力感

    といった、個人の問題というより社会・制度側の要因でした。

  • 特に、支援制度が利用できないことや、将来の見通しが立たない状況が、親の慢性的なストレスを高めていることが示されました。

著者らは、これらの結果から、ASDのある若者本人への支援だけでなく、家族を支える社会的・制度的サポートが決定的に不足していると指摘しています。支援の欠如は、親のQoL低下とストレス増大を通じて、結果的に本人の生活にも悪影響を及ぼす可能性があります。

一言でまとめるとこの論文は、

「セルビアにおけるASDのある若者の家族は、サービス不足・情報不足・経済的困難・差別といった社会的要因によって強いストレスを抱え、生活の質が著しく損なわれている。支援政策は本人だけでなく家族全体を対象に再設計される必要がある」

ことを示した研究です。

移行期(思春期〜成人期)のASD支援を考えるうえで、医療・教育・福祉を横断した家族支援の重要性を明確に示す、政策的示唆の大きい論文と言えます。

Frontiers | Effectiveness of Exercise Interventions on Gross Motor Skills in Children with Autism Spectrum Disorder: A Systematic Review and Meta-Analysis

この論文は、自閉スペクトラム症(ASD)のある子どもに対して、運動(エクササイズ)介入が粗大運動スキルをどの程度改善するのかを、既存研究を統合して検証したシステマティックレビューおよびメタアナリシスです。とくに、どの種類の運動が有効かどのくらいの期間・量で行うのが最適かに焦点を当てています。

研究チームは、2025年9月までに発表された**ランダム化比較試験(RCT)および非ランダム化比較試験(NRCT)16件(ASD児493名)**を対象に分析を行いました。運動介入の効果は、以下の3つの粗大運動スキルに分けて評価されています。

  • バランス能力
  • 移動運動スキル(走る・跳ぶなど)
  • 操作スキル(ボールを投げる・蹴るなど)

その結果、運動介入はすべての領域で非常に大きな改善効果を示しました

  • バランス:効果量 SMD = 0.85
  • 移動運動:SMD = 0.81
  • 操作スキル:SMD = 0.86

いずれも「大きい効果量」に分類され、統計的にも非常に有意でした。

さらに詳しく見ると、重要な違いが明らかになりました。

運動の種類による違い

  • 陸上で行う運動(Land-based sports)

    → 3つすべてのスキルを有意に改善

  • 水中運動(Aquatic sports)やテクノロジー支援型運動

    → 多くの領域で有意な効果が確認されなかった

介入量(運動量・期間)による違い

  • 中程度の介入量(総運動時間 ≤1440分)

    → すべての運動スキルを有意に改善

    (おおよそ 8〜12週間程度

  • 多すぎる介入量(>1440分)

    → 操作スキルのみ改善、他は効果が限定的

これらの結果から著者らは、「たくさんやれば良い」わけではなく、適切な量と構造が重要であると結論づけています。

一言でまとめるとこの論文は、

「ASDのある子どもに対する運動介入は、特に陸上で行う構造化された運動を、8〜12週間程度の中等量で実施することで、粗大運動スキルを大きく改善できる」

ことを示した研究です。

リハビリテーション、体育、特別支援教育、放課後活動などの現場において、

『どんな運動を、どのくらいの期間やるべきか』をエビデンスに基づいて示した、実践的価値の高い論文と言えます。

Specific Brain Activity During Theory of Mind Tasks in Autistic Individuals: A Meta‐Analysis of fMRI Studies

この論文は、自閉スペクトラム症(ASD)のある人が「他者の心を理解する力(Theory of Mind:ToM)」を使うとき、脳のどのネットワークがどのように働いているのかを、fMRI研究を統合したメタアナリシスによって明らかにした研究です。ASDではToMに特徴的な違いがあるとされてきましたが、それが**「能力の欠如」なのか、「情報処理の仕方の違い」なのか**については議論が続いていました。

研究チームは、ASDのある人328名、定型発達(NT)の人314名を含む18件のfMRI研究を対象に、Activation Network Mappingという比較的新しい解析手法を用いて、ToM課題中に動員される脳ネットワーク全体の構造を比較しました。これは、単に「どこが強く活動するか」だけでなく、脳領域同士の機能的なつながりまで含めて検討できる方法です。

その結果、ASDのある人のToMネットワークには、以下のような特徴があることが分かりました。

  • *視床(thalamus)や楔前部(precuneus)**が、ASD群ではToMネットワークに強く関与していた

  • 一方で、ToMの中核とされる**側頭頭頂接合部(TPJ)**や、

    右半球の辺縁系(視床・尾状核・帯状束など)は、NT群に比べて関与が弱かった

  • これは、ToMに関わる「部位そのもの」が欠けているというより、

    情報の流れ方やネットワークの組み方が異なっていることを示唆している

著者らはこれらの結果から、ASDのある人がToM課題で示す違いは、「他者の心を理解できない」という単純な欠如ではなく、脳内での情報処理の戦略や経路が異なることに由来する可能性が高いと結論づけています。

一言でまとめるとこの論文は、

「自閉スペクトラム症のある人のTheory of Mindの違いは、能力の不足ではなく、脳ネットワークにおける情報処理様式の違いによって説明できる可能性がある」

ことを、fMRI研究を統合した定量的エビデンスとして初めて示した研究です。ASDの社会的理解を「欠損モデル」ではなく、神経多様性(neurodiversity)の視点から再考するうえで、重要な示唆を与える論文と言えます。

Could She Be Autistic? Exploring Gender Differences in Camouflaging and Pragmatics in Autism and Borderline Personality Disorder

この論文は、自閉スペクトラム症(ASD)と境界性パーソナリティ障害(BPD)の鑑別が、特に女性やジェンダー多様な人ではなぜ難しくなりやすいのかを、「カモフラージュ(社会的な取り繕い・適応行動)」と「語用論的コミュニケーション能力(文脈に応じた言語使用)」という観点から検討した研究です。ASDの人が周囲に合わせて特性を隠すカモフラージュは、過少診断や誤診の一因になると指摘されてきましたが、本研究はそれを性別・ジェンダー差に着目して検証しています。

研究には、ASDまたはBPDと診断された成人225名が参加し、オンライン調査で

  • CAT-Q(自閉特性のカモフラージュ尺度)

  • PAQ(語用論的気づき・コミュニケーション能力の尺度)

    に回答しました。参加者は、診断(ASD/BPD)と自己申告のジェンダー(女性・男性・ジェンダー多様)で比較されています。

主な結果は次の通りです。

  • 女性では、ASD群とBPD群の間でカモフラージュの程度に有意差がなかった

    → 両群とも似たような対人適応戦略を使っており、臨床的な見分けがつきにくくなる可能性が示されました。

  • 男性では、カモフラージュの特徴や語用論的な困難がASD特性とより明確に結びついていた

    → 男性では、語用論的評価が診断の手がかりになりやすいことが示唆されます。

  • ジェンダー多様な参加者では明確な群間差は見られなかった

    → カモフラージュは診断特性だけでなく、社会的圧力やアイデンティティに関連する要因の影響を強く受けている可能性があります。

著者らは、これらの結果から、自己報告尺度だけに依存した評価では、特に女性やジェンダー多様な人のASD特性が見逃されやすいと指摘しています。そのため、

  • 発達歴の詳細な聴取

  • 観察的評価

  • 複数の情報提供者(家族・支援者など)

    を組み合わせ、ジェンダーに配慮した診断アプローチを取ることの重要性を強調しています。

一言でまとめるとこの論文は、

「社会的カモフラージュは、特に女性においてASDとBPDの境界を曖昧にし、誤診を招きやすい。語用論的コミュニケーションの丁寧な評価とジェンダー配慮型の診断が不可欠である」

ことを示した研究です。女性のASDが見逃されやすい理由や、『彼女は本当にBPDなのか、それともASDなのか?』という臨床的問いを考えるうえで、非常に実践的な示唆を与える論文と言えます。

Adapting Psychological Therapies for Individuals With Intellectual Disabilities: A Systematic Review

この論文は、知的障害(Intellectual Disabilities:ID)のある人が心理療法を受ける際に、どのような「工夫(アダプテーション)」が実際に行われてきたのかを、既存研究を網羅的に整理したシステマティックレビューです。知的障害のある人は、長年にわたり心理療法の研究や実践から十分に含まれてこなかった背景があり、「心理療法は有効なのか」「どのように調整すべきか」という点が曖昧なままでした。本研究は、その空白を埋めることを目的としています。

研究チームはPRISMAガイドラインに従い、約4万本(39,777件)の論文をスクリーニングし、最終的に122本の研究を分析対象としました。定量的な効果検証ではなく、**どのような工夫が行われてきたかを整理する「フレームワーク・シンセシス」**という方法で知見を統合しています。

その結果、心理療法のアダプテーションは、次の6つの主要カテゴリーに整理できることが示されました。

  1. 多感覚的アプローチ

    絵、写真、ジェスチャー、ロールプレイなど、視覚・身体感覚を活用して理解を助ける工夫。

  2. 活動中心の方法

    会話だけでなく、ゲーム、作業、実演などを通じて感情や考えを扱う方法。

  3. コミュニケーションの調整

    簡潔な言葉、具体例、繰り返し、理解確認などを用いた分かりやすい伝え方。

  4. 提供形態の工夫

    個別/グループ形式の調整、セッション時間の短縮、オンラインや補助教材の活用など。

  5. 追加的な支援

    支援者や家族の同席、セッション外でのフォロー、日常生活との橋渡し。

  6. 構造化

    セッションの流れを明確にし、予測可能性を高める(毎回同じ進行、視覚的スケジュールなど)。

これらの工夫は主に、

  • 参加しやすさを高める
  • 内容の理解と記憶を助ける
  • クライアントと治療者の意思疎通を改善する

ことを目的として使われていました。一方で、著者らは重要な注意点として、「どの工夫が、どの程度“効果”を高めているのか」を厳密に検証した研究はまだ少ないと指摘しています。多くの研究は小規模で、実践報告に近いものが中心でした。

一言でまとめるとこの論文は、

「知的障害のある人に心理療法を届けるための具体的な工夫は数多く存在し、それらは体系化できる段階にあるが、効果を裏づける大規模研究は今後の課題である」

ことを示した研究です。知的障害のある人への心理支援を「できる/できない」で語るのではなく、「どう適応すれば成立するのか」を整理した実践的な基盤研究として、臨床・福祉・政策のいずれにとっても重要な意味をもつ論文と言えます。

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