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乳児期からの感覚過敏・鈍麻と脳の興奮/抑制バランス(E/I)との関連を示す縦断研究

· 11 min read
Tomohiro Hiratsuka
CEO of Easpe, Inc

このブログ記事は、自閉スペクトラム症(ASD)やADHDを中心とする発達障害について、「脳・生物学的基盤」「発達初期からの縦断的変化」「介入や支援の個別化」という観点から、最新の学術研究を横断的に紹介している内容です。具体的には、①乳児期からの感覚過敏・鈍麻と脳の興奮/抑制バランス(E/I)との関連を示す縦断研究、②ADHDの背景にあるエンドカンナビノイド・システム(ECS)という新しい分子レベルの理解、③小児外傷性脳損傷後の家族支援がADHDの有無やタイプによって効果が大きく異なることを示した臨床研究、④ASD幼児の言語能力の個人差が白質ネットワークの局所的な違いと結びつくことを明らかにした脳画像研究を取り上げています。全体を通して、発達障害を「一様な診断カテゴリ」としてではなく、発達経路・脳特性・感覚特性・併存症の違いによって支援や予測が変わる動的な存在として捉え直す研究動向を示しており、早期理解・精密な評価・個別化された支援設計の重要性を強く示唆する内容となっています。

学術研究関連アップデート

Cortical markers of excitation/inhibition balance are associated with sensory responsivity from infancy in longitudinal cohorts enriched for autism and ADHD

この論文は、ASDやADHDでよく見られる**感覚の過敏さ/鈍感さ(sensory responsivity)が、乳児期からの脳の基本的な興奮―抑制バランス(E/I)とどう結びつくのかを、家族歴リスクのある乳児を追跡した縦断データで検討した研究です。151名の乳児について、生後5・10・14か月にEEGからE/Iバランスの指標(パワースペクトルの“1/f”傾き=aperiodic exponent)を算出し、10〜36か月にかけて保護者報告の過敏(hyper)鈍麻(hypo)**の発達軌跡(増え方・初期値)をモデル化し、3歳時点の自閉特性・ADHD特性との関連も調べました。結果として、自閉の家族歴(FH-autism)は過敏の増加(10〜36か月での上昇)と関連し、ADHDの家族歴(FH-ADHD)は鈍麻の増加と関連するなど、家族歴の種類によって結びつく感覚特性が“ずれる”可能性が示されました。さらに、10か月時点の鈍麻が高いほど、3歳時点の自閉特性・ADHD特性の両方が高いこと、鈍麻の増え方が急なほどADHD特性が高いことが示唆され、乳児期の鈍麻が後の発達特性の早期サインになり得ると論じています。一方で、過敏と特性の関連は、過敏・鈍麻を同時に入れたモデルでは弱まり、質問項目が特性(ASD/ADHD)そのものと重なっている可能性が限界として強調されています。脳指標では、5・10か月のE/I指標が過敏と関連し(14か月は関連せず)、E/Iバランスの違いが早期の感覚特性に関与する可能性はあるものの、因果の向き(E/I→感覚か、感覚経験→E/Iか)は今後の課題とまとめています。

Biochemical Role of the Endocannabinoid System in the Pathophysiology of Attention Deficit Hyperactivity Disorder: A Narrative Review and Future Directions

この論文は、ADHD(注意欠如・多動症)の背景に「エンドカンナビノイド・システム(ECS)」の異常がどのように関わっている可能性があるのかを、これまでの生化学的研究を整理して解説したナラティブレビュー(概説論文)です。ECSとは、カンナビノイド受容体(CB1・CB2)、体内で作られる内因性カンナビノイド、そしてそれらを分解・調整する酵素からなる神経調節システムで、注意、衝動制御、感情調整に重要なドーパミン系・ノルアドレナリン系・グルタミン酸系を幅広く調整しています。

著者らは、動物実験11件とヒトを対象とした臨床研究2件をレビューし、ADHDに関連してECSの構成要素に変化が見られることをまとめています。前臨床研究では、CB1受容体の機能変化や内因性カンナビノイド量の異常、分解酵素活性の変化が、多動性や注意制御の弱さ、認知調整の困難と関連することが示されていました。つまり、ECSの調節がうまくいかないことで、神経伝達のバランスが崩れ、ADHD様の行動が生じやすくなる可能性が示唆されています。

一方で、ヒトを対象とした研究はまだ少ないものの、ADHDの人でECS関連分子に違いが見られるという初期的な報告があり、ECSを標的とした新しい治療アプローチの可能性が示されています。ただし、現時点ではエビデンスは限定的で、どの変化が原因でどの変化が結果なのかは明確ではありません。

本論文の重要なメッセージは、ADHDをドーパミン単独の障害として捉えるのではなく、より上位で神経活動を微調整するECSの破綻として理解する視点が有望であるという点です。将来的には、ECSに関わる受容体や酵素を標的とした治療が、既存の刺激薬とは異なる作用機序をもつ新たな選択肢になる可能性があります。そのために著者らは、ヒトでの生化学研究の拡充、発達段階を考慮した研究、治療介入研究の必要性を強調しています。

一言でまとめると、この論文は

「ADHDの背景にはエンドカンナビノイド・システムの調節異常が関与している可能性があり、ECSは今後の理解と治療開発における有望な分子基盤である」

ことを、現時点の科学的証拠から分かりやすく整理したレビューです。

Attention-deficit hyperactivity disorder as a moderator of the efficacy of family-based problem solving after pediatric traumatic brain injury

この論文は、小児期の外傷性脳損傷(TBI)後に行われる「家族ベースの問題解決支援(FBPS)」が、ADHDの有無によってどの程度効果が変わるのかを検討した研究です。ポイントは、ADHDがある子どもでは、同じ家族支援プログラムでも効果の出方が大きく異なるという点です。

研究では、中等度〜重度のTBIで入院歴のある11〜18歳の青少年233名を対象に、①FBPS(家族で問題解決スキルを学ぶオンライン中心の介入)を受けた群と、②情報提供のみの比較群を、最長18か月間追跡しました。参加者はさらに、①受傷前からADHDがあった群(既存ADHD)②受傷後に新たにADHD症状が出た群(二次性ADHD)③ADHDなし群に分けて分析されています。

その結果、全体としてADHDのある子どもとその保護者は、実行機能、社会性、親の抑うつやストレスなどで一貫して成績が悪いことが確認されました。さらに重要なのは、FBPSの効果がADHDのタイプによって大きく異なった点です。

  • ADHDなしの子どもでは、FBPSによって時間とともに機能面(生活上の困難さ)が順調に改善しました。
  • *二次性ADHD(脳損傷後にADHD症状が出た子ども)**では、改善は見られたものの、効果が現れるのは18か月後と遅れていました。
  • 一方、受傷前からADHDがあった子どもでは、FBPSを受けても機能面の改善はほとんど見られませんでした

この研究が示しているのは、TBI後の回復や家族支援の効果は、「脳損傷そのもの」だけでなく、もともとの発達特性(ADHD)や、損傷後に出現した注意・行動の問題に強く影響されるということです。特に、受傷前からADHDがある子どもには、標準的な家族問題解決支援だけでは不十分で、ADHD特性を前提とした追加・調整された介入が必要である可能性が示唆されます。

一言でまとめると、この論文は

「小児TBI後の家族支援は一律では効果が出ず、ADHDの有無とタイプを正確に見極めたうえで介入を設計することが、回復と家族の負担軽減に不可欠である」

ことを明確に示した研究です。

この論文は、自閉スペクトラム症(ASD)の幼児に見られる「言語能力の個人差」が、脳の白質(神経の配線)のどのような特徴と関係しているのかを、より精密な画像解析手法を用いて調べた研究です。特に、「言語が得意な子・苦手な子の違いが、白質のどこに・どのように表れているのか」に焦点を当てています。

研究対象は、1歳半〜6歳のASD児28名と定型発達(TD)児22名です。MRIの拡散テンソル画像(DTI)を用い、従来の「線維束全体を平均する解析」ではなく、AFQ(Automated Fiber Quantification)という方法で、言語に関係する8つの白質線維束(弓状束、上縦束、下縦束など)を線維の途中の細かいポイントごとに分析しました。そして、白質の状態(FAやMDなどの指標)と、言語能力の高さやASD症状の重さとの関係を調べています。

その結果、ASD児とTD児のどちらにも、言語に関係する白質の左右差(側性化)そのものは存在していましたが、「左右差の強さ」自体に群間差はありませんでした。ただし重要なのは、その左右差や白質の微細な状態が、言語能力とどう結びつくかはASD児とTD児で異なっていた点です。全体平均で見ると群間差は出ませんでしたが、線維の一部分に注目すると、ASD児では白質の局所的な異常が見つかり、それらが言語能力やASD症状の重さと関連していました。

つまりこの研究は、

  • ASDの言語の困難さは「白質全体が悪い/良い」という単純な話ではない

  • 神経線維の“どの部分がどう違うか”という局所的な違いが、言語発達や症状の強さと関係している可能性がある

    ことを示しています。

一言でまとめるとこの論文は、

「ASD幼児の言語発達の個人差は、脳の白質ネットワークの“微細で局所的な違い”と結びついており、それを捉えるにはAFQのような高精度な解析が有効である」

と示した研究です。言語支援や早期評価を考えるうえで、脳レベルの理解を一段深める知見を提供しています。

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