ASDと知的障害の併存による感情発達の違い
このブログ記事では、発達障害に関する最新の学術研究を紹介しています。具体的には、自閉スペクトラム症(ASD)や注意欠如・多動症(ADHD)、学習障害(SLD)を持つ子どもや成人の感情・言語・行動発達、家族支援、教育現場での対応、遺伝的要因、社会的権利に関する研究が取り上げられています。たとえば、ASDと知的障害 の併存による感情発達の違い、脂質代謝遺伝子ABCA12の脳機能への影響、ASD児の語彙特徴や恋愛教育における教育現場の視点、早期介入支援者の実践、ADHD傾向と吃音の関係、さらにはSLD児の親支援の効果に関するレビューなど、多角的かつ実践に活かせる研究成果が網羅的に紹介されています。
Comparing Emotional Development in Persons With Intellectual Disability With and Without Autism Spectrum Disorder
この論文は、知的障害(ID)だけがある人と、知的障害に加えて自閉スペクトラム症(ASD)もある人との間で、「感情の発達レベル(Emotional Development, ED)」に違いがあるかどうかを調べた研究です。
🔍 研究の内容
- 対象者:IDのみの人174人と、ID+ASDの人174人(年齢などをマッチさせて比較)
- 評価方法:感情発達を測る**SED-S(Scale of Emotional Development-Short)**という200項目の質問表を、支援者や保護者が回答
- SED-Sは8つの領域(例:感情表現、対人関係、コミュニケーションなど)で5段階の発達レベルを評価
📊 主な結果
- ID+ASDの人は、IDのみの人に比べて全体的に感情発達のスコアが低い
- 特に「感情表現(Affect)」「コミュニケーション」「仲間との関係(Peers)」の発達レベルが顕著に低かった
- 一方で、一部の段階(ステージ4)ではASDのある人の方が「仲間との関係」領域で高スコアだった
- 全体として、ASDのある人の方が「はい」と答えられる項目数が少ない傾向にあった(=できていることが少ない)
✅ 結論と意義
この研究は、ASDを併せ持つ知的障害のある人は、感情の発達に特有の遅れや偏りがある可能性があることを示しています。これは、支援や教育の内容を個別化・最適化する上で重要な手がかりになります。特に、感情や対人関係の支援ニーズがASDのある人では高いことが示唆されており、支援者がそれを理解し、適切な対応をすることが求められます。
💡 要するに:
- *「同じ知的障害でも、自閉症があると感情の発達により大きな課題がある」**ということがわかった研究です。感情や人間関係の支 援をより丁寧に行う必要があることを教えてくれます。
From Genetics to Function: the Role of ABCA12 in Autism Neurobiology
この論文は、**自閉スペクトラム症(ASD)に関連する遺伝子の1つ「ABCA12」**の新たな役割に注目し、この遺伝子がどのように脳の発達や機能に影響を与えているのかを整理したレビュー研究です。
🔍 どんな遺伝子?ABCA12とは?
- ABCA12はもともと**皮膚の病気(角化異常症など)**と関連して知られていた遺伝子。
- 近年、脳内の脂質(あぶら)の運搬や代謝にも関与していることがわかってきました。
🧠 ASDとの関係:何が起きている?
- ABCA12が正常に働かないと、以下のような脳の異常や障害が起こる可能性があります:
- 脂質のバランスの崩れ(脂質恒常性の異常)
- 神経の炎症(neuroinflammation )
- 酸化ストレス
- シナプス(神経の接続)の異常
- これらはすべて、ASDの症状(社会性の困難・反復行動など)と深く関係している生物学的プロセスです。
🐭 実験モデルからの知見
- マウスやゼブラフィッシュの研究で、ABCA12が機能しないと、社会的なやりとりが減ったり、同じ動きを繰り返す行動が見られたりすることが確認されました。
💊 将来の応用可能性
- ABCA12やその下流の影響(例:神経伝達、膜の安定性など)に注目した治療法の研究が進められています。
- これは、遺伝情報からASDの理解と介入を進めるための新しい道になると期待されています。
✅ 要するに:
「ABCA12」という脂質代謝に関わる遺伝子が、自閉症の脳の異常にも関わっている可能性があるということが明らかになってきました。この研究は、脂質代謝と脳発達のつながりを通じて、ASDの理解や治療の新たな方向性を示すものです。
"The System Sweeps it Under the Rug": Educational Staff's Perspectives on Romantic Relationships Among Autistic Adolescents
この論文は、自閉スペクトラム症(ASD)のある10代の若者たちの恋愛関係について、学校の教育スタッフがどのように捉え、どう対応しているのかを明らかにした質的研究です。対象はイスラエルの特別支援学校の教育者20名で、面談を通じてその意識や実践を深掘りしました。
🔍 研究の背景
- 国連の「障害者の権利に関する条約(CRPD)」では、障害のある人にも恋愛・結婚・子育ての権利があることが明記されています。
- しかし、これまでの研究は身体障害や知的障害の人に偏っており、自閉症の若者の恋愛については十分に語られていませんでした。