就労支援プログラムのASD当事者視点レビュー
本記事では、2025年5月に発表された最新の学術研究から、自閉スペクトラム症(ASD)やADHDなどの発達障害に関する多様な視点を紹介しています。具体的には、スクリーニング精度の課題(「Watch Me Grow」研究)、保護者の心理状態、ASDと摂食障害の親の認知的共通点、就労支援プログラムの当事者視点、幼児への実践的介入法(ピア 支援・OASIS)、迷走神経刺激による聴覚処理改善、性差と関連するDDX3X遺伝子の影響、文化的多様性を考慮した研究参加の重要性、胃薬成分BSSの神経保護効果、そしてADHDと不安・うつの併存と治療可能性など、多面的なアプローチで発達障害への理解と支援の在り方を探る研究が取り上げられています。
学術研究関連アップデート
Sensitivity and Specificity of Developmental Surveillance and Autism Screening in an Australian Multicultural Cohort: The Watch Me Grow Study
この研究は、オーストラリアの多文化的な乳幼児集団を対象に、「発達障害や自閉スペクトラム症(ASD)を18か月ごろに行うスクリーニングでどれだけ正確に見つけられるか(感度・特異度)」を検証したものです。
研究対象は**「Watch Me Grow(私を見て育てて)」プロジェクトの一部**です。
🔍 研究の概要
- 対象年齢:18〜23か月の子ども165人
- 使用されたスクリーニングツール:
- PEDS(保護者による発 達評価)
- ASQ-3(乳幼児の発達段階評価)
- M-CHAT-R/F(自閉症チェックリスト)
その後、専門的な評価ツール(MSELとADOS-2)を用いて診断評価を行い、スクリーニング結果との一致度(感度・特異度)を検証しました。
📊 主な結果
- 各ツール単独や組み合わせによる感度(見つける力)と特異度(誤判定のなさ)は51〜87%とばらつきが大きい
- 21人の子どもはスクリーニングでは問題なしとされていたが、後の精密検査で発達障害の可能性があると判定された
- M-CHAT-R/Fを追加しても、発達障害の早期発見精度は大きく改善しなかった
✅ 結論と意義
- オーストラリアにおける現在のスクリーニング体制では、見逃し(偽陰性)や誤判定(偽陽性)のリスクが依然としてある
- コミュニティやプライマリケア(地域のかかりつけ医など)でのスクリーニング精度と家族の参加率を改善する必要がある
💡 要するに:
- *「18か月ごろの 発達スクリーニングでは、自閉症や発達障害を完全に見つけるのは難しく、改良が必要である」**ということを、多文化な子どもたちを対象にデータで示した研究です。親の気づきだけに頼らず、より精度の高い仕組みづくりが求められています。
Prevalence of anxiety symptoms among caregivers of children with ADHD attending pediatric and speech therapy departments
この研究は、ADHD(注意欠如・多動症)の子どもを育てる保護者が、どれくらい不安やストレス、うつなどを感じているかを調べたものです。対象は、バーレーンのKing Hamad大学病院の小児科および言語療法部門を受診している44家族でした。
🔍 研究のポイント
- 対象児の18%(8人)がADHDと正式に診断されていた
- 保護者は以下の質問票に回答:
- 子どものADHD診断に関する尺度
- 子どもの不安症状(SCARED)
- 保護者自身の不安(GAD-7)
- 保護者自身のうつ(PHQ-9)
- 介護の負担感(MCSI)
📊 主な結果
- ADHDの子どもを持つ親は、「子どもの健康に対する不安」が高かった
- 子どもの不安レベル(SCARED)のスコアが高いと、ADHD診断との関連が統計的に有意(p = 0.012)
- しかし保護者自身については:
- 一般的な不安(GAD-7) → 有意差なし(p = 0.942)
- うつ症状(PHQ-9) → 有意差なし(p = 0.671)
- 介護負担(MCSI) → 有意差なし(p = 0.167)
✅ 結論
ADHDの子どもを持つ親は、子どもの不安や健康についての心配は強いものの、自分自身がうつになったり、強い不安を抱えたり、育児の負担に押しつぶされているわけではない、という結果でした。
💡 要するに:
この研究は、ADHDのある子どもを持つ親は、子どもに対しては強い心配を抱いているが、自分自身のメンタルヘルスには深刻な影響は出ていないことを示しています。支援を考える際は、親の「子どもの将来や健康への不安」に寄り添うことが大切だとわかります。
Neurocognitive Profiles in Parents of Autistic Children and Parents of Children with Anorexia Nervosa
この研究は、自閉スペクトラム症(ASD)の子どもの親と、神経性やせ症(AN: アノレキシア・ナーボーサ)の子どもの親の間に、認知的特徴や行動特性に共通点があるかどうかを調べたものです。両者は遺伝的要因の影響が強い疾患で、近年ではその**重なり(オーバーラップ)**に注目が集まっています。
🔍 研究の概要
- 対象:3つのグループ
- 自閉症の子を持つ親
- 拒食症の子を持つ親
- 定型発達の子を持つ親
- 実施内容:
- 社会的認知(例:他人の気持ちを理解する力)
- 認知的柔軟性(例:状況に応じて考えを切り替える力)
- 想像力や共感力に関する質問票
📊 主な結果
- 自閉症児の親は、想像力に関する課題で他の親グループより困難を示した
- 一方で、拒食症児の親は、認知的柔軟性において高いパフォーマンスを示した
- 摂食障害の特徴が強い親ほど、自閉症に関連する認知課題の成績が悪いという関連も確認された
✅ 結論と意義
- ASDとANには共通する認知的特徴(特に柔軟性や社会的理解の課題)がある可能性が示された
- 親の認知傾向を理解することは、子どものリスク予測や、正確な診断、効果的な治療方針の設計に役立つ
- ASDとANの特性が重なる人は治療効果が出にくく、健康被害も大きくなりやすいため、早期からの支援や個別対応が重要
💡 要するに:
この研究は、「自閉症と拒食症は、親の認知的特徴にも共通点があるかもしれない」という視点から、子ども本人だけでなく家族の特性を含めて理解を深めることの重要性を示しています。今後、発達と精神疾患の重なりに注目したリスク評価・支援法の進化が期待されます。
Reflections of Autistic Adults on Employment Preparation Programs: A Qualitative Analysis
この研究は、自閉スペクトラム症(ASD)のある成人が実際に就労準備プログラムを受けた後に感じたことや経験を、直接本人から聞き取って分析した質的研究です。これまでの多くの研究は親や支援者の視点に偏っていたため、当事者の声を反映させることが目的です。
🔍 研究の概要
- 対象:就労準備プログラムを修了した16人のASDのある成人
- 方法:半構造化インタビュー(26の主要質問+自由なやりとり)で、本人の言葉を重視した分析(帰納的テーマ分析)を実施
📚 明らかになった4つのテーマ
- 仕事に必要なスキルの習得
- 履歴書作成や面接練習などのスキルが向上したと感じている
- 実地経験とジョブコーチのサポート
- 実際に職場で働く体験や、サポートを受けたことが就職に役立った
- 一方で、「ジョブコーチが介入しすぎる」と感じる人もいた
- 仲間との関係(ピア・リレーションシップ)
- 他の参加者との交流が有意義だったとする声がある一方で、関係を継続する難しさも指摘された
- 目標設定の支援
- プログラム内で自分で目標を立てる練習ができたことが、今後の行動に役立っているという声
✅ 結論と意義
- 多くの参加者はプログラムに満足し、実際に就職できたことにプログラムの貢献があったと感じている
- しかし、関係維持の難しさや**支援のバランス(介入の度合い)**といった課題も浮かび上がった
- こうした当事者の声は、今後の就労支援プログラムの質向上や、支援スタッフの研修内容の改善に役立つと期待される
💡 要するに:
- *「就労準備プログラムは役立つが、もっと当事者の視点に立った改善が必要」**ということを示した研究です。就職そのものだけでなく、「自信の獲得」「仲間との関わり」「自分で考える力」といった面でも効果があり、ASDのある成人の自立支援にとって重要な手段であることが再確認されました。
Interventions Benefitting Young Autistic Children
この論文は、自閉スペクトラム症(ASD)のある幼い子どもたちのために効果があった介入法を紹介しています。特に、**「言葉が少ない/話せない子ども」や「家での支援が必要な家庭」**に向けた支援方法が中心です。
🔍 主な内容は2つの介入プログラム
1.小集団での「ピア支援」型介入
- 言葉や社会的やり取りを伸ばすことが目的。
- 定型発達の子ども(ピア)に、ASDのある子どもの「よきコミュニケーション相手」になる方法を教えることで、自然な交流の中でASDの子どもの成長を促す。
- 話せない/話しにくい子どもに向けては、AAC(補助代替コミュニケーション)ツールの使用を促進する新たな工夫も取り入れて いる。
2.在宅支援型プログラム「OASIS」
- *OASIS(Online and Applied System of Intervention Skills)**は、保護者向けのオンライン&テレヘルス型トレーニングプログラム。
- 親が問題行動を減らしたり、自立を促す行動支援スキルを学べる。
- 各ステップには、ビデオ教材+オンラインコーチとの実践セッションがセットになっており、家庭で子どもと一緒に練習しながら進められる。
- 特に、**支援サービスをまだ受けられていない家庭(待機中)**にとって、有用な先行的サポートになっている。
✅ 結論と意義
この論文は、学校・家庭の両方で取り組める実践的かつ科学的に裏づけられた介入法を紹介しており、**特に支援が届きにくい子どもや家庭にとっての「使いやすい支援の形」**として注目されています。
💡 要するに:
- 他の子どもと一緒に学べる「ピア支援型」介入
- 親が家庭で支援スキルを学べる「OASIS」オンラインプログラム