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ASDとリスクの高い飲酒行動の関係を「睡眠満足度」の観点から分析

· 約6分
Tomohiro Hiratsuka
CEO of Easpe, Inc

本記事では、自閉スペクトラム症(ASD)に関連する最新の2つの研究を紹介しています。1つ目は日本の一般成人3,800名を対象に、ASDとリスクの高い飲酒行動の関係を「睡眠満足度」の観点から分析したもので、ASDの人は良好な睡眠を保つために飲酒を習慣化する傾向が示唆されました。2つ目は、ASD児の「認知的柔軟性(状況や思考を切り替える力)」を測定する尺度をトルコ語に翻訳・検証した研究で、文化的適応を経て妥当性・信頼性の高いツールが整備されたことを報告しています。いずれもASDの行動特性や心理的要因を理解し、臨床・支援現場での評価と介入の質を高めるための実証的知見を提供する内容です。

学術研究関連アップデート

Influence of Autism Spectrum Disorder and Post-traumatic Stress Disorder on Risky Drinking Behavior in Relation to Satisfactory Sleep Status Among the General Population

概要(どんな研究?)

本研究は、日本の一般成人を対象に、自閉スペクトラム症(ASD)とリスクの高い飲酒行動(risky drinking)との関連を、睡眠満足度の違いに着目して分析したものです。ASDでは睡眠障害が高頻度にみられ、日本では睡眠困難の緩和目的で飲酒する傾向があることから、「ASDの人は睡眠を良くするためにリスクの高い飲酒を行うのではないか」という仮説を検証しています。さらに、しばしば併存する**心的外傷後ストレス障害(PTSD)**も考慮に入れ、ASD単独群とASD+PTSD群を分けて分析しました。


方法

  • 対象:20〜64歳の日本人3,823名
  • ASDステータス:
    • 非ASD群
    • ASDのみの群
    • ASD+PTSD併存群
  • 「過去30日間に二日酔いを解消するために朝酒をしたか?」への回答「はい」をリスクの高い飲酒行動と定義
  • 分析:ロジスティック回帰により、睡眠満足度別にASDと飲酒行動の関連を推定(交絡因子補正済)

結果

  • 睡眠に満足していない群では、ASDと危険飲酒との有意な関連はなし(OR=0.77, 95%CI: 0.55–1.09)
  • 睡眠に満足している群では、ASDが危険飲酒と有意に正の関連(OR=2.29, 95%CI: 1.22–4.29)
  • PTSD併存の有無も考慮したが、この傾向はASD全体に共通して確認された。

解釈と意義

この結果は、ASDの人が「良い睡眠を維持・得るために」飲酒を習慣化している可能性を示唆します。

つまり、ASDの人々は睡眠の質を保つ自己調整行動の一環として、リスクの高い飲酒に陥ることがあるということです。

一方で、睡眠が不満足な人では飲酒行動との関連は見られなかったため、「飲酒=睡眠改善」という誤った自己対処のパターンが特定の群で形成されている可能性があります。


結論

  • ASDは、睡眠に満足している人に限って危険飲酒行動のリスクを約2倍に高める
  • これは、睡眠の自己管理のために飲酒が習慣化する心理的メカニズムを示唆。
  • 今後は、ASD当事者の睡眠管理支援や、非アルコール的なリラクゼーション手段の提供が重要な介入ポイントとなる。

🔍 ポイント

本研究は、「ASD × 睡眠 × 飲酒行動」という新たな三者関係を一般人口データで実証した初の報告であり、ASD支援における睡眠衛生と嗜好行動の関連性を理解する上で貴重な知見です。

The Cognitive Flexibility Scale for Individuals With Autism Spectrum Disorder: A Turkish Adaptation and Validation Study

🧠概要(どんな研究?)

本研究は、自閉スペクトラム症(ASD)を持つ個人の「認知的柔軟性(Cognitive Flexibility: CF)」を評価するための尺度であるCognitive Flexibility Scale (CFS)を、トルコ語版として翻訳・適応し、その構造的妥当性と信頼性を検証したものです。

認知的柔軟性は、状況やルールの変化に応じて思考や行動を切り替える能力で、ASDの核心的な困難領域の1つとされています。


🧩研究の目的

  • 目的1: CFSをトルコ語に翻訳・文化的適応を行う
  • 目的2: トルコ語版の**因子構造(構造的妥当性)内的一貫性(信頼性)**を検証する

👥方法

  • 対象:ASD児を持つ保護者303名(分析対象は外れ値除去後298名)
  • 手法:
    • *確認的因子分析(CFA)**で因子構造を検証
    • *内的一貫性(Cronbach’s α)**で信頼性を評価

📊結果

  • *原版構造(既存因子構成)**では、モデル適合度が不十分で信頼性も低い
    • 一部項目の因子負荷量が0.30未満
  • 問題のある下位尺度を削除し、4因子・22項目構造に再構成
  • 修正版モデルでは適合度指標が良好となり、**高い内的一貫性(α係数)**を示した

✅結論

  • トルコ語版CFS(4因子・22項目)は、

    ASD児の保護者が報告する認知的柔軟性を信頼的に測定できる有効な尺度である。

  • トルコ語圏におけるASDの認知的特徴の評価や臨床支援、**研究比較(国際共同研究)**に活用可能。


💡意義と活用ポイント

  • ASD支援や教育現場において、**「こだわり」「切り替えの難しさ」**を定量的に把握できる。
  • 文化的適応を経たツールの整備は、国際的な比較研究や介入効果測定の基盤となる。
  • 今後は、臨床データや年齢層別の検証を通じて、さらなる一般化が期待される。

🔍 ポイントまとめ

  • 認知的柔軟性(CF)はASDの重要な評価領域
  • トルコ語版CFSは4因子・22項目構成で妥当性・信頼性良好
  • 保護者報告式尺度として臨床・教育・研究で活用可能