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音声を用いた新たなADHD診断バイオマーカーの可能性

· 約27分
Tomohiro Hiratsuka
CEO of Easpe, Inc

本記事では、自閉スペクトラム症(ASD)や注意欠如・多動症(ADHD)、発達性言語障害(DLD)などの発達障害に関連する最新の研究成果を幅広く紹介しています。具体的には、網膜や音声を用いた新たな診断バイオマーカーの可能性、CBDやプロバイオティクスの介入効果、実行機能・社会的認知・コミュニケーションの発達的特徴に関する比較研究、そしてテレヘルスを活用したグループ療法の実践的指針などが取り上げられており、支援の質とアクセスの向上を目指す多様なアプローチが提示されています。さらに、教師のDLD理解に関する全国調査や、AI支援アプリによる重度障害者支援の実装例など、教育・医療・福祉の各領域における実践と研究の接点も描かれており、包括的かつ先進的な支援の可能性を示唆する内容となっています。

学術研究関連アップデート

Cognitive function and retinal biomarkers as novel approach to diagnosing and assessing autism spectrum disorder

この研究は、自閉スペクトラム症(ASD)の新たな診断・評価手段として「網膜(目)」と「認知機能」に関する生体マーカーを用いる可能性を検討したものです。脳と網膜は発生学的に同じ起源を持つため、網膜の状態が脳の機能を反映する可能性があるという仮説に基づいています。


🧪 研究の概要:

  • 対象: 80名の子ども(ASD児と定型発達児)
  • 測定した生体マーカー:
    • ADAM10(アダマリシン10):認知機能に関連
    • CNTF(毛様体神経栄養因子):網膜の健康に関連
  • 評価指標:
    • CARS(自閉症重症度)
    • SSP(感覚処理の特徴を評価するスケール、視覚含む)

🔍 主な結果:

  • ADAM10はASD児で有意に低下しており、自閉症の重症度が上がるほどさらに低下していた。
  • CNTFはASDの中でも中等度の重症群で特に低下していた。
  • ADAM10とCNTFには正の相関があり、「認知機能」と「視覚系(網膜機能)」が連動している可能性が示唆された。

✅ 結論と意義:

  • ADAM10はASDにおける認知機能の指標として、
  • CNTFはASDにおける網膜(視覚系)機能の指標として有望。
  • 両者の関連性は、ASDの早期診断バイオマーカーとしての活用や、将来的な治療ターゲットとなる可能性を示しています。

💡 一言でまとめると:

目(網膜)と脳の関係を可視化することで、ASDの診断や重症度評価がより早期・客観的に行える可能性があるという、新しい視点を提示する研究です。

Communicative Profiles of Children with Developmental Delay Compared to Age- or Language-Matched Typically Developing Peers

この研究は、**知的障害(ID)や全般的な発達の遅れ(GDD)を持つ子どもたち(以下DD群)**が、**どのような「伝えたい意図(コミュニケーション意図)」を持ち、どう表現するか(手段)**を、同じ年齢または同じ言語能力レベルの定型発達児(TD群)と比較したものです。対象は2歳〜5歳半(24〜68ヶ月)の子ども72名で、3つのグループに分けて分析されました。


🔍 主な結果とポイント:

  • DD群は、同年齢のTD児と比べて、社会的なコミュニケーションの意図を示す頻度が少なく、表現方法も単純である傾向が見られました。
  • 一方、言語能力が同程度のTD児との間では、コミュニケーションの内容や表現方法がより似ていたため、「言語の発達レベル」がコミュニケーション能力に大きく影響していると考えられます。
  • また、**実行機能(例:注意のコントロールや行動の切り替え)**が高いTD児では、より多様な意図を表現できる傾向がありましたが、DD群ではこの関連は見られませんでした。

✅ 総括:

この研究は、発達の遅れがある子どもたちは、同年齢の子どもと比べてコミュニケーションの目的や方法に遅れが見られるが、言語能力が同程度の子どもとは比較的似た傾向があることを示しています。つまり、発達支援においては年齢ではなく、言語発達や認知のレベルに応じた支援が重要であることを示唆しています。また、実行機能の発達が言語以外の要因としても重要な役割を果たしている可能性がある点にも注目です。

Cannabidiol (CBD) Treatment for Severe Problem Behaviors in Autistic Boys: A Randomized Clinical Trial

この研究は、自閉スペクトラム症(ASD)の男児における重度の問題行動に対するカンナビジオール(CBD)治療の効果と安全性を検証するために行われたランダム化二重盲検クロスオーバー試験です。対象は7〜14歳の重度行動問題を抱えるASD男児で、植物由来のCBD製剤(Epidiolex®)を最大20mg/kg/日で8週間投与し、4週間の休薬期間を挟んでプラセボ群と入れ替えて再度8週間投与するという設計が採られました。


🔍 主な結果:

  • CBD投与群・プラセボ群の両方で行動改善が見られたが、統計的に有意な差は確認されなかった
  • 自閉症診断観察スケジュール(ADOS-2)のスコアはプラセボ群で一時的に改善したが、他の薬の影響を加味するとこの効果は消失
  • 研究者が治療効果を知らずに行った臨床的評価では、CBD群の約2/3が改善を示したのに対し、プラセボ群でも1/3に改善が見られ、明確なプラセボ効果が確認された
  • CBDの安全性は高く、副作用は容認可能な範囲
  • ただし、他の服用薬がCBDの血中濃度を下げ、効果に影響を与えていた可能性がある

✅ 総括:

この臨床試験は、CBDがASD児の行動問題に対して「明確に有効」とまでは言えないが、臨床的には一部に改善が見られたことを報告しています。強いプラセボ効果が見られたため、今後の治療研究では厳密な対照設計が不可欠であること、またCBDの有効性をより正確に測定するためには、服薬状況の統制も重要であることが示されました。CBDは安全性の面では有望だが、効果に関してはさらなる研究が必要です。

N170 decoding response to Duchenne smile face in autism spectrum disorder children

この研究は、自閉スペクトラム症(ASD)のある子どもたちが「本物の笑顔(デュシェンヌ・スマイル)」を脳内でどのように処理しているかを、N170という脳波反応(ERP:事象関連電位)を使って初めて調査したものです。N170は顔認識に関わる脳の反応として知られており、顔を見るときの脳の電気的な動きを捉えることで、表情に対する反応を分析します。


🔍 研究の概要:

  • 対象:ASD児10名と定型発達児10名
  • 方法:有名女性セレブの**デュシェンヌ・スマイル(目の周りも笑っている自然な笑顔)**の写真を見せ、その間の脳波を記録
  • 環境:注意が逸れないように制御された空間で実施

✅ 主な結果:

  • ASD児は顔認識時のN170の反応速度(潜時)が定型発達児より短かった(=顔の認識自体は早い可能性)
  • しかし、脳の活動部位が異なっていた
    • ASD児:感情処理に関わる右側頭葉や島皮質が主に反応
    • 定型児:視覚処理や認知に関わる領域が主に反応
  • これは、ASD児が表情の「感情的な意味」よりも、目や口などの「形」に注目して顔を処理している可能性を示唆

💡 総括:

この研究は、ASDのある子どもが笑顔を素早く認識できる一方で、その感情的な意味を深く処理できていない可能性があることを示しています。脳の活動パターンの違いから、ASDにおける感情反応のメカニズムの特異性が示され、さらにこのパターンが統合失調症(精神病)など他の神経発達症とも重なる可能性があることにも言及しています。今後は、ASDと他の発達・精神疾患との脳機能の違いや共通点を探るさらなる研究が必要とされています。

Acceptability and safety of a probiotic beverage supplementation (Bio-K +) and feasibility of the proposed protocol in children with a diagnosis of autism spectrum disorder - Journal of Neurodevelopmental Disorders

この研究は、自閉スペクトラム症(ASD)のある4〜11歳の子どもたちに対し、プロバイオティクス飲料「Bio-K+」を14週間摂取してもらい、その安全性、飲みやすさ(受容性)、研究手法の実行可能性**を検証した予備的な臨床試験です。


🔍 背景と目的

  • ASDのある子どもは、腸内環境の乱れ(腸内細菌叢の異常)がみられることが多く、それが行動の問題、消化器症状、睡眠障害と関係しているとされます。
  • プロバイオティクス(善玉菌)は、腸内環境を整えることでASDの関連症状の緩和に効果がある可能性があると考えられており、その実用性を検討するのが本研究の目的です。

✅ 主な結果

  • 対象:23名(平均年齢6.7歳、うち70%が男児)
    • そのうち65%が消化器の問題、91%が睡眠障害を抱えていた
  • 全員がプロバイオティクス飲料を問題なく摂取でき、安全性に関する重大な副作用も報告されなかった
  • 研究の実行可能性(リクルート・継続率、脳波や睡眠計測、アンケート記入など)も非常に良好
  • ATECスコア(自閉症支援評価尺度)やGI症状・睡眠の改善傾向も見られたが、あくまで予備的な結果

💡 総括

この研究は、ASD児に対するプロバイオティクス飲料の導入が、安全かつ実際に家庭や臨床で実施可能であることを示しました。今後は、偽薬対照(二重盲検)研究によって、本当に効果があるかどうかを科学的に検証する必要があるとされています。特に、腸内環境と神経発達の関係に関心がある保護者や支援者にとって、今後の注目される研究テーマの一つです。

Exploring voice as a digital phenotype in adults with ADHD

この研究は、成人の注意欠如・多動症(ADHD)において「声の特徴」が診断や重症度評価の手がかりになり得るかを調べたものです。ADHDの診断は現在も主観的な問診に大きく依存しており、より客観的なバイオマーカーの開発が求められています


🔍 研究の内容

  • 対象者:ADHD患者387名、健常者204名、他の精神疾患患者100名
  • 方法:それぞれが3分間の音声サンプルを複数回提供(合計920サンプル)
  • 分析:声の抑揚(プロソディ)に関する特徴を抽出し、ランダムフォレストによる機械学習でADHDと非ADHDを分類

✅ 主な結果

  • ADHDの分類は、**若年女性で最も高い精度(AUC=0.87)**を示した
  • 男性や高年齢群では分類精度がやや低下
  • 他の精神疾患があっても精度には影響せず、ADHD特有の声の特徴が示唆された
  • 声の特徴は、ADHDの重症度とも有意な関連があった

💡 総括

この研究は、「声」がADHDの“デジタル・フェノタイプ(疾患を反映するデジタル上の特徴)”として有望な手がかりとなることを示しています。特に、声の抑揚やリズムなどの非言語的特徴がADHDのスクリーニングやモニタリングに活用できる可能性があり、今後の診断支援技術として注目されます。現時点では予備的な成果ですが、非侵襲的かつコストの低い評価手段として、実用化への期待が高まる研究です。

Cognitive function and retinal biomarkers as novel approach to diagnosing and assessing autism spectrum disorder

この研究は、自閉スペクトラム症(ASD)の診断や評価において、網膜と脳の関連に注目し、「目の中のバイオマーカー」を活用できる可能性を初めて示したものです。網膜は脳の一部と発生的に由来が同じであり、神経発達障害に伴う認知機能の異常を反映する可能性があるとされています。


🔍 研究のポイント

  • 対象:ASD児と定型発達児 合計80名
  • 調査したバイオマーカー
    • ADAM10(認知機能の指標)
    • CNTF(Ciliary Neurotrophic Factor)(網膜機能の指標)
  • これらの数値を、**自閉症重症度(CARSスコア)感覚統合指標(SSP)**と比較

✅ 主な結果

  • ASD児ではADAM10が有意に低下しており、自閉症の重症度が高いほどその値は低下
  • CNTFは中等度のASD児で特に低下しており、軽度や重度の群と異なるパターンを示した
  • ADAM10とCNTFの間には正の相関があり、網膜機能と認知機能が連動している可能性が示唆された

💡 総括

この研究は、「目を通じてASDの脳の状態を評価する」新たな方法を示しています。特に、ADAM10は認知機能の指標、CNTFは視覚系の指標として、将来的な早期診断や治療効果のモニタリングに役立つ可能性があります。現時点では予備的な成果ですが、非侵襲的かつ客観的な評価手段として注目される意義深い研究です。

Transforming support for individuals with severe ID and/or ASD with an AI-assisted APP: the framework and the pilot research

この研究は、重度の知的障害(ID)や自閉スペクトラム症(ASD)を持つ人々への支援を、AIを活用したアプリで変革しようとする取り組みについて報告しています。国際的な枠組みである**「障害者権利条約」や「持続可能な開発目標(SDGs)」の理念に基づき、すべての人に包括的かつ公平な教育と生活の質を保障する**ことを目指しています。


🔍 研究のポイント

  • *ICFモデル(国際生活機能分類)**に基づき、環境の支援が重度障害のある人々の参加や生活の質にとって重要であると位置づけ
  • ChatGPTを応用したAI支援アプリを開発し、支援者(実践者や家族)が、コミュニケーションや行動支援に必要な情報や手順を手軽に得られるように設計
  • 学際的・参加型アプローチを採用し、実際の利用者や専門家の意見を反映

✅ パイロット研究の結果

  • 有効性・実用性・ユーザー満足度において好意的な評価
  • 多くの支援者が、
    • アプリのインターフェースに満足
    • 評価や介入計画の立案にかかる時間を短縮できた
    • 実践的な支援活動に役立つと回答

💡 総括

この研究は、AI(特にChatGPT)を活用した支援アプリが、重度のIDやASDのある人々への実践的支援を効率化し、質の高い支援をより多くの現場で実現する可能性を示しています。今後は、さらなる技術開発や機能強化が期待されており、支援の標準化や省力化、そしてインクルーシブな社会の実現に向けた一歩となる取り組みです。

Group Therapy for Autistic Adults Over Telehealth: Challenges and Guidelines for Clinicians

この論文は、自閉スペクトラム症(ASD)のある成人を対象とした遠隔(テレヘルス)によるグループ療法について、その意義・課題・実践的ガイドラインをまとめたものです。ASDのある人々は、社会的スキルや感情調整、実行機能の面で困難を抱えることが多く、**特に成人期に差しかかると支援が急減する「サービスの崖」**に直面することがあります。


🔍 主なポイント

  • グループ療法は、社会的つながりを提供し、孤立を軽減しながらスキルの向上を促す手法として有効。
  • *テレヘルス(オンライン形式)**は、対面での不安が強い人や地理的・交通的な制約がある人にとって利点が大きい。
  • しかし、オンラインでのグループ療法に特化した実践的なガイドラインはこれまで少なかった

✅ 本論文の貢献

  • 臨床家と当事者(自閉のある自己 advocate)からの知見をもとに、テレヘルス形式でのグループ療法の実施における推奨事項を提示。
  • 参加者の快適さを確保する工夫、進行中のトラブル対応、参加者間の交流促進のための方法など、実践に即した指針が紹介されている。

💡 総括

本研究は、ASDのある成人に対する支援の新たな形として、テレヘルスによるグループ療法の可能性を示すとともに、具体的な運用ガイドラインを提供しています。支援が途切れがちな成人期において、アクセスしやすく持続可能な支援モデルの構築に向けた重要な一歩といえる内容です。

Communication Across the School Day: A Nationwide Teacher Survey on Developmental Language Disorder

この研究は、アメリカの教師が「発達性言語障害(DLD: Developmental Language Disorder)」をどのように理解し、学校での影響をどう捉えているかを明らかにすることを目的とした、全国規模のオンライン調査です。DLDとは、知的障害や聴覚障害がなくても、言語の理解や使用に困難を抱える神経発達症で、生涯にわたって影響が続くことがあります。


🔍 主な内容と結果

  • 参加者: 全米の教師204名が調査に回答。
  • 方法: 選択式(リッカート尺度・多肢選択)27問と自由記述4問の混合型質問紙を使用。
  • 結果のポイント:
    • 教師の多くは、「DLD」という名称自体やその生涯にわたる特性については知らなかった。
    • しかし、会話や言語を用いた活動がDLDのある子どもにとって困難であることは正しく認識していた。
    • DLDへの気づきや配慮の実践レベルは、担当する学年や教職経験、言語障害に関する研修経験により大きく異なっていた。
    • 自由記述では、DLDの影響が「社会的なやりとり」「コミュニケーションの困難」「学級環境での困難」「教師の理解度の差」に現れていることが示された。

✅ 総括

この研究は、DLDに対する教師の理解が部分的であり、用語の認知や特性の理解に課題があることを明らかにしました。一方で、実際の困難な場面(例:会話や授業でのやり取り)は感覚的に把握されていることも分かりました。


💡 教育現場への示唆

  • 言語障害に関する研修機会の拡充や、SLP(言語聴覚士)との連携強化が求められます。
  • 今後は、専門用語の共通理解をはかる工夫や、教員向けの啓発活動の必要性があると指摘されています。

この研究は、DLDへの気づきと支援の質を高めるための現場との橋渡しとして重要な知見を提供しています。