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自閉症の当事者自身が本となり、参加者が直接対話を通じて学ぶヒューマンライブラリー方式の自閉症理解プログラムin香港

· 12 min read
Tomohiro Hiratsuka
CEO of Easpe, Inc

このブログ記事では、自閉スペクトラム症(ASD)をめぐる「診断・社会・神経基盤」の3方向の最新研究を紹介しています。1つ目は、機械学習と説明可能AI(XAI)を統合し、XGBoost+LIME/SHAPにより約99%の高精度かつ“なぜその判定になったか”を説明可能なASD診断支援モデルを構築した研究で、早期スクリーニングと臨床現場での活用可能性が示されています。2つ目は、香港で自閉当事者を「人間の本」として招くヒューマンライブラリーを実施し、一般参加者の自閉症スティグマを減少させ、神経多様性への肯定的態度を高めたことを示した参加型評価研究です。3つ目は、ASD若年成人に対してドーパミントランスポーターSPECTを用いた初のパイロット研究で、一部に線条体DaT異常が見られ、パーキンソン病リスクやドーパミン系の異常との関連が示唆されました。全体として、AI診断技術、当事者主体の理解促進プログラム、神経画像バイオマーカーという異なるアプローチから、ASDの理解と支援の可能性を拡張する研究群を取り上げています。

学術研究関連アップデート

Integrating explainable AI with machine learning for reliable autism spectrum disorder diagnosis

研究紹介・要約(Human-Intelligent Systems Integration, 2025/XAI × 機械学習によるASD診断)

論文タイトルIntegrating explainable AI with machine learning for reliable autism spectrum disorder diagnosis

著者:Farida Siddiqi Prity ほか

掲載誌Human-Intelligent Systems Integration(2025年)


■ どんな研究?

自閉スペクトラム症(ASD)の診断は、これまで

  • 行動観察
  • 発達検査
  • 場合によっては遺伝学的検査

などを組み合わせて行われますが、時間がかかる・主観的要素が大きいという課題があります。

本研究は、「高精度な機械学習モデル」+「説明可能AI(XAI)」 を組み合わせることで、臨床現場で使いやすく、かつ説明責任を果たせるASD診断支援ツールを目指したものです。


■ データと手法

  • データセット
    • 2,942名分のデータ
    • 属性は 20項目(行動・背景情報などを含む特徴量)
    • 対象は 幼児・児童・成人 を含む幅広い年齢層
  • 機械学習モデル(いずれもASD判別を実施):
    • ロジスティック回帰(LR)
    • 決定木(DT)
    • ランダムフォレスト(RF)
    • SVM
    • K近傍法(KNN)
    • 畳み込みニューラルネットワーク(CNN)
    • XGBoost(Extreme Gradient Boosting)
  • 説明可能AI(XAI)の手法
    • LIME(Local Interpretable Model-agnostic Explanations)

    • SHAP(SHapley Additive exPlanations)

      → 「なぜこの人がASDと判定されたのか?」を特徴量レベルで可視化


■ 主な結果

  • XGBoostが最高性能を達成し、診断精度は 99.05% と報告。

    他モデルと比べても頭一つ抜けた精度で、ASD判別の自動化に強いポテンシャルを示しました。

  • LIME・SHAP を用いることで、

    • 個々の患者について 「どの特徴が診断にどれだけ寄与したか」 を説明可能
    • モデル全体として どの属性がASD判定に重要か を俯瞰的に理解できる

これにより、「精度は高いがブラックボックス」ではなく、「高精度かつ説明できるモデル」 として、医療現場での信頼性・受容性を高める枠組みになっています。


■ 臨床・実務的な意義

  • 高精度なXGBoostモデルにより、
    • 早期スクリーニングツールとしての活用が期待される(特にリソースの限られた地域や一次医療の現場で有用)。
  • LIME/SHAPによる説明により、
    • 医師・心理士が モデル判断を検証・補足 しやすくなる
    • 保護者や当事者への説明責任(インフォームド・コンセント)を支えやすい
  • 完全な「自動診断」ではなく、人間の専門家+AIによる「協調的診断支援」の基盤として設計されている点がポイントです。

■ 今後の課題・展望(示唆)

  • データセットの国・文化・言語の多様性がどこまで担保されているかは不明であり、他国データでの再検証(外的妥当性) が今後の課題。

  • 20属性が具体的に何か(チェックリスト/質問紙/臨床記録など)に応じて、現場導入のハードルやバイアスの可能性も変わるため、詳細な実装研究が必要。

  • とはいえ、

    「診断精度」と「説明可能性」の両立をASD領域で追求した点 は重要であり、今後の医療AI開発にとってひとつの標準的方向性を示す研究といえます。


要約一文

多世代・多属性データを用いてASD診断を行った本研究は、XGBoostで約99%の高精度を達成しつつ、LIME・SHAPを用いて「なぜその判定に至ったか」を説明可能にしたことで、早期診断・スクリーニングに使える“信頼できるAI診断支援”のプロトタイプを提示した研究です。

"From the autistic human books' stories, I understand their mindset and thoughts": Pilot development and participatory realist evaluation of Human Library to enhance public understanding of autism

研究紹介・要約(Autism, 2025/ヒューマンライブラリー × 自閉症理解向上プログラム)

論文タイトル“From the autistic human books’ stories, I understand their mindset and thoughts”: Pilot development and participatory realist evaluation of Human Library to enhance public understanding of autism

著者:Gary Yu Hin Lam ほか

掲載誌Autism(2025年)

領域:自閉症理解・社会的介入・参加型プログラム評価


■ どんな研究?

本研究は、自閉症の当事者自身が「本(human books)」となり、参加者(読者)が直接対話を通じて学ぶ Human Library(ヒューマンライブラリー)方式の自閉症理解プログラム を香港で開発・試行したパイロット研究である。

従来の自閉症啓発は、

  • 講義形式の教育
  • 事実情報の提示
  • 啓発キャンペーン

などが中心で、しばしば「上から教える」構造になりがちだった。一方 Human Library は当事者と一般市民が フラットで安全な対話 を行うことで、固定観念や偏見に働きかける“接触ベースの介入(contact-based intervention)”。

本研究は「当事者チームと協働しながら HL をどう設計すれば効果があるか」を、参加型リアリスト評価(participatory realist evaluation) で分析した点が特徴。


■ 方法

  • 参加者:Human Library に参加した一般市民(読者)
  • 介入:自閉症当事者が「人間の本」となり、読者と対話
  • データ収集方法
    • 事前・事後アンケート:スティグマ・神経多様性態度を測定
    • 半構造化インタビュー:読者の動機・気づき・認知変化を分析
  • 分析:読者の体験と変化をもとに HL プログラムの“働き方のモデル”を構築

■ 主な結果

● 1. 参加後、

自閉症へのスティグマは有意に減少

  • 自閉症への誤解や否定的印象が低下
  • “自閉症=欠陥” のような固定観念が弱まる

● 2.神経多様性を肯定的に捉える態度が上昇

  • 多様な認知スタイルへの理解・尊重が増す
  • 「自閉症は治すべきものではなく、尊重すべき違い」という視点が浸透

● 3. 対話を通じて、参加者は「自閉症の強み」や「生活世界」を理解

  • こだわり・感覚特性・思考の特徴が具体的に理解される
  • 当事者の 強み(パターン認識・誠実さ・論理的思考など) が再評価される

● 4. 自閉症当事者が直面する

社会文化的な障壁を学ぶ

  • 学校・職場での誤解
  • 感覚過敏を考慮しない文化的慣習
  • 高い適応負荷(masking)

読者は「問題は人ではなく環境・制度側にある」と認識し始める。

● 5. 今後の対人行動の変化につながる

  • ASDの視点をより考慮するようになった
  • 関わり方・コミュニケーションの工夫を自分事として捉える

■ 意義

  • 当事者主体で設計された対話型プログラムとして効果が実証
  • 単なる啓発ではなく、態度変容(stigma reduction+neurodiversity acceptance) を引き起こす点が強み
  • 学校・地域・行政プログラムへの展開の可能性
  • 当事者の語りを中心に据えた“倫理的かつエンパワーする介入”としてモデル価値が高い

■ 要約一文

自閉症者が「人間の本」となって生活経験を語る Human Library を香港で開発・評価した結果、参加者のスティグマは大きく減少し、神経多様性への理解と肯定的態度が向上した──当事者との安全な対話が自閉症理解と社会的関係性を変える有効な方法であることを示したパイロット研究。

A Preliminary Investigation of Dopamine Transporter Binding Abnormalities in Individuals With Autism Spectrum Disorder

研究紹介・要約(Autism Research, 2025/ドーパミントランスポーター画像 × 自閉症 × パーキンソン病リスク)

論文タイトルA Preliminary Investigation of Dopamine Transporter Binding Abnormalities in Individuals With Autism Spectrum Disorder

著者:Nanan Nuraini ほか

掲載誌Autism Research(2025年)

領域:神経画像、生物学的バイオマーカー、ASDと加齢・パーキンソン病(PD)リスク


■ どんな研究?

自閉スペクトラム症(ASD)に関する近年の研究では、パーキンソン病(PD)の発症リスクが一般の約6倍になるという大規模疫学結果が繰り返し示されている。また、ASD当事者と動物モデル双方で、ドーパミン神経系の異常が指摘されてきた。しかし、PD診断に使われる主要な生物学的指標のひとつである

ドーパミントランスポーター(DaT)の脳内分布を測定する SPECT 画像

について、ASD成人で直接検査した研究はこれまで存在しなかった。

本研究は 18〜24歳のASD若年成人12名に対して DaT SPECT(脳のドーパミン神経の働きを可視化する検査)を実施し、ASDにおけるドーパミン系の異常の有無と、機能的結合(FC)との関連性を探索的に調べた初めてのパイロット研究。


■ 方法

  • 参加者:ASD診断の18–24歳の若年成人12名
  • 主な測定:
    • DaT SPECT:線条体(striatum)でのドーパミントランスポーターの取り込み異常を評価
    • rs-fMRI(安静時機能MRI):線条体と脳の他領域の機能的結合(FC)を解析
  • 分析の流れ:
    1. DaT取り込み “異常あり” と “正常” の2群に分類
    2. FCの違いを探索的に検証

■ 主な結果

● 1. 12名中4名で、線条体のDaT取り込みに異常または疑いが検出

  • 若い成人(18〜24歳)という年齢にも関わらず、

    3分の1以上にドーパミン系の異常所見

  • ASDの一部に、加齢より早い段階でのドーパミン神経変化が存在する可能性

● 2. DaT異常群は、線条体と前帯状皮質(paracingulate region)とのFCが増加

  • 意味づけ・自己関連処理・メタ認知と関わる領域

  • この過剰結合が何を示すかは未解明だが、

    代償的メカニズム または 異常なネットワーク統合 の可能性

● 3. 結果はあくまで「パイロット」だが、重要な“仮説提示”

  • ASDの一部においてPDリスクの増大と関連する神経基盤が若年期から存在する可能性
  • DaT異常が
    • ASD症状

    • 刺激(薬物)反応性

    • 加齢に伴う運動症状

      にどう関連するかは今後の重要テーマ


■ 本研究の意義

★ 1. ASD × ドーパミン × パーキンソン病リスク研究の新たな扉を開く

初めての「ASD成人におけるDaT SPECT」データであり、

PDリスク上昇の生物学的裏付けとして重要。

★ 2. 薬物治療との関連性の研究にもつながる

ASDでは抗精神病薬(ドーパミン遮断薬)がよく使用されており、

ドーパミン神経系の状態を理解することは将来の副作用リスク評価にも重要

★ 3. 若年期から介入・モニタリングする理由が明確に

ASD者の高齢期研究はまだ始まったばかりで、

早期バイオマーカー候補としてDaT SPECTは注目される。


■ 限界

  • サンプルサイズが非常に小さい(n=12)
  • 年齢が狭い範囲(18–24歳)で一般化は慎重に解釈すべき
  • 行動指標(症状・運動症状)との関連はまだ不明瞭
  • 横断研究のため、進行性かどうかは不明

■ 要約一文

ASD若年成人を対象に初めてDaT SPECTを行った結果、約3割でドーパミン輸送体の取り込み異常が見つかり、PDリスク上昇と関連する神経生物学的特徴が早期から存在する可能性が示唆された──ASDの加齢研究と神経基盤理解に向けた重要なパイロットデータである。

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