メインコンテンツまでスキップ

就労支援プログラムのASD当事者視点レビュー

· 約37分
Tomohiro Hiratsuka
CEO of Easpe, Inc

本記事では、2025年5月に発表された最新の学術研究から、自閉スペクトラム症(ASD)やADHDなどの発達障害に関する多様な視点を紹介しています。具体的には、スクリーニング精度の課題(「Watch Me Grow」研究)、保護者の心理状態、ASDと摂食障害の親の認知的共通点、就労支援プログラムの当事者視点、幼児への実践的介入法(ピア支援・OASIS)、迷走神経刺激による聴覚処理改善、性差と関連するDDX3X遺伝子の影響、文化的多様性を考慮した研究参加の重要性、胃薬成分BSSの神経保護効果、そしてADHDと不安・うつの併存と治療可能性など、多面的なアプローチで発達障害への理解と支援の在り方を探る研究が取り上げられています。

学術研究関連アップデート

Sensitivity and Specificity of Developmental Surveillance and Autism Screening in an Australian Multicultural Cohort: The Watch Me Grow Study

この研究は、オーストラリアの多文化的な乳幼児集団を対象に、「発達障害や自閉スペクトラム症(ASD)を18か月ごろに行うスクリーニングでどれだけ正確に見つけられるか(感度・特異度)」を検証したものです。

研究対象は**「Watch Me Grow(私を見て育てて)」プロジェクトの一部**です。


🔍 研究の概要

  • 対象年齢:18〜23か月の子ども165人
  • 使用されたスクリーニングツール:
    • PEDS(保護者による発達評価)
    • ASQ-3(乳幼児の発達段階評価)
    • M-CHAT-R/F(自閉症チェックリスト)

その後、専門的な評価ツール(MSELとADOS-2)を用いて診断評価を行い、スクリーニング結果との一致度(感度・特異度)を検証しました。


📊 主な結果

  • 各ツール単独や組み合わせによる感度(見つける力)と特異度(誤判定のなさ)は51〜87%とばらつきが大きい
  • 21人の子どもはスクリーニングでは問題なしとされていたが、後の精密検査で発達障害の可能性があると判定された
  • M-CHAT-R/Fを追加しても、発達障害の早期発見精度は大きく改善しなかった

✅ 結論と意義

  • オーストラリアにおける現在のスクリーニング体制では、見逃し(偽陰性)や誤判定(偽陽性)のリスクが依然としてある
  • コミュニティやプライマリケア(地域のかかりつけ医など)でのスクリーニング精度と家族の参加率を改善する必要がある

💡 要するに:

  • *「18か月ごろの発達スクリーニングでは、自閉症や発達障害を完全に見つけるのは難しく、改良が必要である」**ということを、多文化な子どもたちを対象にデータで示した研究です。親の気づきだけに頼らず、より精度の高い仕組みづくりが求められています。

Prevalence of anxiety symptoms among caregivers of children with ADHD attending pediatric and speech therapy departments

この研究は、ADHD(注意欠如・多動症)の子どもを育てる保護者が、どれくらい不安やストレス、うつなどを感じているかを調べたものです。対象は、バーレーンのKing Hamad大学病院の小児科および言語療法部門を受診している44家族でした。


🔍 研究のポイント

  • 対象児の18%(8人)がADHDと正式に診断されていた
  • 保護者は以下の質問票に回答:
    • 子どものADHD診断に関する尺度
    • 子どもの不安症状(SCARED)
    • 保護者自身の不安(GAD-7)
    • 保護者自身のうつ(PHQ-9)
    • 介護の負担感(MCSI)

📊 主な結果

  • ADHDの子どもを持つ親は、「子どもの健康に対する不安」が高かった
    • 子どもの不安レベル(SCARED)のスコアが高いと、ADHD診断との関連が統計的に有意(p = 0.012)
  • しかし保護者自身については:
    • 一般的な不安(GAD-7) → 有意差なし(p = 0.942)
    • うつ症状(PHQ-9) → 有意差なし(p = 0.671)
    • 介護負担(MCSI) → 有意差なし(p = 0.167)

✅ 結論

ADHDの子どもを持つ親は、子どもの不安や健康についての心配は強いものの、自分自身がうつになったり、強い不安を抱えたり、育児の負担に押しつぶされているわけではない、という結果でした。


💡 要するに:

この研究は、ADHDのある子どもを持つ親は、子どもに対しては強い心配を抱いているが、自分自身のメンタルヘルスには深刻な影響は出ていないことを示しています。支援を考える際は、親の「子どもの将来や健康への不安」に寄り添うことが大切だとわかります。

Neurocognitive Profiles in Parents of Autistic Children and Parents of Children with Anorexia Nervosa

この研究は、自閉スペクトラム症(ASD)の子どもの親と、神経性やせ症(AN: アノレキシア・ナーボーサ)の子どもの親の間に、認知的特徴や行動特性に共通点があるかどうかを調べたものです。両者は遺伝的要因の影響が強い疾患で、近年ではその**重なり(オーバーラップ)**に注目が集まっています。


🔍 研究の概要

  • 対象:3つのグループ
    1. 自閉症の子を持つ親
    2. 拒食症の子を持つ親
    3. 定型発達の子を持つ親
  • 実施内容:
    • 社会的認知(例:他人の気持ちを理解する力)
    • 認知的柔軟性(例:状況に応じて考えを切り替える力)
    • 想像力や共感力に関する質問票

📊 主な結果

  • 自閉症児の親は、想像力に関する課題で他の親グループより困難を示した
  • 一方で、拒食症児の親は、認知的柔軟性において高いパフォーマンスを示した
  • 摂食障害の特徴が強い親ほど、自閉症に関連する認知課題の成績が悪いという関連も確認された

✅ 結論と意義

  • ASDとANには共通する認知的特徴(特に柔軟性や社会的理解の課題)がある可能性が示された
  • 親の認知傾向を理解することは、子どものリスク予測や、正確な診断、効果的な治療方針の設計に役立つ
  • ASDとANの特性が重なる人は治療効果が出にくく、健康被害も大きくなりやすいため、早期からの支援や個別対応が重要

💡 要するに:

この研究は、「自閉症と拒食症は、親の認知的特徴にも共通点があるかもしれない」という視点から、子ども本人だけでなく家族の特性を含めて理解を深めることの重要性を示しています。今後、発達と精神疾患の重なりに注目したリスク評価・支援法の進化が期待されます。

Reflections of Autistic Adults on Employment Preparation Programs: A Qualitative Analysis

この研究は、自閉スペクトラム症(ASD)のある成人が実際に就労準備プログラムを受けた後に感じたことや経験を、直接本人から聞き取って分析した質的研究です。これまでの多くの研究は親や支援者の視点に偏っていたため、当事者の声を反映させることが目的です。


🔍 研究の概要

  • 対象:就労準備プログラムを修了した16人のASDのある成人
  • 方法:半構造化インタビュー(26の主要質問+自由なやりとり)で、本人の言葉を重視した分析(帰納的テーマ分析)を実施

📚 明らかになった4つのテーマ

  1. 仕事に必要なスキルの習得
    • 履歴書作成や面接練習などのスキルが向上したと感じている
  2. 実地経験とジョブコーチのサポート
    • 実際に職場で働く体験や、サポートを受けたことが就職に役立った
    • 一方で、「ジョブコーチが介入しすぎる」と感じる人もいた
  3. 仲間との関係(ピア・リレーションシップ)
    • 他の参加者との交流が有意義だったとする声がある一方で、関係を継続する難しさも指摘された
  4. 目標設定の支援
    • プログラム内で自分で目標を立てる練習ができたことが、今後の行動に役立っているという声

✅ 結論と意義

  • 多くの参加者はプログラムに満足し、実際に就職できたことにプログラムの貢献があったと感じている
  • しかし、関係維持の難しさや**支援のバランス(介入の度合い)**といった課題も浮かび上がった
  • こうした当事者の声は、今後の就労支援プログラムの質向上や、支援スタッフの研修内容の改善に役立つと期待される

💡 要するに:

  • *「就労準備プログラムは役立つが、もっと当事者の視点に立った改善が必要」**ということを示した研究です。就職そのものだけでなく、「自信の獲得」「仲間との関わり」「自分で考える力」といった面でも効果があり、ASDのある成人の自立支援にとって重要な手段であることが再確認されました。

Interventions Benefitting Young Autistic Children

この論文は、自閉スペクトラム症(ASD)のある幼い子どもたちのために効果があった介入法を紹介しています。特に、**「言葉が少ない/話せない子ども」や「家での支援が必要な家庭」**に向けた支援方法が中心です。


🔍 主な内容は2つの介入プログラム

1.小集団での「ピア支援」型介入

  • 言葉や社会的やり取りを伸ばすことが目的。
  • 定型発達の子ども(ピア)に、ASDのある子どもの「よきコミュニケーション相手」になる方法を教えることで、自然な交流の中でASDの子どもの成長を促す。
  • 話せない/話しにくい子どもに向けては、AAC(補助代替コミュニケーション)ツールの使用を促進する新たな工夫も取り入れている。

2.在宅支援型プログラム「OASIS」

  • *OASIS(Online and Applied System of Intervention Skills)**は、保護者向けのオンライン&テレヘルス型トレーニングプログラム
  • 親が問題行動を減らしたり、自立を促す行動支援スキルを学べる。
  • 各ステップには、ビデオ教材+オンラインコーチとの実践セッションがセットになっており、家庭で子どもと一緒に練習しながら進められる。
  • 特に、**支援サービスをまだ受けられていない家庭(待機中)**にとって、有用な先行的サポートになっている。

✅ 結論と意義

この論文は、学校・家庭の両方で取り組める実践的かつ科学的に裏づけられた介入法を紹介しており、**特に支援が届きにくい子どもや家庭にとっての「使いやすい支援の形」**として注目されています。


💡 要するに:

  • 他の子どもと一緒に学べる「ピア支援型」介入
  • 親が家庭で支援スキルを学べる「OASIS」オンラインプログラム

この2つは、言葉や社会性に課題のあるASDの子どもを早期から支援するための、効果的で実践的な方法として、多くの教育現場や家庭で活用が進んでいます。

Sensitivity and Specificity of Developmental Surveillance and Autism Screening in an Australian Multicultural Cohort: The Watch Me Grow Study

この論文は、オーストラリアの多文化的な子どもたちを対象にした「Watch Me Grow」研究の一部として、**発達障害や自閉スペクトラム症(ASD)を早期に発見するためのスクリーニング(発達監視)方法の正確さ(感度と特異度)**を評価したものです。


🔍研究の目的と方法

  • 対象:18か月前後の子ども165人
  • 使用されたスクリーニングツール:
    • PEDS(保護者による発達評価)
    • ASQ-3(発達段階質問票)
    • M-CHAT-R/F(自閉症チェックリスト)
  • 評価方法:18〜23か月の間に、以下を使ってより詳しい評価を実施
    • MSEL(発達の全般的評価)
    • ADOS-2(ASDの観察診断)

📊主な結果

  • 感度(見つけ漏れの少なさ)と特異度(誤認の少なさ)は、51%〜87%と幅広くバラつきがあった
  • 21人の子どもは、スクリーニングでは問題なしとされたが、後の評価で発達障害の可能性があると判定された
  • M-CHAT-R/Fを追加しても、発達障害の発見率を大きく改善することはなかった
  • ツールの組み合わせによっても、正確性(感度・特異度)にはかなりのばらつきがあった。

✅結論と意義

この研究は、現在のオーストラリアの発達スクリーニング体制では、発達障害やASDの早期発見に限界があることを示しています。特に、多文化的背景を持つ家族が多い現場では、方法やツールの精度だけでなく、保護者の関与や医療・地域との連携も含めた「システム全体の改善」が必要であるとしています。


💡要するに:

  • *「発達障害を早く見つけるためのツールはあるが、完璧ではなく、見落としもある。とくに多文化社会では、使い方や家族との関係も含めて工夫が必要」**というメッセージを伝える研究です。早期発見を実現するには、道具だけでなく、支援体制全体の見直しがカギとなります。

Therapeutic effect of bismuth subsalicylate in a propionic acid–induced autism model

この研究は、「ビスマスサリチル酸塩(BSS)」という市販の胃腸薬にも使われる成分が、自閉スペクトラム症(ASD)の動物モデルでどのような効果を持つかを調べたものです。


🔍背景と目的

  • ASDの原因のひとつに「脳内の炎症や酸化ストレス(細胞を傷つける反応)」があると考えられています。
  • 研究では、**プロピオン酸(PPA)**という物質をラットに投与して、自閉症に似た症状を人工的に引き起こすモデルを使いました。
  • このモデルに対し、抗炎症・抗酸化作用を持つとされるBSSがどのような効果を示すかを検証しました。

🧪方法と構成

  • *3つのグループのラット(各10匹)**に対して以下の処置を実施:
    1. 健康な対照グループ
    2. PPAを投与しただけのグループ(PPAS)
    3. PPA投与後にBSSを治療として与えたグループ(PPAB)
  • 15日間の治療を行い、その後に行動テスト(社交性、探索行動、記憶)と脳の化学的・組織的分析を実施。

📊主な結果

  • BSSを投与したグループでは、脳内の炎症と酸化ストレスの指標(TNF-α、IL-17、MDA)が大きく減少
  • 脳組織でも、神経細胞がより良好に保存され、炎症性細胞(ミクログリア)の活性も抑えられていた
  • 社交性や記憶、探索行動といったASDモデル特有の行動異常も、BSSの治療によって有意に改善された。

✅結論と意義

この研究は、BSSが炎症と酸化ストレスを抑えることで、ASD様の症状を改善する可能性があることを示しています。あくまで動物実験の段階ですが、将来的には自閉症の新たな補助的治療法としての可能性を示唆する重要な一歩といえます。


💡要するに:

  • *「市販の胃薬成分が、自閉症の原因とされる脳の炎症や酸化ストレスを抑えて、社会性や記憶の問題を改善できるかもしれない」**ということを、動物実験で確かめた研究です。今後の人への応用が期待されます。

Sex-specific perturbations of neuronal development caused by mutations in the autism risk gene DDX3X

この研究は、自閉スペクトラム症(ASD)や知的障害(ID)と関係する**遺伝子「DDX3X」**の異常が、**男女で異なる脳の発達への影響(性差)**を引き起こすことを明らかにしたものです。


🔍背景と目的

  • DDX3XはX染色体にある遺伝子で、女性では2つのX染色体の両方から発現するため、男性よりも脳内の発現量が多くなります。
  • この遺伝子に変異があると、主に**女性においてASDやIDの症状が見られる「DDX3X症候群」**が生じます。
  • 研究では、細胞実験とマウス実験を通じて、DDX3Xの役割と性差への影響を詳しく調べました。

🧠主な発見

  • 女性の脳ではDDX3Xが「タンパク質合成の準備(リボソーム生成やmRNA代謝)」を活発に保つ役割を持っている。
    • 女性の神経細胞は、核小体が大きく、リボソーム関連のタンパク質の量が多い
  • しかし、DDX3Xが欠損すると、これらの「女性らしい特徴」が消えてしまう
  • 神経細胞の枝分かれ(樹状突起の複雑さ)や、神経同士のつながり(スパイン)の発達にもDDX3Xは影響しており、特にスパイン形成は女性の細胞でのみ影響を受ける
  • マウスの前脳でDDX3Xを欠損させると、性別によって異なる発達の変化や運動機能の違いが現れた

✅結論と意義

この研究は、DDX3Xが男女の脳発達の違いを生み出す重要な要素であり、女性に特有のASDリスクの理解に役立つことを示しました。性差に着目した発達障害の研究や治療法開発の出発点となる重要な知見です。


💡要するに:

  • *「DDX3X」という遺伝子は、女性の脳発達を独特なかたちで支えており、その働きが失われると女性の方がより大きな影響を受ける」**ということがわかりました。この発見は、**ASDの性差(男性より女性の方が症状が出にくいが、出た場合は重いことが多い)**の理由を解明するカギのひとつとなります。

Time to Listen: Engaging Latino Autistic Adults and Parents as Partners in Advancing Autism Research

この論文は、ラテン系(Latino)の自閉スペクトラム症(ASD)当事者やその家族が、研究にほとんど参加できていないという課題に対して、**「当事者と家族を対等なパートナーとして研究に巻き込む方法(参加型研究)」**を探った実践的な研究です。


🔍研究の目的と背景

  • ASDの研究では、ラテン系の家族や当事者の声がほとんど反映されていない
  • 文化や言語の違いに配慮せずに研究が行われてしまうと、実態に合わない測定ツールや支援策が作られてしまう可能性があります。
  • そこで本研究では、**ラテン系の当事者・親と研究者が対等に協力する「コミュニティ参加型研究(CBPR)」**を活用し、文化的に適切で信頼性の高い研究手法を模索しました。

🧪方法

  • ラテン系の**ASD当事者(8名)と保護者(25名)**を対象に、**フォーカスグループ(座談会)**を実施。
  • *ラテン系の研究者と当事者を含む「アドバイザリーボード」**を設置し、研究全体に助言を行う体制を整えました。
  • 分析は、参加者の体験や語りに焦点をあてる現象学的アプローチ+テーマ分析で実施。

📌見えてきた3つの重要ポイント

  1. 文化・言語の一致
    • 研究チームが参加者の言語や文化背景に合っていることが信頼関係の出発点。
  2. 制度への信頼
    • 歴史的に不公平を経験してきたコミュニティにとって、研究機関への信頼の構築が極めて重要
  3. 地域や文化の象徴を取り入れる
    • 地元らしさや文化的な象徴(例えばシンボルや言い回しなど)を大事にすることで、研究への親しみやすさが増す。

✅結論と意義

  • ASD研究における**ラテン系の当事者や家族の「対等な参加」**は、有意義で信頼性の高い研究結果を導くうえで不可欠
  • この研究は、**文化的に適切な研究の進め方(文化的整合性・信頼・象徴性)**を明確にし、今後の多様性を尊重したASD研究のモデルとなる重要な提案です。

💡要するに:

「ラテン系のASD当事者や家族が、研究に対等に参加し、文化や言語に配慮された形で声を届けられる環境づくり」が、より公平で意味のある研究につながるということを示した論文です。今後のASD支援や政策づくりにも大きなヒントを与える内容です。

Frontiers | Speech Paired Vagus Nerve Stimulation Restores Neural Sound Processing in A Rat Model of Autism

この論文は、自閉スペクトラム症(ASD)モデルのラットにおいて、「迷走神経刺激(VNS)」を音と組み合わせて行うことで、脳の音処理の異常を改善できるかを調べた実験的研究です。ASDの原因の1つとして知られる妊娠中のバルプロ酸(VPA)曝露によって、ラットは人間のASDと似たような音の聞き取りや識別の困難を示します。


🔍 研究の背景と目的

  • ASDの人は、言語の聞き取りや発話に困難を抱えることが多く、その原因の1つに**脳の音処理の異常(特に聴覚野での処理の低下)**があるとされています。
  • そこで本研究では、**VPAでASD様の特徴を持つラットの聴覚処理機能を「音と同時にVNSを行うことで回復できるか」**を検証しました。

🧪 実験内容

  1. 神経活動の計測(ラットの聴覚野の反応を記録):
    • 対象:通常のラット、VPA曝露ラット、VPA+音とVNSを組み合わせた訓練を受けたラット
    • 音刺激:トーン音、ノイズ、話し言葉音など
    • 結果:VPAラットは脳の音処理(周波数の聞き分けや時間的変化の認識など)が劣っていたが、VNSによってその処理が部分的または完全に回復した。
  2. 音の識別能力の行動テスト(go/no-go課題):
    • 目的:神経的改善が行動(音の識別)に結びつくかを検証
    • 結果:音の識別能力には有意な改善は見られなかった

✅ 結論と意義

  • 音とペアで迷走神経を刺激することで、脳の音処理能力を回復できる可能性が示された。
  • ただし、その効果が実際の行動面(音を区別する力)にどのように影響するかは今後の研究課題
  • この研究は、将来的にVNSを使った言語・コミュニケーション支援の新しいアプローチを開発するための基礎的なステップとなります。

💡 要するに:

ASDモデルのラットでは音の処理能力が低下していたが、「音+迷走神経刺激」によって脳の反応が改善されたという成果です。これは将来的に、人の言語障害への治療に応用できる可能性を示しています。

Frontiers | Neurobiological Basis of Autism Spectrum Disorder: mini review

この論文は、自閉スペクトラム症(ASD)の**「神経生物学的な基盤」について、特に遺伝的要因と脳の形態的(構造的)な特徴**に焦点を当ててまとめたミニレビューです。


🔍 主なポイント

  • ASDは、コミュニケーションや社会的相互作用の困難、反復的な行動などを特徴とする神経発達障害であり、その症状や重さは人によって大きく異なります。
  • こうした多様性は、**遺伝子の構成が複雑であること(多くの遺伝子が関与)**や、脳の構造の違いによって説明できる可能性があります。

🧬 遺伝的要因と形態学的特徴

  • 複数の研究を調査した結果、ASDには特定の遺伝子変異や異常が関連していることが示唆されているが、まだ一貫した結論には至っていません。
  • 脳の形やサイズ、特定部位の発達具合にも違いが見られ、脳の構造的な異常と行動特性との関係性が研究されつつあります

✅ 結論と意義

  • 遺伝子や脳構造に関する研究は、ASDの原因やメカニズムの理解に役立つ重要な手がかりを提供しています。
  • ただし、現時点ではその情報だけでは、ASDのすべての症状の違いや個人差を十分に説明するには不十分であり、さらなる研究が必要とされています。

💡 要するに:

このレビューは、**「ASDの多様な症状や背景を理解するには、遺伝と脳の構造にもっと注目する必要がある」**としつつも、現段階の知見はまだ不十分で、今後の研究の発展が不可欠であることを示しています。科学的な基盤づくりとして意義のある内容です。

Frontiers | Adult ADHD and Comorbid Anxiety and Depressive Disorders: a review of Etiology and treatment

この論文は、成人のADHD(注意欠如・多動症)と不安障害・うつ病の併存(合併)について、その原因や治療法を最新の研究に基づいて整理したレビューです。


🔍 主なポイント

  • ADHDのある成人は、不安障害やうつ病を併発しやすい(=併存率が高い)。
  • こうした併存症を持つ人は、症状が重くなりやすく、病気の期間が長引き、治療効果も出にくい傾向があります。
  • その原因は、遺伝、神経生物学、脳の働き、脳の画像所見など、多角的な要因が絡んでいて非常に複雑です。

🧠 治療について

  • *薬物療法と心理療法(例:認知行動療法/CBT)**を組み合わせた治療が効果的。
  • 最近では、**デジタルセラピー(アプリなど)**も併用され始めています。
  • このような統合的なアプローチは、症状の軽減と生活の質の向上に寄与すると報告されています。

✅ 結論

  • ADHDは多様な症状を持つ複雑な疾患であり、不安やうつとの併存は非常に一般的
  • 今後は、こうした併存状態の発症メカニズムの解明が重要。
  • より効果的な治療や支援を行うためには、さらなる研究が必要とされています。

💡 要するに:

  • *「ADHDのある大人が、不安やうつを併発するのは珍しくなく、その原因はとても複雑。でも、薬や心理療法を組み合わせたアプローチで改善が期待できる」**ということを、最新の知見に基づいて解説した論文です。支援者や当事者にとって、理解と対応の指針になる重要な情報です。