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ブラジルの全国学校データを用いた調査では、ASDの自己申告率が2014〜2023年で約16倍に増加

· 約7分
Tomohiro Hiratsuka
CEO of Easpe, Inc

本記事では、神経発達症に関する最新の国際研究2本を紹介しています。1本目は、中国のfMRI研究で、トゥレット症候群(TS)に注意欠如・多動症(ADHD)が併存した場合の脳機能的結合(Functional Connectivity)の変化を明らかにし、併存によって脳ネットワーク統合性が低下する一方で、抑制制御(inhibitory control)に関わる神経基盤は共通していることを示しました。2本目は、ブラジルの全国学校データを用いた自閉スペクトラム症(ASD)の自己申告率の時空間分析で、2014〜2023年に報告率が約16倍に増加し、**地域的クラスター(南・南東部中心、北東部で新興)**が形成されていることを明らかにしました。両研究は、神経発達症における地域・併存要因・脳機能の差異を可視化し、個別化支援と政策設計の方向性を示す重要な知見を提供しています。

学術研究関連アップデート

Brain Functional Connectivity and Inhibitory Control in Tourette Syndrome with and without Comorbid Attention-Deficit/Hyperactivity Disorder

概要(どんな研究?)

本研究は、**トゥレット症候群(Tourette Syndrome: TS)注意欠如・多動症(ADHD)の併存が、脳の機能的結合(Functional Connectivity: FC)および抑制制御(Inhibitory Control)**にどのような影響を及ぼすかを検討した神経画像研究です。TSはチック(不随意運動・発声)を特徴とする神経発達症であり、その約半数にADHDが併存しますが、両者の神経基盤の違いは十分に解明されていません。


研究デザイン

  • 対象:52名のTS児(純粋TS群30名、TS+ADHD併存群22名)

    (いずれも北京児童病院にて診断)

  • 方法

    • *静止時fMRI(resting-state fMRI)**で脳全体の機能的結合(FC)を構築
    • Go/No-Go課題で抑制制御能力を測定
    • *Network-Based Statistic(NBS)**法を用いて、群間のFC差を解析(多重比較補正済み)
    • ADHD併存の影響を統制したうえで、FCと抑制制御の関連を多変量回帰で検討

主な結果

  • TS+ADHD群では、純粋TS群に比べて以下の領域で機能的結合が低下:
    • デフォルトモードネットワーク(DMN)
    • 体性感覚運動ネットワーク(Somatomotor)
    • 辺縁系ネットワーク(Limbic)
  • 両群ともに、抑制制御能力はDMN、前頭頭頂ネットワーク(Frontoparietal)、注意ネットワークなどのFCと正の相関を示した。
  • しかし、抑制制御に関連するFCのパターン自体には群間差がなかった。

解釈と意義

  • ADHDの併存は、TS児の脳内機能ネットワークの統合性を低下させることが示唆されました。

    特に、DMNや感覚運動ネットワークなど、内的思考・行動制御・運動調整に関わるネットワークが影響を受けています。

  • 一方で、抑制制御を支える神経基盤はTS単独群とTS+ADHD群で共通しており、行動的な抑制メカニズムは似通っていることが分かりました。

  • これにより、**ADHD併存によるTSの神経的修飾(network modulation)を理解し、将来的に個別化治療(例:神経調整療法や認知訓練)**の標的を特定する一助となります。


まとめ

  • TS+ADHD群では、脳の機能的結合が広範に低下(特にDMN・感覚運動・辺縁系)。
  • 抑制制御に関わる神経ネットワークは両群で共通。
  • ADHD併存がTSの脳ネットワーク構造に影響を与える一方で、行動制御の基礎神経回路は共有されていることを示唆。

🔍 この研究の意義

トゥレット症候群とADHDの併存による脳機能変化をfMRIで明確化した稀少な報告であり、併存症を前提とした神経発達症の個別支援設計や**臨床的介入(薬物療法・神経リハビリ・ニューロフィードバック)**の方向性を考える上で重要な知見を提供しています。


📈 概要(どんな研究?)

本研究は、**ブラジル全土の学校登録データ(2014〜2023年)をもとに、自閉スペクトラム症(ASD)の自己申告率の時系列変化と地域的偏在(空間分布)**を明らかにしたものです。

ASDの報告数が急増する中、どの地域でどのように増加しているのかを可視化し、地域格差や政策的課題を明確化することを目的としています。


🧩 研究の目的

  • 2014〜2023年の10年間におけるASD自己申告率の全国的・州別の推移を明らかにする
  • *地域間の空間的パターン(クラスター)**を検出し、地域ごとの特性と格差を分析する

🧮 方法

  • データ:ブラジルの公教育データベース「School Census」の公開統計(自己申告ASD者数)
  • 対象:ASD診断を自己申告した児童・生徒
  • 解析手法
    • 時間的傾向分析:Mann-Kendall検定(Hamed-Rao補正)
    • 空間分析
      • 全国的な空間自己相関:Global Moran’s I
      • 地域的なホットスポット特定:Local Indicators of Spatial Association (LISA)

📊 主な結果

  • 全国平均のASD報告率は、

    2014年の10,000人あたり8.23人 → 2023年には134.49人へと約16倍に増加(p<0.001)。

    増加傾向の傾き ≈ +11.18/年。

  • 州別の傾向

    すべての州で上昇傾向(Tau=1, p<0.001)を示し、

    アクレ州(Acre)で最大の増加、サンパウロ州(São Paulo)で最小の増加。

  • 空間的傾向

    • Moran’s I(空間自己相関)は **0.1235 → 0.3233(p=0.001)**へ上昇し、地域的なクラスター化の強化を示唆。

    • LISA分析では、**南部・南東部のクラスター(既存の集中地域)**が持続する一方、

      北東部(Northeast)に新たなクラスターが出現


🧭 解釈と意義

  • ASD報告の急増は、認知度の向上・診断アクセスの改善・社会的スティグマの軽減などの要因を反映している可能性があります。

  • しかし、州間・地域間での報告率の格差が顕著であり、特に新たなホットスポットが形成されつつある北東部では、

    診断・支援体制の整備が追いついていない可能性があります。

  • 空間的クラスター分析によって、政策立案者は地域別に優先度の高い支援戦略を設計できるようになります。


✅ 結論

  • 2014〜2023年でASD報告率は全国的に急増(約16倍)
  • 南・南東部の集中に加え、北東部で新たなASDクラスターが出現
  • 地域ごとの特性に応じた政策的介入(教育・医療・社会支援)の必要性が高まっている

🌎 この研究の意義

本研究は、ブラジル全土の学校データを10年にわたり時空間的に解析した初の大規模報告であり、

ASDの「全国的増加」と「地域格差」を同時に示した貴重なエビデンスです。

教育・保健・行政分野での地域連携型ASD支援政策の基盤データとして重要な位置を占めます。