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ASDと知的障害の併存による感情発達の違い

· 約24分
Tomohiro Hiratsuka
CEO of Easpe, Inc

このブログ記事では、発達障害に関する最新の学術研究を紹介しています。具体的には、自閉スペクトラム症(ASD)や注意欠如・多動症(ADHD)、学習障害(SLD)を持つ子どもや成人の感情・言語・行動発達、家族支援、教育現場での対応、遺伝的要因、社会的権利に関する研究が取り上げられています。たとえば、ASDと知的障害の併存による感情発達の違い、脂質代謝遺伝子ABCA12の脳機能への影響、ASD児の語彙特徴や恋愛教育における教育現場の視点、早期介入支援者の実践、ADHD傾向と吃音の関係、さらにはSLD児の親支援の効果に関するレビューなど、多角的かつ実践に活かせる研究成果が網羅的に紹介されています。

Comparing Emotional Development in Persons With Intellectual Disability With and Without Autism Spectrum Disorder

この論文は、知的障害(ID)だけがある人と、知的障害に加えて自閉スペクトラム症(ASD)もある人との間で、「感情の発達レベル(Emotional Development, ED)」に違いがあるかどうかを調べた研究です。


🔍 研究の内容

  • 対象者:IDのみの人174人と、ID+ASDの人174人(年齢などをマッチさせて比較)
  • 評価方法:感情発達を測る**SED-S(Scale of Emotional Development-Short)**という200項目の質問表を、支援者や保護者が回答
  • SED-Sは8つの領域(例:感情表現、対人関係、コミュニケーションなど)で5段階の発達レベルを評価

📊 主な結果

  • ID+ASDの人は、IDのみの人に比べて全体的に感情発達のスコアが低い
  • 特に「感情表現(Affect)」「コミュニケーション」「仲間との関係(Peers)」の発達レベルが顕著に低かった
  • 一方で、一部の段階(ステージ4)ではASDのある人の方が「仲間との関係」領域で高スコアだった
  • 全体として、ASDのある人の方が「はい」と答えられる項目数が少ない傾向にあった(=できていることが少ない)

✅ 結論と意義

この研究は、ASDを併せ持つ知的障害のある人は、感情の発達に特有の遅れや偏りがある可能性があることを示しています。これは、支援や教育の内容を個別化・最適化する上で重要な手がかりになります。特に、感情や対人関係の支援ニーズがASDのある人では高いことが示唆されており、支援者がそれを理解し、適切な対応をすることが求められます。


💡 要するに:

  • *「同じ知的障害でも、自閉症があると感情の発達により大きな課題がある」**ということがわかった研究です。感情や人間関係の支援をより丁寧に行う必要があることを教えてくれます。

From Genetics to Function: the Role of ABCA12 in Autism Neurobiology

この論文は、**自閉スペクトラム症(ASD)に関連する遺伝子の1つ「ABCA12」**の新たな役割に注目し、この遺伝子がどのように脳の発達や機能に影響を与えているのかを整理したレビュー研究です。


🔍 どんな遺伝子?ABCA12とは?

  • ABCA12はもともと**皮膚の病気(角化異常症など)**と関連して知られていた遺伝子。
  • 近年、脳内の脂質(あぶら)の運搬や代謝にも関与していることがわかってきました。

🧠 ASDとの関係:何が起きている?

  • ABCA12が正常に働かないと、以下のような脳の異常や障害が起こる可能性があります:
    • 脂質のバランスの崩れ(脂質恒常性の異常)
    • 神経の炎症(neuroinflammation)
    • 酸化ストレス
    • シナプス(神経の接続)の異常
  • これらはすべて、ASDの症状(社会性の困難・反復行動など)と深く関係している生物学的プロセスです。

🐭 実験モデルからの知見

  • マウスやゼブラフィッシュの研究で、ABCA12が機能しないと、社会的なやりとりが減ったり、同じ動きを繰り返す行動が見られたりすることが確認されました。

💊 将来の応用可能性

  • ABCA12やその下流の影響(例:神経伝達、膜の安定性など)に注目した治療法の研究が進められています。
  • これは、遺伝情報からASDの理解と介入を進めるための新しい道になると期待されています。

✅ 要するに:

「ABCA12」という脂質代謝に関わる遺伝子が、自閉症の脳の異常にも関わっている可能性があるということが明らかになってきました。この研究は、脂質代謝と脳発達のつながりを通じて、ASDの理解や治療の新たな方向性を示すものです。

"The System Sweeps it Under the Rug": Educational Staff's Perspectives on Romantic Relationships Among Autistic Adolescents

この論文は、自閉スペクトラム症(ASD)のある10代の若者たちの恋愛関係について、学校の教育スタッフがどのように捉え、どう対応しているのかを明らかにした質的研究です。対象はイスラエルの特別支援学校の教育者20名で、面談を通じてその意識や実践を深掘りしました。


🔍 研究の背景

  • 国連の「障害者の権利に関する条約(CRPD)」では、障害のある人にも恋愛・結婚・子育ての権利があることが明記されています。
  • しかし、これまでの研究は身体障害や知的障害の人に偏っており、自閉症の若者の恋愛については十分に語られていませんでした。

🧠 教育スタッフの意見から浮かび上がった4つのテーマ

  1. 恋愛へのスティグマ(偏見)
    • 「自閉症の子には恋愛は無理」といった否定的な固定観念が根強い。
  2. 性教育の優先事項が「予防」中心
    • 恋愛や人間関係の育成ではなく、危険防止(妊娠・性被害)に偏った教育が行われがち。
  3. 教育の欠如による問題行動
    • 恋愛や性に関する教育が不足すると、不適切な行動が生まれやすいという現場の懸念が語られた。
  4. 望ましい実践の提案
    • 教育スタッフが自らも学び、感情的・実践的な準備を整えることが必要だとする提案が出された。
    • また、恋愛を前向きに捉えるカリキュラムの導入が求められている。

✅ 結論と意義

この研究は、自閉症の若者が恋愛をする権利や可能性が「教育現場で見過ごされがち」になっている現状を、「教育の盲点」として浮き彫りにしました。そして、偏見をなくし、恋愛や人間関係をポジティブに学べる環境づくりが必要であると強調しています。


💡 要するに:

「自閉症の10代に恋愛は難しい」と決めつけず、学校現場でも適切な理解と支援を提供すべきだというのが本研究のメッセージです。恋愛を「問題」ではなく「学びと成長の一環」として捉え直す視点が、今の教育には求められています。

Expressive Vocabulary in Mandarin-Speaking Autistic, Developmentally Delayed, and Typically Developing Children: A Cross-sectional Study

この研究は、中国語(マンダリン)を話す3〜6歳の子どもたちを対象に、自閉スペクトラム症(ASD)のある子どもの語彙表現(特に話し言葉)が、発達遅滞(DD)のある子どもや定型発達(TD)の子どもと比べてどのように異なるのかを調べたものです。


🔍 研究の方法と対象

  • 子どもたちが**親と自由に遊んでいる様子を10分間録音し、その中の発話(自然な言語サンプル)**を分析。
  • 対象は:
    • ASDの子ども:21人
    • 発達遅滞(DD)の子ども:18人(発達段階をASDと合わせた)
    • 定型発達(TD)の子ども:15人(年齢をASDと合わせた)

📊 主な結果

  • 3グループとも動詞の使用が多かった(中国語の特性)。
  • ASDの子どもは、TDの子どもに比べて語彙の「数(トークン)」と「種類(タイプ)」が少なかった
  • 語彙カテゴリ(内容語11種・機能語5種)すべてで、ASDグループはTDグループより使用頻度が低かった。
  • ASDとDDは似た傾向を示したが、いくつかの語彙ではASDの方がさらに少なかった。
    • 例:共通名詞の種類数や代名詞の使用数がASDの子の方が有意に少なかった。
  • 興味深い点として、ASDの子どもは「タイプ/トークン比率(TTR)」が他より高かった
    • → これは、語彙数が少なくても比較的多様な単語を使おうとする傾向があることを示唆。

✅ 結論と意義

この研究は、ASDの子どもが語彙数そのものだけでなく、語彙の使い方や学び方の質にも特異な特徴を持っている可能性を示しています。また、自然な会話の中での語彙使用の観察が、標準的な言語テストと同様に発達の違いを捉えるのに有効であることも確認されました。


💡 要するに:

中国語を話すASDの子どもは、定型発達の子よりも語彙が少なく、発達遅滞の子と似た傾向を示しつつも、語彙の種類や使い方に独自の違いがあることが分かりました。この違いは、ASDの子どもが語を学ぶメカニズム自体が異なる可能性を示しており、今後の言語支援のヒントとなる重要な知見です。

"It's Not My Journey, It's Theirs": Experiences of Part C Providers Screening for Autism

この研究は、アメリカの早期介入サービス(Part C)に携わる支援者たちが、自閉スペクトラム症(ASD)のスクリーニングや家族との対話をどのように経験しているかを明らかにするために行われた**質的研究(インタビュー調査)**です。


🔍 研究の目的と背景

  • Part Cプログラムは、生後すぐ〜3歳未満の子どもを対象に、発達の遅れに早く気づき、支援を届ける制度です。
  • 言語聴覚士などの支援者(EIプロバイダー)は、ASDのスクリーニングや家族への説明を担うことが多く、その役割は重要ですが、実際の現場ではどのように感じ、対応しているのかは十分に知られていませんでした。

🧠 研究方法と参加者

  • 質的手法(現象学的アプローチ)を用い、EIプロバイダーへの半構造化インタビューを実施。
  • 主な焦点は、「スクリーニングの体験」「家族との会話」「支援者と家族が必要とするリソース」の3点。

📊 主な発見(テーマ)

  1. ASDスクリーニングやその後の会話の体験
    • 支援者は、スクリーニングを重要な役割と感じつつも、「診断ではない」という立場と「気づきを促す責任」との間で葛藤を抱くことがある。
  2. 家族とのやりとり
    • ASDの話題は、家族の感情に大きく影響するデリケートなテーマ
    • 支援者は、「これは私の旅ではなく、家族の旅(It’s not my journey, it’s theirs)」という姿勢で、寄り添いながら慎重に言葉を選んでいる
  3. 必要なリソースと支援
    • 多くの支援者は、ASDに関する専門知識・ツール・家族向け資料が不足していると感じており、実践的な研修や継続的サポートの必要性が強調された。

✅ 結論と意義

この研究は、**早期介入の現場でASDスクリーニングに携わる支援者たちの「リアルな声」**を集めた貴重なものです。支援者は、家族にとって重大な局面に関わる責任を自覚しつつも、十分な知識やリソースが不足している状況にあります。


💡 要するに:

早期介入の支援者たちは、ASDの兆候を見逃さずに伝えるという責任と、家族の気持ちに寄り添う難しさの間で日々悩んでいる――この研究は、そんな現場のリアルを明らかにし、よりよい研修や支援体制の整備が必要であることを示しています。

The Significance of a Higher Prevalence of ADHD and ADHD Symptoms in Children Who Stutter

この研究は、吃音(きつおん:言葉がスムーズに出てこない状態)を持つ子どもたちに、ADHD(注意欠如・多動症)やその症状がどれくらい見られるのか、またそれが吃音の特徴にどう関係しているのかを調べたものです。


🔍 背景と目的

  • これまでの研究では、「吃音のある子どもにはADHDの傾向が多いかもしれない」と指摘されてきました。
  • そこで本研究では、**吃音児204人(5〜18歳)**を対象に、
    • ADHDの診断を受けている割合
    • 診断がない場合でも、ADHDの症状があるか
    • ADHD症状と吃音の重さや心理的影響の関係

などを詳しく調べました。


🧪 方法と測定内容

  • 保護者がADHD症状をチェックする「ADHD-RS(評価尺度)」を記入。
  • 子ども自身が、自分の吃音が日常生活にどのように影響しているかを評価。
  • 統計手法を用いて、ADHDと吃音の関係性を分析。

📊 主な結果

  • 吃音のある子どもの17.2%がADHDの診断を受けていた
  • 診断がなくても、約40%の子どもがADHDの評価基準に該当するレベルの症状(不注意や多動)を示していた
  • 吃音の重さそのものとADHD症状の強さには明確な関係はなかったが、
  • 不注意のスコアと年齢は、「吃音による生活への影響感(心理的ストレスなど)」に少し関係していた

✅ 結論と意義

この研究は、「吃音のある子どもにはADHDの診断がなくても、多動や不注意の症状を持っている子が多い」ことを明らかにしました。これらの症状は、吃音の治療や学校生活の支援を行う上で、見逃してはならない重要な要素です。


💡 要するに:

吃音のある子どもは、ADHDの診断がない場合でも集中力の欠如や落ち着きのなさを抱えている可能性があり、それが日常生活での困りごとを複雑にしている。そのため、支援者や研究者は、「吃音」だけでなく、「注意力や行動の特性」にも注目して支援していく必要があるというメッセージが込められています。

Frontiers | Supporting Parents of Children with Learning Disorders: A Systematic Review of Intervention Strategies

この論文は、学習障害(SLD:読み書き・計算などの自動化されたスキルに困難を抱える発達障害)を持つ子どもの親を支援するための介入プログラムについて、効果や特徴をまとめた**システマティック・レビュー(体系的文献調査)**です。


🔍 研究の背景

  • SLDは国際的に子どもの5〜15%に見られる比較的一般的な障害で、**ディスレクシア(読みの困難)**が特に多い。
  • 子ども本人だけでなく、親にも強いストレスや不安をもたらすため、親への心理的・教育的支援が重要とされています。
  • ただし、どんな介入が効果的なのか、どんな特徴を持つ支援が親子にとって良いのかは、まだはっきりしていない

📚 研究の目的と方法

  • 過去1950年から2024年までに発表されたSLD関連の文献を対象に、心理療法的・心理教育的な親支援プログラムの効果を調査。
  • 1519本の文献の中から、条件を満たす10本の研究を精査(PRISMAガイドラインに基づく)。

🧪 主な発見

  • 親向け支援プログラムは、認知的・感情的・行動的側面において子どもの支援スキル向上に効果がある
  • 親自身のメンタルヘルスが改善されることで、子どもにも良い影響が波及する(学力向上・社会的スキル・情緒安定)。
  • 効果的なプログラムでは、
    • 親子関係の強化

    • 親がSLDについて理解を深める教育

    • 感情コントロールや対応スキルの習得

      が取り入れられていた。


✅ 結論

親への支援は、子どもの学習や心の安定を支える“間接的で重要な介入”であると、あらためて明らかにされた研究です。今後は、どのような要素がより効果的かを明確にすることで、より実践的で成果のある支援モデルの構築が期待されます。


💡 要するに:

「学習障害のある子どもを支えるには、親の理解と心のゆとりが欠かせない」。このレビューは、親を支援することが結果的に子どもの成長を促すことを裏づける重要な研究です。