ADHDとASDの持続的注意力に関する脳波研究
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このブログ記事では、自閉スペクトラム症(ASD)や注意欠如・多動症(ADHD)に関連する最新の学術研究を紹介しています。具体的には、ASD児の顔認識における視線パターンの違いや、脳内ネットワークと社会性の関連、ADHDとASDの持続的注意力に関する脳波研究、聴覚処理と実行機能が問題行動に与える影響、ソーシャル・ジェットラグとASDコア症状の関係、ルテオリンによるASDモデル動物の多臓器保護効果、社会的孤立に対するASDモデルマウスの脳機能変化、さらにADHD児の腸内環境と治療可能性に関するナラティブレビューが取り上げられています。それぞれの研究が、行動・脳機能・生理・生活習慣といった多角的な側面から発達障害を深く理解し、支援や治療法の進展に貢献する重要な知見を提供しています。
学術研究関連アップデート
Alterations in looking at face-pareidolia images in autism
この研究は、自閉スペクトラム症(ASD)のある若者が「顔に見える画像(顔パレイドリア画像)」を見るときの視線の違いについて調べたものです。
🔍 背景と目的
- 顔を認識する能力(フェイスチューニング)は、人との社会的なやり取りに欠かせない重要なスキルです。
- ASDではこの能力が低いことが知られていますが、その原因やメカニズムはよくわかっていま せん。
- 本研究では、**顔に見えるけれど本物ではない画像(Arcimboldo風のFace-n-Food画像)**を使って、ASDの若者と定型発達(TD)の若者の視線の動きを比較しました。
🧪 方法
- 参加者:高機能ASDの若者と、年齢・性別を一致させたTDの若者
- 使用したツール:視線追跡(アイ・トラッキング)
- 分析対象の領域:
- 顔全体
- 目
- 口
- 顔の補助領域(目や口以外の顔パーツ)
- 非顔領域(顔以外の画面部分)
📊 主な結果
- ASDの若者は、顔を顔として認識する回数が有意に少なかった。
- 視線の分布:
- ASD群は、口、顔の補助領域、顔以外の領域を見る頻度が高かった。
- TD群は、主に顔全体や目に視線を集中させていた。
- この結果は、**「ASDでは目を見るのを避ける傾向(アイアボイダンス仮説)」**を支持する。
- 目は感情的な情報源であり、それがASDの人にとって不快さやストレスを引き起こすため、目を見ることを避ける可能性がある。
✅ 結論と意義
- ASDにおける顔認識の困難は、視線の使い方(特に目を避ける傾向)によって部分的に説明できる。
- 社会的コミュニケーションの支援には、目への負担を軽減しながら視線の使い方を自然に促す工夫が役立つかもしれない。
この研究は、「顔を見る」ことのプロセスにおける微妙な違いが、ASDの社会的な困難の理解と支援方法に直結する可能性を示しており、今後の支援やトレーニング設計に重要な示唆を与えています。
Functional connectivity between the visual and salience networks and autistic social features at school-age - Journal of Neurodevelopmental Disorders
この研究は、自閉スペクトラム症(ASD)の子どもにおける「脳内ネットワークのつながり」と「社会性の特性」との関係を調べたものです。特に、視覚ネットワークと**サリエンスネットワーク(重要な刺激に注意を向ける脳の仕組み)**の機能的つながり(機能的結合)が、社会的な振る舞いにどのように関連しているかに注目しました。
🔍 研究の方法
- 対象:8〜12歳の子ども97人(うち15人がASD診断済み、63人がASD家族歴あり)
- データ:
- 安静時の脳活動(fcMRI)
- 社会性、反復行動、不安、注意力、運動協調性、認知力などの行動評価
- 手法:ネットワーク間の結合と各行動指標との関係を、データ駆動型で解析
📊 主な結果
- 視覚ネットワークとサリエンスネットワークの結合が強いほど、社会性の困難(社会的影響スコア)が高かった。
- 他の行動指標(反復行動、不安など)とは強い関連はみられなかったが、反復行動との弱い関連傾向は観察された。
- この関係は、ASD診断の有無にかかわらず、家族歴を持つ子どもにも見られた。
✅ 結論と意義
- 視覚情報の処理と重要刺激への注意の向け方が、ASDにおける社会的な特性の違いに大きく関わっている可能性が示唆された。
- 乳児期からの視覚システムの役割に関する過去の知見